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魔人


その3


 とりあえずイサオ達のEVをクリス達のEVの横に動かした。クリスはマイを二人に紹介する。仲良くなると言うより、仲良くせざるを得ない。数少ない仲間だ。
 四人でクリス達のEVの中に入った。荷台で円座になる。皆何を話していいか判らぬので黙っていると、イサオの腹が鳴りだした。その音が妙に大きかったため、誰ともなく笑いが口から漏れた。それは皆に伝染した。最後に笑ったのはいつか判らない。涙が出るぐらい皆笑った。

 「いっ今食べ物用意する」

 クリスはお腹を押さえて立ち上がった。笑い声が止まらない。イサオ自身も顔を真っ赤にしながら笑っている。ソノコなどは笑いすぎて咳き込んでいる。マイでさえ口を押さえて笑っている。
 クリスは荷室の横のスライドドアを開けると外に出た。笑いながら貨物車の入り口まで来る。何とか笑いを抑えると貨物車の戸を開けた。中から深い皿とコップと携帯保存食、スプ−ンとナイフ、干し肉、水の水筒、そしてとっておきのワインが入った水筒も取った。袋に詰める。

 お祝いだ。久しぶりに気分がいい。

 EVの荷室に戻るとやっと皆笑いが止まっていた。クリスは皆の真ん中に袋を置くと座り込む。

 「圧縮食だけど結構味はいいわ。お湯が無いから冷たいけど」

 皿に圧縮携帯食を乗せて水を注ぐ。干し肉をナイフで削って入れる。イサオとソノコにスプーンと共に皿を渡した。二人とも礼を言うとむさぼるように食べ始めた。二日間何も食べていなかったらしい。特にイサオは傷の化膿で失った分を取り戻す必要があったせいか腹が減っていたらしい。すぐに食べ終わる。まだ食べたそうにしていたため、もう一食分分け与えた。

 「アンタ達ワインあるけど呑む?今日はお祝いよ。ひさしぶりに笑えたから」
 「おう。そうだな。くれないか」
 「本当はお酒はまだ早いと思うけど、私も」

 ソノコは生真面目な方らしい。少し躊躇した後にクリスが差し出したコップを受け取った。クリスはマイにも渡す。ワインの瓶はコルクではなく金属のふたで、根本をねじ切るタイプのものだ。クリスは開けると皆のコップに注いでいく。イサオにはコップいっぱいに、ソノコと自分のコップには半分ぐらい、マイにはほんの少しだ。

 「じゃ出会いを祝して。乾杯」
 「「「乾杯」」」

 いける口と言うより性格なのだろう。イサオは一気に飲み干した。もっとも酒は飲み慣れていないらしく、咳き込んでしまった。おかげでまた笑いが出た。暫く笑う。クリス達も舐めるように飲み始める。

 「ねえ自己紹介と行かない。わたしは朝霧・クリス・アスロック。見ての通り眉目秀麗、頭脳天才、運動神経抜群の三拍子よ」

 クリスは胸を反らす。14歳とは思えぬ豊かで綺麗な胸が揺れたので、イサオは目がいやらしくなる。おかげでソノコの目つきが少し悪くなる。

 「出身は北海道、旭川。母さんがドイツ人とのハーフなのよ。特技は拳法、家の近くの小さな道場では師範以外に負けた事無いわ。将来の夢は外科医……だった」

 勢いよく話していたクリスの声が一瞬止まった。

 「片目じゃちょっと辛いかもね。マイも紹介しなさいよ」

 わざとらしいぐらい大げさにジェスチャーを付けた後、横でコップを眺めていたマイを肘で押す。

 「うん」

 マイは顔を上げた。

 「大隅マイ、出身は青森、恐山。両親は二人とも学者」

 そこで咳き込んだ。苦しそうに身を俯いて咳き込み続ける。慌ててクリスが背中をさすった。

 「大丈夫。お酒が喉に乗っただけだから。わたし体弱くって。健康になって世界を回りたかった」

 マイは側にあったタオルを手に取り、口元を拭いた。クリスはコップをもう一つ取り水を入れて渡す。マイは水で喉の酒を洗い流した。

 「じゃあ私。早瀬ソノコ。出身は香川。家は両親とも役所勤め。そうね得意は料理かな。将来の夢はお嫁さん」
 「へえ〜〜今時珍しいわね」
 「いいじゃない」

 ソノコはニキビ顔の口をとんがらかす。

 「おれは黒部イサオ。出身は福岡。親は小さい頃死んだ。妹と孤児院暮らしだった……」

 陽気そうなイサオの表情が曇る。

 「妹さんは」
 「孤児院の院長さんがいい人で、俺が選ばれたとき絶対守ってくれるって言っていた。妹体が弱いんだ」
 「そう。大丈夫よ」

 気休めだ。気休めだがそれでも無いよりいい。クリスの言葉にイサオは少し微笑む。

 「ところでそれって関西弁?」
 「違う。関西弁って滅びた言葉だろ。俺が知るわけがない」
 「それもそうね」

 クリスはコップのワインを飲み干し、また注いだ。

 「ところでアンタ達どんな関係」

 クリスは意地の悪い笑いを浮かべる。なまじ美少女だけあって小憎らしい。イサオとソノコは一気に顔を真っ赤にした。

 「何もやってないわよぉ」
 「そうだ、まだやってないぞ」
 「やってって……何を」
 「ばっばか」

 ソノコがぽかぽかとイサオを叩き出す。その様子を見てマイとクリスは微笑みを浮かべた。

 「夜寝るときはEVを離さないと、よがり声で眠れないかもね、マイ」
 「う〜〜」

 ソノコが頭を茹で蛸のように真っ赤にして唸りだした。

 暫く四人は小さい頃のことを話していた。小さい頃の友達や優しい家族のことを。

 「……ところでこれからどうする」

 ソノコがニキビ顔を心配そうに曇らす。酔いが回って妙に盛り上がっていたクリスとイサオは静かになった。

 「そうね」

 いつの間にかリーダーに成っているクリスが答えると皆の視線が集まる。

 「まず現状分析から。二人はどうやって逃げ出したの」
 「軟禁された家、私の家の近くだったの」

 ソノコの近所に住んでいた者達が手引きをして二人を逃がしたらしい。

 「EV盗んだの。800kmなら第三新東京市に着けるって。ここしか思いつかなかったから」
 「で流砂にはまった。車は壊れなかったけど酸欠で気絶しかけた時洞窟から抜けて」
 「で着いてみたら……って訳ね」
 「そう」

 ソノコとイサオは同時に溜息をついた。クリスは二人のコップにワインを注ぐ。ソノコは舐めるように、イサオは一気に飲む。

 「でサンドモンキーって……あの大丈夫だった?」

 クリスが聞いた。変なことはされなかったとだけ聞いている。

 「俺が話す」

 ワインを啜りながらイサオが話し出した。

 「流砂から抜け出してぐたっとしてたんだ。外は夜で暗くって殆ど見えないし。取りあえず二人で外に出て辺りを見ても何もなくて」
 「でも出たの」

 ソノコが身震いする。三つ編みの先端が揺れる。

 「気配が急に湧いたから二人で振り向いたの。猿じゃないわ。サンドモンキーって」
 「人間のなれの果て。身長は俺達と同じぐらいだった。体毛が確かに猿並に濃かったけど。顔は人間。髪や爪は伸び放題」
 「竦んじゃった私達に手を振り上げたの。イサオが庇って爪が腿の裏に刺さって折れたわ。向こうも驚いたらしくって逃げていった」
 「爪深く入って上手く取れなくて、そのうち熱が出てきて」
 「次の日の朝明るくなった頃、イサオ熱が出て大変だったから私水探しに出て」

 ソノコはワインを一気にあおった。少し咳き込む。クリスがまたコップに注ぐ。またソノコはコップ半分ぐらい呑んだ。

 「水捜しているうちに、いきなりだった」

 ソノコは横に座るイサオに寄りかかった。

 「急に取り囲まれたの、全く気が付かなかった。10人程によ。怖くって気絶しちゃった」

 またソノコは身震いした。イサオが肩を抱く。

 「気が付くと広場の片隅の壁に寄りかからされてたの、ビルの一室みたいなとこ。周りに10人ぐらいのサンドモンキーがいて。怖くて悲鳴も出なかった。固まってた。でもしばらくして、害意が無いのが判ったの。ただ見てるだけ。辺りを見回して、そこで出会ったわ」
 「何と」

 クリスが乗り出した。

 「人よ。私達と同じぐらいの歳の男の子。私のすぐ横に体育座りで同じように壁にもたれるように座っていたの。ただ顔は伏せてたから見えなかった。服装も普通のシャツにズボン。靴も履いていた。私恐る恐る近づいたけど、不思議に触れられなかった。何かに弾かれちゃうの」
 「何よそれ?」
 「誰?」

 マイも興味が湧いたのか身を乗り出し聞く。

 「判らない。ともかく暫くその男の子を調べようとしたけど駄目だったの。で、怖かったけど私立ち上がったの。取り囲んでいるサンドモンキー達、目では追うけど私自身にはそれ程興味が無いみたい。追いもしなかった。ゆっくりその部屋を出て、後は夢中になって走ったらとにかくビルを出られて、後は適当に走ったら何となく戻れて」

 やはり相当怖かったのだろう。話すソノコの手は震えている。

 「頂戴」

 自分からコップを出した。クリスはワインを注ぐ。ソノコはワインを一気に飲み干すとイサオに肩をもたれさせた。その場が静かになった。暫く皆黙っていた。

 「どうやら、ソノコを襲ったと言うより、その男の子に会わせたかったようね」

 クリスは腕を組んで考え始めた。

 「会いに行こう。危険は少なそうだし。私達と似た人間が生きていることは確かだし。ソノコ案内して」
 「えっ私が、いやよ」

 無事だったとはいえ、怖いのだろう。暗い室内灯の中でもソノコの肌が鳥肌になったのが判る。

 「この地下都市は見たところは死んでいるわ。多分上も。そこに生き残っている人間がいると言うことは、生き延びる手段があるという事よ。このままだと私達はどこにも行けないわ」
 「いやよ」
 「どっちにしても今日はもう遅いわ、話は明日にしましょ」

 翌日の昼クリスは寝不足気味のぼけた顔付きで食事の用意をしていた。昨夜はクリスとマイ、イサオとソノコは別々のEVで寝ることにした。夜も更けた頃に派手なよがり声と物音が響いてきた。クリスが顔を真っ赤にして、思わず股間に手を伸ばしそうになったほど派手な嬌声だった。おかげで眠れなかった。それはマイも同じだったようで、先程から欠伸を連発している。
 全員昼頃起きてきた。早速クリスがちゃかすとソノコは真っ赤な顔になった。イサオがいけないのよ、と痴話喧嘩を始める。ばからしいのでクリスは皆の朝飯兼用の昼飯の準備を始めた。

 「で、覚悟は付いた」

 クリスは、イサオと並んで座って携帯食を啜っているソノコに話しかける。聞こえないのか聞こえない振りをしているのか、ソノコは答えない。

 「ソノコ」
 「……聞いてるわよ」

 ソノコはクリスから目をそらして呟く。

 「私はクリスと違って、普通なんだから……天才少女じゃないのよ」
 「関係ないわ」

 クリスは鋭い視線をソノコの顔に向ける。視線を逸らしても判るのか、ソノコはびくっと肩を震わした。

 「クリス」

 マイが静かに呟きクリスの肩に手を置いた。クリスがマイの方を向くと、首を横に振る。クリスは頷いた。

 「ソノコ、ごめん。脅すつもりはないわよ。ただ、私達は逃げ出すのが目的じゃないでしょ。生き延びるのが目的でしょ。なら努力しないと」
 「そうだけど……」
 「まっ今日はのんびりしましょ、どっちみちイサオがもう少し回復したらにしましょ」

 その日は結局辺りの探索をする事になった。イサオとマイが残り、クリスとソノコで廻ることにした。一応自動ライフルをクリスが持つ。
 まず手近なビルに入ってみる。素材は普通のコンクリートなのだが、年月で傷んだ風は無い。電気は来ていないので階の登り降りは階段だ。適当に部屋に入ってみる。埃がほとんど無い。蜘蛛の巣などもない。生命の痕跡が無い。機材は建物と同じく傷んでいない。紙なども炭化せずそのまま残っている。クリスが試しにめくってみると、きちんと読める状態だった。
 このビルは電力さえ供給されればすぐにでも使える状態であるのが判った。

 「ねえクリス、千年ももつものなの」
 「もたない。建物もそうだけど、大体紙は炭化してるわ」
 「ふぅん」

 クリスは懐中電灯の明かりの中辺りを探ってみる。ある机には写真立てが置いてあり、家族の写真がかざってある。クリスには判らないが、ネルフの制服を着た両親が並んで立ち、父親は子供を肩車していた。自然な笑顔がそこにはある。
 他の机を探ってみる。漫画と共に書きかけのラブレターなども出て来た。文面を読む。現代日本語とそれほど変わりはない。書いてある内容もあまり変わりはない。クリスは乱れた机を元に戻す。

 「化粧品だ」

 ソノコの声にクリスはその方を向く。机に近づく。引き出しの中に手鏡と口紅、コンパクトなどがある。口紅のキャップを開けると微かに口紅の臭いがする。手の甲に塗ってみるとまだ使えた。コンパクトを開くと鏡は曇っていなかった。

 「ほんとに千年経っているのかな」
 「の、筈だけど。ブルー・ダイアモンド号ね、これじゃ」

 2835年太平洋を無人で漂っているところを発見された船だ。その船は直前まで乗組員達が生活していた形跡があった。食堂では食事をしている最中だったらしい跡があった。スープはまだ暖かかったそうだ。たまたまボイスレコーダーに日記を入れていた客があり、そのボイスレコーダーがベッドに転がっていた。

 「ん?なるほど」

 それまでの話と脈略がないその言葉で終わっている。結構有名な話だ。

 暫くソノコは口紅とコンパクトを見ていた。

 「これ、持っていっていいかな」
 「いいんじゃない。使う人いないし」

 クリスは他の机の中も捜す。しばらくしてクリスは机の引き出しから小箱を手に取り、ソノコの方を向いてからニヤついた。

 「ソノコこれもいるんじゃない」
 「何?」

 懐中電灯の灯りの中よく見えないのかソノコが近づいてきた。

 「避妊具、今妊娠は出来ないでしょ」
 「クックリス」

 ソノコは薄暗い灯りの中でもはっきりと赤くなった。

 「まっ冗談抜きで、妊娠はまずいわ。するなら使う」
 「うん」

 ソノコは恥ずかしそうに視線を逸らしつつ小箱を受け取った。
 その後もいろいろな物が見つかった。食料を除けば殆どある。取りあえずトイレットペーパーなどを調達して戻ることにした。

 結局二日後皆で行くことにした。クリス達のEVにクリスとソノコ、イサオ達のEVにイサオとマイが乗り、それぞれクリスとマイが運転してだ。ソノコの案内でクリスはEVを運転していく。

 「覚悟できた?」
 「うん」

 クリスは黒いサイズが大きい防弾防刃服を身につけている。ソノコもだ。クリスの奪ったEVの貨物車にはいろいろと生き残るための道具が入っている。
 二人はその後黙った。クリスは黙々とEVを運転していく。

 「あっ」

 クリスが急にEVを止めると、後ろについて来たマイ達のEVも止まる。

 「どうしたの」
 「あのビルの窓」

 クリスが斜め上を指さす。ビルの三階のマドから誰かが顔を出し覗いていた。誰かがではなく何かがだが。顔も毛に覆われているが人間だ。

 「サンドモンキー」
 「そうね」

 ソノコが恐々と言った。クリスは暫く見ていた。向こうも視線に気が付いたようだ。

 「害意が感じられない」
 「そうね」

 サンドモンキーはじっとEVを見ていたが、しばらくして引っ込んだ。すぐにまた顔を出す。今度は二人だ。

 「えっ」

 上の方に気を取られていた二人は視線を感じて下を見た。周囲のビルの影から相当数のサンドモンキーが顔を出して見つめていた。じっとEVを見ている。一番近いサンドモンキーはすぐ5m程の所にいるので良く見える。まさに毛だらけの人間だ。

 「クリスどうする」

 無線からマイの声が響く。クリスはスピーカーを見詰めて一瞬考えた。

 「害意は無さそう。予定通り付いて来て」
 「了解」

 マイの声が聞こえた所でクリスはEVをゆっくり発進させた。周囲のサンドモンキーの視線がそれに連れて動く。中には全身を見せた者もいた。服を着ていない毛だらけの人間というのが、一番的確な表現のようだ。胸が大きい者は女なのだろう。男は股間の性器で判る。小さい頃お風呂で見た父親の物と似てるなと、やけに冷静にクリスは考えた。襲われて犯されたら妊娠するのではと、やはり妙に冷静に思った。
 暫く進むと、ソノコがEVを止めさせた。そこは五階立てのビルの前だった。そのビルの窓からもやはりサンドモンキーがEVを見ていた。

 「行くわよ」

 後部座席から自動ライフルを手に取り、クリスはチェックをした。すぐに撃てるように薬室に装弾して安全装置を掛けた。

 「行くの?」

 ソノコが嫌そうに呟く。クリスは助手席のソノコを見つめる。ソノコはクリスの視線から顔を逸らす。暫く睨んでいたクリスだが、表情を和らげた。

 「判ったわ。私一人で行って来る。人には役割があると思う。私はこういう時進む役。ソノコは待機している役だと思う」
 「ごめんなさい」

 ソノコが顔を背けたまま言った。クリスは手を伸ばしソノコの膝の上に置いた手に触れた。

 「詳しく建物の中を教えて」
 「うん」

 5分ぐらいかけてクリスはソノコから根掘り葉掘り聞いた。その後無線でマイ達にクリスだけで行く事を伝えた。マイとイサオも反対はしなかった。

 「行くから、運転席にいて。戻って来たらすぐに発車出来る様にしておいて」
 「うん」
 「もし、20分以上経って出て来なかったら、決して助けようなんて思わないで。何とか逃げるのよ」
 「うっうん」
 「じゃ」

 クリスは素早くドアを開けて車外に出た。すぐにドアを閉める。自動ライフルの安全装置は外している。周りにいるサンドモンキーはクリスに注目した。視線が集中する。だが別に襲おうとしている訳ではない。ただ見ている。
 クリスは視線を合わさぬ様に進む。ビルの内部に入る時に、自動ライフルの銃身の先端の方に付いている懐中電灯を点けた。高輝度発光ダイオードの冷たい白色光が、薄暗いビルの内部を照らし始めた。

 クリスはさすがに一瞬躊躇したが、すぐに度胸を決めて室内に入った。ビルの内部は先日調べたビルとそれほど差は無い。但し獣臭に近い匂いが辺りに充満している。クリスは少し進んで止まった。廊下の向こう側、距離にして10mにサンドモンキーが現れてクリスを見つめていた。
 クリスはすぐにまた前進を開始した。3m程までに近づくとサンドモンキーは曲がり角の奥に引っ込んだ。それと同時に背後の明るさが減ったのが判った。一瞬だけ後ろを向くと男のサンドモンキーが出口を塞ぐように立っていた。シルエットのせいで男性器が強調されて、一瞬凄い恐怖心が湧いたがねじ伏せた。襲う気ならもう襲われている。そう無理矢理思い込む。暫く行くと曲がり角があったのでソノコに言われた通り曲がった。

 心臓が止まるかと思った。2m先にサンドモンキーが立っていた。女の様だ。ウエストは結構細いんだと、変な事から頭に浮かぶ。サンドモンキーはすぐに後ずさった。振り向くと廊下の奥に向かって歩いていく。

 何となく案内をしてくれているように思えた。だからという訳ではないがクリスは真っ直ぐ進んで行く。20m程歩いて広間に出た。

 いた。

 確かに部屋の隅に少年が体育座りで座っている。クリス達と同じぐらいの年に見える。少年をまるで見守るようにサンドモンキーが左右に二人ずつ立っている。クリスは少年の前まで行くと屈む。はっきり言って無防備な体勢だが、何となく襲われないような気がする。手を伸ばす。

 確かに弾かれる。赤い光の波が、その弾かれた手を中心に見えた。クリスは自分の手を見る。特に何でもないようだ。

 「ちょっとアンタ」

 反応は無い。何故かむかついた。

 「何やってんのよ。こんなところで寝て。アンタバカ?」

 普段は結構言葉づかいが丁寧なクリスだが、妙に腹が立ち言ってしまった。多分自分でも知らぬうちに緊張しているのだろう。

 「あっ」

 今まで反応がなかった少年の肩が動いた。周囲のサンドモンキーが微かにざわめく。

 「ちょっとアンタ」

 今度ははっきり少年の肩が動いた。そして少年は顔を上げた。
 何となく気が弱そうな顔付きの少年がそこにいた。眠りから覚めてすぐのせいか視線が定まらない。

 「アンタ判る」

 なんて聞いていいのか判らなかったせいもあり、変な聞き方に成ってしまう。少年はクリスの顔を眺めていた。

 「アスカ」

 少年の言葉にクリスは反応した。立ち上がると自動ライフルの銃口を顔に向けた。

 「動いたら撃つ」

 少年はクリスの顔を見上げた。相変わらずしっかりしない視線で見つめる。

 「アンタ誰?なんで知っているの」

 追手なら即殺す。容赦などしない。

 「今のは」

 クリスの向けての様でもあり、単なる独り言の様でもあり、ともかくはっきりとしない口調で少年は呟いた。

 「僕の中の碇シンジの声」

 クリスの目の辺りの筋肉が痙攣した。

 「碇シンジ……あの魔人の」

 憎悪と恐怖がクリスの言葉から噴き出ていた。


つづく


ver.-1.00 2003-2/26公開
ご意見・感想ははこちらまで!

とぼとぼ…。
「はぁ…最近トモヨさんと会話していると、肉体的にも精神的にも疲れがたまってしまうのですわ。久しぶりに自宅の露天風呂で、ヨルバ式ピザ湯でも満喫いたしましょうかしら…」
「♪私はメイド、あなたのメイド、お掃除ほにゃららほにゃららセックス〜」
「あ、その人生全ての面においてやる気の感じられない鼻歌は御兄様。いらっしゃったんですの?」
「何言ってんだ妹。兄が自宅にいて何がおかしい?」
「いえ、別にそれはいいのですけれど、」
「それは最近の香取慎吾の白髪よりおかしいことか?」
「…それはいいのですけれど、今日は御兄様、ハローワークに行ってらっしゃったはずでは? 御早い御帰りだなと思いまして。」
「それはサップタイムの歌手の名義がボブサップになっているのよりも、昔久保田のラララ・ラブソングが堂々と「フィーチャリング・ナオミ・キャンベル」とかほざいてたのよりも遥かにおかしいことなのか?」
「そ・れ・は・い・い・の・で・す・け・れ・ど、御兄様はどうされたんですの?」
(ふっ)妹よ、兄を見くびるな。仮にリアル私生活をどっかの降臨スレで告白したらスレ住人が全員引きまくるような現況の兄でも見くびるな。私は今日はきっちり仕事をゲッチュしたぞ。いやむしろゲッツ!だ。(タキシードを着込み、両人差し指を揃えながら)
「あら、そうだったんですの。で、今度はどういった御仕事を? もう帰ってこられたという事は、日雇いではないんですのよね?」
「日雇いじゃないが、もう仕事は片付けたぞ。今回のミッションは、これだ。」
ばさっ。
「何ですの、この書類は?」
「設定資料だ。」
「設定資料?」
「ああ。ハロワに行く振りをしてまんが喫茶のマッサージチェアで昼寝中だった私に、トモヨタンが矢文で依頼してきた仕事でな。何でもどっかで連載している話の登場人物設定を適当にでっち上げて欲しいそうだ。12人分。」
「……おいおい。」
「ただし既にクリス、マイ、ユキ、小圓蔵は決定しているので、残りは8人分のキュートな娘達ということになる訳だな。」
「その名前の並び方で何か疑問は御感じになられなかったんですの?」
「ざっと並べていくぞ。5人目はマスオ。」
「御兄様? 今しがた、キュートな娘達、って…」
「妻は既に別居中、息子の非行に悩む45歳。しかも職場でも窓際族で肩身の狭い思いをしている、そんな萌え萌え美少女だ。」
「御兄様、一回ドタマかち割らさせて頂きましょうか?」
「雲を掴むようなうつろな世界観の神がかり系美少女、という訳だな。」
「ぜんっぜんっおっしゃってる事が分からないのですけれど。」
「6人目、ジュディー。」
「…まあ、それはまともな名前ですわね。」
「7人目、アンドマリー。」
「……」
「二人は元は一心同体だったんだが、ある日二つの心に生まれ変わったんだ。叔父が長年行ってきた性的暴行を原因として。」
「…取りあえず、それは二人とは呼ばないのでは?」
「8人目。マハティール首相。」
「御兄様、」
「9人目、オチアイさん(仮)。」
「カッコ仮って何ですの、カッコ仮って。」
「仮(オチアイさん)の方が良かったか?」
「いえ、良いとかそういう問題でなくって、」
「なら百歩譲って、オチアイさん(ヤマオカさん)としておくが、」
「一体誰にしたいんですの?」
「オチアイさん(ヤマオカさん?)はジュディー・アンドマリーが御世話になっている御医者さんだ。」
「はあ…」
「…検死官って、御医者さんの一種で良かったんだよな?」
「御兄様?」
「10人目。ポチ。」
「…まあ、もう何も言う気は無いですけれども…」
「「この犬が!」と女王様に罵られ、ムチを打たれる事が三度の飯より好きな、そんな三重県出身の」
「ああ、そういう「御犬」さんなんですのね…」
「ラブラドールレトリバーだ。」
「おいっ!」
「11人目。ミス・ミツエ・大和田。」
「流しっぱなしですわね…まあ、何だか久しぶりに女性の名前を聞いた気が致しますわ。」
「しかもこれはロリキャラだぞ。まだ6歳だからな。」
「はあ。」
「1997年に製造された角型乾電池だ。舐めるとピリピリするぞ。」
「…」
「このキャラは、後は特に特徴は無いな。」
「電池ですしねえ。」
「で、あと一人なんだが…このキャラは、ちょっと問題かもしれないんだがな、」
「まるで今までのが問題ではなかったかのような言い草ですわね。」
「一人位外国人を入れたいと思うんだ。全員日本人よりはその方が、こう、世界へ発信するインターネット小説、って感じがするだろ?」
「…御兄様、先程マハティール首相って」
「発信するんだ、世界へ。ほら、インターネットだから世界からアクセス出来るだろ? クリックも出来るし。だから、ほら、世界へ発信するから、世界が国際的で」
「あの御兄様、そこは別に必死に説明しなくてもよろしいですから。」
「名前はもう決まってるんだよ。光岡ディオン、って言うんだが…」
「ですからそれも実在の、っていうか2003年の今、その人選というのがとても理解に苦しむのですけれど、」
「日本語や英語が一切話せないという設定にしたんだが、」
「光岡ディオンという名前でですか。」
「何語のネイティブにするかっていうのが、なあ…」
「ええと…まとめさせて頂くと、御兄様は職安に行かずにそういった事を延々とマンガ喫茶で妄想してらしたと、そういう事で」
「悩みは全て聞かさせて頂きましたわ。」
「おお、トモヨタン!」
「…やっぱり来ましたわね…」
「せえの、」いのち!
「…一々ツッコミたくないのですけれど、御二人とも、そこでうつむき加減にブランコをこいでいるポーズなのは何なんですの?」
「中の人などおりませんわっ!(激昂)」
「聞いて下さいませんこと? 人の話。」
「フラン研さん、わたくしに良いアイディアがありましてよ。今こそそのキャラクターの存在を、反戦平和のシンボルとするのですわ。」
「なるほど…で、具体的にはどこ人にしましょうか?」
「オイリッシュ語を話されるオイリスタン人は如何かしら?」
「おお…その手がありましたか!」
「わたくし伊達にタクティシャンはやっておりませんことよ。」
「あっはっは! そりゃ痛快だ!」
「あの…腰を折るようで申し訳無いのですけれど、オイリスタン…とは、一体どちらの方にあるんでしたかしら? 中東?」
「あら、御存知無いんですのフランソワさん? ヨーロッパにある帝国ですわよ。イスラム社会主義の。使う文字はかなと漢字。」
「そんな国は無いと思うのですけれど。」
「あるんだから仕方がありませんわ。」
「トモヨさん…」
「妹よ、現実を直視しないのは良くない事だぞ。」
「それは御兄様にだけは言われたくないセリフなのですわ。」
「まあまあフランソワさん、でしたらご自分の目でお確かめになられたらよろしいのですわ。こちらをご覧になって。」
「…」
「如何です?」
「…………うわぁ…」
「美しい言葉ですわぁ。この、明らかに中国式な漢字と日本のかなのコンビネーション。まさに脇見運転防止のシンボルにふさわしいのですわぁ。」
「全くですぜトモヨタン!」
「御兄様キャラおかしいですわ。」
「ええフラン研さん。これで、チームを組むには後18人ですわね!」
「また凄い増えてますしっ!」
「相模トンキューの!」
「前と違ってますしっ!」
「…」「…」
「…な、何でそこでこっちを御覧になるんですの?」
「せえの、」いのち!
「…(相変わらずムカつくのですわ…)」


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