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いつもと同じ夕焼けの帰り道。学校の授業から解放された宏子が、道を歩く間じゅう不愉快そうに唸っている。
「ううううううーうーうううう…」
隣を歩く美耶は苦笑いしつつ肩を上げた。
「ひーこお。そんな顔してたら人生つまんないよお?」
「しょうがないじゃん。実際つまんないだからさ。」
「そんな事ないじゃない。皆面白い人達じゃない。」
「遠くから他人事として眺める分には、そうかもね。」
今にも溶け出しそうな表情でため息をつく宏子。
「それにひーこ、帰宅部だから体鈍ってるでしょ? 運動不足を解消する良いチャンスじゃない。そもそもこんな面白い部活、世の中を探してもめったに無いと思うよ?」
「そうまで言うんだったら美耶、私と代わってよ。もう3日目だよ? 奴等が来てからさ。」
「それは、代われるもんだったら代わってあげたい所だけど、私はひーこと違って、魔法少女じゃないし…」
「あのさ…魔法だか何だかが使えるっていうのはさ、もう私も否定しないけど、その「魔法少女」って言い方だけはとにかく凄く不愉快なんだよね。」
「自分に素直じゃないなあひーこは。…あ、ほら、もう皆待ってる。ハーロー!」
堤防の階段を上っていた美耶は、河川敷に立っている小さな人影に向かい、手を振りながら大声で呼びかけた。
河川敷のグラウンドに立っているのは、リジュワナとプオラギイックと見知らぬ女性だった。
その背の高い女性は明らかにプオラギイックと同族の宇宙人だが、肌の色は浅黒く、頭さえ隠せばバングラデシュ人や日焼けした日本人としても通用しそうだ。
<よ、相変わらず美耶とラブラブだな。>「Haaleooh.」
プオラギイックは宏子に念で、美耶に片言の言葉で挨拶する。
<…>
「ハロー。」
無視する宏子と満面の笑みで答える美耶。
「トゥデイ、ディス、アイ、メイク。ユー、イート。クッキー。」
美耶は持っていたバッグからタッパーをとりだし、蓋を開けて中のクッキーを彼等に見せる。
「Oh, you made these scones?」
「あー、イエス、イート。デリシャス。」
リジュワナに答える美耶。
「Thanks.」
<彼女は誰? 一般人が訓練に立ち会うなんて聞いてないわよ。>
おいしそうにクッキーを口にするリジュワナの横で、宇宙人の女性がいぶかしげにプオラギイックの方を見た。
<まあ、我らが魔法少女様の無二の親友だし、一人位なら大目に見てやったっていいだろ?>
<…それに…人前で平気で物を食べてるし…>
目をそらす女性。
<それはそういう習慣なんだからしょうがないだろ。郷に入れば郷に従え。>
クッキーを頬張りながら答えるプオラギイック。
<だから来たくなかったのよ、こんな島流しの流刑地。>
<あー、お取り込み中のところ悪いんだけどさ。>
宏子がニ人の宇宙人の前に顔を突き出した。
<っていうかこいつ、誰?>
<…こ、こいつ…>
女性が顔を引きつらせる。
<ジュチャ・ホス・トゥカナシュ、シオブラル国アブワモフディニグ市出身のエウグ人。魔術師高級会議全権議員の若きホープ。プラフ・ブチェ大学を主席で卒業後、若干14クザラル歳にして高級会議議員となり世間の注目を浴びる。>
<その後若干16クザラル歳にして地球に島流し。>
すらすらと暗誦するプオラギイックの言葉の後をジュチャ本人が追加した。
<更に言うと、主席じゃなくて次席よ。お陰で奨学金取り損ねた。>
<それは失礼。ま、簡単に言うと俺の星での本部の偉いさんだ。>
<もっと簡単に言うと、今日からここの先生だそうよ。>
クッキーを食べ終えたらしいリジュワナが宏子に近づいて念じる。美耶は向こうの芝生に座り、今日もこちらを見学するつもりのようだ。
<そうなの? でも、16には見えないけど…>
<…>
宏子の念に、ジュチャの目が釣りあがる。リジュワナが宏子を見た。
<16クザラル歳、って言ってるじゃない。>
<…ああ、サバ読んでる訳ね。>
<そうじゃなくて…>
<残念だが俺はNK…魔法能力を数値化したものだけどな、これが65しかない。これでもクザラル人の中では結構高いほうなんだが、魔法使いとしては下っぱだからな。すでにNK200近いと思われるお前達に教えるには、俺では多少力不足なんだよ。>
<多少?>
面白そうにプオラギイックに目をやる宏子。
<悪かったな、全然だよ! …で、この前モンスターが初めて地球に出現した時から、母星に連絡して能力のある人を呼んでもらったんだよ。それで彼女に来てもらった。>
<で、本人はその事を余り喜んでいないみたいだね?>
宏子の念に、ジュチャの方を見る三人。
<…>
<……仕事は、ちゃんとするわよ。>
仏頂面でため息をつきつつ答えるジュチャ。
<…だ、そうだ。>
<ふうん?>
ジュチャは顔を上げ、二人を見た。
<まあ、私の到着があなた達にとって喜ばしいかは微妙かもしれないけれど、あなた達へのプレゼントはもう一つあるの。>
<…>
彼女は服の裾から何かの小さなケースを二つ取り出す。宏子とリジュワナにそれぞれを渡すジュチャ。
<…>
宝石箱より小さい程度のケースを見ながら、宏子は顔を上げる。
<開けて良いの?>
<もちろん。>
ケースを開ける二人。中には、小型の機械が入っている。直径1センチ程度の円形の機械だ。
<え、っと…>
恐る恐るそれを手にする宏子。
<自動翻訳機よ。それを使えばテレパシーによらずとも、言葉の違う相手と会話が出来るようになるわ。>
<おお、いかにもエイリアンっぽい!>
<…>
宏子のリアクションに、ジュチャはプオラギイックの方を見る。
<何か言いたいのか?>
<…いいえ。>
<えっと…>「あ、あー。聞こえる?」
宏子は翻訳機を口に近づけ、リジュワナの方に話しかけてみた。
「…」
首を振り、肩を上げるリジュワナ。
<…嘘つき。>
ジュチャは息をつく。
<判断が早いのね…そうじゃなくて、それを耳につけると、相手に言っている言葉が自分の使う言語に翻訳されて聞こえるようになるのよ。つまりそれは一種のイヤホンなの。>
<…何だ、それを最初に言ってよ。>
<言おうとする前にあなたが嘘つき呼ばわりしたのよ。>
<…>
宏子とジュチャが、お互い友好的とは言いがたい視線を交し合う。
それを全く意に介していない様子のリジュワナが、プオラギイックに尋ねた。
<それで、付けるっていうのはどのように? ピアスみたいなのだったらちょっと困るわ、個人的には。>
<いや、そんな残酷な付け方じゃない。この辺りに置けば…>
自分の頭の上についた耳の、やや前を指さしたプオラギイックは念を止める。
<いや、地球人の場合は…要は、耳の穴の近くに置けば良い。…取り出しやすい所にな。>
<落ちないの?>
<やってみろ。黒い方を肌につけるんだ。>
<…>
リジュワナはプオラギイックを見つつ、翻訳機を自分の耳たぶに近づける。すると翻訳機は磁石のように、耳たぶに吸い付いた。
<…落ちてない? よく、見えないんだけど…>
<大丈夫だ。…宏子、何か日本語で彼女に喋ってみろ。>
<え? あ、あん。>「えっと…ハロー。」
「Accha...Hello.」
<…>
自分の耳に聞こえてくるベンガル語の合成音声に、リジュワナは眉を上げた。
<というか…日本語を喋りなさいよ、日本語を。>
<あ、そっか。…ちょっと待って、私も今付けるから。>
宏子は自分の手にしている翻訳機を、右耳の耳たぶにつける。
<えっと、じゃあ…>
<…>
<…どうぞ。>
<いいえ、あなたから何か言ってみて。>
「…何でよ?」
「ああ、確かにあなたがベンガル語で喋ってるわ。」
自分の耳をおさえながら、リジュワナは感心した様子で頷いている。
「あ、確かに日本語だ。って、何か微妙にムカつくんだよな…」
<それにしても…翻訳機も無い状態で地球人とコンタクトを取るなんて、よく上から許可が下りたわね。>
二人のやり取りをやや離れて眺めながら、ジュチャがプオラギイックに念じる。
<ん、別に許可が下りるのなんて待たなかったぞ?>
<…へ?>
<しょうがないだろ。あいつの目の前にモンスターが来たんだから。>
宏子を顔で指しながら、プオラギイックが念じる。
<最初はすぐに消えてくれたが、二度目に彼女を狙ったのはしつこかった。もう絶体絶命だったんだ。なんだ、それともその状態で見捨てた方が良かったか?
本部から翻訳機がこっちに届くまで延々と待ち続けて。>
<まあ…そのコンタクトがあったから私が来た訳だし。私が上司に文句を言わなければ、多分翻訳機もまだ来ていなかったんだろうし…>
<つまり結果としては、何の問題もない、むしろベストな決断だったということだな。更には直接言葉が通じなかったことで、彼女達のテレパシーの早期習得にも繋がっている。>
<それは、まあ、そうかもしれないけど…>
ジュチャは腕を組みながら息をつく。
<…これからはもう少し慎重に行動してもらえると、個人的にはありがたいわね。>
<まあ、考慮はしよう。でも地球人魔法少女との折衝役は、一応俺の専任事項だからな。>
<…>
プオラギイックを見るジュチャ。
<だあ、分かってる。建前の話だ、建前の。>
<別に出しゃばりはしないわよ。少なくとも、あなたが常識的に行動している間はね。…それにしても…>
ジュチャは魔法少女達の方に目を向けた。
<…>
舌打ちを2、3度するジュチャ。
<どうした?>
<気になるのよ。…どうも、嫌な予感がする。>
リジュワナと宏子は、何やら軽い言い合いになっているようだ。どこか険悪な空気が二人の間に流れている。
<あ…あいつら…>
<あいつら、じゃないわ。気になるのは一人。リジュワナよ。>
<ん?>
ジュチャは難しい顔で彼女を眺めながら、プオラギイックに念じる。
<私…以前、一回彼女に会ってるのよ。…彼女には、何かあるわ。>
<何かって…?>
<さあ。今はまだ、何とも。でも、用心しておいた方が良いわよ。>
<だから何をだよ。大体地球人魔法少女を相手に、用心?>
宏子とリジュワナの近くにやって来た美耶が、両手を上げて話し掛けている。
「ま、まあ、リジュワナちゃんもひーこも落ち着いて…」
「だってこいつ、タダ飯食いの分際でウチの食事がマズいとか言ってるんだよ!」
「マズいなんて言ってないわ。戒律に引っかかる物があった、って言ってるだけじゃない。そうよね、あなた? 私の言ってる事で正しいわよね?」
「Tai na, apni? Ami ja bolchhi ta thikoho na?」
「あ、え、え、っと…」
リジュワナに困った笑顔を向ける美耶。
「そんな戒律、食べる前に教えなきゃ分かる訳無いじゃない。」
「常識で分かると思っていたのよ!」
「日本に来た時点で、その常識が通じないって事位、想像付かなかった訳?」
「そしてあなたは、私とあなたの常識が違うという事が想像が付かなかったのよね。」
「もう、二人とも止めてって!」
美耶が顔を近づける二人を引き離す。
「…」
「…」
「全く…大体、まだ会って数日なのに何でそんなに仲が悪くなれるの、二人とも。」
「…え? 私、前もこいつに一回会った事あるよ。」
「冗談でしょう。あなたバングラデシュに来た事があるの?」
「んな訳ないじゃん。」
「じゃあ、どこで会ったって言うのよ。私はここが生まれて初めての外国なのよ。」
「え、でもついこないだ…あれ?」
宏子は自分の言葉に、自分で眉をよせた。
「ええ、確かについこないだ会ったわよ、モンスターと一緒に。でもそれからずっとこっちにいるんだから、そう言うときは「前に一回」とは言わないでしょう。…翻訳機のミスかしら?」
「そうじゃなくて、前に…」
「会ってないわよ。」
「…だよね…」
口篭もる宏子。美耶は不思議そうに彼女を眺める。
プオラギイックはポン、と自分の手を叩いた。
<ほら、もういい加減にしろ二人とも。今日もさっさと、魔法の特訓を始めるぞ。>
<…了解。>
プオラギイックに肩を上げてみせるリジュワナ。宏子は鼻息をついた。
自分の腕の端末からバーチャルディスプレイを表示させて、それに目をやっていたジュチャは、ディスプレイを閉じて宏子とリジュワナの方を見た。
宏子とリジュワナは、基本的に学校の制服のままで、スカートの下に下のジャージだけ履いている。
<…何?>
自分の方に視線が向けられている事に気づいたリジュワナは首を傾げた。
<…いいえ。何でもないわ。>
<…>
ディスプレイに視線を戻すジュチャ。リジュワナは怪訝そうな顔をみせる。
<ええと…そうね。ニ人とも、確かに魔法少女としての飲み込みは早いようね。魔法の3要素とも…まあ、系はまだ未発達だけど、少なくとも時と空に関しては、この時点としてはなかなかのものだと思うわ。>
<俺の教え方が良かったんだな。>
<…>
無言でプオラギイックを見やるジュチャ。
<…そうでしょうね。それでは、今日は空の初級の集大成、空中浮遊を行くわよ。>
<空中浮遊?>
念の揃う宏子とリジュワナ。
<ええ。軽く見本を見せるわ。>
ジュチャは腰に手を当てたまま目を閉じる。すると彼女の全身を包む水色の光が輝きだし、光の中で彼女の体がゆっくりと上昇する。
「お。…おお…」
思わず感嘆の声をあげる宏子。
ジュチャは1メートル弱ほど浮き上がり、数十秒その状態で静止、それから目を開いて、ゆっくりと元立つ地面に下降した。
<素でやって、今くらい出来ればなかなかの物ね。反響装置を付ければ…たとえば、あの橋を飛び越える位は簡単に出来るはずよ。>
100メートル程度向こうにある、川を渡る鉄道橋を指差すジュチャ。
<っていうか、そんな事したら目立つよね、絶対。>
<…>
リジュワナが宏子に無言で頷く。
<え、別に良いじゃない、目立ったって。あなた達は魔法少女なんだから、目立つのが仕事よ?>
<あ、ジュチャ。取りあえず今のところは目立たないようにした方がいいって、こいつらの意見なんだ。>
プオラギイックがジュチャの前に立つ。
<クザラル星と違って地球では魔法少女という存在は認知されていない。今急にそんな存在を知らせたら、社会がパニックになり、拒否反応で彼女達はむしろ迫害を受けるかもしれない。>
プオラギイックの説明に、大きく頷くニ人。
<…って、こいつらがぎゃーぎゃーうるさくてな?>
<はあ…あなた達、まるでウチの上司みたいな事言うのね。良いエウグ人になれる資格があるわ。…でも、これをずっと隠し通すっていうのは、多分無理だと思うわよ?
地球は人口が多いようだし。>
ジュチャが宏子とリジュワナに顔を向ける。
<それでも、今の所は隠せるだけ隠した方が良いと思うわ。知っての通り、私達の系の魔法は未熟だから。>
ジュチャに伝えるリジュワナ。
<系、つまり人の思考・記憶についての魔法が未熟である以上、社会の悪意が自分達に向けられたら無防備だ、って言いたいの?>
<ええ、その通りよ。>
<…>
リジュワナの念に、ジュチャはしばらく視線をさまよわせた。
<…まあ、良いわ。でも私達も地球人の思考様式はまだ慣れていないから、ここでやっている事を周囲の人々から完璧に隠しきれる訳じゃないわよ。>
ジュチャは、堤防にちょこんと座っている少女の方に目をやった。
<それで、彼女の記憶は、そのままで良いの?>
<良いじゃん、一人くらい部外者がいたってさ。>
手を合わせながら宏子が答える。
<私は、あまり良くないと思うけど。>
<…>
宏子がリジュワナを睨む。
<…どうも、ベストのパートナーシップが期待できる組み合わせには見えないわね。>
ジュチャが首を上に向ける。
眼鏡を上げたリジュワナがジュチャを見て念じた。
<別に仲が悪いという事じゃないわ。まだお互い慣れていないだけで、これから段々打ち解けていくかもしれないでしょう。>
<…>
何も答えずあさっての方向を見ている宏子。リジュワナは自分で付け加えた。
<…まあ、あくまで私の希望的観測に過ぎないわ。>
<…地球人同士の間柄って、皆こんなにギスギスしてるもんなの?>
<はは…>
プオラギイックだけに念を伝えるジュチャ。プオラギイックは苦笑で答える。
<…とにかく、さっさと始めちゃおうよ。>
<良いわよ。それじゃ、宏子、あなたから。こっちに用意したこれを背負ってね。>
プラスチック製らしき収納器具からジュチャが取り出したのは、天使が付けているような白い羽だった。
<…>
<な…なに、それ。>
無感動なリジュワナと、露骨に嫌そうな表情で羽を見る宏子。
<それもプラスチック?>
宏子は、背負う用のベルトがちゃんと付いているその羽に顔を近づける。
<それも、って、プラスチック製の物なんてここに無いわよ? ちねみにこの羽はヒズラウプシュ製だけど。>
<あー…そう。で、それを私に付けろと?>
<ええ。>
<…>
半ば救いを求めるように視線をプオラギイックに向ける宏子。
<…>
プオラギイックは「文句言うな」と言わんばかりに肩を上げた。
<…分かったわよ。私は可愛い可愛い魔法少女だもんねえ。>
頬を引きつらせながら、宏子はその羽を手に取った。
「よいしょっと…」
<で。私は自分が飛ぶように念じれば良いの?>
<そうよ。でもちょっと待って。>
ジュチャは自分のバーチャルディスプレイ上で何かの設定を操作しているようだ。
<…まだ間に合ってないのよ、調整。>
<は?>
<大丈夫大丈夫。うん、これで行けると思う。じゃ、やってみて。>
<は、はあ…>
<当然、空の力が主軸で、時の力を抑制力として…と、そこまで難しく考えなくても良いわ取りあえず。背中。頭の後ろから尾 骨辺りまでに気を集中させて。その間だけで気を上下に回転させるの。上…下!
上…下!って感じで下方向を強くね。そうすれば浮くと思うから。>
<うぃーっす。>
宏子は彼等から少し歩いて離れると、羽のベルトに手をかけながら両目をつむる。
シュウ、シュウウウウウウウウウビュウウウウウウウウウウウウウン…。
宏子の全身を赤い光が包みだし、やがて周囲の砂塵と共に宏子の体がふわりと浮かび上がる。
<おお、おおお…お、お?>
プオラギイックの声のトーンが、感嘆から疑問に変わる。
ビュウウウウズバアアアアアアアアアアン。
「うわあああああああああっ!」
光の暴発と共に、宏子は空高く舞い上がった。あるいは吹き上がった。
「うわあああああああっ!」
<あら、コントロール側の増幅がまだ足りなかったわね。>
<原因は良いから、宏子を何とかしないと!>
空の彼方の米粒を指差しながらプオラギイックが念じる。
<分かってるわ。ええと…ああ、あれよ! 彼女のちょうど飛んでいる方向に、命綱みたいな物があるじゃない、あそこに捕まってもらいましょう!>
<ああ、そうだな。…宏子、聞こえたか?>
「うううわあああああああああああ」
両手両足をばたつかせながら宏子が星となって飛んでいく。
<とりあえず私達の魔法で彼女をあの命綱に近づけましょ。>
<了解!>
<あの…>
自信無さ気にリジュワナがニ人に伝える。
<ん、何だ、リジュワナ?>
<バングラデシュ人の常識で言うと、多分あれ、高圧電線だと思うんだけど。>
<高圧電線? え、命綱じゃないの?>
<そんな物、この星にはそうそう無いわ。>
<でもあれでも命綱の代わりにはなるだろ?>
<いや…どうだったかしら…もしかしたら、触っただけで命を落としかねなかったような気が…>
<ちょ、ちょっとプオラギイック、方向変えるわよ、方向!>
<あ、ああ!>
「ううわああああああおおおわああああああああああっ」
高圧電線の数十センチメートル手前まで弾丸のように飛んで来て、そのスピードを維持したまま、急に垂直に落下していく宏子。
<はあ、何とか方向は変えられたか。>
息をつくプオラギイック。
<あの…彼女の落ちている方向、鉄橋があるんだけど。>
「うわああああああああっ、電車、電車ああああっ」
<プオラギイック、干渉弾を宏子と電車の間に! リジュワナ、あなたもこの前習ったわね?>
<了解!>
<ええ。>
シュウウウウウウウウウウンッ。
三人から光が放たれ、宏子と鉄橋の間の空間まで進んで静止する。
シュウウウウン、ボスッ。
空中から落下し、頭から光の中に突っ込む宏子。光のかたまりはクッションのように宏子を弾き飛ばす。宏子はそのまま川に落ちていく。
<…>
それを見て、また目を閉じるリジュワナ。彼女の体から再び光が溢れる。
シュウウウン。ボスッ。
「うわわわ、わっ。」
あおむけに落下してきた宏子は、川の水面上数十センチメートルの所で、再び光の干渉弾の上になった。
「ふう…。」
ようやく暴走が止まったらしい宏子は、丸い光のソファーの上で起き上がる。ほっと一息つく宏子。
プチッ。
「おわあっ。」
バシャンッ。
光の弾がはじけとび、宏子はそのまま水しぶきを上げて川に落下した。
<…はあ、助かったか…>
バシャンッ。
<ってこらあっ、どこが助かってんのよっ!>「ぶへえっくしゅ!」
川は幅があるものの深さは20センチメートルもないらしい。腰を川底につけたままがば、と宏子は起き上がると、河川敷の面々にくしゃみを交えつつ抗議をした。
<基本的な力の強さを忘れてたわ…これくらいコントロールを増幅すれば、うん、今度はいけると思うんだけど。>
ジュチャはバーチャルディスプレイを操作しながら一人で頷いている。
<あんたまだやらせる気っ!>
宏子は立ち上がると、水に濡れた髪を後ろになでつつ川原に上がってきた。
<全く、どこにこんな魔法少女がいんのよ…。>
宏子は堤防の美耶に自分の濡れた服を見せた。
「ねえ、ちょっと、美耶これどう思う?」
「わー。大変だねえ。でもごめんひーこ、私も今タオル持ってないんだよ。」
「いや、何ていうか、そういう意味じゃなくてさ。」
「こんな練習するなら、そう言ってくれれば良いのに。このままだとひーこ、風邪ひくよ?」
「風邪っていうか、あんたそれ以外に今の私を見て感想はないんか。」
「え…?」
宏子の言葉に、不思議そうに考える美耶は、やがていつものように微笑んで頷いた。
「あ、うん。ひーこ、今日もとってもかっこいいね!」
「……ありがとね…」
宏子は美耶の肩に手をかけながら、深くため息をついた。
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