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宏子がバタン、と屋上の扉を開けると、ジュチャが自身の体を光らせて防御膜を張りながら、目の前のモンスターと対峙している所だった。
ブズ、ブズズズズズズ…。
<…あ、三人とも。注意して、このモンスターは魔力が強いから。>
汗を滲ませながら、ジュチャが顔を向けずに伝える。
<弾を当てよう! リジュワナ、モニク!>
ポケットからイハッジャを取り出す宏子。
<待って。宏子、ジュチャを見る限りでは、私達もまずは>
シュウウン、プシュウッ、プシュプシュプシュウッ。
<ぎやあっ、わ、わわっ、>
<…防御をした方が良いと思うの。>
足元をじたばたさせている宏子を見ながら念じるリジュワナ。
<このモンスターはね、>
ステッキを構えてモンスターを凝視しながら、ジュチャが伝える。
<弾を同時にたくさん出すから。よけきらないと死ぬわよ。>
<ぜえ、ぜえ、ぜえ…>
肩で息をしながら宏子は自分の防御膜を張った。赤い光が彼女の全身を包む。
目の前のモンスターは屋上から数メートルの高さをほぼ静止状態で浮かびつつ、こちらに数発づつ青い攻撃弾を放ってきている。
自分の周囲に紫の光の球を光らせているリジュワナが、ジュチャを見た。
<よけないと死ぬのは大体想像がつくけど…それで、どうやれば上手くよけられるのかしら。>
<逃げるのよ。>
<…>
<走ってね。>
<…>
<…>
<ええええっ!?>
既にどこか諦めている様子のニ人と、一人念を上げて驚いているモニク。
<…>
<…あのー、ジュチャ。他に何か方法、無いの?>
無言のリジュワナの隣で宏子が聞く。
<逃げつつも弾を当ててね。四人いるんだから誰かは当てるでしょ。>
モンスターを睨みつけたまま伝えるジュチャ。
<…>
<…向こうも当てやすいでしょうね、四人もいたら。>
<リ、リジュワナちゃん…>
<ただの冗談だから。>
モニクに伝えるリジュワナ。
<それじゃ皆、攻撃の準備は出来たわね? 行くわよ。3、2、1…行け!>
ブズズズズズ…。
ジュチャの号令と共にモンスターの周囲に纏わりついていた水色と赤の光が消える。それに合わせるかのようにモンスターが上昇する。見上げる四人。
<気律の力を、我の…あーっと…>
リジュワナの方を見る宏子。
<…頭上に。>
<頭上に! フィア・ディイイイイイシュ!>
シュウウウウウウウウン…。
シュウウウウウウウウン…。
手持ちのイハッジャを光らせる宏子。同時にモンスターの体からも光が溢れ出す。
シュウンッ。
シュウンッ。
双方から光の弾が放たれる。
<!>
モンスターへ一直線に向かう宏子の光。一方モンスターから放たれた光の弾は途中で分裂し、散弾銃の弾のようにいくつもの光に分かれてこちらにやってきた。
<や、やばっ。>
シュウウウウウウン、ブシュウッ。
曲がりくねりながら自分の所にやってきた光の弾を、慌てて消す宏子。
<ちっ…>
「きゃあああああああああっ!」
シュウウン、ブシュウッ。
<あ…ありがとう、リジュワナちゃん。>
モニクはつぶっていた目を開き、自分を襲ってきた弾を消したリジュワナに礼を言う。
<モニク、あなたは自分を守る事をまずは考えて。宏子、ジュチャ、同時に撃ちましょう。>
頷く宏子とジュチャ。
<気律の力を我の頭上に。フィア・ディシュ!>
シュウウウウウウウン…。
三方向から光が溢れ、一点へと集中する。それを逃れながら三方向へ同時に反撃の弾を放つモンスター。
<っ! すばしっこいなあ。>
眉を上げる宏子。
シュウウウウン、ブシュウッ。シュウウウウウウウン、ブシュウッ。
ジュチャは何度も弾を撃つが、ことごとくモンスターの放つ光に吸収されている。
…シュウウウウウウウウウウウウウウウウウンズバアアアアアアアアアアアン!
<…え?…!>
<リジュワナ、よけて!>
リジュワナの背後で突然風が起きた。リジュワナのいる所へ向けてジュチャが弾を放つ。
シュウウウウン、ブシュウッ。
倒れるようにしてよけるリジュワナの頭上を通ったその光は、リジュワナの背後に新たに現れたモンスターに命中していた。
ブズズズズズ…。
ボンッ。
水色の光の弾に飲まれ、消滅したモンスター。
宏子が念を上げる。
<こ、こいつ自身も増殖するの?>
<しないわよ。磁石に引き寄せられてここに来ただけ。…どうやらお客さんつきでね。>
ジュチャの念に、三人が今現れて消えたモンスターのいた方向を見る。
「え…? ここは…日本ですか。」<…そうですよね?>
小柄で浅黒い肌の、きつく編みこんだ髪型の少女、が英語とテレパシー混じりでこちらを向いていた。
<えっと、あんたは…あ、あー…>
少女は下は黒いスリムジーンズで、上はキャミソールを着ていた。下着をつけていないらしいその上半身に、視線が釘付けになる宏子。
<…自宅にいたんです。>
視線に気付き、少女が念を返す。
<…そ、そっか。>
シュウウウウウウン。
<っと!>
<宏子、挨拶は後で交わしましょう。まずはこれを消して!>
<あ、ん!>
ジュチャに頷く宏子。
ブズズズズズズ…。
宏子はイハッジャを再び構え、モンスターを睨みつける。
<いい加減うっとうしいぞ! ザナ・キュディヌ・ヒオ!>
シュウウウウウウウウウウウウン…。
<って、あれ?>
光と共に、ふわりと浮かび上がる宏子。
<何で自分が飛んでいこうとするのっ!>
耳を立てるジュチャ。
<あれ、私今何て言った?>
<自分が動く呪文でしょ、それは!>
<え、えっ?>
「ええええええええええええええええええええええええっ!」
叫びながら宏子は、自分の放った力で一直線にモンスターの方向へ飛ばされていく。
<あれが…確か佐藤さんですよね。>
<そう。あれが、私達のエースよ。…遺憾ながら。>
キャミソールの少女に答えるリジュワナ。
「わ、わ、わ、わ、わああああああああああああああああっ」
ブズズズズ、ブズズズ…。
急にこちらに飛んでくる宏子に驚いたのか、摩擦音を上げつつ、モンスターがその羽をはばたかせだす。
<リジュワナ、上を狙うわよ!>
<了解。 フィア・ディシュ!>
プシュウッ。
プシュウッ。
ジュチャとリジュワナが同時に光を放つ。
ブズズズズズズズ…。
シュウウウウウウウウウウウウウウウウウン、ボンッ。
「うわあああああああああああああああああああああああんんごっ。」
ドシンッ。
水色と紫の弾の不意打ちをくらい、モンスターが光の中で消滅する。その消滅した直後の空間を素通りしながら赤い光に乗って屋上を低空飛行していた宏子は、そのまま校庭方面へ落下していこうとする直前に、走りよったモニクに足首をジャンピングキャッチされるという形でコンクリの床への強制着陸に成功していた。
<はあ…。>
額をぬぐいながら息をつくジュチャ。
<あ、はは…おとり作戦成功…。>
<…作戦っていうのは事前に多少計画してやるものでしょ。>
頭上の耳をひくひく動かしながら念ずるジュチャ。
<…>
<改めて紹介するわ。>
リジュワナが床にがにまたに倒れている宏子の横に立ち、少女の方を向いた。
<この日本人の女の子が佐藤宏子。…それから、宏子の足をつかんでいるこの子は、フランスからこの前来たモニク・フェヨール。…来たっていうのは、普通に飛行機に乗ってね。私はバングラデシュ人のリジュワナ・アニシュル・ホク。あなたと同じように、あのモンスターの力で瞬間移動してここに飛ばされて来たわ。こっちの人はジュチャ・ホス・トゥカナシュ。プオラギイック、知ってるでしょ?
彼と同じクザラル人で、彼の上司よ。それで、私達は全員多少の魔力があるの。…あなたは確か、アメリカから来たのね?>
自分の肩に手を置きながら少女が頷く。
<アリーザ・ビンティ・アブダラ・サハネイヤです。ロサンゼルスにいました。…5分前まで。>
<サハネイヤって…英語の苗字じゃないよねえ?>
床から起き上がったモニクが、まだ倒れている宏子の体を引き起こしながら念じる。
<マレーシア語です。…といっても、私が喋るのは英語ですけど。>
<…マレーシアって確か、私達と同じイスラム教徒の国だったわよね?>
そう念じながら、リジュワナは改めてアリーザの服装を見る。
<…親は真面目なマレーシア人だったんですが、その子供は骨の隋まで堕落したアメリカ人に育ってしまいまして。>
苦笑気味に答えるアリーザ。
<それにしてもホクさん、この間は有難うございました。>
<は…?>
アリーザは急に、リジュワナに頭を下げる。リジュワナはまばたきをして聞き返した。
<この間…って? 私、今初めてあなたに会うのに。>
<え? …ええ、もちろんそうですよね。ええ…私、急に何を言ってるんでしょうか。>
アリーザは自分の念に、不思議そうに首をかしげた。
<…>
ジュチャは少し離れた場所で、腕組みをしながらリジュワナをじっと見ている。その視線の鋭さはまるで、獲物を前にしたハンターのようだ。
ジュチャの視線に気づいていないアリーザが、微笑しながらリジュワナに念じた。
<ところで堕落したアメリカ人としては、早い所、自分の家に戻れると有難いのですが…>
<気持ちは分かるけど、帰ってもまたこっちに連れ戻されるかもしれないわよ。>
リジュワナの念に、アリーザは頷く。
<そうですね…まずは、それをどうにかしないと…何とかこういう事を防止は出来ないのでしょうか?>
アリーザはジュチャの方を向いて尋ねる。
<…>
<トゥカナシュさん?>
<え? あ…ええ。そうね。防止ね。…確かに防止出来るよう、努力はしているわ。でも現状について、プオラギイックは何て言ってた?>
<…>
無言で眉を上げる、という形でアリーザはジュチャに答える。
<でしょうね。>
<ようこそ日本へ。飛行機代が浮いて良かったわね。>
ジュチャが頷く。隣で肩を上げるリジュワナ。
<…それは嬉しいですね。確かに。>
アリーザはため息混じりに念じた。
ジュチャはアリーザの肩に手を置いた。
<まあ、これで四人が揃ったっていう事ね。アリーザには悪いけど、やっぱり皆、しばらくの間は宏子の家に住んでもらうわ。それで良いでしょ?>
<って何であんたが勝手に決めるっ!>
アリーザがジュチャを見て念じる。
<トゥカナシュさん、私はホテルで良いです。>
<「で、良いです」…。>
しみじみと繰り返すリジュワナ。
<こっちはそれだと余り良くないのよ。>
ジュチャが肩を上げる。
<まあ、それはこれから話し合わないといけないわね。…ああ、それから私の名前は、後ろのホス・トゥカナシュは装飾名だからね。>
<装飾名?>
<あれ、地球人でも装飾名を使う民族っているでしょ?>
不思議そうに周囲を見回すジュチャ。
<ええと、「de」とかならあるけど…?>
<「何々の」? うん、まあそれもあるし、>
ジュチャはモニクに頷く。
<要はそれだけだと名前にならない名前なの。だからアリーザ、私を呼ぶときはジュチャで良いから。敬語かどうかに関わらずね。>
<そうですか。分かりました、ジュチャさん。>
<ホス・トゥカナシュ、私もホテルが良い。>
頷くアリーザの隣で宏子がボソっと念じる。
<それなら私は和式の旅館が良い。>
楽しそうに付け足すモニク。
<それで、ジュチャさん。いずれにしても私は帰りますから。>
<は?>
宏子がアリーザの方を向く。
<あんた、今までの話の流れ聞いてた? …いや、私はそれで全然構わないっていうかむしろ歓迎なんだけど、>
<いえ、ですから、ここにしばらくの間滞在しろと言うならそれは仕方がありませんが、対策が出来次第帰らせて頂く、という話です。…それは構わない、というか、当たり前の話だと思うんですが…>
<…>
口を開けたまま、宏子がジュチャに目を向ける。ジュチャは肩を上げた。
<…まあ。どうしてもって言うなら、私達もあなたに強制は出来ないわ。その辺りの事も、またこれからゆっくり話し合うとしましょ。…それにしても、>
ジュチャは宏子達を見回す。
<地球人、っていうのは…>
<なんだかギスギスしてるんだよね。皆、もっと仲良くしようよ。>
<…>
頬を膨らませ、どうやら怒っているらしいモニクがジュチャの言葉を引き継ぐようにして言う。宏子達は一様に、ため息をついた。
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