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A-Sato Ltashofe Yde Ilne

Episode 5: -3

自分の肩が揺れる感覚で、宏子は目を覚ました。
「う…ん、んー?」
露骨に不愉快そうな表情で、瞼の上に手を乗せながら宏子が顔を背ける。
「ひーこ、起きて。」
「んんー。んー。今日は日曜でしょお。」
「そうだよ。だからもう9時になるのに、まだ起こしてなかったんじゃない。」
−あれ、美耶の声? …ああ、昨日家から出れなかったんだったっけ。まだいんのかな、あいつら。
−…起きたくない…。
「んんー。」
「うんうん言ってないで。早く起きてよ。」
「何でよー。あんた日曜はいつも夕方まで寝てる癖にー。」
枕にしがみつきながら唸る宏子。
「そんな訳無いよっ。おやつ時までには起きてますっ。」
「…殆どおんなじ事でしょが。」
宏子は力を抜き、それきり死んだように動かなくなる。
「ちょっとひーこお!」
<宏子、モニクの部屋に来てくれないか。今なら面白い物が見れるぞ。>
<…えー?>
頭に響いてきた念に、宏子が目をこすりながら顔を上げた。
<何い、あんたまで?>
<いいから、ちょっと来いって。>
半開きのドアから、プオラギイックが顔を覗かせている。
<…モニクもいるの?>
<ああ、もうお前以外全員いるぞ。>
<…会いたくない…>
<何でだよ。最近お前、何かリジュワナに冷たくないか? …ってまあ、元々仲悪いか、お前達は…>
<どこが。冷たいのはリジュワナじゃん。昨日だって、ジュチャと一緒んなってあんなにガミガミ…>
宏子が枕に顔を沈める。
<まあ、それは私達がカメラの前で不用意な事喋っちゃったっていうのもあるし…>
<…それにしたってさあ。「もうあなたと同じ空気は吸いたくない」とまで言われてんだよ、私…>
<え、だって…ねえ。>
美耶がプオラギイックに向かって、首をかしげてみせる。
<それ位は言うだろ、普通。>
<え?…嘘お。言わないよ…。少なくとも日本人ならね。>
プオラギイックと美耶は、宏子の念に不思議そうに肩を上げてみせた。美耶が微笑む。
<プオさんも。仲が悪いなんて言わないでくださいよ。ひーこも、リジュワナちゃんも、本当は仲が良いから喧嘩してるんですから。>
<…あんたも人の話聞かない人だよね。>
<とにかく良いから来い。今来なかったら本当に後悔するぞ。>
<何よお…。>
あくびをしつつ、宏子がのそのそとベッドから這い上がった。

<ようやく来たわね。…私はあなたが来ない方が良かったんだけど。>
<…>
モニクの部屋には、既にモニク、リジュワナ、アリーザ、ジュチャが集合して何かを囲んでいた。リジュワナの念に眉を上げつつベッドに腰掛ける宏子。
<部屋が狭いですよね…>
室内の人口密度の高さにアリーザがため息をつく。
<じゃあ今からお前の住んでる「ホテル」に移動するか?>
<…「ボロアパート」と「ホテル」って、別の物とされてれるんですよ。少なくとも英語では。…そもそも今外出したら、私の事までバレるじゃないですか。>
プオラギイックに答えるアリーザ。
<で、何見てんの。…テレビ?>
<見れば分かるでしょ、一々念じなきゃ理解も出来ないのね、あなたは。>
<な…>
宏子がジュチャの念に思わず顔を見る。無表情に、テレビの方を顔で示すジュチャ。
<コマーシャルが終わったわ。>
<…>
一同は中央の小型テレビに見入った。

[憤慨リポート 疑惑の教団に怯える住民達]
画面にはおどろおどろしい字体でテロップが表示されている。一応モザイクがかかっているが、明らかに宏子の家の周辺と思しき場所をマイクを持ったレポーターが歩いている。
<何よ…こんなの昨日嫌と言うほど見たって。まだやってんの?>
うんざりした表情で念ずる宏子。モニクはにっこり笑いながら指をふる。
<ううん、ひーこちゃん、今日は昨日の数倍は面白いよ! 特にここの東都テレビ、オリジナリティーがあって最高に面白いんだから!>
<面白がってんのあんただけでしょ…>

周辺の住民へのインタビューが一段落すると、次に画面は暗い部屋に佇む人物を映す。人物はどうやら女性のようだが、逆光で顔等は全く見えない。
[独占リポート 衝撃!「私はモンスター教団の信徒だった」元信者激白!!]

<…誰よこれ。>
画面の文字を見ながら呆れた念をあげる宏子。
<ねえひーこちゃん、あの文字は何て書いてあるの?>
<…独占リポート、衝撃。「私はモンスター教団の信徒だった」、元信者激白。>
<へえ、じゃああの人、元信者なんだ。てっきり被害者なのかと思ってた。>
意外そうな表情になるモニク。
<思ってた、って…「元信者」だっていないでしょ。現がいないんだから。>
<でも、「元信者」の方が単純な「被害者」よりも更に悪口が言えますね。内部事情を語れる訳ですから。>
<ああ、そうか! 頭良いね東都!>
モニクはアリーザに頷いた。
<あのモンスターを崇拝してるんなら、「モンスター」とは呼ばないと思うんだけど。>
呟くリジュワナ。
<…な事私に言わないでよ。>
<あなたには言ってない。>
<…>

顔の見えない女性が、ボイスチェンジャーで甲高くなった声で喋る。
「…はい、大師に最初に会ったのは、冬の修行の時でした。私を含めた何人かの女性信者達が呼ばれて、特別に大師の恵智を受けられる事になったんです。別室に行くと、大師は奥のソファーで、ステーキを食べていました。出家信者達が大師の前に膝まづくと、大師はそこから立ち上がって、一人一人の頭を軽く撫でました。…恵智は、それだけで終わりました。その後大師は、私ともう一人の信者に、そのままその部屋に残るように言ったんです。…他の信者や係の者がいなくなると、大師は自分の服を脱ぎ始めました…」

<何言ってんだか…>
<ロマンだねえ。>
手を組み、心底嬉しそうにうんうんと頷いているモニク。
<…>
<ねえひーこ、「彼ははやかった」って、アクションが速いって意味なの?>
<美耶、あんたはそんな事分かんないで良いから。>
<えー?>
<っていうかこの教祖って誰さ?>
<…>
宏子の念に、全員が無言で青い男の方を向いた。
<…らしいんだが。>
<…何でよ。>
<さあな? 女の中の男一人だからか?>
<それもあるけど、見た目が地球人と違うからよ。人種差別は地球人のお家芸でしょ?>
ジュチャが首を上に上げながら念じる。
<まあ、そうかもしれないわね。>
頷くリジュワナ。
<まあしかし、地球人もクザラル人にそんな事は言われたくないだろうけどな?>
<そうねえ。特にエウグ人とか、傲慢な種族もいるしね?>
ジュチャは肩を上げてみせた。
<あー、でもこんなインタビューはつまんないー。暗いから何にも見えないよう。>
<モニクは何が面白かったのさ。>
<さっき面白いシーンあったんだよ? それが見せたかったのに…あ、これこれ! また始まった!>
<ん?>
テレビに向き直る宏子。

「さあ! 教祖様のために今日も祈りを捧げて、モンスターを召還するのよ!」
テレビの画面には、教団本部と思しき場所で茶色い肌の宇宙人が声を上げる様子が映し出されていた。
「ははあーっ!」
その宇宙人を含め、信者らしい白い服の女性の集団が全員で膝まづく。カメラがズームアウトすると、彼等の前には青い肌の宇宙人男性が、一人豪華な椅子に座っていた。

<…マンガ?>
口を開けたままの宏子。
<なんだか、私とプオラギイックの関係が逆転してるのよね。>
<そうだな。現実にはお前の方が遥かにああいう椅子とワイングラスが似合いそうだよな?>
<…お褒めの言葉どうも。>
額を押さえながら答えるジュチャ。

「さあお前達、修行の成果を見せる時だよっ!」
テレビの方では、シーンが変わり、教団内の一室で20代の日本人女性が独特な口調で周囲に語りかけている。
「はああああああい! でもその前にカレーを一口。ムシャムシャ…」
「あっ、先輩、このカレーいけてますよ!」
日本人の隣で、ニ人の浅黒い肌、といっても彼女達も日本人の役者に見えるが、の信者達があぐらをかきながら和気藹々とバナナか何かの葉うえに盛られたカレーを食べている。
「こら、お前達、人の話を聞いているのかいっ! キーッ!」
「まあまあそう怒りなさんなって。」
ニ人の内の、額に赤い点をつけた眼鏡の信者の方はそう言うと、急に立ち上がって日本人の信者の額に自分の額を押し付けた。
「な、何をしてんのさ、サリー!」
赤い顔で、彼女をおしのける日本人。
「いや、どうもストレスがたまっているみたいだから、風邪でもひいたかな、と…」
「風邪?」
サリーとよばれた信者の隣でまだカレーを食べていた長めの髪の色黒の信者が、物陰から何かを取り出した。
「風邪の時はホラ! 私の故郷では、猿の脳みそをスープにして食べるんですよ!」
でろーん。

<…>
<どうやら話の流れ的にはね、このサリーっていうのが、リジュワナちゃんの事みたいなんだよね。>
モニクは画面に出ている外国人、風のメイクアップの日本人を指差して念じる。
<…まあ、似てるけどね。…見た目は。>
<で、今、猿の剥製を…中の脳をスプーンですくっているあれが、私らしいです。>
<サリーがインド人でこのリーっていうのはタイ人だそうよ。>
リジュワナがアリーザの念を繋げる。
<両方とも日本語しか喋ってませんけどね。>
<でもさ、ニ人とも、さっきのコントだとジャングルで狩りを始めてたよね!>
意気込むモニク。
<これ、コント…なの?>
軽い眩暈を感じながら、宏子がテレビ画面に目をやる。
<…で、この悪女キャラが私だと…>
モニクが手を振る。
<ああ、この子はまとめようとしている割に結構いじられキャラ。>
<…中途半端に当たってる描写なのが余計ムカつくんだけど…って、あんた出てないじゃん、モニク。>
<え、私? あ、私、これこれ、ジュディー!>
<ジュディー?>

ショートカットで金髪、作り物の鼻を付けた信者、というか役者が、彼女達三人の隣でコーヒーカップを持ちながら顔をしかめていた。
「皆さん、静かにしてください。私は今教団の資金運営を検討中なんです。」
そう言うと彼女は一人パソコンに向かい、黙々と表計算か何かのソフトを操作しだしている。
「ちょっとお、酷くない? お姉様があれだけ苦しんでいるのに、自分だけ我関せずでお金の勘定?」
サリーが金髪の信者に詰め寄り、奥を指差す。そちらでは、日本人の信者がリーにむりやり猿を口に入れられ倒れかけている。
「知りません。自分の健康管理も出来ないようでは、根本的に修行が足りないという事ではないですか。」
金髪の信者は冷たく言い放つと、顔をパソコン画面に向けた。手を腰にあて、怒った様子のサリー。

<これ、これ私! クールなアオレンジャー!>
知らないうちにポテトチップスの袋を開けているモニクは、ケラケラ笑いながら画面の金髪の女性を指差している。
<…アオレンジャーってどういう意味?>
呟く宏子。
<私はインド人でアリーザはタイ人にされてるのに、モニクだけはちゃんとフランス人になってるのよね。どこからかぎつけたんだか。>
<というか、タイ人が猿の脳を食べるなんて話、聞いた事無いんですけど。>
<でも、フランス人っていう割には全然このジュリーって子はフランス人っぽくないんだけどね。プライドばかり高くて何だか偉そうっていうか、協調性無さそうだし。>
口をとがらかすモニク。
<協調性が無いって部分は本物と……まあ、良いけど。>
リジュワナは途中まで念じかけて、モニクの視線に念をやめる。
<気を悪くしたらすいません。…ですが、それって正にフランス人のイメージだと思いませんか?>
「えええええええっ!?」
アリーザの念に、モニクは文字通り声を上げた。
<そんな事無いよー。あえて言うなら、それはパリ人のイメージでしょ? 私、パリ人とだけは一緒にされたくないよ。私は生粋の南欧人だもん。パリ人がみたいなのが「フランス人」なんだとするなら、私はその「フランス人」とは思われたくないなあ。>
<…パリってフランスじゃなかったんですか?>

<それにしても、モニクは結構今の状況に平気みたいだね?>
モニクからポテトチップスをもらいながら、宏子が念じた。
<木曜日なんか、学校でちょっと泣いてたじゃん。だからキツいのかと思ってたけど。ちょっと、安心した。>
<え?>
モニクが口を開け、宏子の方を見た。
<何言ってるの? 平気な訳無いよ。平気じゃないから、こうやって無理矢理楽しんでいるんじゃない!>
<あ…そ、そうだったの?>
−その割には今、思いっきり普通に楽しんでいるように見えてたけど…。
<で、でも、今だって結構自然に笑ってるし…>
モニクは不思議そうな表情で宏子を見る。
<ひーこちゃんは人の気持ちを推し量る事が出来ないの?>
<…え?>
リジュワナが首を振る。
<何を言っても無駄よ。彼女はそういう人なんだから。モニク、世の中にはそういう、一番大事な部分の欠落している人もいるの。残念な事だけど。>
<ちょっと…>
<もっと残念なのは、そんな人と私達は一緒に戦わないといけないって事です。>
<むしろ私は彼女と戦いたいんだけどね。>
<アリーザ…リジュワナ…じょ、冗談でもちょっとキツすぎだって…>
宏子がニ人を見回す。
<まあねえ。しょうがないじゃない? 魔法能力では、今の所彼女が高い事は事実なんだし。その分、人格に問題が出まくってるけど。>
<それならこうすれば良い。>
腕組みをしていたプオラギイックが、ジュチャの念に指を上げた。
<今しばらくは俺達は宏子の味方だが、宏子以外の5人で戦っていける事がはっきりすれば宏子も敵にすれば良いだろ?>
<はあ? …プ、プオ?>
<賛成。>
手を上げるリジュワナ。
<ちょ、ちょっと! 冗談でも言って良い事と悪い事が>
<でも、そんな事今公言して、佐藤さんが私達と一緒に戦ってくれるんですか?>
アリーザの念に、モニクが首をひねりつつ答える。
<うーん、ひーこちゃん的にはそうせざるをえないんじゃないかな? 一人でモンスターと戦っても勝ち目が薄いのははっきりしているんだから。まあ、そんな事言ったって、ちょっと早く死ぬか遅く死ぬかの違いだけだけどね?>
<それに、別に今彼女と戦ったって良いじゃない。いくら宏子が強いって言ったって5対1ならこっちが勝つのは確実よ。>
<あ…んた達、も、もう、いい加減にしなさいよ…>
宏子は震えながら、その場で立ち上がった。

<ね…ねえ、美耶、美耶からも、こいつらに何か、言ってやってよ。特別な理由もないのに一人ばっか個人攻撃してさ。酷いと思わない?>
<…えー?>
楽しそうにモニクと念を交わしていたらしい美耶が、宏子の念に首をかしげた。
<何が酷いの? 全部本当の事だよ?>
<な…だ…って、だって、どこが本当なのよ! どうして私がここまで言われなきゃいけないのよ!>
涙を浮かべ念じる宏子。
<でも、ひーこが最低の人だっていうのは事実だし…>
<な…>
<…ひーこ?>
「もう良いよっ! そんなに私が嫌いなんだったら、皆で勝手につるんでいれば良いでしょっ!」
バタ、バタンッ。
宏子は叫ぶと、段ボールだらけの部屋のドアを開け、廊下へ出て行った。

<…>
モニクの部屋の一同は、呆気にとられながら、ドアとお互いの顔とを見やった。
<…何を、あいつは怒ってるんだ?>
<まあ、ストレスのたまる状況ですし…私達もカウンセラーが欲しいですよね。>
<ああ、それなら目の前に最高のカウンセラーが既にいるだろ。>
プオラギイックは自分の胸を叩いて笑顔を見せる。
<……欲しいですよね。資格を持った、プロのカウンセラーが。地球人ならなお良いです。>
髪をかきながら繰り返すアリーザ。
<「本物」も風邪をひいたのかしらね…猿の脳みそでも、食べさせてあげたら?>
リジュワナがテレビを見ながら呟く。つられるように画面を見るモニク。
<あ、テレビのシーン変わってる。また近所のインタビューだ。>
モニクはモザイクのかかった人物を見て、目を細めながら念じた。
<…ねえ、美耶ちゃん、この子、どこかで見た事ない…?>
<え?>
テレビを見る美耶。画面では北高の女子生徒と思しき人物がレポーターに答えている。
<うーん…>
<あ、これ、志穂ちゃんだよ! この背丈で髪型、ほらそれに、手を自分の肩に乗せる癖!>
<そ、そんな! …それは確かに似てはいるけど…志穂ちゃんは私達を疑うような人じゃないよ!>
<疑うも疑わないも、単にレポーターが来てインタビューに答えているだけでしょ? 別に誰でもあり得るんじゃないの?>
美耶に念じるリジュワナ。
<それより私は宏子が気になるわ。あの様子は尋常じゃないわよ。>
<え、うん…それもそうだよね。ひーこ、一体どうしちゃったんだろ…>
<同じチームとして、あんな状態の彼女と共に戦いたくはないわね。こっちの命が危ないわ。>
<…そういう問題…だけ、なの? リジュワナちゃんは?>
<ええ、もちろん。>
当然、といった顔でリジュワナが頷く。
<あなたにとってはそういう問題だけではないかもしれないけど。別に私にとっては、彼女は友人でも何でもない。ただのチームメイトだから。>
<そ、そう…なんだ…>
<…ねえ、プオラギイック。>
リジュワナと美耶の会話を聞いていたジュチャが、ふいにプオラギイックの方を向いた。
<ん?>
<宏子の怒っている理由って、多分あれなんじゃないかしら?>


<今開けたら殺すよ。>
宏子の部屋。ドアの方から聞こえてくるノック音に、ベッドに寝ている宏子は顔をふせたまま念じた。
キイイ…。
<…>
<…>
ドアからゆっくりと顔を出すプオラギイック。起き上がる宏子。
<…>
<…何で、テーブルの上のティーカップを手にとったのか聞いても良いか?>
<そこから1cmでも私に近づいたらこれをあんたの頭に命中させるから。魔法でね。>
<…>
<…>
<まあ、俺は近づかなくても、お前が近づいてくれれば良い。>
<意味が分かんないわよ。用がないなら出てってくれないかな。>
<宏子…最近ジュチャが言語モジュールを追加したから、この画面で日本語も表示できるようになったんだ。読めるか?>
<え?>
プオラギイックは自分の腕につけた端末を操作し、バーチャルディスプレイを投影させ、そこに文章を表示させた。
[死ね お前は暴漢に犯されてボロボロになった後 体を切り刻まれて虫に食われろ]
<…>
<読め…てはいるようだが…>
宏子の様子にプオラギイックが眉をひそめる。
<なあ、何が書いてあるのか、ちょっと言ってみれくれないか?>
<出てけ! あんたの顔なんか見たくないっ!>
<お、おい!>
プオラギイックの肩を押す宏子。
「ひーこっ!」
プオラギイックの背後から、美耶が顔を出し、日本語で宏子に叫ぶ。
「ひーこ、いい加減にして! 皆がひーこに迷惑してるんだよ、早くどこかへいなくなってよ! ひーこの顔を見ているだけで胸がムカムカしてくるんだから!」
「な、そ…」
涙をにじませる宏子。
「分かったよっ! じゃあ私が出てけばいんでしょ、出てけばっ!」
ドンッ。
「ちょ、ひーこっ?」
宏子は美耶とプオラギイックを押しのけると、部屋を出て廊下を走っていく。

<な、急に「出て行く」って…ここひーこの家なのに?>
<「出て行く」って、今出て行ったらまたテレビの良い餌食になるだけだぞ!>

バタンッ。
急にドアが開く。カメラを三脚に構えつつもややぼうっとしていたカメラマン達は、慌ててフラッシュをたきだした。
「あ、ドアが開きました! 信者の女子高生が出てきた模様です!」
レポーター達が立ち上がりマイクを構える。
赤く目をはらした宏子が周囲を見回す。次々に突きつけられるマイク、無秩序に浴びせ続けられる質問。
「あ…」
宏子は、群がる記者たちの向こうで、一人の女子高生がこちらをずっと見つめているのに気が付いた。
「…し…志穂。」
「…」
志穂は記者達をかきわけると、宏子の家の門の前、つまり宏子の立っている目の前に歩み出た。ざわめきつつも、質問の声を止めるレポーター達。
「…」
「…志穂。」
「本当なのか?」
「…何が?」
宏子は、志穂の表情が険しい事に気付き、怯えた表情を見せる。
「ゲームとかじゃないのか? お前達は、本当にあんなオカルトを信じてるのか?」
「な…違うよ。…そんな訳無いじゃない。志穂までそんな事聞く?」
「じゃあ…ちょうどここで、「毎回あいつらと戦ってる」ってお前が叫んでたあの映像は、どう説明するんだ?」
「そ…れは…」
うつむく宏子。たかれるフラッシュの数が一段と多くなる。
「な…宏子。悔しいよ。凄く。私はお前は、そんな奴じゃないって信じていたのに…」
「志穂…志穂もなの? どうして、皆して…ねえ、そんなに私が嫌い!?」
「…え?」

シュウウウウウウウウウウウウン…。
宏子が声を上ずらせる。それに聞き返す志穂の髪が、急に起きた風になびいた。
シュウウウウウウウウンズバアアアアアアアアアン!

「ああっ? モ、モンスター? 本物!?」
ブズズ、ブズズズズ…。
彼等の上空5メートルほどの地点に、モンスターが羽を軽く揺らしながら浮いていた。

シュウウウウウン、プシュウッ。
「あ、志穂よけてっ!」
「え? うっ」
プシュウン。
志穂を押し倒す宏子。モンスターから放たれた光がそのまま通過し、志穂の後ろに立っていたカメラマンの体に吸い込まれる。
「…」
ドサッ。
「きゃあああああああっ!」
数秒後、無言で倒れるカメラマン。そばにいたレポーターの悲鳴をきっかけに、その場は騒然とした空気に包まれた。
「皆、危ないです! あの光に当たったら本当に死にます! 早く逃げて! …志穂も!」
ブズズ、ブズズズズ、ブズブズズズズ…。
「って、お前はどうするんだよ! まさかあれと本当に戦う訳じゃないだろ? オカルト信じてる訳じゃないんだよな?」
「オカルトを信じてる訳じゃないけど…今、あそこにいるあれを倒さなかったら、皆死んじゃうし。」
微笑む宏子の顔がどこか寂しげに見えるので問いただそうとする志穂の頬を、モンスターの光の弾がかすめる。
「うっ。」
「ほら、志穂も逃げて!」
「あ、ああ…」
シュウウウウウウウンッ。
モンスターの放つ青い光とは異なる、紫色の光に気付いた宏子が後ろを振り返った。

<…来たんだ。>
<当たり前でしょ。3数えたら、5人で集中攻撃するわよ。モニク、アリーザ、ジュチャ?>
<オス!><分かりました。><私の台詞だと思うんだけど…>
<宏子もね。>
<う…うん。>
<3、2、>
プシュウウッ。
<くっ。>
モンスターが光を放ちつつ、ふわりと飛び上がる。よけるリジュワナ。報道陣は今や散り散りとなり、数十メートル先から望遠でこちらを中継しだしていた。
<向こうはこっちの気律を察知しているわ。誰かおとりが気をひいている間に攻撃しないと駄目ね。>
ジュチャはそう念じながら、自分の念に首を上に上げた。
<…いや、防御の方が消耗が激しいというか危険でしょうから、そっちを宏子以外の四人で担当しましょう。宏子、地上の攻撃力は今、あなたが一番だから。その間に攻撃、良いわね。>
<え、う、うん…>
<気律の力を、我の頭上に…>
水色の光を放ちながら、ジュチャがゆっくりと浮かび上がる。その間に他の少女達も周囲を走り、ステッキをモンスターに向け構えた。
<3、2、1!>
シュウウウウウウウウン…。
4方向から一斉にモンスターに向けて光が放たれる。自分の体の周囲に光の玉を膨らませ、それを防御するモンスター。
<宏子、今よ!>

<…>
<…宏子?>
ジュチャが下をうつむく宏子に念を上げる。
<…でも、どうせ、すぐに私、あんた達の敵になっちゃうんだよね…>
<は? そんなの当たり前じゃない! あんたなんか本当は早く死んで欲しいんだから! 良いから早く弾を撃って!>
叫ぶように念じるジュチャ。
<何でよ。別に良いじゃん。ここで勝ったって、意味ないって事でしょ…>
宏子は自分のイハッジャをただ見つめたまま、じっと動かないでいる。
<ちょっと…プオラギイックは? 美耶は? ニ人ともテレパシー以外の方法で意思伝達しなかったの?>
<してたよ。そしたらひーこちゃん怒って、家を飛び出しちゃった。>
<つまり、テレパシーだけの問題じゃないって事?>
<…テレパシー?>
<あのね。あなたがいるだけで、私は本当に気分が>
<駄目よ。宏子に何を念じても、理解できないわ。彼女にそんな知性無いんだから。>
何かを説明しようとしたジュチャを遮るリジュワナ。
<ああ、そうね…とにかく早く攻撃して! もう皆の魔力が…>
プシュウッ。
<うっ…>
ジュチャが念じ終わらない内に、モンスターが四人の光を跳ね返す。モンスターは数メートルさらに浮上してから、一気に宏子の方めがけて飛んでくる。
<宏子よけてっ!>
<…>
<宏子っ!!>
叫ぶジュチャ。宏子は動かない。

<!>
ブズズ、ブズズズズズズ…。
「うっ…」
<な、何で!>
宏子の目の前にリジュワナが割って入り、モンスターの光に対抗していた。紫の光を全身から放ちつつも、苦しげな表情のリジュワナ。
<どうして私なんか助けるのよ!>
<…>
<ちょっと、黙ってないでなんか言ってよ!>
<…>
リジュワナは何を言おうか躊躇した表情を見せたが、やがて簡潔に宏子に念じた。
<このまま早く攻撃して。>
<何言ってんの! あんたまで消えるかもしれないでしょ!>
<…>
<ちょっと、何か喋りなさいよ!>
「う、うう…」
青い光に紫の光が押され、リジュワナが目を閉じうめき声をあげる。

キーン…。
「え…?」
宏子の体が固まり、目の前を青白い光が覆った。同じ光でもそれは、モンスターや宏子達の出す現実の光よりも視界を遮る、あやふやなもやのような物にも感じられる。
「ちょっと、何で今これが来るのよっ! 毎回毎回タイミングの悪い時にばっか! って…」
宏子は自分の口を手にあてた。
「あれ、私喋れる。っていうより、動けるじゃん! あ、リジュワナ、早くよ!…け、て…」
口ごもる宏子。周囲の景色は青味がかってよく見えないが、宏子が目をこらすと、まだそこにリジュワナ達やモンスターがいて、先ほどと光景は変わっていないのが宏子にも感じられる。
「って、いうか…私自身がいるし…」
<宏子…>
「え?」
頭の中に響いた声に宏子は思わず振り返った。しかしそこには誰もいない。
<えっと、誰?>
<ごめんなさいね、宏子…今更だけど、ちょっと後悔してるわ、私…>
<え、リジュワナ?>
宏子は再び前を向く。自分とリジュワナが、モンスターの光に押されながらじりじりと後退しているのが見える。
<ねえ、リジュワナ、どこにいるの? 聞こえる?>
青白い世界の中、宏子が周囲を見回す。
<…>
<…>
再び宏子の頭にイメージが伝わる。
<やっぱり、あなたと、友達にならないで良かったわ…>
<…リジュワナ?>
<それに、モニクや…アリーザも…>
<…え?>
<…これで私が死んでも、少なくとも「友達」を失う事にはならないものね…>
<…リジュ…ワナ?>
宏子は、目の前でかすんでいるリジュワナと自分の姿を見る。
<あなたって、いつもわがままで、自己中で、子供っぽくて、無鉄砲で、本当に、つくづく…>
<…悪かったわね…>
<…つくづく、そっくりよね…ナジーラに…>
<…え…?>
<…全く…気をつけなさいよね…私が、もう少し気を許していたら…危うく、目の前で、「チームメイト」じゃなく自分の「友達」を亡くす所だったじゃないの、あなた…>
<リ…ジュワナ…>

キーン…。
目の前の青白い光が消え、急に視界が開けた。
「はっ」
五感がはっきりする。目の前にモンスターの光と音、そしてリジュワナの汗と体温があった。
「う、ううっ…」
宏子はイハッジャを構えた。
<ええい、ズーズちゃんはとっとと消えろ! …気律の力を我の頭上に! ヒア・エンティフ!>
シュウウウウウウウウウウウウン!
ブズズ、ブズズズズ…!
宏子から赤い光が強い勢いで溢れ、モンスターの光を軽々と押し返した。光そのものにやられはしていない様子だが、モンスターは体勢を崩し、摩擦音をあげながら空中に吹き上げられる。

<モニク、アリーザ、今よ! 3、2、1!>
シュウウウウウウウウウウウン!
叫ぶジュチャ。三人から放たれた光が、無防備になったモンスターの一点に集中した。


<…>
リジュワナは、ドアをノックする音に目を覚ました。
<…どうぞ。>
<…入って良い?>
ドアを開ける宏子。
<…駄目って言っても押し入るわよね、あなたの場合。>
<何だ、分かってんじゃん。>
宏子は頷きながら、リジュワナの部屋に入った。ベッドから起き上がるリジュワナ。
<何か用?>
<あんたの部屋さあ、>
部屋を見回しながら宏子が念じる。
<もうちょっと何ていうか、女の子らしくしても良いんじゃないの? 本当殺風景だよね? …あ、いや、モニクみたいにしろとは言わないけど…>
<日本人の感覚はよく分からないけど…こっちでは、黒人ラッパーのポスターを部屋に張るのは「女の子らしい」事とされているの?>
<…ははは、まあ、私の部屋みたいにしろとも言わんけどさ。>
頭をかきつつ、机の前の椅子に座る宏子。
<…どう、調子は?>
<別に今日だって、全然学校に行けたわ。プオラギイックがうるさいから一日寝ただけよ。>
<そっか。…良かった。>
<…あなたの方は? 今日もうるさかった、マスコミは?>
<うん…>
はあ、と宏子は全身でため息をつく。
<今日も一日中、ずうううっと、カメラが密着だもん。学校が奴等を校内に入れないのが、せめてもの救いだけどね…>
<まあ、狂信的カルト集団から、地球を救う英雄に評価が変わっただけでも、神に感謝するとしましょう。>
<先週あんたにうどんをぶっかけた馬鹿いたじゃん? 今日あって、私に何て言ったと思う?>
<…この間は悪かった?>
<そんなもんじゃないって。俺はずっと君達を信じていた、せっかくだから、ここにサインしてくれないか!>
念じながら、自分の背中を指してみせる宏子。リジュワナは軽く笑う。
<…シャツに?>
<ん。ちゃんとしてやったよ。油性マジックで「俺はウンコ漏らし中でーす」って書いてやった。>
<何よ、それ…汚いわね…>
肩を揺らせ、笑いをこらえるリジュワナ。
<それよりか…>
<…>
<…ああ、うん。>
<何?>
<ん、何でもない。>
<そう?>
リジュワナはちら、と宏子の目を見る。
<…いや、さ。志穂が凄い勢いで、土下座までして謝ってくるから、あれはあれでちょっと引いたな、って…。「これから普段は私がお前達をカメラから守る」とか、よく分かんない事言い出すし…>
<…志穂さんは、多少思い込みの激しいところがあるみたいね。>
<多少、かなあ?>
<その部分は、私の目の前の誰かとよく似てると思うわ。>
<…え?>
目を細めて宏子が聞き返す。
<いや、何も言ってないわよ。>
<そりゃ、「言って」はいないでしょうよ、無言で念じてるんだから。>
<…>
<…>
<…>
<全く。>
<…で。もう、大丈夫なの、あなたの方は?>
<ん、何が?>
宏子がリジュワナを見上げる。
<精神的に、かなりこたえたんでしょ?>
<ん、だいじょぶだいじょぶ。別に悪口言われるのは慣れてるし?>
<そう? 私だったら、耐えられないと思うわ。自分に向けられる念、言葉、文字、全部が全部、自分への悪意、敵意としか認識出来なくなる魔法にかけられるなんて…何を聞いても、それが自分の悪口にしか聞こえなくなるなんて。>
<いや、間違いなくあんたの方がこういうのの耐性全然強いと思うが。>
<今何か言った?>
<何も言ってません。>
<なら良いけど。>
視線を外すリジュワナ。
<…>
宏子はベッドを見ながら呟いた。
<…本当はね、やっぱり、キツかったよ。しかもちょうど学校でとか、テレビのレポーターとか、色々あったのと重なったじゃん? だから…大変だった。>
<でしょうね。>
リジュワナが頷く。
<その割に、あなたの今の表情が微妙に楽しそうなのがよく分からなかったりはするけれど。>
<でも最後にね。リジュワナ、あんたが…意外に可愛い奴だなって分かったから、だから…>
<は?>
怪訝そうな表情になるリジュワナ。
<私が…可愛い? 急に何の話?>
<ん、見たまんまを言ってるだけ。>
宏子は立ち上がる。
<何でそんな満面の笑顔なの?>
<別に?>

宏子は、ベッドの上のリジュワナを抱きしめた。
「きゃっ!」
<ちょ、ちょっと急に何?>
<…ごめんね、リジュワナ。…危険な目に遭わせて。>
<ああ…それは別に、あなたが謝る事じゃないでしょう。私は自分の判断で、より多くが生き残れる可能性がある選択をとっただけだから。>
<そうだね。…リジュワナが私をかばったのは、魔力の強い私が残らないと、これからモンスターと戦っていけないって判断したから、だよね?>
<…そう、全くその通りよ。>
<別に私を助けたくてとか、そういんじゃないんだよね。そもそも私ら友達でも何でもないもんね?>
リジュワナを抱きしめたまま念じ続ける宏子。
<え…そ、そうね。…言い方は良くないけど、個人的に、あなたと馬が合うとは思っていないわ。>
<だよね。…私達は…ただの「チームメイト」、だもんね? 「友達」なんかじゃなくて。>
<そ…そうね。>
<…リジュワナ…これからも、よろしくね?>
<…何、それ? …何でずっとニヤニヤしてるの、気持ち悪いわね…>
<…別に?>
窓越しの暖かな日差しが、ニ人の影をベッドシーツの上に作り出していた。

続く



Written by FML (AKA Franken).
Ver. 1.00 on 2002/6/5.

<思うんだけど、この連載って根本的な間違いがあるよね!>
<な…何でしょうかフェヨールさん。>
<ねえひーこちゃん、魔法少女物に一番重要な要素って何だか知ってる?>
<さ、さあ…やっぱ、魔法についての描写とか…>
<ちがーう! 一番重要なのは「萌え」だよ! 「萌え」! それがこの連載には欠けている! という訳で今日は皆に萌え萌えな口調で喋ってもらいたーい!>
<な、何、「萌え」って…>
<さあ始めるよ! 「今日も元気一杯だにょ!」、はいっ!>
<きょ、今日も元気一杯だ…にょ…?>
<「撫で撫でして下さーい。」、はいっ!>
<撫で撫でして下さーい。>
<…>
<「はにゃーん。」、はいっ!>
<は、はにゃーああん…>
<…(アリーザ、あんた何に身悶えてんの…)>
<次回、「魔法少女佐藤」第6話、「魔法少女の初デート」。お楽しみに。>
<「にぎょっぷ…」、はいっ!>
<…にぎょっぷ…>
<に、にぎょっぷっ!?>



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