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クザラル人の耳はつくづく面白い。まず第一に、地球人よりも薄い。頭の上から2つちょろっと出たそれを見るたびに、何かに引っ掛けた時に…ってどういう時なのかは我ながらよく分からないけど、ピリーと千切れてしまわないかと楽しみ…じゃなくて心配、になる。
そしてこの耳は、地球人にとっての目とか口に匹敵する位感情豊かに動く。しゅんとした時は力なく垂れ下がり、元気が良い時はぱっちり上を向き、何か怒ってる時なんかはピクピク震えていたりする。何より最高なのはビックリした時で、一瞬でビク、と数ミリ両耳が後退する。
これは、何度見ても笑える。
つまり、クザラル人を一言で言うと、柴犬の耳を頭につけた人類であるという事だ。多分、この表現以上にクザラル人を簡潔に、過不足なく言い表した表現は存在しないだろう。間違いない。
まだある。クザラル人には髪の毛が無い。他の色んな場所の毛があるかどうかは…残念ながら、当方の資料不足で不明だ。でも、少なくとも眉毛やまつ毛はあるので、大いに期待は持てる所だ。というか、そもそも服を脱いだら一体どういった…
……何か、案外二又とかに分かれてたりとか…
…って、そんな事はどうでもいい。
いや、正直な所、男性・女性共にかなり結構気にならないでもないが、今はそれは置いておく。検討対象を、耳に戻そう。とにかくそんな訳で、クザラル人は髪が無い。無いのだが、何故か耳の上というか裏側だけはうぶ毛が生えている。これが、なかなか侮れない。というか、絶妙だ。例えばちょっと息を吹きかけてみると、このように毛がザワ、と立ってつられて耳もビクッと…
<…お前はずっと人の頭で何を遊んでいるんだ。>

プオがムッとした様子でそう念じてきた。
<遊んでるんじゃなくて、研究してんの。>
<…どっちかって言うと魔法の研究をした方が良いんじゃないのか。>
プオは、数メートル向こうで私達を撮っているテレビカメラが気になって仕方がないらしい。(まあ、私も気になる事はなるけど。)
<あんただってしてないじゃん。言っとくけど私もう今日は2時間頑張ったんだからね。そろそろ日も暮れるしさあ。>
<偉そうに言うな。ノルマは1日4時間だろ。>
<あんたこそ偉そうに言うな。あんたなんか「準備体操」以外何にもしてないじゃん。>
<俺はここの監督役だから、ここで見るのが仕事なんだ。この後だってずっと本部との連絡だの何だの、残業山積みなんだぞ。その割に時給安いし…>
つい、ついつい。
<…だから遊ぶなって言ってるだろ。>
私の手をどかそうとするプオ。
<何かさ、無いの? 遊び心を刺激するような魔法練習。>
<そういう問題じゃないだろ…>
ため息をつくプオ。しかしこいつはしばらく考えたらしく、こっちを見て頷きながら念じてきた。
<…そうだな、ステッキの振り方にも、いくつか流儀があるのは知ってるか? 今お前達がやっているのは味も素っ気もない「気律の流れる方向へ向ける」、だけで、振り方も何もあったもんじゃないが、本来はいかにこれをエレガントにこなすかでも、魔法少女としての評価が結構変わってくるものなんだ。もうちょっと実践的な言い方をするなら、より滑らかな振り方をする事で気律の流れを更に無駄なく>
<つまーんなああああい。>
<…せっかく人が親身になって考えてやってるのに、本当にお前は、ってだから耳で遊ぶな!>
プオが私の手をどかす。
私は振り返り、オレンジ色の河川敷を見渡した。
<うん、皆頑張ってるねえ。>
<だからお前もやれよ。>
モニクはグラウンドの中央で、元気良く声を出しながら光を放っている。アリーザは端の方で、何度も同じ型の動きを繰り返している。
そしてリジュワナは…こっちに歩いてきていた。
<遊んでないで練習しなさいよ。>
<私、体育会系じゃないし。>
<私も運動は苦手よ。>
念じながら、リジュワナはアイスボックスからエビアンを取り出し、軽く口にする。
<でもいいからやりなさい。>
肩を上げてそう念じながら、彼女はフタを閉めてボトルをアイスボックスに戻した。
<…プオ、何だかこの子、怖いんだわ。>
<…誰だお前は。>
<…>
リジュワナは、つぶらな瞳を2、3度またたかせながら(いつも通りの無表情で)こちらを見ていた。
<どした?>
<…いえ…何と言うか…ニ人とも、良いわね、仲が。>
<は?>
<は?>
私とプオは、思わず念をそろえた。
<…宏子のタイプって子供っぽい男の人なのね。>
<はあ? ちょ、ちょっとリジュワナ、カメラもある所で誤解を招くような事言わないでよ。私はこんなのタイプにかすってもいないって!>
<俺もだぞ! っていうかリジュワナ、俺が子供っぽいっていう意味になる事を今念じなかったか?>
<いや、そりゃあんたは子供っぽい以外のなにものでもないでしょ。>
<誰がどう考えたって、それはお前だろうが!>
<はあ? 何言ってんの、あんたに決まってんじゃん!>
<…両方とも、という可能性はお二人の頭の中には無い訳ですね。>
<あ、アリーザっ!?>
振り向くと、モニクとアリーザも何故か練習の手を止めてこっちに来ていた。ついでに美耶まで来ている。しかも三人とも、表情がどこか危険だ。
<と…とにかく、誤解しないで、私は全然こいつの事なんか好きじゃないから。自分の名誉のために、これだけははっきり言っておく。>
<…名誉までかかる問題だったのか。>
<…ふーん? でも、さっきはニ人、随分楽しそうに見えたけど?>
<遠近法による目の錯覚よ。>
私はモニクに断言した。
<何か、ずーっとプオちゃんの耳いじってたりしたてよね? 普通好きじゃなかったらあんな事しないと思うけど?>
<もう一度宣言します。私はプオラギイックは嫌いです。>
<…一々手を上げなくても良いと思うんだけど…>
美耶が引きつり笑顔を浮かべる。
<でも、私はプオの耳だけは好きなの。>
私はさっきと同じようにフッ、と耳に息を吹きかけた。
ピクッ。
<ほら、動いた! ね、ね? 面白いでしょ?>
<…>
<…>
<…>
<…>
<…何よその目は。>


魔法少女佐藤

第6話「魔法少女の初デート」


<…はあ。>
リジュワナは口とテレパシーでため息をつくと、立ち上がり、練習へと戻ろうとする。
<まあ、好きにすれば良いわ。>
<何か引っかかる言い方だな。>
私は眉を上げる。
<結構逆なんじゃないの? 実はリジュワナがプオにラブラブだったりして、私が遊んでいるのが気になって仕方がないのか?>
<はあ? …何言ってるのよ。>
リジュワナはちょい驚いたように目を開くと、そのままグラウンドへ歩いていこうとする。
<本当はこれの耳で遊びたいんでしょお。>
<あなたと一緒にしないで。>
<あー、ひーこ? そろそろ練習…>
<おお!>
何か呟く美耶の隣で、モニクが勢い良く頷く。
<実は自分が彼の事を好きなのに、それは恥ずかしいから言えなくて、でも他の人の行動はとても気になっちゃう的シチュエーションだね! 王道王道!>
<だしょ、だしょ? むしろ自分に後ろ暗いところがあるからこそ人をあれこれ言うんだよな、な、な?>
<練習…>
<ヒロインニ人が一人の宇宙人を巡って三角関係…うふふふ…うわ、そんな事まで? しかも三人で!?>
<…モニクちゃん、何想像してるの…?>
美耶の横でモニクは首を振り、こちらを見て力説する。
<いやむしろ、リジュワナちゃん本人は自分の気持ちに気付いてもいないんだよ! だからひーこちゃんがプオちゃんとイチャイチャしているのを見ると凄くイライラするんだけど、どうしてそう感じるのかは自分でも分からなくて悩むの!>
<ああ、なるほど! リジュワナ、可哀想に…そんな事で悩んでいたとは…おばさん気付かなかくってねえ…>
<うん、でも恋愛は自由なんだから、リジュワナちゃん、もっと自分に素直になったほうがいいよ。ひーこちゃんに気兼ねなんかしないで…>
<…>
私達は、ふとリジュワナの姿を探した。

<大分、飛行も上手くなってきたじゃないか。>
<いや…やっぱり動くのは苦手ね。系の魔法の方が得意分野みたい。飛ぶ事はまだ何とかなるんだけど、飛びながら何かをするとなると難しいわ。>
<ホクさんがあの綺麗な飛行で「苦手」って言ったら、私の立場が無いですよ。>
<いや、アリーザもコントールはなかなかのものだぞ? 後はお前の場合はもうちょっと基礎体力があるとより良いだろうけどな。>

<…>
<…>
三人はグラウンドの向こうの方で、何やら語らいあっていた。
<あ、あんたら真面目に参加しろっ!>
<真面目に参加してないのはひーこ達でしょ…>

シュウウウウウウウウンズバアアアアアアアアアン!
グラウンドの別の一角では、つむじ風が起き、何も無い場所から水色の光が爆発するように現れた。
「頑張ってる?」
<お、ジュチャ。もう用事は終わったのか?>
<地球人との用事はね。>
風の中から現れた、サリーのような袴のような服装の女性がこっちに歩いてくる。
<…>
ジュチャは途中で立ち止まり、こちらと向こうを見比べた。
<如実に分裂してるわね。真面目グループとサボリグループが。>
<な、何をうっ!>
<私はずっと、練習するように言ってたんですけど…>
<美耶、あんた仲間を売る気?>
<私もさっきまでずっと練習してたよ?>
<ああ、モニクまで!>
<…それはとにかく、地球人との用事はどうだったの。>
リジュワナがジュチャに聞く。
<日本の偉い人達と会ってきたわ。>
肩に手をあて、ふう、と息をつきながらジュチャが念じる。
<どうも、彼等は状況が気に入らないみたいね。気に入らないというか、急すぎてどう状況を受け入れていいのか分からない、といった所でしょうけれど。>
<でも、私達が本当に戦っている事は認めてくれたんですか?>
<一応ね。多少読心術を使わせてもらったんだけど…って地球人だし、大まかな感情しか読めないけど、本当に信じているっていうよりは今の所、戦略上認めているっていう感じね。>
<賢明です。>
アリーザが頷く。
<今、日本の世論は私達に同情的なようですから、私達に敵対するのはリスキーでしょう。>
<「私達」の味方になるのも充分リスキーな気がするわ。>
リジュワナが、何でかこっちの方を見ながら念じた。
<まあ、宇宙船がある事をNASAが認めたのが大きかったわね。あれで「今までNASAは知っていて隠していたのか」っていう点に話題が集中して、私達の信憑性が逆に上がっているみたいだわ。>
<それで、日本政府は私達をどうするの? ただ認めるだけ?>
<私達っていうか…クザラル星と、国交樹立する事を提案してきたわ。>
モニクに答えるジュチャ。首をかしげるモニク。
<ふーん…でも、クザラル星って国じゃないよね? 星の名前でしょ?>
<ええ。大体私はクザラル星の代表でも、シオブラルの代表でもないし。まあ、一応国評…国際評議委員会と言って、クザラル星を代表する国際組織なんだけど、そこに連絡はするって答えたけど。>
<高級会議じゃなくてか?>
<…建前としては、魔法協会は一種の職業団体に過ぎないもの。公式な話は国評に持っていくのが筋でしょ?>
難し気な表情で、ジュチャがプオに答える。
<そりゃそうだろうけど、魔法協会じゃないか、実際に話が動くのは。>
<…そんな事したら、ソドゥがまたごちゃごちゃうるさいでしょ? 私が船で、ゆっくり寝られなくなるじゃない。>
<なるほど?>

<…それから後は、日本の軍をモンスター退治に提供するとも言ってたわね。>
<へえ…。>
<自衛隊だよね、正確には。>
リジュワナの横で、モニクがこっちを見て念じてきた。
<え? ああ、うん、自衛隊ってよく言うよね。>
<それって軍隊と何か違うの?>
リジュワナが聞いてくる。
<え…っと…そういう名前なんだよ、よく知らないけど。>
<でも、自衛隊は…あるいは在日米軍でも多国籍軍でも何でも良いですけど、普通の軍隊は対モンスター戦に役に立つんですか。>
<立たないわね。>
ジュチャはアリーザの質問に、一言で答えた。
<火力で魔力は消せないもの。防御の魔法で何でも遮断出来てしまうんだから。>
<核兵器でも使えば話は別だけどな。>
<そうね。そこまでやればさすがのモンスターも魔力無しで撃破できるわ。地球人の住む環境もろともね。>
肩を上げるジュチャ。
<所詮、魔力がある者を魔力無しで叩くのは非合理的なのよ。>
<反論する訳じゃないが、クザラル人だって大多数は魔力なんて無いけどな。>
<そうね。…まあ、持久戦に持ち込めばね。魔力を持つ者を弱らせれば魔力は当然弱まるんだけど。>
<どういう事?>
リジュワナが聞く。
<食べ物が食べられないようにするのよ。動きは止められないでしょうけど、モンスターの行くところ行くところ、奴の食べそうな植物は全て焼き払う事ね。そうすれば数週間後、そのモンスターは飢え死にするんじゃない?>
<それ…抗戦になっていないと思うんだけど。>
<昔、モンスターがクザラルを最初に襲った時は、本当にそんな感じだったのよ。>
リジュワナにジュチャが念じる。
<今でも魔力を持つ者は全クザラル人の8%程度だけど、昔は更に少なかったから。つくづく、よく生き延びれたものだわ。>
<まあ、余りよそに勧められる戦い方じゃあないな。じゃあ自衛隊は断ったんだな?>
<「後方支援」はお願いしたわ。具体的に言うと、私達の警備とか、モンスターが現れた際の住民の避難の誘導とか、マスコミの規制とか…>
念じながら、ジュチャはあくびをした。
<…魔法協会もこれ位協力的だったら助かるんだけどね。>
<これから船で、協会と会議か。>
<ええ。とにかく人材が少なすぎるじゃない。確かに星の防衛も大事だけど、いい加減にしてほしいわよね。彼等は地球を何だと…>

「う、ぐうっ!」
聞こえてきた声に、全員が顔を向けた。
<あれ、アリーザちゃん大丈夫?>
<…え、ええ…ちょっと…体調が優れないみたいです。>
自分の口元をおさえながら、アリーザがモニクに頷く。よく見ると、っていうか見なくても、かなり顔色が悪い。
<最近こん詰めてたから、疲れがたまってるんだろ。今日はもう休んだほうが良い。>
プオがアリーザの肩に手をかけた。
<そうですね。…そうさせてもらえますか。>
<そうね。皆も無理はしないでね。病気になられたらこっちも大変だし。…じゃ、私は船に戻ってるわ。>
<ああ。…じゃあ、リジュワナ、俺はアリーザを家に送っていくから、宏子達を適当に見といてくれないか?>
って…
<…何よ、その指示系統。>
しかも適当かよ。
<え…ええ。>
<あ、私もアリーザちゃんの家へ送っていきます。>
アリーザに肩を貸すプオ。その後を追いかけるように、美耶もついていって河川敷を後にした。

<…>
ジュチャも光と共に消える。歩いていくプオ達のシルエットも、建物の陰に隠れてやがて見えなくなる。
<…>
そっちの方向を見ているリジュワナ。
<…>
<…>
私とモニクは、無言で佇むリジュワナの様子をじい、と眺めた。
<…何よ。>
<…いや、別に?>
<あなたが「別に」っていう時って、基本的に碌な事考えてないわよね。>
<あー、その反応は。>
<モニクまで、何?>
お団子を振りながら、ぶん、ぶんとリジュワナが私達を睨みつける。
<冷静なリジュワナちゃんがこうまで感情的になるとは…罪な男だね、プオちゃんも…>
<…>
<私も肩を貸されたい、そして看病されたいっ!>
<うわ、もしかしてアリーザちゃんはそれを計算していたのかもよ? リジュワナちゃん、今すぐアリーザちゃんのアパート行った方が良いって! 変な事が起きる前に!>
<ニ人とも、一生そういう事言ってなさい。>
知らない内にアイスボックスとスポーツバックを両肩にぶらさげていたリジュワナが、こちらを振り向いて念じた。
<あ? リジュワナちゃん、まさか本当に行くの?>
<家に帰るのよ。あなた達とじゃ練習もしづらいでしょ。>
<…>
私達が顔を見合わせる間、リジュワナはそのまま振り向き、スタスタと歩いていってしまった。リジュワナの方にテレビカメラも向いていく。
<…まあ、もう日も暮れてるし?>
<でも、リジュワナちゃん毎日練習フルでやってるのに。何で急にサボるんだろ?>
<さあ? 案外プオのどうのこうのが図星だったとか?>
モニクが笑いながら手を振った。
<まさかあ。リジュワナちゃんは大人だもん、本当言うと、子供のプオちゃんとじゃ釣り合わないと思うよ。やっぱり組み合わせで言ったらプオ・ひーこだと思うな。>
<…あんたもしつこいっていうか色々引っかかる言い方するね。>
私はへらへら笑っている金髪女に念じた。
<だいたい人の事言ってっけど、あんたはどうなのよ。子供、って言い方するならあんただって子供じゃん。>
<…あは、私って大人の事を何にも知らない、うぶな美少女に見える?>
<…>
どうも、私のテレパシーはまだまだ未熟なようだ。相手に言いたいニュアンスが全然伝わっていない。おかしいなあ。翻訳機を使って会話するより意味が正確に伝わる、ってジュチャ達は言ってたんだけど…。


食事という物は本来、1日3食欠かしてはいけないものだ。人間がこれまでの長い歴史の中で、4食でも2食でもなく、朝昼晩の3食が良いと決めた。(法律にはなっていないかもしれないけど。)だから、私はどんなに急いでいる朝でも、朝食は欠かさないようにしている。たまに、…いや、結構ちょくちょく抜かざるをえないような状況になっている気もしないではないけど、そんな時でも最低牛乳だけは飲むようにしているのだ。(もちろん、その際腰に手はあてる。)美耶が体が弱い理由の一つは、基本的に彼女が睡眠大王で朝食を絶対とらないという点にあるような気がしてならない。
<ああ、ひーこちゃんの言う通りだよ。朝食はやっぱりちゃんと食べないとね。>
<モニクちゃん達は、毎朝ひーこと一緒にごはん食べてるの?>
学校の昼休み、教室で机をくっつけて三人でお弁当を食べながら、そんな事を美耶に話して…念じて、いたら、逆に美耶に質問された。
<モニクはね。リジュワナは最初の一週間位は一緒だったけど、今は一人で自分でパン焼いて食ってるね。>
<え、何で?>
<私達と一緒のペースだと、学校に遅れるんだと。>
<あはは、それは変だよ、だってニ人ともわざわざ私の家に来てから学校へ行くだけの余裕があるじゃない。>
あんぱんを食べていたモニクが美耶の念に頷き、首をかしげた。
<うーん、そういえばそうだね…何でリジュワナちゃんだけ早いんだろ?>
私は教室の前の方の、窓際の席に目を向ける。
<…>
今まさにその団子頭が立ち上がり、教室を出ようとしている所だった。

<ん? 急に立ってひーこどしたの?>
<ん。>
<ん?>
私は早足で教室のドア近くに歩いていく。
リジュワナは私に気付き、いつもの仏頂面で私の目を見た。
<何?>
<昼、食うんでしょ?>
<ええ。…もちろん。>
<一人で食ってないで、こっち来なさいよ。>
<え…? 何で? この前、私達は別に友達とかじゃないって…>
<良いから。一人で食ってったってマズいでしょ?>
<そんな事はないわ。さすがに豊かな国だけあって、日本の料理は悪くないと思うわよ。>
<そういう問題じゃないでしょ。良いからこっち来いって。>
<友達でもないのに、一緒に食べる理由が無いわよ。>
<あーっもう面倒臭い奴だな。じゃあチームメイトとして忠告します。あんたが一人で学食行ったら保安上よろしくないし、親衛隊が追っかけて学食がパニックになるでしょ? だからここで食いなさい。了解?>
<…>
<…何、まだ何か文句ある?>
<…宏子。>
<何よ。>
私が手をつかんで引っ張っていこうとしても頑として動かないリジュワナが、目を細めつつ念じる。
<私、お弁当持ってないんだけど。>
<…>
ムカつく女…。
<…>
<あー、ひーこお?>
<ん?>
私は逃げようとする宇宙人(クザラルじゃなくてグレイ)を捕まえるかのごとく、リジュワナの手首を捕まえながら、美耶の方を振り向いた。
<あの、一緒に食べられるに越した事はないけど、でもそんなに無理に一緒になろうとしないでも良いと思うんだけど…リジュワナちゃんは一人でゆっくりしたいのかもしれないし…>
<…>
私はリジュワナと美耶の顔を見比べる。
「…ひーこ。世の中には、色んな人がいるんだから。ね。」
「…」
<痛いから、手を離してくれない? 逃げないから。>
「…」
「…」
こっち、来い来い。
「え、何、私?」
美耶は私の手招きに応じ、立ち上がり近づいてきた。
「…あのさ、こいつは違うって。」
私はリジュワナから少し離れて、小声の日本語で美耶に言う。
「こいつはね、本当はこうやって構われたいの。その癖にぶきっちょかつ無愛想だから変に誤解されがちなだけでさ。」
「へえ…そうなの?」
「そうだって。本当に群れるのが嫌いっていうのはアリーザだよ。でもこいつの場合は、変に格好つけて孤独ぶってるだけ。」
「うーん…そんなものなのかな…?」
「…」
私達のやり取りを無言で眺めるリジュワナ。
「本当は、」
くいっ。
<こういう感じにイジメられるのが好きなのよ、この女は。イッヒッヒッヒ…>
私はリジュワナの手をまたつかんで、その右手を軽くひねりあげた。
<そ、そうなのっ!? イメージ違うよっ!>
<…何を今まで話してたのあなた達は。>
<そういう事ならさ、>
<おっ。>
<わっ。>
<…>
<私の買ってきたカレーパン食べなよ。そうすればここで皆で食べられるよ。>
<ああ。>
後ろから笑顔でやってきたモニクに、私は頷いた。
<そうだよ。そうすりゃ良いじゃん。ね、皆で食べよ?>
<…>
リジュワナは、今までの鉄面皮からやや異なった、本当に困ったような表情になった。
<気持ちは嬉しいけど…私、食べられない物もあるから…>
<ああ、宗教でね…。>
そうか…それで一緒に食べないようにしていたのか。
…そうか?
<何だったっけ? 牛?>
<…豚よ。牛はヒンドゥー教。>
<へえ…そっか。良かったね、牛じゃなくて。>
<何が?>
<だって牛の方がウマイじゃん。そっちが食べられるなら良かった、って。>
<…の方が、って比較形で言われても困るんだけど。豚食べた事無いし。>
<うーん…>
眉をひそめ、モニクがカレーパンの袋の文字を見る。
<えっと…美耶ちゃん、原料に豚肉ってある?>
<えっと…>
目を細め、袋に顔を近づける美耶。
<え、え? あるかな? えっと…?>
<何であんたが読めないのよ。>
<仮に豚肉が無くても、>
リジュワナが申し訳無さそうに微笑む。
<殺す時にお祈りをしていない肉はアウトなのよ。だから多分、それは駄目だと思うの。何かしら入ってるでしょ? 例えばお肉の脂とか…>
<面倒臭ぇー!>
<そういう宗教なのよ。…ああ、国にいる時は、そんな事で一々悩んだりなんてしないわよ。どうせ変なものは出てこないんだから。でも、外国にいる時は不便というか、まあ、多少はそういう事があっても諦めてはいるけど。一応危険そうな物は避ける事にしてるのよ。>
リジュワナは肩を上げた。
<分かったわ。保安上そうした方が良いっていうなら、付き合うわよ。席につきましょ。>
<って、あんた何食べんのよ。>
<一食抜いた所でどうって事ないわ。私、元々小食だし。>
すとん、と近くの席に座るリジュワナ。
<そんな…じゃ、私、ひとっ走り行ってくるよ、学食。えっと…プレーンなクロワッサンとかなら大丈夫だよね?>
<良いけど…さっきあなた、魔法少女が学食に行くのは保安上の問題があるとか言ってなかった?>
<うるっさいなあんたは。黙ってそこで待ってなさい!>
私は再び立ち上がって、廊下に出ようと歩き出した。
「きゃーっ、モニクちゃーん、こっち向いてーっ!」
「ひっ…」
そして後退した。
ドアから、目を輝かせた数人の女子達(多分1年生)がモニクに向かって手を振っていた。
「Hmm...? Oh, me? Hi!」
彼女達に気付き、あんぱん片手にモニクが手を振る。
「きゃーっ、カッコ良いーっ!」
よだれを吹き飛ばさん勢いで甲高い声を上げる女子達。
「…」
彼女達がドアをふさいでいるので廊下に出られない。
女子達の内の一人が、ふとこちらを見て思い出したように言った。
「…ああ、佐藤さんも、可愛いですよ。もちろん。」
「……それはどうも。」
「こら、お前達、通行の邪魔だ、あっち行け!」
「っ!」
女子達は、声の聞こえてきた方をきっ、と睨みつけた。
「あー、ヤダヤダ。風紀委員気取りの人って怖いねー。」
「何言ってんの。風紀委員なんかじゃないよ。この人、テレビの生中継の時出てたじゃん、佐藤さんに向かって「お前も宗教キチガイなのか」とか何とか叫んでてさ。大体それじゃ、どっちがキチガイなんだか…」
「違うって、本気で言ってたんじゃなくってさ、テレビ局からお金もらってたんでしょ? 普通そこまでする?って感…」
私の後ろから声を上げていた志穂がすうっと近づき、仲間内で喋っていた女子の内の一人の首裾を両手で持ち上げた。
「あー、良く聞こえなかったんだけど、今何か言ったか? 何? お金?」
手をプルプル震わせながら、固定された笑顔で尋ねる志穂。
「な…な、何も言ってないです。多分空耳です。」
「そうか、空耳か。ははは…」
「あは、あははは…」
ゴンッ。
「ンゴッ!」
志穂はそのまま、女子に頭突きした。
「ああ、悪い悪い。手がすべっちゃったみたいだな。」
ようやく女子を解放する志穂。
「ところで、悪いんだけど、自分達の教室に戻ってくれないかな。ほら、宏子も通れなくて困ってるみたいだしさ?」
「し、しししし失礼しますっ!」
何かヒソヒソ話し合いながら、女子達はそそくさに廊下を逃げていった。

「…あのさあ。」
「…ほら、通れるぞ。」
志穂は目を合わさずに、あごで廊下のほうを示す。
「いや、それは有難いんだけどね? …私らの事悪く言ったのを反省して頂いてんのはとてもよく分かったけど…その代わりに今度は自分の事を悪く言わせる、っていうのは何か違うんでないかい?」
「…」
ちょっと頬の赤い志穂は、しばらく何か考えてからボソボソと口を開く。
「別に私は、わざと自分の評判をどうこう、なんて考えて行動なんかしていない。今私が何か悪く言われてるとすれば、それはテレビの事を言ってるんだから自業自得じゃないか。…とにかく、こっちはただ、自分のやりたい事やってるだけなんだから、宏子は変に気をつかわないでくれよ。」
「いや、だからさ。…その、あの時志穂があそこにいたっていうのは、その時の志穂なりに私達の事を思ってくれたからわざわざ来た訳で、その意味ではつまり心配をかけた私達の責任な訳じゃない。だから、今借りがあるのはむしろ私達なんだよ? 心配かけてくれるのは嬉しいけど、いざモンスターが来たら、私は逆に志穂が」
「で、どこ行くの? これから。」
「え? …ああ、学食。リジュワナのお昼調達しようと思って。」
「今から行って間に合うか? …大体、お前が言ったら大騒ぎだぞ。モニクほどじゃないにしたって。」
「え…もしかして、私も、そんな人気あるの?」
そんな話は知らなかった。確かに最近は登下校時にカメラがついてきたり、街中でサインを求められた事もあるけど、校内でもそんなにファンがいたんだろうか。
「…そうだな、一年男子とかの間では、結構。」
「え、年下キラー、私?」
「「笑える」とか、「プロレスで勝負したい」とか、「一回殴らせろ」とか、逆に「一回殴って欲しい」とか…」
「…それ、人気あるって言うの?」
片頬を引きつらせながら私が聞く。
「まあ、モニクよりは良いだろ。彼女の場合本気でラブラブなファンばっかだから。しかも全員女な。」
「はあ…まともな人気のある奴はいない訳ね。」
「いや、リジュワナは男達に人気があるな。ミステリアスな雰囲気が良いらしい。」
「何言ってんの。」
私は後ろの席に座っているお団子頭を見返しながら言った。
「彼女、今まで毎日一人で学食行ってたんだよ。そしたら毎日凄い大騒ぎになってるって事じゃん。」
「うーん…彼女の場合、近づきにくいんだよ。ナンパな野郎を寄せ付けない、高貴なオーラみたいなもんがあるんだな。」
「ああ…少し分かる気はするけど。」
「でもお前の場合はそんなオーラ微塵も無いから、行ったら多分大変な事になるぞ。」
「…」
こいつは一体私らの事を負い目に感じているのか、いないのか。しかも基本的に善意で言っているらしいのが腹立たしい。
「…」
「…」
ペタペタ。
「うっ。」
首に何かの触れる感触で、私は後ろを振り返った。

「ああ、石戸田。どしたの?」
私は自分の首に触れた物に目をやる。
「…クロワッサン?」
「いつまで待たせてんだ。もう昼休みも終わるぞ?」
石戸田は袋を私に押し付けて、自分の席に戻ろうとする。
「え…? 何であんたが、そんな、クロワッサンなんて事まで?」
「たまたま俺が食いたくなったんだよ。」
石戸田は振り向き、私の肩を軽く叩いた。
「でも、ちょっと買いすぎたからな。だから一個位、お前にくれてやるよ。」
「あ…りがと…」
「…なあ、なんか…」
石戸田はおっさん顔だが、そのおっさん顔なりにシリアスな様子で、廊下を見ながら息をつく。
「…ただの佐藤だと思ってた奴が、急に地球を救うヒロインなんかになるっていうのは…何かちょっと、寂しいもんだな。」
「石…戸田…」
「クロワッサンは1袋税抜き120円だからな。今度利息付きで返せよ。」
手を振りながら石戸田は自分の席へ歩いていく。
「…何よ、「ただの佐藤」って……今だって、ただの佐藤だし…」
「…宏子。私が話すよ。」
「志穂…」
あんたもその辺どうも信用置けないんだよね、とはさすがに口に出せないので、私は心配ながら志穂に頷いた。石戸田の席に向かう志穂。
「…クロワッサン。」
私は代わりに、自分の手に残ったものを無意味に口にしながら自分の(というかモニク周辺の)席に戻った。

<あら? あなた、ずっと教室にいたような気がしてたけど?>
リジュワナは戻ってきた私が手にするものを見て、少し驚いたようだった。
<石戸田が余ってるからって言って、くれた。>
袋を渡しながら私が答える。
<わー、志穂ちゃんだけじゃなくて、だいちゃんまで変に優しい。>
<んー。…まあ、私が学食行ったら大変だって話だから、ありがたい事はありがたいんだけどね…>
<…石戸田君?>
私はリジュワナに頷いた。
<あ。あそこいるっしょ。あの高校生とは信じがたい容貌の男子。あの、今志穂と喋ってるあいつ。>
<それは分かってるわ。…じゃあ、後でお礼を言っておかないと。>
袋からパンを取り出すリジュワナに私は手を振った。
<良いんだってそんな。一々それ位でどうこう言う間柄じゃないからさ。>
<そう…?>
リジュワナは石戸田の方を眺めながら、しばし止まっている。
<どうしたの、リジュワナちゃん?>
<いえ…宏子と仲が良いのかな、と思って。>
リジュワナはクロワッサンに視線を戻しながら、モニクに答えた。
<え、誰が? …石戸田?>
<ええ。>
肩を上げるリジュワナ。
<まあ…特別険悪って事は無いと思うけど…何でまた?>
<…ううん、こっちの話。>
<何よ? 勿体つけちゃって。>
リジュワナは何がおかしいのか、クスリと微笑んで念じた。
<…カルチャーショックよ。日本に来てからずっと、どこにいても驚く事ばかりだったから、もう今更何があっても覚悟は出来たけどね。>
<ん?>
<って、ちょっと待ってリジュワナちゃん。…リジュワナちゃん、日本に来てから…色んな事に、驚いてたの? ショックとかってあったの?>
リジュワナは美耶に頷く。
<ええ、もちろん。毎日が驚きの連続だったわ。>
<…え、えええええええっ!>
念の揃った三人を、細目になったバングラデシュ人が見回した。
<…そのリアクションはどういう意味?>
<い、いや…リジュワナちゃん大人っぽくて落ち着いてるから、何かそういうイメージ沸かなくって。>
あわてて答えるモニク。
<あなただってあるでしょ? 日本に来て驚いた事は、色々。>
<え? うん…ラブひながもう連載してなかった、って知った時が一番ショックだったかな…>
<…>
<…うん。>
<…>
<あはは…じゃ、じゃあ、リジュワナちゃんはじゃあ、日本でどういった事に驚いたの?>
苦笑い気味の美耶がリジュワナに聞く。
<そうね…今はもう日本に、刀をさした侍はいないっていうのを知った時かしら…>
<…>
<…>
<え、マジ? 冗談じゃなくて?>
<私、冗談なんか言わないわよ。>
<…>
<…>
「…あは、あははははは!」
私達三人は声を上げて笑った。
<悪かったわね…日本についての知識が、あんまり無かったのよ。今はその点は、恥ずかしく思ってるわ。もっと勉強しておくべきだったって。>
リジュワナは、クロワッサンの陰に隠れるように首をすくめた。
<いや、面白いよ。リジュワナ、あんたサイコーだよ!>
私はリジュワナの肩を叩く。
<だって…インドとかだと、公式な行政権は無いにしろ、今でも象徴的な立場でクシャトリア武士階級が一杯いるじゃない? そういうイメージがあったのよ、日本も。だって、少なくとも皇帝天皇は今もいる訳だし…。>
<え…つまり、インドは今もお侍さんがいるの?>
<ええ、いるわよ偉そうなのが。刀は普通無いけどね。…ああ、もちろんバングラデシュはいないわよ、宗教が違うから。>
<へえ…そんなのいるんだ、今も…。>
<…>
リジュワナはふとこちらを見て、やや得意げな表情で眉を上げた。
<今度は私が笑っていい番?>
<う…>
<ふふ。>
<…はいはいどうぞ。お好きなだけ笑ってくれ、無知なオイラを。>
<…>
リジュワナはいつもの無表情に戻り、マイペースに念を続ける。
<後…皆が英語を喋らないというのにも驚いたわね。>
<…あんたも随分支離滅裂なイメージを日本に対して持ってたんだね。>
<それで。>
とっくにあんぱんとカレーパンを食べ終えているモニクが、ブリックパックのジュースを吸いながら念じる。
<石戸田君の何がカルチャーショックなの? バングラデシュの男子と違う?>
<ええ。>
リジュワナが頷く。
<…>
<ん、何?>
<いえ、別に…>
<何よ。>
私はリジュワナの腕をつついた。
<いや、ね。私の国だと余り、結婚前の男女が触れ合ったりしないから。こっちは開放的なんだなあと思って。そもそも男女が同じクラスになんてならないし…>
<…>
…ん?
<いえ、別に悪いって言うつもりはないわ。ただ驚いたの。それだけ。>
<ちょっと待って? え、どういう意味? え?>
私は思わず美耶とモニクの顔を見る。
<んー…?>
美耶は間違いなく私と同程度の理解状況らしい。モニクはいつも通りへらへらしているが、話についていけているのだろうか。
<ああ、つまりひーこちゃんと石戸田君の濃密な「触れ合い」に当てられたと? こんな公然の場所での「触れ合い」に。>
<…は?>
<まあ、端的に言うとそうよ。>
<は、はあああああっ!?>
思わず立ち上がる私を、リジュワナが見て首をかしげる。
<私、何か気に障る事言ったかしら?>
<いや…そうじゃないけど。…そうじゃないけどさ。何つーか、その言い方誤解混じってるっしょ。その言い方じゃまるで私と石戸田が付き合ってるみたいじゃん。>
<違うの?>
<違うわよ! ふう…>
何かちょっと疲れてきたよ。
私は呼吸を整え、椅子に座り直す。
<別にそんなんじゃないって。あのね、あいつと、私と、美耶と、三人とも昔から凄くこの辺近所に住んでて。だから腐れ縁の友達っていうか…うーん、何ていうか、いとこみたいなもんなんだよ。単に友達とかいうよりは。ね?>
私は美耶の方を向く。
<え…私はともかく、ひーことだいちゃんって、付き合ってるんじゃなかったの?>
<待ていっ!>
<いとこ同士で意見が分かれてるみたいだねえ?>
<モニク、あんたこういう時は黙ってていいから。美耶、私がいつあのおっさんと付き合った。私とアレでラブラブな事やってるシーン一度でも見た事あるか?>
<えー? だって、付き合ってるって、そういう問題じゃないじゃない。>
<思いっきり真正面からそういう問題でしょうがっ!>
モニクが、どこか悪意の感じられる目つきで私の前で手を振った。
<まあまあ、いとこA、そういきりなさんなって。>
<って、それじゃ私はいとこBっ!?>
よく分からない事でショックを受けてる美耶。私はモニクを見る。
<何よ、外人Z。>
<…そんなにいなかったと思うけど。…でもさ、何で、そんなにまでひーこちゃんが必死になって否定するのかだよね? これはつまり、今ひーこちゃんの思う人が別にいるからだって事なんじゃないかな?>
<…ああ、なるほど。>
うんうん、とリジュワナが頷いた。
<あ、何あんたまで。>
<…まあね。一緒に戦っている戦友との友情がやがて愛情に、っていう事なんでしょうね。>
リジュワナが意味不明の事を念じる。
<は?>
<でもさあひーこちゃん。言っても相手は宇宙人だよ? 色々習慣とか違うだろうし、大変だと思うけどなあ…>
<は、はあっ?>
私はモニクに振り向いた。
<何でプオが出てくんのよっ! 奴は全然関係無いでしょうがっ!>
<私はプオちゃんの名前なんて一言も出してなかったけどお?>
<宇宙人つったら奴しかいないだろ! それとも何か、ジュチャと付き合ってるってか!>
<えっ、ひーこ同時に三人と付き合ってたのっ!?>
<あんたは人の話を聞けっ!>
<ふーん…でもあのいちゃいちゃ度合いはちょっと凄かったけどなあ。>
モニクはこれ以上無くモニクな表情で念じながら、ブリックパックをぺしゃんこにした。
<だからあれは単純に練習に飽きて、暇だったから手近なもんで遊んでただけだって。>
っていうか、身近な男は全部疑惑の対象になるんだろうか、私のイメージって。こんなに真面目で純粋で素直で可愛い女の子をつかまえて、誤解もはなはだしい。
<じゃあ…別にプオラギイックに恋人としての興味は無いの、あなたは。>
<たりまえじゃん。耳以外は何の興味もないってばさ。>
あはは、と私は手をふった。
<…>
<まあ、そもそもまだ皆、会って何ヶ月も経ってないしねえ。>

<んー。それに、あいつとどっか遊びに行ったりとかそういう積み重ねがある訳でもないじゃん? ま、別にあっても何の感情も無いとは思うけどさ、あんなペンキで塗ったような顔色の奴。>
クロワッサンを食べ終えたリジュワナは、何か考えこんだ表情で私の顔を覗き込む。
<…何よ。>
<…>
<ん?>
<…>
<ああ、分かった。リジュワナちゃん、チャンスって思ってるでしょ? ひーこちゃんが自分のライバルじゃないって知って?>
<…>
ニヤニヤするモニクを、リジュワナは無表情に見つめる。
<モニク、あんたも好きだね、そういう話…>
<…>
<…>
<…>
…え?
<…って、え、マジ?>
<…>
リジュワナは目をそらしながら、ゆっくり息をついた。
<え、そうなん? え、ホント?>
<…>
リジュワナは一旦目を閉じると、きっぱりとした表情で頷いてみせた。
<え、えええええええええっ!?>
美耶が頭を抱える。
<ええええっ、つまり、だいちゃんとひーことプオさんとジュチャさんとリジュワナちゃんと私が、え、あ、え、そんな、ええええっ!?>
<減らしなさい、いい加減! ってか何で自分まで混じってんのよっ!>
<何で? 彼のどういう所が良いの?>
<あ、うんうん。あんな変態の何が良いの?>
私はモニクに頷き、リジュワナの方を見た。
<そんなにはっきりとは、分からないけど…好き、なのかもしれないっていうだけだけど。>
<うん、でも、理由は?>
<一言で言えば…親しみやすさかしら…その点は、宏子、あなたも同意できるでしょ?>
<う、うん、まあ…そうかな?>
<後は、自己犠牲心の強さかしら。>
<犠牲心?>
<モンスターが襲ってきた時、何度か彼は私達を助けてるでしょ。実際の魔力は、地球上なら私達の方がずっと上なのによ。その辺の男の人に頼んでも、そうそう同じ事はしてくれないと思うわ。>
<なるほど…そうか、人って誉めようと思えば色々無理矢理にでも誉められるもんなんだ…。>
<…ひーこは無理におとしめようとしてない?>
美耶が口を挟む。リジュワナは微笑んで、こちらを真っ直ぐ見た。
<…だから。あなたも同じような所で、彼の事が気になっているんだと思ってたわ。>
<え? あ、ああ…その心配はしなくて良いよ。でも…何かちょっとびっくりしたけど。>
美耶がぽん、と手を叩く。
<あ、つまりリジュワナちゃんがプオさんの事を好きだって事なの?>
<あんたは今まで誰と何を会話してたのよ。>
<でもリジュワナちゃん、まだ告白はしてないんだよね? いつするの?>
<ああ、そうだ。どうするん?>
<しないわよ、そんな事。>
至極当然、といった顔で答える。
<え、何でよ?>
<さっき言ったでしょ。結婚していない限り、そういうお付き合いをする習慣は私の国は無いの。>
<ええっ、そんな…>
美耶は、自分の事のようにがっかりした表情になっている。
正直、私も何となく、残念なような…。
<それ、ちょっと悲しいなあ。何とかなんないの?>
<何とか、って?>
<ほら、あんたの国じゃ確かに不純異性交際かもしんないけどさ、ここは日本なんだから、多少ねえ、こう、ハメを外すっていうの?>
<…じゃあ、言い直すわ。そういう習慣は私の中にないの。自分のモラルとして。>
<…そんなあ。じゃ、あんたは片思いなだけで、それはずっと相手に言わないっての?>
<結婚を前提としてなら言っても良いんじゃない? …でも、流石に私も今は、そこまでプオラギイックの事を知ってる訳じゃないし。>
<…>
リジュワナの念の前に、私と美耶は目を見合わせる。
<何だか、しっくりしないなあ。ねえ、どう思うモニク?>
<…>
<…モニク?>
はしっ。
<…ひーこちゃん、美耶ちゃん。>
<な、何でしょう?>
モニクが急に、私と美耶の手をつかんできた。
<これはもう、リジュワナちゃんとプオちゃんの恋路を全力で応援するしかないよ!>
<あ、はあ…>
<まずは今週末にでもさ、ニ人をデートさせてあげようよ! ひーこちゃんと美耶ちゃんなら、東京圏のおしゃれなデートスポットとかいくらでも知ってるでしょ?>
<いや、絶対あんたの方がそういうの詳しい感じがするんだけど。特に東京圏は。>
<だから、ニ人をそういった所に連れてってあげよ!>
<あの…プオさんの意思は?>
おずおずと聞く美耶。
<それに、私の意思は?>
<あんたの意思は却下。>
<違うでしょ。…だから、私の国じゃそういう付き合いはしないって言ってるじゃない。>
<ああ、もうリジュワナちゃんも素直じゃないな…>
頭をかくモニク。
<分かった。じゃあ、デートじゃない。あくまで「チームメイト」同士の親睦の深め合いって事でどうだ。>
<ああ、ひーこちゃん、そうそう、それで行こう!>
<だから。結婚してる訳でもない男と女が…>
<良・い・か・ら。はい、多数決! 今週末リジュワナ無資格魔術師とプオラギイックプロジェクト長のアウトドア・ミーティング開催に賛成の方! さあ、はいっ!>
<はーい。>
<えっと…じゃあ、はい。>
モニクの呼びかけに、私と美耶も手を上げた。
<という訳で、リジュワナちゃんは駅前にでも行って、週末までにとびきり可愛い服を用意しておいてね?>
<今更言う事でもないけど…>
ため息をついたリジュワナは、パンのあき袋を畳んだ。
<つくづく滅茶苦茶ね、あなた達って…。>
私は首を振った。
<そんなに感謝しないで。チームメイトじゃない、私達。>
<…>



→Part B



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