←Prev ↑Home ↑Original Novel →Next Franken!


←Part A


A-Sato Ltashofe Yde Ilne

Episode 6: The girl knows all the interstellar cliches.

とてもいい日差しだ。小春日和…というか初夏…というかちょっとした真夏?
<あっづー。>
<もう春も終わりかけてるのに、長袖なんか着てるからだよ。>
隣でタンクトップの上にカーディガン姿のモニクが笑っている。
<…今日は寒いかと思ったの。>
<天気予報位見ようよ…>
<…あっづー。>
<…>
…。
<え、何? どしたのひーこちゃん?>
モニクがこっちを見る。
<ああ、ううん。>
…やっぱ剃ってるよな。よく見えんが多分剃ってるだろう。
<それはともかく…奴等はどこ?>
<ん、ほら。>
モニクがジェットコースターの行列を指差す。あ、確かに居た。ここから30メートル位向こう、日本人だらけの行列の中、茶色いのと青いのが佇んでいる。
<えっとあれは…ホワイトトルネード、か。この遊園地で一番速いジェットコースターみたいだね。>
英語版のパンフレットを見ながらモニクが念じる。
<ああ、しかしああやって眺めると、かなり尾行しやすい組み合わせのニ人だな、あれは。>
<まあ…ね。いくら帽子かぶってても、やっぱり目立つよね、青い肌は…>
<何で周りは騒がないんだろ? って、まさか系の魔法使ってんのかな?>
<え、それってプオちゃんじゃなくてリジュワナちゃんが?>
<うん。プオにそんな能力は無いじゃん?>
<かも、しれないけど…でもリジュワナちゃんもジュチャちゃんじゃないんだし、何時間もやってたらかなり疲れちゃうんじゃないかな…?>
<うーん…>
私とモニクは、思わずお互いの顔を見合わせた。
<もしかして私ら、迷惑な事しちゃってるかな?>
<うーん…ま、まあ、もうちょっと見届けようよ。それに、本人達が嫌になったらすぐに帰っちゃうだろうしさ。>
モニクの念に私は頷く。
<そ、そっか。そだよね。ニ人ともそういうの我慢する性格じゃないしね。>
<うん。>
私達は頷きあうと、桜(だと思う)の木陰から行列の方をじい、と凝視しだした。


「…ひゃっ。」
ふいに肩に何かが触れて、意識がかなり遠くに飛んでいた私は声を上げた。
<きゃっ。…ごめん、ひーこちゃん、びっくりした?>
<あ、ううん大丈夫。ちょっとボーっとしてて。>
<…>
<…何?>
<うふ。びっくりするひーこちゃんも可愛いなあって、えへへへ…>
<あ、モ、モモモニク。ほら、ほら、監視対象、監視対象。>
私は楽しそうな大女に向かって向こうを指差した。
<あ、そうそう。ほら、リジュワナちゃん達がジェットコースターから降りてきた。>
<あ、うん。次は奴等はどこへ行くんだ…?>
出口の柵が開き、ジェットコースターに乗っていたカップルやガキンチョたちがきゃいきゃい言いながら降りてきている。その中に、例のニ人も混じっていた。
<でも、遊園地に来てまず最初にジェットコースターって、何かあんまりイメージじゃないよねえ。>
二人を眺めながらモニクが念じる。
<そう?>
<うん…普通デートだったら、まず最初はメリーゴーランド辺りでさあ。その後お化け屋敷で怖がって、最後は夜景の観覧車で愛を語らいあってシメ、って感じしない?>
<そ…そうなん? っていうかフランスの遊園地にもお化け屋敷なんてあるの?>
<ん? 私が言ってるのは、日本の遊園地の話だよ。フランス人は、遊園地でデートってあんまりしないから。>
<はあ…>
<でも私は、心が日本人だからね?>
<あ、はは…まあ…それは良いんだけどさ、あいつら別に日本人じゃないしね。でも、ニ人とも何か楽しそうじゃん? 意外と…>
<うん…リジュワナちゃんが…笑ってるよね、さっきから。あの子もあんなに笑うんだねえ。>
<うん…>
私達オープンミーティング保護監視隊は、しばしニ人が遊歩道をうろうろする様を見続けた。
やがてリジュワナの方が、プオの手を引っ張りどこかへ行こうとする。
<…あ、動き出した。次はどこだ?>
そしてニ人は、今さっき乗ったばかりのホワイトトルネードの列にまた並びだした。
ごんっ!
「イダッ!」
「Aie!」
私達は思わず木に頭をぶつけた。
<何っじゃそりゃ。>
<…まあ、あのニ人らしい、個性的なチョイスというか…>
<つーかさ。何か、リジュワナの方がノリノリで行ってってない? ほら、プオ、何か嫌がってるようにみえるけど。>
プオはさっきから、しきりに首を上に上げている。最近知ったが、これはクザラルで「No」を意味するジェスチャーらしい。
<うーん。>
<…>
<それにしてもニ人とも、デートなんだから、もうちょっとおしゃれして欲しかったんだけどなあ。>
プオはどこで揃えたのか、青のジーパンに白のTシャツ。始めて見る服装だが…言っちゃ悪いが見た目最悪だ。一方リジュワナは自分の国の高校の制服。服自体は鮮やかな水色で、可愛いっちゃ可愛いんだけど…日本人の目から見ても、間違いなく「高校の制服」以外の何物でもなかった。
<まあ、ニ人ともファッションセンスは無いっていう事かねえ。>
<うん…プオちゃんは無いのかもねえ。>
モニクが苦笑しながら頷く。
<ん、まあ、さ…奴は奴なりに地球の服をわざわざ着てきたっていうのは偉いとは思うけどね。ほら、何ていうか…そういう馴染もうって努力、奴の場合するじゃん? ジュチャとかと違ってさ。>
<あ、ひーこちゃん。急にプオちゃんの弁護するんだね?>
目を輝かせたモニクが、邪悪な笑みを浮かべこっちを向く。
<…いや、そうじゃなくて。どっちにしろセンス最悪なのははっきりしてるし。>
<ふうん?>
<…>
あ、何かだんだんこいつのこういう笑顔がムカついてきた。
<でもリジュワナちゃんも、折角のデートなのに制服は無いよねえ。>
<…まあ、あくまで「これはデートじゃない」って意思表示なんじゃないか? あれは…>
<その割には、>
私はモニクの念がやや真面目なトーンで聞こえたので、彼女の顔を見た。
<彼女、随分楽しそうに見えない?>
私は木の陰から、向こうの行列に視線を戻す。
<…うん。……良かったじゃん。…あいつが楽しそうで。>
<うん、そだね。>
口を開かずにお互いの目をちらちらと見合いながら(テレパシーで会話してるんだろうけど)、ニ人はまたホワイトトルネードの入り口の方へと消えていった。


<ふう…ふえ…暑い…>
日はますます強く照っている。
あの後リジュワナとプオのニ人は、ホワイトトルネード3回、疾風はやて2回、サンダーライド1回、クレイジーフォール4回、もう1回ホワイトトルネード、それからループコースターに2回乗り込んでいた。
<な、何なのあいつらのチョイスは…>
もう来てから3時間位は経っていると思うんだけど…。少しは休むとかしないのか。
<うー、何かあれはあれで楽しそうな感じがしてきた…。私も乗りたい…。>
<あー? 今度ね。でも今日はリジュワナとプオの、どっちもデートに疎そうなニ人がちゃんとつつがなくやってけるかを見守るのがウチらのミッションでしょ。大体これをやるって言ったのモニクじゃん。>
<そうだけどお。>
<…でも何か、ニ人とも楽しそうだね…ホントに…>
<…うーん。リジュワナちゃんはともかく、プオさんは何か疲れてる…というか顔色悪く見えるけどね…>
<ああ、確かに言われてみればそう見えなくもないね、美耶。>
…。
<…って、ああっ!?>
私は後ろを振り返った。
<え? …あ、ああっ。>
両手を開いて驚いてみせている美耶が、後ろに立っていた。
<な、何であんたがそこにいるのっ!?>
<まあまあひーこちゃん、このジュースでも飲んで落ち着いて。>
モニクが左手に持っていたストロー付き紙コップのジュースをこちらに手渡す。
<あ、ありがと。…っていつこんなジュース買ったのよ。>
<ん、今、美耶ちゃんにもらったんだよ。いや、ちょうど喉が渇いてたから助かったよね。>
<…>
<…>
微笑みながら自分の分のジュースを飲んでいたモニクは、ふと私の視線に気付くと、何かを理解したように口をストローから離し、左手を開いてみせた。
<…えっと、ああっ。>
<…>
<…ああっ!>
頷く美耶。
<ああっ!>
手を開いたポーズで、ニ人はニコニコ頷きあっている。
…頭痛い…。
<って、いうか、だから何であんたがここにいるのよっ!>
<ひーこ達は何でここにいるの?>
うっ…。
<そ、それは…ほら、たまにはこういうとこで息抜きも必要じゃん? 魔法少女たるものやっぱり休息はとれるときにとって、体調を管理しておかないと…>
<ああっ、ひーこちゃん自分が「魔法少女」だってついに認めたね?>
<便宜上その呼び方を使っただけよっ!>
私はモニクに言い返す。
<ねえ、この遊園地ってえ、昨日ひーことモニクちゃんがリジュワナちゃんに勧めてたとこじゃなかった? リジュワナちゃんのデート候補地として…>
口に手を当て、美耶が首をかしげる。
<そ、それは偶然! …ほら、それで、あ、そういえば近場でこんな良いとこがあったなって思ったから、モニクとニ人で行こうかなって!>
<ふーん…悲しいなあ、私は誘ってくれなかったんだ…>
<や、それは、その、ほら、美耶は部活もあるし時々病院も行くから忙しかろうと思って!>
<あ、ひーこちゃん、ニ人がまた動き出したよ!>
<あ、そう? さっそく後をつけてこ!>
モニクに頷いて歩き出した私の前を、仁王立ちの女が立ちふさがっていた。
どーん。
<…ニ人って、誰かな?>
<あ、いや、それは…>
<…>
<あはは…>
<え? もちろんリジュワナちゃんとプオちゃんだよ?>
<あ、こらモニクっ!>
どーん。
<…ひーこ?>
<あ、いや、その…>
<もう…>
腕組みをしていた美耶はやれやれ、という表情で息をついた。
<確かに私もニ人のデートを勧めたけどね。でも、良くないよ、そのデートを覗くっていうのはさ。何をするのも、あのニ人の自由でしょ? それは、まあ、確かにプオさんの事が気になるひーこの気持ちも分からないではないけど…>
<な、ちょっと待って、だから何で一々そういう解釈になるかな。違うじゃん、私はただ純粋に面白半分にニ人が何か変な事をやらかしはしないかと…>
<…面白半分に?>
み…美耶が…怖い…美耶の表情が美耶のキャラクターを逸脱しだしている!
<あ、いや、そうじゃなくて、ってだから、あんたはどうしてここに来てるのよ、美耶は!>
<私は、アリーザちゃん以外皆がいないから、もしかしたら、って思ってここに来たの。それは確かに今日練習がお休みっていうのは知ってたけど、ひーこの携帯に電話してもなんか出ないし?>
<うっ…>
だって出たら周りの歓声が聞こえるじゃん…。
<ほらもう、ニ人とも帰るよ。リジュワナちゃん達はそっとしておいて…ってモニクちゃんっ!>
モニクは一人、道を歩き進み、新たな建物の陰となる場所でこっちに手招きをしていた。
私は美耶に向き直り、自分の手をぎゅ、と握り締めた。
<あ…美耶。…確かにさ、うら若き恋人同士の初デートを覗くのは、決して誉められた事じゃないかもしれない。>
<…っていうか、プオさんに関してはこれがデートだとも理解していないような気がするんだけど…ひーこ達に無理矢理、「地球の大衆文化の研修だ」とかなんとか言って呼び出されてるだけなんでしょ?>
<でもね、今回は事情が特殊なんだよ。プオはそれこそ地球の文化を全然知らないからこうやって勉強してもらおうって思ったんだけど、やっぱり不安でしょ、一人でいさせたら? かといってリジュワナの場合、「地球の文化」は大丈夫か知らないけど日本の生活はまだ分からない事も多いだろうし、何よりこういうデートを今までした事がないらしいからさ、やっぱり一人でいさせたら不安じゃん、ね?>
<…で、何でそんなニ人を一緒にさせて遠くから眺めないといけないの?>
<って、だーかーらー! ああ、もう良いからモニクに追いつこう! リジュワナとプオ見失っちゃうよ!>
<ちょ、ちょっとひーこっ!>
私は美耶を置いてモニクの元へ駆け出した。

<…モニク無資格魔術師、現状報告を。>
<は、佐藤無資格魔術師、現在目標はカフェテリアで休憩中。どうやらプオラギイックプロジェクト長の疲労が予想以上だったらしく、リジュワナ無資格魔術師が謝罪と共に休憩を提案した模様です!>
びしっ。
敬礼を返しつつ、モニクが状況を報告してきた。私も建物の陰から顔を出し、向こうの様子を伺う。
たくさんのベンチとテーブルの並ぶスペースの一角で、リジュワナとプオが向かいあって座っていた。
<おお…>
プオはだらしなく、テーブルの上にぐでえっと顔をつけている。一方リジュワナは、何かの飲み物を飲んでいるようだ。確かにモニクの念どおり、見ようによっては申し訳なさげにしているようにも見える。
<あの…ニ人とも逆に目立ってるんだけど…そんなに露骨に、建物にしがみつくようにして「尾行です」って体勢で覗かなくても良いんじゃないかな…>
きっ
<幸田さん、リジュワナ無資格魔術師の眼鏡ビームとお団子ボンバーにやられると危険よ、気をつけて。>
<ひーこ、言ってる事の意味が全然分からないんだけど…というかその口調は何…>
<ねえ、ひーこちゃん。>
<ん?>
私はモニクの念に彼女の顔を見た。
<…私、そろそろこういう風にして見てるのも飽きちゃったな。>
<えっ?>
<あ、そうだよ! 良かった、モニクちゃん分かってくれて。ね、皆、ニ人はそっとしておいて、早く帰ろう?>
<ええっ、何でよ、モニク? どうせ過ちが起こるのは日が暮れてからでしょ? まだこれからじゃん!>
<ひーこおっ!>
<うん、だけど…>
モニクは悲しげな表情で頷く。
<だけど…?>
<ここからじゃ何にも聞こえないんだもん! ね、ひーこちゃん、美耶ちゃん、もうちょっとニ人の近くに行こうよ!>
ずどーん。
<モニクちゃああああんっ!>
<うむ、そうか…しかしそれには向こうに発見されるリスクも伴うぞ…本当に良いのか、モニク無資格魔術師カッコ18歳カッコ閉じ、よ! その覚悟はお前にあるのかっ!>
<今なら分かります…佐藤無資格魔術師。私は、私、モニク・フェヨールは、今ここでニ人の会話を盗み聞きするために、神から魔力を授かったのですっ!>
<おおっ! モニク…君は、君という奴はあ、魔術師の中の魔術師だあっ!>
私とモニクは、お互いの両手を取りあった。
その前に片手に持っていたジュースを、取りあえず地面に置いて。
<ニ人とも! そうじゃないでしょっ! もう、リジュワナちゃん達に言いに行くよ!>
<…いやあ、この状況で美耶と私らが出てきたら、間違いなく美耶も共犯者に思われるんでないの?>
<な、えっ? そ、そんなっ!>
<そういう訳で幸田さん。当官及びモニクは只今より危険なミッションへと赴きますが、そちらも風邪などひかれませんように…>
びしっ。
<だから言ってる意味が全然分からないよっ!>
私は(再び)美耶を置いて、モニクと共に更に危険な作戦行動を開始する事にした。


テーブル群の向こうにプランターがあって、その陰に立て膝で潜んだモニクがこっちに手招きしてみせる。
<ひーこちゃん、美耶ちゃん、こっちこっち!>
<了解!>
大胆、かつ素敵に目標のそばをかすめ、私達は目標の座るテーブルのすぐ横で諜報活動を開始させる事に成功した。
正確に言うと私は成功した。美耶はひとり建物の向こうで、オロオロこちらを伺っているようだ。
<…聞こえる、ニ人のテレパシー?>
<しーっ、静かに!>
私はモニクに、口の前に指を当ててみせる。
私達は、無言で頭の中に響いてくる念に「耳」を澄ませた。
<…ああ…>
<…そうね。…私…好きよ。>
…えっ!?
向こうのテーブルから伝わってきた念に、私とモニクは口を開いたまま目を見合わせた。
<そうか…>
<…ええ。最初はこんな自分、普通じゃないと思った。とても胸がドキドキして、何と言うか、落ち着くという事を忘れてしまった自分がいたの。だからある意味不安にもなった。本当に私、これで良いのか、って。>
<まあ、皆最初はそういうもんさ。俺だってそうだったし。…いや、俺の場合今もまだ、ドキドキしてるかな?>
<ふふ…けど、私は今はもう、冷静に、自信を持って言えるようになったわ。やっぱり私は好きなんだ、って。>
<そ、そうか! …俺もだよ! 俺も好きだ!>
…あ、あ、あ…。
口を開きっぱなしのまま、無言で私とモニクは小刻みに頷きあう。よく見ると、モニクの耳が心なしか赤くなっている気がする。
…私の耳もかもしれない。
こ、ここまでリジュワナが積極的だったとは…バングラ娘、侮りがたし…!
リジュワナの楽しそうな念が続く。
<…ええ、本当に好きよ。…飛行魔法。>
……は?
<そうだな、やっぱりあの、浮き上がる感覚は何物にも変えがたいよな! 自分が鳥になったような気分になれるだろ?>
は? ……え?
<ええ…でもやっぱり、変に興奮して自分を見失なったりしないようにしないと、戦闘の時は命取りになりかねないわよね。>
<でも意外だったな、リジュワナが飛行魔法を好きだなんて。もっとお前は系よりの魔法が好きなのかと思っていたぞ。>
な、な、何いいいいいいいいいいいっ!?
ふと前を見ると、右手を地面につけうずくまったモニクが、うつむきつつ左手で頭をさすっている。
…どうやら地面に頭突きをくらわせたようだ。
<好きなんじゃなくて、得意なのよ。多分、体力よりは集中力の方があるんでしょうね。>
…それにしてもこいつら、初めてのデートで何を語らいあっているんだ? 他に話題無いのか?
<確かに、得意不得意と、好き嫌いは、また別だからな。でも皆、随分上達していると思うぞ。>
<そう?>
<ああ。アリーザの落ち着きとお前の集中力、それからモニクの基礎体力と宏子の図太さが揃えば、クザラルの目で見ても有数の能力の魔法少女が出来るんじゃないか?>
……おい。…一人、扱いが違うぞ…。
あはは、と笑うプオの念に混じってリジュワナの念が響く。
<それは流石に、それぞれにとって無理な注文じゃない?>
<まあ、それはそうか。>
<…それに今の言い方、ちょっと宏子に悪いわよ?>
…ああ、そう、そうそうリジュワナ。あんた良い事言った。「ちょっと」じゃないけどな。
<そうか? じゃあ、言い直そう。そうだな…宏子の意地汚さ?>
<…>
…オ、オマエ…こ、こ、こんのフクロウヤロウ…。
<…あ?>
<ん?>
<…いえ、今何か、強力な怒りのイメージのような物が感じられたんだけど…>
<そうか…?>
<…気のせいかしら。>
<何も感じなかったぞ?>
<…そう。気のせいね。>
目の前のモニクが、「しーっ」と自分の口に指をあてる。私は軽く手を合わせた。テレパシーが分かるというのも、自分内での思考と他人への呼びかけとの境界線が曖昧になりがちで不便なものである。
<でも…皆、よく頑張っているよ。…まあ多少サボリがちな奴等もいるけど。>
<ふふ…>
<急にこんな戦闘に巻き込まれて、皆には本当にすまないと思っているんだ。>
<あなたが謝る事じゃないわ。襲いに来てるのはモンスターよ。逆に、あなた達が来なかったら…今ごろ私達、四人とも全員死んでた。>
<そうかもしれないが…だからと言って、急に16、17の子供…それも全く普通の生活を送っていた子供達を急に兵士にさせるのが、倫理的に正しい事とは、俺は思わない。>
…プオ…。
<兵士だなんて…随分はっきりとした言い方するのね。>
<ああ…そうだな。確かに悪い言い方だった。特に本人を前にして、仮にも教育係が言う言葉じゃない。…駄目だな、お前が相手だと、どうも気を許しすぎるみたいだ。>
<目の前にいるのが私じゃなくて…宏子とかだったら、そんな言い方はしなかった?>
<しないだろうなあ。…というかそもそもこんな話題にならないだろうしなあ。>
…。
<…そうかもしれないわね。>
…それって、どういう事なんだろう…。
プオは、私には話せないような事でも、リジュワナには話せるって事なんだ。…それだけ、信頼を置いているって事なの? 私は信用されてないんだ?
…いや、そもそもそんな会話をする事はない、か…。そう、だよね…。いつもふざけてばっかで、真面目に物を考える事なんてないもんな、私…。
…って、それじゃ、信用もへったくれもない、か…。
<仕方がないじゃない。私達の年頃の女性が一番魔力が強いものなんでしょう? だからこそ、地球で初めて魔力が発生したのが私達だったんだし。>
<確かにそうだが…いくら母星も襲われてるからって、もうちょっと地球にクザラルの魔術師を送って、こっちに手を貸してやっても良いと思わないか? …って、これもお前に言うべき言葉じゃないんだけどな。>
<クザラル人は、地球では強い魔力を発揮できないんでしょう?>
<程度問題だし、いないよりはましだろ。実際ジュチャだって…まあ、確かに彼女は元々NK200以上で、魔力が段違いで強いんだが、彼女だってそれなりにこっちで魔力が出せてるんだ。>
<まあ、それはそうね。>
<…ああ、何だかジュチャの愚痴が俺にまでうつってきているな。>
<そうね。…まあ、そういった事はジュチャに頑張ってもらいましょうよ。>
<そうだな。…俺が言いたかったのは、こんな状況でも、皆よく頑張っているな、って事だよ。>
しばしの沈黙のあと、リジュワナの落ち着いた念が頭の中に響く。

<私は…いつも神様が、自分を守ってくださっているって信じているから。>
<そうか。>
<ええ。…守るというより、見守るという方が近いかしら。だから…いつ死んでも、悔いが残らないように。神様に、「私を創ってくれてありがとう」って感謝出来るように、いつも行動したいって思ってるの。>
<…>
<…変?>
<何がだ?>
<いえ…文化で、考え方って違うでしょ。見てると、日本の人なんかは、意外に宗教心が薄いみたいだし…でも、彼等は彼等で普通に生活出来ているから、何だか不思議だけど。でも逆に彼等から見たら、私も不思議に見えるのかもな、とも思うわ。>
<少なくとも神様に感謝するっていうのは、変じゃないと思うぞ、俺は。>
<そう…ありがと。>
ふと私は、自分の持っていたジュースの氷が既に全部とけて、大分ぬるくなってしまっている事に気付いた。
<…ああ、でも、クザラル人の宗教観だと「神様」っていうのはいないんでしょう? ジュチャに聞いたわよ?>
<いや、それはクザラル人じゃない。…ゴニ教だ。>
<ゴニ?>
<ああ。クザラルの中でも、エウグとか、カクリカとかゴン・パネユとか、大体茶色い肌の連中…って言ったら差別的か、まあ、そうだな…ギシニ文字を使う文化圏で、主に信仰されている思想だな。>
<つまり、ジュチャの出身地の宗教?>
<ああ。…俺も難しい事は知らないが、簡単に言うと彼等が信仰するのは、世の中を統御する「システム」としての神だ。これには意思や実態はないが、自分や他者、皆の意思が関連しあう時、そこに関係性としての「システム」が立ち現れて、皆の運命を決定する。これを彼等は「神」として信仰している。>
<…それは…神様と呼べるの?>
<彼等にとっては神様だ。実態が無い、と言ったが、「関係性」と呼ばれるこの「神」が光の形を伴って我々の前に現れた事は、今までに何度かある。…少なくとも、彼等の聖典である「五和経典」という書物の記述を信じるならな。しかしまあ、いずれにしろ他の宗教とは大分感覚が違う訳で、だから、「限りなく無宗教に近い宗教」みたいな言い方は他の人間からはよくされているな。>
<…興味深いわ。>
<ただ、実際、彼等ゴニ教徒がクザラルの政治や文化をリードしてきたのは事実だ。お前達のやっている魔法も、ゴニ教徒がその流儀は確立したようなものだしな。>
<そうなの。>
<まあ、あくまで魔法は科学の一種とされてはいるが…俺はゴニ教徒じゃないからな、子供の頃とかは、魔術師っていうのは嫌いだったよ。>
<…まるで、ゴニ教の宣教師みたいで?>
<それどころじゃない。「悪魔の手先」位に思っていたよ。…子供の時の俺が今の俺を見たら、多分俺への怒りで卒倒するだろうな。>
<ふふ…>
目の前のモニクは、いつしか真剣な表情でニ人の会話に聞き入っていた。彼女は結構、こういった難しい話題も分かるらしい。
…物陰で立て膝でじっとしている体勢は間抜けではあるが。
それにしても、仮にも「デート」で、一体どういう話題をこいつらは話しているんだろう。というか、何でこんな話題で盛り上がれるんだろう。
言ってる内容はよく分からない。ただ、ニ人とも、会話を楽しんでるんだな、っていう雰囲気だけが私には理解できた。
<じゃあ、あなたは? あなたの地方の宗教は、どういった物なの? どんな「神様」?>
<ニグーワーは…基本的にペッギン教の国だな。>
<ペッギン教?>
<ああ。…ペッギン教の神様は分かりやすい。全宇宙を作った唯一の存在で、後にも先にもこの神様を超える存在は無い、とされる。だから極端な言い方をすれば、ペッギン教では神様さえ信じていれば良い。そうすれば、死後の世界で天国にいける。>
<ふうん…確かに分かりやすいわね。>
<だろ? ま、一応俺もペッギン教徒って事にはなるな。>
<そう…じゃあ、多分、あなたの神様と私達イスラム教徒の神様は、同じね…。もちろん、捉え方に色々違いはあるんでしょうけど。>
<そうだな…地球の宗教も多少調べたが、確かにイスラム教とペッギン教は良く似ていると思うぞ。神の唯一性を重視する点とかは、本当に同じだな。>
<…それじゃあ、私達の唯一絶対の神の御慈悲が、あなたにもありますように、とお祈りしておくわ。>
<俺からもな。>

…神様が…同じ、ね…。

ふいに、ニ人のどちらかが立ち上がるらしい音が聞こえた。
<…喉が渇いたわね。何か、飲む?>
<…あ、んー…>
<…あ、ごめんなさい。そうだったわね、クザラル人は人前で飲み食いをしないんだったわね。>
<まあ…そうだな。…でも、郷に入れば郷に従えとも言うし、じゃあ、俺はミネラルウォーターを…>
<無理しなくて良いわ。>
リジュワナは、再びベンチに座り直したようだ。
<いや、お前も別に無理しないで良いぞ。暑いんだから、何か買ってこいよ。ここは地球なんだし、そもそも生物学的には、食べたり飲んだりするのを抑える方が不自然なんだし…>
<大丈夫よ。私も飲食欲を抑えるのは慣れてるわ。>
<ん、そうなのか?>
<ええ。地球人でも、宗教によっては、日中は何も食べない「断食月」なんていうのを持つような酔狂な人達もいるのよ。>
<ああ、そういえばそうだったな…>
<人前で物を食べないというのは…クザラルではどこもそうなの?>
<うーん…今はおおむねどこもそうなっているが、元はゴニ教文化圏の考え方のような気がするな。不浄な物…暴力とか生々しい欲望とか、そういった物を彼等は嫌悪するんだ。飲み食いはそういった欲望の発露の象徴とされているんだな。>
<そう…ストイックな文化なのね。>
<だから最初地球の文化に関する情報を知らされた時は驚いた。…というか、「野蛮」というイメージが付くのも仕方が無いとは思ったな。>
<そう。確かにクザラルの人から見れば、地球人は野蛮かもしれないわ。>
<…ああ、いや、実際にどうかって事じゃない。これは単に「違う」って事だろ。だからどっちが上って事じゃないさ。>
<でも、クザラルの基準で見て人前で飲み食いをするのは「野蛮」なんでしょ?>
<まあな。でも地球人にとってはそうじゃない。…ちょっと違う話かもしれないが、仮にジュチャや宏子の信じている神が俺達のそれと違ったとしても、だから彼女達と友達になれない、って事じゃないだろ?>
<ええ…それはそうね。>
<ただ、友人になるには、その人の場所の文化を多少なりとも実践して理解する事が必要だと思うんだ。だから…俺は、地球に来るっていう話が来た時、出来る限りそれを心がける事にした。仮にそれが良識的なクザラル人にとって「野蛮」なものであってもな。…暑いだろ? ミネラルウォーターで良いか?>
衣服のこすれる音がする。多分プオが立ち上がったんだろう。
<え? ああ…サイダー。>
<了解。>
プオが向こうにあった自販機で、おっかなびっくりジュースを買っているのが見える。
…まあ、あっちの方にあるドリンクコーナーでおばちゃんに注文するよりは、あいつ的に無難な買い方だろう。
しばらくして、奴がこっちに戻ってきた。両手に私達のと同じ、紙コップのジュースを持っている。
<…ありがとう。>
<どういたしまして。…さ、飲むぞ!>
<…そんなに気合を入れなくても。…でも、助かったわ。正直、やっぱり喉は渇いてたから。>
<正直、俺もだ。>
<ふふ…>
再びリジュワナとプオが笑っているイメージが伝わってくる。こんなにニ人が何度も笑っている光景なんて、今まで見た事ない。…今も直接見えてはいないけど。
…何か、ムカつく。ムカつくんだけど、ムカつく理由は何なんだろう?
<でも、リジュワナも、あれだな。今は外国にいるんだから、無理にとは言わないが、せっかくのこういう機会を使って、その国の文化を知るのも悪くないもんだぞ?>
<そう…じゃあ、もう一回乗る?>
<いや…それは、ちょっと、うーん…>
<冗談よ。そうね…日本の文化が、どう、とか、難しい事は分からないけど、少なくとも宏子とか美耶が最近私に何を期待しているかは想像がつくわ。>
<ん? どういう事だ?>
<…>
<どうした?>
<…プオラギイック。今日は、私達何でここに来たんだと思う?>
<ん? 「地球の文化を知って欲しい」って事で、モニクと宏子が勧めたからだろ?>
<そういう事になってるけど。本当は違うのよ。もし本当にそうなら、彼女達も来ても良いはずでしょ。何で私達ニ人しかいないんだと思う?>
<あいつらは何か、別の用事があるって言ってたぞ?>
<違うのよ。…はっきり言っちゃうとね、彼女達はどうも、私があなたに気があるって誤解しているみたいなの。>
<…は? 何だって?>
<私があなたに恋をしているんだ、って彼女達は思っているみたいなのよ、何をどう間違えたのか。>
<そ、そうなのか…。それは本当に、何をどう間違えたのか、だな…。>
<ええ。それこそ私と彼女達は、文化が違うんだな、ってつくづく思ったわ。…ああ、別にプオラギイック、あなたが良いとか悪いっていう事じゃないのよ。ただ、状況も状況だし、そもそも私も全然そういった事を考えるような年齢じゃまだないと思うし。だから、恋愛とかは今まで考えた事もないっていうのが正直な所なんだけど。>
<そうか…>
<だから今日は、私とあなたは「デート」をしているのよ、彼女達によるとね。>
<そう、なのか…何と言うか、俺の知っている「デート」とは、随分毛色の違う一日だったけどな、今日は…>
<…そう? …正直、私はデートって、今までした事が無いから、よく分からなくて…>
<…>
<…ああ、もちろん、今日も別にデートじゃないわよ。もちろん。…下らない事に付き合せて、悪かったと思っているわ。>
<いや、リジュワナ。これはこれで、なかなか楽しい「デート」だったぞ。>
<そ、そう?>
<ああ。お前があんなにジェットコースター好きとは知らなかったし、こうやって人前でサイダーも飲んだし、それに…こうやってお前とゆっくり喋る機会も、あんまりなかったからな。>
<…そうね。…じゃあ今日はお互い、良い「デート」だったわね。>
<そうだな。楽しい一日だった。>
<…>
<…>
<ん…>
<…何だ?>
<…プオラギイック、向こうでは恋人って…どういった事をするものなの?>
<え? …性行為…の話か?>
<そこまで言ってないわよ。そうじゃなくて…普段の…軽い、愛情表現みたいなものは何か無いのかって聞きたかったんだけど。>
<ああ…詩を書いたりとか?>
<…今すぐ出来る簡単な身振りとかだとありがたいんだけど。>
<そうか。それなら…ああ、一番普通なのはあれだな、耳合わせだ。>
<耳合わせ…? 耳を合わせるの?>
<ああ、頭を下げてお互いの両耳を付けるんだ。地球人には無理だろうな、位置的に。>
<そうね。>
<確か地球人の風習だと、口をつけるんだろ?>
<あら、知ってるのね。>
<それくらいはな。…最初聞いた時は、人工呼吸が愛情表現なのか、って驚いたけどな…>
<…呼吸はしないわ、ただ口をつけるだけよ。>
<そうらしいけどな。>
<…>
<…>
<…してみましょうか?>
<は?>
…え?
<キス。した事ないでしょ?>
<え? ああ、それは、確かに無いが…>
<これも地球の文化なんだから、勉強しないと。これから地球人の彼女が出来たりした時、キスのひとつも出来なかったら恥ずかしいわよ?>
<いや、でも…>
ちょ、え、えっ? マ、マジ? あのリジュワナが?
私は彼等の座っている方を向くが、プランターが邪魔で何も見えない。向こうから見えない場所を選んで隠れているんだから、当たり前なんだけど。
…いや、別にしても私は全然困らないってうか、むしろしたらしたで万々歳、今日のデートは大成功、って事なんだけど…多少キスの意味が変だとはいえ…。
でも…え…本当にするの?
<俺は平気だけど、地球人のお前にとっては恋人でもない奴にするような事じゃないだろ?>
<大丈夫よ。今日は一応、恋人同士の「デート」という事なんだから。してもおかしくないわ。>
<いや、そういう問題じゃないと思うが…>
<今日はあなただって、恥ずかしいのをおして人前で飲み物を飲んだじゃない。それなら私も、少しは我慢しないと。>
<そんな、別に無理してやる事なんか…>
ガサガサ。
<するわよ。座っていても出来なくはないけど、お互い立ってやりましょう。さあ。>
<え、ああ…>
わ、わ、わ。
<お互いの体を近づけて。そう。男性の方が女性の背中に腕を回すと、もっとそれらしくなるわ。>
<…こ、こんな感じか?>
<ええ。どう?>
<どうって……暑い、な。>
<…そうね。暑いわ。…それじゃあ、行くわよ。こういった事は男性がリードするものだから、あなたから近づくの。>
わ、わ、わ、わ、わ、わ、わ、わ!
<あ、ああ…>
<良い? …じゃあ私は目をつむっているから…そうね、いつもみたいに1、2、3で口をつけましょうか。…大丈夫?>
<…え、あ…ああ、分かった、そうか。>
<それじゃ、始めるわよ。1、2…>

「わ、わ、わ、わ、わあああああああああああああっ!」
<…>
<…>
<あ…>
<…うわっ、ひ、宏子っ? どうしてお前がここにいるんだよ!>
プランター越し、知らない内に立ち上がっていた私の目の前で、リジュワナからぱっと離れた(と思われる)プオが慌てふためいていた。
…何か、顔が赤くなっているように見えるんだけど…。
<…宏子。>
<え? …あ、あはははは、き、奇遇ぅ、リジュワナ。>
<奇遇ね。……本当に。…もう分かっているから、あなたも早く出てきなさい、モニク。…それに美耶も。>
<あ…ははは、はは……奇遇…>
腕組みをして眉をひそめているリジュワナの前で、モニクが恐る恐る立ち上がった。
<リ、リジュワナちゃん、違うんだよ、私は止めようとしたんだよ! 私は無罪だよ!>
向こうの建物からやってきた美耶は首を振りながら、また仲間を売るような事を口走っている。
<…供述は後で聞かせてもらう事にするわ。ゆっくりとね。>
がーん。
<きょ、供述っ!?>
<…全く、どこまでやらせるのよ。危うく本当にキスする所だったじゃない。>
<えっ…>
<えっ…>
肩を上げて念じるリジュワナ。私とプオの念がそろった。
<ずっと…知ってたの?>
<何を?>
<あ、いや…何でも無いッス。>
<え? 本当は、キスするつもりじゃなかったのか?>
<…>
リジュワナはプオの念に、少し困ったような笑顔を浮かべ、頭を下げた。
<ごめんなさい。…でも、あなたにキスをするのに、もっとふさわしい人がいるのを私、知ってたから。>
<ん…? どういう意味だ?>
<…>

リジュワナはいつものようにすたすたと歩き出し、ちょっとして私達のほうを振り返った。
その表情は無表情といえば無表情なんだけど、どこか楽しげにも見えた。
<皆、そろそろ帰らない? もう今日は充分楽しんだでしょ、皆それぞれ?>
<え…? あ、う、うん…>
狐につままれたような私達を残し、リジュワナはまた歩き出していた。


<ああ? つまり、お前たち全員俺達を覗き見していたのかっ!??>
<…あんたも気付くのが記録的に遅いね。>
結局あの後、モニクの提案で私達は遊園地近くのガストに寄り、お腹を膨らませてから電車で春日部に帰る事となった。
ちなみにその後カラオケボックスで歌い続けて夜を明かすという、モニクの第二案は、「日本の歌なんか知らない」という2名と「夜は眠くなるよ」という1名の反対にあい、多数決の結果あえなく廃案となった。
…それにしても、吊り革につかまっている私達を改めて見て、日本の電車には合わない組み合わせだとつくづく感じた。もう皆、それぞれの理由で疲れ果てているらしく、系の魔法は使わなかったようで、その結果、周囲の視線がグサグサと気になった。
そして春日部駅を降りた私達は今、ぶらぶらと駅前の大きな歩道橋を歩いていた。
<あ、いや、覗きじゃなくて、保護観察なんだよ。だから、普段プオちゃんがやってる仕事と同じ事なの。>
モニクが苦笑する。
<…俺、自分の仕事を遠回しに馬鹿にされてないか?>
<…いやさ、心配だったのよ。ちゃんとリジュワナが告白出来るか、ってさ。>
<はあ…>
リジュワナが仰々しくため息をついてみせる。私は彼女の態度にちょっと腹が立って、彼女の方を見て念じた。
<いや…覗き見は、ごめん。ニ人とも、それは謝る。でもさ、皆、リジュワナの恋を応援したいなっていうのは本気なの。それは信じてよ。>
<…だから、私はため息をついてみせたの。>
リジュワナは肩を上げた。
<本気で誤解されてるから困るんじゃない。いたずらでやられている方が、まだましだわ。>
<そうだぞ宏子。大体今の俺達は色恋沙汰に身をやつすような余裕は無いだろ。いや、無理に恋愛を禁止するとは言わないが、少なくとも俺は、今、女性に割くような精神的時間的余裕は持ってない。>
<あんたモーニング娘。の出てるポッキーのCM見て、しばらく絶賛してたじゃん。可愛い可愛い言って。>
<う…そ、それはそれ、これはこれ!>
美耶が首をかしげる。
<じゃあ…リジュワナちゃんはプオさんの事が本当に好きじゃないの? この前学校で、好きって言ってた…よね?>
<そ、そうなのか?>
プオがあからさまに硬直して、平然としているリジュワナの方を向く。
<…今は女に興味無いんじゃなかったの?>
<好きよ。>
リジュワナはいけしゃあしゃあと念じる。
<でもそれは、信頼できる同僚としてであって、恋人なんて想像もした事ないわ。>
<ええっ。…だってこの前の時ははっきり恋人として好き、って言ってなかった?>
<そうだったかしら?>
<いや、言った。>
私は美耶に助け舟を出す。
<リジュワナ…こう、何か無理矢理な形になって悪いけどさ。あんたのその素直じゃないとこは直した方が良いと思うよ。プオが好きなんだったら、ちゃんと好きって認めなよ。そんな事で意地張って否定したって、後で自分が辛くなるだけだよ?>
<…ひーこ…>
<…うんうん。>
呟く美耶の横でモニクが頷いている。
<はあ…>
リジュワナはまた、どこかおかしそうな表情で、ため息をついてみせた。
<…だからさ、>

チャリーン。
<…あ、小銭落としたみたい。宏子、あなたの方に飛んでいったみたいなんだけど、どこか分からない?>
<ん、え?>
私が文句を念じかけたところで、リジュワナがお金を落としたらしい。私は足元の歩道橋のタイルを見回す。
<…無いよ?>
<おかしいわね…プオラギイック、もしかしたら、あなたの方に行ったのかも?>
<ん? いくら落としたんだ?>
どこにもそれらしき物は見つからない。私は足元を探した。
<そんなの分からないわよ。…ああ、これかしら?>
<ん、どこだ?>
<ほら、そこよ、そこ。>
<ん?>
ごつっ!
「タッ!」
「Shhha!」
下を向いていた私を、頭を砕くような衝撃が襲う。私は目の前の男に念を上げた。
<ちょ、気をつけなさいよ! いっ、たあ…何か恨みでもあんの?>
プオも私と同じように頭をさすりながら、こちらに念じ返す。
<恨みはある。色々。>
<そ、そう。…でも急に襲うのは卑怯でしょ。>
<…だが、今のは俺じゃない。下を向いていた俺をリジュワナが急に押した。>
<はあ?>
見ると、リジュワナは一人スタスタと歩き出している。
<ちょ、待ちなさい、リジュワナ、どういうつもりよ!>
リジュワナが振り返る。
<耳合わせよ。>
<はあ?>
<聞いてたんでしょ。クザラル星で、恋人達のする愛情表現。>
<は…は?>
私はプオを見る。プオは首を何度も上に上げた。
<…いや、これは頭突きだ。>
<…って、何で私とプオで耳合わせなのよ。あんた達でやれば良い事じゃない!>
<宏子。さっき宏子が言った事、全部宏子にそのまま返すわ。>
<え?>
<早く告白しなさいよ。プオラギイックの事が好きなのはあなたじゃない。>
<は、な、何言ってんのっ!>
こ、こいつ気がおかしくなったか? …あれか、ジェットコースターの乗りすぎか!
<え、そうだったのか!?>
<な訳ないでしょ! ちょっと、リジュワナ、私がいつこんなのが好きだって言ったっ!? 気持ち悪いって言った覚えはあるけど、これが好きだなんて私一回も言ってないでしょ!>
<それは言わないでしょうね、あなた、素直じゃないから。>
リジュワナはやれやれ、という様子で肩を上げる。
<ち、が、う、でしょお!>
<でもその代わり、態度に出てるから分かるのよ。いや、今まで確信は無かったけど、今日ではっきり分かったわ。>
<何であんた達のデートで私が分かるのよ。>
<私がプオラギイックとキスしよう、っていう瞬間になってあなた、我慢出来なくなって飛び出してきたじゃない。違う?>
<ぐ…>
え、あ…え?
…いや、違う、だって、それは単にビックリしたからじゃん! 好きとか嫌いとかの問題じゃないじゃん! だって、大体、何で私がこんな珍妙な宇宙人好きになんなきゃいけないのよ! 珍妙かつガキ臭い宇宙人を! 大体こんな性格の幼…
<え…? 言い返せないって事は、…え、ひーこちゃん、ひーこちゃん本当にプオちゃんの事が好きだったの!?>
<ちょ、ちょっとモニク誤解しないで、美耶、何で頭を抱えて無言で首振ってんのよっ! …こら、リジュワナっ!>
<…じゃあ、後は自分に素直に頑張って。先に帰るわ。>
奴は歩道橋の階段を降りていく。
<こらあああああっ!>

ふいに、横にいるプオと目が合った。
<…>
<…>
<…本当…か?>
<だから違うって言ってんでしょ! っていうか何でちょっと嫌そうな表情なのよっ!>

<でもひーこ、何か、顔真っ赤だよ…?>
<興奮して血が回ってるからよっ!>
私は美耶に念じ返す。
<ひーこちゃん、ごめんね…そんなひーこちゃんの想いにも気付かずに、勝手にはしゃいじゃったりなんかして…>
しゅんとする(バカ)フランス人。
<ぬ、ぬ、濡れ衣よおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!>

続く



Written by FML (AKA Franken).
Ver. 1.00 on 2002/6/19.

<アリーザあ、ひどいんだよ、皆して私の事いじめるの。>
<それは第5話でしょう。>
<いや…そうだったけど、今度はそれよりある意味悪質なの。>
<じゃあ、私が佐藤さんを助けます。>
<ホント!?>
<いじめられた事を忘れられれば良いんですよね? それじゃあ、そこの壁に頭をぶつけてみてください。>
<…あのさ。>
<冗談ですよ。次回、魔法少女佐藤第7話、「魔法少女の本当の想い」。お楽しみに。……でも、佐藤さん。本当は……あの、実を言うと…>
<何、改まって?>
<…私が活躍するのって………次回が最初で最後、という噂が…>
<……アリーザ………それは、ぶっちゃけすぎだよ…>



←Prev ↑Home ↑Original Novel →Next