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暗い屋内。大音響のテクノサウンドで、壁やグラスが目に見えて揺れるようだ。 大きな部屋の向こう側にいるDJが、ニヤリと笑ってみせながら無言で何かの機械のツマミをひねる。そうすると音楽は一瞬だけボリュームを下げ、すぐ後に何か新しい曲と混ざりながら更に大音量で鳴りだした。何人かの客が口笛らしきものを吹く。 <…アリーザ、いつもこんなの飲みにここに来てるの? 一人で?> <お酒も嫌いじゃないですし。でも一番大きいのはやっぱり、好きな音楽が大音響で聴けるという事ですけど。> <…ううん、私一回、諦めたんだよ。> |
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| キーコ、キーコ…。 夜の公園。宏子はブランコに乗っている。もう初夏かと思うような生暖かい空気が、宏子の周囲を満たしている。 キーコ、キー…。 宏子が動きを止める。彼女の視線の先に人影が現れたからだ。 宏子は下唇を軽くかみ、1回息をつくと、顔を上げてその人影に微笑んだ。 <よっ。> <…で、何だ用事って?> 挨拶を省略し、青い肌の男があくび交じりに近づいてくる。 <わざわざ公園に呼び出したりなんかして。それもこんな夜中に。お前の部屋じゃ困るような用事なのか?> 宏子はプオラギイックの念の様子に眉を上げた。 <ちょっと、来てそうそうそんな言い方しなくても良いじゃん。夜中なのは学校やら練習やらがあるんだからしょうがないでしょ。それに、夜中だからこそ私の部屋なんかに来ないでよ、一応あれでも女の子の部屋なんだから。> <「女の子の部屋」っていうのは、部屋の持ち主が女の子である場合に有効な呼び方だったんだぞ、知ってたか?> <「可愛くて可憐な女の子の部屋」って、付け足してあげてもいいよ、詳しい説明がほしければ。> <で、用事は? 大体、公園じゃ、テレビカメラとかも気にした方がいいし…> プオラギイックが周囲を見回す。 <それは大丈夫。今、強めに系の魔法かけてるから。気付かなかった?> <…そうか。でも、何で?> <プオと…ゆっくり話がしたくてさ。> <話?> 向き直るプオラギイックに、宏子がうつむき加減に頷く。 <うん…ほら、私らまだお互いを知るような機会とか、ないじゃん? 会う時間はいつも練習になっちゃうしさ?> <この前のリジュワナみたいな事言ってるな、お前。> <あ、うん…別にああまで大袈裟なんじゃないけどね。ちょっとその、忙しくなかったらさ、軽く世間話でも…> <俺、毎日忙しいぞ。> <だからあんたも文脈くみなさいよ。その部分は社交辞令っつってね、現実に忙しいか忙しくないかって問題じゃなくて、そんな事言ったら大体私だって> <それで、話題は? …いや、俺から話題がある。お前昨日はどこ行った。> 宏子の隣のブランコに腰掛けたプオラギイックが宏子を見た。 <え、ああ…うん。携帯で連絡したじゃん。ウチ船橋に親戚いてさ、昨日偶然会って、意気投合しちゃって。で久しぶりに家来ないかーって話なって泊まりにいったんだわ、うん。> <それでそのまま今日は学校をサボったんだろ? 美耶が心配してたぞ。ひーこに男が出来た、って。> <はあ…仮にそうだとして、美耶に心配される筋合いも無いような気がするけどね…> ため息をつく宏子。 <…薄情な奴だな。> <プオは? 私がもし男の所に行ってたんだとしたら、どう思う?> <…> プオラギイックは、不思議そうな表情で宏子を見つめる。 <…世の中にはつくづく物好きな男が…イタッ、こら、脛を狙うな、脛を!> <ふう…よく分かった。あんたって奴が。> 拳をにぎりしめつつ宏子が念じた。 脛をさすりつつ、プオラギイックは苦笑した。 <まあ、何でも良いけど翌日にひびくような無理はするなよ。魔法少女は、お前だけの体じゃないんだからな。> <ねえ…何でも良いの?> <ん?> <だから…プオ的には、別に私が何してても、何でも良いんだ?> <別に何しても良いなんて、言ってないぞ。でも、私生活でお前が何をするかなんてお前が決める事だろ? 大体クザラル人の俺に地球人の生活様式なんか分からないし。> <それは、そうだけどさ…> <どうした? ここんとこつくづく変だよな、お前…。> プオラギイックはブランコから腰を上げ、宏子の目の前に立ってその顔色をうかがう。 <…元からだもん、変なのは。> 目をそらす宏子。 <…そうだな。俺もその点は完全に同意だ。> <…> <…> 宏子はブランコを揺らす。 <…ねえ、前も聞いたけどさ、プオって何で、この仕事するようになったの?> <うーん…何と言うか、子供の頃から魔術師しか眼中になかった。> <こないだリジュワナとのデートで言ってたのと正反対じゃん。嫌いだったんじゃないの、魔術師?> <ああ。でも、それは4クザラル歳とか5クザラル歳の頃の話だ。7クザラル歳とか8クザラル歳位になると…もう魔術師しか考えてなかった。> <何で?> プオラギイックは体を起こし、顔を上げる。 <…> <…言いたくない?> <うーん…余り言いたくないかもしれないな。> プオラギイックは頭をかいた。 <ありきたりというか…余り誉められた理由じゃないんだ、俺は。単純に言えば、復讐だよ。…少なくとも元々はそうだった。今は、惰性の方が大きいかもしれないけどな。> <復讐?> <前も言っただろ。家族がやられた。モンスターが集団で、街を襲ったんだ。街の人は殆ど亡くなった。俺はたまたまその時叔父の家にいて、難を逃れた。> <それで…叔父さんとあんた以外、家族が全員、いなくなっちゃったんだ…> <ああ。> プオラギイックは軽く頷く。 <家族っていうより、親族全員だな。田舎で、住んでる奴等の大抵に血縁関係があるような場所だったんだ。…まあ、俺にしてみればその生き残った叔父が良い人だったのは本当に救いだったな、今思えば。ただいずれにしても、それで、俺はモンスターに…ニグーワー語で言う「黒い流れ星」に、もうこの星には来るな、と思った。> <…> <誉められた考え方じゃないんだけどな。ジュチャが聞いたら、自分と相手の「関係性」の尊重が結果を生むという事を理解していない、とかお説教くらいそうだ。> <…大変だったんだよね、プオ…私なんかよりずっと…> <残念な事はな、向こうじゃそんな奴ゴロゴロしてるから、それ位じゃ不幸自慢にはまるでならないんだよ。だから、> <多いか少ないかの問題じゃないよ。プオにとってはとんでもない事だったのは変わらない。…そうなんだよね、私、自分の事で精一杯で、プオのそういう理由、薄々気付いてはいても、ちゃんと考えた事なんて無かった…> <良いんだ、考えなくて。そんなのはお前の仕事じゃない。> <仕事じゃないかもしれないけど、でも、…同僚として、> <良いんだ。…お前が自分の事で精一杯なのは当たり前だ。> <プオ…私ってさ…弱いよね。> <…> プオラギイックは耳を動かした。 <プオに比べるとさ。私だったら、絶対そんな状況から立ち上がるなんて出来なかったと思う…姉貴一人でも、自殺しかけたもん…プオが来なかったら死んでたよ…。> <だからな、宏子、お前の場合は状況が違うだろ。全部が急過ぎたんだよ。魔力にモンスターに、おまけにクザラル人まで一緒に来て混乱している時だったじゃないか。> <で、でも…> <でもじゃない。そういう事だ。> プオラギイックは宏子の肩に手を置いた。 <監督役として俺が保証する。お前は、魔法少女として立派過ぎるくらい立派にやっている。…ま、多少作戦行動の荒さとか? すぐに手を出す癖とか? 感情のブレの激しさとか? 改善してほしい点は多少無いとは言わないが…> <…> <でもな。短期間でこれだけ魔法を使いこなせるようになるっていうのは、はっきり言って全く予想外だった。お前は本当に、天性の魔法少女なんだと思うよ。> <…> <…宏子?> <…ねえ。あの…ありがとう。> <…どう致しまして。> 首を半ば傾げつつ、プオラギイックが頷く。 <…でも…嬉しいよ。嬉しいんだけど…その…私ってさ、魔法少女なんだよね。> <残念ながらな。> <プオにとって、ね。> <ん? 俺にとって?> <うん。私とプオがこうして喋って…テレパシーを使って?いるのも、私が魔力があるから、でしょ? 全部、魔法少女としての私の評価なんだよね?> <それはまあ、そうだな。…でも、良き魔術師であるという事はそれだけ人格が強いという事で…> <そうかもしれないけど…その…魔法少女うんぬんは抜きで、さ。私…自身、は、プオから見てどう映ってるのかなー、なんて思う事も、ねえ、まあ、多少は、あるかな、っていうか…> <…お前自身?> <う、うん…> <変な奴。> <…> 自信満々に断言するプオラギイックに、宏子は軽くため息をつく。 <…俺並にな。> <…> <何でそんな事が気になるんだ?> <…何となくだよ。だからさ、変な奴なのは重々分かってるけど、そうじゃなくて、女の子としてのあんたの評価を聞いてるの。> <俺の評価って誰の?> <私の!> <何で?> <良いでしょ! そういうのを世間話っていうのよ、日本では!> <…> <…> <…まあ、悪くはないんじゃないか?> <…そう?> 宏子は顔を上げる。 <ああ。最悪ではないだろう。最悪過ぎて評価に値しないという程ではない。> <そ、そう…> <まあ…クザラル人にとって女の良さは気の強さだからな。というより、お前は変だからな。俺は個人的に、変な奴は嫌いじゃない。> <そ、そ、そうなんだ…喜ぶべきなんだか殴るべきなんだか…> 宏子は口を強張らせつつも、同時に顔が体温で熱くなるのも感じた。 <でも、別にお前は俺の事、好きとかじゃないんだろ? この前そう言ってたじゃないか。> <え? う、うん…それは…そうだね…。あの…うん、そうなんだけど、あくまで例えで聞いてよ、例えの話だからね。その…私はさ、別にあんたの事は何とも思ってないよ? ただ、その…客観的に言うとね? その…> 宏子は目の前に立つプオラギイックの胸に手を置き、うつむきながら、ちらちらと彼の顔を見る。 <その…最悪過ぎて、評価に値しないほどではない、っていうかその…> <…> <…> <…それはどうも。> プオラギイックはどこか意外そうにそう答えた。心なしか、顔が赤いようにも見える。 宏子は勢いよく立ち上がった。 <あ、いや、その、だからあくまで例えであってね、ああっ、その、何か誤解を招く言い方しちゃったかな? あはははは…> <…> 宏子が立ち上がったせいで、ニ人の体勢は、まるで抱きしめあう恋人同士のような状態になった。 <あ、その…> <…いや、別に、そういう意味じゃないよな、もちろん?> 宏子が目を上げる。数センチ、あるいは0.数オキの距離を隔てて、変な奴の緑色の瞳がある。 <…その…プオ? 私、…> <…> <…その…> <…宏…子?> 宏子は手を置いたまま、その目を見つめ続ける。宏子は息を吸った。 <…ビックリ、しないで、聞いてね? …プオ。…その、私、実は…> シュウウウウウウウウウウウウウウウン…。 |
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ブズズ、ブズズズズ…。 <悪いわね、遅れたわ!> ブシュウッ、ブシュウッ。 <…ふう。> シュウウウウウウン…。 尻餅をついたまま彼等を見回す宏子の表情は、恐怖に震えていた。 続く |
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