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シュウウウウウウウウウン…。
「Huh? Oh, everyone, go, go! Hurry up!」
体育館の入り口から青い光が漏れている。同時に体育着姿の生徒達がぞろぞろと何人も出てきていた。入り口にやってきたリジュワナは生徒達に大声を上げ、ジェスチャーで遠くへ行くよう伝える。
「あ、ユー・アー・リジュワナ? ファイト! ユー・ウィン!」
「Ah? Ah, hai, doumo. Wakatta.」
声をかけてきた男子生徒に頷くリジュワナ。リジュワナは人波をかきわけて体育館の中に入った。
シュウウウウウウウウン…。
光に包まれて浮いているモンスター。そこから4、5メートル離れた所に、同じように光に包まれて浮いているジュチャがいる。
<…>
シュン、ブシュウッ、ブシュウッ。
リジュワナは無言でイハッジャを構え、左手をそれにかざすと連続で何度も紫色の光の弾をモンスターめがけて発射した。
ブズ、ズブブ…。
舌らしき部分を震わせるモンスターは、それを意外なほど機敏によけて体育館内を浮上する。
<…え?>
ステッキを持っているジュチャが下を向き、軽く眉を上げた。
<…一言言ってよ。私に当たりかけたじゃない。>
<急にやった方が当たるかと思ったんだけど。>
リジュワナは浮くのは苦手なのか、走って体育館内の端から端へ移動する。
<宏子…はともかくモニクは?>
<宏子はここには来させられないし、宏子だけじゃ危ないからモニクにいてもらってるわ。…!>
シュウウン、ブシュブシュブシュウッ。
<っ…>
モンスターがふわりと移動し、リジュワナに弾の集中砲火を浴びせる。うずくまるリジュワナ。体を包む紫の光が光の弾をいくつも吸収する。
<大丈夫っ!?>
<…ええ。やられるのは慣れてるから。>
立ち上がるリジュワナ。
<それは良かったわ。じゃあリジュワナ、私がおとりになるからその隙に>
ブシュウッ。
<逃げて…>
<…>
ジュチャとリジュワナは、体育館入り口の方に顔を向ける。
ブシュウ、ブシュウッ。
髪の毛をなびかせて、アリーザがステッキの先から緑の光をモンスターに向け放っていた。
<…あなた達はそれが挨拶か何かなの?>
<こんにちは。>
普通の姿勢に戻り、歩いてくるアリーザ。
<…良いじゃない。それが上手くいったみたいだし。>
<…>
ジュチャはモンスターを再び見る。
ブズ、ブズズズズ、ブズ…。
アリーザの弾が一つ命中したようで、モンスターは明らかに弱った様子で体を傾けている。
<…>
リジュワナはすかさずモンスターの前に歩み出た。
<気律の力を、我の頭上に。フィア・ディシュ。>
シュウウウウウウン…。
リジュワナの持ったイハッジャから光が溢れ、やがてその先から出た弾がモンスターに向かってはじき出される。
シュウウウン、ブシュウッ。
光に飲まれるモンスター。
ブズ、ブズズズズズ、ブズズ、ブズ…。
モンスターから光のシャワーのような物が発せられる。テレパシーを発するジュチャ。
<宏子の時と同じよ! リジュワナ、気をつけて!>
ジュチャは同時に干渉弾をリジュワナに向けて撃つ。同じく干渉弾を撃つアリーザ。
<ヒア・エンティフ。>
そう念じながら両目を閉じるリジュワナ。リジュワナは光に包まれた。
「…」
目を開けると、リジュワナは体育館に一人で立っていた。リジュワナは周囲を見回すが、モンスターも、ジュチャもアリーザもいないようだ。
体育館はやけに静かだった。元々静かな時は奇妙なほど静かな場所だが、それにしても普通は、晴天の昼間なのだから校庭から多少の喧騒は聞こえて良さそうなものだ。
「…」
周囲を見回すリジュワナ。
−ここには何も無さそうね。…宏子、大丈夫かしら。校舎に戻らないと。
「っ…」
後ろを振り返ると、目の前にモンスターが浮いていた。
ズブ、ブズズズ…。
「…今日は大漁の日みたいね。」
ベンガル語で呟きながら、リジュワナはスカートのポケットに手を入れる。
「…え?」
しかし、手にイハッジャの感触がない。周囲を見回すリジュワナ。
…ミ…ナ…。
「…?」
何かが聞こえたような気がした。リジュワナは自分と対峙するモンスターを改めて見る。
「…あなた、普段と格好が違うじゃない。」
よく見ると、黒い巨大な昆虫のようなそれは、いつもの鎧というか装甲というかを身に付けていない。いや、身につけているのだが、いつもの物と微妙にその形状が異なっているのをリジュワナは見て取った。一言で言うと、いつもの物より形状にデコボコが少ないようだ。
…ミナ…イ…。
神経がささくれ立つような不思議な感覚と共に、また何かが聞こえる。
「もしか…して…。まさか…そうなの?」
リジュワナは眉をひそめ、目の前のそれを睨む。
「…イ…ミ…ナイ…」
「喋っているのは、あなたなの…?」
「…イミ…ナ…イ…コウ…ゲ、キ…ココ…チ…ガウ…ゲン…ジ、ツ…」
モンスターが唇を震わせると、それに従い声が聞こえた。それはテレパシーというよりは、ただの下手なベンガル語に聞こえる。
「あなた…喋れたの? そんな話は聞いてなかったんだけど。」
「…チ…キュウ…テ…」
リジュワナは、ふと周囲を見た。体育館が「ゆらいで」いるような気がしたからだ。モンスターが「これは現実ではない」と言ったので、この世界が全て虚構に思えてきたからなのかもしれない。
−実際、今私が見ているのは虚構なのだろう。という事はやはり、モンスターに言葉を解するような知性は無いという事か。でもそれなら、今私が見ているこれは誰が作った虚構だろう?
「…キュウ…テ…キ…」
「…そうね。あなた方にとって地球人は許しがたい敵のようね。どうせなら、その理由も聞かせてもらえると嬉しいわ。」
「テ…キ…チキュ…ウ…」
「…」
徐々に、モンスターの姿自体が「ゆらぎ」始めている。
「チ…キュ…ウテ…キ…ク…ザ…ラル…」
「…え?」
リジュワナは目を見開いた。
「どういう意味、もう一度繰り返してくれる?」
「ク…ザ…ラ…ル…テキ…チ…キュウ…テ…キ…」
「あなた方にとって地球とクザラルが敵って言いたいの、それは?」
全ての景色が揺らいでいく。
「…カンガ…エ…ロ……ジ…ブン…コ…コ…」
「ちょっと、今消えないで! ちゃんと説明して! 何が言いたいの、あなたは!」
声を上げるリジュワナ。モンスターと、周囲の景色がぐにゃぐにゃに混じっていく。
「…テキ…チキュ…ウ…ク…ザラル…」
「ちゃんと教えて! 誰が誰の敵なのよ!」
「…ジブ…ン…ジ…ブン…コ…ココロ…チ…セ…イ…カ…ンガ…エ…ウ…ソ……シ…ン…ジ…」
目の前のモンスターが、体育館の壁が、窓が、バスケットコートが、床が、自分の体が歪んでいく。
リジュワナはありったけの声で叫ぶが、それはもう何の声も生み出さない。
「...naaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
<リジュワナ、しっかりして、リジュワナっ!>
そしてリジュワナは目を開けた。
<リジュワナ、大丈夫? リジュワナ?>
<…>
リジュワナは無言で、自分の肩を揺らすジュチャを見る。
<リジュワナ…私の名前、分かるわよね?>
<これだけ冷静なんだから、その心配はいらないとは思いますけど…>
アリーザが上から覗き込んでくる。
<でもこの子の場合、驚いても外ヅラ無反応だから、よく分からないじゃない!>
<…>
無言で眉を動かせるリジュワナ。
<…そういう問題なんですか?>
アリーザが苦笑する。
<…全部覚えているわ。多分ね。…ごめんなさい。>
ジュチャの手をどかし、リジュワナは立ち上がった。
<どの位気を失っていたの、私は?>
<え…何秒でもなかったわ。2、30秒。…あ、クザラル秒でね。>
<つまり地球秒で2、3秒? もっと長く感じたけど。>
<本当に、何も忘れてない? 私が誰だか分かる?>
<変な宇宙人。>
リジュワナはジュチャを指差して念じた。
<…は?>
<それからこれが変なアメリカ人。向こうの校舎に、変な日本人と変なフランス人。…全員正解でしょ?>
<…>
<完璧です。>
アリーザは感心した様子で頷いた。
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