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…ピッ、ピッピッ…ピッピッ…ピピッ。
目の前のバーチャルディスプレイの表示を見て、「よし!」とモニクは手を握った。
<ね、ねえ、アクセス出来たっぽいよ!>
興奮を押さえきれない様子でちゃぶ台の向こうに目をやるモニク。
<って、おい。>
「…そんな…所を触ったら…いけません…んぐう…」
畳の床に顔をつけてアリーザは寝言を呟いていた。
<…あ、出来たの。凄いじゃない。>
何かの本を置きつつ、頭が船をこぎかけていたリジュワナがモニクに気付き、目を開けた。
<あ、のね。私はずっとこれにかかりっきりで…>
<で、どうやったの?>
<ん…もう…わ、もうこんな時間経ってたんだ。>
棚にある時計を見てモニクが口を開く。
<で?>
<え? …あ、ああ、これね。>
リジュワナはモニクに頷いてみせた。
<…これだけど、私達が普段使ってる端末は、情報がエウグ語から英語にまず変換されて、それを、私とかリジュワナちゃんの場合は更にフランス語やベンガル語に訳されて表示されてるんだ。つまり、エウグ語から英語への変換プログラムが使えれば、プオちゃんの端末も私達にも使えるって事。>
<でも、その変換プログラムはプオラギイックの端末にあるの?>
<ううん。辞書プログラムはあるけど、インターフェイスの翻訳がサポートされていないみたいなんだ。>
そう念じながらモニクは手元の端末を見せる。
<だから、私の端末からプオちゃんの端末を操作する事にしたの。>
<…意味がよく分からないんだけど、どういう事?>
<私の端末とこの端末は、他の端末同士もだけど、無線で通信しあう事ができるんだ。だから、私の端末からリモコンみたいにプオちゃんの端末を使えば、プオちゃんの端末の機能を持ちつつ私の端末の翻訳機能で地球の言葉に直せるって事!>
<…ええと、やっぱりよく分からないんだけど…>
リジュワナは眉を上げる。
<要は、アクセス出来るようになったっていう事なのね?>
<そう、そういう事! そっちに画面を転送するから、ベンガル語モードで見てみてね。>
腕を構えるリジュワナ。モニクがタッチパネルを操作すると、リジュワナの前に、上が横棒で繋がっているベンガル文字の画面が現れる。
<「1:音声アクセス、2:文字アクセス、3:感覚アクセス」…>
画面を読み上げるリジュワナ。
<…どういう事?>
<さあ、ここから先は、私も今から見るところなんだけど…>
<そう…じゃあ、多分一番無難なのは文字アクセスかしらね。少なくとも3番はいかにも怪しそうで…>
<じゃ、3でやってみようか。>
リジュワナの念を聞かずにタッチパネルを操作するモニク。
<ちょ、ちょっと!>
<「内線ですか? 1:船内 2:船外」。ええと…>
<船内だと、繋がりたくない相手と繋がる危険性があるわよね。>
<だよね。2、と…>
モニクはタッチパネルを選択する。
<「方法を選択してください。 1:番号入力 2:番号検索 3:カテゴリー検索」。番号なんて分かりっこないから…カテゴリーだよね?>
モニクの画面と連動して表示の変わる自分の前の画面を見ながら、リジュワナが頷く。
<え、ええ…>
<「カテゴリー」…あ、なんか一杯並んでる。凄い! アクセス出来てるよ!>
モニクの目の前には、多種多様なジャンルの箱のようなイメージが表示されていた。目の前というより、体全身を覆うように上下左右、全ての場所に色々な箱が置かれている。
モニクは、床や天井や壁の無い、ただ真白な空間の中で浮かび上がっていた。
その空間の中を情報の箱が漂い、時折箱から矢のような筒が外に放たれ、他の箱に行ったり、逆に外から筒が箱に飛んできて吸収されたりしている。その様子は都市間を結ぶ高速道路のようにも見えるし、体をめぐる血管のようにも見えた。
「わ、凄いよ、これ…でも、基本はヤフー!みたいなもんだよね?」
周囲の箱を眺めるモニク。
「こっちが地域、こっちが業種、こっちがテーマフォーラムなんだ…。えっと…」
モニクは「テーマフォーラム」と表示された一群の箱の方に近づく。そうすると、その箱の中身が拡散し、各種のテーマの表示された多数の箱がモニクの周りに散らばるように表示された。
「うわあ…」
<…モニク、モニク!>
<え、何?>
気付くと、モニクはアリーザの安アパートに戻っていた。モニクは自分の肩をリジュワナが揺らしていた事に気付く。
<え、じゃないわよ。急に黙りこくっちゃって。大丈夫? 痛みとか、ない?>
<あ、ううん、大丈夫大丈夫。ね、これ面白いよ! リジュワナちゃんも試してみたら?>
<…あなた、本来の目的分かってる? これは、あくまでも作戦行動よ、しかも隠密の。あくまでこれの目的は、宏子の記憶を取り戻す事であって…>
<大丈夫だって。じゃあ、私またアクセス空間に戻ってるね。…あ、何かあったらいつでも呼んで良いよ? それも大丈夫みたいだから。>
<まあ…健闘出来るよう神に祈るわ。>
<任しといて。>
モニクは微笑むと、タッチパネルを操作し、人形のように動かなくなった。
<やれやれ…>
呟きながら、リジュワナはモニクとアリーザを見やる。
−いくら宏子の記憶のためとはいえ、ニ人とも犯罪に近い事をしているっていう自覚はあるのかしらね…。
−…アリーザはありそうね…その上で平気でやってそうなのが怖いわ…。
−でも、これを使えばクザラル星のデータベースとアクセス出来るって事なのよね…私達地球人がどの情報を知らされていて、どの情報を知らされていないのかも…。
リジュワナは自分の腕にはめられた端末を見る。
「…地球。敵。クザラル。…考えろ。自分で…」
口に出すリジュワナ。
−って、何考えてるのかしら。今は宏子の記憶よ。
リジュワナは首を振り、ため息をついた。
「えっと…健康…何だろ、病院かな?」
自分の周囲にある箱を押すようにして、モニクはジャンルを選択していく。
「え…地域別インデックス? 地球なんてある訳ないし…あ、これだ。「オンライン上」。え、まだあるの? えーっと…」
いくつか並べられた項目に目を通すモニク。
「コヌワ・ベチェイ記念病院、トルーグップ第3病院(イートヘイ市)…パ国立保健センター オンライン課、ヒーディジュ病院(ジャヌブテ市)…ああああ」
モニクは頭を抱えた。
「もう、何でもいいか。じゃあ一番上のこれ!」
文字を押すモニク。
同時に白の空間が一変、モニクは屋内の小綺麗なロビーのような空間に立っていた。
「コヌワ・ベチェイ記念病院オンライン窓口へようこそ。今日のご用件はどちらでしょうか。こちらのメニューから選んでいただけますか?」
「う、わっ!」
知らない内に、モニクの目の前にクザラル人男性が立っていた。茶色の肌で、いわゆるクザラル人的なサリーのような服装だ。しかしモニクの目にも、それはプオラギイックがいつも着ているような質素な「普段着」よりも豪華で、着飾った接待用のものである事が見て取れた。
クザラル人の横には、先ほどと同じように文字が並んで浮かんでいる。有難い事に全てフランス語だ。
「えっと…あ、じゃあ3の簡易健康相談(無料)で。」
「分かりました。…科は以下のようになっております。該当する物をお選びください。複数該当する場合、該当する物が分からない場合はお申し付けください。」
男の機械的な応対(恐らくコンピューターによるCG映像なのだろう)と共に、メニューが再び拡大する。モニクはそれを見回す。
「と…あ、系魔法っていうのがあるんだ。えっと、25番の系魔法。」
「かしこまりました。…現在お客様の使われている言語モードは翻訳ソフトの挟まれた状態となっているようですが、当院ではエウグ、カクリカ、ゴン・パネユ、ワニ、ラザンチェ、パ、ニグーワーの各言語でのネイティブ対応が可能となっております。言語モードをいずれかのネイティブモードに変更なさいますか?」
「あ、えっと、良いです、私のとこの言葉、そのどれでもないマイナーな奴なんで。」
「えへへ」と頭をかきながら手を振るモニク。
「分かりました。…担当の者に代わります。少々お待ちください。」
両手をつけ、上にあげるポーズをする男性。つられるようにモニクも同じポーズを返す。男性の立体映像は消え、モニクは一人になる。
やがてしばらくすると、周囲の景色がロビーから普通の部屋に変わった。モニクの前には50代前後と思われる女性のクザラル人が立っている。茶色い肌だ。
「はじめまして。お名前は?」
「え、えーとー…ジュチャと言います。」
こちらは同じ立体画像でも、表情や身振りが自然だ。彼女がモニクのイメージ同様、実在する人物のバーチャル世界上での投影なのはほぼ間違いない、モニクは直感的にそう感じた。
「そう。随分白い肌してるわね。」
「え、あ、はい…」
「…あなた、その見た目からすると、もしかして…」
「いや、あの…」
「オ・ホドウェー人でしょ。」
「…え?」
「違った?」
「あ、いや…はは、分かります?」
「レ・アン・キタ?」
「…あ、お上手ですね。」
「そんな事ないわよ。これしかオ・ホドウェー語知らないしね。でも、昔1回行った事あって。良い所よね? あそこの山々はチュシデャヘ大陸では一番綺麗だと思うわ。」
「あ、は、はい。有難うございます。」
女性の目の動かし方や手の指のしぐさなどが、どこかジュチャを思わせる。というより、それがクザラル人共通のしぐさなんだろうな、とモニクは漠然と感じながら頷いた。
「それにしても、珍しい格好してるわね。今時のファッションなのかしら?」
「え、あ、ええ…ちょっと、仮装パーティーのダンスの練習の途中だったんです。変な格好ですいません。」
「構わないわよ。で、今日はどういった相談?」
「ええ、それが、私の友人で…モンスターの攻撃にあった子がいるんですけど…」
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