←Prev ↑Home ↑Original Novel →Next Franken!

石畳の道、赤いレンガの重厚な建物。
10年か20年位前のデザインのドイツ車、フランス車が道を行き交う。紫色の花の街路樹が並び、その下をヨーロッパ系の顔つきの人々が歩いている。

その通りの空中から、青い光が現れた。


魔法少女佐藤

第9話「魔法少女と夕食を」


「つまり、toプラス不定詞はこれからしたいと思う事、逆にingの動名詞は昔した、あるいは今している事って言い方ができる訳だ。ところがここで間違えてはいけないのは、例えばstop toの場合は、それをこれからやるんだから、やめる訳じゃないんだな。例えばI stopped to smoke…」
教師が黒板に文字を書く。小数の生徒がそれを眺め、他の者は全くの別の内容をノートに書いていたり、携帯電話のキーを無言で操作していたり、隣の席とひそひそ声で笑いあったり、両目を閉じて首をがくんと揺らしたりしている。
そういった中では、あまり積極的に授業を聞いてはいなさそうな特定の生徒達のグループも、その存在は意外に目立たない物なのかもしれなかった。
そのグループの中でも、窓際に座っていつも外を眺めている一人の生徒から、テレパシーが届いた。
<…宏子、聞こえる?>
<…何?>
窓際の生徒同様、結構な頻度で授業を聞いていない事の多い生徒が、廊下側の方向に視線を固定させながら小さく答える。
<…>
<…>
ニ人は教室の向こう端と向こう端、と言っていい間隔で離れている。外を眺めたままの生徒から再び念が聞こえてきた。
<…謝るわ。…私も冷静じゃなくなってた。>
<…>
宏子は、表情を変えず廊下、というか壁の方向を眺め続けている。
<…別に、あんたが謝る事はないじゃん。何も間違った事してないんだし。>
<…>
<…>
<…ふふ。駄目ね。どう謝ろうとしても、それであなたの許しを得ようとしているみたいで、自分で気持ちが悪いわ。>
<慣れない事するからでしょ。>
<でも分かって欲しいわ。宏子には本当に悪かったと思ってる。>
<…>
<そういった所は私も少しは素直になろうと思ったのよ。昨日までのあなたを見習ってね。>
窓を向いたままのリジュワナの念は、多少軽い調子になった。
<リジュワナ。>
<何。>
<…昨日、言ってた事だけど…>
<…>
<本当なの?>
<…>
窓を向いた生徒は、両肩をほんの少し動かしてから答えた。
<私は自分の冗談に自信を持っているタイプじゃないのよ。>
<…だって…じゃあ…私達、今まで何のために戦ってきたのかな…>
<…>
宏子からいくつか教卓よりの席で熱心にノートを取っていた美耶は、シャープペンシルを持つ手を止める。
窓際からテレパシーが聞こえてきた。
<生きるためでしょう。戦う以外に選択肢なんて、無かったじゃない。>
<…そうだね…でも、その「モンスター」は私達と同じように悩んだり、考えたりしてて、クザラル人にされた酷い事に、復讐してるだけなのかもしれないんだよね?>
<そうかもしれない。でも、仮にそうだとして、私達が今までしてきた事が変わる訳じゃないし、少なくとも地球とサクコブの関係に限定すればサクコブが地球を一方的に襲って来た事実に変わりはない。私達はそれに抵抗して、今まで勝ち続けてる。それは誇って良い事じゃないかしら。>
<…私、そんな簡単に割り切れない…>
<時には割り切る事も必要よ、宏子。割り切れないと生き延びていけない、そういう状況も世の中にはあるの。>
<…じゃあ結局、リジュワナちゃんはサクコブと戦う事に納得してるの?>
聞こえないふりをしているのに耐えられなくなったのか、モニクがリジュワナの座っている席の方を見て念じた。外を向いたまま答えるリジュワナ。
<納得はしていないけど、してないから今日は戦わないって訳にもいかないでしょ。自分の体に穴開けられたくなければ。>
<それって、「納得してる」って言ってるのと殆ど大差なく聞こえるんだけどな。>
<あら、そう。>
いつもと変わらないリジュワナの様子にモニクはやや眉をひそめる。
<ねえ、リジュワナちゃんにとっては、サクコブが知性を持ってようが、ただの虫であろうが関係無いんじゃないの?>
<関係はあるわ。>
<でも、結局敵なんでしょ、いずれにしても?>
<…虫が敵なのと、知性を持つ者が敵なのは全く違う事だと思わない? 自ずと戦い方も変わってくるでしょう。>
<確かに、そうだよ。…そうだけど、そういう問題じゃないじゃない!>
<そう?>
<だから…結局同じ敵なんでしょ? リジュワナちゃんにとっては!>
<あなたにとっては違うの?>
<それは…! …それは、敵だよ…>
宏子は意外な言葉に、思わずモニクの方を見た。モニクは続ける。
<…フランスで、初めてあれに襲われた時の事は、今でも覚えてる…。あのズーっていう音が気持ち悪くて、急に周りのものを全て壊された時の怒りも、恐れも…>
<…>
<でも、だから、だからこそ、私にとっては、サクコブが虫か、人かは大きな問題なの。>
<…私とどう考えが違うのかがよく分からないわ。>
<違うよ! 全然!>
<そう?>
<違うよ! 私はリジュワナちゃんが分からない!>
<止めなよ、ニ人とも!!>
<…>
<…>
<私を含めて皆イラついてるのは分かるけど…考え方の問題で喧嘩したってしょうがないでしょ…確かにリジュワナの言う通り、結局戦うしかないんだし、納得してようがしてまいが。>
宏子が無言で念じながら、モニクとリジュワナの席を睨みつける。
<それは…そうかもしれないけど…>
<…やっぱり一番の問題は、サクコブの事、戦争の発端の事を、クザラル人が私達に教えなかったという事実よ。>
<…>
<リジュワナちゃん!>
<本当に彼等と一緒に戦っていてこれからも勝ち続ける事が出来るのか、生き延びる事が出来るのか。人として感傷も大事かもしれないけど、割り切った事を言えば、まず考えるべきはそこじゃない?>
<…>
リジュワナは、遠目から見ても分かる位の動きでため息をついた。
<…ふう。結局、謝った意味が全く無くなったわね。ごめんなさい、ってもう言っても遅いわよね。>
<…だから慣れない事はするなって言ってるでしょ。>
<…つくづくそうよね。>
リジュワナは空を眺めたまま頷いた。


授業の終わりのチャイムが鳴った。それに合わせて教師がまとめの言葉を言い、日直の生徒が号令をかけた。
「起立。礼。着席。」
号令が終わると共に、教室は一気に騒がしくなる。
「さて、と…3時間目は理科室か…」
呟きながら教科書、ノートを用意する宏子の横に誰かが立った。
「…ん?」
<ひーこちゃん、ちょっと…良いかな?>
難しい表情のモニクが視線を合わさずに念じてきている。
<ん、うん…何?>
<…ちょっと、トイレ来てくれる?>
<はあ…>


女子トイレの個室のドアの前まで来て、宏子はモニクがトイレに入る様子をぼーっと眺めていた。
<ほら、ひーこちゃんも早く入って。>
<…え、な、何で? トイレだよ、ここ?>
<別に今から襲ったりしないから…ちょっと、ひーこちゃんとニ人だけで話がしたかったんだよ。ほら、人が来たら嫌だから早く来て。>
<う、うん…>
宏子はモニクと同じ個室に入り、そのドアを閉める。
<んな別に、どうせテレパシーなんだから誰も聞けないじゃん。>
<美耶ちゃんとリジュワナちゃんは聞けるじゃない。あのニ人にも知らせたくなかったから…>
<何、どうしたのよ?>
<…ひーこちゃん…ヒップホップ好きだったよね?>
<うん。>
<じゃあ、ヒップホップのライブとか、クラブとか結構行く?>
<いや…ここからクラブっていうと東京になっちゃうし、正直ライブもあんま行った事はないけど? 一番最近で去年の夏になっちゃうし…。>
<ふーん…そう…>
考え込む様子を見せるモニク。
<…ねえ、用事があるんだったら早くしようよ。休み10分で終わるんだからさ。>
<うん…ひーこちゃん、ちょっと、見てもらいたい物があるんだけど…>
<はあ。>
モニクはスカートのポケットから、キティちゃん柄のきんちゃく袋を取り出した。その袋をモニクは開ける。
<は、何これ? …薬?>
<うん、まあ…>
袋の中には更に透明なビニール袋があり、その中に4、5種類の錠剤や紙のシートのような物が一個づつ入っていた。
<え…モニク、何かの病気だったん?>
<私じゃないよ…これは、昨日アリーザちゃん家から持ってきたの。>
<アリーザ? 病気か、あいつ? …確かにそれっぽいちゃあそれっぽいような気もするけど…>
モニクは軽くため息をついた。
<やっぱり、ひーこちゃんも日本人なんだね…勿体ぶらずに言うけど、これ、ドラッグだよ。全部。LSDとか、マジックマッシュルームとかエクスタシーとかケタミンとか…って、言ってる意味分かるよね?>
<え…? …待って、アリーザがそういうの、やってるって意味?>
<まさか観賞用だけで持ってはいないと思うよ。>
<じょ…冗談でしょ? 確かにアリーザは大人っぽい所はあるけど、そんな犯罪を犯すような奴じゃ…>
<…犯罪かもしれないけど、それでもやっぱり、それ位に気持ち良い物なんだよ。…本当の事言うとね、私も昔、ちょっとだけやった事があるんだけど…>
<う、嘘!? よりにもよってあんたが?>
<よりにもよってっていうのがちょっと引っかかるけど…うん。でも、今は全然やってないよ。それにやったって言っても、何度か試しにマリファナを吸った事があるっていうだけだし。>
<だけ、って…充分だと思うけど。>
<う、まあ…でも、普段使ってる訳じゃないから。…でもね、アリーザちゃんの場合、家にこういうのが一杯あってさ…>
<…>
<昨日アリーザちゃん家いった時、アリーザちゃんは居眠りしてて、リジュワナちゃんはクザラル星に感覚接続してて、一人で暇な時があって。それで、その間に何か面白い物無いかと思って、アリーザちゃんの部屋を捜索してたんだ。そしたら、こういうのがいくつかビンで置いてある棚があって…>
<…>
<まあ…LSDとマジックマッシュルーム位なら、トリップ中に戦闘に来ないでね、っていう位で、別に好きにすれば良いとは思うけど…>
<良くないって。体に良い事なんて無いんでしょ?>
<良い事は無いけど、毒性で言えばタバコとかの方がよっぽど酷いし…>
<え、そうなの? …でも、こういうのって癖になったりとかしないの? …いや、それもタバコもそうかもしれないけど…>
<よっぽど節度無くやってない限りは大丈夫だよ。この辺は。でも、ケタミンはちょっと…>
<…あっ>
モニクはドラッグ数粒の入ったビニール袋をそのままトイレに投げ入れ、水を流した。
<…しかもこれだけじゃなくてコカインもあったし。そっちは量が少ないから、ちょっと持ってくる事は出来なかったけど。…こういうの、日本じゃ安くないよね?>
<ん…私はした事無いから分からないけど、多分タバコよりは高いと思う…>
<ドラッグだから全部駄目だなんて言うつもりはないけど…これだけあると、正直、心配だよ。もちろん健康の上でもだし、それにお金の上でもね。ひーこちゃん…やっぱり、本人に言った方が良いかな?>
<う…>
言葉につまる宏子。ニ人は無言でお互いの目を見る。
<…モニクは、どう思う?>
<…うん…取りあえずはさ、アリーザちゃんの事、注意して見ておくようにしない? それでもし、体調とか様子がおかしかったら、その時また考えようよ。>
<う、うん…>
<…>
<…っていうか、あいつイスラム教徒だったんじゃないの? 良いのか、ドラッグなんかやってて?>
<私に聞かないでよ…って、リジュワナちゃんにはもっと聞けないだろうけどね…>
モニクと宏子は、同時にため息をつく。
モニクはふと腕時計を見て、口を引きつらせた。
<う…ひーこちゃん、ゴメン! 3時間目まであと2分…>
<…ん、うん…>
<…>
どうでも良さ気な宏子の返事に、モニクは軽く眉を上げた。モニクはトイレのドアに手をかける。

宏子は顔を上げた。
<…あ、待ってモニク。こっちからも…一つ、聞きたい事が>
<…あと2分…>
<分かってる。手短に済ますから。…あのさ。あんたって…両親揃ってるんだったっけ?>
<…>
モニクは少しだけ驚いた様子で、宏子の顔を見た。
<ああ。…だよね。>
<ひー…こちゃん?>
宏子はため息混じりに頷いた。
<気になって。…分かるんだよ、何となく。こないだからさ…それぞれの家族の話とかになった時に、あんただけ、何か、微妙につっかえてるような気がして。だから…>
モニクは笑顔を作って、首を振ってみせた。
<あ、ひーこちゃん。そろそろ本気で時間が無いから。その話はまた今度、ね。>
<…>
<それにそもそも、私の両親は健在だよ。まあとにかく、今は教室に戻ろう。>
<ん、うん…>


一面に海が広がり、陸地はどこにも見えない。ただ青が、細い皺のような濃淡をつけて水平線一杯まで視界を覆い尽くす。
その青は確かに美しいが、それが美しいのは遠くから見ているからであって、実際にそこにいたら死ぬほど寒かったり、波があったりするんだろうなあ、と宏子は思いながら窓の外を眺めていた。
<宏子は、飛行機は初めて?>
<え? …あ、うん…そうだけど…>
前の席に座っていたジュチャが、ニコニコしながら後ろを向いて聞いてきていた。
<そう。私も地球の飛行機は初めてだから、何だか興奮するわ。>
ジュチャは周囲を見回す。
<はあ…>
<それにしても豪華だな、地球の飛行機は。これだけのスペースを俺達だけで使えるなんて…>
<いや、普通は違うみたいよ。今回はアルゼンチン政府のチャーターで飛んでるから別だけど、個人が気軽に貸切で使えるものじゃないらしいわよ、飛行機のファーストクラスって。そうよね、リジュワナ?>
急に話を振られたリジュワナは、どこかぎこちない様子で頷く。
<…ええ、そうね。…でも、何故あなた達ニ人も飛行機に乗っているの? 宇宙船の瞬間移動装置を使えばすむ事じゃない。>
<私はこれからそれを使おうかな、と思ってるの。やっぱり向こうをノーガードにするのも危険だしね。ただ、プオラギイックはあなた達と一緒にいてもらうわ。>
<…監視の為?>
リジュワナの念に、ジュチャの目が細まった。
<嫌な言い方するわね。もう私達、一つの「チーム」として上手くやってきてるじゃない。>
<そう? …まあ、そうね。>
<そうでしょ? 私もあなた達を信頼してるし、監視をしてるつもりも無いから、あなた達もそういう言い方は控えてほしいわ。>
<…それで? 何故プオラギイックは私達と一緒なの?>
リジュワナはジュチャに直接答えず先を促した。特に気にせず念を続けるジュチャ。
<ええ、前回、モニクやアリーザの前にモンスターが現れた時の直前と同じ反応が、ここ数日起きてて。今回場所は限られていて2ヵ所よ、その内の一つは中国の武漢ウーハンで、こっちはもう昨日、私が行って一段落はついたの。でももう一つの方は、私と現地の子供だけじゃちょっと苦しい戦いになりそうだ、っていう事でこうやって今、皆で向かっている訳なんだけど。>
<何か、質問の答えになっていない気がするんだけど。>
<というか、その子供って誰ですか?>
<順を追って説明してるの。>
ジュチャはリジュワナとアリーザに手を振った。
<モニクやアリーザの時と同じっていうのは、要は、また新たな魔法少女が見つかったって事よ。…本当は大分前から名簿に載ってはいたんだけどね。その中でも急激に魔力が発達した子が出てきたのね。それで、それに反応するようにモンスターが彼女達の前に現れた、って事ね。>
<しかし毎回、律儀に出てくるな、奴等も…>
プオラギイックにジュチャは頷く。
<モンスターも何としてでも魔法少女を叩きたいのね。でも私達だと固まってるから攻撃しづらくて、だから魔力が出たばかりの子を狙うのよ。と言っても彼等に知性は無いから、その意味では馬鹿の一つ覚えで機械的な反応なのよね。>
<…>
<…どうかした?>
通路向かいの席で腕組みをしているプオラギイックの顔を、ジュチャは不思議そうに眺める。
<…いや、何でもない。…続けてくれ。>
<そう? …で、今私達はアルゼンチンのブエノスアイレスに向かってる訳だけど、東京からだとロサンゼルスで一旦乗り換えになるのよね。だからそこで、皆に武漢の方の子と会ってもらうから。>
<え、今ロスにいんの?>
宏子が聞く。
<…あ、つまり彼女にも今飛行機に乗ってもらってるのよ。それでロサンゼルスで落ち合って、そこから皆でブエノスアイレスに来てもらうって事ね。だから一応プオラギイックには付き添っていて欲しいって事。>
<じゃあ、その子とブエノスアイレスの子と。また、アイドル地球防衛隊のメンバーが増えるんだね!>
<…アイドル?>
<…まさかその隊、私は入っていないわよね?>
モニクはアリーザとリジュワナの視線にめげずに続ける。
<ねえジュチャちゃん、ニ人はどういう感じの子なの? もう両方とも会ってるんだよね?>
<ええ、まあ、会って貰うのが一番早いと思うけど…良い子達よ、ニ人とも。ちなみに魔法少女って言ってたけど、ブエノスアイレスの子の方は男の子なのよね。>
<え、そうなの? …魔法少女って男の子もなれるの?>
モニクが念じる。
<…それは、なれないわね。でも魔術師にはなれるわよ。平均すれば、魔力は女性の方が強いから、魔術師って圧倒的に女性が多いのよ。魔法少女って言い方をよくするのはそのせいね。でもそれはあくまで平均すればの話であって、現にクザラルでも魔術師の17%…だったっけ?は男性だから。>
<でも、それでも少ないよね。>
口を挟む宏子。
<これでも昔よりは増えたのよ。>
<…防衛戦争の為に?>
<そうね。残念ながら、ここ50クザラル年…地球で言うなら一世紀弱、のクザラルの歴史は全て彼等からの攻撃に彩られているから。>
−何言ってんだか。その一番最初の攻撃はあんた達からだったんでしょ。大体あんた達自身も、身内で仲間割れしてた癖に…。っていうか今だって
<宏子。>
<え、な、何?>
ジュチャの念に、宏子は飛び上がりかけながら顔を上げた。
<武漢の子の方はね…ちょっとだけあなたと、リジュワナ、あなたに似てるわ。ニ人を合わせた感じね。>
<え…? はあ…>
<…>
宏子とリジュワナは顔を見合わせる。
<…それは不愉快な例えね。即刻撤回して欲しいものだわ。>
<…アリーザ、あなた誰の物真似してるの。>
リジュワナが目を細める。
<まさか…隠し子?>
<おい。><…モニク。>
宏子とリジュワナが念を揃えた。


<あ、カリフォルニアの空気。別に何年もいなかった訳じゃないけど、やっぱり嬉しい物ですね。>
飛行機からボーディングブリッジに出て、一行は、近代的なガラス張りの建物の中に足を踏み入れた。アリーザはいつになく嬉しそうな顔で後ろを振り返る。
<ここから10号線で20分も飛ばせば、私の家ですよ。お母さん腰痛めてたんだけど、元気にしてるかしら…。あ、皆さんもお構いなく家に上がってくださいね。>
<う、うん…>
<どうしたんですか、佐藤さん? さっきから余り元気が無いようですが…飛行機で疲れましたか? あ、そういう時は我が家特製の鶏肉のスープを食べてください。効果覿面で元気が出ますよ。>
<そ、そう…>
プオラギイックが笑いながら手を振った。
<あー、アリーザ。今日は単に乗り換えるだけだから、ここで空港の外に出る訳じゃないんだぞ。>
<え、そうなんですか? どうせだったら家に寄ってって下さいよ。>
<…だから、そういう問題じゃないからな。もう次の飛行機も決まってるし。>
<…>
アリーザはしばらくまばたきをして、それから髪をかきあげた。

一行はエスカレーターに乗り、一つ上のフロアに上がった。
<で、中国の子との待ち合わせ場所は?>
<出発カウンターだ。ノースウエスト…だから、2のターミナルだな。>
リジュワナに答えるプオラギイック。


<ついたよー。>
動く歩道を降り、表示を確認したモニクが宣言した。
<でも、その子いる? うーん…何か目印になる物とか持ってないの?>
<…>
周囲を見回すモニク。プオラギイックは無言で腕端末を操作する。宏子はふと彼の端末に目を向ける。
<あれ? プオ、端末変えた? 前のと色違くない?>
<ん? ああ。人の端末を勝手に盗った奴等がいてな。だから前の端末は機能停止させて、所有者本人しか使えないようにセキュリティー機能を上げた新機種を使う事にしたんだ。>
<盗った…?>
宏子は顔を上げる。リジュワナはあさっての方向を向き、モニクは頭をかいていた。
<…あんた達なの?>
<そのお陰でクザラルのネットにアクセス出来て、あなたの記憶を戻す事が出来たのよ。だから感謝しなさい。>
<…>
宏子はリジュワナの念に、無言で息をつくという形で答えた。
<…ニ人の名誉の為、一応言っておきますが、拾ったのは私です。>
<…拾ったの?>
宏子がアリーザに聞き返す。
<ええ。ただ、見つけた時に知的探究心を刺激されてしまって。それですぐに返さなかったという点は、申し訳無かったと思っているんですが。>
<そ、そう…でも、今度からそういう時は「すぐ返す」ようにしてね。…プオだって、見た目は妖怪人間だけど、一応ウチらの仲間なんだからさ。>
<…>
宏子を細目で見るプオラギイック。
<…念のため、言っておくけど、プオラギイックはあなたの記憶を救わなかったのよ。>
<え…>
<…>
<…リジュワナちゃん!>
<これから、プオラギイックが私達の敵になるのか、味方になるのかは本人次第だけど。この間「すぐ返して」いたら、あなたはまだあなたに戻っていなかったって事は、覚えておいても良いと思うわ。>
<…>
言葉を失う宏子。プオラギイックは無言で端末の画面を見続けている。
<…>
<…プオ…プオは、私を…>
<…>
<……何でも、ない…>
宏子は顔を横に向けた。

<皆さん、そういった話はまた後にするとして、まずはその子を探しませんか?>
<…う、うん、そうだねアリーザちゃん。プオちゃん、端末にその子のデータがあるんだよね?>
<あ、ああ…これだ。>
ピッピッ。
バーチャルディスプレイに表示された少女の顔を見て、モニクとアリーザは驚いた表情になった。
<わあ。随分童顔なんだね。…羨ましい…>
<これで16、17? アジア系の基準で見ても相当幼いですよ。>
<そりゃそうだ。年齢を見ろよ、ってニグーワー文字だったか。彼女はまだ12歳だよ、地球歳でな。>
<12?>
念を揃えるニ人。
<そうなんだ。まだ本当に子供だったんだね…それなのに急に魔法少女になって、混乱してるんだろうなあ…>
<そうですね。私達も優しく接してあげないといけませんね。>
<でも、さっき機内で、私と宏子に性格が似てるって話だったわよ。>
<あ…>
念を揃えるモニクとアリーザ。
<ああ、あんた達か。外見の支離滅裂さ加減ですぐに分かったけどな。>
<…>
リジュワナは視線を移動させた。モニク達の後ろに、バーチャルディスプレイの表示と同じ顔の少女が歩いてきていた。
その少女はベージュのコットンパンツと、それより少しダークなベージュのシャツを着て、セミロングの髪をおかっぱに近い形で、ストレートに伸ばしていた。
スポーツバッグを抱えた彼女は、無遠慮な様子で一行の中心まで来ると、そこでバッグを降ろした。
<見た目は私よりはあなたに似てるわね。>
<う、そう?>
<じゃ、皆に紹介しよう。彼女が>
蔡英ツァイ・イン武漢ウーハン出身。必要以上に馴れ合う気はないが、状況が状況だし、しばらくは付き合う。>
プオラギイックの念を全く無視して蔡が腕を組みながら念じた。
<…>
周囲の5人はお互いの顔を無言で見ながら、何かを目で会話している。やがて(主にリジュワナの視線に負けた)宏子が、やや眉に力の入った表情で手を差し出した。
<…えっと…じゃ、まあ、よろしくね。急にこんな事になって色々大変だろうけど、そんなに>
<ああ、確かあんただよな。いざという時に急に飛びだして、もう少しで校舎の屋上から落っこちかけた奴って。>
<うぐっ…>
<あのジュチャとかいう宇宙人が愚痴っていたな。まあ、大きなお世話だが、あんたはもう少し自分を抑える事を覚えた方が良いんじゃないか。>
<な…>
宏子の手を無視しつつ肩を上げる蔡と、頬をひくつかせる宏子。
<一応もう高校生なんだよな? いつまでもガキな訳じゃないんだから、少しは成長した方が良いだろ。>
<…ねえ、こいつ1発殴って良い? 多分法律的に1発位オーケーだよね?>
宏子はリジュワナにだけ聞こえる強さのテレパシーで念じた。
<…というか、私と宏子の性格を足すとこの子になるっていうジュチャの見解の真意を追求したいわ、私は。>
モニクがニ人の前に手を出して振る。
<ま…まあまあ、皆そうカリカリしないで。相手はちょっと背伸びしたい年頃の小学生なんだから、ね?>
<あ、あんたは確か…モニクだったか?>
<あ、うん。よろしくね?>
微笑みかけるモニク。
<一番デカくて一番中身の無い奴だったよな。ああ、覚えたぞ。>
蔡は頷いた。
<だ…そ、それもジュチャちゃんが言ってた事かな?>
額に大幅に力が入りつつ、笑顔をそれでもキープしているモニクが尋ねる。
<いや、個人記録から推察した私の評価だが。>
<そ、そ、そう…評価を変えられるよう、頑張るよ。>
力の入れすぎで顔が分解しそうな笑顔のモニクが答えた。


A-Sato Ltashofe Yde Ilne

Episode 9: Ensamble nuestra cena por favor

「うっっっひゃああああああああっ!!」
宏子が叫び声を上げた。両手を上げて伸びをする宏子。
彼女達は小高い丘の上の展望台から、緑の街路樹に覆われた美しい街並みを見下ろしていた。
<今更もうどうでも良いけど、今回はテレビカメラが多いわね…>
自分達の背後を見たリジュワナが呟く。
<さっき、そこのレポーターさんとちょっと英語で喋ったんだけど、こっちだとナショナル・ヒロインズだって言ってたよ。>
<そうなの? 今まで私達、アルゼンチンとちょっとでも関わりあったかしら?>
<これからあるって事だよ。私達が「ブエノスアイレスを救う」のには、一応違いないからね。>
<そう…要は、ソフトクリームを通りがかりの人にぶつけて注意をそらすタイプのスリのグループで、その人の服をハンカチで拭く係って事ね、私達って。>
<…そういう事言わないの、ジュチャちゃんがいる所で。聞こえるかもしれないでしょ。>
<はいはい。>
<一体何の話をしているんだ?>
前に立っていた蔡が振り返る。モニクは慌てて手をふった。
<あっ、いや、何でもないんだよ。皆で日本以外に来るのは初めてだし、注目もされてるみたいだから頑張ろうね、って。>
<ふうん…まあ、頑張れば良い。>
<…>
前に向き直る蔡。モニクとリジュワナは、お互い疲れたような表情で同時にため息をついた。

「本日、私達ブエノスアイレス市民は、若く、しかしとても勇敢なこちらの女性達をお迎えする事が出来、大変光栄に思うものなのであります。」
夕方になり、赤紫の色彩が幅広の道路を照らしている。
背広姿の紳士は、そこにしつらえられた屋外特設演壇のようなボックスに立ち、カメラの前で弁舌を雄弁に語っている。プオラギイックと魔法少女達は、その向かいでパイプ椅子に座っていた。
<…いつまで続くの?>
<そんなに何時間も続かないと思うよ。…だったら良いな。>
リジュワナの疑問に、多分に希望的観測を交えた答えを返すモニク。
<…あれ? そういえばアリーザちゃんは? いないよね、どこに行ったの?>
<飛行機で疲れたそうよ。もうホテルに引っ込んでるわ。>
<そう、なんだ…>
<…何かあるの?>
<ん、ううん、別に。>
モニクは首を振った。<そう>と向き直るリジュワナ。
しばらくすると紳士はボックスから離れ、向こう側から人を手招きした。
ジュチャが、現地の少年の手を引いてにこやかにカメラの列の前を歩いてきていた。
ニ人は特設ステージの中央で立ち止まる。
「本日、新たに彼を私達の仲間に迎え入れられる事を、大変誇りに思います。」
外交スマイルでエウグ語のスピーチをするジュチャ。言い終わると、後ろの人間があらかじめ用意されていたらしいスペイン語の原稿を読み上げる。ジュチャはそれを待ってから、右手を少年の方に向けてみせた。
「御紹介しましょう。フアン=カルロス・デルイジ君です!」
パーパーパッパパー!
ジュチャに続いて、通訳が原稿を読み上げる。それと同時に音楽を奏でるブラスバンド。魔法少女達は音楽にビク、とする。スポットライトが少年に当てられた。
少年は宏子の所まで歩いてきて、彼女に手を差し出した。
「フアン=カルロス・デルイジです。これからよろしくお願いします。」
「よ、よろしく…。私は宏子。…佐藤宏子。」
少年は茶色の髪と白い肌で、年は14位だろうか。緊張気味の表情をしてはいるが、こちらを真直ぐと見る彼の目線は、宏子にはとても実直そうに見えた。
<あの、スゴイね…この歓迎ぶりっていうか何ていうか…あっちのあのホテルに私らこれから泊まるらしいし…こんなの初めてだよ。>
<皆、それだけあなた方に期待しているんですよ。…あ、僕達って言うべきなのかな。>
<あ、うん。私達、だね。…頑張ろうね。>
宏子はにっこりと微笑んだ。ニ人の顔に多数のフラッシュがたかれる。
<はい!>
デルイジは笑顔で大きく頷く。
<…はあ、やっぱ子供はこうでないとね…>
<…どうされたんですか?>
<あ、ううん、フアンは気にしないでいいから。>
宏子は醒めた表情の中国人を横目に捉えつつ、フアン=カルロスに左手を振ってみせた。


幅広な街の通りを、魔法少女達一行が歩いている。先頭をデルイジが歩き、周囲はアルゼンチン警察のSPとテレビ各局のクルー達が取り囲んでいた。
小雨がぱらついている。南半球の5月は半袖で歩くにはやや肌寒いようだ。
「この劇場はパリのオペラ座、ミラノのスカラ座と並び世界の三大劇場とされています。アルゼンチンでは芸術活動が非常に盛んでして、そのオペラやバレエの質はヨーロッパと比較しても全くひけをとらない物なのです。」
スペイン語でにこやかに説明するデルイジ。
「…へえ、そうなんだ。今日は中で見れないのは残念だったね。」
何故か軽いため息が混じりながら、宏子が返事を返す。宏子もデルイジも、白いビニール傘を手に持っていた。
「ええ。でも、佐藤さん達の魔法も、最高級のバレエにも劣らない芸術だと思いますよ。」
「そ、そんな事ないけど、そりゃ、どうも。あはは、はは…」
ウインクを見せるデルイジと、乾いた表情を見せる宏子。
「それじゃあ次の場所へご案内しますから、皆さんこちらへどうぞ。」
デルイジは一行を先導して歩き出した。
<…ふう。>
ため息をつくプオラギイック。
<あら、何か言いたそうね。>
<いいや。俺は以前から地球の文化をもっと知りたいと思ってたからな。こういう風に街の色々な場所をだらだらと歩き回るのは実に興味深いね。>
ジュチャは軽く肩を上げた。
<…関係性。>
<分かってるって。>
<…今日一日なんだから我慢しなさいよ。地球の英雄であるっていう事を国民が納得しないと彼を出国させられないとか、ここの国の政府がゴネて。言っておくけど、中国の騒ぎなんかこんなもんじゃなかったわよ、あなたは日本にいたから難を逃れたけど。>
<…それは惜しかったな。>
<ここ何週間か付き合ってきてよく分かったけど、地球人が野蛮だっていう噂はある意味本当ね。ここの人たちは皆、関係性を凄く大事にしてるでしょ?>
<…ん? つまり「クザラル人並に野蛮」って意味か?>
<いいえ、明らかにそれ以上よ。だって、クザラル人は関係性なんて、本当は大事にしてないじゃない。だからこそ宗教で「関係性」なんて訳の分からない物、信仰に持ち出すんだから。それに比べてこっちはどう? ここまで関係性が重視され、もはや意識的な信仰の必要すらない世界は?>
<はあ…>
<もはやここはゴニ教徒の聖地よね。野蛮の王国よ。>
ジュチャは地球式の傘を持ちつつ息をついた。
<…ゴニ教徒の自虐は毒が強すぎて、異教徒には理解しづらいものがあるな。>
苦笑しながら首を上に上げるプオラギイック。
<つまりね。神様は、教会とテレビの宗教チャンネルの中でじっとしていてくれれば良い訳。それが教会を出て実社会を支配しだすと、ろくな事にならないって事なのよ。>
<…魔法協会は教会みたいなもんじゃないのか?>
<…>
ジュチャは、しばらく無言で前方を見てから答える。
<それを私は変えたいと思ってるわ。だから私は、トゥンジュの続投に投票したし。>
<この前の市民代表選ね…でもあいつのやってる事は、要は魔法協会の軍隊化だろ?>
<その通りよ。でも、それは軍隊化というよりは、今までも軍隊だったのにそれを認めていなかった、その欺瞞を取り払うという作業なのだと思うけど。>
<…>
何かをイメージにしかけたプオラギイックは、目をそらしテレパシーをやめる。
<まあ、関係性という事で言えばシャウビに勝る人はいないけど。…でも、あの人はもう年だから。>
<…まあ、俺は対地球人友好樹立プロジェクトに金をケチらない指導部なら、誰にでも投票するけどな。>
<確かにね…>
ニ人は揃って首を上げた。

<ジュチャ。>
<…あ、何。>
さ、と頭を元に戻して、ジュチャは前を歩くリジュワナに念ずる。
<…あの子がいないわ。>
<あの子?>
<ええと…>
リジュワナはしばらく考えを巡らせる。
ツァイさんでしょう。>
<…ああ、そう。蔡。蔡英よ。…そうよね? …ほら、中国から来た。>
アリーザの念に頷き、ジュチャ達に念じるリジュワナ。
<ツァ…? ああ、そう、そうよ。小英シャオインはどうしたの?>
ジュチャは周囲を見回した。
<…「小英」?>
眉をよせるリジュワナ。
<あら、聞かなかったの? 親御さんとか、御友達とかは皆、そう呼んでたけど。>
<ニックネームなの?>
尋ねるモニク。
<ニックネームっていうか…「英ちゃん」、位の意味らしいけど。>
<…>
ジュチャの念に、リジュワナとモニクは視線を合わせる。
満面の笑みを浮かべたモニクは、自分の両手を合わせた。
<それじゃあ、今度から私達も皆、「小英ちゃん」、って呼んであげる事にしようね。>
<本人、絶対に嫌がると思うわよ。>
目を細めるリジュワナ。隣のアリーザが頷く。
<私もそう思います。>
<分かってないなあ二人とも。…だからこそ、面白いんじゃない。>
<…>
モニクは人差し指を振りつつ、二人に顔を近づける。アリーザは息をつきながらリジュワナの方を見る。
リジュワナの眼鏡が光った。
<…それもそうね…>
<ホクさん?>

<…あれ? 皆どうしたん?>
前を歩いていた宏子が、後ろでごちゃごちゃやっている魔法少女達に振り返った。
<…あなたはフアン=カルロスの相手しててよ。>
宏子に迷惑気に答えるリジュワナ。
<何で私ばっか。>
<だってあなた、リーダーじゃない。>
<そんな役職いつ決まった!>
<リーダーって意外と雑務が多いものなのよ。>
<だ、か、ら、リーダーになんかなってないでしょ!>
<蔡さんですよ。>
いきりたつ宏子に、アリーザが答える。
<蔡さんがいません。しかも私達に、彼女を忘れさせるような系の魔法をかけたようですね。…稚拙でしたけど。つまり、蔡さん自身が故意に逃げてます。>
<…あ。そうだよ。そう言えば、あの生意気なガキがいないじゃん。>
周囲を見回す宏子。
<正確に言うと、小英ちゃんだけどね。>
<「小英ちゃん」? 何それ?>
宏子はモニクに聞き返す。
一番先頭を歩いているデルイジが後ろを振り向いた。
<どうしました?>
<え?…あ、あのさあ、蔡がどうもいなくなったらしくってさ。>
<蔡…さん?>
<うん。ほら、君と一緒で今度私達と一緒になったばっかりの、中国から来た、小さな子。>
<そんな人…いましたか?>
デルイジは不思議そうに首をかしげる。
<いたの。とにかく、私は急いでその子を探さないといけないから。フアンはリジュワナ達に市内観光の案内しててね。>
<は、はあ…>
<はあ?>
頷くデルイジと、前を向き念を上げるリジュワナ。
<佐藤さん? 系の魔法だったら私の方が適任では?>
<良いのよアリーザ、こういう事はリーダーに任せて! んじゃねっ!>
<あ、ちょっと宏子!>
手を上げ、カメラをかきわける宏子。宏子は駆け出し、一人横道を進んでいく。
<…別に逃げたって、機械で魔力反応を探せばすぐに場所は分かると思うんですが。というか、逆にそういった機械も無しに、佐藤さんはどこをどう探すつもりなんでしょう? 一応、系の魔法を使っている魔術師を相手にして。>
道路を曲がり姿を消す宏子を見届けながら、アリーザが念じる。
<…違うわよ。今逃げたのは宏子。小英にかこつけてね。>
<…ああ。>
リジュワナの答えに、真面目に感心した様子でアリーザは頷いた。
<なるほど非常に賢明ですね。私も見習いたいものです。>
<私も探さな!……ぐ、ジュチャちゃん、ぐ、ぐるじい…>
横道へ駆け出そうとしたモニクは、ジュチャの右腕に衝突しそのまま腕を首に食い込まされている。
「さ、フアン=カルロス。アルゼンチンの誇る文化遺産、次は何?」
「え、ええ…」
片腕にフォール済みの人間を抱えつつ聞くジュチャに、フアン=カルロスはやや上ずった声で頷いた。



→Part B



←Prev ↑Home ↑Original Novel →Next