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シュウウウウウウウウウンズバアアアアアアアアアアアアアン!!
「いやああああああああああああああああああああああああああっ!!」

紫色の光の中から、実体化したリジュワナが現れる。アリーザは彼女の叫びに表情を変え駆けつけた。
<どうしました、ホクさん、大丈夫ですか!?>
「あ、あ、あ…」
倒れるように座り込むリジュワナの腕を支えるアリーザ。リジュワナはつばを飲みつつ、何とかアリーザに頷いてみせる。
<…シユマさん。>
<キツ…かった? だいじょぶ?>
アリーザの視線に押されつつ、遠慮がちに聞くシユマ。
<…ちょっと…落ち着かせて。…大丈夫だから…>
激しく肩を揺らすリジュワナ。呼吸の荒い彼女をアリーザは心配気に見た。
<…何があったんですか。怪我はしてないですよね?>
<ええ…はあ…大丈夫よ。ふう。ちょっとね…体は問題無いんだけど。…精神的にちょっと、強めのパンチをくらったわね。>
<…私が誰かは分かりますよね。>
<分かってるわよ酒飲みさん。…ちょっと、そこの机まで行きたいわ。>
アリーザに肩を借りながら、リジュワナは近くの机まで歩いて、そこに寄りかかる形で地面に座った。
<ふう…行儀悪いけど、しばらくこうさせて。手足も心なしか、しびれているような気がするし…>
<体は、問題無いんじゃなかったんですか?>
<問題無いわよ。しびれてるだけ。>
<…何があったんですか。>
<それは私が聞きたいわよ。シユマ、あれは…何?>
立っているシユマを見上げるリジュワナ。中腰のアリーザもつられるようにシユマの顔を見る。
<…地球人を見た?>
<地球人?>
眉を上げるアリーザ。
<ええ、何人もいたわ。皆私達より、年下の子供達だったわね。どうやら人種は色々で…ええと…あ、そう、魔法が使えたわ。>
<魔法少女がいたんですか、クザラルの宇宙船に?>
<そういう事になるわね。といっても、私が見たのは単にテレパシーを使っているところだけだけど。>
顔だけ動かしながら、机の足に体を寄りかからせているリジュワナが答える。
<何人か…30人もいなかったと思うわ、の子供達がいて、奇妙な大きな椅子に座る、というか寝そべっていたの。頭に、ヘルメットのような物を被って…中が小さなモニターになっているのよ。それで…何をやっていたのかしら、多分、一種の魔術訓練だと思うんだけど…>
<…余り良い印象の椅子ではないですね、それは。>
伝わってくる椅子のイメージに眉を上げつつアリーザが念じる。
<そこの部屋は、「教室」ってプレートがあるのよ、エウグ語と英語で。それから…あ、そう、「私達と地球を救いましょう」っていうポスターも貼ってあったわ。魔法少女…5人いるんだけど…極端に美化されたバングラデシュ人とアメリカ人と日本人とフランス人と中国人…風の5人のポスターがあった。>
<…何ですか、それは?>
<知らないけど…そう、そこの「教室」の子はそのポスターの魔法少女の一人の、「リジュワナちゃん」に憧れていたわよ。それで、私が「リジュワナちゃん」に似てるんじゃないかとも言っていたわ。主に額の点とかが。>
<それは喜ばしいですね…>
アリーザは肩を軽く上げてから、改めてシユマの顔を見た。
<…シユマさん。大体、何があるのかは分かってきましたけど…何故、そんな「教室」が宇宙船の中にあるんですか?>
<地球にあったら色々不都合があるから、じゃないかな。>
シユマは机の上の各種装置のスイッチを切りながら答える。
<地球人には知られたくない、という事ですか?>
<それもあるし、一般のクザラル人にも知られたくないんだろうね。特にHNKとかね。>
<…でも、地球人に何か酷い事をしている、っていう事じゃないわよね。モンスターに対抗するために魔法少女達を育ててる訳でしょう? 歴史的経緯はともかくとして、地球人の救いになる話だと思うんだけど。>
<その割には…>
アリーザはまだ地面に座っているリジュワナを見下ろしながら念じた。
<随分酷い目にあったように見えますよ、ホクさんは。>
<…肉体的には大丈夫よ。ただ…その、椅子に座ったのよ。その、ええと、ヘルメット、というか…>
<…ヘッドマウントディスプレイ。>
<そう、それのある椅子に。>
アリーザの念に頷くリジュワナ。
<え、トレーニングマシーンに座ったの?>
シユマが慌てて、リジュワナの前に顔を突き出す。
<座ったわよ。それで、上級者向け?のプログラムに書きかえるとか言って、その後は…>
リジュワナは顔をしかめ、首を振った。
<…取りあえず、あれを見たのが食後すぐじゃなかったのは不幸中の幸いだったわ。椅子を汚さないで済んだから。>
<…リジュワナ、あなた、本当に大丈夫?>
<大丈夫よ、あなたが誰かもちゃんと覚えてるから。確か無謀な宇宙人テロリストだったわよね。>
疲れきった様子でリジュワナは悪態をつく。
<…ホクさん…>
<宇宙船の「教室」では、そのトレーニングマシーンを主として、色々な手法で子供達を「教育」しているらしいんだよね。クザラル人の言う事には絶対服従、モンスターと戦うためなら命を捨てる事も厭わない、そういった「魔法少女」達をね。>
シユマはアリーザにテレパシーを送る。眉をひそめるアリーザ。
<…それは、「教育」というよりは…>
<「洗脳」なんて言い方は、洗練されたクザラル人は念には出さないもんなんだよ。>
腕組みをしたシユマはそう念じた。


魔法少女佐藤

第11話「魔法少女のガイダンス」


コン、コン。
ドアを叩く宏子。宏子は壁越しに聞こえる音楽に軽くため息をつく。
<小英。ちょっと? ねえ、夕ご飯食べるよ。>
ポップミュージックのドラム音が耳に聞こえてくる。テレパシーは何も響いてこない。
<…小英?>
ズン、ズン…ズン、ズン、ズシャーン、ズン、ズン…。
「…ふう。」
宏子はドアを開けた。
「…封鎖我的心靈 無法清醒 愛ニー只因ニー對我…」
開けたとたんに耳を圧迫する大音響。宏子は顔をしかめながらも部屋を直進した。
「對我……アイ?」
宏子はステレオのボリュームつまみを下げる。中国語ポップにあわせて歌っていた小英はそこで初めて宏子に気付き、彼女を睨みつけた。
<人が気持ちよく歌っている所を邪魔しないでほしい。>
<近所迷惑でしょ。もう夜なんだから、うるさくしないでよ。>
<近所迷惑?>
馬鹿にした顔で小英は立ち上がり、窓の方に近づく。
<何が近所迷惑なんだ? これだけ毎日カメラが夜通し家の前でスタンバイしてて、今更何がどう近所迷惑になる?>
<だからってあんたがうるさくして良いって理由にはなんないでしょ。何聞いてたのよ、大体。>
<実家から持ってきたCDだな。歌手名で言うなら郭富城グオ・フーチャン。>
<グオフ…まあいいや。とにかく、夜中はそんな大きなボリュームで聞かないの。聞きたきゃヘッドホンで聞きな。>
宏子はステレオの乗っている下の棚からヘッドホンを取り出し、小英の前に突き出した。
<つまり、この家は人がちょっと故郷への思い出に浸るような権利まで奪うって事か。>
<あー、もう何とでも言いなさい。従えないんだったら家から出て一人暮らしすれば良いし。>
<良いんじゃないか、それで。別に私も、ここに来たくて来てる訳じゃない。アリーザみたいに一人暮らしすれば良いだけの話だ。>
<どこに一人暮らしするつもりか知らないけど、アパートに住む事になったら今以上に静かにしてなきゃご近所さんに怒られると思うけどね。それから念のため言っておくけど、あんたがどっか一人で暮らしている場合にモンスターが出た時は、多少私達が来るのは遅れるかもしれないから一人で頑張って粘ってよね?>
<…>
パシッ。
小英は無言でヘッドホンを取ると、そのジャックをステレオに差し込み、ヘッドホンを頭に被った。
<って、ちょっと、今はやめなさいよ。>
<どうして欲しいんだ。…夜中はこれを使えって、今あんたが脅迫したんだぞ。>
<良いけど、まずは夕食を食べよ。用意が出来たから。もうモニクも待ってるしさ。>
<…別に良い。私は後で食べる。適当にラップにくるんでえええっ>
宏子は小英の顔面を両手でわしづかみし自分の方に向けさせた。
<い・い・か・ら・き・な・さ・い。>
両手を小刻みに振るわせつつ、口の引きつった宏子が小英に顔を近づけて念じる。
<は…はい。>
同じく引きつった顔の小英が小刻みに頷いた。

ヘッドホンを外し、小英はそそくさと自分の部屋を後にし、階段を下りていく。宏子はステレオの電源を消しながら息をついた。
「…ったく…」
−あれのどこが私とリジュワナなんだ? 全く宇宙人って奴は地球人を見る眼が無いね…。

宏子は小英の部屋の明かりを消し、廊下を歩き、隣のドアの前で立ち止まる。
−こっちはまた、異常に静かだな…なんか明かりもついてないっぽいんだけど…。
宏子はドアを軽くノックした。
<リジュワナ? 夕食出来たから食べよ?>
反応をしばらく待つ宏子。
ドアの向こうからは何も響いてこない。
<おーい、リジュワナ。食わないの? 返事しろー。>
「…」
やはり反応は無い。宏子は眉を寄せつつ、ドアノブに手をかける。
<お祈りか何かしてんの?>
「…」
<…えーと、ドア開けるよ。…エッチな事しててえ、着替える暇が無い、とかだったら今のうちに自白しといた方が良いよ?>
−って、奴に限ってそんな事はないか。まさかもう寝ちゃったのか…?
<…おーい。>
ドアをそうっと開け、宏子はリジュワナの部屋に顔を出す。
がらんとした、物の少ないその殺風景な部屋に、リジュワナの姿は見当たらなかった。宏子は部屋の明かりをつけ、もう一度部屋を見回す。
「…れ?」
部屋に入る宏子。特に部屋が荒れている様子でもなく、机にはリジュワナの使っている教科書とノートが開かれたまま置かれている。
「…」
眉を上げ、しばらくその場に宏子は佇む。
「…ん?」
宏子は首を傾げ、部屋を出て廊下を駆け出した。

宏子は階段を降り、玄関にやってきて靴箱の戸板を開く。
−あ…。
靴箱の外に並んでいる靴も眺める宏子。宏子は玄関の周囲を見回す。
−無い、な…。リジュワナの革靴が無いじゃん。…え? じゃあどっか行ったのか?
腰に手を当てつつ、宏子は首をかしげる。
<ねえー。ひーこちゃん、早く食べようよー。>
<あ、う、うん、今行く!>
ダイニングの方から響いてくる念に振り返り、宏子は玄関を後にした。


窓から差し込む朝日が、部屋に四角の模様を作り出している。10時の所をさしている時計の針。
自分の部屋でノートに書き物をしていたリジュワナはふと顔を上げると、ノートを持って立ち上がり部屋を後にした。
リジュワナは廊下に出て、しばらく歩き、一つのドアの前で立ち止まる。
<モニク、ちょっと良いかしら。>
「…」
ドアの向こうからは何も反応が返ってこない。リジュワナは特に表情を変えず、そのまま階段を降りていった。

「…えー。でもなあ、今からだと暑そうでさあ。んー。そりゃ行ったら冷房効いてるのは分かってるべ? でも移動で汗かくじゃん? んー。こっち来りゃ良いじゃん。そうすればCDも返すしさ。…うん。あれ、ちょっと待っててね。」
リビングの座椅子に足を伸ばして座っていた宏子は携帯電話から顔を離し、部屋に入ってきたリジュワナの方を向いた。
<今、何か念じた?>
<…良いわよ、電話してるんでしょ。>
<うん、でも相手美耶だし。>
<でもって…まあ良いけど。モニク知らない?>
<ああ、モニクだったら今日はなんか、ネットの知り合いに会いに行くとか言ってた。渋谷とか行くみたい。>
<そう、外出中なのね…じゃあ、良いわ。>
リジュワナは軽く頷くと、ダイニングの方に向かった。
「…」
リジュワナの後ろ姿を見ていた宏子は、ふと電話を再び顔につける。
「…あ、美耶? 悪い、私トイレ。またすぐ、かけ直すから。ん。うん。じゃね。」
ピッ。
宏子は携帯を畳むとテーブルの上に置き、リビングと繋がっているダイニングの方に歩いていった。
<モニクに何か用だったん?>
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出していたリジュワナは、宏子の方を向く。
<ええ。…でも至急どう、っていう事じゃないから。>
ミネラルウォーターをグラスに注ぐリジュワナ。
<ふーん…>
<…これはアリーザじゃ力にならなさそうだし…しょうがないから、自分で何とかするしか無さそうね。>
リジュワナは軽く息をつき、そのままダイニングを去ろうとする。
<ちょお、私はいないの?>
<え?>
<いや、何か助けて欲しいって口ぶりじゃん。私じゃそれは駄目なん?>
立ち止まったリジュワナは、宏子の方を振り返る。
<あなたがボランティア精神を発揮するなんて、洪水か何かの前触れとしか思えないわ。>
<…悪かったね。>
<冗談よ。…だけど、これはちょっと宏子には…>
<なによう。勿体ぶるなあ。>
<これよ。>
<ん?…うっ…>
手にしていた直筆のノートを宏子に見せるリジュワナ。ノートには手書きで長い数式がびっしりと並び、ベンガル語のコメントが所々に添えられている。
<この5-1から5までの部分が分からなくて。最初分かったつもりで式を書いたんだけど、何度やっても載ってる正解と答えが合わないのよね。応用問題らしくて、教科書にもそっくり同じ形式の問題は見つからなかったし…>
<そ、そうなんだ…>
やや血色の悪い表情になる宏子。
<モニクなら多分分かるだろうと思ったんだけど。いないようなら、もう少し自分で頑張ってみるわ。>
リジュワナはノートを持ち直すと、再び自分の部屋へと歩き出した。
<ああ、ちょっと待ってリジュワナ。>
リジュワナは再び立ち止まり、目だけ宏子の方に向ける。
<…解法に心当たりがあるの?>
<いや、無い。そうじゃないんだけど…ちょっと聞きたい事があるんだけどさ。>
<…>
リジュワナは視線で先を促す。
<あの…昨日さ。夜中、あんた、家いなかったよね。>
<…>
リジュワナは宏子の念にやや目を広げ、しばらく考え込むような表情を見せた。
<…夕食食う時いつもダイニングにいるじゃん。昨日だけいなかったら誰だって気になるでしょ?>
<ああ…>
<ああ、って。あんたもそんな難しい数式が分かる割に、変な所が抜けてるよね。>
<この数式は、私も分からないのよ。>
<そうだけど。…で、さ。呼んだけどいないから、三人で夕食食べて、その後あんたがどこに行ったのかと思ってさ。>
<…>
立ちながら、二人は互いをちらちらと見合う。
<ま、最初に思うのはこの端末で反応が出てるはずだって思うじゃん。>
<…そうね。でもそれを使って良いのは非常時だけよ。>
<うん、だからバレませんように、って祈りながら使った。>
<…>
無言のリジュワナは眉だけ上げてみせた。
<そしたら、反応が私の家ってなっててさ、そんな事は有り得ないから、つまりそれは反応がおかしいって事じゃん?>
<…>
<…それで、系の魔法を使ってるのかと思って。…それで、何とかしてリジュワナがどこにいるのか分からないか、どこにいっちゃったんだろう、って思っていたら…知らない内に、私自身が系の魔法を発動してた。>
<…それはつまり、私の魔法を強制解除して場所を割り出そうとした、っていう意味かしら?>
<…その言い方は何か私が悪者みたいで嫌だなあ。私は別に意図的にあんたの魔法を解除しようとか思った訳じゃなくて、気が付いたら見えてただけなんだから。それにいずれにしたって、私は善意であんたを探してた訳だし? ま、それはともかく、あんたのいる所が段々見えてきてさ。って言っても本当におぼろげではっきりとは分からないけど。…あんた、どっかの暗い場所で、アリーザと一緒にいたよね。>
<…>
リジュワナは廊下の方を向いたまま立っている。
<昨日の晩何をやってたのか、「チームメイト」にちょっと位は教えてくれてもバチは当たらないよねえ?>
<…大した事はしてないわよ。>
<ふうん。じゃ、何やってたの?>
<…>
宏子を見るリジュワナ。
<…いくら「チームメイト」だからって、そんなプライベートまで教える義務は無いでしょう。>
<私は心配してあげてるんだよ、これでも? 何かその時に見えたあんたがひどく苦しそうでさ、床にへたりこんでたじゃん。>
<つくづく、覗き見の好きな魔法少女さんね…>
<しかも、目の前にはクザラル人の女の人がいたよね。茶色い肌で白い服の人。ジュチャによく似てるけど、もうちょい若い感じだったかな?>
<…>
リジュワナはやや顔を強張らせて黙っている。
<私らが会ってるクザラル人ってジュチャとプオだけじゃん。地球全体でも何人も来てないのに、「プライベート」でそれ以外のクザラル人に会ってるなんて凄いなあ、と思ってさ。>
<全部あなたの見た夢か何かだったんじゃないの?>
<かもねえ。仮に現実だとすれば、クザラル人との接触の意味とか結果とか、他の魔法少女に知らせてくれないっていうのは、共に命を張ってる仲間に対して、ちょっと酷い仕打ちだもんねえ。まさかリジュワナやアリーザがそんな事をする人には見えないしねえ。>
<…>
軽く鼻息でリジュワナは答える。
<ま、夢だよねえ。じゃ、何か私に精神的な疲れでもあるのかな。…それじゃ取りあえず、相談してみようかな。ジュチャにでも、夢の内容を詳細に話して。>
<…>
リジュワナは一際大きく息をつくと、宏子の方を向いた。
<…酷いって言えば酷いのかもしれないけど。昨日何も言わなかったのは、あなた達の事を考えてなのよ。一応私達も、あなた達を同じ仲間として大事に思ってる。だからこそ言えないような事っていうのもあるのよ。>
<そう言ってもらえるのは嬉しいけどさ。私が見たイメージだと、あんた結構苦しんでるように見えたんだよね。それが素直に心配だっていうこっちの気持ちも分かってほしいんだけどな。>
<…それは大丈夫よ。今私、何か苦しそうに見える? あれはちょっと…>
<…>
<…とにかく、今は別に大丈夫。>
<リジュワナさ。昨日放課後言ったよね。クザラル人は信用出来ない、って。それって、知ってる秘密を自分達に教えないのは、同じチームメイトとしてはフェアじゃない、って事を言ってた訳でしょ? 何で、今度はリジュワナがおんなじ事を私達にするのかな?>
<…ふう…>
リジュワナは大きくため息をつくと、グラスに入っていた水を飲み干した。
<…もう一度だけ言っておくけど、私はあなたは知らない方が良いと思うわよ。>
<それで? 結局何をしてきたの?>
<…ふう…>


今日の魔術練習は河川敷でだった。曇り空の中、それぞれが自分に割り当てられた練習をこなしている。
「ん…ふっ。ん…ふっ、うううっ、ととっ。」
宏子はステッキを回す練習をしているようだが、やっている途中でステッキを落としかけ、宏子はよろける。
<っと。>
宏子の目の前で、ステッキを青い手がつかんだ。
<あ…りがと。>
目の前の人物を見上げながら、宏子はステッキを受け取った。
<…>
<…>
<…あの…>
<…あの…>
<…あ、何?>
宏子とプオラギイックは同時に念じかける。プオラギイックに聞き直す宏子。
<…いや、宏子こそ何か、言う事が?>
<う、ううん、別に…>
笑顔を作り、宏子は両手を振る。
<そうか…?>
<うん。プオこそ何? 何か言おうとしてたよね?>
<いや、その…>
プオラギイックは視線を外し、河川敷の他の魔法少女達を眺める。
<何て言うか、な…。こうやって皆一緒になって、魔法の練習をしている景色も、もしかしたらもう何回も見られないような気がして…>
<…何で?>
<…いや、深い意味は無いんだ。忘れてくれ。…ただそうしたら、もう宏子がステッキを振るところとかも意外にこれから…ああ、いや、別に個人的にどうとかじゃなくてな?>
自分の念に慌てて首を上げるプオラギイックの前に、宏子は顔を寄せた。
<プオはさ。知ってるんだよね。…リジュワナとアリーザが最近何やってるか。>
<え…>
<ね。>
プオラギイックは難しい顔つきで、頭を軽く上げた。
<…全く知らなくはない、けど、完全に把握してる訳でもない。彼女達の系の魔法は俺達と互角か、それ以上なんだ。…何か、をやっているのは知ってるけどな。それで、彼女達の俺達への疑念が晴れるんだったら、少しは見逃してやろうと思ってるよ。>
<それはさ。クザラル人が、何にも悪い事をしてないっていう前提の上での話だよね?>
<…少なくとも、俺はそんなに大それた悪事はした記憶はないからな。>
<うん。まあ、あんたはね。>
宏子は自分のステッキをゆっくり回しながら、それに視線を落とす。
<あんたはさ、悪事っていうか、嘘をつくだけの知能が無いじゃん。…あはは、ごめんごめん、言い方悪かった? まあ、知能が無いのはお互いさまって事でさ。>
プオラギイックの視線に手を振る宏子。
<…だから、私はあんたは信じてるよ。信じてるっていったら大袈裟だけど、その…嘘、ついてないと思う。…だから、私はプオのためだったら、いつだってステッキ振るつもりだよ。>
<…そ、そうか…>
<…でもね、>
宏子はプオラギイックの顔を見る。
<私がクザラル人…HYI、のために魔法を使うかどうかは別。今の私には分かんない。もしかしたら、HYIは私達に隠れて何か悪い事をしているのかもしれない。だから、もしかしたら、私はHYIに、ステッキを振る事になるかもしれない。…その時に、…プオはさ、私の事を守ってくれるのかな?>
<…>
考え込むように、プオラギイックは腕を組んで視線を落とした。
<…仕事としては、もしお前が協会に歯向かうような事をすれば、俺はそれを全力で止めないといけない立場なんだろうな。>
<…そっか。>
ステッキを見る宏子の視線が、やや緩む。
<ああ。実際そうすべきだと思っているし…ただ、理屈で思うっていうのと実際の行動はまた、違うからな。俺には魔力もあまり無いし、危ないから逃げないとって頭で思っていても、体が勝手に動く、って事もあるだろうしな。>
<…>
<…俺もお前が嘘をつけるほど知性があると思ってないしな。>
冗談めかした調子でプオラギイックは肩を上げる。しかし宏子は真面目な表情でプオラギイックの顔を見つめた。
<ねえ…何でそこまで…してくれるの? やめなよ。プオにとってはそんなの、何の得にもならないじゃん。あんたあくまで魔法協会の職員なんだからさ、そんな事しちゃ駄目だよ。何でそこまで…その…>
<それは…だから、お前とだったら…>
<わ、私とだったら…何…?>
<それは、つまり…>
<つまり…>
プオラギイックは宏子の顔を見る。宏子は口を半開きに開けたまま、プオラギイックを見上げ続ける。
宏子は体のほてりを覚えた。まだ殆ど練習をしていないのだが、今日は気温が暑いようだ。夏ももうすぐに近づいているのだろう。
同じく顔のほてっているプオラギイックがぶつぶつと念じる。
<その……俺は、お前とだったら…>

「あ、佐藤、頑張ってるか?」
<うわあああああああああああああああっ!>
真横から聞こえてきた声に宏子とプオラギイックは念を揃えながら飛びのいた。
「…何で無言で倒れかけてるんだ?」
二人のリアクションに驚いた、というか多少恐がっている顔の男子生徒が立っていた。
「あ、何だ、石戸田か…」
自分の額に手をあて、息をつく宏子。
「ああ、お生憎さまだ。で、どうだ、魔法の方は上達してるか?」
「何よ、冷やかしに来たの?」
「その通り。今日は特に暇だったしな。」
「…」
中腰の態勢で、石戸田を片目で睨む宏子。石戸田はそれには構わず、鞄から小型のペットボトルを取り出した。
「ほれ。お前の好きなカルピスウォーター。ついでだから買ってきてやったぜ。」
「ああ、ありがと。」
宏子は表情を一変させ、一旦ボトルを受け取ってから近くのケースを指差した。
「あそこのクーラーボックスに飲み物入れてるんだ。後で飲むから入れといてよ。」
「飲むから、ってお前がじゃねえか…人使い荒いな…」
「良いでしょそれくらい。私がおごった事だってあるでしょうが。」
「へえへえ。」
宏子は笑いながら石戸田に手を振ってみせる。クーラーボックスの方に歩いていく石戸田。
<あー、それじゃ俺は、全員の進捗具合をモニタでチェックしてくるからな。>
<え? あ、うん…>
プオラギイックはそう念じると、突然歩きだした。宏子はやや不思議そうな顔で、プオラギイックの背中に頷いた。
「…ん?」
「ん、何だ?」
「え? あ、ううん。ただ、何か急にプオが向こう行っちゃったから。」
「プオ…ああ、あの宇宙人さん。…確か本当はもっと長い名前だったんじゃなかったか?」
宏子の所に戻ってきた石戸田が、向こうに目をやって言う。
「プオラギイック。…だったと思うけど。」
「思うけど、じゃねえだろ。」
呆れた顔で宏子に言う石戸田。
「じゃあ、思うような思わないような…」
「…でも、何で急に? …俺がいたら、何かまずかったかな?」
宏子の言葉を無視しながら石戸田が尋ねる。
「別に何も? どうしたのかな?」
「いや、俺見られても全然分かんねえし。」
石戸田は手を上げ首を振ってみせる。
「まあね。…うん、じゃあま、とっとと帰ってよ。」
「お前少しは接待って言葉を覚えろよ。」
「接待ってもね…まあ、魔法見たきゃ別に見てっても良いけど、つーかもうテレビとかで見飽きてるでしょ。」
「まあ…別に良いけどな…」
石戸田は河川敷を見渡す。
「皆出身地も、肌の色もバラバラだけど、一緒になって仲良くやってんだよな。」
「ん、うん…仲良いかどうかは…」
宏子は一緒に他の魔法少女達の方を見る。


リジュワナは近くで突っ立っている魔法少女に気付き、つかつかと歩み寄った。
<…あなた、さっきから何もしていないんじゃないの?>
<…>
バーチャルディスプレイのビデオ映像を眺めていた小英が、無関心そうに顔を上げる。
<ビデオを見るのも良いけど、結局実践練習をしなければ魔法の感覚はつかめないわよ。そもそもその為にわざわざここに来ているんだから。ビデオだったら家でも見れるでしょう。>
<…私がここで何をしようが、私の勝手だ。>
<…は?>
ごく当然の事として自分の意見を念じる小英。リジュワナは一瞬虚をつかれたような顔になって、小英に聞き返す。
<人の邪魔をしている訳でもない。別にここで練習しようがしまいが、私の自分の意志の問題だ。確かに日本には来ているが、毎日強制的に練習しなきゃいけない、なんて契約に同意した覚えは私には無いな。>
<は…あのね。確かに、契約なんて形でそんな事は言っていないかもしれないけど、>
<なら問題無いな。>
<…>
目の前のビデオから目を離さず答える小英。リジュワナは額に血管を浮き上がらせつつも何とか感情を抑えようと努力している。
<それってさ、実は怖くて魔法が使えない、とかいう事じゃないよね。>
<は?>
リジュワナの向かいから、別の念が響いてきた。小英は面倒くさそうに顔を上げる。
<えっと…それは確か時の2章だよね。かなり高度だけど、もしかして小英ちゃん、本当は1章の部分から、全然魔法使えないんじゃないの?>
小英は笑顔で念じてくるモニクに不機嫌な表情を見せた。
<勝手に推測していれば良い。大体、あんたに言われたい台詞じゃないな、それは。>
<ふーん。じゃあ本当は出来るんだ。時の2章相当って言ったら、時間の進行の遅い空間を球の中に作るんだったよね、確か。ねえねえ、それ見せてよ!>
<何であんたにそんな物を見せないといけない。いつそんな義務が生じた。>
<…あ、ふーん。>
<…何だよ。>
したり顔でふんぞり返るモニク。かなり苛立った様子の小英が彼女を睨む。
<リジュワナちゃん、小英ちゃん恥かしいみたいだよ。本当は魔法が全然下手なのに、下手に自慢ぶっちゃった手前皆の前で魔法が使えないんだよ、きっと。>
<…>
モニクはわざわざ耳打ちするような仕草で、リジュワナに向けてそう念じた。
<いい加減、下らない事を言うのは控えてほしいもんだな。大体何で私が、そんな事で恥ずかしがる必要がある。魔術みたいなインチキ臭いものが使えて、何か自慢にでもなるっていうのか?>
<あー、じゃあやっぱり使えないんだ、小英ちゃんは。可哀相だなあ。私の魔法見せてあげよっか?>
小英は自分の胸に手を当て、モニクにくらいつくように迫る。
<出来る! 出来るが、出来る上で敢えてやりはしないって言っているだけだ!>
<どうだかなあ。本当は皆に自分の魔術を見られるのが怖くて怖くてたまらないんじゃないのお?>
「うるさいって言ってるんだ!」
中国語で言いながら、小英はバーチャルディスプレイの表示を消した。
<やれば良いんだろう、やれば! 今第1章から見せてやるから心して見ろよ! ほら、あんた達危ないからどいていろ!>
<わー、パチパチパチー。>
笑顔で手を叩くモニク。小英は地面に置いてあったステッキを持つと、モニク達からやや離れた場所でそれを構えた。
<…>
<…>
モニクはリジュワナに片目でウインクしてみせた。
<…負けたわ。保母でも目指してるの?>
二人だけに伝わる大きさでテレパシーを送るリジュワナ。
<別に。けど、何かあの子、放っておけなくて。>
<そういうのを一般に母性本能って言うのよ。>
<あはは、そうかもしれないけどね。>

「…あ、あの小さい子が何か始めるみたいだぞ。」
十数メートル向こうから、三人の様子を眺めていた石戸田が呟く。
「うん…まあ、大体こんな感じなんだわ、うちらは。」
ため息混じりに答える宏子。
「ふーん…やっぱ仲が良いんだな。皆和気あいあいとしてる。」
「…は?」
感心した顔で頷く石戸田の横顔を、宏子はまじまじと見た。



→Part B



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