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←Part A


堤防に座ってバーチャルタッチパネルを操作していたプオラギイックは、自分の前に出来た人影に顔を上げた。
<ん…ああ。どうした?>
<そろそろ時間だからさ、今日はおしまいにしない?>
<あ…そうだな。>
プオラギイックはタッチパネルをしばらく操作し、ディスプレイの表示を消す。プオラギイックは立ち上がり周囲を見回した。
<ん? あの男の子はもういないのか?>
<男の子? …ああ、石戸田ね。あれは別に、すぐに帰ったよ。単に、ちょっとからかいに来ただけだしね。>
<ふうん…そうか。>
<アレがどうかした?>
<…い、いや、別に、何でもないけどな。>
宏子はプオラギイックのぎこちない動きに首をかしげる。宏子はプオラギイックの腕をとった。
<な、何だ。>
<あのさ、ちょっと付き合ってくれない?>
<え、俺…で良いのか?>
<…何言ってんの?>
不思議を通り越して呆れた顔で聞く宏子。プオラギイックは空を見上げた。
<いや…何でもない。…俺で役に立つ用事なのかな、と思っただけだ。>
<変に謙虚な事言うね…うん、まあ立つから来て。>
<あ、ああ…>
宏子はプオラギイックを引っ張って歩き出した。

<よっ。>
<…>
河川敷のグラウンドの隅で、腰を降ろしタオルで汗をふいていたアリーザに、能天気な調子の念がかけられる。
<どうしました?>
柔らかな表情でアリーザは顔を上げる。
<今日は調子良かった?>
<そうですね…まあ、自分の中では合格点は出せたかとは思いますけど…>
<へえ、良かったじゃん。>
<ええ。…佐藤さんはどうでしたか。>
<私はどうだろうなあ、あんまり今日は調子出なかったかもしれないなあ。>
<そうなんですか? それはお気の毒ですね。>
どう見ても調子が悪そうではない宏子を前にして不思議そうな表情を見せつつ、アリーザは取りあえず先を促す。
<うん…やっぱり心に悩み事を抱えていると魔法に集中出来なくてさ。>
<…はあ。悩み事、ですか。>
<うん。ね、プオ。>
<…は?>
宏子はプオラギイックの返事は気にせずに続けた。
<やっぱりさ、同じチームメイトに仲間外れにされてると思うと、心が痛むじゃない。だから、今度からは私達も仲間に入れてほしいっていうかさ。>
<はあ…話がよく見えないんですが…私が佐藤さんを仲間外れにしているんですか?>
<こないだリジュワナと一緒に、夜中どっかの工場に行ったよね。>
澄ました顔を見せていたアリーザは、宏子の念に一瞬眉を動かした。
<お、おい…>
プオラギイックを無視して宏子は念を続ける。
<で、そこでHNKの力を借りてリジュワナが宇宙船に乗り込んだんでしょ。>
<佐藤さん。>
アリーザは立ち上がった。
<冷静に、考えてくださいね。今ここにはプオラギイックさんがいますから。仮に事実でなくとも、プオラギイックさんを無用に混乱させるような話は避けるべきですよね。お互いに。>
<アリーザももう、多少は私の性格知ってるでしょ? 一回決めたらもう絶対に変えないって性格。>
<ええ、よく分かっていますよ。佐藤さんが今、冷静さを多いに必要としている事は。>
ため息をつきつつ頷いてみせるアリーザ。
<ちょっと待て、本当に、リジュワナがセジュ・クフィに乗り込んだのか? っていうか、大体物理的に無理だろ、それは。>
<プオは、取りあえず黙って聞いてて。…じゃあ、冷静に続けさせてもらうけど。その宇宙船っていうのはセジュ・クフィじゃなくて、魔法で隠された別の船なんだよね。んで、そこに入ったリジュワナは、そこで>
<佐藤さん。本当に冷静に考えて…>
<…そこで、地球人の子供達が魔法少女としての強烈な洗脳教育を受けているのを見たんだよね。クザラル人達にさ。>
<…>
特に表情を変えず、ただため息を返すアリーザ。プオラギイックが宏子に念を挟む。
<そんな話ある訳ないだろ。大体洗脳なんかしなくても、今ここで皆、自発的に魔術の練習をしているじゃないか。…なあ、宏子、そんなに俺やジュチャが信じられないか?>
<誰もプオとかジュチャとか、私達とかの話なんかしてないって。けど仮にプオが何も知らないとして、だから本当に何も無いって言い切れる? 私達と同じようにプオも何も知らされていないってだけかもしれないじゃん。>
<俺は一応、こう見えても対地球人友好樹立プロジェクト長だぞ。>
<知ってるよ。でも元々はヒラすれすれの班師補じゃん。>
<…悪かったな、班師補で。これでも俺の年齢じゃまあまあ頑張ってる方のつもりなんだけどな。>
<そうなんだ。でもさ、最近ほら、就任した地球大使のおばあちゃん、90地球歳…だから、クザラル歳で言えば50歳位だったっけ? あれ位の貫禄ある人なら分かるけどさ、プオの年でこんな重要な役職っていうのがそもそもおかしいとは思わない?>
<それは…まあ、そうかもしれないけど…でも、いずれにしても洗脳だなんだって、そんな荒唐無稽な話は信じられないだろ。>
<でも、本人がそれは証言したんだよ。ね、リジュワナ。>
宏子は横に目を向ける。つられるように同じ方向を見るプオラギイックとアリーザ。
三人に近づいてきたリジュワナが、疲れきった表情でため息をついた。
<ね?>
<…>
しつこく聞いてくる宏子を横目で見るリジュワナ。
<…>
<…何だか私が損な役回りになってるわね。>
三人にじろじろ見られるリジュワナが、アリーザに向かって念じる。
<損なのは私でしょう。行動を進めたホクさんに寝返られて、一人だけ悪者じゃないですか。>
<あんた達が仲間割れするんじゃなくて、私も仲間に入れて欲しいんだけど。>
二人の間に顔を突っ込む宏子。
<…何で佐藤さんを勧誘したんですか?>
<脅かされたのよ。クザラル人と一緒にいるところを系の魔法で見たって言うんだもの。何をしたか教えなきゃ、それをジュチャに言うって言うから…>
腰に手を当てたリジュワナはすまし顔の日本人と呆然とした顔のニグーワー人を眺めた。
<その代わりに堂々とプオラギイックに言うっていう所まで聞いていたら、私も答え方を変えていたと思うんだけど。>
<それはだって、プオにだって知る権利位はあるよねえ。いくらしがない班師補だっつってもねえ。>
宏子はわざとらしい調子で、プオラギイックの方を見る。
<その…全部冗談、なのか?>
<ほら、プオも真相を知りたい、って言ってるし。>
<言ってないわよ。全然。>
<ね。だから、私達も二人の仲間に入れて欲しいな、って。>
笑顔を作りつつも挑発的な視線で宏子は両手を組んでみせる。
<…はあ。>
<…はあ。>
リジュワナとアリーザは、同様の疲れきった表情で同時にため息をついた。


A-Sato Ltashofe Yde Ilne

Episode 11: Guidance

光が溢れ、風と共に爆発音が発生し、周囲に粉塵を巻き起こす。
<…>
両目をつぶっていたシユマは手で鼻の前の粉塵を軽く払うと、眩しげに目を細めて周囲を見た。
<…っ!>
シユマは目の前の人影を認めると瞬時に表情を引き締め、服のポケットからイハッジャを取り出し目の前に構えた。
<大丈夫よ。…と思うわ、一応。>
<…>
懐中電灯のみが明かりとなっている薄暗い廃工場の中、プオラギイックに向かってイハッジャを構えている状態のシユマは目だけ動かしてリジュワナの方を見た。
<彼は…プオラギイックプロジェクト長だよね、確か。>
<お、よく知っているな。肩書きまできっちりと。>
<…説明してもらえる?>
リジュワナに目を向けたままシユマが尋ねる。
<肩書きを知っている位なら分かっているだろうが、俺は一応こいつらの保護役だからな。怪しい宇宙人からこいつらの身を守ってやるのも仕事の一貫だ。>
<…自己矛盾してるんじゃん? それだったら、まずあんた自身が彼女達から離れないといけないでしょうに。>
<俺は怪しさなんかこれっぽっちも持ち合わせていないぞ。>
<…自慢気に言う事でもないと思うんですが…>
アリーザがリジュワナに向けて小さく念じる。眉だけ上げて答えるリジュワナ。
<少なくとも、許しの心はそれなりに持っているつもりだからな。俺は丸腰だろ? そっちも対話の姿勢を見せてもらいたいね。>
<あんたの場合イハッジャ持ってたって大して魔法使えないんじゃん。>
<お前は取りあえず黙ってろ。>
隣の宏子を睨むプオラギイック。
リジュワナが手を軽く上げながらシユマに近づいた。
<…ごめんなさい。私は彼に教えるつもりはなかったんだけど、残念ながら情報が漏れてしまって。ただ彼が主張するには、例の船での洗脳の話等は聞いた事も無いから、もし事実であれば彼も詳しく知りたいそうよ。だから、今日は私達の協力者として来てもらってるの。…今日はね。>
<…>
リジュワナとプオラギイックは無言で視線を交わす。
<…そ。まあ、リジュワナがそう言うなら、今日の所は信用しておく事にするけど。>
シユマは渋々といった顔で、イハッジャを白い服の大口のポケットにすりこませた。
<それにしても、この前渡した非常連絡用の回線をこんなにすぐに使われるとは思ってなかったけどね。星からトンボ返りでまた貨物船暮らしだったよ。>
<迷惑をかけて申し訳無いんですが…どうしても例の船に乗り込みたいという方が出てきまして。>
<うん、まあそれ自体は私達も考えてたんだけどね。>
シユマはアリーザに頷きながら、近くのスタンドの明かりをつけ、隅のテーブルにかけられているシートを引く。中からは、この前リジュワナを宇宙船へと送った大型の魔力増幅装置が姿を現した。
<私達の方で知ってるのは、あの船…フィクバ・モ・ブンティブでは、選ばれた地球の子供達に強力な洗脳教育を施しているっていう事、で、あの船が、魔法協会の本当の対地球対策本部だって事。>
<…それじゃあ、セジュ・クフィは…>
<あんた達はお飾りだね。不思議に思わなかった? クザラル人が初めて出会った「同朋」と呼べる宇宙人への大使チームがたかだか二、三人で、しかも誰も大した魔術師でもなく、予算も本当に微々たるものだったって事にさ。>
<…>
プオラギイックはシユマの念に腕組みして考え込んだ。
<…仮にそうだとして、何で、わざわざ「お飾り」の大使なんか作ったんだ? 「本物」の対地球プロジェクトは何をしようとしている?>
<さあ、何か地球人には知られたくない事をしてるんじゃない? どっかから子供を持ってきて「教育」をしているのは当然その一つだろうけど。…他に何をしてるのかは、私達も今、とても知りたいと思っている所なんだけどね。>
シユマは透明な球状の増幅装置の埃を軽く払うと、改めて、彼女の前を見回した。
<…にしても、ここの情報の「漏れ」方も半端じゃないねえ。>
四人の魔法少女と一人のクザラル人を前に呆れた念を漏らすシユマ。
<…こんなつもりじゃなかったんだけど、情報管理が甘かったわ。>
<系の魔法を使えなかったの?>
<…>
リジュワナは、どこか得意気な表情の宏子と目を合わせる。
<…今回ほど、自分の魔術の未熟さ加減を呪った事は無かったわ。>
リジュワナは肩を上げて念じた。
<…大体、状況の想像はついたよ。>
<まあ、情報が漏れて悪い事ばかりじゃない。>
腕組みしたシユマは、念を発するプオラギイックの方に目を向ける。
<俺は確かに魔術師としては三流かもしれないが、魔法協会の船のコントロールシステムなら、多少は知識があるからな。>
<それは大変頼もしい話だけど、あなた、今までフィクバ・モ・ブンティブっていう船の存在すら知らなかったんでしょ?>
<う…そ、それはそうだが、HYIの宇宙船だったら、船内内部のシステムにそうセジュ・クフィと差は無いはずだろ。少なくともHNKの人間よりは分かってる事は多いと思うぞ。>
<…>
シユマは値踏みするようにプオラギイックの顔を見た。
<…まあ、そうかもしれないけど。具体的に何か情報がある?>
<まずこれが、船内のコンピューターにハッキング可能なカードだ。>
プオラギイックは服からカード基盤を取り出してみせる。
<出来るの?>
<あ、ああ。多分な。これの働きは、ええと…>
プオラギイックは、横で黙って立っている魔法少女の顔を見た。彼女はプオラギイックに気付かない様子で、うつむきながらじっと佇んでいる。
<ええと…モニク?>
<え? あ、うん。ええと…何?>
<この、カード…>
<あ、ああ、うん。>
モニクは慌てて頷きながら、カードを手に取った。
<ええと、プオ…ラギイックさんからセジュ・クフィのコンピューターにアクセスさせてもらって、プログラムパターンを研究させてもらいました。知らないプログラミング言語なので試行錯誤しながらですけど、90%以上の確率で有効な偽IDを通させるプログラムを製作しました。>
<そう…っていう事は、作ったのはあなただって事?>
<ええ。多分基本的に、地球の高ガードなコンピューターネットワークよりもクザラルの物の方がハッキングは簡単みたいです。>
モニクはシユマに頷く。
<へえ…i-Modeとかの方がガードが堅いんだ。>
<…ええっと…それは多分凄く間違いがある気がするよ、ひーこちゃん。>
感心したように念じる宏子に苦笑いを返すモニク。
<そうなん? でもモニク、今さっき、何かぼーっとしてたけど、大丈夫?>
モニクは宏子の念に一瞬まばたきをした。
<え? う、うん、別に、大丈夫だよ。ただ、ちょっとその…まだ、本当にクザラルの人がそんな事をしているのかっていうのが信じられなくて。>
モニクは視線を落とす。

<…私達がフェヨールさん達にこの事を知らせていなかったのは、そういう風にショックを受けて欲しくなかったからなんです。>
アリーザは、多少責めるような調子でモニクと宏子の方に念じた。
<う…うん、私は大丈夫だから…>
<…大丈夫そうな返事には私には全く聞こえません。>
<でもさ。だから、一生私らには知らせない、っていうつもりだったん? 無理でしょ、そんなん。結局私達は、それがどんなにショッキングだったとしても、真実を受け止める事でしか前に進めないんだよ。>
<…それは、そうかもしれませんが…>
宏子はアリーザの顔を見る。
<私さ。自分の姉貴がサクコブに殺された時、最初はそんな状況を認めたくなかった。急に訳の分かんないものに付け狙われて家族が殺されて、そんなのまともに受け止めろっていう方が無理じゃん。>
<…>
<…でも、あの時あれがあったから…私があそこで逃げた時、プオが追いかけて来たから…だから、私はこれからは逃げないって思うようになった。姉貴が殺された事はもちろん悲しいし、それが何かのためになった、なんて風には絶対思わない。けど、もしあそこで姉貴がいなくなっていなかったら…多分、私はこんな風にサクコブに立ち向かおうとはしていなかったと思う。>
<…>
<…佐藤さんは、強い人ですからそう思えたかもしれませんが…>
アリーザは無言のモニクに目を移した。
<…うん。私も、本当の事を知りたいよ。…ショックはショックだけど、やっぱり何も知らないでいるよりはちゃんと本当の事を知りたいもん。>
<…無理をしていませんか?>
難しい表情のアリーザ。
<大丈夫。私は、リーダーについていくから。>
<うわっと!>
モニクはにっこり笑って、隣の宏子に抱き着いてみせた。
<…じゃ、意見はまとまったね。>
机に腰をかけていたシユマは笑顔をみせながら両手を合わせた。


シュウウウウウウウン…。
茶色の壁の通路に、二つの光が現れる。赤い光と紫色の光はそれぞれ爆発するように飛び散り、風と共に周囲に消えた。
無地の白いシャツとパンツを着た宏子は、リジュワナの方を向いて軽く笑った。
<どう、プオの持ってきたチューニングパーツは。ちゃんとニ人を船に送り込む事に成功したでしょ。>
<分かったわよ。プオラギイックやあなたを仲間に入れて大助かり、はい、ありがとう。>
<何、その適当な言い方。>
<時間が無いのよ。いくらセジュ・クフィのパーツでチューニングしたって言ってもここにいられる時間は10地球分なんだから。その間にこの船で何が起きているのか急いで調べないと。>
<分かってるって。でも、本当にこれ、宇宙船なんだよね…あ、あれ、ほら、地球じゃん! 浮いてる浮いてる! この船本当に浮いてるよ!>
宏子は通路の向こう側、宇宙空間とそこに浮遊している地球を映し出した窓を指差し、近づいた。思わず笑顔になる宏子。
同じ白い服のリジュワナは、宏子の様子にやや苦笑しながら念じる。
<一緒に感動したいのは山々だけど、まずはどこかにアクセス可能な端末が無いか調べたくない?>
<あ、うん。…じゃ、まず、その子供達のいる場所を教えてよ。>
<子供達? …何でまた、今子供達に会うの? 話じゃ信用出来ない?>
<そうじゃないけど、やっぱり会って確かめたいじゃん。…それに、どういった事を教えてるのかとかも気になるし…>
リジュワナは眉をよせる。
<…確かにそれも重要じゃないとは言わないけど、まずはもっと情報を調べない? それに、地球人とはいえ人と会うのはリスクが高いし。あそこは全部「教室」って書かれていたから、「自習」の時間でなければ教師役のクザラル人がいてもおかしくないのよ。>
<大丈夫だって。だから怪しまれないようにプオとかじゃなく私達が来たんだし、モニクの作ったウソIDだってちゃんと用意してあるし。>
<それがセジュ・クフィ同様に効くかどうかだって分からないでしょ?>
<良いから。ちょっと教室を見させてよ。前は気付かなかった事が分かるかもしれないし、…じゃなかったら、私教室行くからその間にどっかでアクセスする?>
宏子は腰のポケットからカード基盤を軽く出す。
<…分かった。リーダーの言う事を聞くわ。でも深入りしないでよ。時間はあっというまに無くなるんだから。>
<うん、分かってる。>
<…>
リジュワナは頷く宏子をしばらく見てから、通路を早足に歩き出した。
<…こっちよ。>


リジュワナの後を追う宏子は、通路を見回す。
<…それにしても、何か大昔の学校の廊下みたいな雰囲気だよね。>
<大昔と言うか、私の田舎の小学校を思い出させるわ。>
前を向いたまま答えるリジュワナ。
<あ…そう? …えっと、そういうつもりで言った訳じゃないんだけど…>
<分かってるわよ。でも私の国が遅れてるっていうのは、単純に事実だから。>
<はあ…>
<…それをわざわざ宇宙船の内装にするクザラル人のセンスは、やや理解に苦しむわよね。>
<…田舎の気分でも味わいたいのかね。こう、穏やかな気持ちで…>
<そういう気持ちで、洗脳とかを平気でするのが彼等の怖い所ね。…ここよ。>
立ち止まるリジュワナ。宏子はリジュワナの視線を追う。そこには「第6教室」とエウグ語と英語で書かれたプレートの貼られたドアがあった。

宏子はリジュワナを横切り、ドアの前に立つ。
<宏子…?>
ピピッ。
電子音と共にドアが開く。教室の中に入っていく宏子。やや呆気にとられていたリジュワナが、その後に続いた。
<おや? 君達、何の用だ? まだ授業中だぞ。>
第6教室の中では、十数人の子供達が椅子に座り前を向いていた。教室前方のホワイトボードらしきものの前にクザラル人の男性が立ち、こちらに不審そうな顔を向けている。
<あ…>
男性につられ、地球人の子供達も一斉にこちらを向く。思わず念を漏らすリジュワナ。
宏子は笑いながら手を腰から頭へと動かした。
<あ、すいません。もう教室空いてると思ったんですけど。ええと、後こっち何分位使われますか?>
<ん? それは、今が42時70分だから…>
男は自分の腕端末に目をやった。宏子は後頭部に置いていた手を自分の胸元におろし、隠し持っていたイハッジャを出して構えた。
<フィア・ディカウム!>
プシュウッ。
<ん? ウアァァッ!>
宏子から赤い光の弾が放たれ、男を直撃する。
ドサッ。
男は弾にはじかれるように飛び上がり、その場に倒れこんだ。
<ちょ、ちょっと宏子!>
<大丈夫だよ、こないだ習った系の魔法。リジュワナも知ってるでしょ? これは単に相手を眠らせるだけだから。>
<それは分かってるけどいきなり襲わなくたって良いでしょ!>
<おい、お前、先生に何をしたんだ!>
宏子達の前に、「生徒」の男の子が詰め寄ってきた。
<君達。この先生はモンスターに心を操られていたんだよ。だから、今はちょっと、系の魔法で眠ってもらったんだ。>
<…宏子?>
子供に答える宏子に、リジュワナは怪訝そうな目を向ける。子供は宏子を見上げた。
<…モンスターに?>
<うん。モンスターはこの船の事に気付いて、今君達を襲おうとしているんだ。だから、皆で今すぐこの船から逃げないと!>
<…な、何言ってるの宏子?>
宏子の念に、子供達は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
<ほ、本当なの?>
<じゃあ、私達で戦わないと!>
<その前に、先生達に知らせなきゃ!>
<あ、そうだよ、他の皆に知らせないと!>
<残念だけど、もう既に殆どの先生がモンスターにやられたか、操られてるかしてる。私の所の先生も、やられちゃったんだよ…。>
悲しそうに宏子は首を振る。
<え、嘘!?>
子供達は不安気に宏子を見る。
<先生達は皆、モンスターに立ち向かっていったんだけど、歯が立たなかった。先生達で駄目だったんだよ、私達じゃ絶対に勝てない。まずはこの船を脱出して、それから反撃の機会を練ろう。後、7ふ…、じゃない、えーと、35分でここを瞬間移動で出るから、それまでに皆脱出の準備をして…>
<…宏子。>
宏子の前にリジュワナが立ちふさがった。
<あまり面白い冗談じゃないわよ。そろそろやめてくれないかしら。>
<何が? 私冗談言ってるつもりなんか無いんだけど。…ねえ皆、隣の教室は今生徒達いるかな? いたらその子達も>
<やめてって言ってるでしょ。>
<何よ。>
宏子は目の前のリジュワナを睨み返した。
<…今がチャンスなんだよ。ここで何人かでも、この船の洗脳から子供を救い出せるんだよ。>
小さな念で宏子がリジュワナに伝える。リジュワナが小さな念で返した。
<そんなの無理でしょう。大体、二人こうやって来て戻るのがチューニングした上での限界なのにどうやってこんな大人数移動するのよ。>
<この子達だって多少の魔力は訓練してる訳だし、私達が魔力でこの子達を包める位に頑張れば照射気律も何とか越えられるって。>
<無茶言わないで! 精神論で乗り越えられるような話じゃないでしょう!>
<お姉ちゃん、二人で何話してるの?>
宏子の足元に女の子が近づいてくる。女の子の頭をなでる宏子。
<今、脱出の技術的な相談をしてるの。モンスターに気付かれないように、そこで静かに待っててね。>
<うん、分かった。>
女の子は頷き、子供達の方に戻っていく。
<…大体、何でこの子達を宇宙船から出さないといけないの?>
宏子はリジュワナの念に口を開けた。
<…は? 何言ってんの? 酷い目にあったって、あんたが言ったんじゃん。>
<私にとってはそうだったけど、多分この子達はそんな事感じてなんかいないわよ。>
<それこそそれが洗脳されてる証拠でしょうが。だからこの子達を救い出そうとしてるんじゃんさ。>
リジュワナは腕を組んだ。
<…確かにそうかもしれないけど、この子達を救い出して、何か私達の得になる?>
<…リジュワナ、あんたこそ何かふざけてない?>
宏子のテレパシーに怒気が混じる。しかしリジュワナはそれにひるむ事なく宏子を正面から見返した。
<今ふざけてる暇なんか無いわ。宏子、ちゃんと考えて。洗脳でも何でも良い、この子達は今ここで、魔法少女としてはある意味最高の英才教育を受けてるのよ。私達みたいなお飾りとは、比較にならないようなね。>
<な、何言ってんの。>
<モンスター達が地球を問答無用で襲って来ているっていうのは事実、それに抵抗出来るような力を持った地球人が、今私達以外に誰もいなくて、そのお陰で地球が危機に陥っているっていうのも事実なの。だったら、この子達はここで強い魔法少女・少年として育ってもらえば良いじゃない。今は誰の手でも借りたい時なの。生き延びる為には、手段なんか選んでられる状況じゃないのよ。>
<リ、リジュワナ、あんた…>
<ええ、そうよ。確かにここの子供達は可哀相よね、恐らく強制的にここにさらわれてきて、判断力も無いままに一方的な見方を押し付けられているんだから。多分、痛い思いもたくさんしてるでしょうしね。人道的見地からすれば助けるべき、なのはもちろん分かるわ。でも、今はそんな奇麗事言ってられる状況じゃない。HYIが何を考えてるかは知らないけど、魔法少女は絶対的に足りないの。これは私やあなたの命に直結する問題よ。この子達がもっと早くからここにいれば、あなたのお姉さんだってやられなかったかもしれないでしょう。>
<そういう問題じゃないでしょ。この子達には自由は無いの? この子達の人生は私達が決める事じゃないじゃん!>
<ここから解放させるっていうのがまさに、私達がこの子達の人生に介入するっていう事じゃない。それが原因で、この子達を含め地球が滅びる事になったらどう私達は責任をとるの?>
<くっ…>

リジュワナは振り返り、子供達の方向へイハッジャを構えた。
<フィア・ビャクニウ。>
シュウウウン、ブシュウッ。
リジュワナの目の前で紫色の光が弾となり、子供達の頭上で花火のように散り放たれる。
<え? …あれ?>
子供達は一瞬不思議そうな顔をしてから、お互いを見合った。
<あれ? 今日は先生は?>
<今日は…自習の日じゃなかったっけ?>
<あ、そうか。じゃあ、第5教室でトレーニングしてようか。>
子供達は頷き合い、ぞろぞろと隣の部屋へ歩き出した。

<ちょ…>
<聞こえないわよ。そもそも私達が見えてもいないんだから。>
子供達に手を上げ、テレパシーを伝えようとする宏子の前を遮ってリジュワナが念じる。
<あんたって…時々本当にムカつく事するよね。>
<何とでも言ってちょうだい。私は…後6分間、ここで魔法をかけ続けるわ。どうしても彼等を連れて帰りたいんだったら、まずは私の魔法を解除する事ね。>
<物理的にあの子達に近づいたら?>
<物理的に近づけさせたりなんかしないわ。>
リジュワナは宏子と向かいあいながら、イハッジャを胸の前に構えた。
<…>
<どうする? それでもあなたの自己満足の為に全てを犠牲にしたい?>
<…>
<…>
人のいなくなった第6教室で対峙する宏子とリジュワナ。
<……フンッ。>
宏子は顔をそむけると、通路に繋がるドアへ歩きだした。


−ったく…何、あの馬鹿? 前からキツい所あるとは思っていたけど、あそこまでの冷血女とは想像を絶するね!
宏子は奥歯を噛みながら宇宙船の通路を早足に歩いていた。宏子はふと、顔を上げ目を細める。
「…あ、やば。」
−向こうから誰か来てるな…どっか隠れる場所…
周囲を見回す宏子。宏子は一番近くのドアの前に走る。
−えっと…? あ、何これ、エウグ語しか書いてないじゃん。って事は生徒用の場所じゃないのか…? えっと…
通路の前にもう一度目を向ける宏子。直線の通路の向こうの人影はまだ小さいが、ちゃんと前を見ればお互いの人種が分かる位の距離にはなっている。向こうは書類か何かを見てこちらに気付いていないようだが、少し視線をずらされればもうアウトだ。宏子は前方とドアとを交互に見た。
−う…いいや、イチかバチか!
宏子はドアの前に立つ。開くドアの先へ宏子は駆け込むように足を進めた。


ピッ。
宏子の背後のドアが閉まる。と同時に真っ暗な部屋に自動的に明かりがついた。
−え、誰か居る?…ただのセンサーか…。
宏子は辺りを見る。棚に色々な形の樹脂容器が置かれている。どうやらここは何かの器具倉庫のようだ。
「…」
ほっとした様子で軽く息をつく宏子。宏子は容器に書かれたエウグ語らしきラベルに目をやる。
「…あ」
そこから視線を外した宏子は、壁を見て小さく声をあげた。
−これ、使えるかな?
宏子は倉庫の壁の一角に歩み寄る。そこには非携帯型の端末コントローラーと思われるコントロールパネルが付いていた。
「…」
宏子は自分の腕端末の表示を見る。
−もう後4、5分か。…何もしないよりは、少しでも何かするに越した事は無い、よな…
「…うん。」
宏子はパネルに目を向けた。
「と…」
ピ、ピッピッ。
パネルを操作する宏子。コントロールパネルから飛び出るように、宏子の目の前に大型のバーチャルディスプレイが表示される。
「お…」
小さく呟く宏子。宏子はポケットからカード基盤を取り出し、コントロールパネルにあるジャックにはめこんだ。
ピピ、ピッ、ピッ、ピピッ…。
電子音を上げるコンピューター。宏子はディスプレイの横に表示されたバーチャルタッチパネルの前で指を踊らせる。
−えっと、ここの丸を押して…この、日の丸で…オッケ、日本語表示モード出来た。
「で…」
宏子は画面に目をこらす。
−えー、メニューに戻って…何だろうな、どの項目を見れば良いんだろ…ああ、時間も無いし…えっと、フロア案内、じゃないな…あ、これ、業務報告?
宏子はタッチパネルを操作する。
−んー…「当船の存在が地球人に知られた形跡について」…いいや、飛ばそう。えっと…「地球同胞の魔術指導、1から3組(14月)の経過」…今、そんなのいいや…え、「今週の掃除当番」? そんなの報告なんかしなくて良いじゃん…。
目を細めながら画面を見る宏子は、ふと手を止めた。
−…ん…あ、何これ、「総合作戦会議議事録 15/01」? 日付が地球の暦でいつなのか分かんないけど、見てみよう…。
宏子の目の前のバーチャルディスプレイの表示が変わる。腕の端末に目をやる宏子。
−後3分か…。
ピッ。
ディスプレイにアラートウインドウが現れる。
−え? 「この文書はセキュリティーコード2以上のパスワード入力を必要とします」? えっと、M-O-N-I-C-H-A-N、と。
ピピッ。
パネルを操作する宏子。ウインドウが消え、ディスプレイに新たな文書が表示された。
−…うわ、文章長ぁ…あ、これは? 補足…あ、その時配った資料?

う事から、サクコブ生命体が地球の環境に適応するには今しばら
く、恐らく10ヶ月以上の時間を必要とすると思われるが、この期間
も地球の防衛体勢を固めるには余りに短く、戦況は不利であると言
わざるを得ない。

3
今までの作戦結果:
地球同胞は我々と同様に知的な人型種族であり、我々はこれを尊重
し友好的に彼等との関係性を保つ事を選択した。つまり、彼等を正
しい方向へと導く作業は、無用な混乱を避けるため、沈黙の中、彼
等が疑問を持たない内に効率的に行わなければならない。残念なが
ら、地球同胞の持つ独自の思考形態、文化様式へのこちらの理解不
足から生じた誤差により、このガイダンスは時に完全な成功とは言
い難い結果に終わってもいる。我々の更なる許しの心と、地球同胞
との関係性向上に努める姿勢が求められている。

3-1
いわゆる「対地球人友好樹立プロジェクト」対象者について:

−あ、私ら?
宏子は口に手を当てながら読み進める。

づいて、作戦が進められた。
ブエノスアイレスを壊滅させる作戦は、完全な成功に終わった。以
前からボーシャン6で実験が繰り返されてきたKhO-3型無限増殖式
人工魔弾は地球大気圏下でも期待通りの反応を見せ、中心落下地点
から半径2万7500オキの範囲をほぼ100%破壊した。この魔弾によ
る殉死者は882万人を数える。(14月22日現在) 地球の各国政府、
国際機関はこの「攻撃」に期待以上の反応を見せ、「プロジェクト

−…な、何、これ…
宏子はまばたきをする。文の表示をスクロールする宏子。

女達においては、特にNKの高いサトー・ヒロコ(9歳、日本人)の
誘導が最も重要である。彼女については、当初は戦闘への目的意識
が低く、その為12月20日に意識を向上させる作戦が行われた。これ
はサクコブの戦闘を装い彼女の実姉を本人の目の前で殺害し、それ
による彼女の怨恨で、戦闘意識を高めんとするものである。この作
戦自体はサトーに何の疑いも持たせる事なく遂行に成功した。だ
が、地球人である彼女のその後の反応は我々の予想していたものと
は全く逆で、戦闘意識を高めるどころか、逆に喪失感による厭戦意
識を高め、自殺未遂まで起こさせる結果となってしまった。この事

−…な…な……って…う、そ…って…これ…
宏子は画面に目を釘付けになったまま、動かず立っていた。宏子の口が小刻みに震える。
「…な…サ…サトー、って……わ…た…これ……わ…」
宏子はまばたきをする。宏子の左目から、水滴が頬を伝わり落ちた。

続く



Written by FML (AKA Franken).
Ver. 1.00 on 2002/8/28.

<食らえ、マジカル・フラワーシャイニーング!>
<…何を素っ頓狂な事を叫んでるんですか、ステッキ振り回して。>
<いやあ、私達魔法少女魔法少女言ってるわりに、何かあんまり魔法少女っぽくさせてもらってないからね、後書きだけでも決めようかな、って思って。>
<そうですか、それはお疲れ様です。…でも、私達の「魔法」って、一体どこが魔法なんでしょうね?>
<何かそれを言ったら根本的におしまいって感じがしないでもないけど…多分、クザラルの科学でも完全には解明出来ていない超自然的な部分があるもの、もっと端的に言っちゃえばなーんか怪しいもの、って事なんじゃないかなあ?>
<なるほど…では、そういった一種の超能力を私達は、地球人にしろクザラル人にしろ、何で急に使えるようになったんでしょうか?>
<さあ…お猿さーん!型の知的生命体は、皆そういう進化の道をたどるもんなんじゃないの? 次回、魔法少女佐藤第12話、「魔法少女の夏休み」。お楽しみに! >
<…でも、どうせ魔法だったらもっと怪しい答えの方が楽しいですよね。>
<…あの…お猿さーん!って部分にツッコミは…>



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