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バーチャルディスプレイに茶色の肌のクザラル人女性が映し出された。
「お元気でしたか、ジュチャさん。」
女性はこちらに向かって両手上げをする。
「はい、お陰さまで。そちらもお変わりないようで何よりです。」
セジュ・クフィの自分の事務室のデスクに座っているジュチャは、女性に両手上げを返し頭を下げた。
「さっそくですが、15050026の件は読まれましたか?」
ディスプレイの女性は文書の表示されたバーチャルディスプレイに目を向けながら話す。
「はい。目を通させて頂きました。」
「何か疑問な点などはございますか?」
「はい。疑問、といいましょうか、余りに唐突な話なので驚いたというのが正直な所です。恐らく彼女達も戸惑うのではないかと思いますが…」
「彼女達魔法少女の魔力向上には目覚しいものがありますから。我々魔法協会の方でも、彼女達の頑張りに答えて対応をしていこうという事です。」
「はい、でも本当に、ふいの敵襲に対応出来るのでしょうか?」
「その不安はもっともです。そのために私達の方でも今まで以上に、地球同胞の皆さんを手助けさせて頂く魔術師の方々に、そちらへ向かって頂こうと考えているのです。」
ディスプレイの女性は微笑をたやさずこちらに答える。
「それは大変心強い事です。ありがとうございます。ですが、何故今になって急にこちらへ? 母星防衛の方も、決して楽観視できる状況ではないと聞いていましたが…」
「確かに我が母星及び共同領域の防衛線の重要性はいささかも変わってはおりませんが、同時に地球の重要性も無視出来ません。先のブエノスアイレス大虐殺の件では、私達は深い悲しみと悔恨の念にかられました。モンスターのあのような暴虐は、今後二度と許してはなりません。地球を第二のクザラル星にしてはいけないのです。」
ジュチャは真剣な表情で、女性の言葉に聞き入り頷く。
「課師補の地球同胞への愛に心洗われる思いです。…ですが、告白しますと、まだ私は不安なのです。本当にあの子達一人一人で、モンスターに対応していけるものなのでしょうか?」
課師補は頷きながら、ディスプレイの文書を見る。
「対応していけるか悩むより、まずは、対応していけるよう皆さんにより一層の努力をお願いする、という事でしょう。モンスターは最近、春日部の魔法少女達をあえて避けて出現する事が増えているのです。昨日のシーラズで、既に4回連続、春日部以外の場所で現れた事になります。いずれもNK100以下の子供を狙い撃ちしたものです。」
「魔法少女の若い芽を狙っている訳ですね。」
「その通りです。ですから今回の提案となりました。私達魔法協会は、全力を上げて地球同胞の皆さんに救いの手を差し伸べなければなりません。何故なら、地球人は私達クザラル人の出会った初めての、知的生命体なのですから。」
「はい。」
ジュチャは女性の言葉に、感銘を受けた様子で頷いた。


魔法少女佐藤

第12話「魔法少女の夏休み」


朝の日差しが眩しい。強い光は街路樹から何筋かの線となって漏れ、車道に強いコントラストの線を描き出している。
警備のヘルメット姿は相変わらず多いが、最近はこの道に陣取っているテレビカメラの数もめっきり少なくなっていた。ここを通学路として通る学校の生徒達は、もうカメラにすっかり慣れた様子で彼等の前を通り過ぎていく。
T字路先の歩道で立ち止まり、談笑をしていた美耶はふと人影に気付くと、にっこり笑って右手を上げた。
「おーい、ひーこ!」
「…あ、美耶。志穂。」
歩道を歩いて来ていた宏子は顔を上げると、呟くように答えた。
「よっ。」
「…おはよう。」
特に志穂に目もくれず、そのまま歩いていく宏子。志穂と美耶はお互いを見合って首を傾げた。
「どうしたの、ひーこ。今日は随分元気無いね。」
前を歩いていく宏子に早足で追いついた美耶が、宏子の顔を覗き込む。
「まあね…。朝はテンション低いって。」
「そういう台詞はもっと知的な奴の言う言葉だろ。」
宏子は志穂の言葉に怒るでもなく肩を上げる。
「何でそんな事決まってんのよ。別にバカがテンション低くたって良いじゃんさ。」
「ん? 今日の佐藤バカは切り返しも弱いねえ。」
「るっさいなあ…」
宏子は鬱陶しげに頭をかく。
「ひーこ大丈夫? どうしたの、体調悪いの?」
宏子をの方を向いた美耶の表情が見る見る曇ってゆく。
「いや、ううん、大丈夫大丈夫。ただ、…うーん…」
「ただ、何?」
「あー…」
美耶の顔を見ていた宏子は、また頭をかきつつ苦笑した。
「あはは、何でもない。あのー…ああ、小英が言う事聞かないからさ、頭痛の種だなーとか、そういうんがちょっと頭にあって。」
「はあ…」
余り納得していない顔つきの美耶。
「シャオイン…?」
「あれ、志穂ちゃん知らなかったっけ。最近ひーこの家に来た女の子。中国から来たんだよ。」
「は? また増えたのか、お前んとこ?」
志穂は美耶の言葉に呆れた顔になる。
「うちに来る魔法少女は、無限増殖し……笑えねえ…」
頷く宏子。宏子は途中まで言いかけて、小声で自分の言葉に顔をしかめた。
「でも、その子は他の子達と違ってまだ12…だったっけ?なんだ。そうすると、結構とっつきづらいのかもしれないよね。ほら、ひーことか本人が12くらいの精神年齢だから、それで逆に衝突しちゃうんじゃないかな。」
「ああ…かといってリジュワナとか、他の外人勢だと皆二十歳くらいの精神年齢だから、これもまた合わないしな。」
志穂は美耶に頷いてみせる。
「…」
「…」
「…」
美耶と志穂は宏子の方を見る。宏子は一人物思いにふけった様子で、二人を置いてさっさと歩いていく。
「…これ、これ。」
宏子の目の前で手を振ってみせる志穂。
「ん、あ、何?」
「お前今日は本当に電源入ってないな。」
「…ひーこ、本当に本当に大丈夫?」
再び美耶は宏子の顔を覗き込む。殆ど条件反射的に引きつり笑いをうかべる宏子。
「いや……まあ、色々あるけどさ。…ぶっちゃけた話、あんたらに言えるような内容じゃないんだわ。」
「…」
「…」
宏子の言葉に目を見合わせる美耶と志穂。
「魔法…絡み、だよね?」
「ま、ね…」
宏子の眉間に力が入る。
「…あああもう、何て言うか、誰が味方なのかな、っていうかさ。最初プオが来た時は、迷惑ではあったけど簡単だった…敵はモンスター、だからそれを倒せば良い、ってだけだったから。でも今はもう、何が何だか分かんない…クザラル人が、っていうか魔法協会が私達の味方だとは、とても信じられない…」
「…でも、プオさんはひーこの事をいつも凄く心配してると思うけど…」
「あれはちょっと頭おかしいの。…けど、あいつもいつまでも私達の「味方」やってたら、絶対自分の立場が危うくなると思う…何となくだけど、そういう気がする。」
「じゃあ、プオラギイックは置くとしても、魔法を教えてくれるクザラル人達は皆敵、って事なのか?」
「敵…そうかもしれないけど、でもクザラル人がいなかったら、モンスターとは戦えないし…」
「…」
「…」
三人は同時にため息をつく。
志穂は自分の鼻をこすると、宏子の背中を軽く叩いた。
「…まあ、色々難しい事はあるけどさ。とにかく私は宏子の味方だから。ま、だから何が出来るって訳じゃないかもしれないけど。愚痴聞いてやる位だったら、いつでも相手してやるからさ。」
「あ、うん、私も。私もいつでも愚痴聞くから。」
「そんなに私グチグチ…してるか。でも志穂は部活あるし、美耶は病院があるでしょ?」
「私も部活があるの。」
ムッとした顔で言い返す美耶。へへ、と宏子は笑った。
「ま、美耶の場合やってほしい事って言ったら、ちゃんと自分で起きてくる事だね。私があんたん家起こしに行こうとすると、やっぱ色々迷惑かかるでしょ。」
「別に迷惑なんかじゃ…ああっ、っていうか私ちゃんと自分で起きてきてるもん。」
「おばさんが何かの用事でいない時でも、ちゃんと起きてくるんだぞ。」
「ぬ…ぐ…」
志穂の指摘に言葉を詰まらせる美耶。それ見る宏子は肩をふるわせ、表情を緩めた。
「あ…」
「ん?」
ふと反対側の志穂が立ち止まった事に気付き、宏子はそちらに顔を向けた。
志穂が見上げる視線を追う宏子。
「…」
その先にサクコブ生命体を認め、宏子は無言で眉をひそめた。


「…あ、志穂、美耶、出来るだけここから離れ…志穂?」
「あ…で…ひ…ひやっ…ひ、ひ、ひ、ひいいいっ」
「…志…穂?」
志穂は腰を地面につけ、座り込んだまましゃっくりのような叫び声を繰り返している。志穂を見て表情を変える宏子。
「ちょっと、あんた…」
「ひいっ、ひいっ、ひいっ、ああ、ああああ」
怯えた表情で宏子に首を振る志穂。
「志穂ちゃん、ここはまず、逃げな…重い…と。」
美耶が志穂に肩を貸す。自分がよろけかけながらも何とか志穂を立ち上がらせる美耶。
「じゃ、ひーこ。」
「うん。」
宏子と美耶は目を見て頷きあう。鞄からイハッジャを取り出す宏子。
<他の子呼んだ?>
<どうせ呼ばんでも来るでしょ。志穂お願いね。>
<うん。>
美耶は志穂を引きずるようにその場を離れる。宏子のイハッジャにはめ込まれた投影石が徐々に光りだす。
宏子は呼吸を整えると、軽く笑みをうかべ前方の生命体に目を向けた。
<気律の力を我の頭上に。フィア・ディシュ!>
シュウウウウウウウウウウン…。
イハッジャの数センチ先の空間から、赤い光が生命体に向け発射される。
ブズズズ、ブズズズズ…。
「ちっ。」
羽をひとなぎさせ、車道の上空を旋回しつつ光をよける生命体。
生命体はそのまま車道に降り立つ。追いかけ、歩道のガードレールを飛び越える宏子。
ププ、ププーッ!
「…」
道の向こうからやってきた軽トラックが警笛を鳴らす。生命体の立っている側の車線を走っていたトラックは急ブレーキをかけ、横転しかけながら生命体の目前で停止した。
−機動隊員は集まり悪いな…早く交通整理してくれないとそれが原因で事故が起きるよ…っていうかもうカメラは大分集まりだしてるんだけど…あんた達もまずそっちをやってよ…
歩道を冷静に見回し、不機嫌気に息をつく宏子。
ブズズズ、ブズズズズ、ブズズ…。
<…っ!?>
ふいにチクリとした痛みを感じ、宏子はよろけかけながら、右手で頭を押さえる。
−何、新しい系魔法か何か?
<え…?>
しかしすぐに痛みはやむ。手を離し、意外そうに生命体を見る宏子。
ブズズズズ…。
生命体は青い光の攻撃弾を数発、宏子に向けて撃ってきた。しかしどれもスピードが遅く、本気で攻撃しているというよりは宏子への牽制のようだ。
「…」
アスファルトの上を小走りに動きながら宏子は生命体の動きを注視する。
ブズ、ブズズブズズズ…。
生命体はその巨体をふわりと浮かせ、宏子の方に近づいてきた。
<…ザナ・キュディヌ・ヒオ。>
イハッジャを胸の前に構え、一瞬目をつぶる宏子。次の瞬間宏子は光に包まれながら浮かび上がる。道路上数十センチの空中を滑るように後退する宏子。
ブズズズ、ブズズズズ、ブズ、ブズズズズ…。
さっきまで宏子が立っていた地点までやってきた生命体は、そこの上の空中で静止する。盛んに「舌」の部分を震わせ、音を上げる生命体。宏子はその様子に眉を寄せた。
−まともに攻撃する気が無いんかな…。
「まいいか。」
宏子は地上から3メートル程度の空中にまで、ややバック気味に浮上する。落ち着きつつも鋭い視線で、彼女は右手のイハッジャをもう一度自分の目線の前まで持ち上げた。
<気律の力を我の頭上に。フィア…あっ>
シュウウウウウウウウウウンズバアアアアアアアアアアアアン!
宏子から攻撃弾が発射される。その直前に生命体の体の周りが光りだし、その光の裂け目に埋もれるようにして生命体は姿を消した。攻撃弾は生命体がいた場所を素通りし、道路のアスファルトに直径30センチ程度の半球状のくりぬきを残して消滅した。
<…>
宏子は眉を上げたまま、ゆっくりと道路に降下した。


車道に降り立った宏子は、光を失いつつあるイハッジャの投影石に目をやってから、歩道の方へと歩いていく。歩道の脇に放り投げていた鞄を拾う宏子。
「ひーこ!」
「お。大丈夫だった?」
宏子の所に美耶が駆け寄ってくる。鞄の土を払いながら宏子は尋ねた。
「うん。見ての通り車は何台か危なかったんだけど、怪我した人とかはいなかったみたい。」
車道のそれぞれの車線に止まっている自動車に目を向けながら言う美耶。
「あそ。」
「ひーこは大丈夫? モンスターやっつけた?」
「いや、瞬間移動で逃げられたよ。見てなかったかい?」
宏子は自分の制服の乱れを直しながら答える。
「っていうかあのモンスター本気で攻撃してこなかった。結局何しに来たんだろ?」
「ふーん…ひーこの恐ろしい恐ろしさに恐れおののいた、とか?」
「人を化物みたく言うな。…志穂は?」
「え? えー…と…」
美耶の視線の先に目を向ける宏子。志穂は歩道の奥に座り込んだまま、こちらを凝視するように見つめている。
「ちょっと、志穂、大丈夫?」
宏子は志穂に走りよる。
「いいいいやあああああああああっ!!」
「えっ!?」
志穂は宏子の差し伸べた手を振り払い、腰を地面に付けたまま後ずさる。
「こないでっ! ここここないで、こな、こな…ああああ…」
「志…穂? あの…私。分…かるよね? あの、もうモンスターいないから。取りあえず、ね?」
宏子は再び手を差し出す。
「キャアアアアアアアアアッ!」
「っ!」
志穂は自分の右手を素早く引っ込めると、腰をつけたままずるずると後退し、首を振った。
「こない、こないで…こな、こない…こないで…たす…け…こな…こない…こない…こないで…いや、いや…いや、いや、いや、いや…」
「志……穂…」
宏子は呆然と立ったまま、差し出した手をゆっくりと下ろした。美耶が志穂に駆けより、腰を降ろして彼女の肩を抱く。
<あ…ひーこ、あの…今は志穂ちゃんは、私が見るから。志穂ちゃんモンスター見るの初めてだったから、それで混乱してると思うんだ。ひーこはその…あ、ほら、今ジュチャさん達が来ると思うから、そっちに説明を。志穂ちゃんとはまた落ち着いた時に、ね?>
<う、うん…>
普段の彼女からは想像もつかない表情の、涙と唾液まみれの志穂の顔を見ながら、宏子はただ立ち尽くしていた。


<今日皆に集まってもらったのは他でもないわ。>
魔法少女達を見回しながら、両手を腰に当てたジュチャが念じた。
<…>
体育館の床に座っているジャージ姿の魔法少女達は、一様にやや呆れた顔で目の前の宇宙人を眺めている。
ジュチャの横にはプオラギイックがあぐらをかいて座り、反対側には茶色い肌のクザラル人男性がバーチャルディスプレイを表示させながら立っている。
<…何を言ってるんだ彼女は? 今日に限らず、毎日ここか河原で練習で集まってるじゃないか。>
一同の総意を代表する形で、他の少女が伝えるに伝えられなかった念を堂々と念じる小英。
<…まあ、話を聞きましょう。>
リジュワナは内心小英に頷きながら、眉だけ上げてみせた。
<数日以内に。…まあ、色々準備があるから本格的には再来週位からかしら? ここの魔法少女の皆さんは、それぞれ個別に戦ってもらう事になります。>
ジュチャの念に一同は顔を上げた。
<…どういう事?>
ジュチャは宏子の方を見る。
<それだけあなた達の魔力が上達したって事よ。現在モンスターはここにいるあなた達を避け、地球の別の場所を攻撃する事が増えてきています。>
「ソドゥ、例の画面を見せて。」
横のクザラル人男性にエウグ声で言うジュチャ。男は頷くと画面を操作し、ジュチャに画面の一部を指差してみせた。
「こちらです。」
<ええと…ブエノスアイレス…はあなた達もいたけど、その後でウクライナのエリスタ、パキスタンのムルターン、イランのシーラズに出現したのね。どの場合も、まだ魔力の少ない魔法少女を狙っているの。>
<それで? ブエノスアイレスの結果はもう知ってるけど、他の場所も、モンスターは成功した?>
<残念ながら、…ええ、どの場合もモンスターは標的の魔法少女を殺害したわ。>
ジュチャは深刻な表情でリジュワナに答えた。無表情にそれを見るリジュワナ。
<ふーん…って事はクザラル人はまた三人地球人を殺した訳だ。>
ジュチャは宏子の念に眉をよせ顔を上げた。
<何言ってるの。襲ってきたのはモンスターよ。>
<…いい加減サクコブで良いじゃないですか。>
自分の髪をつくろいながら独り言のように念じるアリーザ。
<…>
<サクコブでもモンスターでもいいけど、それが襲ってきたって、ウチらがいればかなりの確率で撃退は出来てた訳でしょ、今までの戦績から考えてさ。>
宏子が念じる。ジュチャは頷いた。
<…そうよ。だから、今回の話になったの。今、こちらの方で魔力がある事を確認している地球人は、あなた方を含め22名います。でも今まではこちらも各人の人権に考慮し、その中でもNK100以上のあなた達のみをこちらに呼んで、集まっていてもらったの。当然自由意思でね。>
<…>
ジュチャの念に、魔法少女達は無言で目を見合わせる。
<何?>
ジュチャが聞く。リジュワナが軽く手を上げ、首を振った。
<…いえ、話を続けて。>
<そう? …で、そういった状況が変わってきました。私達はモンスターがNK100未満の人を狙う事は無いだろうと思っていたんだけど、読みが覆されたの。あなた達が一人一人でもモンスターとかなり互角に戦えるようになっているという事もあるし、これからは皆が世界各地に散らばって、NK100未満の、言ってみれば魔法少女候補生、達と一緒になってモンスターと戦ってほしいと思うのよ。>
<一応質問しますが…それだったらその幸運な「候補生」の方々も、全員ここに呼べば良いのではないですか?>
<私達も、微弱な魔力の人達の居場所を全員把握している訳じゃないの。でもモンスターにはそれが分かるかもしれない。そういった時に、その場所がいつも日本から、あるいはある特定の地点から、距離的に近いとは限らないでしょ? だから、それぞれ別々の場所にいた方がそこまで行く時間が短くてすむ、っていうのが今回の話なのよ。>
<なるほど…つまり、私達が飛行機で移動する時間が少しでも短くなるように…と。>
<ええ。>
<…>
魔法少女達は、一様に白けた表情で息をついたり、頭をかいたりしている。
<皆の心配は分かるわ。だから皆には異動してもらう時に、一人につき一人、応援のクザラル人魔術師がつきます。皆私と同じ7級の資格者だから魔力に問題は無いわ。>
<えっとさ、ね、そろそろ話していい?>
宏子が念じた。彼女の横に体育座りしているリジュワナは、宏子に無言で肩を上げてみせる。ジュチャは彼女達を見た。
<何?>
<色々言わせてほしい事はあるんだけど…まず、その分散するっていうのが分からないんだけどさ。私ら魔術が使えるんだから瞬間移動すればすむ事じゃん。>
<…確かに魔力が上がっているとはいえ、増幅装置とかの関係で、あなた達の瞬間移動は距離は数オキ単位、最大でも数万オキがいい所じゃない。違う国で何かあった時とかに移動は出来ないでしょ? まあ、リジュワナやアリーザがここに来た時は瞬間移動だったけど、あれはむしろモンスターが引っ張ってきた訳だし…>
<だからその増幅装置をさ、セジュ・クフィのでも良いから使えば良いじゃん。>
<だから、それは地球人には使えないのよ。危ないって話はもう何度もしてるじゃない。>
<それならフィクバ・モ・ブンティブのでも構わないですよ。>
<え? …何それ? イメージじゃなくて固有名詞よね? 何か、エウグ語の地名みたいな感じに聞こえたけど?>
ジュチャはアリーザに聞き返す。すまし顔で自分の爪を眺めているアリーザ。
<ああ、ジュチャの話は私も聞いた。>
小英は頷いてから、周囲を振り返った。
<というよりあんた達は、何の話をしているんだ。私が間違っていなければ、皆、何か違う話をしているよな。それも意図的に。何かを隠しているようにしか聞こえないぞ。>
<確かに、小英にだけ言わないのも不公平だよね。>

宏子は立ち上がると、両手を前に組みながら念じた。
<ジュチャ。私達さ、…正確には、私とリジュワナだけだけど…宇宙船に行った事あるんだよね。クザラルの。>
<え?>
<セジュ・クフィじゃないよ。あんたが知ってるか知らないかは分からないけど、もう一つの、隠された方の船。フィモバモ…何だっけ?>
<フィクバ・モ・ブンティブ。>
<そう、それ。>
リジュワナの念に頷く宏子。
「はあ!?」
叫び声を上げたのは小英だった。
<冗談を言うな、私達にそんな事が出来る訳無いじゃないか。>
<出来るのよそれが。取りあえずウチらニ人、実際に船に行って、今こうやって帰ってきてるんだから。…宇宙船に行く事が出来るんだったら、同じ装置を使って地球内の瞬間移動をする事位わけないと思うけどね、距離的にさ。>
小英に答えつつ、宏子はジュチャに向かって念じる。ジュチャは眉を寄せた。
<…小英じゃないけど、無理でしょ。何でそんな見え見えの嘘をつくのかが分からないんだけど。>
<いや、ジュチャさ。あんたと、その男と、あと小英以外皆分かってるから、どっちが嘘をついてるのかっていうのは。だって全員その場に立ち会っているからね。プオも含めて。>
ジュチャは宏子の念に、自分の横に座っているプオを見る。
<…いや、ジュチャが嘘をついているかどうかは分からない。彼女も単に知らされていないだけかもしれない。>
<ん? 随分ジュチャの肩を持つね。>
宏子が眉を上げる。
<一応苦楽を分かち合ってきている上司だぞ。自分の上司を信じて何が悪い。>
<ふーん? 師弟愛むつまじいです事。>
<ちょっと、プオラギイック、私はあなたが信じられないわ。あなたまで嘘をついてどうするの? 何を企んでいるのよ?>
<おいおい、俺はお前を信じるって言ったのに、その返事は無いだろう。>
プオラギイックは不満そうに、立っているジュチャを見上げた。
<…つっくづくムカつく言い方するよねあんたも。>
ジュチャの前に立ちふさがる宏子。
<あの…本当に知らないかもしれないんだし、そうジュチャさんを責めるような言い方してもしょうがないと思うよ…。>
<…>
背後からのモニクの念に宏子は眉を上げる。
<…まあ、行ったときの記録映像と例の議事録を見れば、ジュチャも納得出来るんじゃないか?>
<わざわざ見てもらうにも及びません。どうせHNKがクザラルのマスコミにリークします。シユマさんによればHNKは色眼鏡で見られているそうですが、仮にそうだとしても、普通のマスコミだったらあの情報をさすがに無視は出来ないでしょう。>
<HNK?>
プオラギイックを見るジュチャ。
<HNKの連中が最初にその「隠された船」の情報をつかんだんだ。彼等はここの魔法少女達を自分達側に取り込みたいらしい。その勧誘として、隠された船…照射気律の魔法でな、そのフィクバ・モ・ブンティブにこのニ人を乗せたんだ。>
<彼等が「乗せた」のは私ね。宏子は無理矢理「乗った」の。>
プオラギイックの念を訂正するリジュワナ。プオラギイックは続ける。
<その船が一体どういう船だったかというと、>


「うっ、ううっ、うっ」
突然の声に全員が視線を動かした。
「ううっ、うっ、うっ」
<わ、アリーザちゃん大丈夫?>
<ちょっと…お手洗いに行ってます。しばらく失礼します。>
モニクがアリーザの肩に手をかける。アリーザは自分の口に手を当てながら立ち上がる。
<大…丈夫?>
<皆さんお話の方を続けていて下さい。>
ジュチャに苦しげに片手を上げると、アリーザはトイレの方へ歩いていった。
<あ…の、私も心配なんでちょっと見てきます。>
<え、ええ…>
ジュチャはモニクに頷いた。


「げほっ。ごほ、ごほっ。」
水を流しっぱなしにした洗面台にしがみつくようにして、アリーザがえづく。背中をさすろうとするモニクを、アリーザは手を上げて止めた。
<大丈夫です、しばらくこうしていれば治まりますから。>
<…>
モニクは手を引っ込めると、アリーザの横で洗面台に軽く腰掛けて息をつく。
<…それって、今日がこれ、初めてじゃないって事だよね。>
<吐き気ですか? フェヨールさんは今まで物を吐いた事は無いですか?>
<ふざけないで!>
急に強い念を出すモニクを、アリーザは驚いた顔で見上げた。
<…何か気に障る事を言ったのなら謝りますが…>
<じゃあ謝って。言った。アリーザちゃんっていっつもそう。こっちが本気で何か言ってもはぐらかしてばっかり。>
「ううっ、げほっ、うっ、うっ。」
<…フェヨールさんのような…純粋さに欠ける所があるのを否定は出来ませんが、…出来れば何が…気に障ったのかを教えてもらえると嬉しいです。>
胃液と唾液の混じった物を洗面台に吐き出しながら、アリーザがテレパシーを送る。
モニクは怒った表情と心配そうな表情を半々に混ぜながら、彼女を見た。
<アリーザちゃん体調悪いのこれが初めてじゃないでしょ。その理由は…>
<…>
<…>
<…嫌ですね。クザラル人の次は私が機密漏洩ですか。>
<ふう…そういう言い方が嫌なんだけど…まあ、いいや。ドラッグ、使ってるよね、アリーザちゃん。>
<…>
ようやく吐き気のおさまったらしいアリーザは、洗面台に顔を近づけた体勢のまま、息をついた。
<…色々言いたい冗談はあるんですが、言ったら怒りますか。>
<…>
モニクは格闘技の合図のように、握り締めた自分の両手こぶしを合わせてみせる。アリーザはひときわ大きく息をつくと、その目を洗面台に向けた。
<…まず、誤解していると思うので言っておきますが、これは薬の中毒、あるいは禁断症状等ではありません。>
<そうにしか見えないけど…そうじゃないなら何?>
<悪酔いです。時々、こういう風になる事があるんです。>
<…バッドトリップ? それって中毒ってことだよ…でも、それにしても深刻なトリップだね。>
モニクはアリーザに顔を近づける。
<…あの、言っちゃうとね、私も昔、ちょっとだけこういうのやってみた事あったんだ、好奇心で。…でも、それでこんなにまで悪酔いした事なんてないよ。>
<体質によるんでしょう。薬と体の相性は千差万別ですし、同じ人でも体調などでまた変わってくるでしょうし…>
<でも、アリーザちゃんの「悪酔い」は一度や二度じゃない気がするんだけど。少なくとも前にも一回は私、見た覚えがあるし。>
<そんなに何度もなってる訳じゃありません。…一応私も体に気を使ってはいますし。>
<やってる人が言っても説得力全然無いよ、その言葉。>
<それは確かにそうですね。>
アリーザは力なく微笑んだ。
<ヤク中の言う事なんかに説得力が無いのは分かっていますが、>
アリーザは洗面台の水道を止め、ようやく上半身を起こして念じた。
<確信があります。私は中毒になるほどは使っていません。色々な事について言えますが、どこまではやけどしないかという事は私は比較的心得ていますから。>
<…>
アリーザの念に、やや頬の赤くなるモニク。
<まあ、モラルを突かれると辛いですが、健康という意味でしたら心配して頂かなくても大丈夫です。自分で充分、コントロール出来ています。>
<…本当にそうかな…? ただの悪酔いなだけ? 一回、お医者さんに見てもらった方が…>
<私の知る限り、日本は違法薬物に寛容な事で知られている国ではありません。>
肩を上げるアリーザ。
<あ、そうか…でも…>
<心配してくれて嬉しいです。>
アリーザはモニクに笑顔をみせた。
<あ、そうです。薬と言えば。>
アリーザはジャージのポケットをまさぐりだした。プラスチックの小瓶を取り出すアリーザ。
<な、そ、それ…そんなのいつも持ち運んでるの?>
小瓶にはタブレットの錠剤が入っている。口を開け、信じられないといった表情で眉を寄せるモニク。アリーザは中の錠剤を手に数粒落とす。その手をアリーザは、モニクに差し出した。
<これは中々おいしいです。フェヨールさん、如何ですか。>
<私は…だから私は、今はやってない、というか元々嫌いだったし、今も嫌いなの! アリーザちゃんだって今の今まで大変だったのに、もうやるなんてやっぱり中毒になってるとしか>
<あの、ちょっと待って下さい。>
アリーザは瓶をモニクの目の前に持っていく。
<これ、ただのビタミンCです。…ハイシーと言いまして、そこのローソンで150円位で買ったものです。もちろん合法的にですよ。>
<…そういう冗談が私は嫌いだって言ってるんだけどな。>
怒りとそれ以外の何かが絶妙にブレンドされた表情で、モニクはアリーザに念じた。



→Part B



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