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ニ人は鞄からイハッジャを取り出し鞄を近くへ投げる。
<何かやりづらいよね、向こうが攻撃してこないとさ。>
<そう。でも、そういった感想は後で言い合わない? 私は向こうへ行くから、あなたは…そっちのレストラン方向に行って。>
<何で? …分かった分かった、ごめんなさい、今行きますから。>
リジュワナの顔つきに後ずさる宏子。
<頼むわよリーダー。じゃあ、ワン、ツー、スリー、ゴー!>
ニ人はそれぞれ反対方向に走り出した。
<フィア・ディシュ!>
走りながら振り向き、イハッジャを構える宏子。光の弾が生命体に向かうが、浮遊しているそれに軽くよけられる。
ペット売り場方向に走ったリジュワナは振り返り、生命体の様子を見る。
−防御膜を全く張っていないようね…いつでもこちらに攻撃を出来るように? それにしても、何で向こうから仕掛けてこないのかが分からないわ…。
<…フィア・ディシュ。>
シュウウウウウウウウウウン、ブシュウッ。ブシュウッ。
宏子の放つ攻撃弾とリジュワナの放つそれが、直前まで生命体のいた空中で交差する。その数十センチ上で羽をはためかせている生命体。
<…こっしゃくなああ。ザナ・キュイいいいいい>
<っ!>
念の途中で頭を押さえる宏子。同時にリジュワナも顔をしかめる。
−これが宏子の言ってた痛み? …どこかで似たような感覚が…ああ、フィクバ・モ・ブンティブのトレーニングマシーンだわ、この感覚。という事はやっぱりテレパシー…?
シュウウウウウウウウウウウンズバアアアアアアアアアアアアン!!
<え?>
生命体から、一瞬景色が揺らぐ波のようなものが発せられる。その波が自分達をも通り過ぎ消えてなくなると同時に、頭への痛みが消えた。
<…ってえ…この前よりちょっと長いじゃん。>
眉を上げつつ、宏子が手を額につけてゴネている。リジュワナはそれに少し笑いながら、生命体の方に目を向けた。
生命体は空中に浮かびながら微動だにせず静止している。
<もー頭来た。今度こそやってやる、フィア>
<ちょっと待って宏子。>
<何?>
イハッジャを構えていた宏子はリジュワナに顔を向けた。
<おかしいのよ。この生命体、全く動いていない。>
生命体の真下で数メートル上空のそれを見上げていたリジュワナが念じる。
<別に今に始まった事じゃないじゃん。羽があるっつったって、普通の鳥みたくそれで飛んでる訳じゃないんだしさ。>
リジュワナの所へ歩いていく宏子。
<…>
リジュワナは無言で、やってきた宏子の肩を叩いた。
<ん?>
リジュワナが空の別方向を指差す。
<…>
数十メートル向こうで、カラスと思われる鳥が羽を広げたまま空中で静止していた。
<あ?>
宏子は腕の端末に目をやる。モニタの表示をリジュワナに見せる宏子。
<あ、時間、止まってる。>
<ゼロ時空間?>
<うん。私らニ人でそっちに入ったんだ。…あ、じゃあ今の内にやっとこうか。フィア・ディ>
<あ、ちょっと待って>
<え?>
宏子は体は生命体に構えたまま、顔だけでリジュワナに振り向いた。
シュウウウウウウウウウン、ブシュウッ。
<あ、ああ、あああ。>
思わず口を開くリジュワナ。
シュウウウン、ボンッ。
宏子が放った大型の攻撃弾は生命体に命中、その体の後半部をおおむね飲み込む形で消滅する。綺麗に球状に体を切り取られたまま、空中に静止している生命体。
<あーあ、リジュワナが途中で止めるから中途半端に当たっちゃったじゃん。全身綺麗に飲み込ませようと思ってたのに。>
<はあ…。攻撃するのは良いけど、私達元の時空に戻れるの?>
<ああ、リジュワナはゼロ時空間初めてだから不安かもしれないけど、どうって事ないって。>
<ちょっとやってみせてよ。>
<やり方は知ってるでしょ? 時の魔法の何巻だかで…>
<知ってるけど私は成功した事が無いのよ。>
<大丈夫だって、今成功したからここにいるんじゃん。基本的な感覚は瞬間移動に近いけど、それの空を時に置きかえて念じるの、ただしかなり強くね。一応文句はウーサ・キュディヌ・ヒオ。>
<…なるほど? やってみるわよ?>
ため息をつきつつ、リジュワナが自分のイハッジャを構える。
<気律の力を、我の頭上に。ウーサ・キュディヌ・ヒオ!>
シュウウウウウウウウン…。
リジュワナの体から紫色の光が溢れ、彼女の全身を包み込む。瞬間移動の時のように、周囲に風が巻き起こる。
シュウウウウウウウンズバアアアアアアアアアアアン!
爆発音と共に、光が飛び散る。風の中で目を開くリジュワナ。
<…>
<…>
<…だから、私は不安だって言ったのよ。>
どこにも移動していないリジュワナは自分のイハッジャを軽く叩きながら、眉をひそめた。
<あ、れ…でも来れたんだから帰れるはずだけど…じゃあ私やってみるわ。ああ、もし私が元の時間に戻ったようだったら、このサクコブ綺麗にしてから戻ってきてね?>
<ちょっと待って、もしあなただけ帰って私が帰れなかったら?>
<その時は…私がお祈りしてあげるから、何とかして、頑張って。>
<…>
無言で顔を引きつらせるリジュワナ。
<じゃあ行くよ。ウーサ・キュディヌ・ヒオ!>
シュウウウウウウウウウウウウンズバアアアアアアアアアアアアアアアン!
イハッジャを持った宏子の体が光に包まれ、そして光は最大にまでその輝きを増したところで飛び散った。
<…>
<…あれ?>
片目を上げる宏子。
<お帰りなさい。>
リジュワナは先程と同じ場所に立っている宏子に念を伝えながら、ため息をついた。
<んーんんんんんーんーんー?>
ペット売り場の水槽の気泡や、逃げ惑う子供達が走っている体勢で止まっている様子などを眺めながら、宏子がうろうろと歩き回っている。
<今、私機嫌が悪いのよ。出来ればもうちょっと静かにしてくれない。>
<んーんーんーんんんーんーんんーんーんー!>
<…>
生命体の近くで腕組みして立っていたリジュワナは、余計に大ボリュームになったテレパシーに息をついて目を閉じた。
<んー。ねえ、どうすれば良いの、リジュワナあ。>
<このまま一生ゼロ時空間で暮らす。>
<…>
見詰め合うリジュワナと宏子。
<のは嫌ね。特にあなたとは。>
腕組みしたまま、リジュワナは生命体に視線を移す。
<私だって、ずっとニ人だけの世界に放っておかれたら、多分リジュワナを押し倒しちゃう事になると思うよ?>
<あなたも真面目な顔でアリーザみたいな事言わないで良いから。…どうやったら、ここから出られるのかしら…>
リジュワナに歩み寄ってきた宏子が<うーん>と唸る。
<ブエノスアイレスの時とか、本当に出られたんだけどな…>
<知ってるわ。…あ、でもその時は、あなたが自発的に入っていったのよね?>
<そうだけど…でも最初は私もそのつもりじゃなかったよ。多分、魔法を出すときに魔術の気律の引き込みを間違えたんだと思うけど。>
<ええ。でも今回はそういう事じゃなかったわ。>
リジュワナは生命体を見上げる。
<サクコブが出した、あの頭の痛くなる何か。あれで私達はこの世界に強制的に引きずり込まれたのよ。つまり、これが今回のサクコブの攻撃なの。>
<でも…>
生命体を見る宏子。
<止まったんだったら、こいつやられちゃうじゃん。>
<そうね…そこが分からないけど…まず、分かるところから整理しましょう。このサクコブが私達をゼロ時空に引き込んだのは確実。それでは何故そうしたか。>
<…閉じ込めるため?>
<でしょうね。という事は、正確にはこの時空間は普通に言う「ゼロ時空間」とは違うのかもしれないわね。だからウーサ・キュディヌ・ヒオじゃ抜けられない、と。>
<…じゃあやっぱり一緒に暮らす?>
<暮らすって何よ。…何とかして、この生命体の魔法を解かないと。>
<もう解けてても良いはずなんだけどね。一応こんななってるんだからさ。>
大きく穴の開いた生命体を指差しながら念じる宏子。
<ええ、でも魔法はあの頭が痛くなった時にかかったものだから、今の生命体をどうこうしても駄目なのかもしれない。>
<どうするの? 大体、何の魔法なのかも分からないし…>
<時の魔法…じゃないとすれば、系の魔法かしら?>
<そういったのの複合系かもしれないしね。…ううううう、分かんなかったら全然戻れねええええっ!>
頭を振っていた宏子は、ふと横のリジュワナが静かになった事に気付き顔を上げた。
<何してんの?>
<集中してるのよ。>
イハッジャを構えながら両目をつぶり、答えるリジュワナ。
<集中?>
<ええ。系の魔法ならもしかすれば解除できるかもしれないでしょ。ビャクニウ・エンティフ!>
シュウウウウウウウウンズバアアアアアアアアアアン!
紫色の光が飛び散り、突風が起きる。すぐそばで起きる光と風に目をつむる宏子。
<…>
宏子は目を開きながら息をつく。
<…ったくさ、お互いまずやる事宣言してから行動する事にしな…>
顔を上げた宏子は周囲を見回した。
<な、何、リジュワナ、ここどこ?>
<どこって…>
宏子の隣の席に座っていたリジュワナが答えた。
<教室でしょ。2年1組の。>
ニ人は夕陽の差す学校の教室の、隣り合った席に座っていた。彼女達以外に生徒はいない。
<え、あれ?>
宏子は周りを見回す。
<あ、あの…リジュ、ワナ、わ…たしたちってさっきまでゼロ時空間にいたよね?>
<…安心しなさい。一緒に暮らすって約束したのは覚えてるから。>
リジュワナは肩を上げた。
ガラガラガラ…。
戸の開く音に、ニ人は顔を上げ前を向いた。
<あ…んたは…>
呟く宏子。宏子達と同じ、北高の制服姿の日本人が教室に入ってくる。
落ち着いた柔らかな微笑みをみせているその女子生徒は、ゆっくりとニ人の前まで歩いてきた。
<ようやく、皆さんとこうやって会う事が出来ましたね。>
<え?>
<私はサクコブ星の南タオチトゥ解放軍第280部隊准尉、サザア・グファプと言います。初めまして!>
女子生徒はそう念じると、ニ人に改めて微笑んだ。
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