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「ヤヤジュ・ベルー。」
ピピッ。
[声紋照合完了、本人である事を確認。所定の暗号キーを利用した通信を開始します。]
バーチャルディスプレイにエウグ語の文が表示される。
「…」
ピピッ。
「お元気ですか、ヤヤジュ。」
「お陰様で、そちらこそお元気ですか。トゥキップ。」
ディスプレイに茶色の肌のクザラル人女性が映る。地球風の白いコンクリート壁の小さな部屋で、青い肌のクザラル人男性がそれに頭をさげ両手上げをした。
「さっそくですが、今日はどういった用件ですか。…やはりあなたの所にいる地球同朋達についての話ですか。」
「ええ。といっても彼女達自身については、中々ガードが固く今日新たにお伝えできる情報は無いのです。」
やや外国なまりのあるエウグ語でベルーが答える。
「今日お伝えしたいのは、佐藤宏子さんのロストした母親についてです。」


「はっ」
宏子は目を覚ました。
「…」
部屋はまだ暗い。目の前は小英が寝ているはずの、ベッドの二階の板だ。
呆けた表情のまま、息をつく宏子。宏子は上半身だけ起き上がり、目の前の壁を見つめる。
−夢見てた。はっきりとは覚えてないけど…例の、お父さんとお母さんの夢。もちろん実際のお父さんお母さんじゃない方で…。普段はこの夢の後は何か満たされたような、良い気分になるもんなんだけど…。
「…」
宏子は不機嫌そうに息をつき、耳をかいた。
−えっと…いつも通り質問をしたんだよね。で…何聞いたっけ…友達がいなくなる? なんか、そんなニュアンスを聞いたような…あ、そうだ、皆が本当はクザラル人だっていうので聞いたんだろうな、多分。…って、こいつらが「友達」…? …まあ良いや。で、それで…。
まだ眠いらしく自然に瞼を閉じながら、宏子が首を傾げる。
−普段なら、大丈夫的な事しかニ人とも言わないのに、何かニュアンス違ったんだよな…一人で頑張れ…一人でも頑張れ、みたいな? んー…「本物」の魔法少女が一人だけだからって意味か…? 何か、それとも違ったような…。
トスッ。
宏子は再びベッドに寝転がる。
−お父さんお母さんだっていなくなる…じゃないかみたいのを何か言ったような…うん。…んー…あ、そう、そうだ。それで、あの夢の、お父さんお母さんが、何か、中々会えないけど頑張れみたいに言ったんだ、確か。夢でしか会えないみたいにいうから…。
宏子は自分の考えに眉を寄せた。
−っていうか私、それがショックで目を覚ましたっていうの?


魔法少女佐藤

第14話「魔法少女とモンスター」


「あはっ。」
乱雑に散らかった部屋で、英語版のマンガ本を読みながらモニクがドーナツを食べている。
<…相変わらず、その…>
<あ、美耶ちゃんお帰りー。>
マンガ本に目を向けたまま手を振るモニク。
<ただいま。あの…モニクちゃん。お願いだから読んだ後の本とか、少し片付けてよ。そんなんじゃ私寝れないしね。>
まだ制服の美耶が鞄を机に置きながらモニクに念じる。
<え…?>
部屋に一つある、現在自分がクッション代わりに座っているベッドの上をモニクは眺めた。
<ああ、これくらいなら全然、大丈夫ー。>
にっこり笑うモニク。彼女は立ち上がり、ドーナツの皿、コーラの缶など飲食関係のみ美耶の机の上に移動させた。
<…>
<これで、あと残りの奴は、こうやって…>
ガラガラガラ…。
<あ、ああああ…>
ベッドに戻ったモニクは自分の周囲の本をなぎ払う。床に津波のように落ちていく書籍群。
<ほら、寝れるようになった!>
自分の手にしているマンガ本以外全てを床に投棄し終わったモニクは、曇り一つ無い表情で自分の座っている隣の場所を手で叩く。
<寝れるようになったから、こっち来い来い。>
<寝れるようにはなったけど…今度は歩けなくなったよね。>
美耶は秒単位でどんどん荒らされていく自分の部屋を見て、頬を引きつらせた。

<…>
何かの音が聞こえて美耶は顔を上げる。美耶は目を細め耳をすませた。
ピンポーン。
<…あ、インターホン?>
再び聞こえた音に美耶は呟く。美耶はカーテンのかかっている窓際まで歩き、カーテンの隙間から美耶は外を覗く。
「…っ」
<どうしたの美耶ちゃん?>
<クザラルの人が、来てる…>
<…>
モニクは無言で何かを考えている。
<何人もいるよ。地球人…日本人だけど、も何人か、皆偉い人みたい…>
<ふーん…じゃあ、人数分のドーナツ用意すんの大変だね?>
<下らない事言ってる場合じゃないよ。私…出たくないよ…>
<え? じゃあ私が出よっか?>
<そ、そうじゃなくて。もう、真面目に答えてよ!>
立ち上がりかけるモニクの肩を押さえる美耶。モニクは真顔で美耶に念じた。
<…真面目に答えれば…早く出た方が良いと思うよ。…ほら、また鳴ってるし。>
<だって…>
<多分美耶ちゃんが学校から帰ってきたのを見た上で来てるんだよ、だから居留守は通じないと思う。それにその気になれば、その人達で無理矢理ドアを開けるくらい何でも無い事だよね? 魔力なんか無くったって、ピストルさえあれば出来る事だよ。>
<でも、もしあの人達が家に入ったら、モニクちゃんが…>
<大丈夫。基本的にクザラルの人は紳士的だし。>
<モニクちゃん自分で言ってる事が矛盾してる。もうそういうの、信じられないよ…>
ピンポーン。
<…クザラル人が怖いんだったら、尚更出た方が良いと思うけどな。居るっていうのが分かっている状態で出ないっていうのは美耶ちゃん、魔法協会には協力しないって宣言してるようなものだよ。ひーこちゃん達ならともかく、美耶ちゃんの場合は対抗出来る魔力も何も無いんだから…>
<そ、そうだけど、でも…>
<…じゃあ、やっぱり私が出ようか?>
再び立ち上がりかけるモニク。美耶は慌てて彼女を押さえる。
<わ、分かったから。じゃあ、モニクちゃん、急いでどこかに隠れて…瞬間移動しておいてね。出来る限り足止めはするけど…。>
<任せといて。>
ドアへ歩き出す美耶に、モニクはウインクしてみせる。
<本当に急いでね! あ、光が漏れたら困るから、えっと、そこの物置で!>
部屋のふすまを指差しながら美耶は部屋を後にした。

ピンポーン。
「はい、はい、はいはい。」
美耶は居間のインターホンをとる。
「はい、どちら様でしょうか?」
「あ、すいません、警察のものですが、ちょっと伺いたい事がありましてね、よろしいですか?」
「…あ、は、はい。」
美耶はインターホンを戻し、廊下を歩いてすぐの玄関へ行く。ドアの鍵を開け、ドアを開く美耶。

玄関の向こうには日本人と思われる男性三人と、クザラル人の男女ニ人が立っていた。
「あ、あの…何でしょう。」
「捜査令状です。」
「え、え?」
男の一人が美耶に紙を広げて見せる。男達が土足で廊下に上がっていく。その後を、クザラル人ニ人が靴を脱いで続いた。
「ちょ、ちょっと待って下さい! 私、何か悪い事をしたんですか!…きゃっ!」
彼等を追いかけようとする美耶は、捜査令状を見せていた男に強引に肩をつかまれた。
「特別能力者保護法違反の疑いに基づく捜査です。御協力お願いします。」
「そ、保護って、こんな保護の仕方は無いわよっ!」
美耶は男を振り切り廊下を駆けていく。
「ちょっと、皆、勝手に私の部屋に入らないで! 誰もいません! どうして勝手に入るのよっ!」
「Oe!」

歩いていたクザラル人に体当たりしながら自分の部屋へと走っていく美耶。
美耶は開け放れているドアの前で、立ち止まり、驚きに目を見開きながら部屋の中を見た。
<モ…モニク…ちゃん…>
<…どうしたの?>
ドーナツをくわえたモニクが、男達に囲まれた状態でベッドに座っていた。
<な、そ…逃げるって…>
モニクは美耶の念に笑って手をふる。
<そんなの冗談に決まってるじゃん。美耶ちゃんだって全然本気じゃなかったでしょ?>
<な、そ…そんな…>
<フェヨールさん。…モニク・フェヨールさんですね。>
美耶の背後に立ったクザラル人男性が念じる。
<はい。そうです。>
モニクは立ち上がる。
<モ、モニクちゃん?>
<お迎えにあがりました。>
<うん…今度から土足ではあがらないで下さいね。>
笑ってみせながら、モニクは歩き出す。その両腕を地球人の男達がつかむ。
「I can walk by myself!」
モニクは表情を一変させ、手を払った。クザラル人男性は軽く息をつくと、手を振って男達に離れるように指示する。
「…」
渋々、と言った様子でニ人の日本人は彼女から手を離した。
<…モ、モニクちゃん…>
<後…彼女は何の悪気も無いので、悪くしないでくださいね。>
クザラル人男性に念じるモニク。
<もちろんです。…それでは、行きましょうか。>
<うん。>
頷くモニク。モニクは美耶の前まで歩き出す。
<美耶ちゃん、どいて。>
<モニクちゃ…どうして?>
<え、だって…別に私、逃げるつもりも隠れるつもりもなかったし。…大丈夫だよ。心配しないで。>
<…>
モニクはいつものようににっこり笑い、そして美耶の頬にキスをした。
<じゃあね。>
美耶の横を通り、モニクは廊下を歩いていく。
クザラル人男性が男達に合図する。一人の男は部屋を出て行く。もう一人の男がクザラル人男性に日本語で聞いた。
「彼女ですが…」
「...Dak.」
「…」
クザラル人男性は頭を上に上げる。諦めた様子で男は部屋を後にした。

廊下では、立っていたクザラル人女性がモニクに近づいて何やら念じている。モニクが首を振った。
<…駄目です。彼女には使わないで。彼女は私の友達なの。絶対に、悪いようにはしないで。>
モニクが強い調子で念じる。女性はそれにうやうやしく頭を下げると、こちらを見向きもせず歩いていく。
「…」
美耶は部屋を眺めながら、無言で立っている。最後まで残っている目の前のクザラル人男性が、微笑んで念じる。
<本当に御迷惑をお掛けしてすみませんでした。今度お邪魔する時は失礼の無いよう、県警の方にももう一度強くお願いしておきますので。それでは、御協力有難うございました。良い関係性を。>
「…」
男性は軽く両手上げをすると、廊下を歩き、玄関で靴を履いて外へ出て行く。
やがて、鉄製のドアが閉まる重い音がする。

「…」
部屋には床に散らかったマンガと、食べかけのドーナツと、飲みかけのコーラの缶と、黙ったままドアの近くで座り込む美耶だけが残された。


小英は頬杖をつきながら「フン」と鼻を鳴らした。
<どうせまた、思いつきで言ってるだけなんだろう?>
<ええ、思いつきよ。それが? 他により良い思いつきがあるんであれば、私はいつでも歓迎するわ。>
腕を組んで背もたれによりかかったリジュワナが答える。
魔法少女達はリジュワナ、アリーザの部屋に集まっていた。2つある椅子にリジュワナ、アリーザが座り、ベッドの二階に小英があぐらをかいて座っている。
<つってもねえ…>
一人、床に体育座りをしている宏子が苦笑気味に眉を上げる。
<まず、どうやって呼ぶか? で、呼んで安全の保証はあるのか? それに仮に話し合いが出来て、しかも万が一それがうまく行ったとして、本当にサクコブが地球人の味方になるのか? …思いつきは良いけどさ、リジュワナの思いつきにしちゃ随分何つうの、大雑把っつうの?>
<だから本当はあなたが言い出すべきなのに言わないから、しょうがなく私が代わって言ってるんじゃない。>
<…おい。>
肩を上げるリジュワナ。宏子の視線が鋭くなる。
<私も宏子に賛成だ。あんたの思いつきは、提案になっていない。大体こっちからサクコブなんて呼べないし、仮に呼べてもまた自動的に戦闘になるだけの話だ。>
<お生憎様。前回は話し合いが出来てるの。しかも話し合いを持ちかけてるのは向こう側よ。>
小英の口調に何の反応も見せず、リジュワナが椅子を回転させながら彼女を見上げる。
<確かにこれまでサクコブは必ず、地球人…に化けたクザラル人と言うべきかしら…を無条件で攻撃し続けてきた。でもそれが前回になって変わったの。彼等は私達を殺すよりも、説得してむしろクザラル人と敵対させる方が自分達にとって得策だという事に気付いたのよ。>
<…んー? そんな事言ってなかったじゃん。殺そうとしてたけど、出来ないから仕方無く説得しようとしてたんだよ。あの時のサザアの、罪悪感の無さそうな口ぶりは覚えてるっしょ? 説得はあくまで次善の策なんだって、隙さえあれば殺そうとしてるんだって。>
<…>
宏子の念に、腕組みしているリジュワナは眉だけ上げながら椅子を回転させる。
<HYIの肩持つつもりは毛頭無いけど、じゃあサクコブがまともかって言ったら私は違う気がするな。相手はモンスターだよ? クザラル人みたいな宇宙「人」とは訳が違うんだから。あんたもさ、本気でサクコブが、話が通じる相手だと思ってる?>
<通じさせる、以外に無いでしょう。確かにクザラル人は「人間」よ、でもだからこそ彼等は、地球人並に残虐で、二枚舌で、狡猾になれるの。私もサクコブが何の罪もない善良な被害者だなんて思ってないわ。でも、どちらか一方と手を組まない限り、赤子のような私達に少しでも未来が残っていると思う?>
<…確かに、HNKに地球を託せるかって言ったらキツいとは思うよ。でもさ。それで、サクコブ? それは無いでしょ。>
<…>
キャスター付きの椅子を座ったまま動かして、リジュワナは宏子に顔を近づける。
<宏子、あなた、差別をしているわ。サクコブの見た目が私達とあまりに違うから、私達の感覚で「虫」みたいだから、それだけで、信用出来ないって思ってる。私達はずっと彼等を、知能の無い「虫」だと思ってきたわ。それはどういう事か? 結局、あんな形の生き物に私達並の知性があるなんて、私達の常識では受け入れられなかったのよ。でも、実際のサクコブは私達並どころか、それ以上の知性や技術を持った種族だった。宇宙を飛んで戦争を起こせる位の種族なんだから、それを持っているであろう事は普通に考えれば簡単に気付けていたはずなのに、私達はそんな当然の事に気づいていなかった。それは、彼等がモンスターだったから。…違う?>
<…確かに、サクコブの連中がそうイケメンだとは思わないけどさ。…それは…そんな話、私してなかったんじゃないかな。認めてるって、あいつらも頭が良いっていうのは。問題はこっちの味方になるかどうか、でしょ? それが無理でしょ、って私は言ってるの。>
<それが偏見だ、と私は言ってるのよ。彼等は確実に歩み寄りの姿勢を見せているのよ。それを利用しない手は無いと思わない?>
<歩み寄る、って、埼玉県内で一歩歩いただけの人が「バングラデシュに着くまで後少しだ!」とか言ってるようなもんなんじゃないの。>
<…>
<…>
細い目で互いを見たまま、ニ人は息をつく。宏子はふと視線を、もう一人の椅子保持者に向けた。
<あんた、喋ってないじゃん。>
片足を折って椅子の上に乗せた格好で、アリーザが宏子を見る。
<お二人がお互いどんどん近づいているな、とは思ってました。>
<…>
互いを見やる宏子とリジュワナ。リジュワナは少し恥かしそうに、椅子に座ったまま、自分の机の前まで後退していく。
<あなたは意見無し、って事で良いのかしら。>
<…そうですね。>
アリーザはリジュワナに肩を上げる。
<私も佐藤さんに賛成です。ホクさんの言う事も確かに分かりますが、危険が大きすぎます。800万という数字にかすんで忘れがちな事実ですが、私達を常に付けねらい、命を狙ってきたのはサクコブであって、魔法協会ではないのです。>
<ほっれ。>
アリーザの念に、宏子は肩を上げてみせる。
<…ですが、対案も無しに否定だけしても仕方がありません。ホクさんの案に賛成したくはないのですが、かといって今のままで私達が生き延びられるかと言われれば疑問ですし…結局地球人達が、魔法協会の地球植民地化を阻止し、なおかつサクコブの攻撃を阻止しようとなると…どちらかに付く以外に方法が思いつかないのは事実です。私達だけではどう頑張っても力不足ですから。>
<そんな…>
<その上でどちらと組むべきか考えると、クザラル人の場合は私達は一回手を組んでいてそれに嫌気がさしている訳ですから、新しい相手はおのずと決まりますよね。>
宏子は眉を上げる。
<…アリーザ、あんたどっちの味方よ。>
<佐藤さんですよ。>
アリーザはあっさり答えた。
<…なんですが、ホクさんの案の他に良い答えが見つからないからどうしましょうね、と。>
<つまりあなたは、心情的には宏子に賛成するけど私がやると言ったら止められないって事よね。>
<止めますよ。でも止めてもあなたはやるじゃないですか。>
軽く笑いながら答えるアリーザ。
<アリーザ笑い事じゃないって。そんなん自殺行為じゃん。>
<今までずっと正面切って戦ってきて勝ってるのに、何で話し合いだしたら自殺行為になるの?>
宏子とリジュワナは再び睨みあう。
<まあ…地球人的には、第三の、中立な勢力がいれば助かるんですけどね。>
アリーザは息をつく。
<何、例えば、ここみたいな?>
床を指差すリジュワナ。
<ええ。出きればサクコブ、魔法協会並に強いとなお良いです。>
<…>
リジュワナはアリーザに鼻息で答えた。
<…ああ、それなら、いなくもないかもしれないじゃないか。>
一同がベッド2階に顔を上げた。
<ほら、この前プオラギイックが皆に言っていただろ。少なくともクザラル人の知ってる宇宙生命体は、地球人、サクコブ以外にもいくつかいる、って。だったら、そういった生命体とコンタクトをとれば、いけるかもしれないんじゃないか?>
<いつ誰が「皆に」喋ったのよ。>
念のトーンが下がるリジュワナ。
<…まあ、それも分かるけど、一方は「天使」で、もう一方は僅かな目撃情報しかない相手なのよ。コンタクトの難しさ、情報量の無さはサクコブの比じゃないわよね。>
<無い方が良い情報だってあるんじゃないか? 少なくともクザラル人とサクコブに関しては、今まで知って嬉しいと思うような情報は少なかったような気がしたな。まだ他の種族の方が期待が持てると思うぞ。私は。>
<はい、リーダーがまとめまーす。>
宏子が手を上げて発言する。
<リジュワナの案は確かに分かる部分もあるけど、危険が大きいです。その成功率といったら、他の見た事も無い宇宙人を探して味方につけよう、って案とどっこいどっこいな感じ。だから今回はこの案は無しにして、もうちょっとしばらく考えた方が良いと思う人、はーい。>
<…>
宏子の念の後に、小英とアリーザが軽く手を上げる。
<はい、多数決によりリジュワナ案は敗訴です!>
<「敗訴」…でも宏子、何でもずっと「しばらく」で先延ばしに出来るとは限らないのよ。私の故郷の詩人の言葉で、>
コン、コン。

ドアがノックされて、一同は一斉にそちらの方を向いた。リジュワナが答える。
<どうぞ?>
ドアが開き、シユマが顔を出した。
<う、わ、何、ここに全員そろってたの?>
<ええ。そうだけど。>
<何、何か皆で密談?>
<あはは…>
冗談めかしたシユマの念に、部屋の中の二名がぎこちない作り笑顔になる。椅子に座っている方のニ人は全く表情を変えず、同時に頷いた。
<ええ、色々と。で、何か?>
<そうね…じゃあ私も密談に入れてよ。皆ちょっと、話したい事があるから作戦室に来てくれる?>
<…>
魔法少女達は目を合わせ、シユマの後をついていった。


大部屋にいくつか並ぶ机の椅子を、端に半ば無理に移動させ、集まった魔法少女達がシユマに目を向ける。
<皆、腕端末の情報を見て。>
同じように椅子に座ったシユマが、自分の腕端末のスイッチを押した。各自の腕端末に手を触れる一同。
<サクコブ?>
<うん。出現を感知したの。>
自分のバーチャルディスプレイを見たリジュワナが念じる。答えるシユマ。
<そんな技術、HNK…って言ったら悪いけど、この地球支部にあったの?>
<もちろん。魔法協会のデータ通信をつつー、と拝借する技術だけど。>
<…>
シユマの答えにリジュワナは無言を返す。
<もう三回出てるって。場所は全部、ほぼ同じとこね。>
<どこなんだ?>
地図の表示されているバーチャルディスプレイを前にした小英が念じる。シユマは、やや答えにくそうに宏子の方を見た。
<それが…>
<…静岡市だね。>
両目を閉じた宏子が、低いトーンで念じる。
<うん。宏子のお母さんが、今住んでるところ、なんだよね。>
シユマは固い表情で頷いた。
<…それは偶然ではなく、佐藤さんのお母さんを狙って出現している、という事ですか?>
<さあね。偶然かもしれないよ。だけど今のとこ日本の静岡市に魔力のある地球人がいるっていう報告は聞いてないし、何の必然性も無しにサクコブが地球の同じ場所に三度現れるっていう可能性は現段階ではとても低いとは思うけど。>
<…でも真紀子さんも魔力は皆無よ。…まあ、系の魔法に今現在かかっているという意味では、微量の魔力の反射はあるかもしれないけれど…>
<それでは、サクコブは何故彼女を狙っているんですか? それに相手に魔力は無いのに、何故すぐに殺さないのでしょう?>
<普通に考えれば、私達を呼んでいる、って事なんじゃない?>
リジュワナが念じた。アリーザは彼女の念に無言で首を傾げる。
<…>
<だったらこっちに奴等が来ればいいじゃん。>
<私達が隠れているって事を忘れてない? この建物は常に系の魔法で守られているのよ。魔法協会に簡単に見つけられないというのは、サクコブにとっても簡単には見つけられないという事よ。>
宏子に念じるリジュワナ。
<これが真紀子さんであって、他の私達の親の場所じゃない事も関係があるかもしれない。サクコブも私達は恐らく日本にいるだろうと踏んでいるでしょうから、移動しやすい場所を選んだんじゃないかしら。>
<…>
無言で考え込む他の魔法少女達。
<…サクコブがそんな、からめ手を使うものなのか?>
小英の念に皆が顔を向ける。
<そういうまだるっこしいやり方は魔法協会の十八番だろう。違うか?>
<そんな事言ったって、出現した「モンスター」はジュチャじゃなくてサクコブだったのよ?>
念じるリジュワナ。宏子が背もたれによりかかる。
<そんなの関係無いって。私の姉貴を殺したのはサクコブ生命体で、でもそれは魔法協会だったんだから。多分一匹ジュチャがペットで飼ってるんじゃないの?>
<…呼んでいるのが魔法協会さんだとすると、微妙に意味が変わってきますね。ただ呼ばれるだけではすまないような気がします。「関係性向上」の為に何をされるか、分かったものじゃありません。>
<だけど、それならまず春日部でしょ。美耶とモニクを狙うんじゃないの?>
<ホクさん、それはサクコブも同じ事です。>
<じゃ何で春日部じゃないん?>
<…>
リジュワナとアリーザは、宏子の念に黙り込む。
<…確かに魔法協会の罠かもしれないし、そもそも出現はただの偶然かもしれないし。…どうする?>
シユマが念じる。リジュワナは彼女の方を向いた。
<どうしてほしい? HNKとしては。>
<じっとしててほしい、かな。今危険な事はしてほしくないし、人目に触れるような事もしてほしくないし。どこで何があっても、取りあえずは無視しててほしいね。>
<…>
<もちろん、行くって言うのを無理に止める事は出来ないけど。リジュワナが私達にかくまってほしいって言ってきた時の、第一の条件が、行動の自由、だったのは一応覚えてるし。>
<…今更ですが、HNKさんとしては私達に何を求めているのでしょう。ずっとここでじっとする事、ですか?>
<一番良いのはクザラル星に来てくれれば助かるんだけど。>
魔法少女達はシユマの念に目を合わせる。
<少なくとも、インタビューは受けてほしいな。実はクザラル星の有名な記者を呼んでてさ、今例の貨物船でこっちに向かっているはずなんだけど、彼女があんた達の事を記事にすれば、私達が言うよりずっと影響力があると思うんだよね。>
<はあ…まあ、それは構わないけど…>
<それでリーダー、静岡はどうするの? 無視しておく? 危なそうだし。>
<…>
宏子はリジュワナを見ると、軽く息をついた。
<罠だか何だかしらないけどさ。あんたと小英、あんた達はこないだの散らし寿司食べたんでしょう。だったら、ちゃんとその恩位は返しなさいよ。>
<恩、ねえ。…まあ、無視出来ないっていうのは、多分今日始めてあなたに合意できる点ではあるわ。小英、あなたも来るでしょう?>
<…悪い事をする奴は、私は嫌いだからな。>
<…>
<あなたは?>
リジュワナは黙って目を閉じている魔法少女に目を向ける。
<…怖気づいています。>
目を開いたアリーザは答えた。
<あなたが?>
<ええ。…仮にそれが本当にサクコブ生命体なら、ホクさん、あなたは攻撃より先に話し合おうとするでしょう。これは非常に危険です。仮にそれがHYIの罠なら、彼等は私達の肉体的・精神的・魔術的能力を熟知した上で、万全の準備をして待っているんでしょう。そこにのこのこ行くのは、これは殆ど自殺行為です。>
<行かなかったらお母さんの見殺し行為なんだけどね。>
アリーザを睨む宏子。
<ですが、失礼を承知で言わせて貰えば、佐藤さんのお母さんは魔法少女ではありません。今死んだ所で、私達と比較すれば社会的影響度は高くはありません。>
<…喧嘩売ってる?>
<私は反論しているだけです。>
<あっそう。じゃ、良いよ別に来ないで。三人で行くからさ。>
<…>
アリーザはため息をつくと、宏子に冷めた視線を向けた。
<リーダー、行く前に遺書を書く時間が欲しいんですが。>



→Part B



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