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「あはっ。」
乱雑に散らかった部屋で、英語版のマンガ本を読みながらモニクがドーナツを食べている。
<…相変わらず、その…>
<あ、美耶ちゃんお帰りー。>
マンガ本に目を向けたまま手を振るモニク。
<ただいま。あの…モニクちゃん。お願いだから読んだ後の本とか、少し片付けてよ。そんなんじゃ私寝れないしね。>
まだ制服の美耶が鞄を机に置きながらモニクに念じる。
<え…?>
部屋に一つある、現在自分がクッション代わりに座っているベッドの上をモニクは眺めた。
<ああ、これくらいなら全然、大丈夫ー。>
にっこり笑うモニク。彼女は立ち上がり、ドーナツの皿、コーラの缶など飲食関係のみ美耶の机の上に移動させた。
<…>
<これで、あと残りの奴は、こうやって…>
ガラガラガラ…。
<あ、ああああ…>
ベッドに戻ったモニクは自分の周囲の本をなぎ払う。床に津波のように落ちていく書籍群。
<ほら、寝れるようになった!>
自分の手にしているマンガ本以外全てを床に投棄し終わったモニクは、曇り一つ無い表情で自分の座っている隣の場所を手で叩く。
<寝れるようになったから、こっち来い来い。>
<寝れるようにはなったけど…今度は歩けなくなったよね。>
美耶は秒単位でどんどん荒らされていく自分の部屋を見て、頬を引きつらせた。
<…>
何かの音が聞こえて美耶は顔を上げる。美耶は目を細め耳をすませた。
ピンポーン。
<…あ、インターホン?>
再び聞こえた音に美耶は呟く。美耶はカーテンのかかっている窓際まで歩き、カーテンの隙間から美耶は外を覗く。
「…っ」
<どうしたの美耶ちゃん?>
<クザラルの人が、来てる…>
<…>
モニクは無言で何かを考えている。
<何人もいるよ。地球人…日本人だけど、も何人か、皆偉い人みたい…>
<ふーん…じゃあ、人数分のドーナツ用意すんの大変だね?>
<下らない事言ってる場合じゃないよ。私…出たくないよ…>
<え? じゃあ私が出よっか?>
<そ、そうじゃなくて。もう、真面目に答えてよ!>
立ち上がりかけるモニクの肩を押さえる美耶。モニクは真顔で美耶に念じた。
<…真面目に答えれば…早く出た方が良いと思うよ。…ほら、また鳴ってるし。>
<だって…>
<多分美耶ちゃんが学校から帰ってきたのを見た上で来てるんだよ、だから居留守は通じないと思う。それにその気になれば、その人達で無理矢理ドアを開けるくらい何でも無い事だよね?
魔力なんか無くったって、ピストルさえあれば出来る事だよ。>
<でも、もしあの人達が家に入ったら、モニクちゃんが…>
<大丈夫。基本的にクザラルの人は紳士的だし。>
<モニクちゃん自分で言ってる事が矛盾してる。もうそういうの、信じられないよ…>
ピンポーン。
<…クザラル人が怖いんだったら、尚更出た方が良いと思うけどな。居るっていうのが分かっている状態で出ないっていうのは美耶ちゃん、魔法協会には協力しないって宣言してるようなものだよ。ひーこちゃん達ならともかく、美耶ちゃんの場合は対抗出来る魔力も何も無いんだから…>
<そ、そうだけど、でも…>
<…じゃあ、やっぱり私が出ようか?>
再び立ち上がりかけるモニク。美耶は慌てて彼女を押さえる。
<わ、分かったから。じゃあ、モニクちゃん、急いでどこかに隠れて…瞬間移動しておいてね。出来る限り足止めはするけど…。>
<任せといて。>
ドアへ歩き出す美耶に、モニクはウインクしてみせる。
<本当に急いでね! あ、光が漏れたら困るから、えっと、そこの物置で!>
部屋のふすまを指差しながら美耶は部屋を後にした。
ピンポーン。
「はい、はい、はいはい。」
美耶は居間のインターホンをとる。
「はい、どちら様でしょうか?」
「あ、すいません、警察のものですが、ちょっと伺いたい事がありましてね、よろしいですか?」
「…あ、は、はい。」
美耶はインターホンを戻し、廊下を歩いてすぐの玄関へ行く。ドアの鍵を開け、ドアを開く美耶。
玄関の向こうには日本人と思われる男性三人と、クザラル人の男女ニ人が立っていた。
「あ、あの…何でしょう。」
「捜査令状です。」
「え、え?」
男の一人が美耶に紙を広げて見せる。男達が土足で廊下に上がっていく。その後を、クザラル人ニ人が靴を脱いで続いた。
「ちょ、ちょっと待って下さい! 私、何か悪い事をしたんですか!…きゃっ!」
彼等を追いかけようとする美耶は、捜査令状を見せていた男に強引に肩をつかまれた。
「特別能力者保護法違反の疑いに基づく捜査です。御協力お願いします。」
「そ、保護って、こんな保護の仕方は無いわよっ!」
美耶は男を振り切り廊下を駆けていく。
「ちょっと、皆、勝手に私の部屋に入らないで! 誰もいません! どうして勝手に入るのよっ!」
「Oe!」
歩いていたクザラル人に体当たりしながら自分の部屋へと走っていく美耶。
美耶は開け放れているドアの前で、立ち止まり、驚きに目を見開きながら部屋の中を見た。
<モ…モニク…ちゃん…>
<…どうしたの?>
ドーナツをくわえたモニクが、男達に囲まれた状態でベッドに座っていた。
<な、そ…逃げるって…>
モニクは美耶の念に笑って手をふる。
<そんなの冗談に決まってるじゃん。美耶ちゃんだって全然本気じゃなかったでしょ?>
<な、そ…そんな…>
<フェヨールさん。…モニク・フェヨールさんですね。>
美耶の背後に立ったクザラル人男性が念じる。
<はい。そうです。>
モニクは立ち上がる。
<モ、モニクちゃん?>
<お迎えにあがりました。>
<うん…今度から土足ではあがらないで下さいね。>
笑ってみせながら、モニクは歩き出す。その両腕を地球人の男達がつかむ。
「I can walk by myself!」
モニクは表情を一変させ、手を払った。クザラル人男性は軽く息をつくと、手を振って男達に離れるように指示する。
「…」
渋々、と言った様子でニ人の日本人は彼女から手を離した。
<…モ、モニクちゃん…>
<後…彼女は何の悪気も無いので、悪くしないでくださいね。>
クザラル人男性に念じるモニク。
<もちろんです。…それでは、行きましょうか。>
<うん。>
頷くモニク。モニクは美耶の前まで歩き出す。
<美耶ちゃん、どいて。>
<モニクちゃ…どうして?>
<え、だって…別に私、逃げるつもりも隠れるつもりもなかったし。…大丈夫だよ。心配しないで。>
<…>
モニクはいつものようににっこり笑い、そして美耶の頬にキスをした。
<じゃあね。>
美耶の横を通り、モニクは廊下を歩いていく。
クザラル人男性が男達に合図する。一人の男は部屋を出て行く。もう一人の男がクザラル人男性に日本語で聞いた。
「彼女ですが…」
「...Dak.」
「…」
クザラル人男性は頭を上に上げる。諦めた様子で男は部屋を後にした。
廊下では、立っていたクザラル人女性がモニクに近づいて何やら念じている。モニクが首を振った。
<…駄目です。彼女には使わないで。彼女は私の友達なの。絶対に、悪いようにはしないで。>
モニクが強い調子で念じる。女性はそれにうやうやしく頭を下げると、こちらを見向きもせず歩いていく。
「…」
美耶は部屋を眺めながら、無言で立っている。最後まで残っている目の前のクザラル人男性が、微笑んで念じる。
<本当に御迷惑をお掛けしてすみませんでした。今度お邪魔する時は失礼の無いよう、県警の方にももう一度強くお願いしておきますので。それでは、御協力有難うございました。良い関係性を。>
「…」
男性は軽く両手上げをすると、廊下を歩き、玄関で靴を履いて外へ出て行く。
やがて、鉄製のドアが閉まる重い音がする。
「…」
部屋には床に散らかったマンガと、食べかけのドーナツと、飲みかけのコーラの缶と、黙ったままドアの近くで座り込む美耶だけが残された。
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