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<さすがに部屋の中の内装は見慣れた雰囲気ですね。>
アリーザは自分のブリーフケースをテーブルに置きながら念じた。ホテルのスイート並みの大きさのその個室を、アリーザと小英は見回す。
<そうだな。考えてみれば、今私達の住んでる場所がそもそもクザラル式の建物だしな。>
<いえ、日本式ですよ。クザラル風にアレンジしているだけです。>
<そうだな。…細かいな、言い方が。>
<すいません。揚げ足を取るつもりではなかったんですが…>
<分かるよ。…だから、付き合いにくいんだ。私もだけどな。>
肩を上げながら、小英は部屋のソファに腰を降ろした。
<何か英語で書いてあるぞ。>
小英の念で、アリーザはテーブルに置かれた紙の方に目を向ける。
<お食事は食事室でもとれますが、地球式にこの部屋の中で食べて頂いても構いません。その場合、係りの者がこちらまでお運びします。…だそうですよ。>
<…地球式っていうのを、何か勘違いしているな。>
<まあ、普通の部屋で食事をするのがクザラル式でない事は事実ですから。彼等なりに最大限、気を遣ってくれているつもりなんでしょう。>
アリーザは小英の隣に腰を下ろした。
<さて。今日はこの後は、この「ホテル」で一休み、ですね。>
<そうだな。…市内観光とかは無いのかな。>
<…>
アリーザは小英を横目で見る。
<観光に来た訳じゃない、だな。もちろん分かってる。市内観光は冗談だ。>
真面目な顔で小英は首を傾げる。
<ただ…空港からここまで、クザラル人を殆ど見かけなかっただろ、HNK以外の、民間の。>
<それは、確かにそうですね…恐らくそれだけ、悪い意味でもVIP待遇、という事なんだと思いますよ。警備をしっかりするというのは、民間人から遠ざけるという事ですから。>
<それにしても…こうも遮断されていると、何だかゴーストタウンに来ているような気がする。>
<ゴーストタウンにしては建物が立派過ぎ、綺麗過ぎますよ。>
微笑むアリーザ。
<…>
<…>
<…明日、始まるんだよな。攻撃は。>
<ええ、それで明日中に終わると聞いています。それで明々後日には、もう地球に帰り着いているはずです。>
<セレモニーって言うけど…攻撃のセレモニーって何なんだ? バレエみたいに踊るのかな。槍か何か持ちながら。>
<槍というか、ステッキでしょうね。ステッキを構えて、日本のアニメの魔法少女よろしく、それを華麗に振って、…そして、殺す訳です。相手を。>
立ち上がり、ポーズ付きで念じるアリーザ。
<…殺すのか?>
<…>
ソファに背をもたれていた小英は背を起こした。アリーザは肩を上げてみせる。
<そうだよな。殺すんだよな。しかも相手はサクコブですらない。同じ人間だ。いや、それどころか「同じ」クザラル人なんだよな、私達にとっては。>
<…そうですね。>
<それを、自分達とは直接は関係が無いのに殺すんだな。…自分達の宣伝のために。>
<唯一の救いは、恐らくは、私達が直接引き金を引く事はないだろう、という事です。彼等の説明によれば、私達は攻撃施設への突入のところまでを付き合うだけで、その部分の映像を撮り終えれば後は帰って良いそうですから。>
<…>
小英は眉をひそめ、床を見ている。
<それを救いととれるかどうかは…議論をし出せば夜を明かせそうですね。>
<だろうな…>
<蔡さん。今なら、まだやめられます。別に私だけが行ったって良いんです。ニ人も一人も、宣伝上そう大した差じゃないでしょう。私は私の信じる「すべき事」をしますが、それを蔡さんもやらなきゃいけないという事じゃないんですよ。>
<それはそうだ。でも…私だって、私の信じる事を自分で決断したんだ。>
<…強いですね。>
<…>
<…なんて言いかたは…蔡さんには、何だか子供騙しのような感じがしてしまいますね。>
<そして私は、子供に扱われるのは嫌いだ。>
小英はややぎこちなく笑った。
<…強いんだと思いますよ、蔡さんは。ただ、この「強さ」が果たして正しいものなのかと言われたら…私には、よく分かりません。多分神様しか御存知無い事のような気がしてきます。>
<私は…こんなのは正しくないと思う。だから嫌なんだ、こんなのは。だけど…正しくなくても、それしか方法が無いっていう時もあるんだろう。それはHNKも、地球人版のHNKも、要はそういう事じゃないか。>
<…>
<だから、しょうがないんだ。それしかないんだから。…でも、それでも…それは、私は凄く嫌な事なんだ。多分生理的に受け付けないんだと思う。私はそんなのは、大っ嫌いなんだ。…自分のしようとしている事が。>
<…>
アリーザはテーブルを見つめた。いつもの穏やかな顔で、アリーザはまばたきをする。
<…失敗でしたね。蔡さんをここに連れてくるべきじゃなかった。>
<失礼だな。私は連れてこられた訳じゃない、自分から率先してここに来たんだぞ。…嫌だったけどな。>
<…私もしかして、慰められてますか? 小学生に。>
<一生の屈辱だろう?>
小英は笑ってみせる。アリーザもそれにつられて微笑んだ。
<…>
<なあ…ところで…さっきの話に戻るけど、一箇所だけ、クザラルの民間人をたくさん見た場所があったじゃないか。>
アリーザは顔を上げ、小英を見ながら頷いた。
<…ええ。そうですね。あの、空港のロビー…と呼ぶべきなんでしょうか、の向こうの方にいた方々ですよね?>
<ああ。あれは…一体何だったんだ?>
<私にも全く分かりませんが…どうも、こちらの事を知っている、というか…私達があそこを通る事を知っていたから、あそこで待ち構えていた、という風に私には思えたんですが…>
<そうだよな。私もそんな感じがしたんだ。それに、何かプラカードとかも持っていたし…地球のニュースで、似た雰囲気のって、よく見ているような気がするんだ、私。>
<そう…ですね…皆さん…愉快そうな表情には、確かに見えませんでした…>
<そうだよな、やっぱり。つまり…彼等は、私達が来るのを知っていて…私達に対して、何かの抗議デモをしていた、って考えて良いのか?>
<…>
再びソファーに座りつつ、アリーザは難しい表情で考える。
<確かに、雰囲気としては、地球人…地球育ち、の私達にとっては、そういう感じがしましたね。>
<JVK育ちでも多分そうだぞ、あれは。どう見ても歓迎セレモニーの雰囲気には見えなかった。>
<それにそれなら、クハムヌさんもあんな風にはせかさなかったでしょうしね。>
<つまり私達は、ここでは歓迎されていない、って事か…それなら市内観光が無いのも仕方が無いのかもしれないな。>
<でも、それもまた妙な話ですよね…ここはHNKの統治している星なのに。現実はさておき、宣伝上は私達はHNKのもとに身をよせた悲運のヒロイン達な訳じゃないですか。>
<…あの連中は、地球関与を嫌う長官派だったのかもしれない。>
<それは有り得ますね…。でも、内部の人間ならあんな風に表立って、しかも私達からは隔離された所で抗議するというのはおかしいでしょう。HNKは内部対立は隠したがっているようですし、仮に彼等がこの計画を潰そうとするなら別の手段をとるはずです。…極端な話、「認めない」と一言言われれば終わるんじゃないですか?
一旦やってしまえばコココ全体の世論が味方についてこちらの勝ちですが、それまでは彼等がHNKの「主流派」なはずなんですから。>
<じゃあ一体…誰が?>
<…>
アリーザは鼻息をつき眉を寄せた。
ドアのベルが鳴った。二人は、ドアの方に顔を向ける。
<…すいません、よろしいですか?>
<ええ、どうぞ。>
ドアに念じるアリーザ。
ドアが開き、笑顔のクハムヌが顔を見せた。
<部屋はくつろげますか?>
<ええ。とても。>
アリーザはこぼれんばかりの笑顔を返した。
<ちょうど二人で今、話し合っていたところなんですが、考えてみれば私達、今はHNKの地球支部にお世話になっているんですよね。ですから、この建物の中に入ってしまうと本当に、見慣れた雰囲気なのでリラックス出来るなあ、と思いまして。蔡さんが言うには、やって来てから、ここに入るまで正直少し不安な部分もあったけれど、この部屋を見て、何だかほっとしたそうですよ。ねえ、蔡さん。>
<えっ? …あ、あ、ああ…>
<そうですか。それは本当に良かったです。>
クハムヌは破顔し頷いた。
<さっそくですが、明日の件について詳しくお話したいのですが、よろしいですか?>
<…>
アリーザは頷いてみせた。
彼女達のいる部屋の壁面にあるディスプレイを使い、クハムヌがCGを表示させている。
ソファの二人を前にして、立っているクハムヌが念じる。
<撮影は飛行式の超小型カメラ30機で行います。全角度から撮られますから…それなりに意識して、あまり変な表情は見せないでくださいね。地球人と違ってクザラル人は、路上で排泄したり、飲み食いをしたり、タバコ類を吸ったり、唾を吐いたり鼻をかんだりというのはタブーになっていますから、ここでは控えるようにしてください。>
<排泄は…地球の路上でもそうやってはいないぞ。少なくとも私は。>
<あ、そうなんですか? …それはすいませんでした、でしたら安心です。>
クハムヌは小英に笑いかける。
<その場所は安全なんでしょうか? もちろん、100%安全でしたら戦闘になりませんけれど…>
<この星は本来、戦場ではありません。…少なくとも2クザラル年前からはね。HNKがこの惑星全域を押さえていますから、…何と言うんでしょう、安全、と呼べるかは分かりませんけど、私達の方が圧倒的に優位な立場で戦闘を行えるのは確かです。もちろん、彼等は彼等で必死で抵抗してくる事は分かっていますから、油断は禁物ですけどね。>
アリーザに答えるクハムヌ。アリーザは頷く。
<そうですか。それで相手ですが…>
<ここの点…家ですが、に現在潜伏中です。もちろん系魔法で家ごと隠れていますが、既に内通者がいるのでこのように詳細なデータが分かっています。>
クハムヌはCGを拡大させる。
<隠れてこもっている相手を、狙い撃ちか。包囲して。>
<ええ。ですからそれほど危険性が高くはないという事は、分かりますよね。>
<でも……卑怯だな…>
小英は目を伏せる。
<蔡さん…>
<卑怯…まあ、卑怯といえば卑怯かもしれませんけど。>
クハムヌは軽く耳を揺らしながら念じる。
<おおよそテロリストというのは卑怯な戦い方しかしないものなんです。私達は、正攻法で相手と戦えるような力関係にはないんです。今でもね。>
<分かってる。…ただ、自分が人を殺すのかと思うと…どう頑張っても、気持ちに整理をつける事が出来なくて…>
<…>
クハムヌは腕を組み、小英を見据えた。
<英さん。今は、一個人の正義感よりも先に優先させるべき事があるはずです。あなたの行動でこの先、何人ものコココ人の命、そして更にそれの何倍もの地球人の命が救われるというなら、何も迷う事なんか無いでしょう?>
<それに…そもそも私達二人がこの戦闘に参加しようがしまいが、明日この「戦闘」は間違いなく開始されて、何時間も経たない内に間違いなく相手は死んでいる。そうでしょう?
蔡さん、HNKの皆さんを、そう過小評価するものではありませんよ。>
<ああ…分かってる。…理屈じゃ分かってる。…話の腰を折ってすまなかった。>
長い黒髪を垂らし、うつむいたまま小英が念じる。アリーザは軽く息をついた。
アリーザはクハムヌを見た。
<それで…その潜伏している相手は、一体どういう方なんですか?>
<魔法協会のかなりの上層部で、秘密裏に働いてきた生体学者であると同時に、かなりの強力な魔術師でもあります。昔の経歴には色々謎も多いのですが、ここ10クザラル年ほどの間は、生体兵器の開発に従事してきたようです。主に、時魔法絡みの。>
<その生体兵器というのは、サクコブに対しての物ではないんですか?>
<サクコブ用の物にも、基礎研究レベルでは関わる事があるようですが、仕事としては対人間用の物が殆どです。少なくとも、ビブトの大虐殺で使われた無限増殖システムは彼女の手によるものである事は確認ずみです。>
<なるほど…まあ、虫も殺さない善人よりは、そういった方が相手の方が多少、気が楽ではありますね。>
息を吐きつつアリーザが念じる。
<それにしても…何故そんな方が、わざわざこの星に来ているのでしょう?>
<はっきりとは分かりませんが、GK…ああ失礼、HNK支配地域で、通用しているIDカードを得ようとしているそうです。ここからはこっちの情報部の推測ですが、おそらくそれから別のHNK領の惑星に行って、そこで、生体兵器を使った攻撃を指揮するのではないかと考えられています。>
<そうですか…。>
呟くアリーザ。小英が顔を上げる。
<…名前は? その彼女の名前は何ていうんだ?>
<ヌガッド・ルズビャウキシュ。>
<…>
<というのが、最近のHYI内部文書で一番よく使われているカクリカ語の偽名です。本名は聞かないで下さいね。私達も知りませんから。>
クハムヌは壁面の画面の表示を消した。
<後の詳しい事はこっちのディスプレイで…ああ、操作は分かりますか?>
<ええと…操作は分かりますが、言葉が問題ですね。腕端末の方に転送をお願いしたいのですが。>
<分かりました。本来機密情報の転送は禁止されているんですが、まあ特例としましょう。>
頷くクハムヌ。彼女は両手を合わせ、二人を見た。
<最後に一つ、こちらから確認ですが…一応戦闘ですし、向こうに行ってから今回の件はキャンセル、等のように言われてもこちらも恐らく、対応しきれないと思います。ですから万が一、明日の件は取りやめ、という事でしたら…今の内に言っておいてほしいのですが。>
<…>
無言で、アリーザは小さく頷いてみせる。
アリーザは小英の方を見た。小英はまたうつむいている。
<…分かっている。大丈夫だ。…地球人の未来がかかっているんだから。…本当だよ。大丈夫、だ。>
<…>
クハムヌの方に視線を戻すアリーザ。クハムヌは頷いた。
<分かりました。それじゃあ二人とも、今夜はゆっくり休んでください。>
<ありがとう。お互い良い夢が見れると良いですね。>
<神の御加護を。>
<そちらこそ。>
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