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木漏れ日の眩しい白い部屋で、人影が動く。 <…> |
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「どうだ?」 「お話は、もう良いんですか?」 |
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強い日差しが照り付け、水田の水に反射する。山の斜面に作られた小さな田には稲が青々とした葉を伸ばし、一面の景色を覆っている。その様子は、斜面であるという点さえ除けば、春日部北高の通学路の途中の景色によく似ていた。 「前も言いましたが、英語と出来れば日本語、ドイツ語、スペイン語、韓国語辺りの通訳がいると助かります。内部は機械ですみますが、外部とのコミュニケーションが全くなので。」 灰色のコンクリートの、小さな研究所か事務所のような建物の入り口から宏子が走ってこちらにやってくる。 |
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| 「…アデレード? それがつまり、どういう事?」 「つまり、これで最後って事だな。」 群青色と黒の中間の色に染まる空の下、通学路を歩く石戸田は隣の美耶に答えた。 「最後。え、もうクザラルの人って全員いなくなっちゃったの?」 「小島のなっちゃんはそんな事言ってたぜ。」 「え? でも昨日のニュースステーションで、私クザラル人の、何かコメントする人見たよ?」 「あ、だから、全員って言うのは魔法協会が、じゃねえの? でもそうじゃない奴等は、別に帰る義務なんかは無いじゃん。アメリカも日本も、結局協会を、悪くは言ってないんじゃなかったか、確か。…だからそのニュースでもやってたけど、あの、ほら、クザラルの偉い奴。」 「トゥンジュ首相。」 「違う。それは偉すぎ。あの、おばさんで、ニューヨークだかに住んでる人いたじゃん。プ…パ…プ…」 「ダイポ・レー課師。」 「そう、それ、それ。そのレー課師が何か、宇宙船から会見やって。クザラル人と地球同朋はいつまでも友達うんぬんかんぬんって、いつもみたいに作り笑いでやってたけどな。」 ガードレールに守られた細い歩道から、段差のついた比較的広い歩道に足を進めつつ、美耶が苦笑する。 「うわ。今そんな事言っても、余計反感増すだけなのに。」 「かもな。でもなんかそれで、トンプソンとかもおんなじような感じのコメントやってた。いや、その辺まではもう行く時間だったからちゃんと見てないけど。」 「へえー。…じゃあ、もう地球は、基本的に地球人だけ、になったんだ。」 「だな。」 「…」 「…」 ニ人は歩いたまま、お互いにちら、と目を向ける。 ニ人の表情は暗かった。 「…だよな。心配じゃない訳無いよな。」 美耶は息をつきながら目を伏せた。 「うん。…それは、今までももちろん同じだったんだけど。これからはもっと、だよね。」 「ここんところずうっっと臨時ニュースだろ。夕食時に帰ってさ、まず夕食食べながら、スパスパ人間学見るのが俺の生きがいなのに。2週連続で潰しやがった。」 「…だから、だいちゃんですらニュースを見るようになったんだね。」 「ホントだって。」 ニ人は軽く笑った。 「…しっかし、佐藤も冷たい奴だよなあ。世界の有名人になったかと思ったら、もう全然こっちに顔見せやがらないんだから。電話も、メールも、何も無えし。…もしかしたらもう日本語忘れたんじゃないのか?」 「だいちゃん…」 「そんな怖い目すんな。」 「…別に、そういうつもりはないけど…」 視線をそらす美耶。 「…分かってる。あいつはあいつで、多分心配してんだよ。ま、多分、な。連絡よこしたら、それで俺達が目立つんじゃないか位の事を思ってるんだ。…昔っからあいつ、どっか抜けてるからな。多分そんな馬鹿な理由なんだろ。実際にはもう、幸田とかは充分テレビに出た事あんのにな。」 「…」 「…周りを巻き込みかねない位に自分の立場が危険だって、そこだけをちゃんと分かってるんだろうな。でもいかんせん馬鹿だからそれ以上頭が回らないんだ、アレは。」 「…」 「昔っからあいつはそうだったからな。大体残された方の気持ちとか、そもそもこれっぽちも考えない奴なんだ。何て言うか…根本的に冷血なところがあるからな、あいつは。」 「…だいちゃん…」 声の調子に気付き、石戸田はしまった、という表情になった。 「いや、悪い、言い過ぎた。」 美耶は首を振る。 「そうじゃないよ。私達の間に別に、「言い過ぎ」なんて事はない。ただ…」 「…ただ…?」 「…言い過ぎ、だったかもしれないね…」 「…?」 眉を上げる石戸田。 「だいちゃんやっぱり、そうなんだよね。…そうじゃないかとはずっと、思ってたけど。」 「…幸田?」 美耶はにっこり笑って顔を上げる。 「…うん、ずっと前からそれは、分かってたよ。それこそ本人が分かるよりも、よっぽど前からね。」 「何言ってるんだ、急に?」 「さっきだいちゃんは、言い過ぎた、って事だよ。もちろん友達が遠くにいる場合も心配はするだろうけどね、さっきのだいちゃんの言い方は、それにしては言い過ぎてた。」 「…」 「だいちゃん、一回後輩の子に告白された事があったでしょ。あの時だって、全然相手にしていなかったじゃない。相手の子、結構可愛かったのに。」 「…」 美耶の言わんとする事が理解出来たらしい石戸田が、その大人びた顔をしばらく呆けさせ、それから街路樹に目を向け、口を開いた。 「それは、一回だけだろ。それも相手の将来を思いやっての事だし。」 美耶の笑顔は徐々に邪気のまじったものになっていく。 「それは一回だけだったっけね。でも他の、ある病気がちの女の子が入院してた時、頻繁にお見舞いに来てくれるのは良いんだけど、そこで出てくる話題が毎回決まってある別の女の子っていうのは、ちょっとデリカシーにかけてたんじゃないかなって、私は思ったけどね。」 「あー? 俺達で共通の話題っていったらそうならざるをえないだろ。それともお互いバスケやバレーの話で盛り上がるか? 盛り上がれれば。それとも受験の話でもしてお互い落ち込みあうか?」 「…別に、そんなムキになって否定しなくても良いのに。私はだいちゃんとひーこが好き、ひーこはだいちゃんと私が好き、だいちゃんはひーこと私が好き、皆仲良し、それで良いじゃない。…そういうの、関係無いっていうのが私達だったし、今もそうなんだから。」 「…」 「…」 「…お前は、それで良いのかよ。そういうの、関係無いっていう事で。ずっとそのままで、本当に…良い、って、思えるのか。」 「もちろん。…あ、って言っても、もしだいちゃんがひーこの…」 「誰が、あんな男女。俺だって相手を選ぶ権利くらいあるからな。あのプオラギイックさんも、つくづく物好きな人だよ。」 「…そう。それだったら今まで通りだね。」 「ああ、そうだな。俺も別に人として幸田や佐藤が嫌いだって言ってる訳じゃないからな。っていうか、もう腐れ縁だろ。」 「…でも、これもだいちゃんがさっき言ってた通りの話だけど、ひーこは本当に人の気持ちには疎いからね。言わないって事は、本当に伝わらないって事だよ。今のままだったら、永遠にひーこは」 「お前も必死だな。」 「…別に、そういう訳じゃないけど。」 石戸田は美耶の顔を見た。目をそらす美耶。 「私はニ人とも好きだから、ニ人とも幸せになってほしいな、って…」 「お前自身はどうでも良いのかよ? あのな、気付いていないと思っているかもしれないけど、俺だって本当はお前がどう思ってるか位分かってるぞ。本当は、お前は…」 「分かってないよ。絶対分かってない。…だいちゃんが女心なんか、分かる訳ないよ。」 穏やかな口調で美耶は遮った。 「…」 「…」 「…ま、そうかもしんないけどな。お前に女心なるものがあるとは知らんかったし。」 「ひどいなあ。…まあ、私も自分で、あるなんて知らなかったけど。最近まで。」 「…」 まるで何かに謝罪しているような石戸田の視線に首を振って、美耶は声を上げた。 「ああっ、もう私の事なんかは良いの! 問題はひーこだよ。ひーこが地球を救うのは勝手だけど、それにかまけて友達をないがしろにしてるんだから。幼馴染が入院してるっていうのにお見舞いの電話の一つもよこしてこなかったんだよ、酷いと思わない?」 「…もう、その手の愚痴は病院で死ぬほど聞いたんだけどな。」 「うん、それにも飽きたから学校に戻ってきて続けようと思ったんだけどね。」 平然と頷く美耶。石戸田は息をつく。 「佐藤が連絡を取りたがらない理由が少し分かった気がする。」 「…」 「…」 「ねえ、だいちゃん…。」 「何だ?」 「私達…何の力にもなれないのかな。」 「力って…佐藤の?」 「うん…」 「例えば、EIMに志願する、とか?」 「ある程度英語が出来ないと駄目って聞いたよ。それ以前に、お母さんがいるからここは動けないよ…。」 「だな。」 石戸田は美耶に頷く。 「…でも、携帯でEIMのサイト…それは日本語もあるのね、そこでメールは出した。ひーこあてに。」 「…」 「…返事無かったけど。」 「…」 美耶は髪をかきながら、首を傾げる。 「だいちゃん。話戻るけど、クザラルの人は皆行っちゃうんだよね?」 「らしいな。」 「…」 考え込む様子の美耶。石戸田は首を振る。 「…止めておいた方が良い。いくら「殆どの」クザラル人がいなくなったって言ったって、本当に全員行く訳じゃない。一人でも魔術師が残っていれば、その時点でお前や小母さんはまだ、充分危険なんじゃないか? そもそもそれ以前に」 「ううん、EIMの話じゃなくて。あのさ。ひーこももちろん、気になるけど…モニクちゃんはそれじゃ、どうしたんだろ…?」 「モニク? あの…留学生だったよな。留学生っていうか、魔法少女か。えっと…どっちだったっけ、生きてる方だったっけか?」 石戸田の言葉に美耶は眉をひそめる。 「リジュワナちゃんも生きてるよ。…一応ね。モニクちゃんはフランス人の方。魔法協会にずっと残ってた子。」 「ああ、分かった。去年トンプソンと記者会見やってた方な?」 「そう、そっち。そのモニクちゃんは…これからどうするんだろう。」 「…俺はそいつの事は良く知る機会も無かったけど…良い奴そうに見えたけどなあ。」 「うん。モニクちゃんは「良い奴」だったよ。…絶対今も、「良い奴」なはず。ひーこ達と、何でか違う立場になっちゃったけど。」 「…」 「モニクちゃんが地球に残ったら、魔法協会が嫌いな人から色々言われそうだし、でも、クザラル星に行くなんていうのも想像がつかないし…どっちにしても、心配だな…」 「…最近、全員が、全員の心配をしてるんだよな。自分達自身も含め。」 「そうだね。…皆がクザラルの人に怒り出して、そうしたら、本当に呆気なくクザラルの人は出て行っちゃったのに…誰も喜んでないよね。それどころかどんどん不安になってる。休み時間とか凄いじゃない。まるで、大声で喋ったらいけないような雰囲気だったよ。あんな学校、今週が初めて。」 「そうだな…」 ウーン、ウーン…。 「幸田!」 「…」 |