| <そんな事私に言われても無理だ…> <えーっ、何で! いつからひーこはそんな冷たい子になったの!> 古い学校の校舎のような、壁がコンクリート、床が木貼りの建物の一室で、美耶が小英に詰め寄っている。 <私に言われても困る。それに、この船を逃したら次は一週間後だ、それまで宏子は待っていられないんだろう。> 本当に困った様子で答える小英。HNKとEIMのスタッフ達の注目の目を浴びながら、ニ人はじりじりと動いている。 <だからって、だいちゃんの生死がかかってるっていうこの時にクザラル星に行くだなんてどうかしてるよ! 行って帰ってくるだけで四日はかかるって言うじゃない! だって、その間に…> <何よ。うちのマブル君の腕を信じていないんだな、幸田君は。> 後ろから響く念に美耶は振り向いた。 <ひーこ。ちょっと、話があるんだけど。> 厳しい表情の美耶。 「…」 相手を見て一瞬美耶は眉を上げたが、そのまま無言で自分の腰に手をあててみせた。 <何、もうちょっと反応してくれても良いじゃん。中々可愛いでしょ?> クザラル人にしてはやや色白で小柄な女性が、頭の耳をはたはたと動かしながら胸をそらせた。 <…わざわざそんな特殊メイクしなくたって、系の魔法を使えばすむ話じゃない。> <って言ってもさすがに一日中となると、いくら宏子のNKが高いって言ったって魔力の消耗も馬鹿にはなんないでしょ。それよりはこっちの方が現実的、って事。> 得意げな顔の「クザラル人」少女の後ろで、頭一つ大きいシユマが肩を上げてみせた。 <私の時はこんなサポートは皆無だったけどな。> 小英が鼻で笑う。シユマは不快そうな顔を見せる。 <私はあんたらの時は、何とかして行くのを止めさせるっていうサポートをしたでしょうが。> <ん? 何かテレパシーの調子がおかしいな。「妨害」ってイメージが当てはまるべき場所で「サポート」ってイメージが響いてきたぞ。> 自分の頭を押さえてみせる小英。 <間違ってないじゃん。その結果として、あんたらは余計意固地になって自殺宣伝しに行ったんだから。> <そりゃ、本当にこっちを思いやってるんじゃなくて、自分の事を知られたくないっていう私利私欲で動いてるんだから。こっちだってそういうのは敏感に気づくだろ。> <な…> <ん? 自分の事?> 眉を寄せて、振り返る宏子。 シユマは笑顔を作り、首を上げてみせた。 <ああ、何でもないよ、こっちの話。> <いやまあ、そうかもしんないけど…> 不思議そうな顔の宏子。小英は素知らぬ様子で宏子に近づいた。 <それにしてもどうやって耳を動かしてるんだ、魔術か?> <ん? ん…> 小英に自分の手のひらを見せる宏子。人差し指と薬指に、指輪型の発信機らしき物がつけられている。小英は口を開けて頷いた。 <ほう…> <ねえ…そんな事どうでも良いよ。…ひーこ、今、だいちゃんが危ないっていう時に、そんな仮装してここを離れるってどういうつもり。ひーこが行っている間に、もし、だいちゃんにもしもの事があったら…> クザラル人の格好の宏子は、いかにも地球人的な素の表情で息をついた。 <大変だね。でもそれは石戸田に限った話じゃないでしょ。もう見て知ってるだろうけど、リジュワナはもう8ヶ月意識が無いままだし、アリーザもまともに動けないし、プオに至ってはどこにいるかも不明だし。そもそもここだって攻撃を受ける可能性は常にあるんだから。地球の主な国で今、HYIを支持しているのがイラクとシリアとUAEだけだっていうのはつまり、HYIはもう逆に、遠慮無しに地球人を叩けるって事だからね。> <ま、それ以前にサクコブの攻撃も最近激化してるけどねー。> 他人事のようなトーンで付け足すシユマ。 <それは…皆危険なのは、よく、分かってるけど…> <あんた自身がその場にいたんだから分かってるでしょ、美耶。この間のサクコブの攻撃で春日部の人が何人死んだか聞いてる?> <…行方不明者、3万4千人。志穂も瞳も中田さんも玲も紗英も阿川先生も、山根の人達も、皆が皆行方不明。東武線は運休中、4号16号共に寸断状態。> <…あんたのお母さんもね。…こんな事なら、あんた達だけでもどこかに移しておくべきだった…> <ねえ、ひーこ、後悔する暇があるんだったら、今、後悔しないように行動して。その、マブルっていうお医者さんも言ってるよ。だいちゃんは…はっきり言って、もう、今日明日が瀬戸際だ、って…でも、だいちゃんはまだ、ひーこに何も言ってないんだよ。> <何も言ってないって、何をよ。> <そ、それは…> 目をそらす美耶。 <石戸田と話だったら、さっきした。…あんたの事、よろしく、って言ってたよ。> <…それだけ、なの?> <それだけ、って、他に何かある?> 眉を上げるクザラル人少女。 <…> 宏子は息をつき、美耶の肩に手を置いた。 <…ねえ美耶、落ち着いて聞いて。私も、後悔したくない。だから今は、出来る事は全部やっておきたいんだ。美耶、何で、急に春日部がサクコブに襲われたか分かる?> <…え?> 顔を上げる美耶。美耶は首を振る。 <…奴等がここに来る魔術を確立させつつあるっていうのが一つ。もう一つは、邪魔なクザラル人がいなくなったから、って事。今思えば、そもそもクザラル人があんなにあっさり地球を撤退したのは、こうなるのを全部見越しての事だったんだよ。自分達無しでは地球人は生き残るなんて出来ない、って思わせるために、わざと手を引いて静観してるの。いかにも協会の好きそうな手でしょ。> <だけど…仮にそうだとして、ひーこがクザラル星に行って何か変わるの?> <それは…分からない。けど、結局、私達は自分達だけじゃ弱すぎる。クザラル人かサクコブ、どっちかと手を結ばなきゃやっていけない。> <…そんな事言ったって、どっちも手を結べる相手じゃない、って思ったからひーこはEIMを作ったんじゃなかったの?> <えー、ちょっと待って。私は? 私も一応クザラル人のつもりなんだけど、皆の敵だった?> <…それは、シユマさん達は別だけど…> 顔を見上げ、口をとがらせる美耶。シユマは笑ってみせる。 <つまりそういう事よ。少なくともクザラル人の場合は、全くの一枚岩じゃない。中には野蛮な地球人に協力してやっても良い、っていう人達もいるかもしれない。> <でも…失礼ですけど、HNKは結局、多くのクザラルの人から弾圧を受けていて、あんまりクザラル星の中で強いグループとはいえないんでしょう? それこそ、ちょっと前のEIMみたいな…> <まあ私達はね。でも、宏子が会いにいくのは私達じゃないし。> <え?> <ね、シユマ。もう時間無いんじゃん?> <え? ああ、そうだね。確か後10分後に軌道を離脱するはず。> 自分の腕の端末を見て、シユマは頷いた。 <美耶、私達もう行くから。反響装置の関係で一旦岐阜に寄らないと船の中に行けないし。> <ひーこ…本当に、ひーこはそれで良いの? …もう、だいちゃんの顔は……見る事が> <…ニ人とも、もう見れないって思ってたよ。> 宏子は美耶の頬に手をやった。 <…> <でももう、自分の好きな人達に、一々こういう思いはしたくないから。…美耶、何でか知らないけど、私、地球人の代表みたいな立場になっちゃってるんだよね。いつのまにかさ。…でも、それだったら、私はその立場を使えるだけ使おうと思う。それで、地球が平和になるっていうなら…私は、心も体も惜しくない。> <…ひーこ…> <…もう時間だから行かなきゃ。ここで何か分からない事があったら小英に聞いて。こいつが、この建物の説明はしてくれると思うから。それじゃ、多分四日後。> <…ひーこ。> <…> <…> <…話は帰ってから聞くから。> <…> 宏子は美耶から離れ、部屋の一角に歩き進む。 <…> シユマと頷きあう宏子。宏子は自分の手にしたイハッジャをかかげる。 シュウウウウウウウウウウウウウウン…。 ニ人のクザラル人を、赤い光が包み出した。 |
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シュウウウウウンズバアアアアアアアアアアアアアン! 「ダブルシート一つ。」 <わっ。本当に動き出した…> |
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<入りなさい。> |
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ウーン…。 |
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ピピ。 |
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宏子は窓を眺めていた。
「ああ、そうだ。もったいつけずに言うと、05だよ。お前も聞いた事あったよな。例の、「戦わないサクコブ」だ。」 続く |
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<ああ、凄いな。もう3話連続で私が担当か…> |