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真新しい病室のベッドに座っているアリーザは、彼女なりの「満面の笑み」を作ってみせた。
<何も問題はありません。多分、ちょっと疲れていただけなんでしょう。>
<…そういう判断は、患者が自分勝手に決めるもんじゃないんですよ。アリーザさん。>
青い肌のクザラル人女性は、呆れた様子でアリーザの顔を見る。
彼女はベッド脇に表示された固定式バーチャルタッチパネルを操作しながら念じる。
<まあ、今はもう健康であるらしいのは事実ですけどね。健康というか…>
<健康でしょう? まあ、多少運動不足でおなかが気になりはしますが、何かの病気じゃないですよね。>
自分の腹部に手を当ててみせるアリーザ。女性は息をつく。
<まあ、地球の医師が診れば病気には見えないでしょうけれどね。>
<マブルさんが見ても、今の私は病気ではない事は確かでしょう。>
マブルの目が鋭くなる。
<とんでもない。確かに今日の発作は一時間で収まりました。今のあなたの容態は落ち着いている。でも、それだけの事です。またいつ症状が再発するかは、誰にも分からないんですよ? 今月に入ってから、こういう発作はもうこれで4回目じゃないですか。>
<私が日がなここにいられて助かりました。手足を無くしてみるのも、案外悪い事ではないですね。>
<アリーザさん。>
<…>
マブルの厳しいトーンに、アリーザは一旦テレパシーをとめ、顔を上げた。
<それではどうすると言うんですか? 治らないんでしょう、この罰は?>
<…地球人のそれと同様、私達の医学も今だ発展途上です。昨日までは治らなかった病気が今日になって治る、という事だって、決してあり得ない事じゃない。>
<その「あり得ない事じゃない」可能性の為に、本星の病院に行けと?>
<そうです!>
<それならまずホクさんを連れて行くべきでしょう。>
マブルは口を開き、そして首を上げる。
<それは…リジュワナさんは、残念ですが、リジュワナさんの症状は…>
<あり得ない事では無いのでは? 治る可能性の事ですが。私とどちらが高いですか?>
<それは…>
<0.1%と0.01%の差等でしたら、一々お知らせ頂かなくても結構ですよ。>
<…アリーザさんの言っている事は、屁理屈です。>
<そうでしょうか?>
<そうです! 自分から治らないと思い込んでいたら、それは治るものも治りません。それに皆さんにだって、早くこの事を>
<ええまあ、もちろん伝えますよ。本当に私が、もうどうしようもなくなった時は。>
<アリーザさん!>
マブルがアリーザに迫る。アリーザは優しく笑いながら首を振った。
<でもいつ秘密をバラすかも、どこで何をするかも、全部私の勝手です。何しろ、私とあなたはお互い異星人なんですから。あなたが善意で私を助けてくださろうとしているのはもちろん承知していますが、それに従う従わないは、あくまで私の地球人としての価値観に乗っ取って判断させて頂きますよ。そういった異文化を尊重するのが、真の意味での「良き関係性」というものでしょう?>
<…>
息をつくマブル。
<…アリーザさん、私はゴニ教徒じゃないんですよ。>
<ああ、それは失礼しました。>
<それに…それでも、せめて説明位はしてくれても良いでしょう。何故、まだ皆さんには言えないんですか?>
ベッドに座っているアリーザは、しばらく視線を動かしてから答えた。
<…今、地球の皆さんは佐藤さんにとても期待しています。それはもちろん素晴らしい事なのですが、今の佐藤さんはそれを重荷に感じているようなのです。ですが、身近でそれを相談出来るような相手は、プオラギイックさんに幸田さん、蔡さん、それと私しかいないんですよ。私はプオラギイックさんや幸田さんに比べると、彼女に一番近い人間とは言えないかもしれませんが、それでももし私がいなくなれば、今の彼女には辛いはずです。…まあ多少、私の希望的観測をふまえての話ですが。>
<だからここで対処療法で誤魔化し続けると言うのですか? …クザラル人だからそう思うのであって地球人は違うと言われればそれまでですが、私に言わせればそれは、自分が仲間外れにされたくないから現実から目をそらし続けている、というだけのように思えます。>
<…>
<…言い過ぎかもしれませんが、私はそう思います。>
<…そうかもしれませんね。>
アリーザは自分の両手を抱き、頷いた。
<ええ、私は弱いですから…昔から、とても……でも、マブルさん。少なくともそれだけではないんです。今の佐藤さん、今のEIMは、綱渡りなんです。こんな私でも、病室にいるだけで何の役にも立っていない「怠け者」の私でも、それでもどこかへ行ってしまったら……彼女は、寂しがりやなんですよ、マブルさん。今の私は、彼女を置いてどこかに行くなんて出来ないんです。>
<…それが自分の命取りになるかもしれませんよ?>
<かもしれませんが、それが私の判断です。地球人の文化には口を挟まないで下さい。>
<…>
平然と念じるアリーザ。マブルは憮然とした様子で彼女の顔を見た。


美耶はビルの通路の中にある喫茶コーナーのような場所で、椅子に腰掛けながら窓の外を見下ろしていた。
EIMの新本部は、中国政府の全面的な援助で建てられた8階建てのガラス張りのビルだ。もっともOTR等の類似組織との雑居で、EIM自体の占めるフロアは6・7・8階に限られる。北京市東部の郊外にあるこのビルからは、住宅地と切れ切れの林が一望出来る。
<…>
ビルの入り口へと続く道では、何度かドイツ車が行き交い、中から出た人々が談笑しながら歩いている。ほぼ間違いなく中国政府関係者達だろう。
<邪魔か?>
テーブルの前の気配に美耶は顔を向けた。
<…ああ。良いですけど…あ、じゃあお茶下げておきますね。>
プオラギイックが立っていた。美耶は自分も立ち上がり、紅茶のカップを持っていこうとする。
<良いって。HNK本部じゃあるまいし、ここは地球人の建物だろ。ゆっくり飲んでくれ。そんな事でいちいち気を遣われたら逆に居心地が悪い。>
美耶の向かいの椅子にプオラギイックは腰をかける。<そこまで言うなら…>と念じ美耶は再び腰を降ろした。
<でも、本当に大丈夫だったか? 邪魔だったら出直すが…>
<プオさんじゃあるまいし、私が今、忙しそうに見えます?>
美耶は軽く怒ったような調子で微笑む。
<私はひーこの知り合いってだけで、EIMのメンバーでも何でもないから。ここにいても何にもする事が無いんですよ。>
<そういう割には最近会議によく出てるじゃないか。もう、メンバーじゃないなんて思っているのはお前本人だけだと思うぞ。>
<はあ…でも、私は何も分からない素人ですよ。会議だって付き合いというか、成り行きで顔を出しているだけですし…>
<まあそれでも、お前みたいな立場はここでは貴重だから。>
<素人がですか?>
<いや、素人は全然珍しくないけど、宏子を牽制出来る立場、は珍しいだろ。>
<ああ…>
<ここじゃあいつお姫様だからな。…随分男らしいお姫様ではあるが。>
<恋のライバルが出てきそうで心配、ですか。>
「げほっ!」
プオラギイックは椅子からずりおちかけた。
<…>
<…>
<…じゃなくてな。>
<はい。>
澄ました顔で、紅茶のカップを手にしながら美耶が頷く。
<…あ、そういえば…石戸田君の様態はどうなってるんだ?>
<…>
ちら、とプオラギイックの顔を見ながら美耶は念じた。
<まだ「奇跡」は続いてるみたいで。意識はまだ無いんですが、体の機能はむしろ正常に近づきつつあるそうです。>
<凄いな…もう1週間じゃないか。>
<1週間と2日ですね。>
<希望が持てるぞ。05に医学的な事を聞けば、本格的に回復させられるかもしれない。>
<はい…>
<…どうした、嬉しくないのか?>
<え? そんな事は無いですよ。>
カップを置きながら美耶が微笑む。
<じゃあ、お話っていうのは石戸田君の事ですか?>
<ん、いや…そういう訳でもないんだが…>
<…>
耳に手をやるプオラギイックを、美耶は首を傾げながら見る。
<…じゃあ、やっぱり、05関係の事ですか。>
<いや、それでもない。>
真剣な様子のプオラギイック。つられて美耶も深刻そうな顔になる。
<…単刀直入に言うと…こういう話は、美耶、もう1年近く付き合いがあるお前だから言える事なんだけどな、…俺は…俺は、偽者なのか?>
<…>
ぽかん、とした様子でしばらくプオラギイックを見ていた美耶は、口を閉じ、やがて面白そうに肩を震わせだした。
<冗談のつもりじゃないんだが…>
<分かってます。だから面白いんじゃないですか。あんまり、「自分は偽者か?」って真剣に他人に聞く偽者って聞かないですから。>
<…>
<真顔で…「俺は偽者か」って…>
美耶は口を開けて笑うのを何とか我慢している。
<そんなに面白かったか。でも…>
<ええ、確かに聞いてます。そういう噂はあるみたいですけど。>
<…>
美耶は姿勢を直し、プオラギイックを見た。
<でも、それは…自分が偽者かどうかなんて、私が聞かれて答えられると思います? そんなのはプオラギイックさん本人しか分からない事なんじゃないですか?>
<そうかな。必ずしも、そうとは限らないかもしれない。>
プオラギイックは窓の景色を眺める。
<本人にその自覚が無い偽者、っていう事だってありうるだろう。で…どういったきっかけかは知らないが、ある時点で本来の目的を思い出す、っていうタイプの偽者なのかもしれない。>
<なるほど…まあ、話としては分かりますけど。…でも、私から見てプオさんが偽者かどうかっていうのは、やっぱり分からないですよ。>
<そうか? でも、ファーンチトック同士の決闘を見ても動じなさそうなあの宏子ですらあれだけ怯えているんだぞ。>
<…>
一瞬の間を開けて美耶は頷いた。
<…あ。見てたんですね。この間ひーこが皆に言ってる所。>
<ああ。>
<…>
<…>
美耶を見るプオラギイック。美耶が顔をそらし、景色を眺めながら念じる。
<…どうなんでしょうね。私には、本当に分からないとしか言えないです。ましてや、半年以上会っていなかった後でしたから、ニ人とも…ひーこも、プオさんも、少し変わってるかなって思ったから。でもそれって、偽者とかそういう問題じゃないじゃないですか。>
<…まあ、それもそうか。>
<ただ…>
<…ただ?>
美耶は難しい顔でプオラギイックに向いた。
<…ただ、ひーこが変わるのは何となく分かる気がするんです。ここのところ色々あったから。それに変わったって言ったって表面的な所で無理してるだけで、中身は今まで通りっていうのが分かってるから。それに比べると、プオさんの場合は…何て言うんだろう、表面的には前と変わっていないはずなのに、何か…中身が変わってるっていう、感じが…>
<…>
<…気のせい、だと思うんですけど。でも、ひーこがプオさんの事を偽者かもって言ったとき、正直…私、ちょっと納得しちゃった部分があって。…あの、後から、そんな事ある訳ないってちゃんと考え直しましたけど。>
<いや…そうなのかもしれないな。>
<プオさん…>
<偽者はそんな事自分から言わないって言いたいんだろ? でも、仕方が無いじゃないか、俺はまだ偽者の自覚が無いんだから。>
開き直ったように手を上げてみせるプオラギイック。プオラギイックは椅子から立ち上がった。
<だから俺に自覚が出来た時は、殺すなりなんなりしてくれ。でも出来れば、自覚の無い内は本物として扱ってくれた方が嬉しいかな。一応俺も希望は失いたくないし。>
<…>
<俺は今から用事があるから。付き合ってくれてありがとう。>
<は、はい…>
プオラギイックは美耶に軽く頷いて見せると、通路を歩き出していく。

「…ふう。」
息をつきながら、美耶は彼の背中を見る。美耶は歩いていく彼を見たまま、自分の腕端末を押さえた。
「…何、美耶?」
「あ、ひーこ? 今、プオさんが私と…」


「ああ、プオラギイック副代表、どうされましたか。」
「ええと…個人的な事なんだが、ちょっと良いかな。」
ブズズ、ブズ…。
30a0が飛行し、こちらにやってくる。彼等は05の宇宙船内にいるらしい。
「どういったお話でしょうか。」
「クザラル星のネットにアクセスしたいんだ。コンピューターを借りられるか?」
「それは構いませんが…そういった事でしたら、わざわざここからアクセスせずともそちらの方で出来る事なのでは?」
「単にネットにアクセスするのは誰でも出来るが、一般非公開の情報は、こっちの機械を使わないとなかなか簡単に覗けないだろ?」
「なるほど。…そちらの壁面の、三角形の印を押してください。クザラル仕様のディスプレイが出ますから。」
「ありがとう。」
頷くプオラギイック。彼は船内の壁際へ歩いていく。
「…それで、どういった事を調べようとしているんですか?」
「まあ、ちょっとした個人情報だな。…俺の。」
30a0は軽く破擦音を上げるが、それはニグーワー語に訳されなかった。


「とにかく今の状態で、05と協力関係を保てるとは思えない。」
小英が発言する。テーブルの面々の多くがそれに頷く。
「でも、協力していかないと。もう既にここの情報監視システムは、彼等がアップグレードしてくれたコンピューター無しには考えられないんだから。」
「確かにそれは良い事だが、今までそれが無くても何とかやってきただろ。」
宏子の言葉に小英が答える。
「でも、あるに越した事はないでしょ。」
「情報監視システムの為に…彼女は死んだんですか。」
白人女性の発言に、宏子は眉をひそめた。
「そういう皮肉な言い方しても誰も面白くないと思うんだけどね。…確かに、パトリシアの事は残念だよ。でも、過ぎた事を言っても仕方が無いでしょ。もう二度と、ああいう事はさせないから。それはもう、絶対にね。05にも、その点ははっきり言ってる。今度から、どんな時でも人命を第一に行動してもらうって。向こうもちゃんとそれに同意してるし。」
「そうは言っても、05のせいでパトリシアが死んだっていうのも事実ではあるよな。世話好きで皆から好かれてる、良い奴だったのに。」
「…」
宏子は小英を睨む。
「…言っておくけどね、私達がこうやって生きていられるのも、彼女のお陰なんだからね。12匹も同時にサクコブが来た例なんて今まで無かったけど、ああやってすぐに撃退できたから、その後の攻撃が止んでるんだから。」
「じゃあまたサクコブが来たら生贄を募集するって事か。」
「そうは言ってない! 今度からは絶対ああいった事はしないようにって、はっきり05には言ってる。私も人の命を犠牲にして他の人を助けるなんて事、したくないよ。どんな綺麗事を言ったって、…それって、ただの人殺しだからね。」
宏子は息をつき、続ける。
「でも、もう起きちゃった事は戻せないんだよ。そして今、私達の状況で、05とまで手を切ってやっていけると思う? 地球人だけで、それこそどうやって生き残るの?」
「どうやって生き残る…誰々と手を組まないと…誰々と手を組むからこれは我慢しないと…何人か死んでも我慢しないと…最近そう言った会議ばっかりだよな、ここって。」
「…」
小英は髪をかきあげ、息をもらす。
「いい加減飽きたよ。どうもここは私の求めている場所とは違うみたいだ。」
小英は椅子から立ち上がると、自分の資料をまとめて席を離れる。
「ちょっと小英、まだ会議終わってないんだけど、どこ行くつもり?」
「私が宏子と最初会った時は、態度ばかり大きくて頭の悪い奴だなって思ってた。」
宏子は眉を上げる。
「そりゃ、あんたに比べりゃ大抵の奴は頭が悪いでしょうよ。」
「でも、今は逆だな。物分りが良くなって、頭も良くなったよ、宏子は。」
「え…?」
「私の好きな宏子じゃなくなったけどな。」
「…」
<私の票の分は宏子に預けるよ。どうせ何をどう話し合ったって、最後は「代表」が勝手に決めるんだろ?>
最後はテレパシーで念じて、小英は会議室を出て行った。


「ちょっと、小英!」
宏子は立ち上がる。
「…ひーこ、まだ、会議終わってない。」
「分かってる、けど…」
隣の美耶に答え、宏子は息をついた。
「はあ…」
宏子は椅子に乱暴に座りなおし、自分の額に手をあて目を閉じる。
「…」
「すいませんが…よろしいですか、代表。」
「…」
翻訳機の声に目を開ける宏子。宏子は話しかけてきたリチャードに無言で頷く。
「確かに現在、私達は05と手を切る事は出来ません。ですが、05を心から信頼出来るか、といわれると…それはそれで難しいと答える地球人は多いのではないでしょうか。」
「それは…そうかもしれないけど…」
「でも、副代表の提案だから信じたい、とおっしゃられる訳ですね。」
「ちょ、ちょっとリチャード、あんた何か勘違いしてない。私は別にプオが言ってきたからとかそういう事は」
「私も代表同様、副代表には本来、全幅の信頼を置いています。まあ、自分の上司ですからそれは、当然といえば至極当然の事なのですが。」
宏子の反論を無視してリチャードは続ける。
「ですが、今の副代表は何者か分からない、そうも代表はおっしゃられていますよね。率直な所私には、いつもとの違いはよく分からないのですが、代表のように魔力のある方ががそうおっしゃられるという事は何か今の副代表には秘密があるのは事実なのでしょう。そういった状況下では、副代表の提案を無条件に信用するのはどうかと。」
「…」
宏子はリチャードの言葉に黙り込んだ。
「…地球人は…代表、全体として、あなた個人の事を高く支持しているようですね。最新の世論調査を見ても、各国でおおむね6割以上の支持率を持っている。これはEIMそのものへの支持率よりも高いという地域が多いんです。」
「…」
「それと比較して05生命体については、信用出来ないという意見が各地で根強く残っています。特にアメリカ、イギリス、ドイツにおいてその傾向が顕著で、これらの地域では05とは手を組むべきでないという意見が8割近くにまで達しています。中国等では表向きそういった意見は出てきませんが、これは恐らく政府が言論統制をかけているだけでしょう。」
「…それって、何か根拠がある反対なの? パトリシアの事はマスコミには知られていないでしょ。」
「ええ、ですが、見た目が余りにもサクコブに似すぎているのが評判の悪い原因のようですね。」
「そんな事言い出したら、クザラル人なんか地球人とそっくりじゃん。でも評判悪いよ?」
「いいえ、お言葉ですが、クザラル人は決して最初から評判が悪かった訳ではありません。我々EIMの懸命な活動で、はじめて本来のクザラル人の残酷な姿が分かってきたのであって、元々は多くの地球人はクザラル人に非常に友好的だったのです。」
「…」
「それに比べると、05生命体に対する地球の一般市民の反応は、最初からかなり冷たいもののように思えますね。」
宏子は息をつき、頬杖をついた。
「それってまともな理由じゃないじゃん。単に、サクコブと…っていうか、虫と見た目が近いからイヤだってだけの話でしょ? そんな下らない話相手する必要無いじゃん。」
「あの…良いでしょうか。」
バデリヌワが小さく手を上げた。メンバー達の視線が彼女に向けられる。
「私も…05の皆さんと…一緒にやっていいのか正直不安です。皆さんクザラルの人々を悪く言われていますが、まだあの人たちは、同じ「人間」として、気持ちとかも、話し合えば理解出来るところがあったと思います。でも、05の皆さんの場合は、どこからどう見ても、そんな感じはしないじゃないですか。昆虫型のしかもロボットなんですよ。今回の事だって、起こるべくして起こった事なのでは? 人間の…地球人の価値観は、そもそも全く通用しない相手でしょう、あの方々は。」
「通用させるのよ。」
宏子は静かにバデリヌワの顔を見た。
「バデリヌワ、はっきり言うけど、クザラル人と同じ「人間」として分かり合えるなんていうのは、ただの思い込みなの。そんなのは種族の問題じゃない。分かり合える人は分かり合えるし、分かり合えない人は分かり合えない。…まあ、将来そういった人も説得出来るかどうかは何とも言えないけどね。これは、地球人同士でだってそうだよ、分かり合えない人とは分かり合えない。逆に、05みたいに地球人と全く異なる種族でも、お互いが努力すれば分かり合える。05とサクコブは確かに似てるかもしれない。でも両者には、一個だけ大きな違いがある。それは、05は私達と話し合う意思があって、サクコブにはそれが無い、って事。見た目がいくら「モンスター」でも、地球人から見て常識外れなところがあっても、それでも、彼等は私達の味方なんだから。」
「そうかもしれません。でも…その常識外れが治るまでに、後どれ位かかるんでしょうか? また常識外れが理由で人が死んでしまったら? いくらお互いが分かり合うよう努力するっていっても、スタート地点が違いすぎると思うんです…」
バデリヌワは申し訳無さそうにモゴモゴと反論する。
「…」
「バデリヌワ魔術師、それ位で良いでしょう。まだ他に言いたい事はありますか?」
「い、いえ、…リチャードさん。特に、ありません。」
黒人青年の冷たい視線におされ、バデリヌワは目をふせた。
「…まあ、バデリヌワ魔術師のような意見は今の地球人の感覚としてはかなり一般的なもののようですね。それの是非はともかくとして、世論がそうであるというのは一つの事実でしょう。」
立っている彼に美耶が目を向ける。
「でもリチャードさん、ひーこの弁護する訳じゃないけど、だからといって05と手を切るって訳にもいかないでしょう? 好き嫌いはそれこそともかくとして。」
「そうですね。現状では05と協力しあう以外、道はありません。その点に異論のある者は、この会議に出席している者の中にはいないでしょう。」
「…」
会議室の面々の多くが、どこか不満の残るような表情でお互いを見ている。
「…ですが、地球の世論が05に好意的でないというのも事実です。私達は一応地球人を代表している組織と言って良い訳で、世論を無視して行動する訳にはいきません。」
「んじゃあ、どうしろって言うのよ。」
リチャードは生真面目そうな顔を宏子に向け、微笑んだ。
「しばらく様子見でしょうね。はっきり手を切るような事は言わず、しかし実際の防衛活動では、共同行動は必要最低限にとどめ、相手のやり方を観察するとしましょう。」
「…」
メンバー達はお互い目を見合わせる。
「…う、うん…まあ、それで良いかもね。」
毒気を抜かれた顔で宏子は頷いた。美耶が笑って肩を上げる。
「何だか、リチャード君が代表の方が会議がまとまりそう。」
「う、うん…正直今、私もちょっとそう思った。」
「そう言って頂けるのは光栄ですが、佐藤代表以外に、ここを代表する人物は考えられませんから。佐藤代表だからこそ私達はここまで来れたんです。」
「…」
「…」
お互いを見る宏子と美耶。
「…あは、やっぱり?」
「…!」
宏子を見る目が一気に険しくなる美耶。リチャードは自分の資料をまとめながら頷く。
「ええ。御自分ではお気づきになられていないかもしれませんが、…いや、お気づきになられない方が良い事なのかもしれませんね。」
「…ん?」
「とにかく、そういった事で」
ズウウウウウウン。


「…」
「…」
振動と、低い地鳴りのような音が起きた。会議室がざわつく。視線を交わしてから、宏子は自分の腕端末に指を触れる。
「本部、今の揺れは何?」
「分かりません、現在情報収集中。魔力反応は見られません、あ、今05北京部隊から連絡が入りました。」
「分かったマリアナ、私の端末にまわして。」
「了解。」
宏子は腕端末を何度か押す。バーチャルディスプレイが目の前に広がり、ウインドウの一つで30a0と思しき05生命体が姿を見せた。
「どうしましたか。」
「攻撃です。我が隊が爆破を受けました。」
「爆破…?」


「地球で爆破攻撃を受けるとは、私は正直想像していませんでした。」
「はあ…じゃあ、この爆破は地球人によるものだ、って事なの? それともそうじゃないって事?」
宏子と2体の05生命体が、05の宇宙船内を歩いている。正確には、宇宙船の爆破跡だ。EIM新本部から歩いて数分の場所の空き地に停泊中だった黒い円形の宇宙船は、その半分程度ががれきとなって崩れてしまっている。
宏子の横の2体の05生命体は、上下にぴったり10センチ程度の間隔を開け、ランデブー飛行のような動きで移動している。
「地球人だと考えるのが自然なのでは? 私達05生命体は、あなた方地球人から見れば「虫ケラ」に過ぎないのでしょう?」
2体の内、下を飛んでいる方が音声を発する。
「そんな事は…」
「隠さなくても良いのです。私達の情報収集能力を甘く見ないで頂きたい。」
「…」
「統括課長、その言い方は失礼というものです。我々と違い、地球の方々には本物の感情があるのですから、その点をおもんばかって頂きたい。」
上を飛んでいる方…30a0が、下の05生命体をいさめるように摩擦音を出す。
「…了解しました。しかし私も、05が偏見を受けている事に対し怒りの擬似感情を持っている事は理解してください。」
05同士の意思疎通は恐らく地球人同士のそれより素早いのだろう、翻訳される音声はかなり高速になり、聞き取りづらい。
「あの…もうちょっとゆっくりめに音声を出してもらえる?」
「…これでも地球人の方がゆっくり理解出来るスピードまで最大限に落として、議論の内容を可能な限り要約してお伝えしているのですが…」
「…すいませんでした。続けてください。」
口を引きつらせながら宏子は30a0に頭を下げた。
30a0は破擦音を再び立てる。今度の翻訳音声は普通の地球人の会話のスピードに落とされている。
「…佐藤代表、9d88統括課長には彼の立場があります。どうかお気を害されないでください。」
「う、うん、それはまあ良いんだけど。地球人の一部に、05生命体の見た目を嫌がっている人がいるっていうのは、残念だけど事実ですし。じゃあ…そういった者の犯行って事なの?」
「統括課長はそう思われているようですが、私の意見は違います。地球の方の一部に反05感情がある事は承知していますが、先程言った通り地球で爆破攻撃が起きるとは思っていませんでした。」
「はあ…」
「何故なら、地球の兵器で私達の船を簡単に攻撃出来るような物は無いからです。船の自動防御システムの監視の網をかいくぐって、なおかつ材質96aa08a2を破壊可能な兵器の技術は、私達が知る限り地球には存在しないのです。」
「…」
宏子は立ち止まり、上下に重なるように浮いている30a0と9d88に目を向けた。
「じゃあ…どういう事? クザラル人? サクコブ?」
「どちらかがやってきたと考えざるをえません。クザラル人が私達の事をよく知っているとは考えにくいですから、恐らくはサクコブ生命体ではないかと。」
「…」
30a0と9d88のアンテナが同時に光る。何かの連絡を受けているようだ。
「…佐藤さん、そちらの壁面の画面を見てもらえますか。」
「え? はあ…」
宏子はがれきの山から離れ、まだ船の形が残っている部分の壁にあるモニタを見る。
「再生させてください。」
「…」
画面の下にある[PLAY]の表示に指を触れる宏子。
画面に映像が表示される。爆破される前のここの映像のようだ。
「今から20分ほど前のこのシャトルベイです。」
「…え?」
映像の中で人影が現れた。一人のクザラル人が、今宏子達が画像を見ている場所で、何やら画面を操作し出している。
「先程までここにプオラギイック副代表が来ていたのです。爆破事件が起きたのは、彼がここを出てから3分40秒後でした。」
「そ、そんな…何かの偶然なんじゃないの?」
「そうかもしれません。」
羽を広げながら30a0が答える。下の9d88がブザーのような音を上げる。
「ですが、偶然でないかもしれない。これ以降爆破の瞬間までここに05生命体以外のものは近づいた記録はありません。もちろん瞬間移動もありませんでした。」
「プオラギイックさんがこの船に最近近づいた唯一のクザラル人であるというのも事実ですね。蔡さんをカウントしなければ。」
「でも、小英はDNA的にクザラル人だっていってもそんな技術知ってる訳ないし、…でも、だからってプオだって…」
「私達もプオラギイック副代表を疑いたくはありません。しかし現時点では、状況証拠から言って一番疑わしい人物かもしれませんね。」
「しかしそれだけで彼に報復をすべきではありません。地球のやり方を尊重してください。」
「…了解しました。」
9d88は頭上の30a0に答える。
「しかし私達の譲歩にも限度があります。自分達の身の安全が保証されないようでは、星への駐在は再検討せざるをえません。」
「了解しました。」
「…」
「…」
「…」
2体はしばらくアンテナを点滅させあう。やがて30a0が宏子の顔近くにまで浮上し、音声を発した。
「…擬似感情の充足を含め、最大の利益を得られる選択はやはり同盟の存続であると結論が出ました。さしあたり、今回の事件については状況の捜査を続行させて頂きたいと思いますが。よろしいですか?」
「え? …あ、う、うん、もちろん。…あ、でもお願いですけど、もし犯人を見つけても、勝手」
「勝手に殺すな、ですね。了解しました。その場合の処遇は話し合いという事で。」
30a0の音声に宏子は無言で頷いてみせた。


カチッ。
プオラギイックはベッド脇にある加湿器のような形の装置のスイッチをつける。間もなく送風口から色つきの煙が出てきた。
「…」
煙に顔をあて、プオラギイックは目を閉じ、鼻で深く呼吸をする。
プオラギイックがいるのは新しい自分の個室らしい。今まで同様ワンルームのようだが、そのスペースは目に見えて広くなっている。ベッドなどもセミダブルと言って良いような大きさだ。
「ふう…」
呟き、プオラギイックはベッドに寝転がる。
−確かに覚えている。俺は05の船に爆弾を仕掛けた。サクコブから事前に受け取っていた物だ。ここまでうまく行くとは思わなかった。我ながら完璧な行動だった。
「…」
寝転んだまま、プオラギイックは耳元に手をあてる。
−はずなんだが、どうも腑に落ちない…本当に俺が置いたのか? いや、間違いなくその記憶はあるんだが…何なんだ、この引っかかりは…
−大体、何で俺が05を攻撃しないといけない? …そうだ、それは、地球と05の関係を破壊したかったからだ。うん。だって、あそこで05の船を攻撃すれば05の地球に対する印象は一気に悪くなるからな。まさか彼等があそこまで「感情」を押さえるとは予想外だったんだ。…って、何で俺が05と地球の仲を悪くさせないといけないんだ?
プオラギイックは考え込む。
−ああ、そうか、俺の仕事は、サクコブの地球侵攻の手助けだからな。わざと05を地球に近づけさせたのもそれでクザラル人を追い払うためだし、その後で05と地球人を対立させる事で地球人の力をより弱体化させようと考えたんだ。…何でこんな事を俺は忘れてたんだ?
−しかし…おかしいな、何かが引っかかる…本当に俺にとってそんな事が、自分の第一の仕事だったか?
プオラギイックは口に出して呟く。
「確か…誰かを守るのが仕事だったような気がしたんだが…」
−そうだ、誰だったか…とにかく誰かを守るのが自分の仕事だと、そう心に決めていたはずだ。そいつが…自分の家族を失って自暴自棄になった時、その姿がまるで昔の自分を見ているようで、自分と同じ道は辿らせたくないと思ったから……って、そんな奴どこかにいたっけ?
「…」
プオラギイックは起き上がる。
−落ち着け、プオラギイック。冷静に考えろ。俺が偽者のプオラギイックなのか本物なのかは、この際問題じゃない。いずれにしても、俺の記憶には何か問題がある。違和感で分かる、どこかがおかしい。どこかが理屈にあっていないんだ。そして俺の記憶に問題があるという事は、…つまり、俺は偽者で無意識の内に操られているか、あるいは本物だが洗脳で操られているか、のどちらかという事だ。
「…それじゃいずれにしても、俺が05の船に爆弾を仕掛けたみた…」
プオラギイックは自分の言葉に眉を寄せた。
−いや、それはその通りじゃないか、現にさっき仕掛けたんだから。…でも、何で? …ああ、それはもちろん…
ピピッ。
「…どうぞ。」
プオラギイックは顔を上げ、扉の電子音に答えた。


部屋の扉が開く。通路から、ニ人の非魔術戦闘員と宏子、美耶が現れた。非魔術戦闘員のニ人はクザラルの照射機を構え、宏子はイハッジャを右手で隠すように持っている。
<…せっかくお香で心を落ち着けようとしていたのに、穏やかじゃないな。>
<まず、聞きたい事があるんだけど…>
鋭い視線でプオラギイックを睨みながら、宏子は彼にゆっくりと近づく。
<あんた、誰? 何て呼べば良いの?>
<…>
少し沈黙して、プオラギイックは両手を上げ首を上げた。
<どう答えれば良いんだ。>
<本当の事を答えれば良いだけよ。>
<そうか。まあ、俺は基本的に気が小さいからな、照射機を向けられている状態であまり良い冗談も飛ばせないからな。>
<…>
プオラギイックの念に表情を変えず、宏子はイハッジャを持った手をゆっくり上げて、彼に近づく。
<早く答えなさい。あんたは何者なの。>
<…答えづらいな。俺はプオラギイックだって言って、信じてもらえそうな雰囲気じゃないじゃないか。>
<いい加減にしなさいよっ!>
宏子は感情をあらわにして念じた。
<あんたがプオじゃない事はもう分かってるの! いい加減シラを切るのは止めてくれない?>
<…なあ、宏子、>
<馴れ馴れしい言い方しないで。…あんたが、プオの格好をしてるってだけでも虫唾が走るっていうのに。>
<…>
ため息をつくプオラギイック。
<じゃあ、佐藤代表。俺が何者なのか知ってるのなら、お前から教えてくれれば良いじゃないか。何かしら、確信があるんだろ?>
<…自分から言いたくないっていうならこっちから言おうか。詳しい事は知らないけど、あんたはサクコブの送り込んだ破壊工作員なんでしょ。>
<…>
プオラギイックの耳が一瞬揺れる。宏子はそれを冷たい目で睨む。
<ツメが甘いんだよ。爆破された宇宙船の破片から検出された爆薬の成分はe828dd32、サクコブの言葉ならドゥパオベフェスっていう一種の窒素で、サクコブ製の爆弾でしか見る事が無い成分だったんだから。>
<そうなのか…しかしそれは、サクコブが犯人だっていう証明にはなっても、俺がサクコブだっていう証明にはなってないぞ。>
<そんな事、証明するまでもないじゃん。怪しいのはあんたしかいないんだから。>
当然のように宏子は断定する。
<おい、ちょっと待て、いくらなんでもそれは無いだろ。俺は俺だってだけで容疑者なのか?>
<うん。だって正体不明の偽者だから。>
<…>
頷く宏子にプオラギイックは怪訝そうな顔を向ける。
<…あの、プオさんの個人記録、私が調べたんです。>
<…え?>
プオラギイックは宏子の隣の美耶を見た。
<ごめんなさい。…プオラギイックさんが私に相談しに来たから、何か手助け出来ないかと思って。ひーこにアクセスコード借りて、プオラギイックさんがいた238a領域での滞在記録とか、色々見ました。>
<…それは別に構わないけど…それで?>
<238a領域に行く前です。まだプオラギイックさんがクザラル人の貨物船に乗っていた時、船はサクコブに攻撃を受けています。攻撃の結果、船は完全に破壊されました。>
<ああ、それなら覚えてるぞ。脱出用ポッドに乗り込むのが後少し遅れたら、大変な事になるところだったんだ。>
<ですけど、記録によれば、その貨物船には脱出用ポッドは用意されていなかったんです。>
<…え?>
<完全に破壊される直前の船のコンピューターが、周囲に自動でSOS通信を発信しています。それによると、その時点で船の乗員は、全員死亡。DNAスキャンによる死亡者名簿の中には…プオラギイックさん、あなたも入っているんです。>
<…>
美耶はいつになく冷静に念じ、プオラギイックの部屋の壁面のパネルを押す。バーチャルディスプレイには、確かにプオラギイックの死亡を確認する通信記録がニグーワー語で示されている。
−そうだ。俺は自分がプオラギイックのつもりでいたが、本当は本物の彼が死んだ後、05に偵察に行ったサクコブの工作員だったんだ。本人ですらその事を忘れ自分が本物だと信じる事で、秘密の広まる危険性を回避しようと、俺達サクコブは考えたんだった。
−本当にそうなのか?
−そこで抵抗をしているのは、まだ洗脳から抜けられていない俺の心だ。事実は事実として、認めなければ。今、状況は変化した。宏子達が俺の正体を既に知った以上、俺は自分が「偽者」である事を自覚したうえで行動しなければ命も危ない…
−…しかし、本当に、本当にそうだと言い切れるのか? それに仮にそれが洗脳の結果だとしても、俺は今の俺の気持ちに従って行動するべきなのでは?
−それは感情に流されているだけだ。冷静に現状を判断しなくては。俺は偽者であり、プオラギイックとしての記憶は植え付けられたものに過ぎないという事実を、まずは受け入れないと…
<…>
プオラギイックはふと前を見た。
<え…?>
<さようなら。>

プオラギイックは目を見開く。目前の美耶は照射機を構え、彼に向けそのスイッチを押していた。
ビイインッ。
「があああっ!」
声をあげ後ろによろけるプオラギイック。美耶の撃った照射線はプオラギイックの肩に命中した。プオラギイックは肩をおさえ、後ずさりする。
「ちっ。」
再び美耶は照射機を構えた。
<えっ…?>
呆気に取られていた宏子が美耶に向き直る。
<ちょ、ちょっと、何してんのよ美耶っ!>
シュウウウウウウンズバアアアアアアアアン! …ビイイインッ。
その隙にプオラギイックは背後に隠し置いていたステッキを振る。光と共に消えたプオラギイックがいた場所を、照射線が通り抜け、そのまま壁に吸収されて消えた。

「…ひーこが邪魔するから、逃しちゃったよ。」
照射機の構えをやめた美耶は、責める顔つきで宏子の方を向いた。
「な…」
驚きで言葉の続かない宏子。背後の戦闘部員達も戸惑った様子で目を合わせている。
「早く彼を止めないと。あのサクコブのスパイは05の在地球部隊を破壊する気なんだから。」
「そ…そうなのかもしれないけど、別にいきなり撃たなくても良いじゃない!」
宏子の言葉に、むしろ美耶が驚いた顔を見せる。
「ひーこ…彼は見た目はプオさんかもしれないけど、中身はサクコブなんだよ?」
「そ、それは…そうかもしれないけど…でも…」
宏子は美耶から視線をそらす。
「確かに、サクコブだから殺して良いなんていう言い方は良くないかもしれないけど、そうしなかったら殺されるのはこっちだよ? 私が何も出来ないで病院で寝ていた間も、ずっとひーこはそうやって戦ってきてたんでしょ?」
「そう、だけど…」
宏子はどこかすがるような目で顔を上げる。
「でも、…何か、違うの。今のプオは…何か、普通な感じがした。いつも通りのデクノボウにしか見えない。何で危ない感じがしたのか分からないけど…今のプオは、もう危なくない気がするんだけど…」
「気がするのは良いけど、ひーこ、DNAの鑑定はもう出てるんだから。彼は偽者なんだよ。偽者のプオさんが、ここにただの社会見学が目的で来てると思う?」
「それは…」
「…あ」
美耶は息をのみ、体をしりぞかせた。
「…まさか。そういう事だったの!?」
「な、何が?」
顔を向けた宏子は目を見開く。
「あなたも…偽者なのね、ひーこ。」
険しい顔の美耶が照射機を宏子に向けていた。


「は?」
ビイイイイイインッ。
「ちょっと!」
宏子は右に跳ねるように飛ぶ。宏子の左腕を照射線がかすめた。
「何で私が偽者なのよ! 急に訳の分かんない事言わないでくれる!?」
プオラギイックの部屋の中でテーブルを挟み美耶と相対しながら宏子が言う。
「それ以外有り得ないじゃない、あなたもあのプオさんの偽者同様、サクコブの肩を持っているんだから。」
照射機を向けたまま答える美耶。
「…ちょっと、ロン、ミケーレ、ムーブ!」
宏子は非魔術戦闘員の方に振り向く。
「えっ?」
ニ人は照射機を構えている。その方向は明らかに美耶ではなく宏子に対してだ。
「な、何でよっ!」
「幸田さんの言う通りだ、あなたが佐藤代表のはずがない。」
戦闘員の言葉に宏子が声を上げる。
「何で…ちょっと!」
ビイインッ。
テーブルの下に宏子は飛ぶ。
−急に、な、何で? そりゃ、確かにプオは捕まえなきゃいけないかもしんないけど、それで何で私が偽者になるのっ!?
しゃがみこみながら、宏子はパンツのポケットからイハッジャを取り出した。
<ザナ・キュディヌ>ビイイインッ。
「いやああああああああああっ!」
肩に焼けるような痛みを感じ、宏子はなす術も無く仰向けに倒れこんだ。見上げると、すぐ足元にまでやってきた美耶が照射機を再び宏子に向けて構えている。
「…」
「はあ…はあ……はあ……はあ…」
「…」
「…はあ…はあ……はあ…」
「じゃあ、ひーこ、さようなら。」


そして、宏子の視界を白い光が包み込んだ。
−え…?
宏子は声を上げた。少なくとも、声を上げたつもりになった。
−え、ちょ、ちょっと何で、嘘! 何でこういう時に金縛りが来るのよっ! タンマ、タンマ! 今だけは本当にお願いだから止めて! 明日明後日あすあさってにでも2時間でも3時間でも付き合ってあげるから今はやめて、マジで!
宏子は体を懸命に動かそうとするが、彼女の体は全く動かない。美耶の後ろにぼんやりと人影が見える。いつも通り、見た事も無いその人影は、ひどく見慣れたものだ。
−って、今日はいつもの声みたいのが聞こえてこないな…。
宏子は内心首を傾げる。
−あ…。
宏子はふと美耶に目を向けた。彼女はずっと同じ姿勢だ。その様子は単に動かないでいるというより、ビデオの静止画のように止まってしまっているように見える。
−って、これって、もしかして、無意識に時空移動しちゃったって事? …はあ。何だ、そういう事か…。
宏子は息をつき、その場から起き上がろうとした。
「…」
−って、動けないし…。
しかし宏子は起き上がる事はおろか、表情を変える事も出来ないまま固まっていた。
「…!」
宏子は頭痛のような何かを感じる。
−な、何、この変なのは? イタッ、いや、気持ち悪っ! うー、何だこの気持ち悪いのは。わ、気持ち悪っ、なんか子供ん時フェリーに乗った時以来だこの感覚…。


「はっ…」
気が付くと白い光は消えていた。宏子は目を美耶の方に向ける。
「…」
美耶は先程までと同じ格好で照射機を構えている。この状況で確認はしづらいが、どうやら金縛りは解けたようだ。
「…」
姿勢は同じだが、美耶の表情は、どこか先程までと比べて違う。こちらを見て、何故か急に自信を無くしたような顔つきだ。
「さ、さよなら……ひーこ。」
「…」

プシュウッ。
「え…きゃっ!」
赤い球形の光がふいに、美耶の手にぶつかった。美耶は左手で右の手の甲を押さえながら、よろけ、テーブルにもたれかかる。
「魔法少女をなめるなっての。」
「くっ!」
寝転がったまま、イハッジャを持った宏子がニヤリと笑う。
「ふ、ニ人とも、ひーこはここ!」
顔で示しながら叫ぶ美耶。頷くニ人。
<ザナ・キュディヌ・ヒオ!>
ズバアアアアアアアアアアアン!
寝たままの体勢で宏子は光に包まれる。戦闘員が照射機を向けるより先に宏子は姿を消した。


A-Sato Ltashofe Yde Ilne

Episode 18: Emulations

「Iihk, iihk, iihk...」
右肩を押さえながら、プオラギイックは新本部近くの場所をとぼとぼと歩いていた。農園の敷地のようで、トラクター等の農作業用の機械が砂利道の上に駐車されている。
−さっきの畑にってるのは、何だったか…えー、確か「麦」か? 違うな…この辺りは日本同様、麦の文化圏じゃなかったはずだよな、確か。えーと、「米」、は…あれは春日部とか、前の本部の周りとかにあった奴だ、それとは違うな…。
「…」
立ち止まり、後ろを振り返ってから、再びプオラギイックは重い足を動かす。
−まあ、そんな事はどうでも良いけど…。
「...iihk...iihk...」
−何で俺は逃げ出して…で、今も逃げてるんだ?
プオラギイックは足を引きずりながら息を切らす。
−もう、目的は終わったんじゃなかったっけ? そうだよな、05の爆破は上手くいったじゃないか。これで地球人は、新たに05という敵を抱え込む事になった訳だ。
−…違う。俺の正体がバレた以上、そう上手く事は進まない。という事は、俺にはまだ新しい作戦任務があるから、ここで死ぬ訳にはいかないんだ。
−そうか? 本当にそんな理由だったか?
プオラギイックは首を上げる。
−単に死ぬのが怖かった…だけかもしれないな。…うん、その方がまだ説得力がある。
「...iihk...」
−死ぬ前までに、一度で良いから西メティジ産の天然ルン肉を食べてみたかったんだがな…。
−こう力が入らないと…もうどう頑張っても魔法は使えなさそうだな、攻撃も防御も。…中途半端に、弾を当てやがって…。
−…ああ、もう駄目だ、もうこれ以上動けそうにない。
コンクリートブロックで間仕切りがされている一角で、プオラギイックは座り込み、空を見上げた。
「...iihk...」
プオラギイックは乱れた呼吸で胸を上下させながら、コンクリートの影でうずくまる。
「...hap, hap...」
ふいに、プオラギイックは途切れ途切れに笑った。
−何でこんな時に、急に奴の顔が頭に出てくるんだ? …俺にとっては殆ど疫病神にも等しい、あの暴力女が…。
「iiiihk...」
プオラギイックは首を上げた。
−洗脳のせいだな。俺…いや、俺じゃなくてプオラギイックにとって、良くも悪くもあの女は気にかかる存在なんだろう。
−っていうか、やり過ぎなんだ、サクコブの連中。俺をプオラギイックだと自分自身で思い込ませるのは良いが、戻れない位強く暗示をかけてどうするんだ。いくら何でも偽者としてどうかと思うぞ。


プオラギイックはふと、前の人影に気付き目を向けた。
「Ak...」
−ようやく来たか。…何でこいつ、盗賊トーイェップナロウを追っかけてきたブンミールタ姫みたいな顔してんだ…?
プオラギイックの前に宏子が立っていた。よく見ると、プオラギイックと同じように右肩を押さえている。こちらを狙って撃っている時に、味方に誤射でもされたのだろうか。
宏子はプオラギイック並に荒い息で、熱気で紅潮している顔を険しくさせながら彼に近づく。
<…お久しぶり。>
−今に始まった事じゃないが、相変わらず虚勢をはるのは下手な奴だな。
−…まあ、人の事は言えないか。
<…なあ、聞いていいか?>
プオラギイックが念じた。宏子は険しい表情のままぶっきらぼうに答える。
<…ごめん、今私、命乞いを長々と聞けるほどの精神的な余裕無いんだよね。…ああ、物理的にも。まだ、美耶も、残ってるし。>
−美耶? 美耶と何があったんだ? …いや、今はそんな事は良い。
<いや、そんな無粋な話じゃない。>
宏子は眉を上げる。
−洗脳でも何でも良い、俺は、今の俺の言いたい事だけ言ってやるからな。サクコブの連中も、恨むんだったら自分達の上手すぎた洗脳能力を恨めよ。
<…ただの個人的な疑問だ。>
<何?>
話を聞く余裕が無いんじゃなかったのか、と念じかけ、プオラギイックは慌ててそれを押さえた。
−だから、何でそんな表情なんだって、お前は。
<俺は…プオラギイックは、お前の助けに、少しでも、なってやれたのかな…>
−…で、こんな時に何を聞いてるんだ、俺は?
<な…>
−まあ、しょうがない。洗脳っていうのは結構面倒なもんなんだな。
<…うん。なってたんじゃないかな、色々と。…それで、答えになった?>
<ああ。…その答えが聞けて、嬉しかった。>
−…つくづくそういう俺自身の心が分からん。
−ほら、今度は泣き出してるし。安っぽい奴だな。まあ、こいつもまだガキだからな、結局。何で俺…じゃなくてプオラギイックはこんな奴が好きだったんだ? …ああ、正確には、今もか。…全く、つくづく分からんな…。
宏子は右手に持っているイハッジャを構えて念じる。
<…長い挨拶は苦手なんだ。後、何かある?>
<いや。俺もこんな事で長く焦らされたくないしな。>
<…防御しないの?>
<そんな力が、残ってるように見えるか?>
<じゃあ…せめて反撃は?>
<…>
<…>
−…そっか。俺はこいつになら、殺されても良いとすら思ってるのか…地球人相手になんでそこまで思えるんだ、俺?
両目を真赤にさせた宏子は、それでも険しい表情のまま念じた。
<そっか。じゃあ、ここでお別れだね。…さよなら。プオ。>


ガサ…。
そして、イハッジャを構えている宏子の背後に、息を切らしながら走ってきた、もう一人の宏子が姿を現した。


<…っ!>
ニ人の宏子は全く同じ見た目で、服装も同じジャケットとパンツだ。右手にイハッジャを持ち、左手を右肩にあてている所まで同じである。
目を見開くプオラギイック。手前の宏子は後ろにやってきた宏子にまだ気付いていない。
<…>
プオラギイックはニ人の顔を交互に見る。手前の宏子は目を閉じ、今まさに攻撃弾を作らんとして気律を集中させている。後ろの宏子はやってきたは良いものの、もう一歩も動けないといった表情で、そのまま地面に四つんばいにへたりこんでいる。
−こんな異常な状況でも、まだ洗脳された「プオラギイック」の人格に従おうっていうのか、俺は…
−…いや、違う。違うぞ。全部間違ってる。…そうだ、洗脳されているっていう「偽者の俺」の認識が、洗脳だったんだ! そうだ! サクコブの洗脳は、上手くなんかなかったんだ!
プオラギイックは自分の胸元からイハッジャを取り出しそれを構えた。
<…>
<…>
プオラギイックは後ろの宏子と目を合わせる。問い掛けるような目を無言で向ける宏子に、プオラギイックは頷いてみせた。

ボンッ。
手前の宏子を光の球が包む。プオラギイックの手がぶれ、球は体の半分程度だけを巻き添えに消滅した。倒れこむ宏子の左半身。
ドチャッ。
何が起きたか分からない様子で、彼女の左半身はいまだにクリアなテレパシーを発する。
<何…で…>
<…ひ…宏子…>


「はあ、はあ…」
朦朧とした意識で息を続けながら、宏子は数メートル向こうで偽者が倒れたのを見てとり、気が抜けたように仰向けに寝転がった。出血が酷いし、そうでなくてもこうも急激に魔力と体力を消耗すれば、もうまともに動けない。向こうでプオラギイックが偽者と何か念じているようだが、それに意識を傾けるような気力は宏子には残っていなかった。

しばらくして、宏子の足元に太陽をさえぎる人影がやってきた。
<…元気そうで何よりだ。>
<…分かる? 今日は本当に快調でね…。>
プオラギイックと宏子はお互い息も絶え絶えといった様子で念を交わす。プオラギイックは宏子のそばで腰を降ろした。
宏子は頭の感触に、眉をひそめた。
<ちょっと。人の頭気安く触んないでくれる。気持ち悪いんだけど。>
<…今日は、許せ。>
プオラギイックは宏子の頭を撫でながら息をつく。
<何でよ。触るなって言ってんでしょ。人が疲れて動けないからって…こういうのってセクシャルハラスメントって言うと思うんだけど。>
<…うるさいんだ。言い訳は後でいくらでも用意してやるから、今日は黙っておとなしく撫でられてろ。>
<…何よ、それ。意味が分かんないんだけど。>
宏子は赤い顔で、額に皺を寄せた。
<…何にしろ、助かってよかった。お前も俺も。>
<「助かった」? この後すぐに救援班がここを見つけてくれないと、二人ともまだかなりヤバげなんだけどね。>
<確かにな。>
<…>
<…>
頭に手を乗せられたままの宏子が、空に目を向けたまま念じる。
<…何で、向こうが偽者だって分かったの?>
<…俺はずっと、自分が偽者だと思っていたんだ。変な言い方になるが自分で自分を疑っていた。でも俺の前にニ人のお前が出てきた。って事は、双子でない限りその内のどちらかが偽者だ。その時点で、俺がプオラギイックの偽者である可能性はかなり低くなる。つまり俺は系の魔法で「偽者だ」って暗示を受けただけで、もとから本物のプオラギイックだった、って事だ。そして、目の前のニ人のお前の内、一人は俺を今まさに攻撃しようとしていて、もう一人はそういう素振りはない。>
<…>
今ひとつ納得出来ていないような顔で、宏子は軽く頷いた。
<…確かに、本物のプオを攻撃するって事は、そっちが工作員の可能性は高いよね。>
<ああ。それに、ヒントはそれだけじゃなかった。>
<え…?>
<肩だ。今、俺もお前も、服に染みが出来てるだろ。血の染みが。あいつにはそれが無かったんだ。どうやら偽者は、地球人の体の構造をまだ完全には、飲み込めてなかったらしい。>
<そっか…>
宏子は目を閉じた。穏やかな顔でプオラギイックが頷く。
<…でもまあ、やっぱり最初の話だな。誰だって…知りあいはそんな簡単に殺せるもんじゃないだろ? 仮に自分の任務がそういった内容だったとしても、な。>
<え? んな話してたっけ?>
<いや、だから、いくらお前だって、急に俺を殺せって仕事で決まっても、さすがに躊躇するだろ? 本物のお前だったらさ。>
<…>
宏子はじっとプオラギイックの目を見た。
<…今、俺がそうだったから。強い洗脳を受けていても、結局お前を殺す事が出来なかった。そいつが偽者の宏子だ、ってはっきり分かるまでは。>
<…>
<ん?>
<ふーん…>
<何だよ。>
<私だったら、それが仕事なら躊躇無く殺すけどね。>
<…>
プオラギイックは細い目で宏子を見る。
<特に相手があんただったら、喜んでね。>
<…ああ、絶対お前だったらそんな類の返事が返ってくるだろうと予想はしていたけどな。>
乾いた顔のままプオラギイックは念じ返した。
<…>
<…>
宏子は再び目を閉じる。
<…ねえ、プオ…>
宏子は自分の左腕を上げ、頭の上のプオラギイックの手にゆっくりと重ねた。
<え…?>
<…>
<ひ、宏子…?>
緊張した調子の念が響く。
<あのね…>
<な、何だ?>
宏子はその左手で、プオラギイックの手の甲を思いっきりつねりあげた。
<いい加減手を離してくんないかな?>
「Shhhhhhhh!!」


美耶はPDAの画面にじっと目を向けている。
コン、コン。
ノック音に彼女は顔を上げた。
「ひーこ?」
ドアが開き、宏子が顔を見せる。
「うん。」
「入って。」
「…」
やや遠慮がちに頷くと、宏子は部屋を歩き、いくつかある内のベッドの一つに腰掛ける。
「…どう、具合の方は?」
「マブルの処方が凄かったんだけど。「好きな物をたくさん食べるようにして下さい」だって。それが処方だって言うんだよ。今更ながら私、わざわざ岐阜のHNKにまで行ってあの人の診察を受けて良いものか考えちゃったよ。」
「はは…じゃあ、大丈夫そうなんだ。」
「05も喜んでたよ。」
やや困ったような顔で宏子はため息をつく。
「え?」
「いや、そう言う意味じゃなくて。私達の医療技術が役に立つかもしれません、って意気込んじゃってさ。私に役立てる位なら、まずリジュワナやアリーザに役立ててほしいんだけど。」
「ああ…」
「…」
「…」
ベッドが6つほど並んでいる部屋の中で、ふいにニ人の会話がやむ。
宏子は美耶の表情を見て呟いた。
「…いなかったんだね。」
「…うん…」
「じゃあやっぱり…そういう事だったんだ。あの時私、気付いたら自分があそこのベッドに寝ていて、どういう事かと思ったんだけど…」
窓際にある、ものものしい機械に取り囲まれたベッドに宏子は目を向ける。
「私の偽者が動いている間、私はあそこで寝ていたんだね。で、逆に私が動いている間は偽者があそこに潜んでいたんだ。系の魔法で、まるであそこに石戸田が寝ているかのように見せかけて。」
美耶は力なく頷き、PDAの電源を切った。
「…記録色々見ても…どんな記録を探しても、何も、出てこなかった…だいちゃん、ここにも、前の本部にも来ていない…いつのまにか「入院」している事になっていたけど、本当は、春日部から生きて帰って来たのは、私と…ひーこ、だけだったんだ…」
「…」
「…ズッ。グスッ、グス…」
美耶は口をきっと閉じたまま、両目からぽろぽろと涙をこぼす。
「…」
ベッドから立ち上がる宏子。歩み寄り、宏子は無言で美耶を抱きしめた。
「…ひーこ…私…誰も、いなくなっちゃったよ…」
「馬鹿言わないの。私がいるでしょ。」
宏子は優しく美耶の背中に手を回す。
「でも…ひーこだって、いつ死ぬか分かんないじゃない。知らない内に偽者に替わられてるし…」
「悪かった。今度からは簡単に替わられないよう気をつけます。」
「でも、でも…だいちゃんは……」
「…」
美耶の胸がまた揺れ、宏子の肩に涙が伝わる。
「…グス、グス…」
「……悔しいね…」
呟き、宏子は自分の両目を閉じた。

続く



Written by FML (AKA Franken).
Ver. 1.00 on 2002/12/18.

<それでは皆さん! ここで、「第一回、魔法少女佐藤・真・ヒロインは君だ!」コンテストを開催させて頂きたいと思います! パチパチパチ!>
<…>
<エントリーナンバー一番の蔡英だ。趣味は園芸と株式投資。>
<わあ、凄いね小英ちゃんは。小学生なのに株なんてやってるの?>
<ゴホン…ゴホン!>
<あれ。どうしたのひーこ?>
<どうしたのっつーか…あんたら、何か間違えてない? 魔法少女「佐藤」って言うんだよ、この連載のタイトルは。>
<え?>
<でも…>
<次回の魔法少女佐藤第19話は「魔法少女とさようなら」です。という事で、さようなら、ですから。佐藤さん。>
<いや、ですから、じゃなくて。…だって、まだ何話かあるじゃん。>
<だから私達が真のヒロインを今のうちに決定しておこう、と。>
<エントリーナンバー2番の、バデリヌワです! よろしくお願いしますっ!>
<だあっ、うるさい! 主人公は私なの! 何よ、何で私が主人公だと悪い訳っ! お前等全員出てけええっ!>
<そういう横暴な所が悪いんだろ。>
<グサッ…>
<エントリナンバー3番のアリーザです。私がヒロインになった暁には、この連載ものっけから濃厚なX指定ストーリーで…>
<流して続けるなああっ!>



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