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A-Sato Ltashofe Yde Ilne

Episode 21: Ship ahoy

熱帯と思われる森の中、木に囲まれた空き地の上空で青い光がきらめく。
ブズズズ、ブズズズズ…。
瞬間移動で現れた1体のサクコブ生命体が、羽をなぎながら地上に降下してきた。
地上にはそれぞれ10人前後の地球人、クザラル人達が立ってそれを見上げている。地上のやや上、高度1メートル程度の空中に、数体の05生命体も浮遊し佇んでいる。
彼等が作っている円形の輪の欠けている部分、つまり空き地に、その輪を完結させるようにしてサクコブ生命体が着陸した。
<じゃ、さっそくお約束通り。>
風で髪を揺らしながら、モニクが生命体に近づき、小型のスピーカーを生命体の鎧の一部分に接続して取り付ける。
ブズ、ブズズ…。
「Now, can you hear what I'm talking?」「Xghir, to plydhlleosh q ko thmoju-qe?」
スピーカーから2つの言語が流れる。その場に立っている宏子とシユマが頷いて見せた。
サクコブ生命体は破擦音を上げる。
「…良かった。これでクザラル人や地球人とも楽にコミュニケーションがとれますね。あなた達の技術力は本当に素晴らしいです。この翻訳モジュールはサクコブの異民族間でも使えますか?」
「もちろん。何でしたら後で辞書プログラムをこちらから送信します。…ですが、サクコブ同士なら共通語も浸透していますし、特に必要無いのでは?」
隣に飛んで近づいてきた30a0が聞く。並べてみると、サクコブに比べサイズが小さいのは言うまでも無いが、よりすっきりしておとなしい印象の「デザイン」なのが分かる。

「残念ながらそういった教育を受けていない者も多いのです。全ての生命体が従属機器を使用出来る環境にいる訳ではありませんから。」
「経済的な問題ですか?」
「いえ、政治的と言う方が近いでしょう。御存知かと思いますが従属機器の生産は厳しい規制が敷かれています。つまり限られた数の配当制になっているのです。」
「なるほど。それで当然、フィキチュアジに冷遇されがちな民族には配当が少ないという事ですね。」
「ええ、その通りです。」
「少なくともそれは、ある意味喜ばしい事ですね。」
「それは、倫理的にという意味ですか?」
「いえ。私達は不必要な内政干渉をするつもりはありませんから。ただ、万が一彼等が自意識に目覚めた場合のリスクを考えると、必要以上の従属機器は近くには置かない方が賢明と考えるのです。」
サクコブ生命体と30a0は横に並んで浮かんだまま会話を続けている。
シユマは2体を見ながら目を細めた。
<何、何の話してんのよ、あの2匹?>
<…私に聞いて分かると思う?>
シユマに答える宏子。
ブズ、ブズズ。
「ですが、あなた達がいらっしゃれば彼等もあなたの命令に従うでしょう?」
「とんでもない。スグタさん、従属機器が意識を持った時の恐ろしさをあなたは御存知無いのです。擬似感情の暴発で一種のパニック状態になりますから、近くのサクコブ生命体は非常に危険なのですよ。いえサクコブ生命体どころか、私達も危ない事でしょう、もし近くにいれば。」
「そうなんですか。あなた方が、私達の間で半ば伝説となって恐れられている理由がよく分かりました。」
虫型生命体同士の会話は口調のニュアンスが全く分からないが、仮に人間同士だったら相当嫌味ったらしい言い方をしている所なのかな、と宏子は翻訳音声を聞きながら思った。
「それでは、今のあなた達が私達の味方で、私達は命拾いしたという訳ですね。」
「いえ、私達はEIMと一定の協力関係にはありますが、サクコブ・クザラル戦争にはあくまで中立を保ちます。あなた方のどちらかに肩入れするというつもりはありません。」
浮いたまま30a0はシユマの方を向く。
「サクコブ側にも、」
そしてサクコブ生命体の方に向き直る。
「そして、クザラル側にも。」
<…逆じゃないの?>
宏子がリジュワナに聞く。リジュワナは肩を上げた。
<逆で正解でしょ。どっちも敵方についてるようなもんなんだから。>

宏子は野原の空き地で一歩前に出て、集まった面々を見回した。
「あの、とにかく。こうやって皆集まった訳だから、ここで改めて、全員の団結を誓いましょう。」
「団結と言いますが、私達は別に、同盟に加わる訳ではありません。」
「分かってます。05の人達は見てくれているだけで結構です。」
額に皺を寄せながら答える宏子。宏子はスグタとシユマに目を向けた。
「…EIM、HNK、パフタオチトゥ。この3者は本日をもって、メインの作戦行動を共に行うものとします。HNKとパフタオチトゥ…特にパフタオチトゥだけど、に関しては、もちろん今までの拠点を簡単に動く訳にはいかないだろうから、当面は一部部隊をこちらに割いてもらう形になります。」
「それって…私達的には、今までと別に同じって事だよね?」
宏子はシユマに首を振った。
「ううん。今度からは、私達ももっと積極的にコココ人を助けるつもり。つまりJVKに皆で行く事も普通に有りうるって事。逆に私達も」
「もっと助けろ?」
「まあね。っていうか、協力じゃなくて共同行動だから。…っていう風に事前に話を通したのは聞いていなかったのかい?」
「いや、まあ、タオダがそういうのは全部、ちゃんと聞いてるから。」
「…」
頭をかくシユマを宏子が細い目で見る。宏子は軽く息をついてから、改めて自分の周りを見回した。
「…ま、とにかく、基本的には以上で合意出来ますね?」
「…」
「もちろんです。」
軽く頷くシユマと、英語の音声を返すスグタ。
「細かい部分は事前の打ち合わせの通りです。…目は通してるよね、シユマ。」
「大丈夫だって。フォントの大きい所は全部読んだから。」
「…そ。出来れば小さい所も読むようにしてね。せめて最初のページ位は。」
「でもさ、宏子。何だったっけ、このグループの名前、3種族…改革者連合? それって何か、うさんくさくない?」
宏子はまばたいて、シユマの顔を見た。
「…でも、しょうがないでしょ。3つの名前並べたりとかしたら順番で角が立つし。3つに共通するのはいずれもレジスタンスであるっていう点なんだから…」
「私だったら、もっとこう…「荒くれ者連合」、みたいな…」
「…」
宏子の眉が上がる。
ブズズズ、ブズ。
「意見を言っても、良いですか。」
「あ、ど、どうぞ。」
スグタの音声に、シユマは愛想良く振り返った。
「3者共リーダーが女性という事で、「淑女連合」、と言うのは如何でしょう。」
「…」
「…」
ブズズ。
「…何か?」
スグタは複眼を揺らした。
リジュワナが肩を上げ、口を開く。
「なら、3つの案の間を取って「連合」で良いじゃないですか。」
「間って言うのかな、それ…」
「言うわ。」
隣のモニクに断言するリジュワナ。
宏子はやや固い笑顔で首を振った。
「ん、まあ、それぞれの言葉では好きに呼んで下さい。それじゃ、この「連合」が、お互いの利益につながる事を祈りましょう。」
宏子は空中に浮いているスグタに近づくと、その黒い前足の上に自分の右手を置いた。
「…」
シユマが宏子のそばまで来て、同じように手を置く。ニ人は軽く頷きあった。
ブズズ、ブズ。
「私達の体液は毒ではないと思いますが、それでもあなた方の手が汚れますよ。」
宏子は首を振る。
「良いの。これは人間式の挨拶なの、協力し合おうっていう。」
「そうですか。それなら私も、私式の挨拶を。」
「…ん?」
スグタはそう言うと、ふわりと上昇する。高度5メートル位にまで上がったスグタは、空中を複雑な形に旋回しだした。大きな円と小さな円を交互に描くように回っている。
「…」
宏子とシユマは目を合わせ、微笑みあった。

シユマは耳を揺らす。
「…で、後は何か無いの? 偉いさんの演説とかさ、テレビ記者への質疑応答とか。ライトアップしてどーん、とか、鼓笛隊の演奏とか歌手が歌歌うとか花束贈呈とか…」
「もう、そういうのは全部飽きてるでしょ。」
宏子が笑う。
「それに…どんなに大々的にお祝いしたって、一週間後に同盟を破棄したりしたら、全部無駄になるんだし。」
「私達の同盟に、まだ不安が大きく残っているという事ですか? 確かに、私達はこうやって地球に1体来るだけでも相当苦労しましたし…」
「ん、そういう意味じゃないのスグタ。…この連合が不安だって言うんじゃなくて…うーんと、何て言うのかな。」
「安心出来ない。」
「同じ事でしょがっ!」
シユマに怒鳴る宏子。
「ゲンかつぎだろ。今までそうやって大喜びしては裏切られ、の繰り返しだったんだ。それなら今回は、こうやって森の中で、地味に始めるのも悪くない。出来る事から始めよう。」
プオラギイックの言葉を聞いて、宏子は微笑み頷いた。
「…うん。」
「じゃ、今回は「これで地球人の独立でーす」みたいな宣言も無し?」
宏子はシユマに肩を上げた。
「宣言なんかしたって、何の役に立つ訳でもないしね。今日部屋に戻ってから一人で思いっきりやる事にするよ。」
「ん。」
シユマは宏子に頷いた。

30a0が旋回し、宏子の近くで静止する。
「ところで、3種族改革者連合は当初はどういった作戦をとられるんですか? もちろんお話出来る範囲で構いませんが。」
「05に隠す事なんて何も無いよ。まずは、地球から魔法協会を追い出します。その行為が多少、非民主的なものであっても、もう構いません。まずは彼等を追い出さないと。」
「つまりまた地球人を助けろって事ね。」
「悪かったよ。その後はクザラル星に行くからさ。」
シユマは首を上げた。
「ま、話は分かるけど。魔法協会地球支部とそれを支持する地球人を何とかする、っていう方が、少なくとも魔法協会本部やサクコブ政府を相手にするよりはまだ何とかなりそうだし。」
「まあね。それに今は、申し訳無いけどEIMがこの中では一番足場が弱いから。」
ブズズズ、ブズズ。
「それでは、この後は計画通りに。午後一時にはもう1体来ますので。」
「計画とは?」
スグタの言葉を30a0が尋ねる。
「もちろん、HYI地球支部の攻撃だよ。ニューヨークの。」
宏子は事もなげに答えた。


深夜の摩天楼。地上の明かりで薄紫がかった色に照らされた空に、いくつかの光の点が現れた。
郊外の工業地帯と思われる、倉庫らしき建物と柵に囲まれた人通りの無い通りを、数人の人影が早足に駆ける。
黒い戦闘服に身を包んだ青い肌のクザラル人男性が、隣の長袖シャツのモニクに目を向ける。
<良いですか…このポイントに向けてお願いします。23ミリ以上外れると、監視に引っかかるんで。>
<オーケー、タオダちゃん。気律の力を、我の頭上に…>
シュウウウン、プシュウッ。
目に見えるか見えないかという大きさの、粒のような光の球がゆっくりとモニクのイハッジャを離れる。
ポシュッ。
柵の少し向こうの、工場敷地の何も無い空間で、目に見えない壁に粒が吸い込まれるように消える。タオダはその部分をすかさず照射機で撃ちだした。
ビイイン、ビイイン、ビイイン、ビイイン…。
やがて、ゴムで張った膜に穴が開くように壁に口が開いた。壁自体が目に見える訳ではないが、その開き口は薄青く光を反射している。口の大きさは直径1センチ強だ。
タオダは腰元のポケットから10センチ四方の、何かの機械らしき物体を取り出す。モニクとタオダは頷きあうと、それをニ人の間の路上に置き、それぞれのイハッジャを構えた。
シュウウウンズバアアアアアアン!
風と光と大音響に目を細めるモニク。地面に置いた機械は、数十センチだけ向こうの柵の内側に瞬間移動させられている。
見えない壁に空いていた穴は見る見るまたふさがりだし、元の何も見えない状態に戻った。
「…!」
タオダが耳を立てる。モニクは後ろを振り返った。
ビイイインッ。
<っ。行こ!>
道の向こうから、クザラル人らしき人影が照射機を撃ってきた。ニ人は軽く頷き、道の反対方向へ走り出す。
モニクは走りながら腕の端末に手を触れた。
「こちらモニク・タオダ班。支部の魔力増幅施設を破壊に成功。…多分。」
「…多分って何よ、多分って。」
端末から宏子の声と、そのフランス語訳が聞こえる。
「だって、今逃げてるんだから。でも設定が間違ってなければ、後数秒で」
彼等の背後から、鼓膜を振るわせるゴオオオオ、という音が聞こえた。前の道や建物が、全てオレンジ色に染まっている。
軽く揺れている道を走りながら、ちらっとモニクは振り返る。先程まで工場のあった空間は、オレンジ色の炎で埋め尽くされている。夜闇の中で、青白い埃の波がこちらに押し寄せてくる。
「…破壊完了。今から戻ります。体が汚れないうちに。」
端末から口を離すと、モニクは再びイハッジャを取り出した。


超高層ビルの表の入り口に歩いてやってきたリジュワナは、石段を上がり、ビルの1階入り口の回転ドアに手をおいた。
「…無用心ね。こんな時間なのに鍵もかけていないなんて。」
回転ドアを回し、リジュワナはビルの中に入る。それに続き、武装したEIMとHNKのメンバーが続々と入ってくる。
1階の広大なロビーにはこの深夜でも結構な数の地球人やクザラル人がいて、話し合ったりモバイルパソコンで何かの仕事をしたりしていたようだ。
彫像のように静止した彼等を横目に見ながら、リジュワナは戦闘員達を見回した。
「敵も連動して時空移動している可能性があります。細心の注意を払って行動してください。特に非魔術師戦闘員は、必ず魔術師と行動を共にする事。今回必要以上の殺戮は避けたいので、先に挙げた8人のみが目標です。他は手を触れないで下さい。」
「その8人は…」
「確実に殺して下さい。」
リジュワナは戦闘員に答えた。


人々が立ち止まったままの通路を戦闘員達が走っていく。ドアを開け、部屋の中に入っていく数名。ドアから光と、攻撃弾の放たれる音が聞こえてきた。


バタッ。
事務室のドアを開け、リジュワナとニ人の地球人、一人のクザラル人が入ってきた。リジュワナとクザラル人はイハッジャを、その後ろの地球人達は照射機を構えている。
警戒した顔でリジュワナは部屋を見回した。
「いないわね…情報だとここだったわよね、議員のいる部屋は。」
リジュワナはクザラル人に言う。頷くクザラル人。
ビイイン、ビイインッ。
「っ!」
照射線が彼等に向かい降ってきた。リジュワナ達はとっさに、間仕切りの影に隠れる。
「大丈夫?」
「はい。…どうやら自動的に反応する迎撃装置があるようですね。」
黒服のクザラル人が答える。
「機械は反応出来るって事? 時間が止まっている世界だったんじゃなかったの、ここは?」
「本来の時間の流れから逸脱しているだけで、ここは別方向に時間が流れています。そうでなければ、私達が存在不可能になりますから。」
ビイイン、ビイイン、ビイインッ。
「…でも、おかしいわよ。周りの人間達は止まっているのに機械だけ動けるなんて、変な話だと思わない?」
「それ位は別におかしい事じゃない。」
視界の端に見えたものにリジュワナは口を開け、全速力でイハッジャを振った。
ビイインッ。
「つ…!」
リジュワナの作った防御魔法で彼等の前に光の壁が出来る。向こうから飛んできた光の球はその壁に吸収され、消えて無くなる。しかしその寸前に雨のように放たれていた照射線が、リジュワナの腕を貫いていた。
「魔術師!」
「大丈夫、血管は外れてるから。」
辛そうに右腕を押さえながらリジュワナはクザラル人に答える。そしてリジュワナは前方に顔を向けた。
<久しぶり。どうしているか心配していたのよ。>
照射線が隙間無く飛んでいる中で、色白の小柄な少女はオレンジ色の光を周囲に放ちながら超然と立っていた。
<そうか。それなら良かったな。こうやって元気な姿が見せられて。>
少女は2、3歩だけ前に進み、リジュワナ達と対峙する。
「…良いわ。彼女は私が。」
後ろで照射機を構える戦闘員達をリジュワナは手で制した。
<私が、何なんだ?>
<私が手を下すわ。小英。>
リジュワナはいつも通りの表情か、やや気分の良さそうにも見える顔でそう念じた。

<…さっきの事だが、この自動迎撃装置がゼロ時空で作動しているのは何もおかしい事じゃない。生命体やそれが手に持つ機械類が移動出来るなら、少し大型の装置も連動で移動させるのは難しい事じゃないからな。>
<でしょうね。…私達が来るのは分かっていた、って事?>
<いや、予想外だった。今この瞬間のここは、まだパニックの1分前のはずだ。と言っても幹部は2分ほど前にここの防御魔法増幅装置が破壊されたのを知って、大体避難ずみのはずだが。私も避難するように言われて、瞬間移動しようという瞬間に、違う気律に気付いてそちらに同調してみたんだ。>
<下々の者は放っておいて上層部だけ逃げる訳ね。>
<私以外は。別におかしい事じゃないだろ? 念のための避難なんだし、大体、まさかこんな大事になっているとは誰も思っていなかった…思っていない、だろうし。…ああ、もううるさいからこれは止めよう。>
小英は腕端末のスイッチを押した。彼女の周囲で土砂降りのように振っていた照射線は、それに合わせてぴたりと止まる。
<上層部だけ逃げるのは間違っていなかった。あんた達が殺しに来たのは上層部だけみたいだから。それにしても、>
小英は冷たい視線をリジュワナに向ける。
<まさかジュチャも、自分の教え子に命を狙われる事になるとは思っていなかっただろう。>
<私もこんな事はしたくないのよ。>
<そうは見えない。宏子やモニクとは違って、あんたはこういった非人間的な事を、まるでためらっていない。同じ、血の通った人間とは思えないよ。>
<…>
眉を上げ、リジュワナは鼻で息をついてみせた。
<悪いけど、この作戦は宏子が発案しているのよ。そしてモニクも賛成してる。…まあ、私達の中で一番血の通っていない私が現実に手を汚す候補になった、というのは事実かもしれないけど。>
小英は悲しみと怒りの入り混じった様子で首を振り、防御魔法を張ったまま、また数歩リジュワナ達に近づいた。光でよく分からなかったが、よく見ると彼女の服は寝起きのままと思われるピンク色のパジャマだ。
<…あんた達は、全員気が狂っている。>
<そうかもしれないわね。でも狂った側から見ると、自分達をここまで狂わせて、命も何度も狙ったような側にわざわざ行ってしまったあなたはもっと理解出来ないわ。>
<今、人が寝ている時間に不意打ちをかけてきたのは一体どっち側なんだ?>
<これからの私達は、あなた達ばりに狡猾になる事を決意したのよ。>
<そうか。それだったら、こっちも遠慮なくあんた達を殺せる。もう旧EIMは、「正義の味方」でも何でもない、って事がはっきりしたんなら。>
小英は肩を上げた。
<お互いね。それにしても、何故あなたは魔法協会に行ったの? …気に入らないわ。あなたとモニクは、私達の中でも一番正義感の強い魔法少女だったのに。>
リジュワナの念に、小英は少し笑う。
<…どうせ、クザラルの洗脳だって言うんだろう? そう思っていれば良い。自分達がどんなに残酷な事をしてきているか自覚していないんだから。>

<洗脳だとは思わない…だってあなたが、クザラル人を本気で信じているようには聞こえないんだもの。それは洗脳とは言えないわ。>
<…>
小英は眉を寄せる。彼女は腕端末のスイッチを押し、自分の手前にバーチャルディスプレイを表示させた。
<早くここから撤退しろ。これはこの本部ビルの自爆装置だ。信じる信じないは勝手だが、このタッチパネルを押せば、このビルは1分以内に爆発する。>
<残酷な話に聞こえるのは気のせいかしら…ゼロ時空に来ていない人間にとっては、今この瞬間で、急にこのビルが消滅するという事でしょ。自分達自身の犠牲が随分大きいんじゃない?>
<犠牲は大きいが効果も大きい。EIMとHNK地球支部のメンバーも、今大体ここにいるんだろ。彼等も全員叩けるチャンスだ。それに比べUOTRや魔法協会は、ニューヨークが無くても今は全世界に支部が張り巡らされているからな。>
<それにしたって…本当にここを自爆したら、私なんか目じゃないくらい非人間的よ。大体あなた自身だって危険じゃない。>
<これ位しなければ、あんた達には勝てない。あんた達のしつこさは私が一番良く知っている。>
リジュワナは首を振った。
<…分からないわ。一体、あなたが何を考えているのか…>
<あんたには、分からないだろう。>
<…宏子だったら分かる?>
<いや。分かって欲しい人は、いたが、…その人も…>
小英は目を伏せた。
「…」
その隙、リジュワナは素早くイハッジャを構え、持った右手でイハッジャの側面をキーを押すように何度か触れる。
ボンッ。ボンボンボンボンボンボンボンボンッ。
「くっ、がっ」
干渉弾が増幅され、ドリブルしているバスケットボールのような勢いで小英を防御膜ごと押し倒す。
ボボボボンボンボンボンボン…。
ガタンッ。
後ろに倒れ、床に頭を打ち付ける小英。彼女は意識を失い、床に横たわったまま動かなくなった。
「…」
小英の周囲のオレンジ色の光が消える。険しい表情で、リジュワナはイハッジャを彼女の顔に向ける。
クザラル人男性がリジュワナに近づき耳打ちした。
「…魔術師、小英顧問は今回のリストには入っていません。「無駄な殺戮」をする事は、私達の今回の目的ではありませんが。」
<どうも、気を遣ってくれてありがとう。でも彼女が非常に危険な存在であるのは、もうはっきりしてしまったから。>
リジュワナはしばらく目を閉じる。そして息を吐いてから、彼女は小英の方を見つめ、イハッジャに気律を集中させ出した。

シュウウウウウウンズバアアアアアアアアアン!
「きゃっ…!」
後退りするリジュワナ。小英は気絶したまま、光の中に消える。
「…」
「あらかじめタイマーで設定していたんですね。」
「…」
再び目を閉じ、リジュワナは深くため息をつく。
「…そのようね。ここに長居は無用です。この調子だと自爆もタイマー設定されている危険性もゼロではありませんから。全員今すぐ退去しましょう、瞬間移動で。」
「ですが、時空移動していないメンバーは? 急に私達がいなくなっては…」
「その時点で充分非常事態ですから、彼等もすぐに戻るはずよ。」
地球人戦闘員にリジュワナは答える。
「いえ、魔術師、仮に一分後にこの時空で自爆するようなら、彼等が危険です。今すぐ彼等を移動させないと」
「どうやって? 後何秒も無い時にそんな事をしていたらこちらが危険でしょう。」
「…」
言葉を失う戦闘員。リジュワナは腕端末のキーを数度押してから、イハッジャを構えた。
<ザナ・キュディヌ・ヒオ!>


ラジオのチューニングでもしているかのように高周波の音が響き出し、その調和が崩れると共につむじ風と光の渦が拡散して、宏子達が現れた。
<…本当にこんな所にいるのかしら。>
周囲はごつごつとした岩山ばかりの荒地だ。真夏の太陽が照りつけて、赤茶けた地面に濃淡の激しいまだら模様を作っている。
地平線の遥か向こうまで、人工物らしき物が全く見当たらない周囲を見回しながら、リジュワナはテレパシーを漏らした。
<…>
リジュワナに同意しているらしい表情で、プオラギイックは隣のシユマに目を移す。
<フテャージュが確かにそう聞いたの。彼女の裏情報が役に立ったのは、今回が初めてじゃないんだから。>
弁解するようにシユマは肩を上げる。
<でも…どこにも見えないわよ、秘密会議を開こうとして一大集会を開いている魔法協会員達なんて。>
彼等は4、5人で周囲を見回しながら岩山を歩く。
ピ、ピッ。
「プオラギイックよりモニク班。状況は?」
プオラギイックが端末に話し掛ける。しばらくの間と共に、やや困惑しているらしい声が聞こえてきた。
「ええと…無事です。B地点から作戦通り移動中。だけど、敵の姿が一切見えないんだよね。系魔法を使ってるの?」
「俺も今それを思っていたところだ。…シユマ?」
横にいるシユマが頭を上に向ける。
「場所が無人地帯だし、大人数が集まるような会議で、わざわざ系の魔法をかけるとは思っていなかったんだけど…」
「でも誰も見えない。かけているか、全員寝坊で遅刻したかだな。」
「…秘密の建物の中にいる可能性は?」
やや高い声の英語がスピーカーから聞こえてくる。
「うーん…そうだね、リチャード。ここにHYIが拠点を持っているとは思っていなかったけど、可能性としてはそれもありうるよね。」
自信無さ気に答えるシユマ。プオラギイックはため息をつきつつ口を開いた。
「この間の地球支部襲撃は、ベストの結果とは言いがたかった。死者や怪我人こそ出なかったものの…」
「…」
リジュワナは無言で、肘でプオラギイックをつつく。彼女の右腕に巻かれた包帯にプオラギイックは目をやった。
「…重傷者、こそ出なかったが、向こうの目標も3名だけで、後は逃げられていたからな。ダイポ・レーもアンドレア・ピーターセンも全く無傷だ。」
「蔡英もね。」
付け足すリジュワナ。
「今回も失敗だと、士気に関わるぞ。」
シユマはプオラギイックの言葉に肩を上げる。
「大丈夫だよ。こんな所で失敗したらそもそも逃げ場も無いでしょ。」
「…」
無言で目を向けるプオラギイック。
「いつ聞いてもエウグ人の冗談はつくづく楽しいわね。」
にこりともせずにリジュワナは念じた。
「…えーっと、作戦はどうしたら良いのかな?」
プオラギイックは一瞬空を見上げてから、端末のモニクに答える。
「続行だ。ただし慎重に。念入りにスキャンをしながら進んでくれ。」
「了解。じゃ。」
プオラギイックは腕端末を口元から離す。
ピピ。
「…ふう。」
再び立ち止まり、プオラギイックは腕端末のスイッチを押す。
「スグタよりプオラギイック班。」
「どうぞ。」
「現在D地点に引き続き待機していますが、80クザラル秒前から魔力反応の微増を感知。良いと思われます。もし、それがそうなら。……翻訳エラー。原語の文が不完全です。」
「スグタ?」
端末からの主音声はボツッ、という音と共に途切れ、無音状態になった。

「…D地点だ。」
プオラギイックは簡潔に言う。頷くシユマ達。彼等は小走りに岩山を降り出す。
ビシュウッ。
何かが風を切る音に彼等は振り向いた。
<ヒア・エンティフ!>
リジュワナがステッキをかざす。シユマがそれを止めた。
<解除して。発煙筒だよ、皆窒息する!>
彼等のすぐそばに投げられた物体から灰色の煙が吹き上がり、見る見るうちに視界を埋め尽くしていく。
「ゲホ、ゲホゲホッ。」
咳き込みながら頷くリジュワナ。プオラギイックが自分のステッキを上げる。
<ザナ・キュディヌ・ヒオ!>
<…>
<…当然瞬間移動なんか効かないと。>
ステッキを下げるプオラギイック。
煙が途切れてくる。視界が戻ると共に、彼等の前に先程まで見えなかった物が姿を現していた。
<…>
<…どうしたのよ、皆、早く逃げないと>
呼吸を整えながらリジュワナが顔を上げる。
<…>
そしてリジュワナは、眉を上げつつ息をついた。
<…ふう…余力を本部に残しておいて正解だったわ。>
リジュワナ達の前方には、多数のクザラル戦闘機と地球のヘリ、戦車が、リジュワナ達に壁を作るように広がっていた。
<…シユマ。>
プオラギイックが念じる。シユマは耳の裏をかきながら前方を見ている。
<…後でトイレ掃除でもゴミ出しでも何でもするよ。>
空中に静止しているクザラルのダークレッドの小型機が、照射線を数発発射する。リジュワナは先頭に立ってもう一度ステッキを掲げた。
ビイイン、ビイインッ。
わざと外しているのか、戦闘機の照射線はリジュワナ達を包む防御膜に当たりもせず、数メートル向こうの地面に消える。
しかし、それを合図にするかのように、横に列を作っている数十台の戦車が一斉にこちらに前進を始めてきた。ゆっくりと、土ぼこりをあげながらこちらに近づいてきている。
<防御膜さえあればここでじっとしてても別に良いんだけど…一応逃げてみる?>
肩を上げるシユマ。プオラギイックが振り返る。
<少なくともこの岩山は戦車は登りにくいだろう。後退するぞ。>
「…」
リジュワナ達は頷きあう。彼等はじりじりとやって来る壁から、逆方向に走り出した。


岩肌に囲まれた坂道を数人の地球人・クザラル人が走っていく。
照射機を構えた戦闘員が急に立ち止まったので、後ろのリジュワナは背中にぶつかりかけた。
「…ちょっと。」
「魔術師。」
振り向いた戦闘員が、前に目を向けてみせる。
「…何?」
大きな岩の陰からリジュワナは顔を出す。
「…」
リジュワナは眉を上げる。
ドンッ。
<わっ。>
念を上げるシユマ。
<…>
背中をさすりながら、リジュワナは後ろに振り返った。
<シユマ。>
<ごめん。…いや、急にここで止まってるから>
<あなたの部下がいるわよ。私達の部下も一緒にいるけど。>
<え…?>
岩から顔を出すシユマ。
数十メートル向こうの岩原で、スグタと思しきサクコブ生命体が、かなり大き目の防御膜を周囲に張っている。その中には十数名の地球人とクザラル人がじっと立っている。モニク達の班だ。
そして彼等はHYIの戦闘機に包囲されて、照射線を周囲に撃たれている。
彼等に対峙するようにして、数名の地球人、クザラル人達がリジュワナ達から見て奥の方の場所に立っている。
そのクザラル人達の中の一人を見て、シユマは眉を寄せ耳をしならせた。
<フテャージュ…>
<どうした?>
<前を見て。>
後ろからやって来たプオラギイックに、リジュワナが答える。プオラギイックは目を細め、岩陰の向こうの景色を眺めた。
<…おやおや。スグタがやられるとは痛いな…>
<何、他人事みたいに言ってるの。防御膜はこっちの方が弱いのよ。>
眉をひそめるリジュワナ。
ビイイン、ビイインッ。
照射線の音と、それを掻き消す砂利の音に彼等は振り返った。
割れた岩石と無数の砂利が、空中の見えない壁にへばりついて、石造の半ドームのような状態を瞬時に作り出した。彼等のそばの岩盤が爆発したのだ。
<大丈夫?>
<私? もちろん。防御膜の上に岩が乗ってるって言っても別に、私の肩に直接、岩の重みがかかってくる訳じゃないし。でも何時間も防御魔法を続けられる訳でもないし、このままだと解除した時には生き埋めになりかねないとは思うけど?>
シユマに答えるリジュワナ。
<確かに。何とかしないと…>
ビイインビイイン、ビイインッ。
「…」
シユマの念を中断させる高周波の音に、ステッキを持ったままのリジュワナはため息をついた。
更に地面が揺らぎ、土砂がますます防御膜に覆い被さってくる。山の「爆撃」に気付いた向こうのモニク達が、こちらの方に目を向けている。
ピピ。
プオラギイックは一瞬ためらってから腕端末のキーを押す。
「…こちらプオラギイック班。」
「モニクだけど…こっちに来た方が良いんじゃないかな。そっちで防御膜張ってる人には悪いけど、スグタさんの下の方が安全だと思う。」
「気に入らないわ…」
「あ、リジュワナちゃんなんだ。ごめん、そういうつもりじゃないんだけど」
「もちろん分かってるわよ。」
リジュワナは端末の声に答える。
「そうじゃなくて、敵が私達を一つに集めようとしているって事がよ。しかも下手に生殺しで…この状態から、どうやったら逆転に持っていけるのかしら。」
ビイイン、ビイイン、ビイインッ。
リジュワナ達が今さっきまで歩いていた岩山は戦闘機からの照射線攻撃であらかた粉々になり、その粉塵が周囲を埋め尽くす。「ドーム」上に降り積もった石のおかげで、防御膜の内側はかなり薄暗くなってきた。
「はあ…プオラギイック?」
判断を仰ぐリジュワナ。
「…シユマ?」
「え、私に聞くの?」
「…」
シユマにため息で答えてから、プオラギイック達は岩原の方に歩き出した。

何度か戦闘機の照射線にせかされながら、彼等はスグタ達のもとまでやってきた。岩がちの平原で、どこにも逃げ場らしい場所はない。正確には、唯一の逃げ場だった小山が先程破壊されている。
スグタの防御膜の下でモニクが小さめの防御膜を張る。スグタの防御膜が一瞬消え、すぐにプオラギイック達も含んだ大きさの新しい膜が張られた。
<…お久しぶり。>
自分の防御膜を解除したモニクが苦笑いでリジュワナ達を見る。
<で、私達はどうなるの?>
プオラギイックに目を向けるリジュワナ。
<さあ…>
プオラギイックは首を上げる。
<モニク、本部への通信は?>
<繋がらなかったよ。>
モニクの念に頷きつつ、プオラギイックは肩を上げた。
<それは俺も同じだ。それで、どうにかして繋げられないかって意味で聞いたんだ。>
<どうにかして、って…妨害が効いている中でどうやって? しかも何の道具も無しで…プオちゃん、私だって四次元ポケットがついてる訳じゃないんだから>
<…次元?>
<あ、ううん、気にしないで。…とにかく、無理だよ。>
<そうか…>
<…>
腕を組んだリジュワナは、頭上に浮かぶサクコブ生命体を見上げる。
「スグタ、あなたは後どれ位持つの?」
「私自身の生命維持のために多少余裕を見て、約338チュチャクズ、22地球分、あるいは117クザラル分です。」
「そう。それまでにケリがつけば良いけど。」<…モニク、あなたの好きな魔法少女アニメだと、こういう時はどうやって切り抜けるものなの?>
<だから、そんな事真顔で言われても…>
<誰か出てくるみたいだよ。>
シユマの念に一同は前を見る。地球のヘリコプターが着陸し、フォーマルな服の地球人男性とクザラル人女性が降りてくる。彼等の後ろから、マイクを持った地球人とテレビカメラマンもやってきた。
<ああ。誰かと思えば。…いつ見ても綺麗だねえ。>
耳を立てながらシユマが念じる。ヘリからやってきた女性が彼等の前に立つ。彼女は腕を組み、大声のエウグ語で話し出した。
「代表と話をしたいわ。」
「…」
「…」
プオラギイックとシユマが目を見合わせる。シユマが肩を上げてみせた。
プオラギイックがニグーワー語で答える。
「俺達は「連合」だ。「連合」は3団体の平等な結合体であり、一人だけがそれを代表するという性格の組織ではない。」
「…別に三人でも四人でも構わないわ。ただ話がしたいだけよ。」
ヘリの起こす風に髪を揺らしながら、険しい顔のジュチャが口を開いた。
「ここで3団体を代表出来るのは、プオラギイックEIM副代表、シユマ・ホス・フドゥカトゥンHNK地球支部長、それから私、スグタ・ベトボ、パフタオチトゥ連邦政府実務代表、以上の3名です。」
空中に浮いているサクコブ生命体の合成音声を、ジュチャは物珍しそうに見上げる。
「ですが、私がこの場を離れるのは多少問題が残りますので、ここはプオラギイック副代表とシユマ支部長が行かれるべきではないでしょうか。」
「…」
プオラギイック達は互いを見合わせる。
<信用しなさい、不意打ちをしたりはしないわよ。>
<…>
プオラギイックは頷いてみせる。スグタが一瞬防御を解き、その隙にプオラギイックとシユマは一歩前に進んだ。

リジュワナ達から10メートル程度離れた地点で、三人のクザラル人は立ち止まった。
<久しぶりだな。>
「…あなた達の攻撃は暴力的かつ卑怯で、個人的には許しがたいわ。」
ジュチャはテレパシーを無視して喋りだした。地球人カメラマンの持つビデオカメラが、彼女の横顔を映している。
「この会見は現在録画されていて、地球、及びクザラル星のテレビ局に放送される予定よ。異論はあるかしら。」
「異論も何も…この状態で、私達に拒否権とかは認められてんの?」
コココ語で答えるシユマにジュチャは眉を上げる。
「無理に外国語を使わなくても、自分の母語で喋れば良いのよ?」
「…」
「さて。魔法協会及びUOTRは、あなた方の理不尽な奇襲攻撃に強く抗議します。…ですが、無条件に報復を返すのではなく、まずはあなた方の言い分を聞きたいと思ったのよ。地球のテレビ局のアンケートによると、地球人の76%が今回の攻撃を非難し、64%は即時にテロ組織の壊滅を求めている。でも同時に、26%の地球市民は、この問題は話し合いで解決すべきだと答えたの。私は1クザラル人として、地球人のこういった平和的姿勢に心打たれたわ。だから、もしここであなた方が真摯に反省して、もう二度とこういった事は起こさないと宣言してくれるのであれば…私達は、今回の事は敢えて水に流そうと考えたんです。」
砂風が吹く。プオラギイックはため息を漏らした。
「…」
「…私達の言い分?」
シユマが胡散臭げにジュチャを見る。
「ええ、そうよ。あなた達が自分の言葉で謝罪するなら、私達もあなた方を頭ごなしに否定するつもりはないわ。むしろ、私達の仲間として受け入れてあげても良い。」
「えーっと。」
シユマは耳をかいた。
「しばらく使っていないうちにエウグ語忘れちゃったみたいで、彼女の言ってる意味がよく分かんないんだけど。プオラギイック、翻訳してくれない?」
「…もし、謝罪すれば、俺達は解放されるのか?」
「嫌ね、プオラギイック。その言い方じゃ、まるで私達があなた方を無理に拘束しているみたいだわ。実際には唐突に攻撃を仕掛けてきたのはあなた達の方だったのに。」
「いいから。それで、俺達はどうなるんだ?」
プオラギイックの声が荒くなる。ジュチャは肩を上げる。
「こちらとしては、今回はニ人の反省の言葉が聞ければ、全員手をつけずに、好きな所へ帰ってもらって構わないと思っているわ。」
「…」
シユマがプオラギイックの方を向いてテレパシーで念じる。
<プオラギイック、嘘に決まってるでしょ。こいつの言う事なんか信じてどうすんの!>
<あら、今回プオラギイック達の信用を裏切ってここに全員を連れてきたのはあなたの部下でしょ、シユマ。>
<それこそあんたに騙されたからでしょ!>
シユマがジュチャを睨む。
<心外ね。私は彼女に洗脳も何もかけていないのよ。あなたみたいなのとは違うし。>
肩を上げるジュチャ。
<な…>
「ニ人とも、結論は出た? 彼等の代表として。」
ジュチャはリジュワナ達の方に目を向けてみせる。
「…出た。」
「…出…」
口を開きかけたまま、シユマはプオラギイックの方を見る。
「…出た?」
「ああ。俺達、「連合」は、先の魔法協会地球支部襲撃事件について、心からのお詫びと、犠牲者への深い哀悼の意を表明する。」
プオラギイックは右手の平を水平にかざし、額の辺りから胸元までゆっくり下げてみせた。
<プオラギイック!>
<良いんだ、喋らせろ。>
<でも、こいつの言う事なんか嘘に決まって>
<大丈夫だ、俺もジュチャとは付き合いが長い。こいつが言った事を守る奴なのは知ってる。>
<何言ってんの、これとの付き合いは私の方が長いんだよ。だから知ってる。こいつは、そういう善人面をして人を追い込むのが天職の人間だってね!>
あさっての方向を向いたままジュチャがすまして念じる。
<まるで鏡よね。それは全部あなた自身の事でしょう。自分が一番良く分かっている事なんじゃないの、シユマ支部長。>
<…>
殺気を持った目をシユマは前に向ける。
<いいから、ここは俺を信じろ。>
「しかしながら、この事件は不幸な誤解のもとに起きてしまったものであり、言うなれば、事件というよりは事故に近いんだ。それを説明させてほしい。」
「…なるほど。どういう事かしら?」
「…HYI地球支部内に、サクコブのスパイが潜入しているという情報がこちらに入ってきたんだ。そのスパイは非常に能力が高いため、迂闊に支部に知らせるとスパイもそれを感づいてしまう危険性が大だった。」
<…プオラギイック…>
シユマは表向き黙って、彼を見続けている。
「そんなスパイが? それであなた達はどうしたの?」
「俺達は政治的理由から、決してHYIを全面的に快く思っているとは言えないが、かといって同朋がサクコブにやられるのをみすみす見逃すなんて事は出来ない。だから、せめて要人だけでも救出しに行こうと考えたんだ。」
「救出に? でもあの夜、ドーラ・フォゴタンガ3級資格者とムトゥザ・キブ・オレフィディ総務係師はあなた達の部隊に殺されているわ。」
「それはスパイが殺したもので、俺達は彼等は守ろうとしたんだ。」
「それは、事実とは反するわね。ビデオの記録にははっきりあなた達が殺しているところが写っているのよ。それ位は、この会見を見ている視聴者なら全員とうに知っている事でしょうし、証人だってたくさんいる。」
「全て系の魔法だ。サクコブの魔力が非常に強力な事はお前達も良く知っているだろう。」
「…」
<ずっとそれで押し切るつもり? ちょっと話に無理があるんじゃないの?>
ジュチャは眉を上げてみせる。
シユマは唇を噛みながらプオラギイックに目をやった。
<…ねえ、プオラギイック、考え直そうよ。こんな茶番につきあってたって埒が明かない。あれは最初から、譲歩とかするハラは全然無いんだよ?>
<そうは言わないわ。…でも、出来れば多少の事実と、多少の本心からの謝罪を期待したい所ではあるわね。>
「全て、スパイによる系の魔法だ。」
<ふうん…>
「それでは仮にそうだとして聞くけど…今、そのスパイはどこにいるの?」
「…」
「こっちは既に、要人をニ人亡くしてしまった。そのスパイはとても危険な人物だわ。あなた方はそのスパイに詳しいようだから、今どうしているかももちろん分かるでしょう? それとも、もう既にそちらで捕まえたのかしら。」
「…取りのがした。」
「そう。」
ジュチャは頷く。
「つまりEIMは、HYI地球支部が危険にさらされている事を知っておきながら、その事実を支部自体には知らせず、地球支部は自分達では何の対策も取れなかった。その結果、HYIはニ人の犠牲者を出して。そしてスパイはそのままどこかへ消えてしまった、と、そういう訳ね。」
「…」
「プオラギイック副代表。どうしてその情報を、事前に私達に知らせてくれなかったの。そうすれば私達も犠牲を出さずにすんだかもしれない。モンスターのはなった危険なスパイを結果として野放しにしてしまったのは、あなた方の責任が大という事になりますね。」
「それは…」
「もちろん全ては、仮に監視カメラの映像が系魔法による虚偽の物であったとした場合の話ですけど。時間はかかるけどHYI本部の方で専門家が念入りに映像を調査すれば、事の真偽はじき明らかになるでしょうけれどね…」
「…」
プオラギイックはジュチャの顔を見た。
「どうかした?」
「…いや…」
「そう。 副代表の率直なお気持ちを聞かせてもらってありがとう。…さあ、それじゃ次はあなたの言葉を聞きたいわ。HNK地球支部長。」
「…馬鹿馬鹿しい。」
シユマはそっぽを向く。
「シユマさん。あなたは今回の事件についてどう思っているのかしら、一責任者として。」
「…」
<この放送がJVK全土で流れるものだ、っていう事を少しは意識したら?>
<だから何? 公共の電波で嘘八百を言うほど私は落ちてない。>
<流石。聞いた? プオラギイック。HNKで長年揉まれてるテロリストは違うわね。あそこで怯えている仲間達より、自己満足なプライドの方を優先させるそうよ。感服だわ。>
<ジュチャ、あんたね…>
<このままだと、HNKだけが嫌われ者になるわね。地球人もクザラル人も、理不尽な暴力は受け入れられない。ここだけの話、今回の襲撃は私達にはとても大きな得点だったわ。だって、こっちが何をしないでもあなた方は人々から嫌われるんだもの。こうやって謝罪の場を作っているのは、本当に人助けなのよ。だってこうでもしなかったら、あなた方は人々が自主的に行う社会的制裁でにっちもさっちもいかなくなるじゃない。>
<あんたはあんたの正義を勝手に信じてれば良いわ。でも私は騙されない。>
<…シユマ、騙されろ。>
<プオラギイック…!>
<今はそうするしかない。この後の事は、また後でゆっくり考えれば良い。>
<…でも、>
<認めろ。今回は、俺達は負けたんだ。口だけですむなら安い代償だろ。>
<何言ってるの。これは口「だけ」って事じゃない。組織の信用の問題じゃない! 自分達を否定するような事を代表者が公共の場で言ったら、それこそ私達はこれからにっちもさっちも行かなくなるんだよ!>
<だとしても、今回は負けたんだ。>
<っ…>
「シユマさん、聞きたいわ、あなたの話。どうか話してくれないかしら?>
「くっ…」
「お願いするわ。」
微笑むジュチャ。カメラがシユマの顔にズームインする。

「…」
シユマは顔を上げた。
「ふう…」
シユマはたっぷりため息をつく。
「シユマ支部長?」
「…分かったよ。」
そして彼女はほくそえんだ。


ジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジッ!
風を切る高音と地味だが不快な機械音、そしてそれに続く爆発音。ジュチャは息をのみ周囲を見回した。
「じゃあ、はっきり言ってあげる。魔法協会は最低の下衆集団よ、だから殺したの。何か文句ある?」
黒い円盤型の飛行物体が3機、空を飛び回る。円盤から絶え間なく発射されるオレンジの光線で、HYIの戦闘機、米軍の戦車、ヘリコプターがことごとく火を吹き上げる。
円盤の後からはサクコブ生命体が飛んできた。生命体の放つ攻撃弾で戦闘機や戦車は更に破壊され、丸い断面を残して煙を上げている。
「な…な…がうっ!」
口を開いたまま周囲を見回していたジュチャは、プオラギイックに腹を殴られ目を閉じた。
「あなたもしばらく寝てもらえるかな?」
ガチッ。
シユマがカメラマンに微笑む。そして彼女はカメラマンの脇本に裏拳を叩き込んだ。
「ううっ!」
倒れるカメラマン。
<悪いけど、このビデオは私をベストアングルから撮っていないからボツなのねー。>
言いながらシユマはビデオカメラを地面に起き、攻撃弾で穴を2、3開けた。
<そっちにも穴を開ける?>
シユマがプオラギイックを見る。
<…>
プオラギイックはジュチャを地面に横たわらせる。プオラギイックはしばらく彼女の顔を見てから、首を上げた。
<いや、こいつがいなくなったら小英の話し相手がいなくなる。>
<あんまり模範的な話し相手にも見えないけどねえ。>
<それにお前の話し相手が一人減る事にもなる。>
<…>
シユマは眉を上げてみせた。
<…まあ、あんまり模範的な話し相手じゃないかもしれないけどな。こっちの命を要求してこなかったのは、多分こいつのワガママだ。なら、少しはこっちも感謝してやらないと。>
<だからこれは甘いのよ。大体こんな事やってたら、魔法協会でも居辛くなるわよ彼女。死なせてやった方が彼女の為かも。>
<さあな。でも、誰にとっても、話し相手が多いに越した事はない。>
<ふーん?>
<神の言葉は正しくて役立たず、人の言葉は間違っていて役に立つ。ニグーワーの有名な諺だ。>
<そういうゴニ教徒チックなふざけた諺の存在にニグーワー人の中途半端さ加減が象徴されてるよね。>
<それからな、シユマ。>
プオラギイックは立ち上がった。顔を上げるシユマ。
<地球人を狙う時は脇じゃない。ここだ。>
プオラギイックは自分の下腹部を指差してみせる。
<はあ。そうなの? そんなとこ、排泄器以外何があるっていうのよ。>
<地球人は、それだけじゃないんだ。今度勉強しておいた方が良い。>
<…ああ。まあそりゃ、「プオ」はね。勉強できる相手がいるもんね。お互いの体について色々とね。>
プオラギイックが耳を揺らす。プオラギイックはシユマに近づいた。
<そんな事、してる訳ないだろ。大体何で俺があんな…>
<…何? 暴力女? わがままな奴? 幼いガキ? 自分勝手な地球人?>
<全部だ。>
<あ、そう。で、それって誰の事なの?>
<シユマ! お前までそういう>
「ゴホン。」
<…>
聞こえてきた声に、プオラギイックはゆっくり顔を向けた。
<…ああ。>
ニ人に近づいてきていたリジュワナが頷いた。
<プオラギイック。>
<何が「ああ」なのよ、何が。>
呟くシユマ。
ピピ。
プオラギイックの腕端末が電子音を発する。プオラギイックはスイッチを押す。
「ああ。」
腕端末にバーチャルディスプレイが現れ、宏子の顔が表示された。
「いよう。プオ君元気かい?」
一瞬倒れかけたらしく画面から消えかけながら、宏子は笑って手を振ってきている。
「…まあ、ボチボチな。」
「そ。それは結構。」
画面の宏子は、黒い壁のある部屋に立っているようだ。
「05の船内か?」
「ん。34ff23だよ。」
「…」
空を見上げるプオラギイック。3隻の円盤が彼等の頭上を飛び交っている。
「…見てもどれかは分からないけどな。」
プオラギイックはバーチャルディスプレイに視線を戻した。
「ひーこちゃん、もしかしなくても、こっちに来てるの?」
「魔力が無いのに、って? ヤだなあ、それでも私はムードメーカーとして必要じゃん? 皆のアイドルっていうか、さ。」
「皆って…誰?」
呟くリジュワナ。
「でも、お前は来ないで良かっただろ。それこそ魔力も無いんだし、こっちは危ない、って言うのが分かってたんだったら…」
プオラギイックはそこまで言いかけて、周囲の視線に気づいた。
「それで一々こっちを見るなっ!」
「は?」
「あ、いや、こっちの話だ。まあ、05達を呼んでくれたのはありがたいんだが…でも、どうやってここまで来たんだ? こっちからお前に連絡は出来なかったし、そもそも05も、今回の作戦には不参加だと言っていた。」
「それなんだけど、」
「それは、私の方から説明させてください。」
宏子の隣に05生命体が飛んできて、宏子の顔の高さでぴたりと静止する。
「05生命体にとって、EIMは初めて手を組もうと言ってきた友人なのです。必ずしも最も有能な集団とは言えないし、環境に恵まれているとも限りませんが…友人である事に違いはない。友人が危険な時は、手を貸すのが人情というものでしょう。」
「…って事で、急だけど05部隊も参加してみた訳。30a0辺りは反対してたけどね。この9d88がゴリ押しして、結局押しかけて来ちゃった。」
「まあ、少なくとも、それでこっちは助かった訳だ。」
宏子に答えるプオラギイック。画面が更にもう一つ増える。プオラギイック達の真上にいるスグタが現れ、音声を発しだした。
「バザポも来たのですね。彼女は本部で待機するはずだったのでは?」
「いやあ、私もバザポも留守番暇だったし、05が行くんだったら、私らも顔出そうかな、って思って。」
「組織の長である佐藤代表が計画を変更するのはともかく、バザポがそんな規律違反を?」
「あ、いや…あー、違うのスグタ、私が誘ったんだよ。どうせだったら一緒に来ない、って。」
宏子は慌てて手を振っている。
「あはは。あ、何か悪い事しちゃった?」
「…そうですか。そういう事でしたら構わないのですが。彼女は普段からやや直情的に過ぎる所があるので、勘違いしてしまいました。」
「ま、まあ、バザポもまだ若いからね。」
「彼女は今年で1億1900万チュチャクズ・カデソ、つまり15地球歳ですよ。もういい加減、良き大人として若者達の模範となっていなくてはいけない年なんですが…。」
「あ、そ、そうなんだ。」
画面の中で宏子は引きつった笑いを浮かべている。リジュワナはスグタを見上げた。
「スグタ。そんなにバザポに借りを作ったのが悔しいの?」
ブズ、ブズズズズ。
「…とんでもありません。私はただ、バザポ副官の普段の言動に多少の問題が含まれているという事を…」
「何はともあれ苦境を救ってくれて感謝するわ。」
合成音声を遮って、リジュワナが宏子に言う。
「ああ、それだけど、一体何が起きてたの? 地球軍が来てるなんて話、聞いてなかったけど。」
「その辺りの事は後で説明する。」
プオラギイックの言葉に、画面の宏子は頷いた。
「そう。じゃ…あんた達の遠くの方に、まだちょっといるみたいだから。今からそっちに行って来るよ。」
「…だから、別にお前は行く必要が無いだろ。」
宏子はふと、まばたきをしてからこちらの方を見た。
「…あ、何かプオ、もしかして勘違いしてないよね? 私はあくまで05とパフタオチトゥとの付き合いでこっちに来たんあって、別にあんたの事が不安になったっていうだけの理由で出ばって来たとかそういう事じゃ」
「代表。そろそろ通信の方は。」
「あ、あ、うん。」
9d88に頷く宏子。
「んじゃ、また後で。」
宏子が軽く手を上げると画面が消える。連鎖するようにスグタの画面も無くなった。
黒い円盤はプオラギイック達の真上を横切り、3機とも間隔を保ちながら、山の向こう側へ飛んでいった。

シユマは腕を組み、「はあ」と息を出しながらプオラギイックに肩を上げてみせる。
「プオラギイック、彼女の呼び名がまた増えたね。」
「は?」
「生意気でうるさくて、おまけに「命の恩人」。」
「それは最悪だな。」
気の無い表情でプオラギイックは頷いた。


<こりゃ、すげえや。>
宏子は口を開けたまま念じた。
<友好の印よ。>
シユマが胸を張って微笑んでいる。
宏子とシユマとプオラギイックの三人は、地球のセスナに毛が生えたような雰囲気の、ディスプレイと座席の並ぶ狭いコクピットで立っている。
<戦艦タマシルファグウト。空魔法を単目的23倍にまで増幅可能なプシュトゥバス社製魔力増幅装置と、それを補助するコトロ・トグシェンジュ社製8炉相関反物質エンジン。もちろん今流行りのTChEトチェエも防御魔法変換プールも完備。統一接続回路は3社共同規格のバージョン6.4に対応してるよ。つまり、ハフサケットの霧型照射機からプシュトゥバスのGD-78eグデ・ヘイェエ移動用増幅装置まで全部、繋ごうと思えば繋げるって事!>
<え、っと…>
頬をかく宏子。
<ああ、つまり、どれも最新鋭の設備だって事なのよ。>
<でも機体自体は25クザラル年前のビンテージだけどな。>
<うんそうだよ、だからエンジンだけでも新しいの買ってやったんでしょ、素直に感謝してよね。>
シユマはプオラギイックに頬を膨らませる。
<それに、名前も変じゃん?>
<コココの誇るペッギン教聖人の名前を馬鹿にする気?>
固定式とバーチャルのディスプレイ群を眺め回しながら、プオラギイックはシユマに念じた。
<いや、名前負けしているただの移動用クルーザーでも、もちろん感謝はいくらしてもしたりない位だが…話だと、この宇宙船はクザラル人と地球人と、更にはサクコブに05の技術まで集めて作った、この宇宙上で最強の、考えうる究極の戦艦…だと聞いていたんだがな。>
<もちろん。見て分かるでしょ。>
プオラギイックは改めて、狭苦しくて汚れている船内を見回した。
<…HNKの台所事情だけはよく分かるが。>
<だから感謝してって言ってんでしょ。こっちは地球に来れる手持ちの宇宙船全部数えても両手の指で足りるんだから、その内から1個機体を提供するのがどれだけ重要で本部との会議で私が上司にどれだけネチネチ言われたか分かってくれてる本当にあなたは私は本当にトハギに色々言われて今までだって結構持ち出してたからどこまでやれば気がすむんだって言われてそれをなだめすかしながら安物とはいえ宇宙船をかすめとるのがどれだけ大変だったかあんたには想像付かないかもしれないけど私は本当にそういう交渉なんかもともと苦手なのに頑張ってつくづく大変だったのよ分かってる。>
<ま、まあ、シユマさん、落ち着いて…>
シユマの隣に歩いてやってきた青い肌のクザラル人男性が、苦笑しながら彼女の肩を押さえた。
<でもタオダ、確かに見た目はクザラルの宇宙船っていう感じしかしないけど…?>
宏子が尋ねる。タオダは頷いた。
<サクコブや05の技術はインターフェイス、というかインテリアには殆ど取り入れませんでした。そもそも人間向けに作られていませんから。ですが動力系や照射機には05の技術を大幅に取り入れています。サクコブの方はまだスグタさん達の船をよく研究させてもらっていないので、それほど多くのものは入っていないのですが、魔力増幅装置の効率はクザラルの2.1倍だったので、使わせてもらう事にしました。>
<凄い…>
宏子は目を丸くし、両手を口の前で合わせる。
<ねえシユマ、本当にこんな船貰っていいの? 私達、タオダの言ってる事は金輪際これっぽっちも分からないような人達なんだけど。>
<良いわよ。…でも少しは話、分かってね。せめて操縦法だけでもね。>
笑顔の引きつるシユマ。
プオラギイックはコクピットを見回しながら念じる。
<サクコブと05については分かった。で、地球の技術っていうのはどこにあるんだ?>
<んー、大体地球の技術で他の星より進んでるものって何かあったっけ?>
プオラギイックの念に頷く宏子。タオダは言葉を選びつつ答える。
<ええ…そうですね。ずば抜けて他種族より抜きん出ているという物は、失礼ながらそれほど多くは無いかもしれないですが。でも、いくつかの素晴らしい技術はこの船でも取り入れていますよ。>
<例えば?>
<例えば…この船には、地球式の電子レンジがあります。多種多様な調理法で簡便に地球料理を作る事が可能です。クザラルの一般の戦艦では、考えられない豪華設備ですよ。>
<…>
<それから、9d88統括課長とモニク魔術師に協力をお願いして、地球の各企業や大学の研究所から、他にも色々役に立つ技術を得ました。インターフェイス周り等も、それでかなり改善されていますよ。>
<それは…ハッキングと言うのでは?>
乾いたトーンで念じる宏子。
<今更良いじゃん、それ位。最近のテレビ戦略に比べれば可愛いもんだよ。>
シユマの念に、宏子とプオラギイックは軽く目を合わせて肩を上げた。
<いや、テレビってつくづく凄いね。各地のマスコミを押さえるのがこんなに効果的とは思わなかった。政府よりもテレビ局を押さえる方が力になるんだもん。>
<でも、地球のマスコミも軍事力だけで言う事が変わってしまうものなんだね。>
<いや、シユマ、軍事っていうよりは、資本の力だよ。主なテレビ局の株を買うっていうか、その株の持ち主を買っているの、連合は。>
<…連合ってそんなにお金持ちだったっけ。>
<新しい船までは買えなくても、この船を改造する位は出来るって事だ。例えばこれ、「空に浮いている画面」のパテントを取ったりしてな。>
プオラギイックは近くのバーチャルディスプレイに手をかざしてみせる。
<まあ、一番大きいのは資本家や企業に寄付をつのっているんだけどね。>
<それは、本当に自発的な「寄付」なの?>
宏子はシユマに首をかしげてみせた。
<さあ…何て言うか…まあもしかしたら、こっちの軍事力に敬意を払ってくれているのかもしれないけどねえ…>
<…はあ。つまり要は、軍事力で脅かしてテレビを買ってると。>
<やだなあシユマ。魔法の力って言ってよ。魔法少女の魔法の力。…あ、元・魔法少女だけど。>
人差し指を振る宏子。
<…まあ、地球からHYIを追い出すためには手段を選ばないっていうのが、連合の一つの結成理由ではあるけれど…>
シユマは深々とため息をつく。
<開き直った魔法少女上がりの怖さを、悪の組織に見せ付けてやらなきゃ。>
<悪…あれ、プオラギイック、誰が悪で誰が正義だったんだったっけ?>
シユマが聞いてみせる。
<さあ…俺には分からないが、何かの比喩表現か、皮肉とかなんじゃないのか?>
プオラギイックが肩を上げた。
<でも確かに、その効果は出ていますね。地球の各地域の政府でまだ連合支持を明言している所は流石にありませんが、主要テレビ局のキャンペーンによって世論は今、大きくこちらよりに動き出していますから。特に世論に敏感な欧米諸国がこちらにつくのは、もう時間の問題でしょう。>
タオダの念にシユマは頷く。
<なるほど。地球の中で立場の強い欧米諸国が私達を支持すれば、その他の地域も追従する訳ね。>
<その通り。しかも元々中国なんかは今でも親EIM派が多いみたいだし。>
宏子が念じる。シユマは彼女の念に耳を揺らした。
<ああ。じゃあ宏子、この間のあのリポートはそれが原因だったって事か。あの、クザラル人の地球の入植者達が、秘密裏にどんどん星に帰りだしているっていう話は。>
<うん。彼等は多かれ少なかれ魔法協会と関係があるから、魔法協会が地球で嫌われ出すと居辛くなるからね。っていうかまた会議をちゃんと聞いてなかったんだねあんたは。>
無視してシユマは念じている。
<なるほど。確かに魔法協会は、ついこの間までのEIM並に嫌われ出しているのは確実よね。何しろあの地球支部ビルがニューヨーク州の税金裁判所?だかに脱税疑惑で差し押さえられちゃったもんねえ。…裏であんた達が何やったのかは知らないけど。>
<あんた達じゃなくて、私達。>
<連帯する相手、間違えたかなあ…>
シユマは頭をかく。
<それでは、もうほぼ確実に、地球人の皆さんは地球から魔法協会を追い出しつつあるという事ですね。おめでとうございます!>
<いや…まあ、まだ祝杯には早いと思うけど。>
宏子はタオダに笑って答えた。


<まだ完全ではないが、目標の一つは今、達成が間近という所だな。>
プオラギイックは椅子の一つに座る。
<でも俺達連合は、地球人だけの組織じゃない。他のグループの目標もかなえていかないと。>
<それに。そもそも地球人にとっても、魔法協会よりもこっちの存在に困っていた訳だし。>
宏子がプオラギイックに続くように念じた。
<で、この船の出番って事になった訳ね。…でも、勝てるかな?>
<えっと…根拠レスなイエスと客観的なノー、どっちが答えとして聞きたい?>
<どうせだったら…先に私達HNKの悲願をかなえてほしいなあ、とかもちょっと思うしさ。>
<ごめんごめん。次の目標をクリアさえすれば、その後はすぐ、クザラル星に魔法協会を倒しに行くからさ。>
<その、次の目標っていうのが、ねえ…>
シユマは首を軽く上に向ける。宏子が楽しげに息をついた。
<シユマ、大丈夫だよ。ま、根拠は無いけど。でも、それぞれがそれぞれの足りない所を補完しあえる異種族混成のチームが、一つの世界しか知らない彼等に負けるなんて気は、私はしないな。>
<…>
腕を組んでいるシユマは、宏子を見る。視線を返す宏子。
<…何?>
<ううん。別に。…まあ、中々良い感じの答えだったんじゃないの、説得力は別に無いけど。>
シユマは微笑んだ。

ピピ。
宏子の端末が鳴った。宏子はスイッチを押す。
「どうしたの、スグタ。」
バーチャルディスプレイに映るサクコブ生命体に宏子は言う。
「申し訳ないんですが、今時間はありますか? 緊急の用ではありませんが、出来れば30分程度お借りしたいんですけど…」
「うん、構わないけど、何?」
「向こうに着いてから、こちらの本隊と共同行動をとるにあたって、サクコブ生命体と人間との間の文化や考え方の違い等について、ホクさんと注意事項をとりまとめました。取り合えず、佐藤代表とシユマ支部長、それから30a0課長には直接目を通して頂けたらと思うのですが。」
「あ、私も今ここにいるよ。」
シユマが画面に手を振ってみせる。
「そうでしたか。では、今からこちらに足を伸ばしていただけますか? あ、それとも私がそこまで行きましょうか?」
「ああ、良いって、たいして歩く訳じゃないし。じゃ、今からニ人でそっち行くよ。その間に30a0に連絡しといて。」
「分かりました。ありがとうございます。」
「良いって。」
宏子は画面に笑ってみせる。
「じゃ、まあ、早いとこ片付けちゃおうよ。サクコブ中央政府をやっつけるっていう、パフタオチトゥの目標をね。」

続く



Written by FML (AKA Franken).
Ver. 1.00 on 2003/1/29.

<ねえリジュワナちゃん、バングラデシュって、洪水がよく起きるんでしょ?>
<え? ええ、そうね、国の大きな問題の一つだわ。>
<浮島なんかで暮らしてるからだよ。葦が腐ると海に沈んじゃうって事じゃない。そうでなくても流されちゃうよ?>
<…は?>
<お陰で忍者が多いけど、リセットボタンを押す事で再起動が出来るんだよね。ほら、そこの額の。でもタイガーバームになっちゃうのは勘弁だよねー。>
<…>
<あれ、リジュワナちゃん、どうしたの?>
<…どうって…間違いだらけで、何をどう答えたものやら…>
<え、そうかな? でも、リジュワナちゃんの事は私、特に良く分かってるよ。だって私達、友達だもんね。>
<私の事は良いけど…モニク、相手の事を中途半端に知ったつもりで友達でいるとね、その内、その相手の本当の姿を知る時に痛い目にあったりするものよ。次回、魔法少女佐藤第22話、「魔法少女の奇跡の勝利」。お楽しみに。ところでモニク、あなたのこの妙ちきりんな問答に、何か意味はあるのかしら?>
ふふん
<それは、その人の見る立場ってものによって変わってくるものなんじゃないかな…?>
<(誰がどう見ても無意味にしか見えないような…いや、そうにしか考えられないという、私の価値観の狭小さを指摘している? モニク、あなたって案外、深い事を)>
<あはははは。なあんちゃって。なんちて、なんちて!>
<…(まあ、世の中こういう奴もいるわ…)>



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