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若干のノイズと共に3次元の姿を現した宏子は、周囲を見て肩を上げた。
「あれ。今日はまた、前回と大分違う場所を模してるんだね。」
「どうやらバングラデシュのシミュレーションは、人間の皆さんには暑いらしいという情報を得まして。…地球の、それも人口密集地帯の気候なので問題は無いかと思っていたのですが。」
「…まあ、あの程度の暑さで、健康に問題が起きるような事はないけどね。」
石造りの広々としたホールのような屋内で、宏子は目の前で石の床に着地しているスグタに答える。
「それにしてもここってどこなの?」
「ベダシトポトポのペッギン教寺院。私が昔、よく来てた場所を再現してもらったんだ。」
床にあぐらをかいて座っているシユマが、宏子に顔を上げて答えた。
「へえ…まあ、こっちの方が涼しいのは間違い無いけどね。」
宏子はシユマのそばで同じようにあぐらをかいて腰を下ろす。
「寒さ暑さ等に関しては、我慢出来ない時は設定を変えてください。もちろん、こちらも皆さんの生存に関わるような環境をシミュレートするつもりはありませんが…。」
「でも、スグタってリジュワナの感覚に慣れてるんでしょう。駄目だよ、あいつはまた、感覚が一般の地球人と違うんだから。バングラデシュの気候でずっと接続する事になったら、私らぼーっとして何も考えられなくなっちゃう。」
「ですが、ホクさんは常に明晰な判断力を持っていらっしゃいますが?」
「だから、アレは特別なの。」
宏子はスグタに肩を上げた。
「皆さんが集まったところで、さっそく意見をお聞きしたいのですが、」
スグタの隣の30a0が合成音声を出す。
「ご存知の通り、187チュチャクズ・12地球分・63クザラル分ほど前に通信が来ました。この通信そのものについて、パフタオチトゥの皆さんの見解も、私達の解析結果も同じです。この通信は、確かにフィキチュアジ本社から来ています。社長の電子署名も本物です。」
「…」
「さっそく、彼等の提案についての意見をお聞きしたいのですが。皆さんどう思われますか?」
「…」
宏子とシユマは顔を合わせる。二人はそのまま、スグタの方に目を向けた。
ブズズズ、ブズ、ブズズズズ…。
「…信用して良いと思います。…いえ、決して組織として心を許して良いという事ではありません。相手はフィキチュアジですから、いつでも私達の隙を見つければ襲い掛かってくるはずです。」
「…」
「ですが、彼等が言った内容は、ほぼ確実に本心でしょう。その点は信用出来ます。」
30a0は羽を揺らしながら、スグタの答えに聞き返す。
「…何故ですか? 相手は組織として信用出来ないのでしょう? それなら何故、今回の同盟の話は信じられるんですか? いくらシェアジャを押さえているとはいえ、論理的に言って、まだ今の状態で彼等が私達を認めるとは考えにくいのですが。…感情的に言えば、更に理解が出来ません。彼等を急に襲ってきた、言ってみれば「山賊」のような敵と簡単に、不可侵条約のような話を持ち出してくるとは…」
「意外ですね。人間の方々ならまだしも、有甲殻生命体のあなたがこれを理解できないとは。」
スグタはそこで一旦区切り、また破擦音を上げだした。
「サクコブ生命体の思考形態は、少なくとも人間のそれとは大きく異なります。元々厳しい自然環境に住んでいたからでしょうか、良く言えば割り切りが良く合理的、悪く言えば諦めやすくて単純なのです。確かに私達は、まだシェアジャ「しか」占領していません。しかしこの事態は、彼等にとっては既に充分予想外なのですよ。シェアジャでの彼等は、明らかに今までよりも強力な新兵器を持っていました。その力で、私達を簡単に叩けると予想していたはずです、彼等は。」
シユマが腕を組む。
「ところが実際にはそうはならなかった。いや、本当はそうなったんだけど、それがいつのまにかキャンセルされて知らない内に私らが勝っちゃってた。」
「その通りです。これは彼等にとっては全くの予想外の事態です。この時点で、彼等の中で私達の存在が「害獣」から「脅威」に変化したのです。それも容易に取り除けそうにない、恐るべき脅威に。」
シユマに答えるスグタ。シユマは頷く。
「あの強力な兵器をものともしない敵だ、って向こうは思ってる訳ね。」
「そうです。そして、サクコブ生命体は、確実に勝てる相手以外とは、戦争をしないのです。相手の質が変化した時、彼等は速やかに態度を変えます。サクコブの価値観では、弱い者は強い者に仕えるのが当然だからです。」
宏子が首を傾げた。
「でも…クザラル人との戦争は随分長く続いてるじゃん。どっちも、相手に確実に勝ってなんかいないよ?」
「そうですね。言い方が説明不足だったかもしれませんが、少なくとも、サクコブも負けてはいません。サクコブがクザラルと戦ってきた期間は確かに長いのですが、サクコブの本領域をクザラルに荒らされるような事は、今まで殆ど無かったはずです。今回のシェアジャ占領のような重要な星を失う事態は、フィキチュアジが味わう初めての屈辱なんです。」
「それで…メンツを潰された、何としてでも勝ってやる!みたいな展開にはならないの?」
シユマが尋ねる。
「相手によります。相手が自分から見て同格か格下ならそうなるでしょう。例えば…独立機器の皆さんがトゥジェソアゾ事件を起こした時、フィキチュアジはそれを断固として鎮圧しようとしました。しかしたかだか機械の愚連隊に、魔術師の防衛軍等を送るのはそれこそメンツが立ちません。ですから彼等は当時、警察の治安部隊を送ったんです。その結果…一応私も生命体の一員として、詳しい言及は避けますが、彼等は見事に敗北しました。そしてその時以来、サクコブ生命体は独立機器と関わりあいになる事を、今度は忌避するようになりました。彼等のいるエリアには近づかないようになったのです。これは独立機器側が非干渉主義だった事もあるのですが、それ以上にサクコブ生命体にとって彼等が「恐ろしい」存在になったからです。サクコブ生命体は基本的な戦闘力は決して低くないのですが、「負け戦」を経験した事が少ないだけに、「負ける」という事態には非常に弱いのです。」
30a0のアンテナが光る。
「なるほど。よく分かりました。確かに私達に時折向けられるサクコブ生命体からの攻撃、というかちょっかいは、その実力に比べるとやや弱腰であると感じていましたが、そのような事情があったのですね。」
「ええ。本来私達は穏やかな気質の、平和を愛する種族ですから。」
「…」
スグタの言葉に、30a0がはたと頭部の動きを止めた。
「それは…かなりどうかと思うんだけど…」
ぎこちなく笑いながら宏子が言う。
「まあ、そうだとして、スグタは、っていうかパフタオチトゥは、どう考えているの。フィキチュアジとの和平は。受け入れられる物?」
ブズズズ、ブズ。
「私達の中でも議論はあったのですが、結論から言いますと、四民族中、今回の提案に反対したのは、デアグのみでした。ですから連邦政府としては、今回の提案に賛成です。…もちろん、私達は「連合」内の1構成員に過ぎませんから、ここで他の皆さんの意見もお聞きしたいと思い、こうしてやって来ている訳ですが。」
「なるほどね。30a0はどう思う?」
「無為な戦闘が終わるのなら歓迎です。」
30a0は簡潔に答えた。
「そもそも私達は地球人との友情の為に共に行動しているのであって、本来サクコブ生命体の内紛などに関心はありません。」
「それでも、無益な戦いが止まる事を喜ぶ擬似感情はある、という事ですね。」
「もちろんです。限りある命を大事にしたいと願うのは、感情ある知的生命体なら当然の事でしょう。」
30a0は平板な音声でスグタに答える。
「分かりました。それでは、佐藤さんはどう思われますか。」
「私自身は…まあ、全然構わないんだけどさ、」
宏子は自分の手を頬に付ける。
「本当にパフタオチトゥはそれで大丈夫なの? フィキチュアジにとっては、あんたらは反逆者な訳じゃん。」
「そうですが、「恐ろしい」反逆者です。彼等ははっきり、私達四民族の自治権を尊重し、少なくとも現状の私達の星域については無期限で権利を破棄すると言ってきました。」
「サクコブの場合でどうかは知らないけど、少なくとも地球人やクザラル人だったら、そういう約束は破るためにあるもんだとしか考えないよ。しかも私達は、何だか分からない原因で偶然勝っただけ。」
「神が私達正しい者を救った、とは、佐藤さんは考えない訳ですね。」
「もしかしたらそうなのかもしれないけど、次もそうとは限らない。少なくとも私は、自分がいつも正しかったなんて胸を張って言う事は出来ない。神様が助けてくれたのは良かったけど、未来の予想をする時にその事を計算に入れるのは違うっしょ。もう一度生命体が攻撃してきたら、今度は私達、勝てないと思うよ。…優しい神様がまた助けてくれない限りはね。」
「佐藤さんは懐疑主義者なんですね。」
スグタはどこか楽しそうに破擦音を上げる。
「でもそれなら尚更、この和平は得がたいチャンスでしょう。今なら、まだ彼等は「騙されて」いる訳なんですから。今のうちに彼等の攻撃をやめさせる事が出来るのは願ってもない事だと思いませんか?」
宏子は足をくずしながら、スグタに頷く。
「ま、そうかもね。…でも、あんた達はそれで良いの? パフタオチトゥの目標はフィキチュアジ打倒でしょ、自治権確立なんかじゃなく。」
「忘れていませんか? 私達も、サクコブ生命体なんです。彼等が強い事はよく分かっています。今まではそれでも対抗してきましたが、あの新兵器は私達にとってはとても、「恐ろしい」物だったのです。」
「…」
「もちろん、これからもフィキチュアジを打倒するチャンスは模索し続けます。ですが今は力を蓄える時でしょう。この和平は絶好の時間稼ぎになるのです。」
「ふーん。」
息をつきながら宏子は言った。
「結局平和を求めてる訳じゃないのか。…まあ、あんた達が納得してるんなら良いんじゃない。確かに今これ以上進んでも、自殺行為だと思うしね。」
「賛同ありがとうございます。」
スグタは軽く首を振った。

宏子は両手を合わせる。
「じゃあこれで、今回の仕事は終了って事か。」
スグタが複眼を光らせながら答える。
「そうですね。ですから、これからの「連合」の仕事は、クザラル魔法協会を倒すという事になりますね。」
「ん…まあ、そうなるのかな。」
「…」
少しの沈黙ののち、スグタは羽を揺らした。
ブズズズ、ブズ、ブズズ。
「…文書をよく御覧になりましたか? 今回の連合・フィキチュアジ不可侵条約の条件は、共同で安保戦争の終結にあたるという事です。つまり実質的に、私達はこれでHYIに宣戦布告をするという事になるのですが。」
「え…?」
宏子は呟き、自分の前のバーチャルディスプレイを見直す。
「あ…そういう条件なんだ…」
30a0が合成音声を上げる。
「合理的ですね。HNKやEIMがメンバーにいる時点で私達連合は元々HYIと敵対していた訳ですが、フィキチュアジがこちら側についてくれるのなら、このHYIとの敵対関係も容易に終結させる事が出来るように思えます。」
「確かに…サクコブ全体がこっち側なら、魔法協会も目じゃないかも…」
宏子はふとシユマの方を見た。
「…」
「…シユマ? さっきから、黙ってない? シユマは? HNKはどう思うの?」
座禅を組むようにして両目を閉じていたシユマは、目を開き、宏子を見ながら口を開く。
「良いと思うわ。」
「…うん。じゃあ…賛成?」
「うん。私達にとっても、魔法協会を倒す願ってもないチャンスだから。」
「なら…良いんだけど。何か、気になる事でも?」
息をつきながらシユマは首を上げる。
「別に。久しぶりにここに来たから、床の冷たさを改めて感じてただけ。」
「…」
30a0は羽を広げ、ふわりと空中に浮き上がった。
「決まりですね。それではさっそく、クザラル星へ向けて全部隊、進路を取るとしましょうか。」


宇宙空間に黒と赤の点々が散在している。いくつかの点がまたたくように光を発し、次の瞬間その光と共にどこかへ消えていく。
その後ろに、黒の無数の点々が更に現われる。数百の点々がかたまりとなって移動し、その姿はまるで魚群探知機に表示される小魚の群れのようだ。

幅が1メートルも無さそうな通路でシユマは壁に寄りかかりながら、バーチャルディスプレイを見て腕組みしている。その横の空間が急に、赤い光で満たされだした。
<うわ、わ、わ、>
ズバアアアアアアアアアアアアアアン!
「Chin to sekhnwutu!」
自分のすぐ横で光が爆発する。シユマはイハッジャを構えて声を上げた。
<…暴力反対。>
<何だ、宏子か。予告無しで瞬間移動してくるなんて行儀が悪いわよ。>
両手を上げてみせている宏子が現れる。シユマは首を上げながらイハッジャを腰元にしまった。
<あれ、タオダに言ったと思ったけど。ちゃんと連絡聞いてた?>
<…>
シユマは耳を少し揺らすと、無表情に自分のディスプレイを見直しだした。
<…何見てんのさ。>
ローマ字とミミズのあいの子のような文字の画面を覗き込む宏子。
<スポーツニュース。この間の国際トゥリガフ大会もコココ勢は全部一次戦落ちだったなとか、ルコグ・ジャルジュデササ選手はカクリカのリーグに行くらしいとか。>
<ふーん。面白そうだから、私も日本語版を見ようかな。>
<…やめなさい。やめなさい。>
自分の腕の端末に指を触れようとする宏子。シユマはその腕を押さえ、左手で自分の画面を消した。
<何よ。いっちょまえに隠し事?>
<そりゃ私だって中間管理職だから秘密の一つや二つぐらいあるからね。>
シユマは胸を張ってみせる。
<特に、建前上友好関係にある他組織のトップに対して、とかになったら、見せられないものだらけだし。>
<ふーん。で。本当の所は何なの。>
<…ああ、うるさいなあ。>
宏子は腕組みをして半笑いで聞いてくる。シユマは片手を振って息をついた。
<もう絶対何か聞かなかったら帰らないって雰囲気ね。この忙しい時にのんきな事で。>
<聞いてほしいって態度に出してんのはあんたでしょ? ここ数日ずーっと上の空じゃん。昨日、HYIの前哨基地に圧勝した時も大して喜んでなかったし。そりゃあ部下だって心配して私に連絡の一つも入れてくるわなあ。>
<あ? そういう事したのはタオダ?>
<さあねえ。>
<は…>
シユマは宏子と同じように腕を組み、肩を揺らし息をついてみせる。
<あんたみたいな情緒不安定に心配されだしたら、私ももう終わりかな、とは思うけど。>
<ああ、全くその通りだねえ。つくづくどうしちゃったの?>
<…>
<ん?>
<…はいはい。>
シユマは軽く頷いた。
<不安なのよ。>
<…不安?>
<ええ。…宏子、サクコブと一緒に行動してて不安じゃない?>
<まあ…全く不安じゃないと言ったら嘘になるかもしれないけど…どういう意味? パフタオチトゥの事じゃないよね?>
<まあ、フィキチュアジの事だけど、ある意味どっちもね。何でパフタオチトゥは、ああも簡単にフィキチュアジと和解出来ちゃうのかな? 今はそれどころか共同作戦までして、一緒に魔法協会を攻撃してる。この間まで自分達が殺しあってたんじゃないの、あいつら?>
<それはそのままウチらも同じ事なんだけど…>
<だから、よ。おかしくない? 宏子は平気? 自分の友達とか故郷をさんざん傷つけて、たくさん殺してきたようなモンスターと私達、知らない内に手を組んだ事になってるんだよ。>
<でも私の場合、姉貴を殺したのも、お母さんを殺しかけたのも魔法協会だったりするんだけど。>
<確かに魔法協会は酷いよ。それはそうなんだけど…それを倒すためにフィキチュアジと手を結ぶっていうのは、何か違う気がする。>
<確かに、手段が選べるならそれに越した事はないけど…ウチらはそんな余裕無かったんじゃない? HNKがそんなに綺麗な組織だとは知らなかったな。>
<そりゃあ、HNKが汚い事位分かってるよ、当事者なんだから。EIMみたいな正義を愛する人達と一緒の顔するつもりなんてないって。でもね宏子、私が言ってるのは倫理的な事じゃないの。…そうじゃなくて、不安なのよ。今私達が、一緒に戦ってるのはサクコブなんだよ。>
<HYIを倒すっていう、HNKの願いをかなえるのにこれ以上の援軍は無いと思うけど?>
<私達の願いを分かってくれていてどうも。でも宏子、考えてみて。実質的な戦力から言えばフィキチュアジの方が連合より強いのは分かりきってる。つまりね、この同盟の主体は私達じゃない、フィキチュアジなの。連合のHNKが賛同者を一杯集めて魔法協会を倒そうとしてるんじゃない。サクコブがむかーしからやってきたクザラル人との戦争で、新たに有象無象がサクコブ側についた、っていうだけじゃない。…私達、本当にこんな事してて良いの?>
<考え過ぎだって。確かに、戦力はこっちが下かしれないけど、今回の同盟の関係は対等なんだから。それに私だって、サクコブを100パー信用してる訳じゃない。でも今は贅沢言っていられる時じゃないんだから、使えるものは何でも使わなきゃ。>
<…宏子さ。最近私みたいな「テロリスト」っていうのにかぶれてるでしょ。>
<は? どういう意味?>
腕組みをしたままシユマは顔を向けた。
<目的の為には手段を選ばない、っていう雰囲気に溺れてない?って事。そういうのが成長した大人の証…あるいはワルの証、みたいに思ってんじゃないの?>
<何でそうなるのよ。別に、そんな難しい事言ってるんじゃないって。HNKは魔法協会が倒したい。でも、今のHNKでは力不足で倒せません。地球人や05がついてでも、まだ難しい。そういう時にこれ以上ない戦力が味方についたから、こうやって一緒に戦ってる訳でしょ。>
<でもこの同盟の主体は、>
<私達だよ、私達の視点から見ればね。それで何か問題が?>
<そりゃ、そうだけど…>
<シユマ。この同盟は、誰も永遠に続くもんだなんて思ってないんだから。魔法協会を倒せば、もう嫌なサクコブと付き合う事なんて別に無い。その時はフィキチュアジと、今度はちゃんとした形で決着をつければ良いんだから。30a0じゃないけど、これ以上合理的な案は無いと思うよ。>
<合理的か知らないけど…危険な道だよね。>
<今までウチらの通ってきた数々の危険な道よりはマシだと思うけどなあ。>
<今までの道は、危ないけど短かったのよ。>
シユマは壁から背中を離し、宏子に顔を向けた。
<でもこの道は、長くて険しい…先がまるで見えない…本当に通り抜けられるのかな、道から落ちる前に…>
<そんな弱気が似合うキャラでもないでしょ。>
<…あんた達の船の名前、コココの偉人の名前なんだけど…>
<は? また、唐突に話が変わるね…えっと、確か、ペッギン教の聖人とか言ってたっけ、タマシルファグウトさん?>
<うん。…彼女はね、2000クザラル年前、コココ人として初めてペッギン教徒となって修行に励んだ人なんだけど、ペッギン教会からも当時のコココ人からも迫害されてね、生前は、誰一人味方のいないまま死んじゃったんだ。>
<また…縁起の悪い名前船につけたんだね。>
宏子の目が細められる。シユマは続ける。
<でも彼女の死に顔はとても満足気だったんだって。自分が信じてきたものは正しかった、この人生に悔いは無い、って。生前は報われなかったけど、結局彼女のお陰でコココは団結し、ペッギン教も民族を超えた「世界宗教」に発展した。彼女の力で世界は変わったんだよ。私も、彼女位の勇気と、知恵が欲しい…>
<…>
<今度のHYI防衛隊との遭遇予定は、7時間後だったよね。>
自分を無言で見ている宏子に、シユマはそう念じてみせた。


「はいはい、今出るわよ。」
コクピットの後方右側でバーチャルディスプレイを見ていたリジュワナは、着信を示すアイコンに手を触れた。ウインドウが開く。
「どういう事ですか、説明してください!」
「…」
リジュワナは周囲を見回す。コクピット前方に座った宏子は寝ている。プオラギイックやその他のクルーは、それぞれ自分達の仕事に忙しそうだ。
「…スグタ、その話は微妙な内容なのかしら?」
「微妙? とんでもありません、今すぐ白黒はっきりさせていただかないと困る明白な問題です!」
リジュワナは画面のサクコブ生命体に頷いた。
「分かったわ。私の個室で繋ぎ直すわね。」
「はい? ちょっと」
リジュワナはウインドウの表示を消し、後ろの通路へ向かい歩き出した。

二段ベッドの並ぶ小部屋に入ってきたリジュワナの後ろでドアが閉まる。リジュワナは腕端末のボタンを押し、再びバーチャルディスプレイを表示させた。
「それで、どうしたの?」
「急に消さないでください! それで、説明はどうしてくださるんですか?」
「スグタ。まずはそっちが説明してくれないと答えようがないわ。急にどうしたのよ。何か怒っているようだけど、一体私に何の説明を求めているの?」
「シラを切られると言うんですか?」
「冷静なあなたらしくない物言いね。」
画面を見ながら、リジュワナはベッドの一階に腰を下ろす。
「ここ数日私達は全くの無敵状態で連戦連勝してるじゃない。今朝のワフュトシャヒ戦なんて、向こうは戦いもせずに、私達を見るなり逃げ出していったわ。」
「ええ。それを私達は、深追いもせずに見逃しましたよね。ワフュトシャヒにいる民間のクザラル人にも手をつけなかった。形式上は民間人かもしれませんが、この辺りの辺境の星にいるような人間なら多かれ少なかれ協会と関わり合いはあるでしょうに。」
「何、それが不満だって言ってるの? それだったら議論したでしょ、私達はあくまでクザラル星の間違った支配体制を倒し、クザラル人達の助けになろうとしているだけであって、クザラル人を殲滅させようというのとは正反対の事を目指しているのだから」
「その通りです。そのあなた方の意見を受け入れて、私達はもちろんの事フィキチュアジまで、過剰な攻撃はしないように自制しているのですよ。」
「ええ。感謝しているわ。…で、それが?」
「つまり私達はそれくらい理性的な生命体ですし、それこそ05等とは違う、本物の心を持った、一体一体別個の存在だと言いたいのです。」
「…スグタ。まず最初に説明して、って言ってるでしょう。何があったの。あなたは何に怒っているのよ?」
画面のスグタは羽をひとなぎして答えた。
「バザポから聞きました。人間の方々は、根本的に私達を信用してくださっていないそうじゃないですか。」
「その「私達」って、どういう意味? パフタオチトゥ?」
「パフタオチトゥを含めたサクコブ生命体全体です。」
リジュワナは眉を上げ、画面に鋭い視線を送った。
「それは心外ね…他の人間ならともかく、今の私にとってそれは最大級の侮辱なんじゃないかしら。冗談で言っているのでないのなら怒るわよ。」
「…それは、私達もホクさんまでそうだと言っている訳ではありません。」
言い訳するようにスグタは返答した。
「ですが、少なくとも佐藤代表とシユマ支部長はサクコブ生命体全体に不信感を持っていらっしゃるようですね。お二人の密談を聞いた者がいるのです。」
「密談…?」
「ええ、ログアディヌウ船内の通路での会話をHNK隊員が耳にしています。バザポがその連絡を受け、私に伝えてきました。」
「…どういう内容だったのよ。」
「お聞きになりたいですか?」
「…」
リジュワナは一瞬考えてから、スグタに頷いた。
「「サクコブと一緒に行動するのは不安だ」、「フィキチュアジも、パフタオチトゥも信用できない」、「私達はこんな同盟を組んでいて良いのか」、これらがシユマ支部長の発言です。佐藤代表の発言は、「私もサクコブを全面的に信用できないが、今は相手を選べる状況ではない」、「同盟の主体は私達だ」、「魔法協会を倒せば、もう嫌いなサクコブとは付き合わない」、といった所ですか。」
「…嘘でも証拠の音声とかは無いの?」
「テレパシーの会話でしたから。サクコブ生命体同士のテレパシーを記録する技術ならありますが、人間同士のそれはこちらでは対応していないのです。」
「…」
「ですが、どうしても証拠が欲しいというのであれば、証言したHNKメンバーの心を、系に強い魔術師が多少探ってみれば十分でしょう。ホクさんは系に強いですよね、ご自分でやられてみても構いませんよ?」
「…まあ、良いわ。仮にあなた達の言ってる事が本当だとして。…だから、何。単にシユマと宏子がサクコブ嫌いっていうだけじゃない。あなたは05を嫌っているし、05も多分あなた達の事を嫌っているでしょうけど、お互い仕事はうまくやってるじゃない。それとどう違うっていうの?」
「「不安」だとか、「嫌い」という程度なら分かります。私達はお互いとても異なった生命体ですし、歴史的に不幸な行き違いもありました。…ですが、いつから連合・フィキチュアジ同盟は「人間中心」などという決まりになったんですか? 私達はお互い平等のはずでしょう?」
頭部を時折振りながらスグタが言う。
「それは…何か文脈があるんじゃないかしら。彼女達がサクコブ嫌いだったとしても、あなた達の事を尊重はしているはずよ。…いえ、させるわ。彼女達がパフタオチトゥを軽視するような事があれば、私が許しません。」
「その言葉は心強い限りです。…口だけでなければ良いのですが。」
「スグタ。」
「…すいません。少し、神経質になっているようです。そういうつもりではなかったのです、お許しください。」
「…」
リジュワナはため息をついた。
「考えすぎよ。大体、同盟自体はあなた達だって多少の不安はある訳でしょう? フィキチュアジが信用出来ないっていうのはパフタオチトゥだって同意見じゃない。そもそもパフタオチトゥの4民族同士だっていつも仲がむつまじいっていうふうには聞いていないわよ。」
「それはそうですが、私達がそうなのと彼女達がそうなのでは、意味合いが違うでしょう。彼女達の言い方はまるで反サクコブ主義じゃないですか。サクコブであったら誰でも嫌いだというのは、偏狭な差別主義以外の何物でもありません。まさにHYIと同じ考え方です。」
「フィキチュアジともね。」
付け足すリジュワナ。
「更に佐藤さんは、こうも言っていました。「魔法協会を倒した後は、またフィキチュアジと決着をつける」、と。同盟を破棄すると言っているんです。そのような重大な計画は、少なくとも連合の構成員には全員知らせて決をとるべきでしょう。それとも彼女達は、私や30a0さんのような「虫けら」には議案決定権が無いと考えているのですか?」
リジュワナは眉を上げた。
「あら…? ちょっと待って、それはあなた達だって以前言っていた事じゃない。そうするんでしょう? 今の同盟はフィキチュアジの自分達への攻撃を押さえる時間稼ぎだったんじゃなかったの?」
「確かにパフタオチトゥはフィキチュアジを憎んでいます。可能であればフィキチュアジを葬りさりたい。ですがそれは、差し当たって今すぐに考える事ではないでしょう。ホクさん、考えてみてください。私達の周りの組織は、知らない間に、敵も味方も反サクコブ主義になっているんですよ。単にそれを、表立って言っているか否かの違いでしかない。今の状態で仮にフィキチュアジが無くなれば、次は私達が狙われる番でないと誰が言い切れますか? このままでは、パフタオチトゥも含めたサクコブ生命体全体に不安が広がるのは当然の事でしょう?」
「スグタ。それはクザラル人だって同じ事でしょう。フィキチュアジは保身と利益の為に同盟を組んできただけであって、実際にはHNKも…その他の連合メンバーも、魔法協会同様の敵である、とフィキチュアジは想定しているはずよ。このままフィキチュアジが魔法協会に勝てば、危ないのはクザラル人でしょう。サクコブ生命体でなく。」
「いいえ。サクコブ生命体の置かれた立場とクザラル人の置かれた立場には決定的な違いがあります。それは、私達パフタオチトゥは反クザラル主義ではない、という事です。連合がそれぞれにとっての目的を完全に果たした時、つまり、HYIもフィキチュアジもいなくなった時、そこにあるのは反サクコブ主義で手を結んだHYI、EIM、05の3者と、唯一取り残された私達なんですよ。どちらがより危うい状況なのかは明白でしょう?」
「被害妄想よ。今現在の状況はどうなの? 私達がずっと魔法協会に勝ってる。このままいけばクザラル星が陥落するのは時間の問題じゃない。」
「私達はその後の話をしているんです。」
「だから、その後だって、フィキチュアジが残っているのなら危険なのはクザラル人の方でしょう?」
「つまり、やはりホクさんでも分かってくださらないんですね…連合を信じてきた私達が裏切られ、どれだけ動揺し、不安になっているのか…」
「…ふう。」
リジュワナは深くため息をつく。
「仮にニ人の話が事実だとしても、ニ人とも何も裏切ってないでしょう。少なくとも、今はまだ。」
リジュワナの声には、多少苛立ちのトーンが混じりだしている。
「大体あなたも矛盾しているわよ。フィキチュアジと同じに扱ってほしいのかそうでないのか。」
「私達はフィキチュアジとは全く異なります!」
「それなら何で、一度は言っていた同盟破棄案を今は撤回しているの? 確認するけど、あなた達はフィキチュアジを倒したいのよね?」
「もちろんです。」
スグタは舌を振るわせた。
「ですが、それは理想であって、全ての状況においてベストの答えであるとは限らないのです。例えば今の状況で、連合のメンバーも実は反サクコブの差別主義者達であるという事がはっきりするようでしたら、私達にとってフィキチュアジを倒すのは得策ではなくなるでしょう。それはサクコブ生命体という種族の存続に関わりますから。」
「…分かった、もう良いわ。」
腕組みしたリジュワナは、目を閉じながら言った。
「分かって頂けましたか。」
「ええ。あなたが冷静さを失っているという事がよく分かった。」
「ホクさん、そんな事はありません。確かに私は」
「いい、スグタ。サクコブとか、クザラルとか、種族単位で考えるのはやめなさい。私達は連合でひとつのグループなの。このグループの強みは異種族混合なところよ。そこがうまく働かなければ、私達は生き残れない。分かる?」
「私達は、種族単位で考えてなどいません。それをしているのは佐藤代表とシユマ支部長です。」
「彼女達には、私からきつく伝えておくわ。」
リジュワナは画面に頷いてみせる。
「私とスグタで作ったパフタオチトゥをみすみす壊させるつもりはないから、安心して。」
ブズズズ、ブズ、ブズ。
「…分かりました。私も多少、言いすぎた所もあったかもしれません。次の戦闘予想時刻まで時間もある事ですし、しばらくの間、ゆっくりと考えてみたいと思います。それでは」

「あ、ちょっと待って。」
リジュワナは手の平を上げた。
「あなたに一つだけ、聞きたい事があるんだけど。…個人的な事で。」
「何でしょうか。」
「ちょっと人に聞かれた事があって。私は答えられなかったのよ。あなたなら何か知ってるかと思って…。」
「はあ…」
リジュワナは眼鏡を上げ、画面を見る。
「シェアジャ星の事。私達は何であの時勝てたのかしら? 確かに、私達は負ける寸前だった。HNKもEIMもパフタオチトゥも、05の船だって、かなり被害を被っていたはずよ。それがある瞬間全部無い事になって、気づいたら向こうの敵はどこかへ消えていた。…一体、何が起きたのかしら。」
一瞬間を置いてから、スグタは羽を軽く上げた。
「神が奇跡を起こした、としか、言いようがないと思いますが。」
「確かにそれは一つの説明ではあるけど、それ以外に理由は無いのかを知りたがる人だっていると思うわ。」
ブズズ、ブズズ。
「それはもちろん、誰でも神に頼らない理由を知りたい所です。ですがことあの奇跡に関しては、科学的・魔術的な説明が一切出来ません。理屈にあっていないんです。あんな勝利は、本来有り得ない事でしょう? 私達ももちろん当時の記録等を可能な限り調べましたが、どうにも理解が出来ないのです。そうするともう、「神の御業」と呼ぶ以外に説明のしようが無いんです。」
「…つまり、あなた達もあの時何が起こったのかは、全く訳が分からないという事なのね。」
「私もあなた方と同じで、一瞬「眠り」、そして起きた時には全てが終わっていました。その間の記録等にも一切異常はありません。…ただ…」
「ただ、何?」
ブズズズズ。
「敢えて言うなら、私達が「寝て」いた時間、時間にして1.5地球秒程度でしたが、その間の魔力反応が前後の時間より若干低めに記録されています。といってもほんの僅かな、機械の誤差の範囲内ですが。私達が分かっている事といえば、その程度です。」
「そう。それなら少なくとも私達よりは一つ手がかりを知っていたという事ね。」
リジュワナは笑顔で頷いた。
「参考になったわ。それじゃ、また。何か気になる事があったら、いつでも言って頂戴。形式的にはEIMに所属しているけれど、私はいつでもパフタオチトゥのメンバーのつもりだから。」
「承知しています。お時間おかけしました。では。」
スグタの通信が切れ、ウインドウの表示が消えた。
「…」
視線を天井に向けながらリジュワナは考え込む。
−つまり、宏子の疑問には、私もHNKもパフタオチトゥも答えられない、と。フィキチュアジだったら答えられるのかしら? …それも違う気がするわ、彼等がこんなまだるっこしい作戦を自分達の手で始めようとするとは思えない。特に、あんな強い武器を持っていた時に。
「まあ、それより先に、まずはあの考えなしのニ人に口を慎むよう釘を刺すのが先よね。」
リジュワナは立ち上がりながらそう呟き、ひときわ盛大にため息をついた。


「敵機、距離4300オキまで接近中。方角-25:-13。サクコブ標準艦が8隻! 直ちに展開せよ!」
「了解!」
宇宙船のコクピットで、クザラル人がエウグ語で通信に答える。非常に小型の戦闘機で、乗員はニ人だけのようだ。

近くに水色の惑星が見える宇宙空間で、黒い棒状のかたまりのようなサクコブ船の前に、それよりかなり小さな赤い戦闘機が群れをなすように集まってきている。

「…俺、サクコブの標準艦が動いている所、生で見るのは初めてだぜ。」
操縦士は、もう一人のクザラル人に話し掛けた。
「この界隈の人間は全員そうだろ。ここはちょっと危険だ、少し移動するぞ。…ザナ・キュディヌ」
「あ? 光が」

サクコブ船の一隻から青い波状の光が発せられる。次の瞬間、前方の戦闘機群が全て消滅した。
光と共に、いくつものクザラル機が瞬間移動でサクコブ船団の前に現れる。それとほぼ同時にサクコブ船団側の後方にも光が現れ、円盤状の05機や見た目はHYIと変わらないHNK機が次々と現れた。
お互いから出される赤い線状の光が絡み合い、暗い空間にあやとりのような模様を描き出す。しかし次の瞬間にはまた、青い光の波が一方を強制的に流し去り、あやとり模様の半分近くを一瞬で消し去った。


普通の3、4階建て相当の高さの石造りの建物の中を、スグタがくるくると飛んでいる。このペッギン教寺院は人間用の屋内空間としてはかなり大きい方だが、サクコブ生命体が回遊するにはやや狭苦しい。
木の扉が開き、人間が姿を現した。
「ちょっと何やってんの、早く降りてきなさいよ。」
片手を腰につけながらシユマは不機嫌そうに見上げる。
何かのおまじないのようにスグタは軽く羽を振る。スグタは空中で静止し、そのままゆっくりと降下してシユマの前に着地した。
「ご機嫌如何ですか。」
「悪いわ。見れば分かるでしょ。」
エウグ語の合成音声に答えるシユマ。
「確かに。私も地球人の架空イメージを作る時に表情というものをかなり研究しました。それはほぼそのままクザラル人にも当てはまるようですから、類推は出来ます。しかしあなた方の顔の表情筋の動きは余りに微妙なものなので、表されている表情の意味する所を本当に100%理解出来るかと聞かれると」
「良いから質問に答えて。どういう事、クトゥルシャユ・プラーズ軌道上の5艦隊は全部壊滅。それどころか惑星上の科学基地まで全滅じゃない。」
「…はい。素晴らしいですね。」
スグタは頭部を振る。
「それで何か問題が?」
「必要最低限の攻撃しかしないんでしょ、私ら。何で星の基地まで攻撃してんのよ!」
「それは「最低限」には含まれませんか。名前は「科学基地」と言っても中身は軍事基地なのですから、攻撃するのは当然かと思いますが。」
「それにしたって、基地全体を消滅なんかさせなくても良いでしょ。攻撃設備だけを無力化すればすむ事なんじゃないの?」
「科学基地にあるようなものは全て攻撃設備だと思うのですが。」
スグタは穏やかに音声を発する。
「それとも基地内の娯楽室や食事室だけは残して、作戦室や研究室だけを破壊しろと? それはかなり難易度の高い攻撃ですね。」
「…」
「お話はそれで終わりですか?」
スグタは羽を上げた。
「ま、まだだよ! それにさっき攻撃の記録を見ていたら、4隻も民間の宇宙船が撃墜されてるんだよ。」
「…データを見せてもらえますか。」
「…」
シユマは自分の端末を操作する。スグタの前にいくつかの曲面バーチャルディスプレイが現れた。
「なるほど。」
見えているのか見えていないのか、大きな複眼の付いた頭部を何度か回しながらスグタが答える。
「どう説明するの。これもあんたの言う「最低限」の攻撃に入るの?」
「ええ。支部長、サクコブのデータベースで、これらの船はいずれもHYIとの強い繋がりが確認されています。後方支援用物資の運搬や、人員の運搬に使われている疑いが非常に強いのです。」
「なるほどね。言うと思った。…その認識が間違ってんのよ。」
「と、言いますと?」
「こっちでHYIのデータベースをハックしてる。この4隻に関しては、HYIとの繋がりなんてものは無い。もちろん、HYIからの保護はあるだろうし、税金をHYIに払ってもいるだろうけど、それはクザラルの船なら当然の事でしょ? この内の2隻は「ルアンブップティサー」って言う運搬会社の食糧輸送船だよ。そして後の2隻は、星の住民を乗せた避難船だった。」
シユマはそう言いながら端末を操作した。スグタの前のディスプレイに新たな文章が表示される。
「2隻には少なくとも計600名が乗っていた事が確認されている。全員民間人だよ。老人や赤ん坊も乗ってた。」
「そうだったのですか。それは、残念でしたね。お願いしたいのですが、そちらで得たHYIデータベース上の情報をこちらにも融通して頂けませんか? 今後の攻撃に…「最低限の攻撃」に、役立つでしょう。」
「…言う事は、それだけなの?」
シユマはつばを飲み込み、拳を握った。
「謝罪の言葉は無いの? 無実の600人の命を奪っておいて、「残念でした」の一言だけ?」
ブズズ、ブズ、ブズズ。
「何か勘違いされていませんか? 4隻とも、撃墜したのはフィキチュアジの船です。具体的にはフォティビ第3防衛隊かと思いますが…パフタオチトゥはそれを後ろから眺めていただけですよ。HNKの皆さん同様。」
「それだったら、フィキチュアジに謝るように言って。ううん、謝るだけじゃなくて今度から絶対にこういう誤爆の無いようにさせて。」
「シユマさんが直接おっしゃれば良い事じゃないですか。なぜ私が間に立つ必要があるんです?」
「私が言ったって聞く耳無いでしょ。この前の攻撃の時だってちゃんと向こうに言ってるわよ。フィキチュアジの担当者は何て言ったと思う? 必要な資料を検討しだい回答する、って。あいつら私を現場の最高責任者に会わせもしなかったのよ。」
「まだそれだけの回答があっただけ紳士的じゃないですか。彼等にしてみれば破格の扱いですよ。」
「でもそれじゃ意味無いでしょ!」
スグタは羽を軽くないだ。
「…まあ、私達が言うのは構いませんが、期待はしないでください。彼等にとってはHNKよりパフタオチトゥの方が憎悪の対象ですから、あなたが得た以上の回答は私達には帰ってこないと思いますよ。その点だけは保証できます。」
「…スグタ。少し聞きたい事があるんだけど。それじゃあ、私達はフィキチュアジをコントロール出来ないっていう事?」
「そうは言っていません。事実コントロールしているではないですか。あなたは認められないかもしれませんが、星のコロニー全体を消していないのはフィキチュアジにしてみれば大幅な譲歩ですよ。私達にとっても。」
「あんた達にとっても?」
シユマは自分の肩幅ほどもある大きさのスグタの頭のそばに歩み寄る。
「ええ。この意見は私達は、以前から連合の集まりでは言ってきているはずですが。」
「民間人を殺して良いって言ってるの?」
「ええ。…シユマさん、怒っていますね?」
「当たり前でしょ…あんた達は私達の味方なの、敵なの!?」
「質問の意図が理解出来ません。民間人と呼ばれる人間を殺すという事が、何故あなたの怒りを買うのですか? 私の理解では、HNKはコココ民族の権利を求めるテロ行為の中で、何度となくクザラルの民間人を殺害してきた歴史があったはずですが。」
「規模が違うでしょ! 私達は一瞬の「誤爆」で600名の乗った船を撃墜なんてした事は無い!」
「ですから、それについてはお門違いです。フィキチュアジに言ってください。」
「…」
シユマは口を開いたまま、スグタにきつい視線を向けた。意に介さない様子でスグタは破擦音を上げる。
「シユマさん、シユマさんこそ、本当に私達の味方ですよね? 攻撃時点では分からなかったような事を後からデータベースでチェックして、同盟の攻撃のあら探しをしている訳ではないですよね。」
「な…」
「強調しておきますが、パフアオチトゥはフィキチュアジではありません。シユマさんはそれを混同していらっしゃいます。同じサクコブでも、私達は違うのです。」
「そうかな? 最近のあんた達は、フィキチュアジ側の提案する攻撃方針に凄くよく従っているように見えるけど。何でこんなに急ぐ訳? もうボヘイ地区の奥深くまで来てるよ、このままだとクザラル星に到達するのは後3日…相手に逃げる隙も与えていないじゃない。」
「敵に逃げる隙を与えてどうするんですか? それにしてもあなたや佐藤さんは、彼等の提案する効率的な攻撃方針にことごとく反対されていますね。まるで自分達がHYI側の人間であるかのように。」
「私はHYI側の人間じゃない。」
「そうでしょうか。」
「でも、私は人間なのよ。クザラル人なの。」
スグタの前に立つシユマは、自分の胸元に手をあててみせた。
「…」
「クザラル人として、サクコブ生命体のあんたから一言聞きたい。HYIへの攻撃はあくまでその組織に対してのものであって、クザラル人への民族抹殺じゃない。そうよね。」
「…あなた方も、この攻撃に参加している一員なんですよ?」
「だから聞いているのよ。」
「…」
スグタは何度か頭部を動かした。
「もちろんです。そもそも安保戦争は、フィキチュアジとHYIの起こしている物であって、パフタオチトゥやHNKはそれを利用しているに過ぎません。私達はコココ人の自由の為に力を貸しているだけであって、それ以上でもそれ以下でもない。私達はあくまで、連合の一員なんですから。」
「そう。…分かった。」
シユマはきびすを返す。シユマは寺院の中を歩き、ドアへと近づく。
「シユマさん。」
「…」
立ち止まり、シユマはスグタに振り向く。
「お互い頑張りましょう。HNKがその創立目的を達するまで、後3日ですよ。」
「…」
シユマは睨むような視線をスグタに送ると、無言でその場を立ち去った。


「…」
シユマがドアを閉めて建物から出て行く。次の瞬間建物が消え、スグタの周囲が通常のサクコブ宇宙船内の景色になった。
黒い壁に囲まれた空間を、床上20センチ程度浮上したサクコブ生命体が飛んでくる。生命体はスグタの前で着地し、前に出た棒のような舌をこすり合わせた。
「お話があります。」
「…シユマ支部長の後はあなたですか、バザポ。つくづく実務代表という仕事は疲れるものですね。」
スグタは羽を何度か震わせる。
「お疲れのところ申し訳ありません。ですが、ぜひとも実務代表にお伝えしたい事がありまして。」
ブズズ、ブズ。
「どうぞ。」
バザポは自分の舌を器用に動かし、人でいうなら下あごに相当するような部分に付いている機械に触れ、ディスプレイを表示させた。
「…何ですか、これは。フィキチュアジが現在使用している兵器の仕様書のようですが。」
「ええ、ある兵器の仕様書と思われますが、私達の知っている物より強力です。最大魔力の数字を見てください。」
「…」
ブズ、ブズズ。
「…これを、一体どこから?」
「独立機器の力を借り、私達はフィキチュアジの秘密データベースの侵入に成功しました。すぐに排除されたのですが、その時にこの情報を得たのです。」
「そうですか。御苦労様です。さっそく連合のメンバー達に知らせましょう。」
「待ってください、実務代表。話は続きがあります。」
「…どうぞ。」
「その後フィキチュアジの秘密工作員を名乗る者から連絡がありました。彼は提案があるそうです。」
スグタの前の曲面バーチャルディスプレイが、一つ増える。
スグタはまるで人間が首を振るように、左右に頭部を1度ずつ動かした。
「何ですか、この計画書は。」
「見ての通り、私達パフタオチトゥがこの増幅装置を使用するという案です。」
「馬鹿馬鹿しい。彼等なりの悪あがきかもしれませんが、問題外です。バザポ、さっそく佐藤代表と」
「待ってください。何故問題外なのです? 良いアイディアだとは、思いませんか?」
ブズズ、ブズ、ブズ。
「何を言うのですか、バザポ。あなたは正気ですか?」
「もちろんです。この増幅装置を使えば戦争も終わります。ついに宇宙に平和が訪れるのですよ。」
「平和の為になら何をしても良いというものではありません。即刻佐藤代表、シユマ支部長、30a0統括課長と協議を始めたいと思います。連絡を」
「待ってください。」
「…バザポ、何度もしつこく言うようでしたら、あなたの降格も考慮せざるをえなくなりますよ。」
「私の階級等、問題ではありません。問題は、私達パフタオチトゥの未来です。」
「私達の未来の為に、クザラル人全員を犠牲にしろと? 冗談にも程があります。私達はフィキチュアジではない。HNKと共闘している連合の一員なのですよ。」
「ですが私達はHNKでもない。そして今はフィキチュアジとも共闘している。そして何より私達は、サクコブ生命体の一員なのです。」
「何ですか、それは。それはただの言葉遊びではないですか。」
「そうでしょうか? 先程まで、シユマさんとお話されていましたよね? 内容は聞いていませんが、良いムードの話し合いでなかったであろう事は容易に想像がつきます。スグタ、あなたも良く分かっているはずです。私達と無甲殻生命体は、元々、永遠に相容れない存在なのですよ。」
スグタはそのグロテスクな複眼を何度か揺らした。
「あなたは何も分かっていない。私達パフタオチトゥの創設者は誰だか分かっているのですか? 彼女は遺伝上はクザラル人なのですよ。あなたの言い方に従えば、彼女も相容れない存在なのですか?」
「もちろん、無甲殻生命体の中にもサクコブの魂を持つ者もごくまれにいる事でしょう。ですが圧倒的少数派に過ぎない。明白な事実として、無甲殻生命体の圧倒的多数は私達の事を種族として嫌っています。シユマ支部長しかり、佐藤代表しかり。彼女達は私達の友人になどなりえません。それは私達の側だけが勝手に抱いた甘い幻想に過ぎないのです。」
「種族差別的な発言に耳を貸すつもりはありません。私はあなたと政治思想について議論するつもりはない。」
「そうですか。では話を思想から現実に戻しましょう。」
バザポが頭部を振る。
「この攻撃をフィキチュアジではなく私達が行うのにはいくつかの理由があります。最大の理由はHNK等の監視の目をあざむける事。いくら疑念的な目で見ているとはいえ、彼等もパフタオチトゥがこのような攻撃をする等とは考えていないでしょうから。更にこの攻撃を私達がする事で連合が崩壊し、彼等同士の間にも不協和音を起こさせる事が可能です。そして私達は、この攻撃を行う事でフィキチュアジへの完全な協力の意思を表明出来る。」
「…」
「フィキチュアジの秘密工作員は、今回の攻撃が成功すればパフタオチトゥ領域の自治権の保証のみならず、パフタオチトゥ側に本社経営取締役の椅子を二席提供すると言っています。そうすれば…私達パフタオチトゥは、もう彼等を恐れる事など無いのですよ。」
「…」
「如何です?」
スグタが頭を動かした。
「よく分かりました。やはりあなたが、フィキチュアジの工作員だったのですね。」
「…急に、何を言うのですか。」
「前から疑問だったのです。あなたはフィキチュアジの秘密情報に詳しすぎる。独立機器の助け等を借りる前から、それは顕著だったではないですか。」
「実務代表、何かの誤解です。私はただのゴポイポ副官ですよ。そのような仕事が務まる訳はありません。」
「ゴポイポ副官としてのあなたのキャラクターが演技なのだとすれば、話は全て異なってきます。」
「そんな…失礼ですが実務代表、私がフィキチュアジのスパイだというのは、何かの証拠があっておっしゃっているのですか?」
「もちろんそんな物はありません。スパイがそんな物を残したら、それこそ務まらないではないですか。」
「でしたら…」
「サクコブの公開データネットで、個人情報が検索出来ます。」
バザポを遮りスグタが言う。
「フィキチュアジ本社研究部顧問、ガオダ・ベチチ氏の長女、ベジャフィ・ベチチさんは4800万チュチャクズ前、宇宙船の事故で亡くなりました。しかし遺体は見つかっていません。彼女が生きていれば…バザポ、あなたと同じ1億1900万チュチャクズ・カデソになる年ですね。」
「…」
「もちろん、ただの偶然の一致でしょうが。」
「…良いでしょう。それでは仮に私がスパイだとして。あなたはこの案に本当に反対なのですか? 仮に私がスパイで、私がこの案を作ったのだとしても、この案がパフタオチトゥの未来を約束している事に変わりはないと思うのですが。」
「…」
「スグタ。私も個人情報を知っています。パフタオチトゥのメンバーなら誰でも知っている、あなたのプロフィールの中に、この一行があったはずです。「両親を、クザラル人の行ったデジュチババオシシャキ虐殺の際に亡くす」、と。当時まだあなたは1700万チュチャクズ・カデソだった。そんな時に両親を失うのが、どれだけ大変な事か…」
「…それだから、クザラル人を皆殺しにしろと? そんな事を言い出せば、サクコブ生命体に親を殺されたクザラル人だって数え切れないほどいるのではないですか?」
「それは自業自得というものです。…良いですか、スグタ、確かに彼等には彼等なりの知性がある、ここまでは認めましょう。ですが、彼等には有甲殻生命体の持つような形での心、魂は存在しないのですよ。彼等との共闘はまやかしに過ぎない。その事は、最近の彼等の矮小で、自分勝手で非協力的な態度を見れば明らかではないですか。彼等と羽を合わせあっていても、未来など来ない。」
「…もう充分です。下がりなさい。」
「そもそも彼等には、合わせるような羽もない。いつも地べたにはいつくばっているから、考え方も2次元的で偏狭になるのでしょう。私達パフタオチトゥが取るべき未来は…」
「下がりなさい。」
「私はゴポイポの副官に過ぎません。この案を実行するのは、連邦政府の代表たるあなたの仕事です。既に増幅装置のアクセスコードは私が預かって」
「下がりなさいと言っているでしょう!」
スグタは威嚇するように、左右の羽を上にあげて見せた。
「…それでは、仕事に戻ります。スグタ。正義こそ、永遠です。」
自分の羽をひとなぎすると、バザポは浮き上がり、回転して通路の向こうへ飛んでいった。
「…」


タオダが画面を操作し、シユマの方を向いた。
「繋がりました、支部長。」
「ありがとう。」
シユマはタオダに答えてから、画面上の青い肌のクザラル人女性に目を向ける。
「主席、お久しぶりです。」
「本当ですよ、シユマ。もう2日も連絡が無かったではないですか。」
「すいません。仕事が立て込んでいたもので…」
「そうでしょうね。でもあなたの仕事のお陰で、コココ人が自由を勝ち取る日が、ついにすぐそこまでやってきましたね。」
画面の老女が微笑む。ログアディヌウのコクピットに立っているシユマは視線をそらした。
「まだ…必ずそうなると決まってはいないと思うのですが…」
「そうですか? でも、これからクザラル本星の最終防衛網への奇襲が始まるのでしょう?」
「奇襲と言っても、彼等もこの時間に私達がやってくる事は充分予測ずみです。最高の防御体勢をとっているであろう事は想像に難くありません。」
「今までも充分最高の防御体勢だった所を、私達の同盟軍はいとも簡単に突破してきています。今日だけそれが無い、という事はまず無いでしょう。それに、本土の私達も、彼等を背後から襲う準備は出来ています。既にフェウプル、カベユシュ、ジャヌブテに秘密部隊を展開中です。」
「そうですか。心強いです、主席。」
「あなた達の到着を心待ちにしています。あなた達に神の御加護がありますように。」
「主席にも。」
頷くシユマ。彼女はコクピットのクルー達を見回してから、バーチャルディスプレイ上の他のウインドウに目を向けた。
「瞬間移動を開始します。まずは先行隊のフィキチュアジ西タオチトゥ防衛隊、ピビジャ第6、第7防衛隊、及びパフタオチトゥのデアグジョオバ軍から、移動開始!」

周囲の黒い船々が次々と光を発し、消えていく。やがて赤い船や円盤状の船も光を発し、数百あった船団は全てその場から消え去った。

ズバアアアアアアアン!
「状況の概略を教えてください。」
スグタの言葉に、近くのサクコブ生命体が破擦音を返す。
「先行隊は順調に攻撃を続けています。HYIの宇宙船総数は現在およそ832隻、30チュチャクズ以内に1300隻まで増加する事が予想されていますが、既に約80隻は戦闘不能。完全に消滅したものはこのカウントには入っていません。こちらは現在フィキチュアジ2隻とHNK1隻が戦闘不能。いずれも乗員は既に避難済みです。」
「ありがとうクベス。バザポ、ジュトゥとジェギキの部隊を水平150プウキビ垂直190プウキビ方面に展開。ゴポイポ部隊はHNKのサポートにまわしましょう。」
「了解。」
機械に接続されているサクコブ生命体の頭部の周囲に、新たなディスプレイが広がる。

紫色の惑星の上に、白い雲がまだらのように広がっている。その軌道近くで無数の赤い宇宙船が集まり、雨のような光線を降らせてきている。
それらのクザラル船に向かってくる黒い宇宙船は、降ってきたその光線で自分の周囲の防御膜を何度も光らせながら、幅広の光を逆にクザラル船に浴びせる。急旋回でクザラル船は避けていくが、避けきれなかった何隻かは光に飲み込まれ姿を失っていく。
数隻のクザラル船が、1隻のサクコブ船に背後から近づき攻撃を仕掛けた。穴が開いたらしくサクコブ船から白い空気が吹き出る。次の瞬間、クザラル船の更に背後に小さな円盤状の05船が現れ、クザラル船に照射線を浴びせた。炎を上げるクザラル船。

「残存敵機数約600、既に半分以上は戦闘不能にした事になります。こちらは17隻が撃墜され、38隻が戦闘不能。向こうはフィキチュアジと05に攻撃の的を絞っているようで、被害はこの2組織の船に集中しています。」
バーチャルディスプレイを見ながらタマラが報告する。頷くプオラギイック。
「それなら、俺たちHNK-EIM分隊は近くの護衛に徹そう。タマラ、ここからだとどの部隊が近い?」
「ショアダガ第2と東ビディズボが100キロ以内、300キロ以内にフォティビ第1です。」
「…宏子。」
「うん。じゃあ1から10まではショアダガ、11以降がビジ…ビズ…?」
「ビディズボ。」
「ビディズボッ。」
宏子はタマラに頷いた。
「了解。」
機内が軽く揺れる。目の前のビュースクリーンはそれより遥かに急な勢いで旋回している。
「…でも、攻撃開始20分でもうこんな事になるなんて、凄いね。このままだと防衛ライン突破も、本当に時間の問題になってきたじゃん。」

「その事なんですが、支部長。」
「ん?」
コクピットの後部に立っているシユマが前の席に座っているタオダに目を向ける。
「たった今、フィキチュアジ船がラインを突破しました。先行隊の内の2隻です。1隻が今集中攻撃を受け…撃沈されました。ですがもう1隻は無事ですね。…支部長、ラインを突破した船が、星の地表に照射線を放っています!」
タオダの言葉に、シユマは目をまたたかせた。
「え? ちょっと、メインビューを拡大して!」
「了解!」
目の前のビュースクリーンに映し出されたサクコブ船は、盛んに青い光をクザラル星地表に向け発射している。
「距離もありますし、大気の干渉で出力は弱くなりますが、確実に星の被害は出ているものと思われます。現在の攻撃はおそらくパ、チトゥー、ニグーワー、エフェイ方面に向かっているのではないでしょうか。」
「何があるのそんな場所に!」

「ラインを突破し、現在稼動中の船は4隻。これから加速度的に増えるでしょう。4隻はいずれも地表への攻撃を繰り返しています。」
「作戦内容にはありませんでしたね。フィキチュアジの独断攻撃の理由は何故か、分かりますか?」
「いえ。…実務代表、30a0統括課長から映像通信が入っています。」
「繋いでください。それから、シユマ支部長と佐藤代表にも。」
スグタの前に3つのディスプレイが表示される。一つの画面に30a0が、しばらく間を置いて横の画面に宏子とシユマが現れた。
「どういう事?」
「私も分かりません、シユマさん。外渉部から皆さんに連絡は?」
「いいえ。」
「ううん。」
「無いわよ。」
「そうですか。それでは」
「ですが、私達は既に問い合わせの通信を入れています。」
30a0が答える。

サクコブとよく似た構造の05船内部で、30a0がアンテナを点滅させながら合成音声を出す。ただし30a0の前には、バーチャルディスプレイ等は光学的には表示されていない。
「…たった今、返答が来ました。他の植民星でやったのと同様、HYIの軍事施設を無力化しているとの事です。今文章を皆さんの船に転送します。」

「文を見るまでもない、そんな通信嘘に決まってる。この攻撃はクザラル人を抹殺する為のもの以外の何物でもないでしょ!」
画面のシユマが声を上げる。隣の画面の30a0が頭部を振る。
「私も同意します。彼等は私達を利用して、サクコブ・クザラル戦争の究極的な形の終結を目論んでいるのです。…非常に容易に予測出来た事態ではありますが。」
「じゃあ…早く彼等を止めないと! これじゃ、同盟を反故にしてるも同然じゃん!」
宏子の画面の横のシユマが首を上げる。
「もう、口で言っても無駄でしょ。今まで散々言ってきたのをずっと無視してきたんだからあいつら。最初から同盟なんかまともに組む気も無かったんだよ。」
「それでは実力行使しかないですね。時は一刻を争います。05部隊は連合・フィキチュアジ同盟の即刻破棄とフィキチュアジへの即刻攻撃開始を提案します。こちらの部隊内の意思統一は、つい先程完了しました。」
シユマは30a0に頷く。
「私も賛成。こっちの意思統一は…今から私が命令します。宏子は?」
「もちろん賛成。このままじゃコココ人を解放するどころじゃなくなっちゃう。」
3つの画面を見ていたスグタは破擦音を立てた。
「ちょっと、待ってください。皆さん、本当にそれで良いんですか?」
「あ、やっぱりあんたは反対なんだ。」
シユマを無視してスグタは言う。
「まだ事情がはっきりしていません。彼等の言う通り軍事施設の無力化だけをしている可能性もあるでしょう? ここからでは距離もありますし、そう大きな出力にはならないのでは?」
「大きな出力にならないというのは事実ですが、攻撃に使われているのは例の波状光線ですから、ピンポイントではない無差別攻撃である可能性が非常に高いです。」
30a0が答える。
「そうですか。だとしても、ここで同盟を破棄してしまって良いのですか? その場合私達はまたフィキチュアジを敵とする事になります。彼等の兵器がどれだけ凄いかは、もう皆さんもよく分かっているでしょう?」
「この同盟の期間である程度の事は、私達とEIMの皆さんとで情報を入手しました。今すぐ対抗出来る訳ではありませんが、一週間以内にはほぼ同等の物を私達も製作出来るのではないかと考えています。」
「それは…私達はそのような話は全く聞いていませんでした。」
「うん、まだ試験段階だったから、ウチらと05だけで話を進めてたの。」
頷く宏子を、シユマは細い目で見る。
「違うでしょ、パフタオチトゥにはフィキチュアジのスパイがいるっていう噂があるから用心したんでしょ。」
「…」
「シユマ。」
宏子がシユマに眉をひそめる。
「今は長々と話し合いをしている時ではありません。それではスグタさんは同盟破棄案に反対という事で、よろしいですね?」
「…はい。」
30a0に答えるスグタ。画面のシユマが首を振った。
「じゃ、決まりね。3対1で提案可決。2・2で割れなくて良かったわ。」
「同感。それじゃあ防御ライン近くの船は全艦前方のフィキチュアジ船に攻撃集中。それ以外の船は手近なフィキチュアジ船を攻撃するという事で。」
「了解! 可能な限り背中から狙うようにね!」
「ちょっと、待ってください」
スグタに答える事なく、シユマと宏子の画面が消える。
「本当にここで同盟を、」
「スグタさん、連合の決定です。あなた方の長年の敵であるフィキチュアジを、今ここで叩き潰しましょう。」
30a0の画面が消えた。

見渡す限りの視界に、無数の赤い宇宙船の残骸が炎をあげ、虚空に漂っている。それを突っ切った先に数十隻のサクコブ船が綺麗にフォーメーションを作り、静止して青い光を発射している。その光の向かっている先は紫色の惑星の地表だ。

突如、サクコブ船の一隻が炎をあげた。後ろから、サクコブ船と比べると小鳥のようなサイズのHNK船と05船が隊列をなして飛び回りながら、赤い光線を乱射してくる。サクコブ船団はフォーメーションを崩しだした。

「フィキチュアジ船1隻が戦闘不能。…いえ、3隻です。他は健在。彼等がこちらにも攻撃を開始しました。HNKが2隻、05の1隻がやられています。HNKの1隻、撃沈です。」
「…」
「実務代表、どうされますか。」
バザポが尋ねる。スグタは羽を何度か動かした。
「…待機。」
「待機、ですか?」
「待機です。自衛行動を除き、パフタオチトゥ部隊は戦闘を一時停止します。」
クベスに答えるスグタ。
「了解。」
「実務代表、」
「何か情報だったら画面に流してください。あなたの個人的意見でしたら今は結構です。」
スグタはバザポを遮る。
「…」
「…誰が味方で、誰が敵なのか…なぜ私達はこんな場所で戦闘をしなければならないのでしょう。そもそもクザラル人同士の内紛等、彼等の中で解決すれば良い事ではないですか…。」
スグタは誰に向けるでもなく破擦音を上げた。
「実務代表。」
「何ですかクベス。」
「30a0統括課長・シユマ支部長・佐藤代表から連名で文書通信です。今から30チュチャクズ以内に共同攻撃に参加しない場合、パフタオチトゥはフィキチュアジに賛同しているものとみなし、パフタオチトゥへの攻撃も開始する、と言ってきています。」
「そんな、横暴な…ホクさんは? ホクさんは何か言っていないのですか?」
「…たった今、映像通信が入りました。」
「繋いでください。」
「了解。」
スグタの前にディスプレイが表示された。リジュワナが映っている。
「ホクさん、」
「スグタ、攻撃に参加して。今すぐに。」
「ですが、」
「議論なら後で好きなだけすれば良い。今は時間が無いでしょう。」
「私から時間を奪っているのは佐藤代表達です。」
画面のリジュワナが頷く。
「ええ、そうね。私もそう思うわ。でもそういう話は今は後よ。」
「いいえ、後には出来ません。ホクさん、今、サクコブ生命体は種族存亡の危機に立たされているんです。」
「は? …何言ってるの、今危機にいるのはクザラル人でしょう。早くフィキチュアジの攻撃を停止させないと、」
「残念です。ホクさんなら、分かって頂けると思っていたのですが…」
「何を? …スグタ、本当にもう時間が無いのよ、」
「やはり、全ては一方的な幻想だったのですね。ですがそれもこちらが悪いのでしょう。…いえ、最初にこんな幻想を見せてくださったあなたが、やはり一番の元凶という気もします。ホクさん。」
「何の話をしているの? スグタ、私、例え話は苦手なのよ。」
「何も例えていませんよ。私のそのままの気持ちを口にしたまでです。」
「…スグタ?」
「好きでした。あなたが有甲殻生命体でなくて残念です。」
スグタは羽を上げた。
ピッ。
スグタが舌でバーチャルタッチパネルを押し、ディスプレイの表示は消えた。
「バザポ、攻撃準備。」
「…と言いますと…」
「この船にもう装備されているんでしょう、その増幅装置は?」
「…了解。」
バザポの体に接続されていたケーブルが外れる。バザポは浮上し、船室の向こうへ飛んでいった。
「実務代表、こちらへ05・HNK・EIMが攻撃を開始しました。このまま待機を続けていては各機撃墜されます。」
「自衛はして良いと、先程言ったでしょう。」
クベスに答えるスグタ。
「りょ、了解。反撃開始。」
スグタの前にディスプレイが表示される。バザポだ。
「準備完了しました。画面で右側に「無限連結増幅装置」の表示があるはずです、それを選択してください。後は通常の増幅装置と同じ操作で結構です。」
「分かりました。」
舌を使い、スグタが画面を操作していく。スグタの頭部の周囲を球状のディスプレイが取り囲んだ。

ブズズズ、ブズ、ブズズ…。
スグタが破擦音を上げた。
「正義こそ…」


「宏子。」
プオラギイックが指をさす部分に、宏子は目を向けた。
「タマラ、この部分を拡大して。」
「はい。」
ビュースクリーンの一部がズームで拡大される。

一隻のサクコブ船から、およそ船3つ分程度離れた前方に青い光が放たれ、そこで集束している。その地点に他のサクコブ船からもどんどん光が向かい、そこに生まれた青い光の球はみるみるうちに大きくなっていく。

「…何、あれは?」
呟く宏子。光の球はますます巨大になり、もう既にサクコブ船2隻分程度の直径にまで膨れ上がっている。
「30a0さんから文書通信です。」
「うん。」
「今すぐ全速力、可能なら瞬間移動で退却する事を強く勧告する、以上です。」
「それって…どういう事…?」
「星が…消える?」
後ろで呟くリジュワナに宏子は振り向いた。
「…」
「そんな訳…無い、でしょ?」
ぎこちなく言う宏子。ニ人は見詰め合う。
「…」
プオラギイックが立ち上がり声を上げた。
「…た、退却。瞬間移動で、全艦退却だ!」

光の球は一船団を飲み込める程度の大きさにまで達した。進路上のサクコブやクザラルの船を無差別に飲み込みつつ、球はゆっくりと惑星の方向へ進みだす。

「副代表、この船のMKは現在6000を切っているので」
「分かってる。それでも反物質エンジンは使えるな、フルパワーで逃げろ!」
「了解。」
タッチパネルを操作するタマラ。
「そんな、まさか…」
呟く宏子。プオラギイックは後ろを向く。
「リジュワナ、船の後方をビュースクリーンに表示させるにはどうすれば良かったんだ?」
「…え、ええ、ちょっと待って。」
リジュワナは自分の前の画面上で指を動かす。ビュースクリーンに惑星の様子が映し出された。
映像の前で宏子は目を見開く。
「攻撃弾…あんな、ちょっとした島並に大きい…」
星の空に浮いている白いまだら模様。その雲の下に隠れた青い巨大な光の球はそれでも輝きながら、惑星の中にゆっくりと沈んでいく。その様子はまるで海辺の日没のようだ。
「しかし、あれ位ならまだ、星を消すなんて事は出来ないだろう。実際海の中に消えたようだし…」
「いえ、出来るわ。だって、」

紫色の惑星の形が歪みだす。真円だったのが徐々に楕円に変わり、それと同時に星の周囲の雲が急に厚くなっていく。

「…煙よ。人のいるところから煙があがっているのよ。たくさん。」
呟くリジュワナ。

紫色のはずの惑星の所々からオレンジ色の縞が顔を出す。歪みが増大するにつれ、オレンジの部分はみるみる内に増大していく。


そしてオレンジ色のマグマが地表の半分以上を占めた辺りで、その惑星の形状は完全に崩れ、バランスを失った巨大な球体は粉々に破裂した。


上下左右360度の方向に、星の全ての破片が飛び散る。猛烈な勢いでそれは拡散し、大波となって、残骸となっていたクザラル船や、逃げ遅れたサクコブ船を飲み込んでいく。

「全員シートベルト装着!」
宏子が叫ぶ。
「…くっ」
宏子が席に座るのとほぼ同時に、船のビュースクリーンは砂嵐のような画像で埋まり、船体は大地震に見舞われた。
ガタガタガタガタガタガタガタッ!
船体は何度も回転し、速度は大幅な上下を繰り返す。重力補正装置は機能限界値をオーバーし、乗員達に強烈なGが繰り返しのしかかる。
ガタガタガタガタガタ…ガタッ、ガタガタッ、ガタ、ガタッ。
「…」
ようやく揺れが収まり、宏子は顔を上げながら自分の腹部をおさえた。
「ふう…皆、無事?」
見回す宏子。どうやらここにいる10数名のクルーに問題は無いようだ。
「あ…リジュワナ。」
「大丈夫よ。頭は打ってるけど…まあ、意識はしっかりしてるみたいだから。今のところは記憶もしっかりしてそうだし。」
床に転げていたリジュワナが、痛そうに顔をしかめながら起き上がる。
「…そう。」
「タマラ、船の状態はどうだ?」
「あ、はい。エンジン損傷、起動不能です。攻撃・防衛システムも全てダウン。通信・生命維持装置は正常ですが、非常エネルギーに頼っているため…ええと、後37分で使用不能になります。」
「そうか。ビュースクリーンは?」
「えー…見ての通り、正常です。」
プオラギイックは顔を上げる。ビュースクリーンにあるのは、ただの虚空の宇宙空間だ。
「…」
よく見ると、周囲に何かの残骸が広がっている。既にかなり遠くまで拡散していて、その砂のようなものが星の残骸なのか、船の残骸なのかもはっきりしない。
「これは…どこの方向の画面なんだ?」
呟くプオラギイック。
タマラがディスプレイの設定表示を確認する。
「クザラル星です。目標物の座標指定で画面の方向が決まっていますから、間違いありません。…最大倍率です。」
「…」
「…だって、何にも……嘘…嘘でしょ…」
宏子は息をのむ。
「…」
<…プオ…>

プオラギイックは目を合わせず、静かな調子で念じた。
<宏子…タマシルファグウトっていう奴の話を聞いた事があるか。>
<え? …この船の名前の? シユマから、ちょっと聞いてるけど…>
<そうか。タマシルファグウトが生きていた時代、彼女は迫害された。民族の裏切り者だったんだ。ところがその後時代が変わり、現在ではコココ人の英雄となっている。>
<うん。…シユマも、そう言ってたけど…?>
<しかし現在の評価も、時代が作り上げたものでしかない。今のような評価はペッギン教会がコココ人を支配するようになってから出来たものなんだ。もっと言うなら、ゴニ教徒と対抗していく中でペッギン教徒としてのアインデンティティーを確立していったコココ人が人工的に作り上げた英雄なんだ、彼女は。歴史家の研究によると、彼女はペッギン教会の傭兵部隊を使い何百というコココ人を虐殺したらしい。彼等の元々持っていた伝統信仰の関係者を、次々と粛清していったんだ。更に彼女自身は、個人的にはペッギン教を信仰していなかったという研究報告もある。どうやら彼女は教会の権力欲しさに彼等にすりよっていただけらしい。彼女が教会を後に破門になったのも、それが理由らしいんだ。…もっとも、それでも結果として、彼女の行動のお陰でコココ人の民族意識が高まったというのも、一つの事実だ。>
<…>
<つまりな、宏子。英雄っていうのは誰もなれないし、誰でもなれるものなんだ。>
<…>
リジュワナがプオラギイックの方を向く。
<だから私達は、少なくともサクコブ生命体から見れば英雄だ? 無理よ、私達はサクコブも邪魔しただけ、クザラルも邪魔しただけ、両方に平等に迷惑をかけた、ただの傍観者でしかないわ。>
<…そうかもしれないな。>
<プオ…何て言ったら良いか…>
<何も言うな。…俺だって、何も返しようがない。>
<うん…>

「代表、通信が入っています。30a0統括課長から無事を確認する連絡です。…どうやら、シユマ支部長も通話中のようです。」
「…」
宏子はタマラの言葉に、少しほっとした笑みをもらした。
「うん。繋いで。」
「…っ」
タマラはディスプレイを表示させる代わりに、宏子の方を向き緊迫した声を上げた。
「代表、高出力の魔力を感知。3000クチャシ以上あります。」
「…え、どこ? 近くの船じゃないの?」
「いえ、…機械の故障でなければここです。」
「ここ、って…」
「タマシルファグウト船内です。正確には操縦室内左中央、代表のすぐ後ろに…」
「…」
振り向く宏子。
「え…」
宏子の背後の空間で、白い光がまたたく。光はすぐに広がり、人の背丈ほどの大きさにまで膨らんだ。
「瞬間移動…?」
「出来るような距離内に生命反応のある宇宙船は見当たりません。」
「でも…」
シュウウウウウウウウウウン…。
爆発音無しに光は消える。中から現れた人影に、宏子達は目を奪われた。
「…え…なん…で?」
<どうも。>
現れた少女が微笑む。
<…>
<いや、本当は姿を見せるつもりなんて無かったんですが、周囲の魔力の干渉が強すぎて足を引っ張られまして。>
<…>
<…佐藤さん?>
<ア…リーザ…? でも、手足がちゃんと、ある…>
<髪を切られたんですね。佐藤さんにはよく似合います。>
黒いキャミソールを着たアリーザは嬉しそうにそう念じた。

続く



Written by FML (AKA Franken).
Ver. 1.00 on 2003/2/12.

<ガチンコ勝負、日ごろ言えない事を告白しあいましょうのコーナー、イェー、パチパチパチパチ!>
<…>
<まずは先攻、幸田選手!>
<えっとね…ごめんひーこ、鉄腕DASHのビデオ、前借りたでしょ。あれ、違うの上に録画しちゃったんだ、私。>
<え?>
<それでは後攻、佐藤選手!>
<ほんと言うと、美耶。私、あんたの作ったケーキだけは口に入れないようにしてるんだよね。あれは…人間のクイモンじゃないよ。>
<…!>
<幸田選手!>
<そ、そもそもひーこ…良い加減この連載のタイトル変えたら? もう魔法使えないのに、未練たらしいったらありゃしない。普通少女佐藤とかに変えるべきだよね。粗雑少女佐藤の方が良いかな?>
<な…なっ!>
<佐藤選手!>
<だ、大体あんたなんかキャラとしての存在意義が分からないね。元々魔法少女じゃないし、宇宙人でも政治家でもない平平凡凡なあんたが何でここにいるのかさっっっっっっぱり。ビデオも撮れないしバトルコスチュームも作れないしさ。唯一のウリの病弱さだって休み休みなんだから、つくづくどうしてあんたがまだ死なずにこの話に出てられるんだか…>
<な、な、な、な、な、なっ!>
<次回、魔法少女佐藤第23話、「眠れぬ夜の魔法少女」。お楽しみに。…どうでも良いけどモニク、収拾つけなさいよ。>
<えー、このようにニ人とも幼少のみぎりから大変仲睦まじく…>
<ひーこなんか次回で死んじゃえっ!>
<むしろあんたが死ねっ! もう全キャラ巻き込んで死ねっ!>
<また来週ーっ!>
<………>



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