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←Part A


目元を手でおさえ、あくびを漏らしながらプオラギイックが通路を歩いてくる。
<…>
あるデスクのバーチャルディスプレイの前で、リジュワナが腕組みして立ちながら画面を見ている。リジュワナは顔を上げプオラギイックに念じてきた。
<プオラギイック。これを見て。>
<ん?>
ベンガル文字の画面に見入るプオラギイック。
<読めない。>
<…>
<そう怖い顔をするなよ。>
プオラギイックは自分の腕端末を操作しだした。
<気をつけるわ。私の場合、宏子と違って怖い顔は本当に怖いものね。>
<ああ、そうだな。それにしても朝から書類のチェックとはお前も仕事熱心だな。>
プオラギイックの前に別の文字によるバーチャルディスプレイが表示される。
<「数日遊びに行ってきます まんじゅうを待て」…何だ、これは?>
<美耶の端末に入っていた日本語のメールよ。発信は昨日の深夜、差出人は宏子。>
<…>
プオラギイックが顔を上げる。リジュワナは首をすくめた。
<いないわ、彼女。瞬間移動も出来ないのにどこに行ったんだか。>
<…>
プオラギイックはタッチパネルを操作する。
<まだ見つかっていないのか。何か手がかりは?>
<無いわね、今のところ。でも誰か見ているか、協力しているはずだと思うわ。系魔法も使えないんだからちゃんと覚えているはずよ。>
<誘拐の可能性は?>
<さあ。ただ、メールの文面から考えてサクコブがさらったというのは考えにくいわね。彼等はこんなリアルにいい加減な文は逆に思いつかないでしょ。>
<そうだな。HYIの生き残りの線…かもな。>
<彼等が今更何の用?>
<用なんか別に無くて良いだろ。宏子に対して恨みつらみがある奴等はたくさんいる。HYIとは限らないな、親HYI派のUOTRメンバーかもしれないし。>
<…>
<…リジュワナ、お前が責任を感じる事なんて何も>
リジュワナは視線を上げて首を振った。
<大丈夫よ。それより宏子を探さないと。>
<…ああ、そうだな。>
<あれ、ニ人して何緊迫してるの?>
ドーナツをほお張りながらやってきたモニクが彼等に念じる。
<宏子がいないのよ。>
<ああ、知ってるよ。おまんじゅう買ってきてくれるんでしょ?>
頷きながら自分のデスクへ行こうとするモニク。
<…>
リジュワナはプオラギイックと目を見合わせてから、モニクの方を向いた。
<余裕ね。心配じゃないの?>
<…>
モニクはいつものような気安い表情で顔を上げる。リジュワナは目を細めた。
<…>
<ひーこちゃんは、何か今の事態を変えられるアイディアを思いついたんだと思うよ。それで出かけるって言ったんじゃないかな。数日で帰ってくるって言ってるんだったら、別に心配する事なんか無いでしょ。>
<メールの文が信用出来るならね。第一に文を宏子が打ったかが分からないし、仮に宏子が打ったのだとしても本心なのかも分からないのよ。>
<少しは信用してあげようよ…一応私達の代表なんだし、あれでも。>
モニクはドーナツをおいしそうにほお張る。
<信用とかそういう問題じゃないでしょ。>
<そうかな? 私はそういう問題だと思うけどお。ひーこちゃんは、そう簡単に誘拐されるほど可愛げのある子じゃないと思うな。とても強い代表さんだと思うよ。仮に魔法が使えなくてもね。…だから、そう心配する事はないと私は思う。>
<…そう。確かにあなたの言う通りかもしれないわね。>
椅子に座るモニク。立っているリジュワナは、ため息混じりに頷いた。
<でもそれ以外の可能性がある限り私は心配だわ。それが宏子を信用していない、子供扱いしてるって事になるなら、それでも構わない。怒るなり絶交するなり好きにしてくれれば良い。とにかく私は、探すわよ。私は彼女が「強い代表」だなんて思わない。>
<リジュワナちゃん…>
モニクはリジュワナを見上げた。
ズウウウウウウウウウウウウン。

地鳴りがする。
<おっと!>
キャスター付きの椅子に座っていたモニクが後ろによろける。リジュワナは机に手を置いて自分の体を支えながら叫んだ。
「リチャード!」
「魔力反応が…800クチャシ、ここから東南1.5キロの地点に現れたようです。」
「サクコブか?」
「3体ですね。」
プオラギイックに頷くリチャード。プオラギイック達はそれぞれの前にディスプレイを出す。
「だから、もう少し前の場所と離れた所に引っ越そうって言ったのよ。パフタオチトゥは前の場所を知ってるんだから。誰よ? 最初に「裏の裏で」とか訳の分からない事言い出したのって…」
眉を寄せるリジュワナ。モニクが両手の人差し指を立てて念じる。
「でも、少なくとも前のロイ・エット県と今のウボン・ラーチャターニー県は別の県な訳で、」
「同じタイ東北部な時点で駄目なのよっ!」
「でも青い鳥は近くにいるものだって言うし、」
「だから近くにいたら駄目じゃないっ!」
リジュワナは自分の肩に手が置かれた事に気づき、プオラギイックに顔を向けた。
「まあ、落ち着け。まだこっちに来てると決まった訳じゃない。」
ズウウウウウウウン。
「…」
「…意図してこっちに来ていなくても、彼等の進路上に私達がいたら十分問題だとは思わない?」
微振動の続く部屋の中でリジュワナが言う。
「う…」
「そもそも1.5キロなんて、彼等にとっては家の門から玄関まで程度の距離でしかないわよ。」
「でも、逃げたら多分気づかれるんじゃないかな。」
「…」
リジュワナはモニクに無言で頷く。
「…気づかれても仕方無いだろ。手持ちの宇宙船だけじゃ逃げられない、05に応援を頼まないと。リチャード。」
「はい。」
リチャードは頷き、机の上に表示されたバーチャルタッチパネルに指を触れだした。
「ねえ、プオちゃん。それまでは…ここでじっとしていろって事? 御近所さん達が穴だらけになるのを息をひそめて影から見ていろ、って…」
「モニク。」
机につっぷすようにして、モニクは頭を抱える。
「…ごめん、リジュワナちゃん。そうするしかないのは分かっているよ。私の言ってるのって、ただの八つ当たりだよね。…でも、それじゃ…私達って、一体何のためのグループなんだろうね…」
「…悔しいのは全員一緒よ。」
「うん…」
「副代表。」
自分の机でディスプレイを見ていたタマラが顔を上げる。
「どうした。」
「彼等がこちらの方向に近づいてきています。旋回しながら飛行しているようでスピードは速くありませんが、それでも後1分以内には…」
ズウウウウウウウウウン!
「きゃっ!」
本部が揺れる。後ろにすべりつつ、タマラは足を踏ん張った。
「…よく分かった。05は?」
「既に発進準備は出来ていますが、ご存知の通り彼等は瞬間移動用の魔力増幅装置のウォームアップに多少の時間がかかります。こちらには…最速で今から3分20秒後にならないと…」
「そうだったな。それまでこっちが持てば良いんだが…」
ズウウウウウウン。
「…ねえ、せめて、この建物からちょっと逃げる事は出来ないかな?」
「逃げるって、どこに? 系魔法の傘から外れたら、「私を攻撃してください」ってアピールするようなものよ。」
リジュワナがモニクに答える。
「それはそうだけど…今のサクコブは絨毯爆撃で攻撃しているんだからこっちが見えようが見えまいが大して関係無いよ。系魔法の傘の下だろうが、防御膜を張っていようが、全部例の光で根こそぎ消しちゃうんだよ。」
「だからってこっちから外に出る必要は無いでしょう。そもそも、歩いて彼等から逃げきれると思っているの? それとも自動車?」
「それは、そうだけど…」
「後3分の辛抱よ。」
ズウウウウウウウウウウン。
再び建物が地震に見舞われる。
「リチャード、うちのメンバーは全員建物内にいるんだよな?」
「…いえ、代表以外にも、エリクソン隊員とナカムラ隊員が街に外出しています。」
「…」
プオラギイックとリジュワナは目を合わせる。
「…ウボン市内は今、どうなってる? 状況は分かるか?」
リチャードに聞くプオラギイック。タマラが答える。
「はっきりとは分かりません。ですが、既に市街地の上空は生命体が何度も旋回していますので…コンピューターの推定する生命反応は激減しています。まだ、ゼロではありませんが…」
「…」

ズウウウウウウウン。ガシャ、ガシャアアアアンッ。
激震と共に大音響で何かの音がこだました。何台かの机に置かれている地球式のパソコンのモニタが床に落ち、ガラス片を飛ばす。
「何が起きた!」
「近づいているんでしょう?」
プオラギイックの叫びに、隣で歯をくいしばるリジュワナが答える。
「副代表、それだけではありません。トレーニングルームがやられました!」
「何だって!」
窓に目を向けるプオラギイック。彼より位置的に窓に近いモニクが走り、外を見る。

校庭のような空き地を挟み十数メートル向こうにある、白壁の古い切妻二階だての建物の天井に大きな穴が開き、中が露呈している。入り口から血まみれの隊員がよろよろとあらわれ、こちらの建物にやってこようとしている。

青い光が、サーチライトのように空から照らされ、向こうの建物の辺りを一瞬横切っていった。次の瞬間向こうの建物の天井が更に落ち、一部の壁も崩れだす。
そして、こちらにやってこようとしていた隊員は、倒れた両足だけを残して消え去っていた。
「…」
息をのむモニク。
「向こうに隊員は何人いたか分かるか?」
「いえ、そこまでのチェックはしていませんから…恐らく、今ここにいる隊員と外出した三人以外の全員だと思いますが…」
答えるリチャード。リジュワナは部屋に集まっている隊員たちを見回す。
「ぱっと見…ヤスミンカ、シンブル、マリアナ、…それから、美耶がいないわ。」
「後、ラスリーン君も。」
リジュワナ達のそばに戻ってきたモニクが言う。
「…今、消えたけど。」
「…そう。」
隊員達の内の数名は忙しくバーチャルタッチパネルを操作しているが、それ以外の大多数はこの部屋に集まり、照射機だけを手に持ったまま不安気に顔を見合わせている。
「プオちゃん、まだ向こうに最低四人はいるんだよ。まだ生きてるかもしれない。早く行って、助けないと。」
「タマラ、生命体の様子は?」
「ギリギリ、ここは当たらなかったようですね。生命体Bが今ここをかすっていきましたが、このまま西北西方向に進んでいくようです。AとCは既にここから800メートル先へ離れていきました。」
リジュワナが眼鏡を上げ、リチャードに聞く。
「05の船は?」
「後1分20秒です。」
「…」
「早く、助けにいかないと!」
モニクが声を上げた。彼女に顔を向けるリジュワナ。
「この辺りに生命反応は無いのよ。だから、サクコブは飛んでいったの。でもまだ彼等はすぐそばにいる。系魔法の外に出たら、モニク、あなたもやられるだけよ。」
「だって、まだ四人いるんだよ、それこそすぐそこに! 美耶ちゃんを見捨てろっていうの!?」
ズウウウウウウウウウン。
「ええ、そうよ。もう向こうの四人は助からない。それを分かっているからサクコブは行ったのよ。」
「リジュワナちゃん! リジュワナちゃんには人の心が無いのっ!?」
「止めないか、モニク。」
プオラギイックが、モニクとリジュワナの間に割って入った。
「副代表として俺が命令する。この建物から外には出るな。まだ、危険なんだ。…分かるだろ。」
「…」
ダンッ。
モニクは何かの言葉を飲み込み、首を振る。そして彼女は拳を机に叩き付けた。
「…無いわよ、そんな物。多分ダッカの残骸の下に落としてきたんだと思うわ。」
「リジュワナ、お前もやめろ。」
「…」
沈黙が彼等の間を包む。どこかの建物が崩れているらしい微かな音と、微弱な振動が部屋に伝わる。
ふと、電子音がタマラの机の端末から鳴った。

ドガガガアアアアアアアアアアアンッ!
先ほどを上回る大音響と振動が起きる。部屋の窓ガラスがいくつか割れ、隊員達はバランスを崩し床によろけている。
「魔力反応、おそらくこの建物への攻撃です!」
タマラがプオラギイックに叫ぶ。
「…だろうな。」
「防御膜消失、系魔法も無効化されました!」
「良かったな、モニク。」
「…」
プオラギイックの声に、目を赤くはらしたモニクが顔を上げる。
「助けに行って良いぞ。…レスゼク、信哲シンジャー、それからアンブラは付いて行ってやってくれ。」
「…」
モニクは無言で頷き、三人の隊員と部屋を出て行った。
「結局、持たなかったわね。」
「残念ながらな。」
リチャードがデータ表示を見る。
「副代表、後20秒後に05船が2隻こちらにくるそうです。」
「そうか。」
ドガン、ドガアアアアアンッ。
再び揺れる室内。机につかまりながら、プオラギイックが言う。
「俺が時間稼ぎに出るから、その間お前達はリジュワナの防御膜に隠れていてくれないか。」
「待って。」
「何だ。」
走り出そうとしたプオラギイックは、手を引くリジュワナに苛立たしげに振り向く。
「リジュワナ、今は議論する暇は」
「知ってる? NKは私、あなたの3倍あるのよ。」
一瞬の逡巡ののちプオラギイックは頷いた。
「…死ぬなよ。今お前が死んだら俺達は」
「分かってる。」
「…」
プオラギイックはリジュワナの肩を叩く。リジュワナは隊員のうちの数名を無言で指差し、彼等とともに走り出した。
ドガ、ドガアアアアン、ガシャアアアアアンッ!
鼓膜をつんざく爆音とともに部屋の天井の一部が崩れる。崩れる天井のちょうど下に、リジュワナ達が走っている。
ふとリジュワナは、上を見上げた。
<…あ>
<リジュワナっ!>


数千メートル級とまではいかないが、見た目にはかなり高い岩山が周囲に広がっている。山々の間は茶色の水の筋が流れ、その周囲だけは樹木がぽつぽつと生え、人が通っているらしき道、というか車のわだちが存在している。しかしそれらの木は圧倒的に少なく、岩山の白っぽい茶色の景色の中に埋没している。
全ての空間が傾斜している中、そのわだちの近場の数十メートル四方の岩原だけが無理やり切り崩した形で平地になっており、そこに05船1隻とクザラル船2隻、それから4、5個の大型テントが所狭しと並んでいた。

05船の内部に太陽光が差す。9d88が浮き上がり、ディスプレイのたくさん表示された船内を移動する。
船の入り口にまでやってきて、そこで静止した9d88は音声を発する。
「30a0なら、来るのは明日ですよ。」
入り口の外に立っていた美耶は苦笑した。
「別に誰でも良いですよ、05の人だったら。」
「そうですか? 地球人の皆さんは30a0の方が付き合いやすく感じているのではないかと思っていましたが。」
浮いた体を微妙に上下させつつ、9d88が破擦音と合成音声を出す。
「彼は人当たりは良いですからね。その辺り、年をくっているだけあります。」
「見た目じゃ分からないけど…彼は、結構古いんですか?」
「私達の中でも一、二を争う長老ですよ。なにしろ彼の意識プログラムは、既に地球年で8歳になりますから。」
「…それは、確かに長老さんだ。」
肩を上げた美耶が独り言のように呟く。
「来て下さい。あなたもコンピューターを使いたいんでしょう。」
9d88はその場で旋回し、デッキの奥へと飛んでいく。その後を美耶はついていった。


壁際にあるやや大きめの、人間用のバーチャルディスプレイの前で9d88は浮いたまま静止した。
「それにしても、あなたはもう動いて大丈夫なんですか?」
「大丈夫も何も。私は、そもそも別に怪我とかしませんでしたから。」
手を合わせ美耶が答える。
「それは幸運でしたね。この間の攻撃では皆さん大変だったようですが。」
「ひーこを含めて3名が行方不明。7人亡くして、重傷が一人。軽傷は…全員かな、私以外。」
「今の本部の人数でそれでは、大打撃ですね。支部の方はどうなんですか?」
「ドイツは連絡がつかないんですよ。多分、全滅でしょう。アメリカは一応大丈夫。って言っても、元の4割位のメンバーしかいないですけど…。」
「そうですか…それにしても何故、あなたは無傷だったんですか?」
美耶は頷いた。
「うん。…おかしいですよね。戦闘訓練もしてないし、魔法少女な訳でもない私だけが、よりにもよって無傷なのって。私、一昨日、あの時トレーニングルーム棟にいたんですよ。そっちは本棟より先に破壊されて。その場に私以外四人いたんだけど、皆…死んだそうなんです。落ちた天井の下敷きになるかサクコブに直接やられるかして。」
「あなたはそれを直接見てはいないのですか?」
「ええ。光…何かの光で眩しくて目を閉じたんですよ、あの時。そしてそのまま私、眠っちゃったんです、その場で。それも…凄く気持ちよく。そこで夢を見て…それで、目を開けたら、52…えーっと、いくつでしたっけ。」
「520c91。」
「そう、0c91。その船の中でした。私の目を見た時の、モニクちゃんの何ともいえない表情が…なんでも、私の命の心配をしていたらしくて。」
「助かって喜んでいたんですか。」
「いや、というより…心配して損した、って感じが近いかな。」
苦笑いしながら美耶が首をかしげる。

「なるほど。…それで、お話というのは一体何についてなんですか?」
「えっと…ひーこの事について、なんですけど…」
「行方は、私達もまだつかんでいません。」
「いえ、そうじゃないんです。どこに行ってるのか、大体想像はつきますし。」
「…そうなんですか?」
「多分。…あ、聞かれても答えませんよ。って言うより、具体的な場所は私も全然分からないですけど…まあ、彼女は大丈夫だと思います。今聞きたいのはその話じゃなくて、彼女の見ている夢の話なんです。」
ブズズズ。
「夢、ですか?」
「ええ。…あ、「夢」、って分かります?」
「活動休止中の人間の脳意識に起こる「遊び」行為ですね。主に記憶の整理作業中に発生する。」
「…なるほど。まあ、その事で聞きたい事があるんですけど…。」
「ですが、私達は地球人の生体構造には疎いのですが。」
「ええ。でも、魔法少女ってなると、地球人も疎いでしょう?」
「それも、です。私達も魔法には疎いのですよ。」
「あ、そうか…」
「頼っていただけるのは嬉しいですが、そういう事でしたら、HNKのクザラル人に聞いた方が助けになるのでは? そうでなくとも、生命体として地球人により近しい訳ですし。」
「うん、まあ、普通ならそうでしょうけど…ちょっと、サクコブか05の人…あ、生命体、に聞きたい事があって。」
9d88は数度頭部を振った。
「…分かりました。そうおっしゃられるのでしたら。それではお話を、詳しく聞かせてください。」
「ええと…どこから話せば良いのかな。この間聞いたんですけど、ひーこ、夢を見るらしいんですよ。…あ、それは別に普通なんだけど、その夢に、よく同じ登場人物が出てくるらしいんですね。」
「それも…別に普通なのでは?」
「そうかも。でもまだあるんです。それで、ひーこ、時々金縛りに遭うらしいんですよ。…金縛りは分かりますか?」
「遭った事は無いですが辞書的な定義は分かります。どうぞ続けて。」
「はい。人間は、寝る時に夢は見るけど、金縛りの時はそんなのは無いと思うんです、普通は。でもひーこの場合はそれがあるらしくて。夢、とは呼べないのかもしれないけど、夢で出てくるのと同じ登場人物がそこに見えるらしいんですよ。その辺詳しく聞いてはいないんですけど。」
「はい。」
「それで、シェアジャ星で連合とフィキチュアジが戦った時、連合が負けかけていたのに、ある瞬間を境に急に形勢が変わっていたそうですよね。あの瞬間もそれを見たらしいんです、彼女。」
「…」
「その後、今度はフィキチュアジがクザラル星を爆破した時。その時は、アリーザちゃんの姿をして、タマシルファグウトの船内に現れたって言うんですよ。しかもその時は彼女だけに見える夢や金縛りじゃなくて、全員に見える現実の存在としてそこに出てきた、って言うんです。その、いつも夢で見ているのと同じ登場人物が、アリーザちゃんの姿で。」
「…そのような記録は船のデータには無かったように思いますが…」
「ええ。私も聞いてません。彼女が言うには、ひーこ以外の人間はその事を今は覚えていないそうです。全員が見たのに、それを覚えているのは自分だけだ、って。」
「それは…興味深いですね。」
「05の方に聞きたいんですけど…これって、この、登場人物って、何者だと思いますか?」
少し羽を揺らしてから、9d88が合成音声を発する。
「人が見る夢の中の登場人物は、本来その人の意識が作り上げた虚像に過ぎないはずです。もちろん、それが現実の人物を基にしている事もよくあるでしょうが。」
「私もそう思います。でも、それを全員が見るっていうのはおかしいですよね。」
「その通りです。意識上の虚像を他人に見せる為には、意識ネットへの接続が必要です。」
「意識ネット…パフタオチトゥが使っていた?」
「ええ。あの分野の技術はサクコブが進んでいますから。ですがクザラル星爆破のあの時点で、佐藤代表がそれをしなければならない理由は分かりませんね。」
「分からないっていうか、おかしいでしょう。そんな事ひーこがしたって別に得な事なんて無いし。彼女、自分が精神病になったんじゃないかって、自分で心配してましたから。」
「なるほど。」
美耶は壁に手をかけ、息をつく。
「何か虚像ではない別の生命体がひーこの前に現れた、と考える方が自然ですよね。」
「佐藤代表を信用するか否か、です。彼女の認識能力や話の信憑性を信じるならば、「自然」というか、それ以外に説明のつけようがありません。」
「じゃあ取りあえず、信じてください。…話を進めるために。だとして、その場合、一体どういう生命体なんでしょう、夢の登場人物、つまり、その時のアリーザちゃんの正体は。」
「それは…難しいですね。」
「…本当にそうですか?」
「…」
9d88は羽をひらひらと動かす。
「幸田さんは、何かの相談をしに来たというより、自分の推論を確認するためにここに来たのでは?」
「そうかもしれません。」
美耶は頷く。美耶は9d88に言った。
「私は、その生命体は、緑色生命体だと思うんです。」
「…根拠は?」
「意味がまるで分からないからです。サクコブやクザラル人が、こんな事をしても何の意味も無いでしょう。」
「緑色生命体にしても、そんな事をする意味は無いのでは?」
「もう一つの理由は、」
美耶は無視して続ける。
「シェアジャの時に現れたという事です。あの時の逆転…あれを魔法で起こそうとするなら、緑色生命体以外には不可能なんじゃないですか?」
「それは…確かにその通りです。ですがそれも、意味が分かりません。」
「でも、緑色生命体って、意味の分からない存在なんでしょう? 私達にとって。」
「…」
「緑色生命体なら、生命反応が周囲に全く無いような宇宙空間から、急に瞬間移動でアリーザちゃんの偽者を出す事だって簡単ですよね?」
「…確かに、出来る出来ないで言えば、緑色生命体は確立の高い可能性です。ただ問題は、だとしても理由が説明出来ない事です。」
「前に、ひーこや私の偽者が出た事がありましたよね。中国にいた頃。」
「ええ。確かにあれは、緑色生命体でした。」
「でもあれも、意味は全く分からなかったですよ。」
「ええ、その通りです。」
9d88は頭部を振る。
「彼等のする事は私達の理解の範疇は超えています。例えて言うなら、地球のネズミが地球人の行動を理解できないのと同じように。」
「でも、彼等はそれをネズミである私達に一々詳しく説明はしませんよね。」
「そうですね。彼等は私達を相手にはしません。」
「おかしいですよね、だとすると。仮にひーこの見ていたものが緑色生命体だとすると…魔力的にはそれが一番可能性が高いんでしょう? でも、そうだとすると、緑色生命体の人達は、ひーこにはずうっと親切に語りかけ続けている事になるんです。本来は私達を相手になんかしない生命体のはずなのに。」
「…」
「ね、段々訳が分からなくなってきたでしょう?」
美耶は笑って肩を上げた。
「訳が分からないのは、情報が少なすぎるからでは? 今の段階でこれ以上の推論は難しいでしょう。」
「だけどね、9d88さん。私、緑色生命体には、何かあると思うんです。今の地球人の状況を変えられる何かが。」
「クザラル人、私達、サクコブ生命体と来て、次に地球人が頼るのは緑色生命体ですか?」
9d88は羽を上げた。
「それはいくら何でも、無謀に過ぎると思いますが…」
「今すぐ助けを請うって言ってる訳じゃないですけど…でも、出来る事は何でもやっておきたいし。」
「出来るというのは、何をですか?」
「だから、」
美耶は壁に向き、タッチパネルに指を触れだした。
「緑色生命体の方とコンタクトをとりたいな、と思って。」
「…それは、出来るのなら興味深いですが、私達も定期的なコンタクト等をとってはいませんよ。どこにいるかも分かりません。彼等は、私達を相手になどしていませんし。」
「でも、会った事はあるんですよね。私達やクザラル人は会った事も無いんですから。それよりは05の皆さんのデータネットを見てみたほうが、参考になるかなって思って。」
美耶は指を動かしながら言う。
「もちろん、実際に会って話が出来ればベストですけど。多分彼等なら、ネットを通じて話も出来ますよね?」
「…分かりました。私も最近緑色生命体を目撃した05生命体がいないか、一応検索はしてみます。」
「ありがとう。」
「それにしても…いくら佐藤代表の御友人とはいえ、随分熱心ですね。」
「ひーこも今、友達少ないですし。」
軽く肩を上げる美耶。
「…それに、言いにくい事ですが、全ては佐藤代表の思い込みという可能性も決して低くないのでは?」
「少なくとも、シェアジャの奇跡は思い込みじゃないでしょう?」
「それはもちろんそうですが…」
美耶は手を止め、9d88のほうに振り返った。
「夢はね。…私、見ているんですよ。多分、同じ内容のを。子供の頃から…私、病気にかかって入院したり退院したりをずっと繰り返してきたような子供だったんですけど、病院のベッドで寝ている時とかは、昔から決まってその夢だったんです。この間、520…いくつの船にいた時も、その夢でした。」
「…」
「ニ人が同時に同じ精神病なんて有り得ないでしょう? つまり、これには何かがあるんですよ。少なくとも。…多分、未来が変わる何かが。」
美耶はタッチパネルを触れる。ディスプレイに新たなウインドウが開きだした。


バーチャルディスプレイ上にエウグ語でデータが表示されている。文字の上に指が触れると、電子音と共にその場所から新しい情報が別ウインドウで出てくる。
<…>
ピッ、ピッピッ。
<ふう…>
画面に大きなウインドウが表示され、地球の世界地図といくつかの点が示される。そこで彼女はコーヒーを飲み、ほっと息をつく。
ディスプレイの向こうのドアからノック音がする。彼女は顔を上げた。
<どうぞ。>
ドアが開き、光が漏れる。
<来た?>
<はい。今は司令室にいらっしゃいます。>
ドアから顔を出した茶色い肌のクザラル人男性が小さく頷いた。
<…>
<来た、ってよ。>
<…じゃあ行ってくれば良い。私はここを動く気は無いぞ。>
<…>
ジュチャは、近くのベッドで寝転がりヘッドホンでウォークマンを聞いている小英に目を向ける。
ジュチャはドアの方に再び顔を向けた。
<分かったわソドゥ。それじゃあ、ここにお呼びして。>
<ここ…ですか?>
<おい、ジュチャ…!>
<動かないんだったら向こうを呼ぶしかないでしょう?>
ヘッドホンを外し、小英は起き上がる。
<そうじゃなくて私は会いたくないんだ!>
<それは良くないわね、小英。お客さんとは良い関係性を育むものよ。>
<…>
冗談っぽく念じるジュチャに、小英は怒気混じりのため息で答える。
<お通しして。>
<…>
ソドゥはジュチャに一礼すると、ドアから姿を消す。彼と入れ替わりに、ドアに新しい人影が現れた。
<…元気?>
ジュチャはドアの方に笑いかけ、頷く。
<久しぶりね宏子。さあ、遠慮しないで入って。>
<じゃ、お言葉に甘えて…>
宏子はジュチャに微笑み、部屋に入ってくる。
その部屋は薄暗く、あまり掃除が行き届いてはいない。物の乱雑さとスペースの狭さは、ここがEIMの新しい本拠地であるかのようだ。
<えっと…>
宏子は狭い部屋の中を見回す。
<座る?>
ジュチャはその場に一つしかない椅子から腰を上げた。
<あ、良い良い。床に座っとくよ。ジーパンだから汚れても別にアレだし。>
笑いながら宏子は壁際に腰を下ろした。
<それにしても…>
宏子は横目で、ベッドに寝転がりこちらから顔をそむけている少女の方を見る。
<ここの魔法少女さんには、あまり歓迎されてないみたいだね。>
<気にしないで。今日はたまたま機嫌が悪いのよ。>
<…>
ジュチャの念を聞いた宏子は、反論を期待するような視線でもう一度小英の方に目を向けた。
<…>
<…>
<…はあ。>
宏子は息を漏らした。
<それで、わざわざこんな所にどうしたの? 来るのだって大変だったでしょう。>
ジュチャは足を組み、机にあったコーヒーに再び手を付ける。
<え、うん。…ってジュチャ、何、飲んでるの。>
<コーヒーよ。地球の。>
<そうだろうけど…人前で?>
<地球人の前なら良いだろうと思う事にしたのよ。>
カップを持ったジュチャが肩を上げる。
<はあ…>
<馬鹿馬鹿しいでしょう、飲食は人間にとって必要不可欠なものであるのは自明なのに、それをわざわざ隠蔽するなんて。無意味である以上に、凄まじく非効率的だわ。>
念じながら、一気にコーヒーを飲み干すジュチャ。
<…ふう。>
<でも…プオやシユマですら、人前で飲み食いとかは絶対にしてないけど…私達は平気であいつらの前でしてるけどね。>
<それはそうよ。彼等は誇り高い正義の反乱者だもの。そんなだらしのない事なんて出来るはずがないわ。>
ジュチャは肩を上げた。
<…>
宏子の眉が下がる。
<嫌な視線ね。宏子、忘れてないわよね、私達が今も戦っている敵同士だ、って事は。>
<…ジュチャ、…>
<同情だったらいらないわよ。同情っていうのは、自分の住む世界とは無関係と呼べるほどの格差で自分より劣っているような相手に対してするものでしょ。クザラル魔法協会はあなた達の「連合」とやらには一切劣ってなんかいないし、負けてもいない。それでも同情したいっていうなら別に止めないけど、こっちは別に、そんなものを必要としてはいないわ。>
<…そっか。>
宏子はゆっくり頷いた。
シユマは足を組む。
<何でも、魔力が無くなったらしいわね。>
<そんな伝聞形で言わなくても。取ったのはあんた達でしょうが。>
宏子は苦笑する。
<そうね。あなたは脅威だったから。魔力を消せばこっちへの妨害も出来なくなると思っていたんだけど…まあ、甘かったわ。>
頷くジュチャ。
<ずいぶん…あっさり認めるね。>
<今、カメラで撮ってる? 端末で録音とか、してないわよね? それならわざわざ否定するほどの事でもないわ。>
シユマは肩を上げた。
<はあ。…まあ、そうだね。私も最初、魔力が無くなった時は、もう、何にもしないで休めるのかな、って思ってたんだけど…何でだか、知らない内にまた、引っ張り出されちゃって。>
<勉強になったわ。私達クザラル人は、魔力に頼り過ぎだった、って事が。でも本当に大事なのはNKの有る無しなんかじゃないのよね。>
<そうかな…>
<ええ。一番大事なのは、やっぱり良い関係性なのだと思うわ。まあ、この言い方はゴニ教徒にしか通じないかもしれないけど…あなた、宗教は何だったかしら?>
<え、私は…えっと…仏教…なのかな? 多分。>
宏子は首をかしげつつ答える。
<ブッダも確か、自己の精神の鍛錬の必要性を説いていたわよね。>
<え、…んー…>
<つまり、そういう事なのよ。>
ジュチャは自分の念に納得した顔で頷いた。
<…>

<それで宏子は、こんな敵地にどうして身一つでやってきたの?>
ジュチャは宏子に尋ねた。宏子は唇を軽く噛む。
<ええと…個人的などうこうっていうのは置くとして、あくまでEIM代表とHYI地球支部代表の話っていう事で進めたいんだけどさ、>
<その条件には一個問題があるわ。私が、支部代表でも何でもないヒラだって事。>
<そなの?>
<ええ。ダイポ・レーが辞職して、今の魔法協会地球関係課師はナベール・スークー四級魔術師よ。って言っても未だに地球にいるのか、生きてるのか死んでるのかも定かじゃないけどね…>
<…>
<まあ、今日は私が代理で聞いてあげても良いわ。ことづけ役って事でね。>
<そう、なら良かったけど…>
<で、どうしたの?>
<…>
宏子はジュチャに顔を上げた。
<手を結びたいんだ、魔法協会と。>
<…なるほど?>
ジュチャは動きを止めて宏子を見た。
<でも宏子、良き関係性を目指すのは確かに素晴らしいけれど、私達がそう簡単に友好関係を持てるとは、残念だけどにわかには信じられないわ。私達の溝は決して小さい物とは呼べないんじゃない?>
<かもね。私達も魔法協会にされてきた事を忘れる気は無いし、それはそっちも同じでしょ。…けど、敵同士でも良い。今はまず、サクコブの攻撃を何とかして止めないと。彼等の攻撃の前じゃ、私達人間同士の差なんて、小さなもんだと思わない?>
<まあ、それはそうね…>
ジュチャは微笑み、机の上で指をコツコツと叩いた。宏子はジュチャを見る。
<じゃあ…>
<結論から言えば、断るわ。>
<…>
<そんな驚いた顔する事じゃないでしょう? 所詮、私達は敵同士なんだから。ここで私がイエスと言えば、それは驚くに値するでしょうけど。>
口を何度か開きながら、宏子がジュチャに念じる。
<理由を…聞いて良い?>
<理由ね…>
ジュチャは考えるように上を見上げた。
<一つには、私達にとってメリットがない事が挙げられるわ。パフタオチトゥに裏切られた今の連合は、戦力としてはっきり言って問題外だから。今、EIMに何人のまともな魔法少女がいるの? あなた達と一緒にいても、意思疎通に余計に時間がかかるだけで、私達にはプラスにならない。そもそも今、サクコブ生命体はJVKに組織的な攻撃を仕掛けてきてはいないわ。本星を消滅させた事で実質的に戦争は終結しているし、それで彼等も満足しているんでしょうね。だったらわざわざ敵と手を組むような必要は無いじゃない、私達には。>
<…>
<それにね。どんな状況下であれ、いくら「同じ人間同士」でも、組める相手には限度があるのよ。無理よ、宏子。私は、あなたが嫌いなんだもの。自分の母星が爆破されて、種族が絶滅の危機に追いやられるきっかけを作ったような相手と、手を組む? それは、いくら何でも無理がある話だと思わない?>
ジュチャは宏子に笑いかける。
宏子は顔を上げる。
<…私が嫌いなら、それでも良い。でも、それはジュチャの個人的な感情でしょ。>
<宏子。悪いけど、これは私「個人」だけが持っている感情じゃないと思うわ。>
<そうかもしれないけど。好き嫌いはともかく、本当にあんた達だけでやっていけるのか、って聞いてるの。確かに今は、サクコブがメインで攻撃しているのは地球かもしれない。彼等にとっては地球は第二のクザラル星だからね。だけど、それが終わったら今度はJVKで残っている殖民星に攻撃の矛先が移ったって、おかしくないと思わない? あんたの言う通り、EIMに大した力は無いよ。正直ね。でも、HNKの戦力はまだそれなりに残っているし、05の科学技術はクザラルより数段進んでいる。それに今、サクコブの使っている連鎖増幅式装置も、それに対抗出来るものをこっちで着々と開発してる。それが完成すれば、もうサクコブを恐れる事だってないんだよ。>
<ああ、それは凄いわね、あなた達には脱帽だわ。>
平坦なトーンでジュチャは念じる。
<そんなにあなた達が強いなら魔法協会と手を組む必要なんかないでしょう。あなた達にとって、魔法協会はモンスターよりも酷い悪の集団なんだから。>
<それは…でも、>
<宏子、あなたの思っている事を当ててあげましょうか。対抗する新兵器は、確かにあなた達で開発している、けど、思うように開発が進んでいないんでしょう。地球がどんどん攻められて一刻の猶予も無い時に、もうそれを当てにしていてはとてもじゃないけど間に合わないから、思いつく手段は何でも試そうとして、懸命にあがいているところなんじゃない?>
<…>
ジュチャは軽く首を上げる。
<でも、お生憎様。こっちはその気は無いの。>
<本当に…その結論で良いの? あんたは。>
<だって。地球人はまだ、守る物が残っているかもしれないけど…クザラル人にとっては、もう何も残っていないでしょう。>
<それは…まだ一杯あるじゃん! 人口の7割しか亡くしていないんでしょ、それだったら>
<7割しか?>
ジュチャが視線を向けた。
<…ごめん、それは言い方が悪かったけど、>
<宏子、確かにそうよ。7割しか亡くなってない。…人口で言えばね。だけど、文化で言えばどう? シオブラルの音楽も、ラザンチェの映画も、ゴン・パネユの文学も、ニグーワーの詩も、パのサーカスも、コココの彫刻も…全部消えたのよ。それぞれの国の自然や、文化財や、歴史、全てが消えたの。7割なんてとんでもない、クザラルのクザラルたる部分は10割全部吹き飛んだのよ。ゴニ教の教会も、ペッギン教の寺院も、スイ教会もアザルバ教寺院もテュン教寺院もプルジャーディー教寺院も全部消えたわ。ファキブトブの科学研究施設、カクリカの工業地帯、タリダダオのマーケット、オ・ホドウェーの美術館、ワニの城下町…全部、消滅したの。>
<…でも……地球は、>
<いい加減にしないか。>
宏子が念の来た方を向く。小英が起き上がり、宏子を睨んでいた。
<黙って聞いていれば自分達に都合の良い事ばかり、好き勝手に言って。自分がこれまで何をしてきたのか、今、どこにいるのか、忘れたのか?>
<でも、地球は、今、毎日何億っていう人が命を落としてる。あんた達が私を嫌いなのはよく分かってる、それは構わない。けど、地球人皆を嫌ってる訳じゃないでしょ? HYIは地球人との友好を看板にかかげてきたんだよね。協会の偉い人達が言っていたそれがどこまで本当だったかは別として、ジュチャ、あんたはそれを本気で信じて、地球人の為に働こうとしてきてたんでしょ。>
ジュチャは耳を揺らし、宏子に心から微笑んだ。
<あら。あなたがそう思ってくれているとは知らなかったわ。>
<それに小英、DNAがどうあれ、あんたは地球人じゃん。EIMや私が憎いのは良いけど、それで自分の星を、自分の国を見殺しにするの? もう今、中国だってボロボロなんだよ。>
<だから、黙れって言ってるんだ。>
小英は宏子に近づき、宏子の口を指差した。
<宏子は何も分かってない。…そもそも、何で今、中国も含め、地球が危機にあると思う?>
<何でって…サクコブがいるから…>
<何でサクコブがいる? この間まではこんな大量には地球に来ていなかったのに、急にケタ違いに増えているだろう。確かに彼等の新兵器は強力だが、それを踏まえても、ちょっとは不思議だと思わなかったのか?>
<それは…確かに不思議だけど…>
<魔法協会の防衛部隊が地球を守れなくなったからだ。>
宏子は眉をひそめて聞き返した。
<…防衛部隊?>
<魔法協会は地球を、クザラル本星並みの厳重な防衛ラインでガードしてきていた。対サクコブの機密保持上それらの宇宙船は隠れているし、規模等も明らかにはされてこなかったが、その防衛ラインは10年以上前から存在していたんだ。…彼等がいたから、サクコブは簡単に地球に近づけなかった。それで、地球人は今まで危機に陥らないですんでいたんだぞ。>
<嘘…何、それ…>
<嘘じゃない。クザラル人の存在を地球人が知るようになってからは、ちゃんと広報活動もしてきた。しつこい位に。それを「防衛ラインの詳細を示せないようでは、虚偽のプロパガンダであるとしか考えられない」と言ってずっと否定してきたのは、宏子、EIMの広報部だ。>
<そ、んな…>
<地球の防衛ラインは今、消滅している。クザラル星が爆破されてから、防衛ラインにある船を運営する為の燃料や物資を供給出来ない。ラインが維持出来なくなった。…だから、地球は今、危機にあるんだ。>
<…>
<どっちが「正義の味方」だったのか、もう一度ゆっくり、考え直してみた方が良いんじゃないのか。>
小英は鼻息をつくと、ドアを開け、部屋を出て行った。
<…>
<…さっきも言ったけど、今日は彼女、機嫌が悪いのよ。>
<…ジュチャ…>
ジュチャは立ち上がり、肩を上げる。
<私も確かに感情的になっていたわね。それは謝るわ。まあ、それこそゆっくり考えて。…ゆっくりしていって良いから。少なくともあなたは、今すぐイハッジャを…今なら照射機かしら、を私達に向けたりはしないでしょう? その点は信用出来るわ。シユマ辺りとは違ってね。>
<…>
<あなた用の個室を用意させるから、それまでここで待っていてもらえる? 何分もかからないと思うから。>
ジュチャはそう念じてドアから部屋を出る。
<…>
ドアが閉まり、部屋は再び薄暗くなる。
<…>
宏子は床に座ったまま、自分の足先の床を見つめ、震える息をつく。
<…>
宏子は乾いた目を閉じ、両手でまぶたを覆った。


古いむきだしのコンクリート壁の、先程までいた部屋と何がどう違うのか判然としない個室で、宏子は部屋の壁を見回した。
<…>
宏子は何かを隠すように左手を目の高さまで上げ、自分の手前側に向けた左手のひらをちらちら見ながらきょろきょろと体の向きを変える。やがて彼女は天井近くの壁のある一点の方向に向き、もう一度自分の手のひらを見た。
<…>
ピピッ。
宏子が隠した何かを右手の人差し指で押す。するとどこからともなく電子音が鳴った。
<これで、ダミー映像送信完了、と。>
宏子は左手で隠していた小型のバーチャルディスプレイの一部に触れて、それを消去する。
ピッ、ピッ。
宏子は端末も何もついていない自分の右手の甲を数度叩く。すると新たなバーチャルディスプレイが宏子の前に現れた。
宏子はタッチパネルを操作する。操作を終え、宏子はそのまま、動かないディスプレイを眺めている。
<…>
数秒の間を開けて、ディスプレイに青い顔が表示された。
「おい、宏子かっ!?」
興奮した様子のニグーワー語が部屋に響く。
「ちょっと、プオ、静かにして! この通信は秘密なんだから!」
小声で宏子はディスプレイに喋る。

「そうか。…今どこにいる?」
宏子と同じくらいのひそひそ声で、画面のプオラギイックが言ってくる。
「HYI地球支部の今の本拠地の一つ。ジュチャ達のいる所。」
「HYIだってっ!?」
「静かにしてって言ってんでしょっ!」
「ああ、すまん…それにしても…本当なのか?」
「そんな嘘ついてもしょうがないでしょ。あ、ちなみにこれ通信の許可とってないから、いつ切れるかも分からないからね。」
「お前、こっちがどれだけ心配したか…」
「分かってる。だからこうやって出来るだけ早く連絡入れたんじゃないよ。」
画面に笑う宏子。
「三日も音沙汰無しで言えた台詞じゃないんじゃないのか、それは。大体仮にHYIのアジトに行くにしろ、その前に一言言えば良いだろうが。」
「一言言ったら止めたでしょ?」
一瞬絶句し、プオラギイックはため息をつく。
「大体、瞬間移動も出来ないくせにどうやって行った。…宇宙船をチャーターしたとか言うなよ。」
「本当はそうしたかったんだけど、HYI側を刺激しそうだったからさ。…まあ、チャーターしたんだけどね。」
「したのか!?」
「でも探す間だけで、その近くに着地してからここに来るまでが大変だったの。…まあ、そういう話は後でゆっくりするよ。」
「宏子、その、宇宙船って言うのは…」
「シユマだよ。…あ、船に同乗してくれたのはレワフィだけど。」
プオラギイックは呆れた顔を返す。
「ついでに皮膚下ビルトイン式の腕端末まで用意してもらっちゃった。」
「はあ…まあ、無事なら良いんだが…洗脳を受けたりしてないだろうな?」
「今のところは大丈夫だと思うけど? それよりプオ、そっちの本部、攻撃にあったんだって?」
「ああ。9人やられた。建物、というかエリア一帯が全壊。今はテント暮らしだ。」
「そうだったんだ。確かにいつあってもおかしくないとは思ってたけど。…こっちもちょっとゴタゴタしてて、連絡が来たのが、一日遅れだったからさ…」
画面のプオラギイックは首を上げた。
「いや、こう言っちゃ悪いが、仮にお前がいても何も出来なかっただろう。本当にサクコブに皆、手も足も出なかったよ。じっと息をひそめて隠れて、それでも彼等に見つかって、最後の抵抗をしたが、彼等には引っかき傷もつけられなかった。正直、犠牲者を9人で抑えられたのが不思議な位だ。」
「そうだったんだ…リーちゃんとモーちゃんは無事?」
「…」
若干の沈黙の後でプオラギイックが眉を上げる。
「誰よその、リーちゃんとモーちゃんって。」
ディスプレイの向こうからインド系の言葉が聞こえてくる。宏子はにっこりと笑った。
「あ、リーちゃん元気?」
「…元気じゃないわよ。宏子、こっちは大変だったんだから。」
プオラギイックの横からリジュワナが顔を出し、こちらに冷たい目を向けた。
「あー、大変は大変だけど、リーちゃん元気だよ。相変わらず愛想は無いけどね。」
画面には入ってきていない誰かのフランス語が聞こえてくる。
「だからその言い方は止めなさいよ。」
「…あの、取りあえず皆、もうちょっと小声で喋ってね、お願いだから。」
宏子は画面の前で指を立てた。
「リジュワナちゃんはねえ、むしろ、状況が危機的になると元気になるところがあるんだよね。」
モニクの小声がディスプレイから聞こえてくる。
「誉め言葉と受け取っておくわ。でもモニク、今度からそういう心理分析は、出来れば本人のいない場所でやってほしいわね。」
「…まあ、ニ人は大体こういう調子だ。」
「うん、よく分かった。」
宏子はプオラギイックに頷いた。
「じゃあ、ミーちゃんはどう?」
「…ミーちゃん?」
眉を寄せるプオラギイック。
「それは通じなかったか。…美耶。あの慢性虚弱体質はどうしてる?」
「ミヤ? ええと…」
プオラギイックは視線を泳がせ、隣のリジュワナに目を向けた。
「ミヤ…って、知ってるか?」
「…」
リジュワナはしばらく考え込んでから首を振る。
「何? あんた達、美耶と何か喧嘩でもしたの?」
宏子の言葉に、プオラギイックとリジュワナは不思議そうに目を合わせる。リジュワナはふと口を開け、こちらに向き直った。
「宏子、名前を間違えているでしょう。ええ、ビルクナ隊員なら無事。でもいい加減、彼女のファーストネーム位覚えてあげなさい。ミヤじゃなくて、ミッラよ。」
「何言ってんの? いくら名前が似てたってミッラと美耶を間違える訳ないでしょうが。大体ミッラは健康優良児だし。私が言ってるのは美耶だよ、幸田ちゃんの方。」
「コーダ?」
「…」
眉をひそめるリジュワナ。宏子は息を飲んだ。宏子は画面に映っていない相手に呼びかける。
「…ねえ、モニク?」
「えっと…ごめん、分からない。国府田マリ子だったら知ってるけど…その人も、日本人なの?」
「…」
「宏子。そのミヤっていう奴は誰なんだ?」
「…」
宏子はまばたきを繰り返し、自分の口を手でおさえた。
「…宏子、どうしたの?」
「…ごめん。」
吐き気をおさえるようにして、宏子は答える。
「今ちょっと、めまいが…」
「大丈夫か?」
「うん…」
「それで? その、ミヤっていう人は何? 私達が知っているはずの人物なの?」
「う、うん…」
「それを俺達が知らないという事は…どこかの時点で俺達に系魔法がかけられているという事だな。」
「っていうとやっぱり、ウボンが攻撃された時なのかな?」
「は…はあ…は…」
プオラギイックは耳を揺らし、こちらを見る。
「おい、本当に大丈夫か? 呼吸が荒いぞ。」
「あのね…その、美耶っていうの…凄く、あの、大事な、友達だったのね、私にとって…」
「まあ、ここで聞く位だからそうなんだろうな。」
宏子は呼吸を整えながら話す。
「その…それが…いないの。もういなくなっちゃったって、今、分かっちゃった。」
プオラギイックと一瞬目を合わせたリジュワナが首を振る。
「宏子。そう思い込むのは、まだ早いわ。確かに私達はそのミヤさんを今、覚えていないけれど、仮に系の魔法なのであれば解けるはず。それで思い出せば、彼女?がどこへ行ったのか、手がかりもつかめるはずよ。」
「そうじゃないの。そういう意味じゃなくて…もう帰ってこない。もう、生きて帰ってはこないっていうのが…」
「何でそんな事が分かるのよ。」
「それは…分からない…」
リジュワナ達は呆気にとられた顔でこちらを見ている。
「でも、分かるの、それが…何でかは分からないけど…」
「…宏子、」
リジュワナは言葉を捜しながら語りかける。
「宏子、それは…不安になっているからそう思うだけよ。あなたの友人が務まるような豪胆な人なら、生きてないなんて事はないわ。大丈夫。」
「違うの、はっきり分かるの。もう帰ってこないって。何でだか、感じられる…」
「…」
「…はあ、はあ…はあ、…うっ」
頬をつたう涙を拭いもせず、宏子は胸元に手を当てた。
「姉貴も、アリーザも、石戸田も、志穂も、皆どうして? 私だけ残して、皆…でも美耶だけは、あいつだけは私を置いてったりなんてしないと思ってたのに…」
リジュワナがぎこちない表情でこちらを見ながら言う。
「連絡が…無いだけじゃない。あなただってここ数日行方不明だったのよ。でもただ、ちょっと連絡が遅れてただけなんでしょう?」
「そうだけど、でも美耶は…」
「宏子、それならミヤさんだって同じよ。あなたはそうじゃないって言うけど、何か証拠がある? 別に無いんでしょう。魔法でピンと来た、なんて言わないでよ、今のあなたには魔力だって別に無いんだから。」
「それは…そうだけど…」
ズウウウウウウウウウウウウン。
壁が揺れ、机の上のカップが音を立てた。
「…え…?」
周囲を見回す宏子。
「…おい、今そっちの方から音が…」

ゴガガガガアアアアアアアアアンッ!
部屋が激しい振動に見舞われる。同時に何かの落ちている音が大音量で響き渡った。
「おい! 宏子、」
「あ、また後でかける!」
宏子は右手の甲を叩きディスプレイを消す。
ゴガガガガ…。
部屋のドアが開き、ソドゥが顔を出す。
<佐藤さん、>
<サクコブ?>
<はい、脱出を御案内しますので付いてきて頂けますか。>
<うん。>
頷く宏子。ソドゥは一礼し、通路へと走っていく。
<…ごめんね、あんたらの役に立たなくて。>
呟きながら宏子はソドゥの後ろを走り出した。


<あ、宏子。こっちは通れないわ。そこから曲がって行って、非常用通路があるから。>
<うん。>
ステッキを持って通路の角に立っているジュチャに頷き、宏子は通路を走る。前を行くソドゥが急に立ち止まり、宏子は背中にぶつかりかけてバランスを崩した。
<どうしたの?>
<魔力反応が…>
ガガガガガガガアアアアアアアアアンッ!
ソドゥが念じ終わる前に振動が起きる。今度こそ宏子はソドゥにぶつかり、それから廊下に尻餅をつく。
金属と岩石を打ち付けたような音と共に数メートル向こうの天井が崩れ、2階の壁がのぞいている。サクコブ生命体の出す破擦音がどこからか聞こえてきた。
落ちた天井の細かなコンクリート片で、前の視界が遮られる。
<ふう…戻る?>
立ち上がった宏子が念じた。ソドゥは腕端末を見て首を上げる。
<…いえ、他の道はモンスターと直接顔を合わせないと抜けられませんので、申し訳ありませんが佐藤代表にはここを通って頂くしかありません。>
<オッケー。ま、良いダイエットにはなりそうだよね。>
肩を上げながら、宏子は目の前のコンクリート山を登りだす。
<気をつけてください。天井は不安定ですし、いつ第二波がくるとも限りません。>
<ご忠告はありがたいけど…よっと、…でも、注意しろって言われてもねえ…>
鉄骨の生えたコンクリート片をまたぎながら、宏子はまだこちらに来ていないソドゥに振り返る。
<佐藤さんっ!>
<え?>
ソドゥが駆け寄る。次の瞬間、まだ上の鉄骨にぶらさがっていた天井の破片が、宏子のいた所になだれをうつように落下してきた。
「っ!」
頭に天井が、今まで落ちていなかったのが間違っていたかのように、覆い被さるように降ってくる。宏子はとっさに目をつむった。
<…>
突然危険が襲ってきた時は、とても時間が進むのが遅く感じられるものだ。宏子はそう思った。自力で逃げられる位遅ければもっと良いのだが、自省の時間が与えられただけでも幸運と呼べるのかもしれない。
<…>
空気が生暖かい。ここはタイほどではないが温暖な場所なのでそれも自然な事だが、この暖かさは冬にストーブにあたった時のような、微妙に気持ちの悪い違和感を宏子に覚えさせる。
<…>
宏子は目を閉じている。
<…>
いい加減長く感じられて、宏子は目を開ける。
<…あ。>
ソドゥのそばまで駆けつけてきた小英が、ステッキをかかげ、宏子のいる場所までを包む形で防御膜の半球を光らせていた。
シュウウウン、シュウウウウン、シュウウウン、シュウウウウン…。
<急ぐぞ。この向こうに小型艇を待たせている。>
自分の防御膜を震わせて、上に乗っている天井のかけらを落としながら小英は念じた。
<あ…ありがとう。>
<…個人的に、助けたいと思っている訳じゃない。仕事でやってるだけだ。>
<それは…そうだろうけど。>
<行くぞ。>
防御魔法を解除した小英はにこりともせずに、宏子の横をまたいで通路の向こうへと歩き出していく。
<…>
宏子はソドゥと頷きあい、小英の後へついていく。

<こっちです。>
照射機を構えたソドゥが先頭に立ち通路を走っていく。
突き当たりのドアでソドゥは立ち止まり、宏子に振り返った。
<ここから建物の外に出ますので、特に注意して…>
ソドゥの背後でドアが開く。咄嗟にソドゥは照射機を、小英はステッキを向けた。
<…降伏します。>
両手を胸元につけ肘を上にあげたジェスチャーで、ジュチャが軽く笑いながら念じた。ソドゥと小英は腕を下ろす。
<遅刻よ。待ち合わせ時刻を忘れたのかと思って迎えに行こうとした所だったわ。>
<時刻は覚えていたが、道が渋滞だった。>
ジュチャは小英に肩を上げる。
<そう。こっちは渋滞どころの騒ぎじゃなかったわよ。でももう大丈夫だけど。…来て。>
彼等は建物の外に駆け出した。

工場の駐車場のようなスペースに、小型の戦闘機程度の大きさのクザラル船が着地している。青い光が、音の無い雷のように空を何度か照らしている。
<…どこが大丈夫なんだ?>
身をかがめながら四人は宇宙船前部横にある扉まで走る。
<数秒気づかれなければ大丈夫よ。>
小英に答えるジュチャ。ソドゥが聞く。
<他の乗員は?>
<あなた達が最後。>
ジュチャがソドゥの方を向いて念じる。ソドゥはジュチャの背後を見て耳を立てた。
<議員!><ジュチャ、危ない!>
<え?>
振り返るジュチャ。

サクコブ生命体から発せられた青い光が、目の前を横切る。
それはジュチャの足元数センチ横の地面をかすめ、そのまま建物の方向へ、日本刀を差し引くように流れていく。
<…>
息をのむジュチャ。自分の足元を確認した彼女は顔を上げ生命体に目を向ける。サクコブ生命体は足の一本に怪我を負い、攻撃のコントロールが悪くなっているようだ。
<宏子…>
小英の念に、ジュチャは振り返った。
<え? …もしかして…今の、宏子がやったの?>
<あ…うん…多分…>
何も持たず、サクコブ生命体に向かい両手だけを構えていた宏子はふと我に帰り、頷いた。
<つまり、嘘をついていたんだな。>
<あ、ううん、嘘なんかついてないって。私…確かに今、思わず攻撃を止めさせようって身構えはしたけど、何で…だって、私、魔力はもう無いはずなのに…>
宏子は目を広げ、自分の両手を見下ろす。
<NKの測定値を変えるような系魔法が個人で出来ればかなりのものです。失礼ながら佐藤代表でもそれは困難なのではないでしょうか。>
<だけど実際、>
<どっちでも良いわ、今はとにかく全員早く、外で立っていないでこっちに乗って。>
ジュチャの念に小英は不満気に息をつく。彼等は既に開いているせり上がり式の扉の中へ走り込む。
<何はともあれ宏子、助けてくれてありがとう。>
<…こちらこそ。>
最後に扉に入った宏子に念じるジュチャ。宏子は上目遣いになりながらぎこちなく念じる。宏子の背後で扉が下におり、密閉された。
<パイロット、離陸開始!>
<了解!>

宇宙船はふわりと浮かび上がり、バックしながら旋回して、黒ずんだ市街地の上空をそのまま猛加速で飛行しだした。青い光の波は、その間も何度も空にまたたいていた。

続く



Written by FML (AKA Franken).
Ver. 1.00 on 2003/2/26.

<あのさあ。この間プオも言ってたらしいけどさあ。この話ってもう、どっこも魔法少女物じゃなくなってると思わない?>
<ん? でもお前は、魔法少女は嫌なんだろ?>
<そうだけど、殺伐とした話が続く位だったら、付いた離れたとかの方がよっぽどマシじゃん。>
<まあな。結局戦争なんて、誰もしたくてしているものじゃないのにな。>
<なるほど。それでは魔法使いの私が、そんなあなた方の夢をかなえてさしあげましょう!>
ぽわぽわぽわーん。
<…コスプレしてても文字だと全然伝わらないんだけど…で、何?>
<まずは今までのエピソードを全削除! ひーこちゃんがプオちゃんと出会った所からやり直しです!>
<うわ、それはそれで今更嫌だな…>
<ただし、ひーこちゃんはこの世界から逆行しています。そう、もう一度全てをやり直すために、未来から時を越えてやって来たのです!>
<あ、じゃあ私、まずプオと出会うのやめるわ。もっとイケてる男と出会う事にする!>
<オーケー! ナイス判断!>
<…お前達、すでに最初の趣旨忘れだしてないか?>
<しかしひーこちゃんの逆行には隠された目的がありました…そう、この世界でとっても憎かったアイツに天誅を下すために!>
<あ、そのヤラレ役がプオで良いよ。>
<…>
<しかしイケてるお兄さんとプオちゃんには、実は秘密のエッチな関係があっ!>
<なななななななななな何ですってえええええっ!>
<…えー、次回、「魔法少女佐藤」第24話、「魔法少女なんかじゃない」。お楽しみに…>
<そしてプオちゃんはその彼に捨てられ、何だかんだあって男娼にっ!>
<きゃあああっ、スケベよ、ドスケベだわっ!>
<後数話で話も終わるんだし…お前ら話、まとめてくれよ…頼んだぞ…>



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