|
「これじゃ不公平じゃない! 不公平っていうか人種差別だわ!」
「何を勘違いしているか知らないけど、クザラル魔法協会は人種の分け隔てなく会員を受け入れている、皆に開かれた団体よ。ちなみに会員にはクザラル人だけでなく、地球人もいるわ。」
「でもサクコブ生命体はいないでしょう? もちろん私達もいない。」
9d88が首を振る。
「少なくとも、HNKのように一民族のエゴで成り立っている組織とは根本的に違うのよ、私達は。」
ジュチャはそれを無視してシユマに言い放った。
「…ああ、やっぱり疲れてるんだ。あの人。私が何人だったのかも完全に忘れちゃってるみたいだし。ねえ、タオダ。」
「まあ多分、HNKの隊員になるにはコココ人であるか、身も心もコココ風になりきっている売国奴になるかのどっちかが必要なんでしょうねえ。」
「な…あんたね、」
青い肌のクザラル人男性がジュチャに向かって口を開いた。
「議員、もしかしたら少し、誤解があるのかもしれませんね。確かにコココ解放同盟の本来の結成目的は、コココ人をエウグ、カクリカ等の搾取民族から独立させる事にありますが、同時に私達はパ人に迫害されているユトラトブ人やジュムル人、ゴン・パネユの圧政を受けてきた西部オロ人、ダブーにコファウチタレ、ナールー人やグノーチ人の独立も支援してきています。ニグーワー連邦北部に住むタスヌサ人の場合等は、人種的には褐色人種のゴニ教徒ですが、彼等も我々の一員です。あなた方にとって「モンスター」が敵を象徴する言葉なのだとしたら、私達の場合、「コココ」は被抑圧者を象徴する言葉なのです。私達がいかに人種に開かれた考え方を持っていたかという事は、私達が既に一年以上前からEIMと同盟関係にあった事を考えて頂ければ理解してもらえるでしょう。」
「あー、そう、そう。その通りよ。」
あぐらをかいているシユマは、タオダの隣でうんうんと頷いた。
「それは不勉強だったわ。ご教授どうも、ユクネワコさん。…でも残念ね。今名前のあがった人種は全部、実質絶滅してるんだから。エウグも含めてだけど。」
肩を上げるジュチャ。
「あのね。その結果を招いたのは、そもそもあんた達が」
「ストップ。…ニ人とも、もういい加減にして頂戴。これ以上やりたいならテントの外よ。」
「…」
「…」
リジュワナが声を上げる。ジュチャとシユマは同時に息をつき、お互いにそっぽを向いた。
プオラギイックがジュチャに言う。
「いずれにしても、こんな提案をのむ訳にはいかない。HYI会員と連合メンバーが共同作業を行う際に、必ず連合メンバー一人に対しニ人のHYI会員がつく、って、不平等以前に、そもそも物理的に無理だろうが。今そっちは、動かせる会員は何人いるんだ。」
「ええと…確か43名ね。」
「うわ、少な…」
「…モニク。」
「あ、ごめんなさい。」
自分の頭を叩きつつ、モニクがジュチャに頭を下げる。
「今あなた達は、何人いるの?」
ジュチャが聞く。モニクは目をまばたかせる。
「え? あ…ええと、EIMが…24名。」
「24名!?」
「ご…ごめんなさい。」
引きつった顔のモニクがジュチャに答えた。
「私達は全員で15体です。」
「私達は33人。だから全員合わせると…えーと?」
シユマは30a0に顔を向ける。
「連合全体では72体ですね。」
「だってさ。」
「大差無いじゃない、私達と…」
呟くジュチャ。
「それでも合わせれば、連合の方があんた達よりも多勢だって事でしょ。」
「そうだ。40…何名だったって?」
「42。」
プオラギイックにジュチャが答える。
「42名、全員がこちらと共同作業を行うとして、こっち側からは最大21名しか参加出来ない? 冗談じゃないだろ、そういうのを協力関係とは、俺達は呼べないぞ。」
「それは残念ね。でも私達の場合は、自分達がいつ不意打ちにあって殺されるか分からない状況下での仕事を協力関係とは呼べないのよ。」
「ジュチャ、今はそんな細かい事を言ってる場合じゃないだろう。地球人をいかにして救うかが今は」
「細かい事? 自分達の命の保証を細かい事呼ばわりされたら、たまらないわ。」
「いや、だから、」
「残念だけど、私達は特に一部のテロリスト達には信頼感を持てないでいる。もう少し、誠意というものを見せてもらいたいものね、特に彼等には。」
ジュチャはシユマの方に流し目を送る。
「あのね、HNKは…」
言いかけて、シユマはふと自分の横を見た。
「…」
「…言いたい事を頭の中でまとめてから、口を開きなさいよ。」
「う…違うわ、HNKがその主張を、特に初期において暴力に訴えざるを得なかったのは、ゴニ教徒が彼等の自由を全て奪い、その考え方まで…」
<…ねえ、リジュワナちゃん。>
また険悪な雰囲気になっているシユマとジュチャを見ながら、モニクは再び小さなトーンで念じた。
<何。また誰か隠れた?>
冗談っぽく念じるリジュワナ。
<…>
モニクは無言で頷く。
<…本気?>
<…>
リジュワナを見るモニク。リジュワナは眉を寄せ、改めて円陣を見回す。
<さっきは…どこだったかしら、ジュチャと30a0の間に誰かいたんじゃないかって、そう言ってたわよね、あなた。>
<30a0さん…だったっけ? 誰か、違う05さんだったような気が…>
<それじゃあ、05の代表者が2体ここに出席しているの? でもそれだとバランスが悪いわよ。だってHYIのジュチャに、HNKのシユマは、それぞれ一人だけで出席しているんだから。もちろん、すぐ後ろに他の隊員はいるけれど。>
<あれ…でも、どっちかは、HYIだったかHNKだったか、は、ニ人前列に出てたような気がしたんだけど…>
<ジュチャと30a0の間に誰かいたのよね? だとするなら、ジュチャの補佐役じゃないかしら。…あら? そこにいたのが違う05だったの? それなら、30a0の補佐役でしょうけれど…>
<あれ…じゃあいずれにしても、シユマちゃんはずっとあそこに一人でいたの? …一番一人でいたらマズそうな人なのに。>
<…何がマズそうなのよ。>
いつのまにかジュチャと話し終えていたらしいシユマが、モニクの目の前に立っていた。
「うわああああああああああっ!」
叫びながら、踊るように後ずさるモニク。
「…」
「どうしたの?」
向こうから、ジュチャがこちらに聞いてくる。モニクは愛想笑いをした。
「あ、いや、何でもないんだけど…」
「私が一人でいると、何がマズいって?」
「あ、いや、その…」
「あなたが本来は、一人ではなかったはずだからマズい、という話よ。」
モニクの隣のリジュワナが答える。シユマは眉を上げ、思わず後ろのジュチャと目を合わせた。
「…あなた、子持ちだったの。」
「…」
ジュチャの言葉に目つきの悪さで返答しながら、シユマは向き直る。
「一人では、なかった。」
「ええ。」
頷き、リジュワナは立ち上がる。
「私は気づかなかったのだけど、モニクに言わせると、あなたには補佐役がいたそうよ。」
「補佐役ならいるよ。ロララグとか」
「そうじゃなくて、誰かが会議に発言者として出席していたのよ。」
「いたのよ、って言われても…覚え、無いんだけど。」
「私も無いわ。でもモニクは…」
「いや、私も…そんなに自信があって言ってる訳じゃ…」
「…あのねえ。」
シユマは疲れた顔でモニクを眺める。
「でも、何か感じるものがあったんでしょう? 系魔法は調べた?」
「…」
ジュチャの言葉に、視線を合わせるリジュワナとモニク。モニクは腕端末に指を触れた。
「ええと…ううん。反応は」
「無いわね。」
頷くジュチャ。彼女も自分のバーチャルディスプレイを操作しだしている。
「じゃあ…気のせいなんじゃないの?」
息をつくシユマ。モニクは顔を曇らせる。
リジュワナはモニクに顔を向けた。
「モニク。率直に聞くけど、自分が何らかの異状にあっているという可能性は考えられる? ただの体調不良かもしれないし、何かもう少し深刻な事なのかもしれないけれど。」
「可能性は、それは…だって、そもそも最初から、自信があって言ってる訳じゃないし…」
モニクは上目遣いに周囲を見回す。
「…お騒がせしてすいませんでした。」
モニクは首をすくめてみせた。
プオラギイックが肩を上げる。
「まあ…それなら一応、ここからはより念入りに魔力反応はモニターしておこう。人が消えているかはともかく、何か、魔法少女が感じ取れる事が起きているのかもしれない。」
「でも、系魔法だったらモニクより、リジュワナの方が敏感なんじゃなかったかしら?」
ジュチャが言う。プオラギイックは耳を立てる。
「それは…そうかもしれないな…」
「私も体調が悪いのかもしれないわね。」
「まあ、とにかく全員、何か異常が無いか注意していてくれ。」
「…ですが、異常が起きるとして、一体誰のせいでしょうね。」
30a0が羽をふるわせる。
「サクコブ生命体が、私達のこの偉大な会合にそこまで注意を払ってくれているとは、正直考えにくいのですが。総勢107体のこの偉大な軍勢には。」
「…107体?」
リジュワナは眉を寄せた。モニクは目を見開き、30a0に顔を向ける。
「ちょっと待って。107体って、私達全員合わせてなんだよね。…内訳は?」
「…EIM23名、HNK30名、HYI41名、それから私達が13体ですが。」
モニクは自分の頭に手をつけた。
「…覚えておかないと…」
「覚えても、減った時点で忘れるんだから意味が無いんじゃないかしら。」
「それは、そうなのかもしれないけど…」
リジュワナの言葉にモニクは声を下げる。
「それでしたら、全体の数が素数だという事だけでも記憶してみておいたら良いかもしれません。107という数字の事ですが。」
「…多分それも忘れると思うわ。」
30a0に言うリジュワナ。
リジュワナは円陣を見回す。
「…とにかく、もしかしたら何か起きているかもしれないって、彼女が感じたそうだから…」
リジュワナは自分の言葉に息をのみ、改めて回りを見た。
「…彼女?」
「彼女って誰だよ。何か起きている、ってさっきからうるさく言っているのはお前だぞ。」
「…ええ、そうね。私がさっきから気になっている事なのだけど…」
リジュワナはプオラギイックに頷く。
「…私だったかしら?」
「…」
リジュワナはジュチャ、シユマ達に目を向ける。彼女達は難しい顔でお互いを見ている。
リジュワナは30a0の方を向いた。
「今の人数は?」
「105名。間違いなく、5の倍数ですが。」
「…」
リジュワナは腕を組む。
「確かに…人数は変わっていないようだけど…でも…」
「この数秒の間に、それらしい魔力反応は一切起きてないわね。」
手元のディスプレイに目を向けるジュチャ。
「ええ、そのようね。でもやっぱりおかしい。もう自信が無いなんて言わないわ。何かがおかしい。そしてこれは、私の体調の問題なんかじゃない。」
「…」
リジュワナが言う。ジュチャ達は、改めてお互い視線を向けた。
|