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「今の人数は?」
リジュワナが顔を向ける。プオラギイックが首を上げ、30a0の方に手を上げてみせた。
「いや、良い。聞いた所で意味なんか無いだろ。どうせ俺達には、さっきと比べて減っているか増えているかも分からないんだから。」
「一応言っておくと、104名です。」
シユマが肩を上げる。
「つまり8の倍数である、って事には違いは起きてない訳だ。…ま、多分何の意味もないだろうけどね、そのヒント自体さっきと変わってるとするなら。」
「一応、念のために聞いておくけど…これは一体どういうつもりなの。」
ジュチャの言葉に、一同はお互いの目を見合わせる。
眉を寄せ、プオラギイックが気の抜けた声を上げた。
「…は?」
「あなた達が、何か悪巧みをしているんじゃないか、って言ってるのよ。私の部下が、知らない間にあなた達に拉致されている可能性があるのは明らかだわ。」
「な…」
絶句するプオラギイック。リジュワナが眼鏡を上げる。
「動機はまあ分からないでもないけど、どうやって? 突然人の存在が消えるなんて、そもそも私達にはやり方すら分からないわ。系魔法なら何とかなるかもしれないけれど…それであなた達を欺けるほどの能力はこっちに無いはずよ。」
「そ…そうよ! 大体そういう事言い出したら、あんた達だって、っていうか、あんた達の方がよっぽど怪しいでしょ。人を拉致するなんて、HYIのお家芸だもんねえ。」
シユマを無視してジュチャはリジュワナを見る。
「…そう。まあ、そうでしょうね。」
「…随分あっさり引き下がるのね。」
「今言ったでしょう。一応、念のために聞いておいただけよ。」
リジュワナにジュチャは肩を上げる。そして、今気づいた、という顔で彼女はシユマのほうを見た。
「…ああ、ちなみに私達も、あなた達をそう簡単に欺けるほどの系魔法は使えないんじゃないかしら。」
「う…分かってるわよ、そんな事。…私も念の為に聞いただけだし。」
「そうだと思っていたわ。」
小声で言うシユマに、ジュチャは冷淡な表情で頷いた。
ジュチャはため息まじりに続ける。
「それじゃあ、仕方が無いわね。大変不本意だけど、状況が状況だし。この異変の調査は、私達が合同で行う事を提案します。」
「…」
リジュワナとプオラギイックは一瞬視線を交わす。リジュワナがジュチャに慌てて頷く。
「え…え、ええ、ええ。そうね。私もそれを提案しようと思っていたところよ。」
「そう。」
シユマが耳をぴん、と立てた。
「ええ? 待って、リジュワナ。こいつらは一応客なんでしょ? だったら、この場の異常は私達連合が調べれば良い事じゃない。わざわざお客さんの手を煩わせるのは、私は違うと…」
「…」
「…」
「…ニ人とも、視線で人を威圧するの、止めてくれないかな?」
こちらを睨んでくるリジュワナとジュチャに、拗ねたようにシユマが言った。
「シユマ、彼等の情報網や、魔力解析能力を侮るのは良くないわ。言っておくけど彼等がクザラル人の魔術の最高峰なのよ。彼等が一時的にでも、こちらに協力してくれるというのなら…」
「そういう長話も嫌いじゃないけどね、リジュワナ。外交辞令は今は後回しにしましょう。時間もあまり無さそうだし。」
「…ああ、そうだな。」
プオラギイックがジュチャに頷いた。
「それにしても、何をどうやって調査すれば良いんだ?」
「まずは、類似の事例が無いか、それぞれのデータベースをあたってみる事ね。」
「つまりあなたと、シユマと30a0は忙しくなるわね。」
リジュワナが口を開く。
「でも地球人はしばらく暇そうだわ。」
「そんな事はありません。今ここで何が起きているのか、どうしたらそれを防げるのか、状況のモニターや理論の研究なら、地球の方々の判断力が大いに頼りになります。」
「その通りよ。」
30a0の言葉に、ジュチャが頷いてみせた。
「…外交辞令でも嬉しいわ。」
リジュワナは微かに微笑み、テントの一同を見回した。
「それじゃあ皆、今日の仕事を始めるとしましょう。」
地球の小型飛行機のように狭苦しく、ゴチャゴチャと色々な機器の取り付けられた通路の中。数人のクザラル人達が、真剣な表情で、それぞれのバーチャルディスプレイを操作している。青い肌のクザラル人達が圧倒的に多い。
その中に混じって、椅子に座り自分の画面を見ていたシユマは、何かのモーターの音に気づいて顔を上げた。
「邪魔して悪いわね、支部長。ちょっと話したい事が…」
ジュチャが、宇宙船のドアから顔を出してきていた。
「…」
通路にいたHNK隊員達全員が、ドアに顔を向ける。どの顔も、余り愉快そうな表情ではない。
「…忙しそうね。出直すわ。」
首を上げながらジュチャはドアから離れ、帰っていこうとする。シユマは立ち上がり、ドアまで駆けつけた。
「ああ、待ちなさいよ。」
「あら、忙しいんじゃないの?」
「忙しいに決まってるよ、だから一々手間かけさせないで。...Adasu, boda u kan-a chi sasa aga todosgana
bapunan.」
周囲の隊員達に目を向けるシユマ。隊員達は皆、無言で自分達の調査を再開する。
シユマはため息まじりにジュチャを見る。
「で…何?」
「まあ、様子を聞きに来ただけなんだけど。」
「…」
ジュチャのエウグ語に、シユマは無言で頬を引きつらせる。
「その調子じゃ、まだ余り進展は無さそうね。」
「そっちはあったの?」
「進展と呼べるほどかどうかは分からないけれど。ある程度の推論というか、候補は考えているわ。」
「それじゃあ聞くけど…まず、犯人についてはどう思う? 誰の仕業?」
「それはまだ、皆目見当がつかないわ。」
「…」
シユマの耳が垂れ下がる。ジュチャは肩を上げる。
「分かる事から話すと、どういう可能性にしろ、相手の魔力はかなり高い、という事は言えると思うけど。」
「それだけじゃ…ちょっとどうしようもない気がするんだけど。」
「そうかもね。取りあえずこっちの対策としては、こっちも高い魔力を持たないといけない、って事ね。」
「あのねえ…それが出来ないから苦労してるんでしょ?」
「そうね。あなた達はそれで随分苦労してきたんでしょ?」
ジュチャは頷く。
「だから、こういった時にどうすれば良いのか、あなた達に聞きたい、と思って来たんだけど。何かノウハウは無いか、って。」
「…」
シユマはジュチャの言葉に、腕を組んで考え出した。
「検出しました。」
画面の電子音とともに、30a0がニグーワー語とベンガル語の合成音声を同時に発した。
05の宇宙船の、元・貨物室で、プオラギイックとリジュワナは05生命体に囲まれながら壁の大型ディスプレイを眺めている。
「ここです。ここで論理エラーが起きています。通常のセンサーの誤差範囲内という事で、私達の擬似意識上には当初、のぼってこなかったのですが。」
「魔力反応的には、どうなんだ?」
「一切反応はありません。…もちろん皆さんのMK反応は例外ですが、この瞬間に、特に不自然な反応の変化があったりはしていません。」
頷くプオラギイック。
「そうか…それでもこの瞬間に、何かおかしい事が起きた事は間違いない、と。」
「ええ。データ処理に不整合が起きています。何か矛盾した事が起きて、計算の答えが合わなくなったのです。…ほんの少しの間違いですが。」
「その矛盾というのは、人間が一人消えた、という風にとって構わないのかしら?」
「一人かどうかは分かりません。それに、人間だけでなく私達の可能性もあります。いずれにしても減っている、というのが、私の直感です。」
「…直感ね。」
微かに肩を上げるリジュワナ。空中に浮いている30a0は、羽を何度か揺らす。
「ええ。考えてもみてください。確かに私達は、戦いのせいで、最近は個体数も減ってきていますが、それを割り引いても現在のそれぞれのメンバー数、特に各執行部の数は少なすぎます。例えば私達の外交e870課及び防衛e86c課は、現在私を含めて課長が2体しかいません。確かにここにいるのは全体でも12体だけですが、私達の組織では普通、もう2、3体は管理職がいて良いはずなのです。」
「ああ…似たような事をジュチャも言っていたな。自分のところに国評の代表者がいないのは不可解だ、って。多分その代表者も本来はいたのが、知らない内に消えていたんだろう。」
30a0が合成音声を返す。
「その可能性が高いでしょうね。」
「…」
プオラギイックは頷く。
30a0のアンテナが光る。30a0は数度頭部を振って、二人に声を発した。
「代表、副代表、今、調査中に面白い物を発見しました。…面白いです。論理的にありえる話だ。…いや、これは非常に面白いですね。」
「何がそんなに面白いの?」
「クザラルの通信用照射線です。そこの4355が、独立機器の情報ネットを捜索中に発見したものなのですが、どうやら音声通信が行われたようです。」
「それで?」
「いえ、正確に言うとこれを最初に発見したのはフィキチュアジなのですが。そちらで情報が流れているのを、パフタオチトゥのバササク氏が知らせてくれまして、その確認を今、取ったのです。」
プオラギイックが30a0を遮る。
「いいから、内容は何なんだ? 何でそれが面白い?」
「それが…非常に信号が微弱で、こちらでかなり増幅をしないといけません。まだ解析は完璧ではありませんが…」
「音声を流せるんだな? それなら出来る範囲で良いから、まずは中身を聞かせてくれ。」
「そうしようと思っていたところです。」
30a0が頭部を振る。船のスピーカーから、雑音まじりの声が聞こえ出した。
「…あ…聞こえ…かな、プオ? リジュ…ナ、モニ…、シユマ、3ゼ…0、あ、もしか…らジュチャもいる…もしれないけど、ええと…私。…ああ、わ…じゃ分から…いかな、ええと、佐藤です。さ…宏子。今は緑色せ…に来てるの。…も、こっちに来てたみたい。って、それも皆、忘れ…か。まあとにかく、ええと、簡単に…ね、全部、…生命体が仕組んだこ…たの。防衛戦…ら、何から全部ね。クザ…クコブも、緑しょ…どらされていたんだ。皆、皆の敵は、お互い同…な…じゃない。緑色生命体が…ぎり、私達の間に平和は訪れない…ら、EIM代表として…ううん、一地きゅ…て、皆にお願い。地球を救うために、クザラルに平…たら…ために、サク…、軍事政…ら解…るために、皆、今す」
音声が途切れる。プオラギイックとリジュワナは、難しい表情でお互いを見合った。
プオラギイックは隣に顔を向けた。
「今の…」
自分の横には誰もいない。耳を立てるプオラギイック。プオラギイックは周囲を見回す。
<リジュワナ。>
<分かってる。また誰かが減ったんでしょう?>
<ああ…>
ため息まじりに念じるリジュワナに、プオラギイックは頷いた。
「今の音声は、地球の日本語という言語によるものです。」
彼等の立つ場所からやや離れた所で、壁の機械に接続されている状態の05生命体が音声を発した。
「そう。ええと…」
「4355です。」
「そうだったわね。」
頷くリジュワナ。
「今の音声では、通信の内容が分かりにくかったでしょう。お二人の使っている翻訳装置では文脈がつかめなかったはずです。今からこちらで、文脈を推理した上での翻訳文を表示させます。」
「ああ、そうしてくれ。でも奴の言いたい事は、もう大体分かった。」
「え? 今の発信者が誰なのか、もう分かったの?」
「自分でちゃんと、自己紹介していたじゃないか。」
「そうかもしれないけど、まともなベンガル語になってないわ。」
自分の耳たぶを指差すリジュワナ。
「…く…」
「何か、おかしいの?」
プオラギイックは笑いを隠し切れない様子で、体を震わせる。眉を寄せてリジュワナが尋ねた。
「おい。…リジュワナ、お前も随分薄情な奴だな。確かに俺も、ちゃんとしたニグーワー語で聞けた訳じゃない。でも「宏子」って言ったら、あの宏子以外いないじゃないか。」
「宏子…」
プオラギイックの言葉に、リジュワナは目をまたたかせた。
「宏子? いえ、宏子…宏子、…そうよ…ああ、そうよ、宏子だわ…どうして忘れていたのかしら…」
頷くリジュワナ。
「そうだぞ、宏子だ! 佐藤宏子だ! 我らがEIM代表じゃないか! あは、あはは、あははははっ!」
膝をうち、笑い転げるプオラギイック。
リジュワナは口を開きながら、何度も頷いている。
「そうよ。…代表は、彼女に決まってるじゃない。私が代表職なんて、不必要に目立つばかりで実利の少ない仕事をやっているのが、自分でとても不思議だったもの。それに、私達が以前いたのは日本だわ。…ダッカに世界中の魔法少女が集まるだなんて、たまったもんじゃないもの。…どこへ行っても黒山の人だかりで、まともに戦闘も出来なくなるじゃない。」
「あの…お二人は発信者の身元を御存知のようですが、一体何者なんですか?」
4355の言葉に、リジュワナとプオラギイックは目を合わせた。
「…困り者よ。」
「はあ。」
一語で答えるリジュワナに4355は羽を上げる。プオラギイックは4355を見た。
「彼女はまだ、そこで生きているんだな?」
「私達が分かっているのは、メッセージが何処からか来た、という事実だけです。」
「…つまり、彼女を騙った罠かもしれないのね。例えば緑色生命体とか。」
「そうだな。いや…多分これは、本人からのメッセージだろう。」
「何故、そんな事が分かるのですか?」
「勘だ。」
「…」
4355に自信ありげに答えるプオラギイックを、リジュワナは細い目で眺める。
プオラギイックは05生命体に顔を向けた。
「どんどん生命体が消えていっているのは、間違いなく緑色生命体のせいだな。」
「間違い無いというような確証は何もありませんが、緑色生命体のせいであると考えれば、理解はしやすいですね。彼等の魔力ならこれ位の事は出来そうですから。」
「問題は、理由ね。何故彼等がそんな事をするのかしら?」
「さあ…行動の理由位、彼等にまともな答えを期待出来ない質問も無いでしょうから…」
4355の言葉にプオラギイックが肩を上げる。
「じゃあ、行って彼等に直接確かめるしか、ないんだろうな。」
顔を向けるリジュワナ。
「行って、って?」
「そのままの意味だが?」
「…」
「…」
「本気!?」
「本気ですか!?」
リジュワナと05生命体は、同時に声を上げた。
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