| 涙、その後 |
「……いいえ、知らないの。多分私は三人目だと思うから」
○
「あんた何やってるか判ってんの」
「ええ、判っているわ。破壊よ。人じゃないもの。人の形をしたものだもの」
○
「ん」
少女はそこにいた。
「あっ」
見回す。壁には壁紙も無く床にも何も敷いてはいない。コンクリートの地肌が寒々しい部屋だ。
「ここはどこ」
軍用のパイプベッドをちょっと良くした程度の粗末なベッドから少女は身を起こした。どこかの学校の制服なのだろうか。セーラー服を着ている。
辺りを見回す。
見れば見るほど粗末な部屋だ。ベッドと小さな箪笥と小さな冷蔵庫しかない。ゴミ箱は溢れて紙屑が付近に転がっている。微かな腐臭もする。一つしかない窓のカーテンは破れている。ガラス戸が開いているせいでカーテンが風になびいている。中天の満月がちらちら見える。
少女は立ち上がる。少しふらついて目眩いもしたがすぐに直る。小さな箪笥に近寄る。箪笥の上に割れた黒縁メガネが置いてある。
「何これ」
その時ふと知識が浮かんだ。(司令のモノ)と。自分の記憶と言うよりまるで本を読んで判ったような感じだ。それも違う。誰かがその少女の横で騒いでいる様な感じだ。その変な感覚にとまどったがとりあえず無視をした。
部屋の中を調べた。本当に何もない部屋だ。
「……私は誰」
急に気が付いた。自分の名前が判らない。その他の情報全てがだ。慌てて部屋の中を探す。ない。何もない。
「これ……しか服がない」
タンスを探しても下着類しか入っていない。箪笥の横のフックに袋がぶら下がっていた。中に薬袋らしきものが入っている。
「内用薬……綾波レイ様……毎食後30分以内に服用の事……ネルフ一般健康管理センター」
手に取ると薬袋に書いてある文字を読み上げる。しばらくぼうっと見ていた。
「これが私の名前……綾波レイ」
自分の名らしき物を言っても何の感想も湧かない。薬袋を袋に戻した。部屋を見回す。ある事に気が付いた。もともと何も無い部屋だがある物が全くない。
「鏡が無い……」
探してみる。箪笥の中にも無い。冷蔵庫の中にも無い。くず箱の中も探す。無い。無い。無い
「なぜないの」
部屋の入り口の方へ行く。あまり使われていないキッチンがある。横には浴室らしい場所がある。浴室に入った。
「私……なの」
そこには縦に一本のひびが入った姿見があった。ヒビのせいで歪んだ少女の姿が写っていた。
「何この髪、瞳……アルビノ……違う」
また知識がどこかから涌いて来た。クローン時の遺伝子損傷による酵素障害……意味は判らないがそういう言葉が浮かんだ。
姿見に写った少女はどこかの学校の制服を着ていた。体全体がほっそりとしているせいか結構頭でっかちに見える。髪型のせいもあるかもしれない。固めの水色の髪はキノコかヘルメットの様に丸く成っている。少女は服を脱ぎ捨てた。薄く生える産毛も黒くなかった。微かに生える陰毛も水色だ。
「赤い……でも……輝いて見える」
瞳が赤い。単に瞳の色素が無い為赤く見えると言うより、赤く輝いているみたいだ。試しに少女は入り口にあった更衣室の明かりを消す。
「……」
やはり微かだが赤く輝いていた。明かりを付ける。スイッチを点ける自分の手が震えているのが判る。
「何これ、何なの」
足が震えた。思わず顔を手で覆いうずくまる。また頭の中で何かが動いたが以前よりずっと弱かった。しばらくそうしていた。少ししてから辺りを見回すと学生鞄らしき物があった。開けてみる。文庫本と携帯と何かのマニュアルらしき物があった。少女は携帯を手に取ると電話帳をみる。ネルフ技術部という分類が目についたので見てみる。赤木リツコ、伊吹マヤという順に名前があった。まず赤木リツコにかけてみた。出ない。次に伊吹マヤにかけてみた。
「はい。伊吹です」
「伊吹さんですか」
「レイちゃん……どうしたの」
「やっぱり私は綾波レイなの……」
「どうしたの変よ」
○
マヤは緊張していた。司令室など滅多に来た事がない。以前来た時はリツコのお供だった。
「現在の綾波レイは綾波レイとしての意識と記憶がありません」
「では今現れている者は何だ」
「本来の素体の意思だと思われます」
「そんな物があるのか」
「あくまでも推論です」
「綾波レイの意識のリストアは出来るか?」
「技術的には可能かと。但し赤木課長の技術が必要です」
「判った」
○
もう3日間だ。リツコは独房でずっと座っていた。何も考える事は無い。やがて最後の使徒が来るだろう。そうなれば終わるだろう。何もかも。どうなるにしろ。
リツコはただぼんやり座っていた。食事は日に二度出るが、ほとんど食べてない。独房と言ってもユニットバスも付いている。服も毎日着替えが出る。言えばいろいろな物も入れてくれる。無いのは行動の自由と情報の自由だけだ。
急に独房の戸が開く。こつこつと靴の音がする。リツコは顔を上げずに言った。
「マヤ、何の用」
足音で判った。
「先輩、釈放です、緊急事態が起きました」
「今更私に何かさせる気かしら」
冷たい声だ。今まではマヤに対してはそれなりに感情がこもっていた。今は凍り付きそうな、こごえそうな声だった。マヤは気を取り直し言う。
「ファーストチルドレンが記憶喪失に陥りました」
「記憶喪失」
興味を引いたようだ。リツコが顔を上げる。
「素体の意志が、意識が具現化しました」
「そう」
リツコはまた俯いた。微かに微笑む。
「司令の人形が壊れたのね」
呟いた。
○
「現状を報告します。今まで素体の検査、尋問を行った所……やはり素体の自意識と言う物が確認されました。ガフの部屋は空っぽでは無かったようです」
リツコの研究室だ。少女は裸でスキャナーの台に乗り眠っていた。麻酔をかけられたらしい。
「それはどうでもいい。レイを復帰させられるか」
ゲンドウが全く感情の篭らぬ声で言う。事実どうでもいい事なのだろう。
「可能だと思われますが」
「ではやれ。すぐに」
「はい。マヤこのままやるわよ」
「はい」
部屋にはリツコとマヤ、ゲンドウと冬月だけだ。リツコの腹心達もいない。マヤは別格なのだ。その為マヤが研究室をとびまわり準備をする。リツコはモニターでその準備のチェックをしている。
「課長準備終えました」
「MAGIによるチェックを開始」
課長と呼ばれたリツコは記憶消去・洗脳プロセスのチェックを開始した。MAGIを使っても数分かかる。その間にマヤが少女の体を固定具で固定していく。金属製の固定具からは電線が伸びMAGIの端末に繋がっている。固定具と言うより鎧だ。少女の体はほとんど金属に覆われた。
昔西洋に有った鋼鉄の処女という拷問用の器具に似ている。人がすっぽりと納まる金属製の鎧のような物の内側に致命傷に成らない程度の針が大量に植えつけられている物だ。中に閉じ込められた者は苦悶の限りを尽くして死ぬ。考えてみればこの装置も同じ事だ。ただ体を殺すのではなく心を殺すのだが。
体を内側から固定する為か、体孔にはチューブ付きの金具が差し込まれる。関節部分が微かに動く事を除いては少女の体は全く動かなくなる。
「準備は終わりました」
「始めろ」
「今の素体の意識は消去されますが」
「かまわん」
「はい」
リツコがキーボードを叩く。端末のディスプレイにデーターが表示される。特に何事もなく時間が過ぎていく。順調らしい。
「ん」
少女の方から微かに音がする。固定具の関節部分が揺れている。いきなり声が聞こえた。
「いあ〜〜」
口にも鼻にも管が通されているせいか上手く発音が出来ない。声も殆ど出ない。
「ひぃぃぃぃ」
苦しいだろう。絶叫さえも上げさせて貰えない。MAGIからのデーターにより徐々に少女の心が押し潰され殺されて行く。苦しいせいか失禁、脱糞をしているがそれらはチューブを通って処理される為、音も匂いもしない。極めて清潔で極めて残酷な死の光景が有った。
「課長、素体の拒否反応が強すぎます。このままでは脳細胞の死滅が始まります」
マヤがコンソールを叩きながら言う。まだ少女の細い悲鳴は続いている。
「洗脳プロセス中断処理開始」
「はい課長」
マヤはコンソールを操作する。徐々に少女の悲鳴が小さく成って行く。リツコは後ろで見ているゲンドウの方を振り返る。
「どうした」
「素体の意識が強すぎます。消去・洗脳に対して頑健に抵抗しています。その為無理に洗脳を進めると脳は単なる蛋白質の固まりに成ってしまいます」
「なんとかしろ」
「案はありますが」
リツコは仕事の時に付ける事が多い近眼のメガネをずりあげて言う。
「この素体を綾波レイにする目的は……完全に司令のコントロール下に置く為ですね」
ユイに会いに行く為だとは言わない。事実を言っても皮肉には成らぬし、言っても効果が有る相手では無い。
「ああ」
「なら、この素体が綾波レイである必要は無い筈です。要はシンクロ能力などがあり司令のコントロール出来る意識ならば。元々綾波レイはこの素体群をコントロールする為の人工的な意識セットの一つのコードネームに過ぎません。別に上記要件を満たしていれば問題ない筈です。この素体が拒否しないような意識セットを用意し洗脳します。意識セットの用意に4日間、他の準備に1日間かかります」
「すぐやれ」
「レイはいりませんか」
「ああ」
「機密を守る為、伊吹主任と作業を行ないます。伊吹主任の自室とここを通行する許可を下さい。あと司令の自室も」
「いいだろう」
○
マヤに与えられている本部内の部屋は結構広い。マヤは主任でも特別だ。仮眠用の寝室も簡単なキッチンも付いている。
「あぅ……せんぱい」
その部屋のテーブルには裸のマヤが後ろ手に縛られ俯せに横たわっていた。目隠しと猿轡を嵌められ、首と両足首に紐を付けられテーブルの脚に結びつけられている。その為足を閉じる事ができない。だがその締まった臀部も陰部も脂があまり無い背中も見えなかった。上にリツコがのしかかりその上に毛布が被さっているからだ。
「マヤこれからずっと可愛がってあげる。私はマヤの物よ。司令の物じゃない。だから言う事をききなさい」
二人の腰の辺りでリツコの手が隠微に動く。
「ひっひっ……ききます……ききますから……とどめをさして……ひぃぃぃ」
「いいわ」
リツコの手がまた動いた。
「ひっ」
マヤは白目を剥いて気絶した。リツコはさっさと身を離した。立ち上がりマヤを見下ろす。体液まみれで気絶しているマヤを見下ろすリツコの視線には、感情が全く篭っていない。リツコはマヤをそのままにして側にあるタオルで体を拭う。リツコの白い肌はまったく興奮していた跡が無かった。白いままだ。この部屋の盗聴器やカメラにはダミーデーターを仕込んである。今頃普通に愛しあう二人が映っているだろう。リツコならネルフの全ての機器を欺ける。
「風邪ひくと困るわね」
マヤの縛めを全て解くとテーブルから下ろす。薬も使ったから後20分は目が覚めないだろう。身も心も言いなりの奴隷の出来上がりだ。タオルで体を拭いてやると毛布をかけてやる。自分は側に脱いであった下着と服を身に付けた。
「さて」
側で誰か見ていたら腰を抜かすような、恐い微笑みをリツコが浮かべた。奥の仮眠室に向かう。戸を押して開ける。
「あら。電気点けていないの……ぐ」
真っ暗な部屋に足を踏み入れた所で、後頭部に重い物が当たった。意識が遠く成り床に崩れる。だがすぐに戻る。目の前に椅子の足が有った。白い物が通り抜けて行く。掴んだ。
「ひっ」
押し殺したような悲鳴が聞こえた。リツコが掴んだのは少女の足首だった。白く見えたのはソックスだ。自分でもどこにこんな腕力があるのか判らないが、その足首を持ったまま立ち上がった。少女は壁や戸に手を付けてどうにか転ばないようにしていたが身長差から逆さ吊りに成った。リツコは手を伸ばし明かりを点ける。マヤの物らしいだぶだぶのシャツとジーンズパンツを身に付けた少女が、リツコの手の下で怯えていた。声もでないらしい。本能的に足を閉じ、手で股間を隠す。床には今時珍しい紙の辞典が転がっていた。
リツコは少女の体を仮眠室のベッドにそのまま運ぶとあお向けに寝かせる。両手首を左手で掴み押え、右手で顎を持ち言う。
「私に逆らったら殺してあげる。じっくりと時間をかけて。今の事は忘れてあげる。声を上げたり騒いだらそれ相応の罰を上げるわ。判ったかしら」
「はい」
少女はやっとの事で声を出した。
「いい子ね」
リツコは手を離した。
「乱暴して悪かったわ。信じて貰えないかもしれないけど、私はあなたの味方よ」
「そんな事言わなかった」
少女はリツコから出来るだけ離れてベッドで小さくなる。
「一度あの恐怖を味わって貰った方が、話が早いと思ったからよ」
「あの恐怖」
「自分が消される恐怖」
「あぅぅ」
少女は頭を抱えて震え呻き始めた。
「兎が……白くって赤い目が光っている大きな兎が……私を押しつぶす……いや……いやよ」
「そう。綾波レイの意識はあなたにとってそう感じたのね…………悪かったわ。許してちょうだい」
リツコはベッドに腰をかけた。少女の頭に手を伸ばすと優しく撫でる。
「私の言う事を理解して貰う為とはいえ酷い事をしたわ。許してね」
優しい声だった。先ほど少女を脅した声と同じ人物とは思えないほどだ。うずくまっていた少女が思わず顔を上げたくらいだ。少女の目の前には憂いを秘めた美しい大人の女性の顔が有った。美しいだけではなく優しい表情に見えた。
「私とあなたは似た者同士なの。判るかしら」
少女は横に首を振る。
「司令にとって道具なのよ。使い捨ての」
「道具」
意味は判らなかったが、その言葉を発した唇がとても寂しそうに見えた。
「そう道具。あなたは……そう言えば名前無かったわね……マイでいいかしら。私の妹の名。生まれてすぐ病気で死んだけど」
「いい」
「そう。信じて。少し前ならマイを殺したわ。事実殺したわ」
リツコの口元を見ていたマイは目を見た。
「殺した」
「そうよ」
言っている亊が判らない。殺したもなにも自分はここにいる。
「今からあなたに説明してあげる」
○
「私って……何」
聞き終わった後マイは顔が痙攣した。体の中で溢れる感情がぶつかり合ってどうしようも無いらしい。
「それは人によって違うけど、司令にとっては道具……部品といってもいい。司令がユイさんに会う為の」
「なぜ綾波レイって……あんな狂人の言う事を聞いたの」
どういう話し方をしたかは判らぬが、マイにとってゲンドウはその様に思えたらしい。そう思えるように話したのだろうが。
「その様に設計された仮想人格だからよ。あなたみたいに実体が有ってそこから生まれた者と違うから。そう、綾波レイは司令の幻想みたいな物なのよ……いえ綾波レイは幻想よ……もっとも私は幻想に勝てなかったけど」
リツコは笑みを浮かべた。歪んだ笑顔だ。マイは俯いていて気が付いていないが。
「ねえ……リツコさんは私の事どう思っているの」
「あなた自身には……よく判らないわ。あの仮想人格が消えた今では、あなたを憎む必要はないわ。むしろ同じ様に道具扱いされたから同情さえ感じるわ」
「私をどうするの……」
マイは顔を上げた。目の前の女性をどう思っているか自分でも判らない。マイ自身が殺された訳では無い。マイと同じ遺伝情報を持つ誰かがこの人に殺された。逆らえば私も殺すといっている。但し今の所表情に悪意は無い。
「あなたはどうしたいの」
「判らない……ただ嫌。あの女に殺されるのは嫌」
「あの女って」
「綾波レイ」
「そう」
次の瞬間マイは息を飲んだ。目の前の女性の顔が慈愛に満ちた表情に変わった。レイを抱き寄せる。
「守ってあげる。絶対守りぬいてあげる。マイを殺させはしない。絶対に。だから信じて」
「うん」
マイはまだ生まれて間もない。他人の亊が判らない。この人は私を守ってくれると信じた。
マイを抱きしめているリツコの目の前に鏡が有った。唇の端が吊り上がった笑みを浮べた女の顔が有った。
○
それから4日間リツコは独房に、マイはマヤの家に住んだ。リツコは自室に戻る事は許されなかった。夜寝るのは独房の中かゲンドウの部屋だ。起きるとマヤの部屋に行く。マイはマヤが預かっているので三人でそこで朝食等を済ませる。打ち合わせをすると実験室に行く。現在のマイの意識をベースに新たな意識セットを作り上げる。四日間で完成した。五日目だった。
「えっ……」
マイは実験室に入ると驚きの声を上げる。この前マイを殺しかけた装置が有った。マヤが既に準備を終えていた。ゲンドウもいた。冬月は出張でいない。
「あの機械は使わないって」
マイは部屋の外に逃げようとする。リツコに襟を掴まれた。スカートにブラウスとマイの格好にしては珍しい。首筋に無痛注射器で麻酔を注射される。即効性らしい。足から崩れる。
「あぅぅうあぅ」
「あら……麻酔に耐性が付いたのかしら……まあいいわ。そう言わないとあなた協力しないでしょ」
どうにか見上げたマイに、リツコは優しい微笑みをかけた。
「マヤ……素体をセッティング」
「はい」
二人で手際よくマイを脱がして行く。呻いているだけのマイはたちまち裸にされる。恐怖で鳥肌が立っている。細すぎるウエストが痛々しかった。二人はマイを洗脳装置にあまり時間もかけずにセットした。
「ちょっとマヤ、外に出ててくれる」
「はい」
マヤが部屋の外に出て行く。
「司令お願いが有ります」
「なんだ」
「もう……諦めました……せめて最後の日まで抱いてください」
「……いいだろう」
リツコを抱くのもユイに会う為の労働なのだろう。その程度だ。リツコはマヤを部屋の中に入れる。
「司令、今度の意識セットは綾波レイをベースにこの素体になじみ易いよう変更を加えました。名前は綾波レミにしてあります。これは素体が綾波レイという名に拒否反応を示すからです。一部変更用のデーターにマヤのデーターを使いました。これは秘密保持の為です。では洗脳処理を行います」
リツコの指示で洗脳処理が始まった。今度は悲鳴も上がらなかった。
○
レミはゲンドウの前に座っていた。洗脳後服を着せられて椅子に座っている。静かに座っている。
「司令……私は今後どうしたらいいのでしょうか」
声はレイと同じだ。声帯が同じだからだろう。姿も変わらない。
「今まで通りだ。但し健康管理の為赤木博士と住め」
「はい」
ゲンドウは立ち上がる。部屋を出て行った。
「レミ、これから健康診断をするわ。付いていらっしゃい」
「はい」
マイはレミに成ったようだった。
○
その日の夜からリツコは用意された本部横の家に住む事となった。朝に成ると起きてレミの世話をしネルフ本部に通勤する。その繰り返しだった。時々司令室でリツコはゲンドウに抱かれたが、夜は必ず用意された家でレミと寝た。レイとレミの違いはあまり無い様に見えた。違いと言えば少し表情が柔らかい事、リツコになついている様に見える事だ。
一週間経ったある日の夜、二人はベッドで並んで寝ていた。仲のよい姉妹の様にだ。時々マヤが泊ってレミが隣りの部屋に寝る事もあるが普段はそうしていた。夜中リツコは目を覚ました。目が充血していないところを見ると起きていたらしい。横に眠るレミを抱き寄せる。そのせいでレミは目を覚ました。なんだろうと不思議そうにリツコを見ている。リツコは顔を近づけるとレミにキスをした。
レミは目を瞬かせる。
「リツコさん」
「目覚めたかしら。このベッドの中なら盗聴されないわよ。どうマイちゃん。生き残った感想は」
「リツコさん酷い……なぜ私に」
「レミを上書きしたのかって言うのでしょ」
リツコは微笑んだ。また少し強く抱き締めた。
「あっ」
リツコがどこかに触れたらしくマイは体をびくっとふるわせる。
「司令は結構鋭いわ。今でも疑ってるでしょうし。あなたを生かしてあげる為には一時的でもあなたは司令の人形に成る必要があったの」
「あっやめて」
マイの顔が上気した。リツコは触っていた手を離す。
「いい。あなたを助けてあげる。それにはシンジ君とアスカの協力が必要よ。ミサトもね。辛いだろうけど昼間はレミでいなさい。全てが終わったら完全なあなたにしてあげる」
「うん」
「あなた……シンジ君好きでしょ」
「えっ……あっ……はい……でも、私の体は」
「ごめんなさいね。シンジ君を仲間に引き込むのに必要だから、その部分だけは強く暗示をかけさせて貰ったわ……あなたがシンジ君を好きという暗示をね」
「酷い」
「そうね……でも生き残る為……我慢して」
「そんな」
「大丈夫よ……絶対あなたを生きのびさせてあげる」
「はい」
多分暗示はそれだけでないのだろう。素直にマイは言う事を聞いた。
「じゃあ……もう寝ましょうか」
「待って……朝になればまた私でなく成る……もっと話したい」
「そう……何を」
「なんでもいい」
「なんでも……と言ってもね」
「じゃ……リツコさんの子供の頃の話」
「面白くないわよ」
「いい」
「そう」
リツコは話し始める。夜は長い。話す時間も沢山ある。
「その前に……絶対生き延びましょうね」
リツコは少女を抱きしめた。
「うん」
おわり