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「新エヴァントレック」完結記念
Encyclopardica Frankena一周年記念
めぞんEVA603号室「フラン研の部屋」5万ヒット記念
林真理子さん御懐妊記念
MEGURUさん・砂漠谷麗馬さん御成婚記念

オープニング(動かなかったらリロードして)
 
(アオバシアと境界を接する連邦コロニーでは、和平条約を不満とする者達が少年愛戦闘集団「ショタキ」を結成し、戦いを続けていたりいなかったりしたりした。ショタキを英雄視する者もいるが、連邦、およびアオバシアの両政府風は彼等を色んな意味でマズい人達とみなしている。)
 

ぴぎゅん、ぴぎゅん、ぴぎゅん。
ギター風の威容を誇るギブソン級戦艦から、すぐそばの鉄人型ショタキ船に何度もフェイザーが発射されている。

びばしっ! がたがたがた
火花の散るショタキ船内。下手をするとシャトル並みに小さいブリッジ、というよりコクピットだが、の中には4、5人クルーがいるようだ。
「被害報告!」

「シールド60%にダウンしました。」
艦長らしき男に黒人系ヴァルカスカ人の女性が答える。

「バッタ供給系に故障発生、修復する!」
艦長の隣のピンク色の髪の女性が叫ぶ。デコの突起から見てゼレンゴン人のようだ。
「でももうエンジンは限界だ!」

「頭を使うんだトレス君! 何とかしたまえ!」

「何とかしろって、連邦のお下がりの3900年前のおんぼろエンジンでどうしろって言うのさ!」
緑色の髪の司令官に言い返すトレス。

ずがずがずがーん。

「「くうっ」」再び衝撃に揺れ、火花が飛び散る船内。

艦長の席の上部にあるモニタ、と言っても小さなテレビ程度の大きさの画面だが、に苛立つアオバシア人の顔が映し出された。
「こちらはアオバシア艦キース・リチャーズ艦長のガル・シゲックっす! ショタキ船に告げます! 今すぐ投降するっす! くにの母さんは泣いているっすよ! 今ならまだ」
ぶちっ。

モニタを切る司令官。
 

「あら大変。シールドはもう50%ですよ。」
あくまで冷静に言うヴァルカスカ人。

「トレス君、ファットランドにコースをとってくれたまえ。アンボック、マヤ機とヨウコ機に連絡。それからキース・リチャーズに暴れカンガルー砲の最後の一発をお見舞いするんだ!」

「お見舞、ですか?」

「発射、するんだ!」

「了解。」アンボックは微笑むと、パネルを押した。

きえー、きえーん。
鉄人からカンガルーがギターに向かって発射される。しかしアオバシア船の防御シールドは強く、あまり損害は無いようだ。
 

ショタキ船はこの辺りでは有名な脂肪嵐の吹き荒れる宇宙船航行の難所、ファットランドに突入していた。ここを特に大型船で航行するのは困難だ。
黄色い脂肪嵐の合間をすりぬけ航行する鉄人船の後を、キース・リチャーズが執拗に追っている。

「敵艦は依然速度を落しませんねえ。」

「んんん破廉恥な…シゲックめ、今日は強気だな…」
アンボックの報告に眉を寄せる司令官。

ずがずが、ぐにゃにゃーん。
キース・リチャーズの船体の一部が脂肪嵐に接触、船は航行不能に陥ったようだ。

「…敵艦は救助信号を発信しています。」

満足気に頷く司令官。
「やはり正義は勝つな。ふっふっ、ふはは、ふはははははは」

司令官を無視して、後ろのイブジョー人が聞く。
「ねえアンボック、このままここ突っ切れるう?」

「いえセスカさん、ここは特に脂肪嵐の激しいエリアですから、迂回するしかありませんねえ。」

2人の会話に首を振るトレス。
「そっか。じゃあまた、どっかでエンジンを修理しないといけないね。」

「ははははははははははははははははははははふはふはふはふははははひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ」

「「「…」」」

ピカピカ

「な、何だ今のは!!」
一瞬船内でまたたいた光に、我に帰って言う司令官。

「うふふ。おかしいですね司令官。一種の伝書鳩光線にこの船は包まれているようです。」

「脂肪嵐か?」

「いいえ。何かの変動波のようです。」アンボックが艦長にパネルの表示を指差して見せた。
「あら、司令官、これは私達の船を追って来ているようですねえ。」

「不気味ね…」セスカが呟く。

「トレス君、パワーを全て推進用に回してくれ給え。」

「分かった。」頷くトレス。

「変動波が押し寄せてきます。後8秒で私達の船は飲み込まれます。」
微笑みを絶やさず報告するアンボック。

「5秒。」
アンボックの言葉に唾を飲み込むショタキ船クルー達。船の揺れが激しくなる。
 

そして彼等を白い光が覆い隠した。



 
Evan Trek -Cabagger

Evan Trek Boyager
エヴァントレック ボヤゲル

Pancaker
「遥かなる古川君」



 
惑星連邦囚人労働所−地球、日本地区関西州シジョウナワテ市

ぷしゅー。ぷしゅー。
公園のような場所で、一人の男が缶のスプレーペイントで何やら色塗りをしている。

しゅー、しゅー。
「トウガ・パリスだな。」
ふいにした声に男は工業用バイザーを上げた。

「そうですが。」
赤い長髪をなびかせ、すらっとした目、透き通るような肌、ほれぼれするような十二指腸(推定)の超絶的な美少年が、やってきた女性に微笑む。

その女性は凛とした雰囲気の、連邦の制服を着た士官である。
「私はジェインウェイ。ジュリ・ジェインウェイだ。USSラクリマクリスティーでは君の父の世話になった。実は君に話がある。」

「話って?」

「仕事の話だ。」ずっと腕組みの体勢で話すジェインウェイ。

「仕事なら今ここでやっているんですがね。まあ、強制労働ですが。ちょっとどいてもらえますか。」
バイザーを下げ、再びスプレーを構えるトウガ。

ぷしゅー、しゅー、しゅー。

「…うん。」再びバイザーを上げたトウガは自分の労働の成果に満足げに頷いた。
「これで、ホワイトタイガー一丁上がり、ですね。」

「ここの管理官に話をしたら、快く許可を頂いた。私のもとで働く気はないかな。」

「…お話を、伺いましょう。」

がるる…
2人はオリのホワイトタイガー(もどき)を置いて、近くを歩き出した。


「君の父には世話になった。アライチュウ派遣の際に科学士官を勤めさせてもらったよ。」
捨て看の林立する日本庭園を歩く2人。周囲に彼等以外の人は見られない。
連邦は人道的配慮が行き届いているので、刑務所と言っても充分快適そうだ。但しトラやキリンはそこら中うろうろしているらしい。

「へえ、それは凄い。父は出来る人しか認めませんからねえ。」
シマシマの囚人服姿のトウガがジュリに答えた。

「…任務というのは、ファットランドで行方不明になったショタキの捜索だ。」

トウガは軽く眉を上げた。
「どうも、気が乗りませんね。ファットランドをまともに飛べる船なんて無いでしょう。」

頬を緩めるジュリ。
「ボヤゲルを知らないな。」

「僕を誘うのは、やはり元ショタキだからですか。…でも、入ってすぐ捕まりましたからね。アジトの場所とかは殆ど知りませんよ。」

「私達よりは知っているだろう?」

「…どうしてまた、ショタキ1隻をわざわざ探すんです?」

「ああ、実はその船には私の部下…保安主任が乗っていたんだ。しかしここ6日、彼女からの連絡が途絶えていて。」

「船じゃなくて、その人が、消えただけかも?」

「それは確かに、何とも言えないが…」
肩を上げるジュリ。ちなみに制服なのにとんでもない肩パッド。
 

「その船には、もう一人元連邦の人間が乗っている。キャコティという名前だ。君も知っているな。」

トウガは髪をかきあげた。
「へえ。彼が。」

「若貴の仲だと聞いたが?」

「はは、まさか。僕は彼は親友だと思っていますよ。…まあ、向こうは、必ずしもそうは思っていないかもしれませんがね。…彼はアオバシア領域に編入されてしまった自分の故郷を守る為に、ショタキに入った。しかし僕は、モテモテパイロットとしてのガールハントの場所を求めて入っただけですからね。彼は僕の事を、女の尻の為だけに動く奴だと思っているんですよ。…まあ、否定はしませんけどね。」
トウガはジュリに振り返り、不敵な笑みを浮かべた。
「友人なんてものは、信じる方が馬鹿なんですよ。見目麗しい女性に会えるチャンスさえ貰えれば、どんな任務でも抵抗はありません。」

「まあ、部下の恋愛に口を出すつもりはないが…この任務に参加してくれれば、早期釈放となるよう取り計らうよ。しかし一つ、言っておきたい事がある。艦隊士官ではない以上、君はあくまでオブザーバーだ。」

「オブザーバー。」
トウガは目を細めた。
「この僕がオブザーバーとはねえ。伝説のプレイボーイも、地に落ちたものだ。」

「シマシマシャツで言われてもな…」呟くジュリ。
「あくまでオブザーバーだ。この任務が終われば、それまでだ。」

肩を上げるトウガ。
「…まあ、その方が食った女とも後腐れ無いかもしれませんがね。艦長ちょっとどいて下さい。」

「ん?」

ぴぎゅん、ぴぎゅん。

「きえええん」
ジュリの背後に近づいて来た人食いキリンにトウガがフェイザーを撃つ。
「ここよりは宇宙船の方が、幾分ましかもしれませんね。」トウガは固まるジュリに微笑んだ。


1隻のシャトルが宇宙ステーション、ディープ・スペース・ナデシコに接近していた。
「あれが私達の船、ボヤゲルよ。」

シャトルのスクリーンには、ナデシコ先端のドッキングリングに係留された最新鋭の科学調査船が映し出されていた。
「ボイジャーとか読むんじゃないのかい?」

シャトルを運転している女性の大尉がパリスの言葉に微笑んだ。
「ええ、確かに英語だとそう読めるわね。ただこれは「少年の心を持つ者」という意味の造語なので、ボーイ・エイジャーというのが正式らしいわ。でも艦長が「それでは長ったらしく、気高さが足りない」というので「ボヤゲル」になったの。」

「「ボヤゲル」は気高いのか…中々個性的な艦長だな…」
呟くパリス。

二人の乗るシャトルからボヤゲルの威容が見える。と言ってもサイズはエバンゲリオン四号機のような大きさはなく、往年のエバンゲリオン零号機より少し大きい程度である。姿は、上下逆さまにした洋式便器そのものというのがぴったりの風情であった。

「レモンエンジェルズ級。最高速ワープ9.975。デッキ数約15、気分によって上下。乗員141名、猿28匹、その他大型哺乳類75匹。ビーバー回路使用。」

「ビーバー回路?」トウガは聞き返す。

「一部従来の電子式回路に代り、ハイパービーバーがトンネルを走る事による伝達回路を採用しているわ。これによってスピードアップが図られ、故障も減ったのよ。」

「なるほど…ところで僕はガールハントに来たんだが、娯楽施設の方はどうなんだい。」

「うーん…科学調査船だから、それほど豪華ではないわね。娯楽設備の占める割合は、全床面積の63%にまで抑えられているわ。」

「それはまたストイックだな。」
眉を上げるパリス。

「まあでも、中身は最新鋭よ。世界のブランコを集めたブランコホールを中心に、水中カラオケ、馬が賭ける逆競馬、コントの練習用に特化したスタジオ等が用意されているわね。」

「ほう…」

「その他イベントも考えられているわ。週に一度はクマさんデーとして、クマさんのぬいぐるみ達に全操縦・調査を任せる予定よ。」

「…」


「「「「ぬるきちゃ、まがっ!!」」」」

「あー、これはこれはこれは、お兄さん、制服もパリっとした正に新人の士官様でいらっしゃる…いやいや立派なものですネェ。」
プワークは髭を震わせカウンターに近づいた。

「え、それは、どうも…」
カウンターで佐賀風ギャニチャーハンを食べている水色の髪の東洋人(矛盾表現)が答える。

「いやあ全くいつ見ても、新人の方は初々しくて気持ちの良い物ですよ。時にあなた、」

「あ、いや、遠慮します。」

「何がです?」フェレンスケそろばんを持った状態で聞くプワーク。

「何かを売られるんですよね?」

「そういう訳では…まあただ、そうですネェ、どうせでしたら故郷のお父様お母様にお土産物でもいかがと思いまして…ハイ。」
プワークは指を上げ、何やらボックスを取り出した。
「これなんてどうです? ナデシコ特製ペナントに、2万分の1金メッキ特製模型。今ならこのバーの御優待券付きで。」

「…」

「あ゛ーでは、これなんてどうです? この辺りでしか手に入らない超貴重なビデオ、山本スーザン久美子傑作選! まぁーこれは、御両親も喜ばれるんではないでしょうかネェ。何しろ貴重ですから。モネタケという異星人から手に入れた珍品中の珍品ですよ!」

「ああ、いや、僕そういうの興味ありませんから。」

「そうですか? でも故郷の御両親は違うかもしれない。」

「安物買いの銭失いって言葉もありますし。アカデミーで、フェレンスケには注意しろって、教わりましたから。」
にっこり言う少尉。

プワークはショックを受けた顔になった。
「…な、な、な、なんですって! 連邦のアカデミーではんなフェレンスケへの侮辱が行われていたとは!」

「あ、いや、その、」

「ああ、もう私は生きていけない、私の敬愛する連邦でそんな事を教えていただなんて、もうわたくしには生きる希望もかてもございません。橘いずみが大音響でマイ脳髄に鳴り響きますなあ…」

「ああ、いや、誤解です! 後悔先に立たず! いや、転ばぬ先の杖! と、とにかく、そういう意味じゃなくて、良い意味でフェレンスケの人達はずるがしこいから注意しろ、って…あわわ」

「♪あなたは仏閣! そうはっきり言われたーい 小銭毎日投げられて憧れてた生き方ー♪」(ToT)
台に乗り、知らない内に上から降りている縄わっかに首を通すプワーク。

「あ、あの、買います! うわーすごい、このビデオ欲しいなあ。ははは」

「それはあいにく非売品でしてネェ…」

「あ、こ、このボックス全部買います! 朱に交われば赤くなる!」
 

プワークはぴく、と動きを止め、台から降り少尉に近づいた。
「…お支払いは現金でよろしいですかな?」
 
「…これは素晴らしいビデオだね。」少尉の隣にやってきたレッドヘアーが、ビデオを手に取った。ちなみにもうシマシマ服ではない。

「ええそれはもう、中々手に入れる事は出来ない貴重品でして。」ビデオを彼の手から取り返し箱に戻すプワーク。

「確かに連邦領域では珍しい代物だ。この手のビデオは、確かシンノシンコロニーでは、1ダース1アオバシアピックで売ってたな。ここじゃいくらだい。」

「価格は現在こちらのお客様と交渉中でして。」

「…」パタン。
少尉は箱のふたを閉め、立ち上がった。
「骨折り損のくたびれ儲けでしたね。」

2人の士官はバーカウンターを離れた。軽く溜息をつくプワーク。

「…プワークさん。」

「あ゛、る、ルドーさん、これはですねえ、今度私、手品を皆さんに御披露しようかと…」
 

「有り難うございます、助けていただいて。」

「フェレンスケには注意しろって、習わなかったのかい?」
2人は笑い合いながらバーを出た。


「ここのレベル3のチェックをもう一度してくれ。」
医師らしき男性が助手に何やら指示を出している。どうやらここはボヤゲルの医療室らしい。

ドアから、先程の2人がやってきた。
「トウガ・パリス、出頭しました。」

「ミキ・キム、出頭しました!」

「ああ。」ドクターは軽く声を上げ、パリスに目をやった。
「君が例のオブザーバー、か。」

「何か問題が?」

「例の事件の頃、私もアカデミーに勤務していた。…前任地から君達の健康ファイルは届いている。君達2人に、特別健康上の問題は無い。艦長が、待っているぞ。」
トウガはドクターの言葉に肩を上げた。

「ああ、油断大敵、僕もまだ、艦長に挨拶がすんでいませんでした。」

「なら行き給え。新人は挨拶とツッコミが、基本だ。」

頷くミキ。ミキとトウガは医療室を出て行った。
 

「…事件って、何なんですか?」

「話せば僕の髪並に長くなるさ。まあその内嫌でも他のクルーから教えられるだろ。」
真新しい廊下を歩きながらトウガはミキに答えた。


「お医者さんに見に行かせました。もうすぐカトリーヌに子供が生まれるそうです。」

艦長室のジュリは画面の向こうの言葉に顔を綻ばせた。
「そうか。それは良かった。じゃあ生まれてくるアリクイ達も引き取ってもらえないか。」

「ええ? で、でも、この間お絨毯を替えたばっかり…」

「引き取って、もらえるだろう。」びし、ばし。
瞳孔の開いた表情で持っているムチを両手で引っ張って見せる艦長。

「あ、あ、は、はい、もちろん…私はいつでもジュリ女王様の言いなりですから…」

「そうか。私も愛しているぞ。」
心なしか頬を赤らめ微笑む艦長。

「出発にはまだ時間があるのですか。」

何かのファイルをパッドで見ているジュリが答える。
「いや。私がこれにサインをすれば、もういつでも出発可能だ。」

「ああ、すいません、お邪魔してしまって…」

モニタの言葉に、艦長は顔を上げた。
「とんでもない。君の邪魔なら、いつでも歓迎だよ。シオリ。」

「御無事を、祈ってます。」

「2週間で戻るよ。ああシオリ、アリクイ用のベッドを私の家から取ってきてくれないか。」

「もう、取ってきました。1時間前。」

「そうか。…じゃあ。」ジュリは軽く頷いてみせると、通信を切った。
 

ぽろろん。
「入れ。」
ドアが開くと艦長は微笑んだ。
「よく来てくれた。」

「ミキ・キム少尉、只今出頭しました!」

「そう固くなるな。」

「は、はい、艦長…は、はい、女王様!」
ジェインウェイの手元にある物を見て、急に言い直すキム。

艦長は苦笑する。
「まあ、女王様でも悪いとは言わないが…個人的には、プライベート以外ではクルーからは艦長と呼ばれる方が嬉しい。」

「は、はい、艦長。」

「トウガ・パリス、只今出頭しました。」
艦長はロン毛に目を移した。

「ああ、良く来てくれた。…もう出航の時間だ。2人とも、準備してくれ。」
立ち上がるジュリ。3人は十字架や木馬、ギロチンや、良く分からない装置のついたベッド等が並ぶ艦長室を出、ブリッジを歩き出した。


「不都合は無いか?」

「いいえ、全く。非常に快適です。」

「ほう、そうか。」やや意外そうに言う艦長。

艦長はトンガリメガネの女性の前で立ち止まった。
「知っているだろうが、こちらが船の副長を勤めるキャビット少佐だ。副長、こちらはキム少尉、こちらがトウガ・パリス。」

(何故か指し棒を持っている)副長はメガネをする。と上げ、キムに微笑んだ。
「話には聞いております。頑張ってね、少尉。」

「は、はい。誠心誠意辛苦艱難頑張りたいと思います。ハイミス。」

「副長、で構いませんことよ?」デコをピクピクさせながら言う副長。

「は、はい、副長!」
 

「よろしくお願いします、副長。」
キャビットに手を差し出すパリス。

「…」キャビットはしばらく無言でパリスを見たが、息をつきつつ手を出した。

ちゅっ。
「…なななななな、なんたる破廉恥ざますかっ!」

「い、いや、俺はただ、親愛の情をぐぶうっ」
副長のハイ(ヒール)キックをくらい、白黒スローモーになり宙を飛んでいくトウガ。どこまでも色男(推定)。

「恥さらしざますっ! 今すぐこの船から出るざますっ!」

「まあまあ副長、彼も長い目で見ようじゃないか。」
びし、ぴし。

「おほ、おほほ、そうですわね、おほほほ」
 

ジュリはミキに振り返った。
「それでキム、君の持ち場はここだ。」
ブリッジ後方、パネルに囲まれたコンソールを指すジェインウェイ。

コンソールに進み、頷くキム。
「了解、女王様。…あ」

「…今は、プライベートじゃないだろ?」
2人は微笑み合った。
 

ジュリはブリッジ中央の艦長席に腰掛け、前方の操舵手に声を掛ける。
「スタディ、ステーションに発進許可を求めよ。」

頷き、パネルを操作しだす少尉。
「了解。コースセット、完了。発進許可、OK。ダンゴムシエンジン始動。ボヤゲル発進準備、完了しました。」

「発進。」

ライトがつき、白いボヤゲルの船体に書かれた「USS BOYAGER NCC-74656」というレタリングと巨大な勘定流の「ぼ」の字が浮かび上がる。そして船体の両脇には黒地に黄色の「危」マークが誇らしげに輝く。その優美かつ機能的な流線形の巨大便器(←ルビで「ボヤゲル」)は、ナデシコのドッキングパイロンを離れ旋回し、ファットランドへと旅立った。


トウガは髪をなびかせつつ食堂にやって来た。フードレプリケーターの前に立つトウガ。
「かけうどんをくれ。」
トウガが食堂の席の方を眺めると、水色の髪が見える。

ぴぴ。
「ホットですか、コールドですか。」

「ああ、ホットだ。」
どうやらキムに、副長とドクターが何か話しているらしい。ドクターがこちらに気付いたようだ。

「当船のレプリケーターには、95種類のうどんのデータが登録されています。ブルーベリー入りにされますか。それともギャニ、ババロア、日本風、フォンデュ、増殖型、回虫、血詰め、うどん風ロボット、蛾、」

「普通の! 普通の、ブルーベリー味のうどんを、ホットだ!」
コンピューターの声を遮るパリス。

ぴぴ、きゅううん。
ようやく出てきた(普通の)紫スープのうどんのトレイを持つと、トウガはミキのテーブルにやって来た。彼が近づいてくると、副長とドクターは立ち上がり無言で食堂を出て行った。
 

「…な。親切なクルーが教えてくれただろ。」
ミキの向かいの席に座り言うトウガ。

「…本当、なんですか。」
深刻な様子で聞くミキ。

「もちろん本当さ。俺はアカデミー在学時代に事故を起こし、学友を一人亡くした。俺の責任だ。…認めるには、時間がかかったけどな。」

「でも、どうしてそんな事をしたんです! 危険な事は分かっていたんでしょう? 君子危うきに近寄らず!」

「どうして? そうだな、あの頃の俺は、自分を中心に世の中が回っていると信じきっていた。自分に出来ない事など無いと、うぬぼれていたのさ。」
うどんに口を付けたトウガは、顔をしかめた。
「何だこれは! ここのレプリケーターはまともなうどんも作れないのか? ブルーベリーの味が全くしないじゃないか!」

「つかぬ事を聞きますが、嘘の報告をしたっていうのも、本当なんですか。」

「そうだ。」

「どうして。」

キムの質問に、肩を上げるパリス。
「罪を逃れようとした。言い逃れられるという計算もあった。仲間はドン臭い連中ばかりだったから、彼等も言い包められると思った。」

「じゃ、何で、後から自首したんです?」

パリスは笑って頭を振った。
「…俺じゃない。最初に仲間の一人が、自首したんだ。最初は裏切られた、と思ったね。彼とは当時肉体関係もあったから、特にそう感じたのかもしれない。…でも、その後でようやく悟った。悪いのは俺だ、って事にね。アルの亡霊が、毎晩俺の前に出てくるんだよ。それで悔い改めた。…それで、俺が特に責任があると申し出たんだ。実際グループのリーダーは俺だったから。その日以来一からやり直そう、そう思ったよ。しかしそうは言っても、モテモテパイロットになるという夢は、実際簡単に捨てられる物じゃない。アカデミーを退学になってからしばらくは、パイロットの勉強を通信講座で受けつつ、警備やコンビニのバイトを続けていたんだ。通信講座をなめちゃいけない。これはおごりではなく、俺の腕に優る艦隊のパイロットはそうはいないだろう。で、最終的に本当に宇宙船を飛ばせる仕事についた。それが、ショタキだ。…ただ残念な事に、俺の乗ったショタキ船は1回目の作戦であっさり連邦に捕まってしまったんだがな。」

ミキは溜息をついた。
「泣きっ面に蜂…色々、大変だったんでしょうね…お父さんが提督だと…」

「いや、大変だったのはオヤジの方だろう。」パリスは立ち上がった。
「君も、これ以上僕に近づかない方が良い。ツキが逃げるぞ。英語で言うならムーン・ラン・ゴーだな。」
トウガは首を振り、食堂を歩いていく。

「渡る世間に鬼はない。」立ち上がるミキ。振り向くトウガ。
「友達くらい、自分で選べますよ。」

「そうか。…ヤッパリオレッテツミツクリ…」/(-v-)

「あぇ?」

ぴろりろりん。
「ジェインウェイよりパリス。ファットランドに到着した。ブリッジに来て欲しい。」

「了解。」

「あ、僕も行きます!」


艦長はブリッジ中央の、テーブル状の戦略パネルを見ていた。
「現在脂肪嵐のレベルは3から4です。」
報告するスタディ。

「そうか。ああパリス。ショタキが行方不明になった場所と、当時の脂肪嵐の状態がわかった。こうだ。」
パネルに星図を表示させるジェインウェイ。

「この状況下では、ショタキはどう動くと思う。」

「恐らく、コッテリッコベルトのMクラスの惑星に行ったんでしょう。…メラ星系の先です。」

「そうか。そうするとコースは、現在の脂肪嵐を避けるから…こうなるな。スタディ、このコースを取ってコッテリッコベルトに向かってくれ。」

「了解。」

艦長席に戻るジェインウェイ。
「色々不思議な事がある。例えば、当時彼等を追跡していたアオバシア船の、残骸が全く残っていない。」

トウガが肩を上げる。
「脂肪嵐に潰されれば、残骸なんて残りませんよ。」

「しかし…バッタエンジンの残留波位残っていても良いだろう?」
 

後方のキムが、突然声を上げた。
「艦長、伝書鳩光線をキャッチしました。こちらをスキャンしているようです。」

「発生源はどこざます?」

「不明です。」副長に答えるミキ。
「強大な変動波が、こちらに押し寄せてきます!」

「スクリーンへ!」

モニタには、津波のように押し寄せる巨大な変動波が映し出されている。
「一体何だ、あれは…」

「センサーによると、一種の音声変動波のようです。」キムが報告する。

「んま。艦長、重力子フィールドを使えば、ある程度衝撃はおさえられると思われますわ。」

「やってくれ。」キャビットに頷くジェインウェイ。
「非常警報! スタディ、全速力でここを脱出。」

「了解!」パネルを忙しく操作しだす操舵手。

船の揺れが酷くなり始めた。
「何故ざます! 重力子フィールドが全く効いておりませんわあっ!」

がたがたがた。
「このままでは後12秒で波にのまれます!」
キムが叫ぶ。

「スタディ、ワープに入れないか!」

「脂肪嵐を抜けない限り無理です!」

「後5秒!」

「全員衝撃に備えろ!」

がたがたがたがた。
「3秒!」
 

急いで自分の席に戻ろうとする副長。その時ボヤゲルの揺れは最高潮に達し、船は光に包みこまれた。


びりびり、びばしっ、ばしっ

「…」
最初に気が付いたのはパリスだった。ブリッジ内は火花が飛び散り、煙やバッタや溶液があちこちから吹き出している。
スタディの首を触るパリス。
「…」
彼女は既に息絶えていた。パリスは頭を振り、操舵席のパネルを操作しだした。

「…うっ、し、シオリ…」ジュリは目を開いた。何とか立ち上がるジュリ。
「うっ…被害報告!」

副長席を見る艦長。近くに副長がうつぶせに倒れている。艦長は副長をあおむけにさせ、肌に触れる。
「…」
副長は死んでいた。口から泡をぴっぎゅんぽっぎゅん出しながら。
ごすっ
取りあえずキャビットにとどめをさしておくジェインウェイ。優しさの現れである。

「被害報告!」

気が付いたらしいキムが急いでパネルの表示を見る。
「だ、第14デッキに亀裂発生、人食いマイマイ一部脱走、機関部への通信不能!」

「負傷者の数は!」

首を振るミキ。
「医療部への通信が出来ません!」

ぴろりろりん。
「ジェインウェイより医療部。ジェインウェイよりドクター!」
 

「艦長、あの、外に何かあります。」

「何かじゃない、もっとマシな言い方は出来ないのか!」

縦ロールに勢い良く迫られたミキは、ひく、ひく、と顔を痙攣させた。
「う、う、う、うわああああああああんん」
じょーじょーじょー

「お、おい、泣くな! それから漏らすな! とにかく外の様子をスクリーンへ!」

「ひくっ…りょ、りょうかい…うっ…ひくっ」

きゅーん。きゅーん。きゅーん。
モニタに映し出されたのは、巨大な宇宙ステーションであるらしかった。しかし先端から数秒間隔で一定方向に何かが発射されている。

「…」目を見開くジュリ。かなり怖い。
 

「か、艦長、ひくっ、こ、ここは、センサーの反応によると、先程の場所から、ひくっ、7万光年離れた、この銀河の果てです。ひくっ。」
クルー達はキムの報告に言葉を失った。
 

「ショタキ船を発見。生命反応は無し。前方のステーションは、内部はスキャンできません。ひくっ。」

「あの、一定のパルスで発射されているのは何なんだ?」

パネルの数値を見るミキ。
「一種のカンガルー性エネルギーで、付近のGクラスの惑星に向けて発射されています。」
 

ぴろりろりん
「機関部より艦長!」

「…通じたか。被害報告!」

「被害は甚大です、バッタ動力エンジンへの損傷も懸念されます! …チーフは、亡くなられました。」

「キム、機関部のシステムを停止してくれ。」

「…出来ません。応答しないんです。」

ジュリはムチの柄を片手に当てつつ、溜息をついた。
「分かった。機関部、これより私が行く。ロリンズ、ブリッジを頼む。」

「分かりました。」
小柄な女性の士官が答える。

「…ああそれからキムは医療室の様子を見てくれないか。」

「了解!」
ミキは頷き、持ち場のコンソールからターボリフトに乗る。

トウガはふと振り返り、ミキの乗るターボリフトに走ってきた。
「…俺も行くよ。ミッキー。(ニヤリ)」

「あ、ど、どうも。」律義に御辞儀するミキ。


パリスとキムは医療室にやって来た。医療室は火の勢いが収まらず、まだ一部が燃えている。
「ううん、楽あれば苦あり!」倉庫に駆け寄り、消火器を取り出すミキ。

ぷしゅー、ぷしゅー。
「あ、こ、これ、消火器に見せかけたどぶろくじゃないですか! う、う、うわあああああん」
じょーじょーじょー。

消火器無しで見事に鎮火していくキム少尉。

トウガが床に寝るドクターを見る。
「…ドクターは既に亡くなった。爆発の影響をもろに食らったらしい。コンピューター、緊急医療ホログラム作動!」
 

ぴぴ、しゅうううん
医療室にバカでかいアメ車と、それのボンネットにまたがるはだけた男が現れた。

ぶろろろろろーん。
「心地良い震動だね…」

「「…」」
動きの完全に止まる2名。

「僕を呼んだのは君達か。で、用は何だい。君達はどこへ行きたい。」

「こ、コンピューター、間違えていないか、緊急医療ホログラムだ! ドクターを出してくれ!」
顔をひくつかせるパリス。

「間違えてなんていないさ。俺が、緊急移動ホログラムの、ドライバーだ。」

がーん。
「「い、移動?」」

「ついでに医療ホログラムも俺が担当している。本当は普通のつまらない医者のホログラムだったが、ここの艦長が気高さを分かっている人で、俺に書き換えてくれたのさ。」

ががーん。
「「(か、艦長…)」」

「さあ、君達はどこへ行くんだ。」

「あ、いや、あの、僕達は移動じゃなくて医療をお願いしたいんですが…」
冷や汗をかくキム。

「はっ!」「わあああっ」
急にボンネットでバク転をかます緊急移動ホログラム。恐らくこれも何らかの気高さの表現であろうと思われる。
「まあ、いずれにしても移動が先だ。さあ君達も乗り給え。」

「「(艦長ぉ…)」」


びび、ばしびしっ

やはり火花が飛び散り、煙りや湯煙りや美人OLが立ち込める機関室の中をジュリは歩いていた。

ぴぴ
「警告。不正な処理があったため、このワープコアには爆発の恐れがあります。不正な処理があったため、このワープコアには爆発の恐れがあります。」

「ああ、艦長。」
機関部の少尉の男性が顔を上げた。

「現在のエンジンのバッタ・イナゴ比は。」

「現在16対1にまで下がってきています。」

ジュリは眉を寄せた。
「…では、トンボフィールドでイナゴを減らせ。20対1の適性比率に押さえるんだ。」

「しかしそれでは、出力が低下しワープが出来なくなりますが。」

「まずは爆発を避ける事が先だろう。やれ!」ぴし。

「りょ、了解!」


「「気持ぢわ゛る゛ー」」
相当アクロバティックな経験をしたらしく胃液がしゃっくりのごとく逆流している2人。

「これ位で弱音を吐くとは予想外だな。まだ白帯も取れそうに無いじゃないか。」

「「(何の話?…)」」

「まあ良い。」
医療室内グルグルドライブに飽きたか、ドライバーが車を飛び降りる。
「そろそろ治療もしてあげよう。患者の状況を説明してくれ。」

「乱暴な運転による車酔い、一種の一時的ショック状態…」
朦朧とした目で呟くミキ。

ドライバーはあくびをした。
「つまらん。医療部員の補充はいつ頃になるんだ。」

パリスは車から颯爽と(胃液は逆流させつつ)降り、肩を上げて見せた。
「当分は期待出来ませんね。ドクター、いえ、ドライバーだけが頼りです。」

「心配する事はない。俺は一応連邦のデータベースに登録されたあらゆる病気・怪我の治療例を知っているから、安心して良い。それで? 患者はどこだ? 君か?」


「準備完了しました。」

少尉に頷くジュリ。
「トンボフィールド、作動!」

ぶぶぶぶぶぶぶぶぶ…
エンジンの中をトンボの大群が舞う様子がモニタに映し出される。

「効果が薄いな…もう一度だ!」

「了解!」

ぴぴ。
「ワープエンジンのバッタ・イナゴ比率は正常値です。ワープエンジンのバッタ・イナゴ比率は正常値です。」

ジュリと少尉はほっと息をつき、微笑みあった。
 

ぴろりろりん
「ブリッジより艦長。」

「どうした。」
ジュリは立ち上がった。

「ステーションからスキャンされているようです。」

「スキャンの種類は。…ブリッジ? ロリンズ?」

ふと見回すと、自分の周囲の人間が次々に消えていく。
「コンピューター、緊急ロックオフかい」ぴぎゅいいいいいん
 

(それでも)医療室には負傷したクルーが次々に運び込まれて来ていた。

「君はもう問題無いよ。持ち場に戻っていい。」
寝台のクルーにドライバーが微笑んで見せる。クルーは頷き、立ち上がりかける。
ぴぎゅいいいいん。

「ん?」ドライバーがふと見回すと、医療室にいたはずのクルーが皆消えている。
ぴろりろりん。
「ドライバーよりブリッジ。俺は患者を転送するよう命令した覚えはないぞ。ブリッジ?」

ドライバーは軽く息をついた。
「…俺を消し忘れたか? …まあ良い。ならもう少し、風を感じるとするか…」



 
流麗かつ軽快なピアノの鳴り響くホール。大理石の華麗な建築。
ジュリ達クルーは、地球の18世紀ヨーロッパの城の中らしき場所に立っていた。

周囲を見回し、眉を上げる艦長。
「中々良い雰囲気じゃないか…」

「でも、艦長、これは全部実体はありません。全てホログラム映像です。」

「だろうな。」キムの報告に肩を上げるジェインウェイ。彼女もトリコーダーを取り出した。
「ここは船から100キロ程離れた、例のステーションの中らしい。」

「遠い所をはるばる、良くいらっしゃいました。」どうやらここの城主か、あるいはその娘か何かであるらしい女性がジュリ達の前にやってきた。女性はでっかいスカートのすそを軽く両手で上げ、御辞儀?をしてみせる。
「おいしいワインとシフォンケーキを用意させて頂きました。いくらでも召し上がって下さい。」

「ああ、私は連邦艦隊、USSボヤゲルの艦長ジュリ・ジェインウェイだ。出来れば」

「どうぞ。さあ、遠慮なさらないで。わたくし達はお客様は歓迎致します。…ワルツお願い!」

「「「了解ー♪」」」メガネをかけた顔かたちそっくりの3人の学生服の男性が、ピアノを弾きはじめる。
「「「んーんーんー♪」」」

「さあ皆さん、踊りましょう。舞踏会の始まりです!」

たらったったんらったったんらったったんらったった…
クルー達の周囲に「紳士淑女」達が集い、ダンスを始め出した。
 

「「「…」」」

パリスがトリコーダーの表示に微笑む。
「艦長、クルーは散らばってはいますが、全員この中にいるようです。」

「そうか。それでは各自ホラグラムの発生源を探してくれ。」

「了解。」
 

キムとパリスは、舞踏会場の一角をトリコーダーをかざしながら歩いていた。
「ダンスのお相手を、して下さいますか?」
トウガの前にドレスの女性がやって来る。

「お、良いね。」
女性の手を取るトウガ。

「ホログラム相手によくそういう事出来ますね。」

「お、ミッキー、妬いてるのか?」

「妬いてる? な、何で、僕が!」

「そうカッカするもんじゃないさ。ホログラムだからこそ子供も出来ないし、何をやっても許される。仕事は誰か、他のクルーがちゃんとやってくれるだろ。」

「もう…」溜息をつくミキ。
「ん? パリスさん、何かこっちにエネルギー反応が、」
振り向くキム。

「ふう…中々良かったよ、クリスティーヌ…」
(何故かある)ベッドで虚無の表情でタバコを吹かしているパリス。

がーん。
「(スピード速すぎ!)」

トウガはふと気付き、ベッドをおり立ち上がった。
「何だミッキー、そっちに発生源があるのか。」

「ふ、服ちゃんと着て下さい。…ええそうです。」

「あ、と、トウガ様、どこへ行らっしゃるの?」
慌ててクリスティーヌが2人を追う。
 

2人はトリコーダーをかざし廊下を進んで行く。ドアの前で立ち止まる2人。
「ここです。」

「ねえ、こんな所に来ても仕方がありませんわ、また踊りましょ?」
クリスティーヌは2人の前に立ち塞がる。

「クリスティーヌ、ここには一体何があるんだい。」

「…ここは、確か…ただの物置ですわ。こんな所にいたって何もありません、お2人とも」
クリスティーヌを手でどけるトウガ。トウガとミキは頷き合い、ドアを開けた。

中は、確かに樽やモップのような物等の並ぶ物置だった。
「もう。…申した通りでございましょう? さあ、お気が済みました?」

「生命反応だ! ここの壁の向こうに生命反応があります! ヴァルカスカ人1名と、後他にも数名。地球人です。」
目を見開くミキ。
「それから、マトリックス処理装置がここにありますね。」

「ホログラム発生源だな。」頷くトウガ。彼は胸のバッジを叩く。
「パリスより艦長、ただがはあああっ」「ふんぬっ!」

クリスティーヌがトウガを投げ飛ばす。蹴り。蹴り。ロー。ストレート。蹴り。アッパー。手榴弾。
「ごぶぐぶごほぐふうっがはごほぼがあああああああ」「うわああああああああ」
 

「どうした!」
ジェインウェイ達クルーが倉庫に駆けつけてくると、既に全身バラバラのパリスと、心がどこかに飛びかけているキムが立っていた。
「キム、説明しろ!」
ジュリはミキの肩を揺らす。

「こ、こっひに、生命反応ひゃ、それからこっひにホオグハムひゃ」

クルー達に頷くジュリ。その時周囲の壁から紳士淑女達が現れた。
立ち上がる(そしてミキの肩を落す)ジュリ。
ごつっ
「あひゅう」キム殉職。
 

正面の壁から姫らしき女性が現れる。
「残念ですわ。私達は歓迎しようとしたのですけど、通じなかったようですね。それでは次の段階に進むより他ないでしょう。」
ぴしゅううう。
彼女がそう言うと、正面の壁が消え、ステーションの部屋が現れた。

「…」目を見開くジュリ。

目の前の部屋は、何かの医療室か、実験室なのだろうか。寝台が10個かそれ以上あり、そのいくつかに人間が寝かされている。眠っているのか、彼等の意識は無い。そして彼等は機械によって、何かの実験か、手術をされているらしかった。

「これは一体」
振り向くと、既に紳士淑女達は消えていた。


同じ寝台にジュリが寝かされている。頭に何らかの針のような物が近づき、刺さる。痛いのか、一瞬顔をしかめるジュリ。しかし意識が無いのか、彼女は為す術も無くそこに寝たままだ…


ジェインウェイはふと目を覚ました。
ぴろりろりん。
「ジェインウェイよりブリッジ、誰かいるか?」
何故かボヤゲルの機関室の通路で寝ていた艦長は、起き上がった。

ジュリの周囲の他のクルー達も今気が付いたらしく、不思議そうに起きている。
「…ぁい、マリ゛は只今留守にしでいます。御用の方は」

「ロリンズ、切るな! 起きろ、これは通信だ!」

「あ、は、はい、起きました、艦長!」

「ロリンズ、私達が意識を失ってからどの位経つ?」

「えー…既に3日が経過しているようです。」
 

「3日もか。」驚き呟くジュリ。

マリの報告が続く。
「艦長、ショタキの船が、発進しようとしているようです。」

「ああ、引き止めておいてくれ。艦長より上級士官に告ぐ、ただちにブリッジに急行せよ。しなかったらムチ打ち刑だ。」
自分も歩き出しながら言う艦長。


ジェインウェイがブリッジを歩いてくる。
「コンピューター、行方不明のクルーは何名いる。」

ぴぴ。
「ミキ・キム少尉一名です。」

「そうか…ロリンズ、ショタキ船に呼びかけてくれ。」
モニタには、半壊した鉄人船の内部が映し出された。映っているクルーは2名のみだ。

「キャコティ司令官、こちらはUSSボヤゲル艦長のジュリ・ジェインウェイだ。」

緑男は目を細めた。
「何故貴様が俺の名前を知っている?」

「話せば長くなるが、捕まえに来たからだ。」

「「…」」
アンボックと目を合わせるキャコティ。
「…短いぞ。」

「そうか。君達を捕まえに来たのはいいが、何故かここまで飛ばされてしまった。現在クルーが一名行方不明だ。そちらに行っていないかと思ったのだが…」

「いや、連邦の人間はこちらに来ていない。実はこちらも一名クルーが不明だ。ウテナ・トレスという鼻っ柱の強いエンジニアだ。人格は最低の猿女だが仕事は出来る。彼女がいなくて困っている所ではある。」

ジュリは頷いた。
「お互い抱えている問題は同じのように思える。ここは一つ、協力し合おうじゃないか。共同作戦をとりたい。」

「…どう思う、アンボック。」
隣の席に聞くキャコティ。

「わたくしはキャコティ様の言いなりですから…でも、この状況下ではそれも良いかも。」

「うむ…分かった。君がそう言うならそうしよう。艦長、我々がそちらへ向かう。」
やや頬を赤らめつつ言うキャコティ。

「分かった。」


数秒後、ボヤゲルのブリッジにキャコティ達が現れた。
ぴぎゅいいいいいいん。
「彼等は武器を持っています!」
ロリンズが叫ぶ。

手を上げる艦長。
「大丈夫だ! ロリンズ、武器を下げろ。キャコティ、悪いが君と争う気は無い。…おかえり、アンボック。」

「あ、アンボック!」声を上げるキャコティ。アンボックは構えていたフェイザーを下げ、ジュリの側に立った。

「USSボヤゲルの保安部長として、あなた方を監視していました。うむっ、むう…」
ジュリと抱き合い、レロレロン(ディープキスを意味する連邦公用語)するアンボック。

ががーん。さらさらさら…
砂化するミド。

「むう…はあ。私の任務は、ショタキの情報を収集、それからあなた達を連邦に安全に引き渡す事だったんです。ごめんなさい、キャコティさん。」

「あ、アンボック…」

「ちょ、ちょっと、ひどいじゃないよ! スパイだったなんてえっ! (こいつはともかく)私やウテナを裏切ったわね!」
キャコティの隣の、タマネギ頭のイブジョー人が声を上げた。

でれでれしだすアンボック。
「いやっだあ、セスカさん、そんな言い方照れますう。」

「「…」」

「よ。久しぶりじゃないか、親友。」
 

キャコティはジュリ達の後ろから聞こえてきた声に顔を上げた。
「き、き、貴様! 彼女はヴァルカスカ人である以上腹を立てても意味が無いが、貴様は何だ! 俺達を金の為に裏切ったか!」

パリスは両手を上げた。
「金? はは、とんでもない。俺はただ、君を救いたくてここに来たんじゃないか。キャコティ。俺達の、本当の正義の為にね。」

「何だと! 適当に抽象的な事をぬけぬけと言いやがって! 貴様、恥を知るがいい!」
腰の刀(を彼は持っていた)を抜こうとするキャコティ。しかし彼の前にジュリが立ちはだかった。

「暴言は慎んでくれないか。」ぴし、ぱし。
「君も自分のクルーを侮辱されれば、腹も立つだろう? それとも私と剣の勝負をしたいか?」

「う、うぬぬぬ…」視線を戦わせる両艦長。

びび、びびび、びびび…
「…ま、まあ…今日は止めておこう…占いラッキーデーじゃなかったし。」
視線を外すミド。

「「「「(弱っ!)」」」」
 

ジュリは顔を向けた。
「アンボック、行方不明のクルーの捜索に当って何か有効な情報はないか。」

「そうですねえ。スキャンによれば、あのステーションにいる生命体は一体のみでした。恐らくその生命体は私達の故郷のホログラムを用意し、私達をリラックスさせた後、私達の体を調査したものと推測されます。」

「調査が目的なのか。」

「ええ、論理的に考えればそうなりますね。」トウガに微笑むアンボック。
「私達は無傷で送り返されている訳ですから。」

「帰ってない奴もいるけどな。」
肩を上げるパリス。

艦長はしばらく考えてから顔を上げた。
「もう一度ステーションに行こう。フェイザーライフルを準備。アンボック、私達が行っている間に、ステーションの調査を進めてくれ。ロリンズ、私達が上陸したらシグナルを常にロックしておくように。キャコティ、行くぞ。」

「分かった。」
ターボリフトへ歩いていくキャコティ。
 

「ああ、僕も行きましょう。」
トウガが歩き出す。

「…キャコティに言われて気にしているのか。」
小声でジュリが囁く。

「いえただ俺は、ミッキーが心配なだけです。」

「ミッキー?…ああ。」頷くジュリ。
「噂通り手が速いな。」

「いえ、まだ、そこまでは…」

「分かった。付いてこい。」
ジュリとトウガもターボリフトに乗り込んだ。


目の中に入れても痛くなさそうな程可愛らしい少年が2人、こちらを覗き込んでいた。
「(気が付きました。)」

声が聞こえるが、少年は口を開いていない。どうやら彼等はテレパスのようだ。
良く見ると、彼等の耳の形は地球人等とは異なっていて、顔に密着しているようだ。
「(気分は、どうですか。)」

「…」
ミキは起き上がり、寝ていた寝台を下りようとした。

「ああ、まだ病気ですから下がらないで。」

「病気? 僕は別にどこも病気じゃ…うわ、うわああああああ」
腕の一部から、安っぽいカクカクしたCGのような物体が飛び出ている。

「絶対に負けへんでえー。わいがこの体は食い尽くしたるんや!」

「む、ムチッ子!」

ミキの声がうるさかったのか、隣の寝台にいたもう一人の患者がふいに起き上がった。
「ああ、まだ動かないで!」
どうやら看護士であるらしい方の少年が彼女を制止しようとする。

「ふうんっ!」

うわああああああああ」宙を舞う看護士。

「あああああああ、ふんっ! うっ、やあっ、ふんっ、」

彼女は部屋のドアに来たが、そこで自分の腕に気付く。
「汗ばむわー。」
患者の腕から顔を出すムチッ子。

「あ、あ、あ、うわああああああああああ……あ…」
宇宙人にハイポスプレーの鎮静剤を打たれ、彼女は気を失った。


ぽろん、ぽろん、ぽろん…
「まだいたのですか。んー。」

ガランとした城の舞踏会場。ただ一人残っていたメガネの男(以下メガネ)が、ピアノの前に座っていた。
「もうあなた方に用はありません。」

「君があるかどうかは知らないが、私達にはあるんだ。2人を返して欲しい。」
腕を組み(当然ムチも持って)言うジェインウェイ。

「んー。あなた達は下等な生物の割に口だけは達者ですね。」
たん、たん、たたたた、た、たん、たん…♪

「「「(何で「踊るポンポコリン」を弾いてるんだろう…)」」」

「貴様、俺達のクルーをどこへやった!」
キャコティがすごむ。

「んー。2人は諦めて頂きたいですね。んー、んー。」

「何だと!」

キャコティを手で止めるジュリ。
「そういう訳にも行かないんだよ。私達はしつこい種族でね。自分の部下を返してもらうまでは、帰る訳にはいかないんだ。君にこの考え方が分かるかどうか分からないが…」

「ん゛ーーー。」メガネは首を振った。
「とんでもない、良く分かります。しかしもう時間が無い。手段を選んでは、いられなかったのです。」
たんたた、たんたた、たった、たたたん、たんたた、たんたた、たった、たたたん♪
「僕は間違いを犯した。その罪を償わなければ。んー。」

「罪?」聞き返すトウガ。

艦長はメガネの近くによった。
「君。どういう事か、話を聞かせてくれないか。あるいは私達が君の力になれるかもしれない。」

「ん゛ー。ん゛ー。そんな事が出来る訳ないでしょう。私の科学技術をもって無理な事が、あなた方に? ん゛ー。ん゛ー。」
半分歌っているメガネ。

「…いずれにしても、7万光年もの距離をさらわれたんだ。ちゃんと家には帰してもらうよ。」

「んー。その為には計算する時間がいります。しかしそんな時間はもう無いんです。んー。んー。」
メガネは顔を上げ、ついでにメガネも上げた。
「ダスビダーニャ!」

しゅうううう。
 

気付くとジュリ達はボヤゲルのブリッジに立っていた。転送で送り返されたらしい。
ジュリはモニタから映るステーションを見て、溜息をついた。


はっ
「あ、大丈夫、敵じゃああああああ」
がすっ。
「…て、てきじゃありませんから。」
問答無用で宙を舞ったミキはだらだら血を流しながらウテナに言った。

「君は一体何者だ!」

「ぼ、僕は、連邦艦隊宇宙船USSボヤゲルのクルー、ミキ・キムです。」
頭にサク、と刺さったハサミか何かを抜きながら答えるミキ。

「連邦? 何で連邦がこんな所に!」

「あなた達を追ってきたんですよ。降伏して下さい、確かこの辺にフェイザーが…」

「こんな状況で良くそんなのんきな事が言えたものだね。…はあああああふうううっ!」
医療室のドアに体当たりをかますウテナ。段々だがドアが変形しているように見えるのが恐ろしい。
「はあっ! ふうっ! やあっ! はあああ」

「…」

「あああああ、奴等は、一体僕に何を植え付けたんだよおおおお!」

「…山田花子でしょう?」

「そういう問題じゃないだろおお!」
再びドアに体当たりをしだすトレス。

「や、やめましょうよ! 暴れているとまた薬で眠らされますよ。」
 

「…た、確かに…」ウテナは頭を振り、しばらく深呼吸をした。
「すまない…心を、押さえ切れないんだ…僕、半分ゼレンゴンの血が流れているからね…」
ベッドに戻り、座るウテナ。

「あなたの名前は。」

「ウテナ・トレスっていうんだ。よろしく。えーと…ミキ君。」
 

ドアが開き、前に比べ比較的年を取った青年が現れた。
「お2人とも、大丈夫ですか。」

「君達は、いつまで僕達をこんな所に監禁しているつもりだ!」

「監禁している訳じゃ、ありません。むしろ僕達は大事なお客様と思っているんです。大アニキの送られた方ですから。」
ウテナの言葉に、青年は少し驚いたように答えた。

「ムーシムシムシ、ムーシムシムシ。」
「僕達の体は、一体どうなってしまったんです?」自分の腕で喋っている妙な物体を見せて問いただすミキ。

「さあそれが、正直僕達にも良く分かりません。」

「「…」」

「どうでしょう、一緒に外で食事をしませんか?」


ミキとウテナは、青年の後を付いて通りを歩いていた。街は非常に巨大なドームのようになっていて、公園の緑以外は全て人工建築物のようだ。通りは非常に清潔だが、同時にどこか無味乾燥としている。

ミキがふと、口を開いた。
「…ここはもしかして、地下なんですか。」

「その通りです。僕達オカンブキ人は昔から地下で暮らしてきました。500世代以上前からそうしているそうです。」

「じゃあ、その前は?」

「それ以前は地上で暮らしていましたが、異常気象で人が住めなくなってしまったんだそうです。地上は砂漠と化しました。伝説によるとその時大アニキが現れ、僕達の祖先をこの地下に連れてきてくださったんだそうです。…フードディスペンサーはこの先です。」

壁の一角に一種のフードレプリケーターが並んであり、住民達が並んで配給を待っている。
「若い人達などはここの食事の味は刺激が足りない等と言いますけど、栄養はこれで充分とれますよ。」

ディスペンサーからボウルを2つ手に取った青年は、2人にそれを渡す。

トレスは周囲を見回して尋ねた。
「ところで、何で子供達ばっかりなんだい? ここは学校か何かなの?」

青年は苦笑した。
「ああいえ、そういう事じゃありません。彼等の殆どはれっきとした大人です。種族が皆さんと比べて、小柄なだけですよ。」

「ああ、そうなんだ…」頷くトレス。

「僕なんてもう7歳です。」

「「え?」」

「…あ、ああ、後、比較的短命な種族でもあるみたいですね。僕達の平均寿命は大体9年なんですよ。」

「「ああ…」」同時に頷く2人。

「後、ここ、殆ど男の子、いや、男の人、ばっかりだよね。」

「この近辺では男女のバランスが1対1でない種族は珍しくありません。ですから、オカンブキでは女性が街を歩く時などは人が集まって大変になるんですよ。」

「へえ…へ?」

「と、トレスさん、さっきから素通りされっぱなし…」
言わなきゃ良い事をわざわざ口にするキム。

「…い゛、良いんだ、こういうの僕、慣れてるし…」
目が三日月になっていくウテナ。
 

「あ、た、多分特に美人だから皆萎縮しちゃってるんですよ。ね、この美味しそうな…何か、食べましょう! ね!」

「う、うん…」

2人はスプーンでボウルの何か一種のクリームのような物をすくい、口に運んだ。
「「うっ。」」

「…? どうされました。」

「これ、物凄く味濃いよ。ゲロアマじょっぱい。」

「昔おばあちゃんの家で食べた砂糖菓子に、キャラメルと岩塩をたっぷり混ぜたような…」
スプーンを持ったまま、動きの固まるウテナとミキ。

「そうですか。これを味が濃いと呼ばれる人もいるんですね。」
ニコニコする青年。

「「はあ…」」
 

キムは、広場(というか一種の屋内なので大き目の待合室という感じが近い)の大きなモニタを指差した。
「それでその、大アニキ?とは、あれを使って話すんですか。」

「直接話す訳じゃありません。僕達は大アニキの意思を汲み取って行動します。この地下都市が使用するエネルギーも、今お2人が食べている食糧も、全て、大アニキが自らの汗を与えて下さっているんです。…夜のおかずまでです。」

「「(何だかなあ…)」」

「耳を澄ませてみて下さい。」

どごーん。どごーん。どごーん。

「聞こえるでしょう? 宇宙から一定間隔で、常にああやって大アニキがエネルギーを送って下さっているんです。あなた達がここに来たのも大アニキの御意思なんですよ。」

「で? じゃあ大アニキが僕達をここに送ったのは、君達はどういう御意思だと解釈したの?」

「恐らく、その病気というか、寄生虫というかが広まるのを防がれるためじゃないかと思うんですが。」
青年がトレスに答える。

「僕達は、ここに来る前はこんな寄生虫に感染はしていませんでした!」

「大アニキは、実は今までも何度かこの病気にかかった方をここに送って、僕達に看護を任せました。」

「え、何だって、他にもこれの患者はいるのかい?」

「ええ。」シリアス顔でウテナに答える青年。
「この寄生虫はとてもしつこいんです。今までの患者で、助かった方は、一人も…皆最終的にはその寄生虫に変身されました…」

「「(死ぬより最悪…)」」
2人の額に縦線が入った。


航星日誌、宇宙暦48315.6。宇宙ステーションからのパルスは、付近の第五惑星に絶え間無く発射されている。キムとトレスも恐らくそこにいるに違いない。それはともかくとして、今日のロールは持ちが悪い。既に全長が3ミリも下がっている。これでは本当の意味で気高い髪とは言えない。どうやらオイルの交換時期に来ているようなので、後で変えておこう。今日一番調子が良かったのは、左の第二外ロールだった。ジュリの今日のMVRはこれに決定。全体としては不調だったが、ここの持ちは定評のあるハリと、

ぽろろん。
「…入れ。」

「艦長。お伝えしたい事があるのですが。」
ニコニコを貼り付かせたヴァルカスカ人が調教室艦長室に入ってきた。

「ああ何だ、アンボック。」

「ステーションからのパルスですが、今までより速くなりました。間隔が0.47秒ほど縮まっています。理由は不明です。」

「そうか…実は謎は他にもあるんだ。」机のモニタをアンボックに見せる艦長。
「さっきから頭を悩ませていたんだが、この第五惑星は生物の住めるMクラスであるにも関わらず、水の構成要素となる物質が全く無いんだよ。こんな惑星は初めてだ。恐らく過去に何らかの事故か、異常気象があったとしか考えられないな。…船の修理が完了次第、第五惑星に向かうとしよう。」

「…艦長、顔色がよろしくありません、お休みをとられたらいかがですか?」

ジュリは苦笑し、頷いた。
「ああ、そうだな。休もうとは思うんだが…正直気持ちの整理が付かなくってね。…出発前、地球のキム少尉の親御さんから通信があった。彼愛用のことわざトレインを彼が忘れたので、船に送れないかと言っていたよ。知ってるかい、キム少尉はアカデミー時代、全メキシコことわざトレイン選手権で一位を取ったそうだ。」

「キムさんとは、まだ会っていませんでしたので…」

「私もだ。まだクルーの名前と顔も一致するかしないかという時に…まあ別段させようとも思っていなかったが…こんな事になってしまったよ。しかし今となっては、クルー一人でも重要だ。普通ならここで置いていく所だが、今回は状況が状況なだけにそういう訳にはいかない。」

「艦長? クルーを思われる気持ちは素晴らしいですが、その為に不必要に疲れてしまっては結局クルーの為になりませんねえ。」

「そうだ。確かにその通り。論理的だな。」頷く艦長。
「君が戻ってくれて助かる。」

「有り難う御座います。私は艦長に探して頂いてこうしてまた会う事が出来ました。」
 

「任務の前に、君の親御さんにも会ったよ。まあ、親御さんというか…」

「育ての親ですね。」

「ああ。タコのお父さんとマングースのお母さん。正直地球人の感覚では良く分からないと思っていたが…ヴァルカスカのタコやマングースは非常に知的なんだな。」

「ええ。3歳児程度の知性がありますから。」
微笑むアンボック。

「(それでも3歳児なんかい…)御両親は君の事を心配していた。」

「艦長、それは正しい認識ではありません。タコやマングースとはいえ、ヴァルカスカ人は心配はしませんから。」

「…君に、とても会いたがっていたよ。」

「…私もです。」
 

「そうか。必ず会わせて見せる。約束するよ。」
ジュリはアンボックの前に立ち、肩に手をかけた。

「どもども♪」
2人は頷き合った。


翌日

ボヤゲルは船の残骸が多数浮遊するエリアを航行していた。
「1隻の船から生命反応があります。」

「通信を入れてくれ。」
艦長席で命じるジェインウェイ。

画面には、手ぬぐいのほっかむりで何やらゴソゴソしていた女性が映る。基本的に金髪の美人だが、どこか地球の猫に似た体毛がところどころに生えていて、おでこの形も独特だ。
女性はこちらの通信に気付き、カメラをガラクタの中から取り出すとそれに向かって迫った。
「よろしいですこと! どこのどなたか存じ上げませんけど、ここはわたくしが先に見付けた以上、全部わたくしの物なんですのよ! 交信」

「いや、ちょっと待ってくれ。私達は君の縄張りを荒すつもりは無い。…君の名前は?」

「わたくしナナミックスの事を御存じないのかしら?」肩を上げるナナミックス。
「まあ、ライバルでないというなら話を聞いてあげてもよろしくってよ。あなたの御名前は?」

「私は、連邦艦隊USSボヤゲル艦長のジュリ・ジェインウェイだ。」

「あら、それは凄いわねえ。…良くは分からないけど…」

「君は…中々この宇宙域に詳しそうだな。」

ナナミックスは片手を口の前に上げた。
「おーっほっほっほっほっほっほ。中々鋭くていらっしゃるのねえ。そう、このわたくし程この地域に詳しい者など他にはいなくってよ! おーっほっほっほっほ。」

「…」耳が痛くなったらしく、一瞬眉を寄せるジュリ。しかし気力で持ちこたえたらしい。
「そうか。…あの、ステーションは一体何なんだ? 何かパルスを第五惑星に向けて発射しているようだが…」

「ほ。まあ、あれには近寄らない方が身の為という事は言えると思いますわ。…あら。もしかしてあなた達、あれかしら、宇宙の違う果てから連れてこられたんでなくって?」

「ああそうだ。…他にもそういう船がいたのか?」

「それはもう…何千、何万、何億、何兆…いやまあ数十隻だったかもしれないけど…最近大アニキがあちこちから拉致ってきているんですわ。」

「大アニキ?」

「ああ、オカンブキの世話をしているんですわ。オカンブキというのは、第五惑星に住んでいる種族でしてよ。それじゃあ…」
ナナミックスは眉を上げた。
「もしかして、あなた達もクルーが数名、行方不明になってしまったんじゃなくって?」

「ああ、その通りだ。」

「いつもの事よ…」
うんうんと頷くナナミックス。
 

「ナナミックス、私のクルーがどこにいるか、分からないか?」

ナナミックスは首を傾げた。
「多分、オカンブキの所にいるんだと思いますわよ?」

「それでは、出来たら私達がクルーを探すのを助けてくれないか?」

「ああ、それは難しいですわ。皆さんをお助けしたいのはヤマダ電器ですけど、わたくし今御仕事の最中ですもの。こういった場所でも、時々中々良い物も見つかる物なんですのよ。申し訳有りませんわね、では…」

「いや、もちろんお礼はするつもりだよ。」

「…お礼? お礼と言ったって…何が頂けるのやら…まあ、それでも、もし出来るなら…その…」

「何だ?」身を乗り出す艦長。

「男を、用意できるなら、考えなくもなくってよ。」

「…パリス。」

「え? お、俺ですか?」

モニタのナナミックスは両手を合わせた。
「あああら、中々よろしくってよ? でもまずはもうちょっと、薄味なんて頂けたら…」
 
「デルタ宇宙域はショタキだらけか?…」呟くジュリ。
「分かった。君好みの男をいくらでも手配しよう。」
あっさり同意する艦長。

「商談、成立ですわね。」ナナミックスはにっこりと頷いた。
 
「それでは転送でこちらに収容しよう。アンボック、第二転送室へ、」

「て、転送?」

「…ああ、君を瞬時に移動させるテクノロジーだよ。体に害は無いから安心してくれ。」

「わ、分かりましたわ。い、いつでもよろしくってよ。」
 


アンボックは転送室へ歩いてきた。
「それでは転送をお願いします。」

ぴぎゅいいいいいいいん。
顔をひくひく引きつらせた状態のナナミックスは、自分の体を確認するとほっと息をついた。
「お、おお。連邦という所は、随分科学の進んだ星なんですのねえ。」

「連邦というのは、いくつもの星からなる国家です。例えば、私はヴァルカスカ人です。」

「へえ…」微笑みを絶やさないアンボックをしげしげと見るナナミックス。
「あなた、何か面白い事でもあったの?」

「と申しますと?」

「あなたずっとニヤニヤしてるじゃない。」

「申し訳ありません。これが私の素の表情ですので。」

「へえ…」

「どもども。」

周囲を見回すナナミックス。
「この装置は一体何なんですの? それからこれは? これは?」

「全ての装置には固有の機能がありますが、それらを全て説明するには時間がかかります。よろしければ先に、客室に御案内したいのですが…」

「あ、あ、ええ、そうしてくださる?」

「どもども。」アンボックは頷くと、転送室のドアに近づく。手を差し伸べるアンボック。


アンボックは部屋のチャイムを押した。応答が無い。もう一度押す。応答無し。
「すいません。ナナミックスさん、入りますよ。」

アンボックはナナミックスの客室のテーブルを見ると、眉を上げ、メガネを光らせた。
「ほう…」
テーブルには食べたフルーツやバイブが散乱し、どうやら男体盛りに使われたらしい「食器」達がのびている。

「ふんふふふんふん♪…あーっ、ヴァルカスカ人さん、入って下さる?」
浴室の方に呼ばれるアンボック。

ナナミックスは泡のたった風呂に入り、男達をはべらせ上機嫌だ。
「いやあ、連邦という所は随分贅沢な所なのねえ。こんなに良い男達が一杯いるなんて。ちゅっ。」
よいこの皆の為に詳しくは書けないが、まあそういう状況である。

「ナナミックスさん、お楽しみの所申し訳ないのですが…そろそろ第五惑星に到着します。」

「あらそう。…ちょっと、そちらのタオル頂けるかしら?」

「はい。」

タオルを体に巻き、風呂から上がるナナミックス。
「それではねえ。星の南の大陸をスキャンして、大きな山脈を探して下さる? そこの山すそに干上がった川があるわ、その川沿いにカラーヒヨコ製造工場跡地があって、川の河口跡に鬼が島の跡があってよ。その二つを結んだ線を一辺とする二等辺三角形の…(10分経過)…の更に5キロほど行ってこれを地点Mとし、線分JKと線分LMの交点になる場所に村があるはずよ。そこに行って下さるかしら。」

「それではそちらにオカンブキの方々がいらっしゃるんですか?」

ナナミックスは頭を振った。
「…いいえ、いなくってよ。でもそこの住民に男を与えれば、オカンブキの話を聞く事が出来てよ。」

「なるほど。」
 

「…ところで、あのレプリケーターとかいう物は、服やアクセサリーも作る事が出来て?」

「ええナナミックスさん。」

ナナミックスはアンボックの服と顔を指差した。
「それでは、その服と眉毛を頂けるかしら。」

「申し訳ありません。この服は艦隊の制服。それから、こちらの眉毛はアクセサリーではありませんので。」

「あら、そう…」


ぴぎゅいいいいいん。
ジェインウェイ、キャコティ、アンボック、パリス、ナナミックスは第五惑星の地表に転送された。

「また物好きな所に皆住んでいるな。」
一面のれき砂漠となっている周囲を見回すトウガ。

「こんな場所でも、動力用ハサミムシの産出量は高いんですのよ。」

キャコティがナナミックスの方を向く。
「オカンブキの資源という訳か。」

「オカンブキでなくってよ。ケイコン・ソノダですわね。」

「ケイコン・ソノダ?」
聞くジュリ。

「彼女達ですわよ。」ナナミックスは自分達が目指して歩いている集落を指差した。女性ばかりのエイリアンが続々と建物から外に出だしている。
「この辺一帯を支配する種族で、セクト争いの好きな方達ですわ。」

「オカンブキに会うんじゃなかったのか?」
眉を上げるジェインウェイ。
 

ナナミックスはケイコン人達の前に立つと、例の裏手のポーズで挨拶を始めた。
「おーほっほっほ、お久しぶりね皆さん。おお、お゛お゛おおおお」
フェイザーを奪われ、住民達に追いつめられるナナミックス。クルー達も包囲された。
「ご、御冗談もほどほどにして頂けるかしら? スルーフさんに会いたくってよ。」

「あーら、久しぶりね、ナナミックス。」
建物から「左右に髪を束ねておでこでくるりん」の女性が現れた。どうやらここの長らしい。額の突起はややゼレンゴンに似ているが、比較的シンプルだ。

「おーほっほっほっほ、あなたも相変わらずのようね。妙な前髪の自己主張はうぐっ」

「言いたい事はそれだけかしら? ナナミックス。」フェイザーをナナミックスに突きつけるスルーフ。

「ちょ、ちょちょちょっち(ちちょまんち)待って頂けるかしら? 今日はわたくし取り引きがあって来たのよ。」

「取り引き?」

「彼等よ。」目でクルー達を指すナナミックス。
「彼等は空中から男を作り出す事が出来てよ!」

スルーフは眉を上げる。
「ふん、面白い。やってみせて欲しい物ね。」

ジュリに頷いて見せるナナミックス。
ぴろりろりん。
「ボヤゲル、少年のライブフィギュアを1体転送。」
バッジに言うジェインウェイ。

ぴぎゅいいいいいいん。
どさっ。
地表に現れた全裸の少年に駆け寄るスルーフ。疑わしげに胸や…を触る。
スルーフは顔を上げた。
「…もっと、頂けるかしら。」

ぴろりろりん。
「ボヤゲル、更に10体転送。」
ぴぎゅいいいいいいいん。
「「「「きゃああああああ」」」」
少年達に走っていくケイコン人達。互いに奪い合ったり…たり…たりしている。
 

「君の力を貸してくれれば、君が欲しいだけ男は与えよう。」ジュリがスルーフに言う。

「これだけの技術があって、私達の力を借りたい事なんかあるの?」

「ああ。オカンブキ人がどこにいるか知りたいのさ。君なら知っているだろう?」

「オカンブキ人。まあ確かに、彼等は中々可愛いわね。」頷くスルーフ。
「でも彼等と会うのは簡単ではないわ。まれに地上に出る子もいるけど。」
建物の中からそうっとこちらを覗いている少年に、スルーフは目をやった。

「あの子もそうよ。でももう駄目ね。使い過ぎでしおれたわ。」
確かに少年は顔がげっそりして、目がうつろだ。

「つまり、普段は地下に住んでいるのか?」

ぴぎゅん。ぴぎゅん。ぴぎゅん。
遥か向こうにある、空からのエネルギーパルスを受ける施設を目で指すスルーフ。
「宇宙から食糧やエネルギーが、ああやって地下に向けて送られているわ。この星で生活に困っていないのは地下3キロに住む彼等だけね。」

「仲間が2人、そこにいると思うんだ。地下に行きたいんだが。」

「無理ね。通路は全てふさがっているし、全体がシールドで覆われているわ。」

「しかし彼は、出てきたんだろう?」

「彼ももう、通路はふさいでいるわよ。」

「道案内をさせたら?」

「それも試したけど無駄だったわ。聞いても喋らないのよ。」

ナナミックスが2人に割り込んだ。
「それならスルーフさん。あのたくさんの新鮮な少年達と、あのオカンブキ人と物々交換してもよろしいわね?」

「…私としては、少年そのものより、この空中から物を作るテクノロジーの方が欲しいわね。」

「それは難しいな。これは船から簡単に外せる装置じゃないんだ。」
 

「それではうぐがあっ」
「動かないで!」ナナミックスはスルーフのフェイザーを奪い、彼女の首に突き付けた。

「武器を降ろしなさい! そうしなければこれの運命はチャトラン並よ!」
ざわめくケイコン人達に言うナナミックス。

「聞こえなかったの! これの運命はチャトラン並よ!」

「「「「…」」」」
ケイコン人達はフェイザーライフルを地面に置いた。
 

動けないスルーフからフェイザーを取り、クルー達に配るキャコティ。
ナナミックスは横を向いた。
「ミツレス!」ナナミックスに走り寄ってくるオカンブキ人。

フェイザーを向けつつスルーフから離れるナナミックス。
「艦長。そろそろここを出るのはいかがかしら?」

ぴろりろりん。
「ボヤゲル、6名転送。」
 

ぴぎゅいいいいいいん。
彼等はボヤゲルの転送室に戻った。ブリッジへ戻ろうとするクルー達。

「ああ、ミツレス。」

ジュリはナナミックスの声に立ち止まった。
「あなたは助けると言ったでしょう? うふふふ。」抱き合っているナナミックスとミツレス。
艦長は眉を上げた。
 


どごーん。どごーん。どごーん。

ウテナはオカンブキの通りの一角で、壁に寄り掛かっていた。
「大丈夫ですよ。艦長達が見付けてくれれば、これ位は船の医療設備で治せますから。」
 
ミキの言葉に弱々しく微笑むウテナ。
「有り難う。でも、もう皆死んでるかもしれないね。」

「何てこと言うんですか。病は気から! こういう時こそ」

「う、ううっ」

「だ、大丈夫ですか!」首をおさえて苦しむトレスに近づくキム。

「汗ばむわー。」

「「(すっげえムカつく…)」」

「あ、あの…大丈夫ですか。」2人に、先程病室にいたオカンブキ人が近づいた。

「僕達をずっと見張っていたのか!」

「いいえ、違います。実は、薬を…」
煙のポコポコ出ているビーカーをウテナに渡す少年。

「…実はドームを出て、近くで自給自足の生活をしている人達がいて、そこの菜園の薬草なんです。…どこまで効くか分かりませんけど…でも、力になりたいんです。」

「もし僕達の力になりたいんだったら、地下から出してもらえませんか。」

「そ、そんな事をしたら、大アニキの意思に反すると言って大人達から止められます。」
困ったようにミキの方を向く少年。

「大アニキはともかく、君の意思は、どうなの?」トレスが尋ねる。

「…最近の、大アニキのする事は、良く分かりません。人をさらってくるし、食糧やオカズを送るペースも、速くなっているんです。」

「「…」」目を見合わせるウテナとミキ。

「もう5年分以上のストックがたまっています。大人は大アニキを信じれば良いというけど…一人僕達の仲間で、地上に出た者がいるんですけど、どうなったか知りませんか。」

「地上に? どうやって!」少年に迫るウテナ。

「あの…大アニキが最初に作った階段があって、年月が経ったので所々シールドに穴が開いています。と言っても、そのルートも、何メートルか穴を掘らないと、」

「穴を掘る道具を、用意してもらえませんか?」

「やる気ですか!」少年は目を見開く。
「でも今は、体を休めないと。」

「お願いします。人事を尽くして天命を待つ、これが最後の望みなんです。」

「…」
少年はミキの言葉に、ゆっくり頷いた。


金髪の少年にドライバーが栄養剤を注射していた。
「これでこの患者は問題無いだろう。」

「ナナミックスさん。事前に計画は話して頂かないと困ります。突飛な行動だったので面食らいました。」

「充分成功したんでなくって?」
アンボックに言い返すナナミックス。

「す、すいません、僕が悪いんです。僕が地上に」
ぶろろろろーん。
「まあ良いじゃないか。皆乗り給え! 世界の果てを、君にも見せて上げよう。さあ!」

ヘッドライトを光らせるコブラとそのボンネットに乗っかるドライバー。の前に立つジュリ。
「コンピューター、移動ホログラム解除。」
ぴしゅううう。
医療室から車とドライバーが消え去った。
 

「無謀なんですよね。好奇心がありすぎちゃって。」

「でもそこが好きなのよ、あ・な・た。」

「お楽しみの所悪いが、」2人に近づく艦長。
「地下へ案内してもらえるかな。」

「僕の通った所は、もう土を埋めちゃいましたけど…」

「場所さえ分かれば、転送で何とかなるよ。」

「艦長。それが、スルーフさんの言っていたシールドの為に、転送のロックが出来ないんですねえ。」
ニコニコしながら艦長にアンボックが言う。

ミツレスが目を瞬かせる。
「…ああ、シールドなら、穴のある所はいくつか知っています。」

「スキャンしよう。そこから転送波を送れるはずだ。」
艦長の言葉に頷くアンボック。

「ふっふっふ、つまりわたくしがオカンブキの少年達を一人占めという事ですわね? おっほ、おーっほっほっほっほっほ」

「な、ナナミックスさん?」
 

「…デルタ宇宙域は楽しい奴等が多いな。」
ジュリはアンボックに耳打ちした。


どごーん。どごーん。どごーん。

ジェインウェイ達はオカンブキの地下、ドームの外の菜園に来ていた。
菜園で仕事をしていたオカンブキ人の一人が、こちらを見て声を上げた。
「ああ、ミツレスじゃないか!」

「久しぶり!」
肩を叩き合う2人。

「もう会えないかと思っていたよ。」

「実は、この人達が僕を助けてくれたんだ。」
ジュリ達の方を向くミツレス。

「例によって、遠くから大アニキに連れてこられた人達で、仲間がここにいるはずなんだけど…どこにいるか分かる?」

「それなら多分、中央病院じゃないかな?」
 

「(行ってはいけません。)」

ミツレスは後ろを振り向き、きっとなって言い返した。
「この人達はテレパシーは使いません、ちゃんと口で話して下さい!」

やって来たのは、オカンブキ人としては長老であろうと思われる青年だった。
「皆さん、今すぐ帰って頂けますか。」

「仲間を見付けたら、すぐにでも帰るさ。」答える艦長。

「いけません、大アニキの意思に反します。」

「大アニキだろうが超あちきだろうが小千秋だろうが知った事じゃない。貴様の指図など受けん。」

青年はキャコティに頭を振る。
「あなた方は、分かってらっしゃらないんです。」

「分かる訳ありませんよ。僕達は自立する事を忘れて、ずっと大アニキの庇護にすがってきたんだ。まるで未だすねかじりの作者のようにね。だから自分達で考える能力も、超能力も無くした。僕達が以前は優れた超能力を持った種族だったなんて、今信じる人は誰もいませんよ。」
言い返すミツレス。
「皆さん、行きましょう。」

「待ちなさい!」
立ち塞がる大アニキ。
「行くなら、私を倒してからああああ」
びしっ。

「安心しろ。これは初心者用だから傷は残らない。意識も数分で戻るよ。」
ムチを肩パッド(兼収納ボックス)にしまいながら言う艦長。

一行はドームへ進んで行った。


どごーん。どごーん。

「凄いな、この階段は…」
呟くトレス。

2人の目の前には、空(地表)へ延々と伸びる大きな石造り?の螺旋階段があった。
「上りましょう。」
ミキが言う。

「うん。」
 

 
階段の歌
接待ウンテイ僕しとく?
 
接待ウンテイ僕しとく
接待ウンテイ得しとく
出店三百 七十八のウンテイクラブ
 
八名信夫風 サンタなんだ
銀紙噛むと桃源郷
彦麻呂一途 40年
鳥をチョップでプレゼント
 
外見るとカニ 家族がカニ 自分もカニ な砂漠谷
接待ウンテイ僕しとく
石灰運搬地引網 即しとく
置くし 串男 仕置く 苦をし 惜しく 敷く男
 
 
「あー、駄目だ。」
ミキが息をつき、無限に続くかに思える階段の途中で座り込んだ。

「こら、休むな!」

「そ、そんな事言ったって、うわ、うわ、うわわああああああん。」
じょーじょーじょー。

「はあ…」溜息をつくトレス。
「そうだな、少し休むか。」

「す、すいません…」キムは顔を赤らめた。
「僕、一芸入試で艦隊に入ったから、どうしても自分に自信が持てないんです。」

「誰だって最初から自信は無いさ。」微笑んで見せるウテナ。

「そう簡単に死にはしないさ。…ワカバも待ってるはずだし…大丈夫だよ、教官の教えなかった裏技だってあるんだからね。」

「教官?」

「サトロク教官だよ。サバイバルの授業の。習わなかったのかい?」
聞くウテナ。強がってはいるが彼女もかなり苦しそうだ。

「アカデミーに、いたんですか?」

「2年でやめたけどね。僕のいるべき所じゃないと思ったから。」

「あの教官、つんけんしてて好きになれなかったです。」
笑い合う2人。

どごん。どごん。どごん。
ウテナは眉を上げた。
「…聞こえるかい。…また、パルスの間隔が短くなっている。急ごう。」

2人は立ち上がり、また階段を上りだした。


「テンポが速くなっているな…」
オカンブキの街で耳を澄ませるジュリ。

どごん、どごん。
…しーん…
ふと、それまでずっと聞こえていたパルスの音が聞こえなくなった。
ぴろりろりん。
「ジェインウェイよりブリッジ。ステーションのパルスに変化は無いか。」

「たった今、止まったようです。」

「…」マリの報告に目を合わせるクルー達。
 

ミツレス達がジュリ達の前に小走りにやってきた。
「もう病院は出て、どうやら地上へ行こうとしているようです。」

「地上へは、どうやって行っているんだ?」

「多分僕と同じで階段を使うんだと思います。」

ずが、ずががーん。
「今度は何だ?」
オカンブキの地下都市が、何かの衝撃で揺れる。

ぴろりろりん。
「ロリンズより艦長。ステーションは、カンガルー砲で第五惑星の地表を攻撃しています。…どうやらエネルギー供給用の設備を破壊しているようです。」

「何故そんな事を?」キャコティが呟く。

「わかった。ロリンズ、通信チャンネルは開いたままにしておいてくれ。パリスとミツレスは、病院の人達にキム達を見た者がいないかどうか聞くんだ。」

「了解。」「分かりました。」
 

アーケードのようなオカンブキの通りを歩きながら、アンボックがジュリに言う。
「艦長、あくまで推測ですが、どこかの作者さんではありませんが、大アニキさんはもう疲れて、やめちゃおうとしているのではないでしょうか。」

「…どういう事だ?」

「5年分ものエネルギーを貯えさせた後、供給施設を破壊しています。つまり大アニキとしての仕事を捨てようとしているのでは。更に推測すれば、これはつまり大アニキさんは某SOUさん同様もうすぐ死ぬという事でしょうねえ。」

「単に、仕事に飽きただけかもしれないんじゃないのか。アンボック。」
キャコティが聞く。

「その可能性は低いでしょう。これまで何千年も仕事は続けていたんです。やむにやまれない事情があると考えるのが自然でしょう。艦長、ステーションの大アニキさんは何度も「もう時間が無い」とおっしゃっていましたねえ。自分がもう長くない事を悟っているのでは?」

「彼が死んだら、私達はどうやって帰るんだ。」呟くジェインウェイ。


「ああん、まだ遊び足りないのにい!」

「まあまあナナミックス、船に帰ったら、もっと刺激的な事を一杯教えてやるよ。」

「ほ、ほんとですのパリスさん!」

「あ、あの、御取り込み中の所悪いんですけど。」本当に申し訳無さそうにミツレスが遮る。
「パリスさんのトリコーダーの反応によると、この階段で間違いなさそうなんですけど。」

「そうか。」頷くトウガ。
ぴろりろりん。
「パリスより艦長。ミッキー達の上っている階段を発見、今から後を追います。」
 

「分かった。ロリンズ、彼等を発見しだい転送してくれ。それからここの3名を収容。」

ぴろりろりん。
「艦長、ロックできません。おそらくカンガルー砲から発生するスティッグマイヤー現象の為だと思われます。シールドの穴もスキャン不能です!」

「つまり私達も階段を使うしかなさそうだ。」肩を上げる艦長。
ぴろりろりん。
「ジェインウェイよりパリス。転送が使えなくなった。私達も君達の後を追う。…さあ行こう。」
 

階段の途中で座り込んでいたミキは、殆どまたどこかへ行ってしまった目で微かに微笑んだ。
「良かった。待てば海路の日和あり。来ないかと思ってましたよ。」

トウガがミキを助け起こす。
「恋人を置いて行けるかい。」

「こ、恋人? 友達ならともかく、恋人でしたっけ僕達?」

座り込んでいるウテナに眉を上げるナナミックス。
「あら、この娘何か可愛げが無いわねえ。」

「ゲンキニナッタラゼッタイブッコロスゾ…ブツブツ…」

「な、ナナミックスさん病気の人に何言ってるんですか。」

「おだまりなさいミツレス。」

「ひいいっ」

「ナナミックス、彼女は病気だ。助け起こしてくれないか。」

「はいパリスさん、もちろんですわあ。」

「「「…」」」

「ふんっ」ナナミックスはウテナを片手で担ぎ上げた。
「さあ皆さん、何をぼやぼやしてらっしゃるの? 行きましょう!」
 

「これが階段か。壮観だな。」
螺旋階段を見上げるジェインウェイ。

ずがーん。ずがががーん。

「でも艦長。どうやらこの階段は既に崩れる寸前のようですねえ。攻撃の震動もありますし。」

「そうか。では急いでいかないとな。」
駆け足で階段を上りだすジュリとキャコティ。

「アンボック、後どれ位で、…アンボック?」

ふと2人が見ると、アンボックはまだ階段の入り口をウロウロしている。
「時間が無いぞ、アンボック!」

「これは…」階段裏手のドアを開けるアンボック。
「艦長、これは多分エレベーターのようですねえ。」

「「何?」」

そのまま乗り込むアンボック。
「お、おい、アンボック、」
ぎー、がちゃん。ずうううううううん…

「ばっははーーーーい。」
アンボックは手を振りながら遥か上方へ行ってしまった。

「「…」」

「ああいう性格だ、気にせず行くぞ。」

「あ、ああ。」
ジュリはキャコティに頷いた。
 

5人は階段を上り終え、洞窟のようなトンネルを歩いていた。地表はもうすぐだ。
「シールドの穴の位置は知っています。この先です。」
先頭を行くミツレス。

ミツレスは行き止まりになっている部分で振り向いた。
「この辺りが地表への出口です!」

「ナナミックス、フェイザーを合わせてくれ。」

「はいパリスさん。」
2人は、近くの天井にフェイザーを当てる。
ぴぎゅ、ぴぎゅん。がらがらがら。
土の天井が崩れ落ち、人工でない光が差し込んだ。岩をよじ登るトウガ。トウガは穴に顔をつっこむ。
 

トウガが顔を出したのは、惑星の地表だった。そのまま何とか地表に出るトウガ。続いてミキ、ウテナを引っ張り上げる。更にミツレス、ナナミックスが顔を出し、穴をよじ登った。

ぴろりろりん。
「ボヤゲル、これでロックオンできるか。」

「まだ5人しか確認できませんが。」
きえーん。きえーん。
ずがががががーん。

肉眼でカンガルーが確認できる程の近さで爆撃が起きる。揺れに倒れるパリス達。
ぴろりろりん。
「ぱ、パリスより艦長。キャコティ。アンボック!」
 

トウガは頭を振った。
「やれやれ。ボヤゲル、それでは俺以外の4名を転送してくれ。」

「階段に戻る気ですの?」声を上げるナナミックス。
「…もう。しょうがないですわね。わたくしもおともしますわ。(訳:これでこの方の心もゲット…)」

「いや、邪魔だから良い。」

がーん。

「ボヤゲル、4名転送!」
ぴぎゅいいいいいいん。
3名と1砂像は転送されて行った。
 

洞窟を歩くパリスの前にヴァルカスカ人が現れた。
「あらパリスさん、まだこんな所でぼやぼやされてたんですか?」

「あ、アンボック! 通信が通じなかったが…」

自分の胸を見るアンボック。
「あら大変。通信機と間違えてなるとを付けていましたねえ。」

「そうか(汗)…艦長達は?」

「さあ…どうでしょう。」微笑むアンボック。

「?…そうか、とにかく助けに行こう。」

「どうぞお好きに。」
 

崩れかけた階段で、足を怪我したらしいキャコティがうめき声を上げていた。
「くううう、破廉恥なああ」

「ああ、キャコティ、ここにいたか。艦長。」

「私は大丈夫だ。」

階段を下りてきたアンボックがジュリに近づく。
「大丈夫ではありません。肩を貸します。」

「俺はキャコティを。」

「ん? 貴様などに俺を触らせるか。あ、アンボック、君の方が僕を」

ニコッ
「ヤです。」
とっとと艦長を連れて行くアンボック。

ががーん。
「ほら、キャコティ、贅沢を言うな。」
キャコティのいる場所に近づくパリス。既に階段がかなり崩れかけているため足の置き方に相当気を使う。
ずががーん。

「「くっ」」
階段が更に崩れる。

「こっちに来るな、ここも崩れるぞ!」

「かもな。でも俺は親友は助ける主義だからな。」

「言うな!」
ずががーん。

何とかキャコティのいる所まで近づき、手を差し伸べるトウガ。
「ほら、早くつかまれ! そうすればお前は一生俺の奴隷だ!」

「それが本音か!」
ずががーん。

「ネイティブアメリカンの教えじゃそうなっているんだろう?」

「俺の部族は違う!」
ずがががーん。
「くっ、勝手にし給え、貴様も地獄に道連れにしてやる!」
キャコティは諦めたか、トウガの肩につかまった。
 

冷や汗をかくトウガ。
「お、お前、太ったか?」

「何?」

「「あああああああああああああ」」
ぴゅううううううううううううううううううううどどーん。

崩れ去る階段と遥か下敷きの二名。


「「いだだだだ…」」

ドライバーがパリスとキャコティを見回した。
「もう2人とも大丈夫だ。大体パーツはくっつけたから何とかなるだろう。」

「そうか。それにしても2人とも、エレベーターが有ってよかったな。」

「全くです艦長。」
寝台で頷くトウガ。

隣でうめくキャコティ。
「イマイチ俺の扱いに納得が行かん。いだ、あいだだだ」

ぴろりろりん。
「ロリンズよりジェインウェイ。」

「どうした。」

「ケイコンの物と思われる船が、ステーションへ向かっています。」

「分かった、後を追ってくれ。今ブリッジに行く。」
 

腕の虫が治ったらしいウテナが寝台から飛び降りる。
「僕達も船に戻るぞ! さあ行こう司令官。」

「ちょ、ちょっと待ってくれトレス、俺はまだここで」

「ごちゃごちゃ言うんじゃない! そんなだからアンボックにも振られるんだ!」

「ががーん。」

「…口で言わなくても良いと思うよ、ミッキー。」
振り向くウテナ。

「駄目だ。2人ともまだ安静を要する。医療室でじっとおとなしく俺の運転を見て」

「さあ行くぞ!」「わぎゃあああ、う、腕がまだちゃんと付いていないんだから引っ張るなあ」
ドライバーを無視し、キャコティを引きずって医療室を出ていくトレス。
 

「ここのクルー達はいつもこんなに風を感じる余裕が無いのか?」

「さあ? 初の任務なので良く分かりません。所変われば品変わると言いますし…」
首を傾げながらキムも寝台をおり、医療室を出て行った。
 

「…」ドライバーが周囲を見回すと、医療室の患者達は皆出て行っていた。
「…また俺を消し忘れたか。」
車のボンネットにこしかけ、無意味にはだけるドライバー。
 


「武器システム作動! カンガルー砲、フェイザー準備。全艦戦闘態勢!」
ブリッジにやって来たジュリが声を上げる。

ステーションには、巨大な人型宇宙船が接近していた。船の見た目から判断して間違いなくケイコンだ。宇宙船の全長はボヤゲルの6倍以上あり、このステーションも含め普通の宇宙ステーションより遥かに大きい。

「通信が入っています。」

「繋いでくれ。」

モニタの向こうにスルーフの姿が現れた。
「悪いわね。あのステーションは私達が頂くわよ。」

「ああ、スルーフ、君達の邪魔をするつもりは無いんだ。ただ私達は自分達の故郷に帰りたいので、ステーション内の生命体としばらく話がしたいだけなんだ、分かるか、」

「あなた方に邪魔はさせないわ。交信終了!」

「聞く耳が無いな…」
ずが、ずがーん。

「敵艦がこちらへ攻撃を開始しました、現在損害は微少。」
報告するキム。

「こちらもフェイザーで反撃だ。回避行動デルタ・ラブ・フォース。」

「了解!」
 

トレスがパネルを見る。
「司令官、ジェインウェイから通信だ。」

ショタキ船で、音声の手動スイッチを入れるキャコティ。
「こちらキャコティだ。」

「これからアンボックと2人でステーションの大アニキと話し合ってくる。その間ケイコンを止められるか?」

「ああ、それくらい任せ給え、ジェインウェイ君。」

「頼んだぞ。」
 

ボヤゲルのジュリは立ち上がった。
「パリス、船の操縦を頼む。」

「了解。」

「アンボック、行くぞ。ロリンズ、シグナルは常にロックしておいてくれ。」


ジュリとアンボックは、誰もいなくなり、静寂に静まり返った城の中にいた。2人は物置に来て、トリコーダーを向けている。

「艦長。この壁の向こうに、コンピューターがありますねえ。」

「調査してくれ。」

「はい。」

一人になったジュリは、ふと物陰の奥から聞こえてくる音に耳を傾けた。音の方へ歩いていくジュリ。

たんたたたんたた、たった、たたたん、たんたたたんたた、たった、たたたん…
「あなた方はつくづく粘り強い種族ですね。んー。」

メガネ改め大アニキが一人寂しく座っていた。

「(何でブラスバンド用の手持ち鉄琴なんだろう…)」
 

大アニキに歩み寄るジュリ。
「元いた場所に返してくれないか。」

「んー。んー。返してあげたいのは山々ですが、もう時間も力も僕にはありません。んー。」

「…何故、地表のエネルギー供給施設を破壊したんだい。」

「んー。そうしなければケイコンがエネルギーを盗みます。んー。ですが、後数年して、オカンブキがエネルギーを使い果たせばどのみち全て終わりますが。んん。」

「あの星を砂漠化したのは君なのかい? 償なわなければならない罪というのは、その事か?」

「んー。」どうやら肯定の意味らしく、大アニキは鉄琴を鳴らした。
「僕達は、別の銀河からやってきた旅人でした。でも、クルーの一人が色ボケで、ある星の女性をことごとく奪ってしまったのです。んー。その事に他のクルー達が気付いた時は遅かった。そのある種族の男女のバランスが崩れた事が原因となり、遺伝子連鎖的に、この宇宙域の種族達の男女比率は皆おかしくなってしまったのです。んー。」

「そうか…」頷く艦長は、ふと止まった。
「…砂漠と関係無いだろ、それ。」

「んー。そうです。砂漠も、まあそれはそれでちょっとあって、こうなってしまったのです。んー。」

「そっちは略か。」

「深く反省した僕達は、クルーの内3人をこのオカンブキの保護役に任命し、去っていきました。んー。」

「…君のほかにもう2人いるというのか。」
 
「んー。ん゛ー。2人とも遥か昔に諦めて、去っていきました。んー。」

「…遠い星から色々な種族を連れてきて、妙な虫を植え付けたりしたのは何の為なんだ?」

「虫ではありません。あれは移植に失敗した私の分身です。んー。」

「というと?」

「私はもう長くありません。しかし私の役を誰かが引き受けなくては、オカンブキは生きていけません。んー。そこで、私の役を継いでくれる者が必要だったのです。この銀河中の、僕と分子構造の似た生命体に僕の一部の移植を試みました。んー、んー。この仕事は大変です。自分の分身にしか託せないんです。んー。でも成功しなかった。んー。」
 

「後継者か…」
ジュリは大アニキのそばに腰を降ろした。
「彼等を…オカンブキを、独り立ちさせようとは思わないのかい?」

「彼等を? ん゛ー。んー。そんな事は不可能だ。んー。彼等は子供だ。」

「子供は、案外たくましく育つものだよ。」
ぴろりろん。
「ブリッジよりジェインウェイ。」

「どうした。」

「前門の虎後門の狼。戦況は不利です。ケイコンは援軍がやってきています。」

「キム、後数分時間を稼げないか。」

「何とかやってみます。」

「頼むよ。」


「いかん、ボヤゲルは武器系統をやられているようだな…」

「でも、僕達の船じゃあんなバカでかいのに太刀打ちなんて出来ないぞ。」

「そうよ司令官、こっちはこっちで充分忙しいんだから。ねーウテナ!」

「わ、ワカバ、どうでも良いけど一応戦闘中なんだからそんなにベタベタ、あ、そこは、あ、もうちょっと優しく、」

「トレス、セスカ、まあそう言うな。今から君達にも、真のリーダー的存在がどういうものか見せて上げよう。」

「「え。」」

「船のクルーは全員ボヤゲルに非難させ給え! 今すぐに!」

「う、嘘。」「や、やるのか!? りょ、了解。」
2人はキャコティに頷き、コクピットを出て行った。

ぴろりろりん。
「キャコティよりパリス。これからそちらにクルーを転送する。それから俺のシグナルは常にロックしておいてくれ。合図があれば即転送だ!」

「了解。」

ほくそ笑むキャコティ。
「ふっ。後でアンボックがこれを見れば、命を救った俺にはもうメロ」

「キャコティ、妄想の途中すまないが、君は既に攻撃されているぞ。」
 

「何!」
キャコティの乗るショタキ船にケイコン船から何度もフェイザーで攻撃が加えられる。その様子はまるで蝿をしっぽで叩く象のようだ。

「ようし、奴等目にもの見せてくれる…」
びばしっ! がしがし、ずががが
何度も攻撃を受けながらも、大ケイコにまっすぐ突入していく鉄人。

「…よし、パリス、今だ!」

「いや、まだだ。」

「お、おい!」
がしがし、ずがーん。びし、ばしばしっ

「お、おい、もうマズイって、もう転送しないと」

「まだだ、もう少し突っ込め。」
ボヤゲルから、冷徹に言い放つトウガ。

「パリスううううううっ!」
ぴぎゅん、ぴぎゅん、ぴぎゅん
ずがーん、がたがたがた、ぼんっ

「おい、天井取れたよ、天井! 頼むよ、パリス、おい! あ、もう船目の前、ああっ、床も落ちた! あ、もう、うそ、ママァ、きゃああああああああ」

「転送!」
ぴぎゅいいいいいいいん。どがががーん。
 

キャコティが転送されていくと同時にショタキ船はケイコン船に激突し、大爆発を起こした。
 

ぴろりろりん。
「キャコティ、無事だったか?」

「無事ぢゃない! パリス、貴様ブリッジにいるな、今から剣で勝負だ、首を」
ぷちっ

「どうやら無事なようだな。」トウガは首を振った。


「艦長。」アンボックがジュリの横にやって来た。
「アルファ宇宙域へ戻るためのプログラムを見付けました。」

「本当か。」

「ええ、ただし起動には少し時間がかかりますねえ。」

「…手を、貸してくれないか。」

「んー。そんな時間はもうありません。んー。このステーションはもうすぐ自爆します。んー。」

ジェインウェイは眉を上げた。
「自爆? それじゃあ私達は戻れなくなるじゃないか。」

「んー。」鉄琴を鳴らす大アニキ。
「ケイコンの手にステーションを渡すわけにはいきません。んー。んー。もうここは爆発します、逃げて下さい。んー。」

「「…」」
顔を見合わせるジェインウェイとアンボック。
 

爆発の起きたケイコン船はそのままコントロールを失いステーションに激突。ステーションは一部が崩壊しだした。

すがががーん。

「何だ、この揺れは。」

びりびり、びりびりびり、びりびり、びりびり、
物置の壁が消えかけ、本来のステーションの壁が時々見えるようになっている。ホラグラム装置が故障したか、エネルギーが切れているようだ。

びりびり、びりびりびり、びり、びりびりびりびり、びりびり、びり。
ホログラムの機能は完全に停止し、18世紀地球風の倉庫は24世紀の宇宙ステーションの一室に姿を変えた。

「艦長。」

アンボックの声にジュリが前を見ると、蚊ほどの大きさの虫、というか何と言うかがふわふわと浮かんでいた。
「あれが大アニキか…」

ぴろりろりん。
「パリスより艦長。今ケイコン船がステーションに衝突しました。無事ですか。」

「ああパリス、そのまま待機してくれ。」

「ン゜ン゜ン゜ン゜、イマノバクハツデ、ジバクプログラムガ、ハカイサレテ、シマイマシタ。コノママデハ、ステーションハ、ケイコンノテニ、ワタッテシマウ。ソレダケハ、サケナイト、アセバムワー。ン゜ン゜ン゜ン゜ン゜ン゜ン゜ン゜ン゜ン゜ン゜ン゜。

ぽとっ。
虫はふいに落ちた。
 

「…」
ジュリは腰を降ろし、虫をつまみあげた。

「艦長。連邦の宇宙域に戻りましょう。」

「…もしこのまま戻ったら、オカンブキ人達はどうなるんだ。」呟く艦長。

「彼等を助けようとする行為は内政干渉に繋がります。それは「きみとぼくは、漫画だよ。」という連邦の規則に反します。」

「しかし、今更見て見ぬふりをするのが気高いと言えるか。」艦長は立ち上がった。
「それに、その規則名前と中身が無関係。」



 
ぴぎゅん、ぴぎゅ、ぴぎゅん、ぴぎゅん。
ボヤゲルはもう1隻のケイコン船から何度も攻撃を受けている。

ブリッジにやって来たジェインウェイが言う。
「アンボック、暴れカモノハシ砲準備! それからケイコンに通信を開いてくれ。」

「了解。」

モニタにスルーフが現れた。
「どうする? 更に援軍を呼んだわよ、降伏したら。」

「警告する。直ちにステーションを爆破する。安全圏に引き返した方が良い。」

「出来るものか!」

「どうかな。交信終了。」
 

ずが、ずが、ずがーん。
「ケイコンは引き続き攻撃をしています。シールドに損傷無し。」
後方のコンソールから報告するミキ。

ジュリはムチの柄をぴし。と自分の手に叩く。
「パリス、ステーションから400キロの距離まで後退。」
 
「ほ、本気でやるのか! 帰れなくなるんだぞ!」
トレスがジェインウェイに噛み付いた。

「皆故郷に愛する者を置いてきているのは知っている。私もだ。しかし自分達の為にオカンブキ人を犠牲にするのは、気高いとは言えないよ。」

「どうやって帰るつもりだ。君に僕達の人生を変える権利があるのか!」

「やめ給え。」キャコティはウテナの肩を押さえた。
「彼女が女王様だ。」

「…」

「暴れカモノハシ砲、準備完了。」
 

アンボックの報告に、固唾を飲むクルー達。

ジュリは顔を上げた。
「発射。」
 

くー、くー。
ずが、ずががががががががががあああああああああああああああああん。

二発の暴れカモノハシ砲がステーションに命中。ステーションとケイコン船は爆発し、宇宙の塵と消えた。

ボヤゲルは、アルファ宇宙域へ帰る術を失った。


机の上のモニタには、ジュリとシオリとカトリーヌ(アリクイ)の写った映像が表示されていた。
「…」
艦長室のジュリは、モニタをじっと見つめている。

ぽろろん。
「入れ。」

ジェインウェイは顔を上げた。
「ああ、パリス。」

「呼びましたか。」

「ああ、実は君には悪いんだが、ショタキのメンバー達と私達を統合して、一つのクルーとして一緒に働く事にしようと思うんだ。」

頭に手をやるトウガ。
「まあ、この状況では妥当でしょうね。…また親友とつるめる訳だ。」

「喜ぶのは早いぞ。」指を上げるジュリ。
「私はキャコティを、この船の副長に任命した。つまり船の全クルーは彼の監督下になる。主任パイロットの君も含めてな。」

「へえ、彼…主任?」
 

立ち上がり、手を差し出す艦長。
「今日付けの日誌に記録したよ。君を主任パイロットに任命する。トウガ・ユージン・パリス大尉。おめでとう。」

一瞬信じられない、という表情になったトウガは、喜んで艦長の手を取った。
「あ、有り難う御座います! 大尉の肩書きがあればもう、それは…」

「入れ食いか?」

「え、ええ! こういった物はあるに越した事はありませんから…」

「お父さんに伝えられなくて、残念だな。」

「伝えますよ。地球に帰ったらね。」
トウガは頷くと、艦長室を出て行った。
 

トウガと入れ替わりにナナミックスとミツレスが入ってきた。
「ああ、もう男は充分乗せたぞ。出航準備は出来たか?」
 
「実は、その事でお話があるんですが…」

「わたくし達もこの船に乗せて頂きたいんですの。おーっほっほっほ。」

「…済まないが、この船は客船じゃないんだよ。」

「まあ、このわたくしに向かって何と言う物言い! よろしいです事、このわたくしが船にいるという事は、即ちデルタ宇宙域の美の結晶、守護神が船にいるという事なんですのよ、それをあなたは」

「あ、あの、ナナミックスさんの言いたい事は、僕達は、お客のつもりじゃなくて、ちゃんと働きます、っていう事なんです! そうですよねナナミックスさん!」

「…ん、まあ、取り方によってはそういう取り方も出来なくはありませんわね。つまりですわね、わたくしのこの美貌をむぐ、むぐうう」

ナナミックスの口を押さえるミツレス。
「何でもします! 艦長さんお願いです! デルタ宇宙域は皆さんにとっては知らない事も多いでしょう、そういった所ではナナミックスさんの知識が役に立つはずです。それにこう見えて、ナナミックスさんはとても顔が広いんです。」ぽか。
「いてっ。それに料理も上手いんですよ。ナナミックスさんの激辛カレーは絶品なんですから。こうやって見るととてもじゃないけどインスタントラーメン以外の料理なんかしそうに見えませんけど、実は」ぽかぽかぽか
「いててて。」

「無駄な事を言い過ぎよミツレス! …まあ、とにかく、このわたくし…と、ミツレス、を船に残さないというのは、まともな艦長ならする事ではありませんわね。」

「…」溜息をつき、微笑むジェインウェイ。
「分かったよ。」


ブリッジには、クルー達が座っていた。元ショタキのメンバー達も、連邦の制服でいる。

ジェインウェイは中央に立ち、口を開いた。
「私達は、この未知の宇宙に遊びに…いや、放り込まれた。何名かの友人も出来たが、敵も作った。この先どんなアトラ…危機、が待ち受けているかも分からない。一つ確かな事は、この状況を乗り切るには助け合わなければならないという事だ。そこでキャコティと私は、双方のクルーを一つにまとめ、一つのチームを作った。デルタ宇宙域を探索する唯一の連邦宇宙船として、この未知の世界を行こう。しかし最終的な目的はただ一つだ。ここからでは最高速でも連邦宇宙域へ75年かかってしまう。それでは時間がかかりすぎる。しかし、他にも道はあるはずだ。どこかに大アニキのような存在がいるかもしれない。ボソンホールや、新しいテクノロジーがあるかもしれない。それを探そう。…いつか必ず、故郷に、帰れるはずだ。」

「良い話の所申し訳有りませんが…」

「何だ、アンボック。」

「ぼうっとして忘れていたのですけど、あのステーションに、私達がアルファ宇宙域に帰ってから自爆するようなタイマーを仕掛ければ良かっただけでしたねえ。」
ニコニコ。

「「「「「…」」」」」
 

「か、艦長、もしかして、それ全部知ってて、女ばっかりのエイリアンとか一杯いるからここにいようと思ってわざとステーション爆破しむぐぐぐ」

「み、ミッキー!」

ぴし、ぴし。
「何か言いたい事があるのか? キム、トレス。」
ムチを引っ張りつつ、マングースのように瞳孔がくあ。と開く艦長。

「「…」」ぷるぷるぷる。

「…そうか。一つ言い忘れていた事がある。この船はボヤゲル。ボーイ・エイジャーだ。少年の心を持つものは、こんなギャルだらけのウハウハな場所を簡単に去る訳にはいかない。」

「「「「「(開き直りやがった!)」」」」」
 

ジュリ・ジェインウェイ艦長は艦長席に座った。
「そんな些細な事にこだわっている内は気高いとは言えないな。それでは、パリス大尉、コースをセットしてくれ。…その辺へ。」
 

ワープエンジンが作動する。ボヤゲルは、その遥かなる暇つぶしの旅を今、始めたのだった。

つづく?


次回未定。
 
ver.-1.00 1998-5/27公開
 
感想・質問・誤字情報・決闘の歌・親が出家しちゃった歌・遺産争いの歌・赤ん坊がタバコをのむ歌・ビデオ延滞の歌等はこちらまで! 

次回予告
 
ウテナは鳳医院を紹介される。しかしそこは権謀術数が渦巻き、患者が置き去りの医療環境だった。エリート外科医のトウガと叩き上げのキョウイチ。二人のやり方に反発するウテナは同じ新人のミキと親しくなるが、彼もまたキャリア優先の考えだった。落ち込むウテナ。それでも彼女は難病患者アンシーの手術を成功させ、職員の信頼を勝ち取る。しかしその裏には鳳理事の企みがあった。次回「山手線24周」第10.7話、「今まで隠していたけど、実はお前、短大生なんだよ」。御期待下さい。



 
後書きコーナー

「ウテナ様、ウテナ様。」
「何だい姫宮。ところで僕達どの世界から来たんだろう。」
「? どういう事ですウテナ様。」
「だって、僕と姫宮は離れ離れになって、それから姫宮は僕の事を最後はウテナって呼ぶようになってただろ?」
「それはそれこれはこれ。その後あんな事やそんな事、こんな事やむんな事があって今に至るという訳です。」
「むんな事?」
「詳しくは、夏コミで発売された「日刊姫宮・同人誌版」内「真・夏のファミリー御優待券(4枚)」で明らかになっているんです、ウテナ様。」
「字数全然違うし、「夏」しか合ってないよ、姫宮…」
「いやっだあ、ウテナ様ったらツッコミ貧乏性。」
「…」
「そうそう、ウテナ様、4つめ、最後のエヴァトレシリーズ、エヴァントレック ボヤゲルがついに始まったんですねえ。私達のエヴァントレックですよ。」
「…喜ぶべき事なの、それ。」
「もちろんです。今回のお話は…やや、いや相当、いやムッシュムラムラ、原作の人名変えとるだけやんけ!度が高かったですけど、まあ初回は試行錯誤ですから、こんな物でしょう。次回からは私とウテナ様のLAU度もぐんぐん赤丸急上昇すると思います。」
「姫宮は既に、充分キャラが壊れてるみたいだね…」
「いやっだあ。(はぁと)」
「…(何で喜んでるんだろう…)」
「でもウテナ様、ウテナ小説なんて他には殆どありませんから、私達も一生懸命頑張らないといけませんねえ。」
「はあ…まあ、ここの僕は本編よりよほどまともだったから、別に良いけど…これ、本当にウテナ小説なのかな。」
「もちろんですウテナ様。その内他のウテナ小説のパロディとかも出て、論争になったりもする予定です。」
「…へえ…」
「エヴァトレの共通するテーマ、「恋と友情とぴろりろりんと」
「木綿豆腐、じゃないだろうね。」
「やだウテナ様、御存知だったんですか! 実はマニア?」
「う、い、いや、そこだけ聞き覚えがあったんだ。はは、ははは。」
「フ。」
「ひ姫宮? 今笑った?」
「いえウテナ様。とにかく張り切って参りましょう。今回はこんな所で、ばっははーい。」
「…吹っ切れ過ぎだよ、姫宮…」


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