「くええっくえっくえっくえっくあくあ。」
未だあの甲高い声が耳からこびりついて離れない。ミヤ・アキヅキ・シェルビー副長は苛ついた表情で言った。
「あのペンギン親父加減ってものを知らない訳ぇ?」
「らしいな。スーッ」
「何鼻から吸い込んでんのよっ!」ミヤはリョウジ・ライカー、USSエバンゲリオン艦長に突っ込んだ。32度のラリアートだ。
けほっけほっけほっ。
「しかし、まだこの船がオトコハオオカミ365基地に着くまでにはかなりの時間がかかる。艦隊がペングを押さえていてくれれば良いが…」
リョウジはせんべいをパリッ、と割った。
「私はペングのモロキュータスだ。抵抗は不必要だ。お前達地球人は、我々ペングと同化されるのだ。」
オトコハオオカミ365基地のUSSスパイスガールズのメインモニターに、不気味かつキュートなモロキュータスの映像が映し出されている。
「防御シールド、出力40パーセント!」
衝撃に揺れるスパイスガールズ船内。既にかなりのクルーが損傷、絶命し、火花がそこここでくすぶっている。
既に倒れている艦長に代わり艦長席に座る色黒の男は、前方のクルーに叫び声を上げた。
「持ちこたえろ! 中央部へ暴れウォンバット砲発射!」
「了解!」
スパイスガールズから続々と発射される宇宙ウォンバット。しかしペングシップことお台場デカメザシが損害を受けた形跡は無い。
「くえーくえっくあっくあっくあ。」
「ブリッジへ、こちら機関部。」
若い女性の声が通信で入って来た。
「何だ、ミナト大尉。」
「ワープ・コアに亀裂発生。このままでは後5分間で当船は爆発します!」
USSスパイスガールズを始め、数十隻の連邦、更にはゼレンゴンの戦艦がオトコハオオカミ365基地に集結し、ビッグ・アイ・…ザシ、に向かってありとあらゆる魚雷やビームを発射していたが、ペングシップはそれらの影響を殆ど受けず、彼等を嘲笑うかのごとく、1隻1隻を狙い撃ちして爆破していた。
ぼがああああ。
「USSカイリーミノーグ、爆破!」
副長は声を上げた。
「そんな報告は良い。シップへもう少し近づいてウォンバット砲を発射しろ!」
「了解!」
その時スパイスガールズに大きな衝撃が起きた。
「きゃあああああっ!」
「ミナトっ!」通信の声に立ち上がる副長。
前のクルーが叫ぶ。
「機関室に被弾、航行不能!」
再び画面にはモロキュータスの顔が映し出された。
「これだけの艦隊がこんなにも弱いとは、全く情けないナリねえ。くあっくあっくあっくあっくあ。んぷー」
ビッグアイザシは連邦の大艦隊を数分で撃破し、ほぼ無傷のまま太陽系へと消えていく。
「…副長よりクルーに告ぐ…生き残っている者は…脱出ポッドへ向かえ…私もすぐに向かう…」
胸のバッジを叩いて言う副長。
「……ミナト…」
USSスパイスガールズ副長、ゴート・シスコは下唇を噛んだ。
宇宙暦43997.5、民国暦457、エチオピア暦、2359。

Evan Trek Deep Space Nadesico
エヴァントレック ディープ・スペース・ナデシコ
Glocery
「聖なるトカゲの謎風味」
「んんんんん…」
美少年写真集の散乱する室内。美人だが、気の強そうなショートカットのイブジョー人女性が腕組みをして、おでこに人差し指を当てている。どうやら自分の怒りを静めようとしているようだ。
「どうしました? キラ・エリナ少佐。」
一人の女の子が彼女に声をかけた。一見地球人に似ているが、よく見ると異なるやや不思議な、「滑らかな」印象の容貌だ。
エリナは首を振った。
「どうしたもこうしたもトロリンもトモちゃんも無いわルドー。確かに、確かに、ここからアオバシアのロン毛共がいなくなるのは良い事よ。でも何で、その代わりに惑星連邦がここに来る訳?」
ルドーは表情があまり変わらない。その為彼女は体のアクションで自分の気持ちを示す傾向がある。
彼女は軽く肩を上げた。
「それが、イブジョー多数の民意ですから。」
エリナは手を広げた。
「だって、ここはイブジョー軌道上の宇宙ステーションじゃない! もし彼等がアオバシアと同じように、イブジョーを占領するつもりでやって来たんだとしたら、ここを彼等に使わせる事が一体どういう意味を持つか…」
「でも、彼等が無理に惑星を侵略したという記録もありません。」穏やかな声でたしなめるルドー。
「イブジョーでもそうしてくれるかなんて、誰も分かんないのよ。あるいは、侵略とまでは言わなくても、彼等の文化習慣をこちらに押し付けてくるかもしれないわ。どうやらイブジョーの習慣は地球人の感覚では奇異に写るらしいし?」
エリナの言葉に軽く頷きながらも、ルドーは口を挟んだ。
「でも、住民の人達は連邦の保護を」
「あなたの意見はどうなの、ルドー? ここ、リッチーブラックモア…じゃなかった、これからは、何て名前になるんだったっけ?」
「ディープ・スペース・ナデシコ。」
「そうそう、ディープ・スペース・ナデシコ。名前だって要はアオバシア語から連邦公用語に変わっただけじゃない…が、イブジョー独自の管理ではなく連邦艦隊との共同管理になる事について。」
ルドーはその大きな目でしばらく上を向いた後、宣った。
「良く分かりません。私は少女ですから。」
「そう言うと思ったわ。」
何故か数箇所デコに四つ角を作るキラ少佐。ルドーは続けた。
「…個人的には、連邦が来ても、来なくても、私は特に気にしません。私は流動体生物です、私にとってはイブジョーも、アオバシアも、惑星連邦も、どこも異国ですから。ただ自分の仕事をするだけです。…少佐、後2時間程でゴート連邦艦隊中佐が来ますよ。」
「分かってるわ。ルドー、ちょっと1人にさせてくれる?」
「ええ。」首を軽く横にして理由を聞くルドー。
エリナは写真集を手に微笑んだ。
「来る前に、1発、「清めの儀式」をね。」(*^^*)
「…バカ。」
先のアオバシアのイブジョーからの撤退によって、それまでリッチーブラックモアと呼ばれ、アオバシアがイブジョーの鉱物資源を精製する為に使っていたここは、これからは惑星連邦とイブジョーの共同管理する宇宙ステーションとなる予定である。既に多数のイブジョー人住民達がプロムナードを行き来している。
プロムナードの一角で、ラーメン屋のオーナーらしきチョビ髭のフェレンスケ人が声を上げている。
「今日はめでたい日ですからね。イブジョーがアオバシアを追い出して、あの惑星連邦と手を結んだんですから!
記念にチャーシューメンが1杯200ラチナム円! 200ラチナム円でチャーシューメンが替え玉自由ですよ!」
湯気で白くなった眼鏡を押し上げる。(フェレンスケ人は異常に大きな耳が特徴だが、彼がどうやって眼鏡をかけているのかは大宇宙の謎の一つである。)
「チャーシューメン大盛!」「ハエトリソウサラダ!」「ビエンチャンスープ!」「ワンタンメン型ロボット!」
「はい、はい、皆さんお待ち下さい! ほら、ジュン君、速くして下さい! お客様がお待ちですから。」
「は、はいいい、兄さん。」両手両足を器用に使い、そのフェレンスケ人…ジュン・ロムはラーメンとサラダとゼラチンスープとロボットを作っている。
「皆さん、今日は連邦艦隊からここの司令官となる方が来られる、記念すべき日ですからね! ジュン君、こちらのお客様の注文も聞いてあげて下さい。」
「はいいい。」
がしゃんぐしゃがしゃぎしゃーん。
「「うわあああああ」」
2人のフェレンスケ人の様子に、ゴートは頭を振った。
「ちょっと、すまないが、良いかな。」
「な…何です…?」
眼鏡のフェレンスケ人は意識朦朧としながらも、何とかスープの海から立ち上がった。
「御注文ですね…ごほっごほっぐぼー」
「ああ、いや、そうじゃない。私が、ここの新しい司令官になったゴート・シスコだ。」
男はピクン、と髭を張らせた。
「おお! それは失礼致しました。私はここのバーのマスターをしております、プワークという者です。どうか御見知り置きを、司令官殿。」
ぐしゃっ
「…(兄さん、頭! 思いっきり踏んでる! にい…さん…)」
プワークは泡を吹く弟の上で格式張った様子で手を差し出した。
「あ、いや、ゴートで良い。よろしく。」
「よろしくお願いします。司令官、ここの夢見る素粒子理論風コーンスープ麺は絶品ですよ、一度御試しになってみては?」
「ああ、いや、」
「それではタンメン型ニューヨカーはどうでしょう?」
ゴートは手を振った。
「(にゅ、ニューヨカーって何?)ああ、それも遠慮しておこう。…実は、話があるんだ。君を、ここの民間人代表にしようと思ってね。」
プワークはゴートの言葉に身振りを止めた。
「民間人代表…わたくしがですか?」
ぐしゃっ。
「(…ああ、おじいちゃん、タマ、金魚すくいで取ったけど3日で死なせた金魚達…)」どこかへ遠い場所へ飛んでいるジュン。
「そうだ。」
「私で…よろしいんですか?」
「誰かイブジョーともアオバシアとも、連邦とも、中立の立場に立てる人物が欲しいんだ。君ならやれる。」
「しかし司令官、私にはこのバーの仕事が…」
「(…バー?)いや、仕事の邪魔はしない。それどころか、民間人代表になる事によって、場合によってはせくしぃな仕事の一つや二つ…」
がしっ
「やらさせて頂きましょう。」
「そう言ってくれると思ったよ。」
「ロボット、まだかー?」
客の1人がじれったそうに声を上げる。
「ああ、これは失礼。ジュン君、ジュ…おおおおおおお、ジュン君が自らスープにぃいいい」
「兄さん、それ、多分髄液…(ばた)」
「じゅ、ジューーーーンンンン…」
「麺まだあ?」
「ンンン…はい、お待ちー。」
「兄さん…」(ToT)
「ちょっと、あれ一体何な訳? 地球人はああいう風にゴミを溜め込むの? 不潔で原始的ね。」
目の前を見ると、彼にとっては見慣れないイブジョー式のユニフォームに身を包んだ2人の女性士官が立っていた。
もう1人の方が口を開いた。
「どうもゴート司令官、始めまして。私はここの保安部長を務めますルドー、こちらは、キラ・エリナ、イブジョー防衛軍少佐です。」
ゴートはルドーに軽く頷いて、エリナに手を差し出した。
「始めまして、エリナ少佐…」
「ちょっと待って。」キラは待ってました、と言わんばかりに腕を組んで言った。
「あなたのところでどうかは知らないけれど、イブジョーでは名字が先、名前が後なの。だから私はキラ少佐なの。…よろしく。」
「よろしく。」
2人は握手を交わした。
「ああああああああもう司令官いらっしゃったんですかーっ! はよ言うてくれな」
「「うわああああああ」」
急に山が動き出してビビリまくるキラ少佐とシスコ司令官。
「バカ…っていうかサイテー…」頭を押さえるルドー。
菓子パンは、もとい菓子パンまみれのイエティは司令官に手を差し出した。
「お初にお目にかかります! わいがこれからここの機関部主任を勤めさせてもらいます、トウジ・オブライエンです。」
「ゴーちゃん怖いの…」
「「「えっ」」」
シスコ司令官は3人の視線に瞬時に通常モードへ復帰、はいぱーぽりす、じゃないハードバイルド(どっこもかかってないと思うかもしれないが、作者は今一瞬本当に「はいぱーぽりす」の方が頭に出てきたのだ)な顔に戻った。
「君がオブライエン主任か。よろしく。」
彼のジャムまみれの手に一瞬ためらうが、手を差し出す。
「よろしゅうたのんます。」
ニチャッ
「うっ…」
「司令官。」
ゴートはエリナの声に顔を向けた。
「ここに来たからには、イブジョーのやり方に従ってもらいますからね。イブジョーは連邦と友好的にしたいとは思っているけど、連邦そのものではないという事を、お忘れなくね。」
エリナはパネルの時計に気がついた。
「あらいけない、もう「ポロチンナメナメ」の時間だわ。下らない事に時間を取られすぎたわね。司令官、私は今から祈りの時間に入りますので。失礼。」
「ふう…」
「どないしたんでっか、司令官。」手をユニフォームに付けないようにしながら溜め息をつくシスコにオブライエンが尋ねる。
「いや、何でもない。」
トウジは鼻を鳴らした。
「まあ、イブジョー人の女は気が強い言いますさかいに、そない気にせん方がええんとちゃいます?」
トウジは笑いながら、司令官の肩に手を
「のわあああああああ、汚れる、汚れる、汚れる! 汚れちゃうわああああ」
気がつくとゴートは血まみれの自分の手と目の前で倒れ込むイエティを呆然と見ていた。
今日も今日とてブルマ姿のフユツキ・コウゾウ・ピカード艦長は体育座りをしていた。
「でも、オブライエン主任がこの船を離れるのは寂しいですね。」
シンジの言葉に微笑んで頷く艦長。
「そうだなシンジ君。」
「…寂しい? 分からないわ。」
シンジは優しく言う。
「これからは今までみたいに会えないのが、残念だっていう気持ちだよ、レイタ。」
「…それは確かに残念だわ。まだ計画の34パーセントまでしか遂行していないもの。このままでは、むしろ更にオブライエン主任に悪影響が…(はっ)な、何でもないわ。」
「…長い独り言だね、レイタ。」
角が3本突き出たリング状のディープ・スペース・ナデシコが、モニタに広がっている。
ナデシコの角の先、即ち大型船用ドックにUSSエバンゲリオンは数時間前から停泊していた。
「通信です。」
「分かったシンジ君、スクリーンへ。」
「こちらディープ・スペース・ナデシコ、司令官のシスコです。」
ピカードはすくっと立ち上がってピチピチの手を上げた。
「御挨拶が遅れてしまって申し訳ありませんでした。私がUSSエバンゲリオン艦長のアカリ・カンザキ・ピカードです。始めまして。」
「こちらこそ…始めまして。」
ゴートはややぎこちない表情で続けた。
「もうこちらを発たれるそうで、大変残念です。お別れの前に、そちらにお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです。」
「分かりました、ピカードかんちょ」
「ビューティーです。」
「ビ、ビューティー。」
シスコは船の艦長室に通されていた。
「今回の任務は、とても重要な物だと聞いています。イブジョーとアオバシアの和平の監視、イブジョー復興の援助。ここナデシコは、それらの要となるステーションですな。」
開脚前転をしながら淀み無く喋る艦長、かなり器用である。
「はあ…」
(当然)ぬいぐるみまみれになっていたフユツキは、ゴートの様子に前転を止めた。
「何か問題でも?」
「あ、いえ、その…」
フユツキは立ち上がった。
「正直に言わない子は、御仕置きだぞっ!」
指で頬をつんつん突くフユツキに、ゴートは頷いた。
「分かりました、言いましょう。…正直、私にここでの司令官という仕事が適任だとは思えないのです。」
「何故です?」
「ああ、つまり…私には荷が重過ぎる。」
「荷が重い? 記録を拝見しましたが、あなたの経歴は立派なものだ。特に問題は…」
「私の経歴を御存知と言うなら、」ゴートはややためらったが、続けた。
「私がUSSスパイスガールズに乗っていた事も御存知なはずだ。私はあの…オトコハオオカミ365での戦いで、モロキュータスとの戦いで、…同じ船に乗っていた妻を失ったんだ。まだ、私には…それを忘れる事は出来ない。」
「…」
シスコは首を振って溜め息をついた。
「失礼。これは個人的な話でした。とにかく私には、ここの司令官は務まりません。ビューティー…びゅーてぃー?」
フユツキは床でよだれを垂らして寝ていた。
「(ムカムカムカ…でも確かにキュートだ…)」怒りに震える一方で何故か頬が綻びかけるシスコ司令官。
シスコは何故かフユツキの寝顔を思い出してはニヤけ、思い出してはニヤけしながら、再びプロムナードを通って自室に戻ろうとしていた。
とにかく私にここの司令官は務まらない。まだ自分の心の整理だってついていないのだ。荷物をまとめて、実家に帰ろう。幸い普通免許があるから、しばらくはフリーターでやってけるはずだ。まあ、いくら鳥取に仕事が少ないといったって、1人分のバイトの口位は
がつーん。
ゴートにぶつかったのは、イエローメタリックの衣装に身を包んだイブジョー人だった。僧侶のようだ。
「あ、これは失礼。」
頭を下げて立ち去ろうとしたゴートをその男は引き止めた。
「これ、お若いの、取って食ったりはせん、ここで一杯、どうかね?」
人差し指と親指で輪っかを作る。
「あ、はあ…」
「それでは、こういう事だな。君はここの司令官としてやっていく自信が湧かない。何故なら自分自身の問題が片付いていないからだ、と。」
「まあ、そんなところです。」
話によると、ゴートを引き止めたこの男はイブジョーの高僧で、ステーションを視察にやってきたらしい。
「しかしそれではイブジョーはどうなるのだね。」
「…イブジョーの中でも、惑星連邦と協力しようというグループと、一定の距離を保とうというグループとに別れているのでしょう。」
「それはそうだな。実際宗教界でも同じだよ。ある者は連邦にすがり付き、ある者は敵視をしている。」
「仮想敵こ…」
「コホン。こういうとこで冗談にするから怒られるというのだ…あー、とにかく、しかし、だ。イブジョーは置くとして、君は連邦艦隊の士官なのだろう? 地球の習慣に詳しくはないが、個人的な理由で仕事をおろそかにして良いものなのかね?」
「それは、まあ、そうですが…」
僧侶はシスコの煮え切らない態度にやや目を細めた。
「司令官。君はよほどの事をかかえていると見えるな。今の状態の君に、とてもここの監督が務まるとは思えん。」
「はあ…」
「どうかね、一度カイに会ってみないか。」
「…カイ?」
彼等が降り立った先は、イブジョー星の森林地帯だった。どうやら広大な寺院の一部らしい。
「ここは…」
「安心し給え、カイのいらっしゃる寺、即ちイブジョー星で最も聖なる場所だよ。」
「はあ…」
やがて2人が白い建物の回廊をしばらく歩くと、何やら声が聞こえてきた。
「「「「「なむなむなむなむ…」」」」」
ゴートがふと部屋を覗くと、全裸で十字架らしき物にくくりつけられた少年を、僧侶達がありがたく拝んでいた。
「…」(--;;;
「ああ、あんたがシスコ司令官かい。話は聞いてるよ。いや、遠い所から良く来たね。」
シスコが顔を向けると、目の前には、赤紫の、かなり良い生地を使っているのであろう服を着たイブジョー人女性がいた。しかし服装に似合わず口調は気さくな感じだ。
「始めまして。あなたが、カイ…」
「そう。カイ・ホウメイ。一応、カイっていうのは、この星の宗教指導者、って事になるのかね。いや何、指導というほどの事は何もしてないのさ。私は普段、新しいチャーハンの調理法を考えたり、アニスにガラムマサラ、グエンペッパーにフェネグリークの調合や、カルダモンの…」
「カイ、」
お付きの者が遮って、ホウメイはお得意のスパイス講義から目が覚めた。
「ああ、これは失礼。まあ司令官、硬くならずに、さあ、こちらへ。」
「…ええ。」
「まあ、私は普段料理ばかりしているという訳さ。料理だって、馬鹿にしちゃいけない。人間、食べる事が何より重要だからね。食欲と性欲! イブジョーの宗教の2大ファクターさ。」
「現世的な宗教、ですね…」
「悪い事じゃないだろう?」
「ええ、まあ…」
シスコが通された部屋には、小さなクリスタルのような物が保管されていた。
「…何です、これは。」
カイは目で合図し、お付きの者達を部屋から出した。
「それはチューリップと言ってね。私達の信仰の要となる代物なんだ。」
「信仰の要? でもそれは、美少年なのでは…」
「美少年のみがチューリップを発見できた。だから彼等も崇められている。しかし、信仰の大本は、これなんだよ。」
ホウメイは、ゴートの両手を上からそっとつかんだ。
「そ、そんな、こんな場所で…」(''*)
スコーン。
「そうじゃないだろ。」
「(今両手が塞がっているはずなのに、おたまはどこから降って来たーっ!!)」
ホウメイは真剣な面持ちで、ゴートの両手をチューリップに近づける。
「良いかい。このチューリップに触れてごらん。慌てちゃいけない。ゆっくりと、近づくんだ。少年の気持ちになって、ゆっくりと…」
目の前に黒い何かが広がっていて、すぐにそれがミナトの革靴であると分かった。
ぴしっ
「あううう」
「どうしたんだいこの牡豚!」
「ミ、ミナト…」
「女王様だ、女王様!」
ぴしゃっ。
「はう」
「一体何度言ったら分かるんだい? …あら、相当ムチの味がおいしいと見えるね。もうここは、こんなにビンビンになって…」
「…すまん、ミナト、1回プレイを中断してくれないか。」
ミナトはゴートの様子がいつもと違うらしい事に気づき、ムチを打つ手を止めた。
「どうしたの、ゴーちゃん。」
「ああ、すまない、プレイを無理矢理止めるだなんて、奴隷失格だな。」
四つんばいになっていたゴートは起き上がり、そのまま座った。当然ほぼ全裸で、局部のみ覆い隠された(プログレッシブ・)ボンデージファッションだ。首輪もついている。女王様役のミナトも、大方似たような格好だ。
辺りは緑の芝生、ししおどしが鳴って、アザラシの群れが吠え…そうだ、ここは鳥取市民公園。スパイスガールズが宇宙車検に出され、その休暇を利用してここに来たのだ。
「そんなの構わないわ。こういう事は共同作業でしょ。体調が悪いの?」
「いや、そういう訳じゃない。ただ…」
「何?」
「何と言うか…少し、懐かしくてな。」
「懐かしい? ゴーちゃんどっかに頭打った?」
ぴよぴよぴよ…
ゴート・シスコは丘の向こうの砂丘ペンギン達を眺めた。
「…いや、何でもないよ。…ミナト。」
「何、ゴーちゃん。」
「ミナト、君は私にとって、かけがえの無い存在だ。例えて言えば蔵野にとってのダウンタウン、久保こーじ(Cozy)にとっての小室、勝俣にとっての色々さ。」
「色々って何よ色々って。」
「ミナト、愛している。」
大人っぽい印象の(こんな格好で子供っぽかったら問題だが)ミナト・シスコは、しかし夫の唐突な言葉に目を大きくした。
「な、何言ってんのよ今更、もうやーねえ(*^^*)、そういう生意気な事を言う奴隷には、えい」
ミナトはムチの柄の方を、ゴートの尻の
「うがああああああああ
はっ
「目が覚めたかい。」
カイ・ホウメイが少々呆れながら声をかけた。
どぴゅっ
「うっ。」
ゴートは周囲を見回す。先程までいたイブジョー寺院だ。
「こ、これは…」
「ちょっと待て、その前に今の擬音は一体何だ。」(--;
「気にしないで下さいカイ・ホウメイ、それにしてもこの「チューリップ」は…」
「気にするわーっ!!」
どんがらがっしゃっしゃーん。
「うう、このおたまの山は、一体どこから…」
自動おたま突っ込み装置の説明をするのもめんどいカイは、溜め息だけついた。
「はあ…まあ、とにかく、これが何故、イブジョー人の信仰を集めているか、分かったろう?
これには神秘的な力があってね。それに触れた者にとっての、大切なものを思い出させる力があるらしい。」
「大切なもの…」
「ああ。」
おたまに埋もれたゴートは尋ねた。
「…何故、このような物を、よそ者の私に…」
「あなたなら、頼れると思ったからさ、司令官。」
「頼れる?」
「ああ。…この聖なる石、「チューリップ」は、「聖なるトカゲ」と呼ばれる神によってもたらされた物だ。…急にこんな事を言っても、科学の権化の艦隊士官さんには信じられない話かもしれないが…」
「いえ、続けて下さい。」
ホウメイは頷いた。
「聖なるトカゲは、昔はここ一帯の星系を導いて下さった、いや、今も導いて下さっている。ただ、昔と違い今は、私達にはあの方々の御意思を知る術が無いんだ。」
「どういう事です。」
「つまり、昔あった、神話によればあったはずの、聖なるトカゲと私達とを繋ぐ「神殿」が今は消えてしまったんだ。そのため私達に残されたのは、この、チューリップのみになってしまった。」
ホウメイはここで言葉を切り、壁一面に飾られた中華鍋の内の一つをチーン、と指で叩いた。
「それで、私に何を…」
「ここまで言えば分かるだろう? それを探して欲しいのさ。神殿をね。聖なるトカゲの御意思を知る事も出来ない今の私達は、混乱の極みにある。長年のアオバシアの搾取で国は疲弊し、民心は分裂に分裂を重ねた状態だ。こんな事では、イブジョーの未来は無いよ。シスコ司令官、あんたならやれる。この「チューリップ」を手がかりに、私達が数万年前に失った神殿を見つけ出せるはずさ。」
「…」
「協力してくれるかい。」
「それって、」ホウメイの眉がピクッと上がった。
「税抜きでどれ位…どわはああああ」
おたま自動突っ込み装置3度目の始動。
司令官日誌、補足。カイの話を聞いても、やはり自分の身に起こった事が信じられないと言う気持ちの方が強い。いずれにしても私の手に負える問題とはとても…それは置いといて(ジェスチャー)、ナデシコへの追加要員が到着したそうだ。私もナデシコへ戻り、彼等を迎える。
司令室ではシスコ、キラ、ルドー(とイエティ)が、2人の連邦士官を前にして立っていた。
ゴートは長髪キツネ目の男に話しかけた。
「…君が、ドクター・ナガレ・ベシアだな。」
男は手を広げて彼に答えた。
「ああそうだよ司令官。僕が、ディープ・スペース・ナデシコのドクターそしてドンファン兼夢見るうさぎさ。」
「(訳が分からん…)」
「いやあ、ここは良いね、僕はナデシコのようなところで働きたかったんだ。ほら、この辺って田舎だから、仕事も少なくのんびりできそうじゃない?」
田舎、の言葉にキラ少佐は眉を吊り上げた。
「何ですって? あなた今、イブジョーの事を、田舎って、そう、言ったかしら?」
「何か間違った事を言ったかなあ? 田舎だと思うけど?」
エリナは、耳から蒸気を出した。
「失礼にも程があるんじゃない? 良い事、私達は、地球なんかより遥っっかに昔から文明を持っているのよ!
それを言うに事欠いて、田舎だなんて…あなたの頭、どうかしちゃってるんじゃないの?
全く、私が自転車通学だったからって、なめないで欲しいわね!」
「まさか、ジャージ姿にヘルメットだったとか? あれはやっちゃいけないよねー。女としての最後の誇りが消えてるんじゃないのお?」
「のわあんですってえ!!!」
「…バカ。」
「会って早々何やってんだ、あの2人…」
「さあ…ああ、君がリョーコ・ダックス科学主任だな。」
ゴートは声のした方を向いた。緑色の髪の、若々しい女性士官が、ゴートの顔を見てニカ、と笑う。彼女はほぼ地球人と同じ見た目だが、おでこから首筋にかけて、両側にヒョウのような斑点が見られる。
「久しぶりだな、司令官。」
「久しぶり、と言うべきなのか、始めまして、と言うべきなのか…」
「久しぶりでイイんだよ。あたしはダックスだ。お前さんが子供の頃から知ってるあのダックスなのさ。」
「…そうか。…久しぶりだな、ダックス。」
「ああ。」
「…私だって、好きで自転車に乗ってた訳じゃないわよ! 大体ウチには汚いママチャリしか無くて、いつもゴミと間違えられかけたんだから!」
「良いねえ、それ! やっぱり田舎なんじゃない、ここ。その自転車、今も使ってたりして?」
エリナは鼻で笑い、頭を振った。
「もう10年も前に食べたわよ。」
「なんだ、も…え、えええええ」
「…バカ。」
「「(…バカって問題か?)」」少し膝が震えだすリョーコとゴート。
リョーコは自分の仕事場−実験室で、シスコがパクってきたチューリップを前に腕を組んでいた。
「んーーーーーー…」
計測機機はこの正体不明の物質に対し測定不能のメッセージを返している。
「601、601、601か…しょうがねえな…」
ずる
「おっといけねえ。」
ずれたかつらを直すリョーコ。
「全く、会って早々こんな不思議な物体の解明を頼まれてもなあ…でもあいつの頼みじゃ断れねえし…」
少し恨めしそうに、チューリップを見る。
「これじゃ埒が明かねえな…一体何者なんだ、お前…」ダックスはケースを開け、その辺のクリスタルで作ったかのようなチューリップに、ゆっくりと手をかざした。
目を開くと、リョーコはベッドに横たわっていた。数人の医師に囲まれている。
「気分は、どうかしら?」
「あ…ああ、大丈夫さ。いつでも構わな……こ、これは…お、おい、今は、適合手術中、だな?」
「え、ええ。もちろんそうよ。…大丈夫? 気分が悪いようなら、」
「いや、大丈夫さ、…問題無い。」女医の言葉を遮るリョーコ。
リョーコはスバリルの国立適合機関付属病院にいた。
これからリョーコは、寄生生物のミソ状知的生命体、ダックスを手術で取り込み、新たに7代目のホスト、即ち宿主としてダックスの「人格」と同一化するところだった。ダックスは今まで6人の体と融合してきたが、先に6代目のホストが事故に遭い死亡、しかし中のダックスは助かったので、7代目のホストが急遽リョーコに選ばれたのだ。
スバリル人にとって彼等ミソ状生命体と融合するのは非常に名誉な事だ。これにより、それまでミソの体験してきた数々の知識・経験を得る事が出来る。しかしスバリル人の中でもミソと融合できるのは、厳しい訓練を勝ち抜いてきたエリートだけである。リョーコは目をつむり、ここ数年、訓練機関で送ってきた数々の試練の日々を思い起こしていた。
…一番大変だったのは、「ジェンカ風ポトフの味」というテーマで俳句を3000句、5分以内に書けというテストだったな…
リョーコはふと、自分が下半身だけ裸な事に気づいた。
「お、おい、ちょっと待ってくれ、何でし、ししし下が無いんだよ。お、おい!
ドクター・ウワヅル!」
リョーコの様子をじーと凝視していたスバリル人女医は、彼女の声にふと顔を上げた。
「あ、ああ、し、手術に必要だからよ。それじゃあ、今から融合手術を始めるわ。」
ドクターは大き目のシリンダー容器から、にゅるにゅるみちゃみちゃ言っているミソ状生命体を取り出した。
「ロート。」
「は。」
「…ろ、ろおと?」
「鼻フック。」
テキパキと助手に指示を出すドクターは、フックでリョーコの鼻を吊ってから穴に漏斗を挿し込み、ミソ状生命体を流し込み始めた。
「ひご、ふごう゛く゜ひき゜あふがあああああああ(超訳:下半身全然関係無えじゃねえかー!!!!)」
はっ
リョーコ・ダックスが目を開くと、彼女はナデシコの実験室でチューリップに手をかざしたままだった。
はあ、はあ…
「一体、これは…」リョーコは頭を振り、呟いた。
「全く…変な事を、思い出せやがる……「テフロンの 加工はがれた ポトフ鍋」か…」(季語ジェンカ:乾季)
「結論から言うとね司令官。君達2人の健康状態に特に問題は無し。脳神経やパルスにも異常は見られないよ。まー、あれじゃないの? 溜まりすぎちゃって白昼夢でも見たと…どがあっ」
「いくら溜まったからって白昼夢まで見る訳ねえだろ、この薮医者!」
肘鉄にもめげずドクターは減らず口を叩く。それが彼の存在理由だと言っても過言ではないだろう。
「へえー、じゃあダックス大尉、やっぱり君も知ってるんだ。」
「な、何だよー。」
「そうだよねえ、前のホストは男だったんだもんねえ。大尉も、以前男だったって事は、溜まって悶々とした経験や、アフターを断られて泣きを見た経験の一つや二つ」
ばきっごすっがすっずがっごぼごぼごぼぼ…
「くぉんのセクハラ野郎がっ!」
「大尉、ドクターとの漫才はそれ位にしてもらえると嬉しいんだが…」
ダックスは苦笑した。
「あ、ああ、そうだったな、はは、すまねえ。とにかく、ドクターによればあたしらの体に問題は無えって事さ。つまり、」
「やはりチューリップに何かの力があると。」
「そういうこったな。」
ゴートは自分達がいるDSN(ディープ・スペース・ナデシコ、又はドメイン・サーバー・ネーム、もしくはデジタル筋子滑らかに)の司令室を見渡した。窓の向こうには無数の星々と先程まで降りていたイブジョーが広がっている。
リョーコはパネルを操作しだした。
「実はな司令官。この付近で、ニューオコジョ変動が著しく見られるエリアがあるんだよ。ここだ。」
画面上の地図をゴートに指し示す。
「ここに神殿があるのか?」
「さあな。ニューオコジョ変動があるだけで、ここはただの、星も何もない真空地帯さ。ナデシコの科学士官としては、ここに「神殿」があるなんて説明は虫がすかねえ。」
「ダックスとしてはどうなんだ。私の旧友でもあり、7回の人生を経験した君個人としては。」
ダックスはシスコの言葉にニカ、と笑った。
「ま、少し調べる位なら手伝ってやっても良いぜ。丁度良いランナバウトも、たくさんあるみてーだしな。」
「助かるよ。」
ゴートは手を差し出した。
「どうってこたぁねえよ。司令官。」
2人は握手を交わした。
「ちょっと、僕、忘れられてないかなあ…」
がしゃずしゃずしーん。
「な、んでこんな所に生ゴミの山が…」
ドクター、殉職。
ダックス科学主任とシスコ司令官は小型の探査宇宙船−ランナバウト、のコクピットに乗り込んでいた。
「USSニシヨドガワ。なりは小せえが、装備は最新型だ。これで捜索すれば、何かつかめるかもしれねえ。」
「…そうか。わざわざ付き合わせてすまない。」
「気にするこたぁねえよ。お互い様じゃねえか。それに、おめえの…おっと、司令官の、大切なものを見付ける鍵があるんだろう。コウイチロウだって、間違いなく協力したさ。」
前のホストの名前を挙げて優しく言うリョーコ。リョーコは20代の女性だが、以前のダックスの宿主−コウイチロウは、ゴートと旧知の仲だった。
ゴートは軽く頷くと、コクピットに座った。
「USSニシヨドガワ、はっし」
「うおおっとその前に。これを忘れちゃいけねえ。」
ぴ、ぽ、ぱ。
「♪あなた、変わりは、無いでぇすか…」
「んー、いつ聞いてもこのコブシ、しびれるねえ。」(^v^)
「音楽の好みまでコウイチロウと一緒なのか。」頭の割れそうな大音響に耳を塞ぎながら言うゴート。
「USSニシヨドガワ、はっしーーーんん。向かうは神殿の謎風味ーぃ。」
「風味って何だ風味って!」
「風味? …何訳の分かんねえ事、言ってんだよ!」
「言ったのは君だ!」
「このコブシを馬鹿にするつもりかぁ?」
「人の話しを聞けーっ!!」
ランナバウトはDSNから弧を描いて離脱した。
シャカシャカ、シャカシャカシャカ…
「ずんずずずんずんずんずず、いえーいいい」(>v<)
アオバシア戦艦キース・リチャーズ艦長で、この間のイブジョー撤退までここの指揮官も務めていたガル・シゲックは、ヘッドホンから流れるギター音にヘッドバンギングしていた。きちんとヘッドホンで聞いてる辺り、かなり行儀が良い。
「シゲック艦長。」
「ずっずっずっずっ、がしゅーんがしゅーんがしゅー」
「かーんーちょう。」
彼のそばにやってきたクルーが、ヘッドホンの端子を抜く。
「んがあああああ!!…あ、一体何だい。」
「(はあ…)艦長、旧リッチーブラックモアから、1隻ランナバウトが出航しているっす。」
「それがどうした? 何か問題でも起こしているのか?」
「いえ、ただ…彼等が向かう方向は、例のニューオコジョ反応の見られる場所でして…」
「そうか…惑星連邦の奴等も薄々感づいたという訳だな。」
「そのようっすね。」
「分かった、彼等の後を付けろ、ただし必要以上に刺激はするな。…あの、イブジョー人達がチューリップと呼ぶ結晶といい、このエリアの反応といい、何か臭うぞ。奴等に先を越される事だけは避けないとな。」
「了解っす。コース287、マーク3。」
「発進。」
「おかしいな。」
リョーコは計器を見て眉を潜めた。
「一体どうしたんだ。」
ビューワーを見回すシスコ。特に異常は見当たらない。遠くにDSNとイブジョーが輝いている。
「俺達がここに来た途端、ニューオコジョ反応が加速度的に増加している。こりゃ、まるで…」
「ダックス。」
ゴートはリョーコの肩に手を置いた。
「何だい気安く触んじゃねえや、…え?」
ゴートが指差す目の前…メインビューワーには、青い光が渦巻いていた。
リョーコは頷いた。
「そうなんだよ。ここは…」
「ボソンホールか。」
ゴートが呟くと同時に、彼等の船は光に包まれた。
「一体何があった?」
キース・リチャーズは喧騒に包まれていた。先程まで監視していた惑星連邦のランナバウトが急に消えてしまったのだ。彼等の船が消える直前、その周りに青い竜巻のような物が広がり、ニューオコジョ反応が頂点に達していた。今はその部分も何も無かったかのように虚空に包まれている。
「恐らく彼等はボソンジャンプを行ったものと思われるっす。」
「まさか。奴等にそんな技術力がある訳はないだろう。」
「それはそうっすが、船が突然消えるなんて、他に説明が付きません。」
「俺達も行くぞ。」
「え?」
ガル・シゲックは立ち上がった。
「危険を省みずに立ち向かってこそ、真のルォケンルォウラーだ。彼等が消えた地点へ向かえ!」
「「「おおお! ろっけんろー!!」」」
やんややんや。
歓声をあげ、ギターをかき鳴らし、桃色吐息をあげる(それはウソ)ロン毛達。
シゲック艦長は目を細めて呟いた。
「奴等に先を越されてなるものか…あ、枝毛。」
数秒続いた衝撃が収まり、2人は急いで計器を確認しだした。
「しっかし、ボソンホールが神殿とはね。イブジョー人の宗教も随分ダイナミックだよな。」
「彼等は地球やスバリルより遥かに以前から豊かな文明を誇って来た。宗教もまた、宇宙的な広がりを持っている。」
「…司令官。」
シスコはダックスの声の改まった調子に顔を上げた。
「何だ。」
「場所が分かったよ。今私らがいるのは、この銀河の向こうっかわ、つまり、ガンマ宇宙域さ。」
「ガンマ宇宙域…」リョーコの示すパネルを確認するゴート。
「連邦は無人探査機以上の物をここに送り込んだ事はない。ここへのボソンジャンプが出来るとは、これは大発見だぞ。」
「まあ、その報告の文面は、向こうに無事帰れてから考えた方が良いと思うぜ。恒常的に行き来出来るボソンホールなんて、聞いた事が無え。」
「いや、出来るだろう。だからこそ神殿として神話に残ったんだ。さっきの場所に、もう一度進路を取ってみてくれるか。」
「了解、艦長さん。」
シスコはダックスの顔をちら、と見た。
「で、この音楽、いい加減止めないの?」
「あんこーーーーーつばきのぅうううーーーーー」
ニシヨドガワがさっき出た地点まで戻ると、やはり青い渦巻状の光がニシヨドガワを包み出した。
ちゅんちゅん、ちゅんちゅんちゅん…
ゴートが目を覚ますと、そこは例の鳥取市民公園だった。
がーん。
「ここまで引っ張っておいて、もしや夢オチか! ラヴ&ポップじゃあるまいし!」
「違う。」
空から声が響き渡った。
「なら良いが…じゃない、お前は誰だ。」思わず腰のフェイザーに手をやるシスコ、しかし相手が見えないので動きようがない。
「敵ではない事は確かだ。君達が、「トカゲ」と呼ぶ存在だよ。」
ゴートは眉を上げた。こんな平和そうな公園で、1人フェイザーに手をかけるのも…
待て、ここは公園なのか?
ゴートはトリコーダーを取り出し周囲をスキャンしだした。
「君達の道具を使ってここを調べても、あまり意味は無いと思うぞ。」
ゴートは肩を上げ、トリコーダーを折りたたんだ。
「確かに、ここの座標も分からなければ、物質的な異常も認められない。」
「君の記憶から作った場所だ。」
「私に幻覚を見させているのか?」
「違う。これは幻覚やホログラムではない。しかし現実でもない。」
ゴートは頭を振った。
「それで、あなたがイブジョー人にとっての神だと言うなら…何故私にこんな物を見せる?」
「君が何者か知りたいからだ。」
「私はあなたが何者かを知りたい。」
「まあそう堅い事を言わんでくれ給え。」
ゴートがふと前を見ると、ピカード艦長が抹茶をすすっていた。
「ビュー、ティー…」
「私達は君達の事を何も知らんのだよ。失礼だが、君達が、信頼に足る者かどうかを知りたいのだ。」
「…」
「君は「人間」というのだね。人間とは、一体何なのかね。ずずーっ、ぶへーっ」
抹茶を顔に浴びたゴートは、小声でトカゲに抗議した。
「…リアルに再現しすぎだぞ。」
「ああ、すまん、司令官。しかし、答えてはくれないだろうか。君と言う存在は、人間とは、一体何なのか。」
「…」
「答えて。」
「…ミナト!」
「あなた達人間って、一体何なの? あなた達は、どういう存在なの? 私達、あなた達の事を知りたいの。」
ゴートは、やや目を落した。
「…人間がどういった物かを説明するのは、非常に難しい。ただ、少なくとも、私は…」
「いくら司令官や大尉でも、無許可でランナバウトを使用されては困ります…」
言葉とは裏腹にどうでもよさげな態度のルドーの隣で、エリナはバン、と机を叩いた。
「そうよ! 事故でもあったらどうするつもり?」
「あたし1人だけ帰ってきた時点で、もう事故になってんだよ…」
エリナはリョーコにつかみかかった。
「あなたねえ!」
「まあまあ、落ち着いて下さい。」
「ルドー、あなたがそれだけ言うのであれば我慢するわ、でも…アオバシア連邦といい惑星連邦といい、どうして連邦と名の付く所の人達はこう自分勝手なのかしら。」
「何だと! あたしらとロン毛共を一緒にする気か!」
「一緒じゃない! 力に頼って、傲慢で、頭が悪くて!」
「まあまあ…」
「言ってくれるじゃねえか。でもあたしらが調べなかったら、ボソンホールは見つからなかったんだぞ。」
「2人の内1人しか帰って来れない、船も戻って来ないようなボソンホールじゃ何の意味も無いでしょ。」
「落ち着いて下さい…」
「だから、司令官は死んだ訳じゃなくて、ふっと消えたんだよ! その、何だ、聖なるトカゲ? それに連れ去られたんだよ!」
「まーっ、あなたイブジョーの神を侮辱する気? 良い事、トカゲが拉致するのは15歳以下の少年だけ! 誰があんなオヤジなんか」
「静かにして下さい。」
ぴしゅっ、ぴしゅっ
「「きゃあああああああ」」
「あ、足に刺さってるぅ」「矢だ、本物の矢じゃねえか!」
ダーツの矢を構えながら、冷静にルドーは言った。
「第1回だから足にしましたけど、今度からは遠慮しませんよ。」
「「…」」(;;)
ルドーはしばらく考えていたが、やがて口を開いた。
「私の個人的な見解ですが、司令官はやはり、イブジョー人がトカゲと呼ぶ生命体に連れ去られたと考えるのが妥当でしょう。」
「ほら、な、な?」足に包帯を巻いたリョーコが勢い良く頷く。
「でもルドー、聖なるトカゲがどうして、あんなオヤジを…」不満気なエリナ、もちろん足に包帯。
「私達は今までトカゲを神、と崇めてきましたが、彼等は一つの、高度に進化した種族だったのです。「神殿」…ボソンホールに、生息しているのでしょう。私達は長い間この神殿の場所を忘れていました。数万年ぶりにそのドアを叩いた者…つまり司令官が、今彼等と会見しているんです。」
「でも、何で私は連れられなかったんだ?」
ルドーはダックスの言葉にやや考え込んだ。
「それは…やっぱり基本的にはトカゲは男好きだとか…」
「ほんとかよー」「嘘っぽいわねー」
さっ
「「ああ、そ、そうだよな/そうよねえ!」」
「…いずれにしても、艦長を救出するのが先決です。」
2人はルドーの言葉に頷いた。
「そうね、じゃあナデシコを、ボソンホールの近くまで移動させたらどうかしら。」
「移動って、こんな大きな物を、どうやって…」
「うーん…」
「…リョーコさん、方法は、あります。ビーバーフィールドを張ってイブジョー星周回軌道から良いタイミングで外れれば、移動は可能です。」
リョーコはルドーの言葉に指を鳴らした。
「…それだよ。やってみよう。」
「お願いします。」
「ああ。」
「頼んだわよ。」
リョーコはエリナの顔を見た。
「…ああ、少佐。」
リョーコがパネルを操作すると、イブジョー星の周回軌道上に浮かんでいたナデシコはゆっくりと軌道を離脱しはじめた。
「あーっと、このままの計算で行くと後90分でボソンホールから直接の影響を受けない最短距離まで接近可能だ。」
「そ、そうなの…」
相槌を打つミナト(の映像)にゴートは大きく頷いた。
「そうだな、素人にはこういった情感は中々伝わらないかもしれないが…例えば、ブルーメタリックのキキララ、正式名称リトルツインスターのポシェットがあったとする。最近はピカピカ新品のサンリオグッズがもてはやされているが、あんな物を持っている間はまだまだ本物とは言えない。本当のファンシストは、ビンテージの擦り切れたサンリオグッズを持つものなんだ。そして、色のボケたキキララの髪…幼き日々、夏休みの毎日があまりにも速く過ぎ去り、夕焼けを眺めた自転車の帰り道、豆腐屋のラッパが、ってちゃんと聞いているのか!?」
「あ、ああ、ええ、聞いてるわよ。聞いてる聞いてる。」
「でだな、ふと向こう岸を見ると、まーちゃんが手を振って何か言ってる訳だ。ああ、まーちゃんって言うのは、当時の親友なんだが、結局小4の時に大喧嘩をしてな。そのまま別れ別れさ。まーちゃんは両親が教師だったんだ。鍵っ子でな。ある日、…」
「あ、あははは…」
ナデシコは衝撃に見舞われた。
「ほら、ナデシコが動き出したからそこの生ゴミの山が雪崩を起こしたじゃない!」
エリナの言葉に、「山の主」はその姿を現した。
「何言うとんのや、これはランチ! 生ゴミちゃうわ、ボケ。」
エリナは眉を上げた。
「…山が動いたのに衝撃が無いわねえ…きゃっ」
ずがーん。
「…この衝撃とオブライエン主任のゴミは関係ありません。」
ずががーん。
エリナは慌てて柱につかまりながら、ルドーに聞いた。
「じゃ何だって言うのよ!」
「これはアオバシアの攻撃です。」
「「それを速くい」」
さっ
「「うっ」」
「と、とにかくそれじゃ反撃!」
「言われなくてもやってやるぜ!」
急いでパネルを操作しだすリョーコ。
「彼等が主要な設備は全て持ち去りましたから、今のナデシコの防衛力ではアオバシア船にとても太刀打ち出来ません。」
「じゃあどうしろって言うの!」
「エバンゲリオンに連絡します。まだそれ程離れてはいないでしょうから。」
「そ、そうね。お願い。」
「だけど何で今、ナデシコが奴等から攻撃を受けなきゃなんねえんだ?」
ダーツをしまうルドーはリョーコの質問に考え込んだ。
「さあ…何故でしょう。」
「奴等から通信だ。」
「繋いで。」腕組みをしながら言うキラにややムッとしながら、ダックスはスイッチを入れた。
画面に顔を見せたのは黒人系のアオバシア人らったった。
「こちらはアオバシア艦スティーブバイの艦長ガル・ヘンドリックっす。」
「ちょっとぉ! あなた達はここを破棄したんでしょっ!? 何で攻撃してくる訳ぇ?」
ずごーん。
| 「きゃあああ」 | 「くっ」 | 「(ぼー)」 | 「zzz」 |
| ・ | ・ | ・ | ・ |
| ・ | ・ | ・ | ・ |
| エリナ | トウジ | ルドー | リョーコ |
「馬鹿な事を言わないで欲しいっす。先に攻撃を仕掛けたのはそちらでしょう?」
「な、何の話よ?」
がずーん。
「きゃあああ」「わああ」「(ぼー)」「zzz」
衝撃のせいで本当に雪崩を起こすトウジの生ゴ、もといランチの山。
「最近までこの区域の行政官だったガル・シゲックの船を破壊したでしょう? 我々は喧嘩を売られたら、黙ってはいられない。」
「(ぎく…いやいやそうじゃなくて。)何、それ? このステーションが何でキースリチャーズを破壊しなきゃいけない訳?」
「そのような記録はありませんが。」冷静に言うルドー。
「そうよ、破壊してやりたいのは山々だけど、そんな攻撃力がここにある訳ないじゃない。」
ガル・ヘンドリックはキラの言葉に懸命に怒りを押さえているようだった。
「ふう…それでは、キースリチャーズが消えた事をどう説明するっすか。
」
「え?…」
「結局まーちゃんが悪かった訳じゃない。悪かったのは…まあ、敢えて言うなら時代かな。政治家かもな。ミス・ミナコ・サイトウかもしれん。」
「(もう、許して…)」
「今思えば、まーちゃんの御両親は、左翼の運動家だったんだな。だからネパールに憧れていた。それはつまり、ネパールには山が多いからなんだな。海が無いのがタマに傷だが、とにかく彼等はネパールが好きだった。彼等自身はイタリア人だったがね。しかし沙知代は出馬を続けた。」
「(は、話が続いてないい!!)」
「限界だったんだな。いや、限界ではなかったが、限界だったのかな。いやそもそも限界って何だ。というところから私の青春は始まったんだ。いや、始まってはいないな。と言うより終わったんだ。それでは始まっていたのか?」
頭を抱え出すミナト(の映像)に、ゴートは不思議そうに尋ねた。
「一体どうしたんだ。話はまだほんの卵巻きだぞ。」
がーん。
「(どの位なのか全然分からないーっ!!)ね、ねえ、ゴーちゃん。」
「何だ。」
「サンリオの話は、一体どこへ…」
ふっ。
「サンリオなんて、本当は全然興味無いんだ…」
がーん。
「(何かあらぬ方向見つめてるしーっ!)そ、そう…」
「じゃあ何で話したーっ!」
「あんたがでしょ!」
「何だと! 侮辱する気か!」
「何をよ!」
「何をだろう…」
「悩むなら言うなーっ!!!」
ルドーは、エリナの視線に軽く頷いた。
「ボソンホールですね。」
「シゲックの船も、司令官達を追いかけて消えたって事、ね…」
「って、お前らそれ位消えた時に気づけよ!」
エリナはリョーコに言い返した。
「うるさいわね、こっちだって色々仕事があって大変だったのよ! ここってアオバシアのお古だから、あちこち故障してるし!」
「だからって向こうでぶわあーっと派手に青い光があったら、普通気づくだろうがよ!」
「この山が邪魔で見えなかったのよ!」
置いてけぼりのガル・ヘンドリックが血管を浮き上がらせた。
「うるさいっすーっ!!!!」
がずーん、がずーん、がずーん。
「…まず誤解を解いた方が良いかと。」
「そ、そうねルドー。」エリナは通信モニタに顔を向けた。
「と、とにかく、ガル、えーと…ガル…」
「ヘンドリック。」
ルドーの言葉に頷くエリナ。
「ああ、ガル・ヘンドリック。誤解なのよ。私達はあなたの船を攻撃してない。ガル・シゲックの船は、私達のランナバウトと共にボソンホールに入ってしまったのよ。」
「ボソンホール? そんな洒落臭いもん知ったことかっすーっ!」
ずがーん、ずがーん。
「反撃はっ!」
「駄目だよ、電気系がショートしちまって、手も足も出ねえ。」
「さのばびっち。(好い加減にしなさい。)」
エリナとリョーコが振り返ると、そこには身長2メートルはあろうかという大きなアオバシア人がクネクネしていた。
「ど、どこから入ってきやがった!」
「違うわ。」エリナはフェイザーを構えるリョーコを手で止めた。
「ルドーよ。」
「お、おおおお!! こ、これは! ガル・バタヤン!」
変身したルドーの姿に、画面の向こうでひれ伏すヘンドリック。
「ガル・バタヤン?」
「…聞いた事があるわ。確か、アオバシアで伝説となっている歴史上の英雄よ。」
小声でダックスに言うキラ。
「さのばびっち。いーとまいあす、まざーふぁっかー。(好い加減にしなさい。君達の誤解なのだ。)」
アオバシア語で語り掛けるガル・バタヤン。
「のーきでぃん、めーん。(し、しかし…)」
「ほーるだっぷ!(黙りなさい!)」
バタヤン(ルドー)はヘンドリックを一喝した。
「めーん。ふぁっくおふまいあすほーる。さっかー。(志ん生の落語はやっぱり、芝浜だネェ…)」
がーん。
「「(何か訳が違ってるしーっ!!)」」
「ふぁっきん! げっざへるあうとぶひあ、なう! びっち。(いやいや、あなた、品川心中も捨て難いョ…)」
「「(当たってるんかいーっ!!)」」
いつしかミナトの姿は消え、ゴートは再び空からの質問に答えていた。
「…結局、人間は何の為に生きるのか。」
「………知らん。」
「…」
「そもそも考えた事も無い。今から考えようか。」
「……まあ、いいや…」
「(無視)あえて言えば…キキララの為かな。」
「(話戻ってる…)」
「あるいは……それを知る為に生きている、のかもしれない。」
「…そうか。」
シスコは光に包まれた。
「こ、ここは…」まだ火の収まらない機関室、非常用以外の電気が復旧しないスパイスガールズの中で、全身にやけどを負ったミナトは肩で息をしていた。
「何故、私にこんな物を見せる。」ゴートは静かに尋ねた。
天の声がゆっくりとシスコに語り掛ける。
「君が彼女の死に割り切れない重いを抱いているようだったからだ。物事には、永遠に続くものと、そうでないものとがある。彼女の命は、」
「ミナト、肉まんにソースをかけて食べるのは、何も悪い事じゃないんだ。」
「(聞いちゃいねーっ!!!)」
「…ゴー…ちゃん…」
「馬鹿にしてすまなかった。本当は…私もそうしていた。…中濃をな。」
ゴートが見えるのか見えないのか、ミナトはゆっくりと、微笑んだような表情になった。
「……ず…」
ミナトは息をひきとった。
「これだけは、彼女に言っておきたかったんだ。言おう言おうと思って結局言えなかった。これだけが心残りだったんだ。」
「そうか。(「ず」とは、何なのだ…)」
ほじほじ
「まあ、本当はどうでも良いんだが…」
「なにーっ!!」
「艦長! あれは本物のガル・バタヤンではないっす!」
ガル・ヘンドリックは部下の声に動揺した。
「し、しかし、あそこにいるではないか!」
「恐らくホログラムではないかと…」
「なにいい! 暴れカンガルー砲発射準備!」
「ちょ、ちちちょちょっと待ってよ! こっちは本当に攻撃はしてないのよ!」
「だったらキースリチャーズを見せて欲しいっす!」
「無駄ですね。もうこちらの言う事は聞かないでしょう。エバンゲリオンも、まだ到着までに2時間かかるそうです。」
冷静に言うルドー。
「そう…っていきなり元の姿に戻らないでよ!!」
「…いや、それは別に構わないんじゃねえのか?」
「暴れカンガルー砲、発射!」
んぴょーん、んぴょーん、んぴょーん。
「きゃああ」「わああ」「(ぼー)」「zzz」
目に見えて揺れの激しくなるナデシコ。
「シールド40パーセントにダウン!」
リョーコが懸命にパネルにしがみつきながら叫ぶ。
んぴょーん、んぴょーん。
「くっ」バーにつかまりながら、エリナが目を細めた。
「シールド20パーセントに減少! 後一撃で、ナデシコは…」
その時ナデシコとアオバシア艦のそば、双方からよく見える場所に青白い光の渦が発生した。
渦の中から出て来たのは、USSニシヨドガワとアオバシア艦キース・リチャーズだった。
「両船から通信だ。」
「繋いで。」
「こちらはUSSニシヨドガワのゴート・ホーリーだ。キース・リチャーズがボソンホールの向こうで道に迷っているようなので先導してきた。」
「こちらはキース・リチャーズのガル・シゲックだ。…ヘンドリック、戻って良いぞ。」
ガル・シゲックは所々破壊されたDSNの様子を見て、溜め息をついた。
「シスコ司令官を始め、ナデシコの皆さんには、誤解とはいえ申し訳無い事をしたっす。ここはお詫びに、一発、ギグを…」
「いや、それは遠慮しておくわ、ガル・シゲック。早く星に連絡をした方が良いんじゃない?」
何故か声が上ずるキラ少佐。
「ああ、そうっすね。それでは、私達はこれで失礼するっす。」
2隻のエレキギター型の戦艦は方向を変え、ワープスピードで姿を消した。
「…司令官、無事だったか?」
「ああ、大丈夫だ、ダックス大尉。皆、心配をかけてすまない。しかし、良い知らせもある。」
エリナは画面の向こうのゴートの様子に微笑んだ。
「後で、ゆっくりと聞くわ、司令官。」
「そうでんなあ。」
「「「「…」」」」
「あああ、あ、あ、あ、あ、あんた今まで寝てたでしょうがーっ!」
「寝たふりじゃ、ぼけーっ!」
「もっと悪いわーっ!!」
「13名、馬5頭、内ポニー3頭、ダンゴムシ760匹、チワワ2匹、イソギンチャク17個、以上が負傷。死者は無し。指揮者も無し。」
被害報告データを読み上げるリョーコ。
「物質的な損傷はどうなんだ。」
「そらもう、きりないですわ。元々がフェレンスケ請け負いの手抜き工事やし、壊れてないとこ探せちゅう方が無理なんちゃいますか。」
トウジ(本当は寝てた)はパネルをポン、と叩いた。
「少なくとも、生命維持システムは働いてますわ。」
「そうか、なら上々だな。」
ゴートは、皆の視線に、降参したように手を上げた。
「分かった、話そう。私はずっと彼等…あのボソンホールを管理する、「トカゲ」と話をしていた。そして彼等は、これからあのボソンホールを常に安定させて、私達がガンマ宇宙域へのボソンジャンプを安全に行えるようにし続ける事を保証してくれたんだ。」
クルー達はお互いの目を合わせた。
「信じられない話かもしれないが、本当だ。彼等は、人間という存在を大分気に入ってくれたらしい。」
「…それでは、ボソンジャンプが出来るのは地球人だけ、という事ですか。」
ゴートは首を振った。
「いやルドー、そんな事はない。イブジョー人もアオバシア人も、誰でも渡る事が出来る。」
キラはシスコの言葉に顔色を変えた。
「アオバシア人も?」
「そうだ、アオバシア人もだ。ここ、ディープ・スペース・ナデシコは、これからボソンホールを管理する宇宙ステーションとして運営される事になるだろうな。」
ゴート・シスコは椅子から立ち上がった。
ぴぴっ
「今、エバンゲリオンが入港したぜ。」
「…そうか。通信を繋いでくれ。」
「了解。」
バンダナを巻いたフユツキは何故かルーム・ランナーで走っていた。
「状況は、どうなりましたか!」
ゴートは周りのクルーと微笑みあった。
「…無事解決しました。ピカード艦長。」
「何だとーっ!!!」
「「「「「(怒ってる…)」」」」」
「シンジ君、ナデシコへフェイザーを発射!」
「「「「「え、えええええ」」」」」
すこーん。
リョウジ・ライカー副長のヨーヨー突っ込みでピカードは撃沈した。
「失礼。今日は艦長、感謝デーなんで機嫌が悪いんですよ。」
「は、はあ…(…何の?…)」
ゴートは引きつった表情のまま通信を終えた。
リョーコは顔を上げ、ゴートの方に近づいた。
「ああ、司令官。ピカード艦長の所に行ってたんだろ。」
「ああそうだ。ここの事について…ナデシコと、イブジョーについて話をしてきた。」
「どういう話だい。」
リョーコは何度も頷くゴートを少し不思議そうに見やった。
「ああ。ここは今でこそ田舎だが、未来は明るい。トンネル作って便利にしちょるきに!…ここで心理テストです。…とまあ、大体そういった内容の話だな。」
「(心理テストって何だよーっ!!)そ、そうか。…なあ、司令官。」
「何だ、ダックス。」
「一つ、気になる事があるんだ。何で、その、「聖なるトカゲ様」…は、俺達がボソンホールを使えるよう取り計らってくれたんだ? それはまあ、奴等にとっちゃ、簡単な事なのかもしれねえが…」
シスコはフ、と頬を緩めた。
「まあ、少し、個人的な約束をしてな。」
眉を潜めるダックスにシスコは手を振った。
「そんな大した事じゃないさ。」
リョーコは肩を上げ、立ち止まった。
「…そうかい。それで、ここの司令官の仕事は、続けてくれるんだな。」
「残念ながらそういう事になりそうだ。」
ダックスはシスコの肩を叩いた。
「それでこそ、俺の知ってるゴーちゃんだ。また明日からよろしく。司令官さん。」
「ああ、よろしく、ダックス大尉。」
2人が立っているのはシスコの部屋のドアの前だった。
「ほんじゃな。今日はゆっくり休みな。」
「ああ。そうさせて貰う。…おやすみ。」
「…おやすみ。」
ゴートは自室に戻ると、部屋が暗くなっているので少し驚いた。
「コンピュータ、明りを頼む。」
部屋を見回すゴート。
「いないな…アキト、寝たのか?」
寝室。
「いない…」
キッチン。
「いない…」
クローゼット。
「いない…」
ドアを開けたゴートは、自分の可愛い息子を確認して溢れんばかりの笑顔を見せた。
「ぁあアキトおおぅ!!」(*^^*)
はしっ
「うわああぁっ、と、父さん、トイレのドアはノック無しに開けないでよー!」
そこには便器に座るいたいけな少年がいた。
コンコン。
「これで良いな。」開いているドアを叩くゴート。
「…父さん、分かっててやってるだろ? とにかく抱き付かないでくれ!」
「そうつれない事を言うな。父さんお前に中々会えなくて寂しかったんだぞ!」
「だ、だから今、トイレ中だし、」
はっ
「そうだ、忘れる所だった、トカゲ達との約束があったんだ。…アキト。」
「な、何、父さん。」
「これを、着てくれるか。」
アキトはどこからともなくゴートが手にしたそれに冷や汗をかいた。
「…これって…、ウエディングドレスに見えるんですけど…」
「喪服に見えたら恐いからな。」至極真面目に頷く父。
「アキト…クソする前に父さんの話を聞いてくれるか。」
「あ、ああ…」
「今日、母さんと会ってきた。…正確には母さんのイメージとでも呼ぶべきものだな。彼等、トカゲが会わせてくれたんだ。」
「…」
「彼等は人間とは何か、何の為に生きるのか、問い掛け続けた。人間という生命体によほど興味を抱いたらしい。」
「そう、なんだ…」
「そこで私はキキララについて話し、サンリオについて話し、ついでに沙知代についても話した。」
「(父さんらしいけど…)そ、それで?」
ふーふっふっふっふ
「そして父さんは思ったぁあああああ! アキト、やっぱり父さんはお前が好きだーっ!!」
「話が繋がっとらんわーっ!!!!」
「私が受けでも可だぞ!!」
「こっちが不可だっつってんだあ!」
フッ。
「どうしてこう最近の子供は我儘に…」
「あんただ!」
「私は子供ではない。私のマグナム砲はいざという時は…って何を言わせるんじゃーっ!」
「お前じゃーっ!!!」
父はパンパン、と手を叩いた。
「下らない話はこれまでだ。」
「(すげえムカつく…)」
「アキト、君には使命というものがある。私は彼等と約束をしてきたんだ、それを果たさなくてはならない。さあ速く、このドレスを着てクソを垂れなさい。」
「(どういう約束…)嫌だよ、そんなの!」
「何だと!」
ぷりっ。
「ああああああああああ、お前トイレで何て事を」
「トイレで他に何をするんじゃーっ!!!」
司令官、御子息の暴行にあい殉職。
つづかない
次回予告
既に現場に犯人はいなかった。息を引き取る直前の被害者の証言から、ユリカは犯人がやはりアキトである事を確信する。幼馴染みの追跡に憂鬱な顔を見せるユリカにミナトは配置替えを提案するが、彼女は頑として聞き入れない。ユリカは翌日の捜査中アキトを目撃するが取り逃がし、メグミからコンビ解消を宣言される。バーで飲む失意の彼女は「るりねこ」というキーワードを耳にするのだった。次回「千秋は三十路」第92384話、「Trackshooting」。御期待下さい。
「ぷんぷんぷんぷーんんんん!!!!」
「ど、どうした、ユリカ。」
「ちょっとアキトぉ、何なのこれは!」
「さ、さあ、俺に言われても分かんないんだけど…まあ、色々あって良いんじゃないかな?」
「良くなあいい! 私がどこにも出ていないだなんてえ!
これじゃあいつ、アキトがリョーコちゃんや、エリナさんにたぶらかされるか、分かったもんじゃありません!」
「いや、そんな心配無いって。」
「ほ、本当?」(ウルウル)
「本当さ! だって俺は前から、ルリちゃんひとす…」
ごすっ。
「きゃーっ、アキト大丈夫? はっ、今一瞬私の意識が無くなった間にアキトを襲ったのは一体どこの誰だというの!!」
「おのれじゃ…おの…」
ガク。
「アキト? アキトおおおおおぅぅ!!! くっ、この恨みは一生忘れないわ、作者さん、首を洗って待っていなさい!」
「あの…」
「(さっ)あら、何、ルリちゃん。」
「…テンカワさん、多分意識失ってるだけだと思いますが…」
「ええっ、そうなの? アキト、起きて! しっかり!
あぎどおおおおお」
「…しばらくそっとしておけば治ると思います。」
「あ、そう。」
ゴト。
「…」
「ところでルリちゃん、一体どうしたのお?」
「はい、一応後書きなので、何か本文についてのコメントを…」
「そんな物! 何にもありません! 私のアキトをいじめないで!
以上!」
「そうですか。…それでは、艦長に代わって、私が少しコメントしましょう。まず、台詞が多すぎて冗長ですね。全ての説明を台詞に頼りすぎているんじゃないでしょうか。原作からいかに独自性を出すかに苦心するのは良い事ですが、成功しているとは言い難いように思います。笑いを入れつつ複雑なストーリーを進行させなくてはならないジレンマは分かりますが、つまりストーリーもキャラも有り物という事ですから、もっと練った文になっても良いのでは?
作者が楽をし過ぎですね。それから漫才がワンパターンです。後…」
「あ、あの、ルリちゃん、それ位で充分なんじゃないかしら?」(^^;
「そうですね。あ、これ、気にしないで下さい。全部子供の言っている事ですから。」
「…(はっ)あ、あれ、俺、こんなとこで何やってたんだろう…」
「おあああああぅ、アキトおおおおぅ、無事だったのね!」
ぐらんぐらんぐらん
「ゆ、ゆひか、頼むから首を揺らさな」
がつーん。
「ゆ、ゆ…ひ…か…」(@v@)
どくどくどく…
「あ、アキトーっ!!! 誰、私のアキトの頭に鈍器をぶつけたのは!
ルリちゃん今誰か見なかった?」
「いえ、艦長とテンカワさん以外は誰も。」
「むうっ、これは事件の臭いがするわっ! ルリちゃん、全員ブリッジに集合させて!
グラビティブラスト、発射準備!」
「…バカ。」