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バナー(温度計)(ゆるゆる)
「新エヴァントレック」連載一周年記念

ディープ・スペース・ナデシコのプロムナードはいつものように修学旅行中の学生や買い物客や盗賊団で賑わっていた。

「プワークさん。」
背後の声にチョビ髭のフェレンスケ人はギク、という表情を見せた。
「あ、ああ、ルドーさん。こりゃどうも。」

「ラーメン屋の景気はどうですか。」

顔を半ばひきつらせながらメガネを上げるプワーク。
「エェ、それはもう儲けさせて頂いておりますよ。ラーメン+せくしぃというコンセプトは見事にあたっておりますから。それでは急いでおりますので失礼…」
さっさとルドー保安チーフから逃げようとするプワーク。びよーんと伸びるルドーの腕に肩を押さえられる。

「時々怪しい取り引きの噂とかを聞きますけど、もちろんそういった事はしてないですよね。プワークさんは。」

「そ、そんなとんでもありません。いやー、私もあきんどですからネェ、信用第一ですから、はい。」

「それを聞いて安心しました。」
全く気の無い声で言うルドー。プワークはようやく彼女から解放された。
 

プワークは自分のラーメン屋に戻ってきた。
「ジュン君、バーの方は問題ありませんでしたか?」

「あ、はい兄さん、見ての通り繁盛してますっ。」
人間の肉眼では残像効果で6本位にみえる手を振り回してラーメン(風ロボット等)をぐるぐる製造中のジュンが快活に答える。

「ああ、あなたがここのオーナー?」

プワークが声に振り向くと、見知らぬ昆虫系宇宙人の女性が立っていた。
「ええ、そうですが…何か?」

彼女は手に持っていた小箱を開く。
「こういう物をあるルートで手に入れたのよ。買う気はないかしら。」

小箱の中にあるのは金色に輝くイヤリングだった。
「ああ…イブジョーのイヤリングですか。しかし、イブジョーの方、皆さんイヤリングはしてらっしゃいますからネェ…これは、特別に価値のあるものなんでしょうかネェ?」

「結構珍しいデザインだと思うのよ。アオバシア4号星で手に入れたものなんだけど…」

「ふむ…」
顎に手をやるプワーク。ふと店の外の通りを歩いているキラに気付く。
「あ、少佐、ちょっといらして頂けますか!」

プワークに露骨に嫌そうな顔を見せるエリナ。
「何ぃ、今私忙しいんだけど。」

「申し訳ありませんが…このイヤリングは、イブジョーでは珍しい物なんでしょうかネェ。」

「え?」面倒臭そうにイヤリングを受け取るエリナ。
「…こ、これは…」エリナは表情を変えた。

「カワカムールの御神体をかたどった物だわ。」
エリナは棒状の形のイヤリングを手に呟いた。(そして強奪。)
 



 
Evan Trek -Martial Succotash Nadesico

Evan Trek Deep Space Nadesico
エヴァントレック ディープ・スペース・ナデシコ
 
The Cuticle
「帰ってきた西友」



 
「…そうか、でも今度からは、その後手錠で動けなくした状態で全裸で路上に放置させておく事も忘れちゃ駄目だぞ。そこまでやらなきゃ相手に失礼というものだからな。」

「ははは、やっぱり父さんは鬼畜だなあ。」

「とんでもない。母さんがいた頃は、父さんは毎日奴隷だったんだぞ。」

「へえ、そうだったの?」
プロムナードをシスコ親子が談笑しながら歩いている。

2人の歩いている所にキラが勢い良く駆け寄ってきた。
「司令官、ちょっとお願いがあるんだけど、良いかしら。」
アキトに目配せして、先に行かせるゴート。
 

「ん、何だ、少佐。」

「ランナバウトを貸してほしいんだけど。」

「それは又、急に何でだ。」

キラはカワカムールのイヤリングを司令官に見せて目を輝かせた。
「これのせいよ。これはあのムラサメ・ナーリスのイヤリングだわ。」

「ムラサメ・ナーリス?」

相手が地球人であった事を思い出すエリナ。
「…ああ、イブジョーのレジスタンスの英雄よ。アオバシア人達の歌声に屈さず自由の為に戦った、伝説的人物なの。」

「で…そのイヤリングはどこで手に入れたんだ?」

「プワークの知人が言うには、アオバシア4号星で見付けたそうなの。だからそこへ行って、いたら彼を救出したいのよ。」
イヤリングをぎゅ、と握るエリナ。表情に固い決意が見られる。

「しかし、連邦の船が勝手にアオバシアに入る訳にはいかないだろう。」
がっ、とゴートのえりをつかむエリナ。

「私の言う事が聞けないって言いたいのかしら? この口は。」

「あ、い、いや、そういう訳じゃないんでちゅけど…本部に聞いてみないと…」

「ふん…よ゛ろ゛しく頼んだわよ?」
あまり信用していないような態度でキラが念を押す。
 

「オブライエンよりシスコ司令官。」

ゴートは通信の声に「助かった」という表情で胸のバッジを叩いた。
「何だ。」

「ちょっと来てくれはりますか。レベル17の居住区なんですが…」

「分かった今行く。」
ゴートはエリナに手を合わせて離してもらうと、腰のキキララキーホルダーを揺らしながらスキップでリフトの方へ歩いていった。


「まさか、このマークは…」
シスコがやって来たのは人通りの特に無い、一般の居住区だった。しかし壁に妙なマークがスプレーか何かで大きく落書きされている。
そのマークは、小さめの二重丸と、それを貫通する縦線、そしてその周囲に短く添えられる左右3本づつ、計6本の横線とからなっていた。

ゴートはその某スナイパー風の顔に少し当惑した表情を浮かべながら、トウジ、ルドーとその壁を眺めていた。ルドーもゴート同様トウジに呼ばれてやってきたのだろう。

イエティが深刻そうな表情で(口元にソースと青のりをぺっとりつけつつ)言う。
「まさか、このステーションで見る事になるとはよう思うてませんでしたわ。」

「イブジョーの過激派組織「イブジョー潔癖革命同盟」、通称「キューティクル」のシンボルだな…」

3人を重い空気が包んだ。
「ルドー、ステーションの警備をいつもより厳重にしてくれ。」

「分かりました。」
司令官の言葉にルドーは頷いた。


「それで、おまえさんはどう言ったんだよ。」
プワークのラーメン屋でリョーコ・ダックスはロミュラスカ式ラーメンフォンデュをすすりながら聞く。

「ああ、取り敢えず本部に聞くと言って逃げたんだが…」

「まあ、司令官としては妥当な言葉だわな。」
ゴートの答えに気の無い返事を返すリョーコ。真っ黄色のラーメンをすくっている。

「実際簡単に許可する訳にはいかない。仮にアオバシアから救出できたとしても、彼等がそれに対しどう言うか…」

「司令官としてはそう思うかもしれない。で、キティラーのゴーちゃん個人としてはどう思うんだよ。」

「キティラーじゃない、キキララーだ。」

「ああ、すまない、いつも間違えちまってるな。」
やや気まずそうに謝るダックス。

シスコは難しい表情を見せた。
「まあ…私だって彼女の気持ちは分かる。死んだと思われていた伝説的英雄が生きているかもしれないと知ったら、それは助けにいきたいだろう。しかし正直、こんな悪いタイミングの時でなくても良いだろうとも思うんだ…」

「時期?」

「あ…ああ、この前ヒカリさんがやっている学校で、「ボソンホールに住んでいる聖なるトカゲは高次の生命体だ」という風に教えていたのが、イブジョーの宗教への冒涜だという事で問題になっただろう。」

「でもそれは結局、カイ・ホウメイが「お導き」に従ってイブジョーを離れる事になった後の、2人の次期カイ候補の権力争いの一つの現れだったんだろう?」
説明的な会話を続ける2人。

「しかし陰の思惑がどうあれ、それがきっかけでイブジョーの国粋的な意識が高まりつつある時期に、英雄が帰ってきた、としたら…それが100%歓迎できる結果を生む事になるとは言い切れない。」
そば湯(単品)をガブ飲みながら言うシスコ。

リョーコはゴートの言葉に頷いた。
「まあ確かに、一応この事は部外秘にしておいたほうが良いだろうな。でもな司令官。キラ少佐は、これと決めたら俺達がどう止めても行くと思うぜ。」

「…」
シスコの黙想は通信音で破られた。
 

「オブライエンよりシスコ司令官。」

「何だ。」

「今USSフロウガワを整備しとったら、急にキラ少佐があーっ↑」
ぶちっ。

唐突に切れる通信音にゴートとリョーコは顔を見合わせた。



 
キラ少佐個人日誌、宇宙暦47004.3。フロウガワでアオバシア4号星へ航行中。本来アオバシアの警備システムでは、船の回虫反応が引っかかるはずだが、ここにもあったチーフ・オブライエンの菓子パン山(略してひなかっぱー)のおかげでフロウガワの回虫反応をうまく中和できているようだ。
 

(当然)簀巻きにされ猿轡もはめられているトウジを横目で見ながら日誌を記録するエリナ姉さん。
船内は船から放出される回虫反応を防ぐ為、機関部等いたる所にいちごジャムが塗りたくられている。
 
「むーむー。」

「さすがチーフの菓子パンは凄いねえ、お姉さん。」

「そうね、発酵の特殊効果が効いてるわ。でも単にパンが凄いんであって、チーフが凄い訳じゃ全然ないのよね。」

「へーえ、そうなんだ。」

「むしろチーフはいつも山に埋もれて仕事も何もしない、どうしようもない人間のクズなのよ。」

「お姉さん、ピリっと辛口だねー。でも本当なら仕方がないか。」
1人でテディベア相手に腹話術風の会話をしているキラ少佐。
 

キラは計器の表示にふと我に返った。
「アオバシア4号星の軌道に到着したわね。コンピューター、スキャン開始。」パネルを操作しだす。

キラはモニタの一点に目をとめた。
「コンピューター、この部分を拡大して。ここの生命反応は?」

「複数の生命反応がみられます。」

「具体的には?」

「イブジョー人23名、アオバシア人9名。」

「それではここが、捕虜キャンプね…イブジョー人が1人じゃないとなると、転送でここへ持って来るのは危険性が高いか…」
腕を組むキラ。
「仕方ないわね。気付かれないように着陸するしかないわ。」

「うん、それが一番だよ!」

「あらくまぴょん、あなたもそう思うの?」

「もちろんさ!」
裏声で自分に答えるキラ。
 

「…」ニヤリ。
キラはしばらくオブライエンを見て、ふと顔を歪め、パネルを何やら操作しだした。
操作が一段落するとふ、と息をつくキラ。

「それじゃあ惑星表面に着陸しないとね。けまり相撲2段の私の操縦を見て驚かないことよ。」
手をポキュポキュと鳴らす。

「えーっと、確か下降はこのボタンだったかしら?」
がくん。天井に頭をぶつけかけるキラとごろごろ転がるオブライエン。

「むー!(訳:殺す気か!)」

「う、あ、そうだ、これよ、このスイッチだわ。」

♪シミジミ・ドリンキン、シミジミリーーイイイイイーー。オンリーメモリーズ、ゴウオンバーアアアアアーイ。
「うっ、こ、これはダックス大尉ね…」
突如鳴り出した大音響に耳を塞ぐエリナ。


地下の洞窟。十数人のイブジョー人達が白っぽい岩を削り、鉱物資源を得る作業に従事させられている。
かつーん、かつーん。

「ナーリス、前から疑問に思っていた事がある。」
1人の男が隣りで同じように鉱物採掘をしている男に聞く。

「何だい。」

「何で俺達は、こんな原始的な道具しかもたされていないんだ。」

「フェイザーとかだと、反乱を起こされかねないからだろう。」
その質問は聞き飽きた、と言わんばかりにぶっきらぼうに答えるナーリス。

「で、でも、彫刻刀(丸刀)だぜ? もうちょっと、つるはしとか何か、ありそうなもんだろう?」
男は低学年用と思われるカラフルなプラスチックの柄の丸刀を持って力説する。

「ほら、そこ、何をやっている!」
アオバシアの看守が2人のそばにやって来た。思わず身をすくめる2人。

しかし看守が2人の前に来る途中で、サイレンが鳴った。
「警備本部よりB地区の警備員に告ぐ。本部に侵入者。大量のジャム反応。至急本部18地区に急行せよ。繰り返す。本部に侵入者。大量のジャム反応。至急本部18地区に急行せよ。」

「了解。」
看守達は皆ゾーサンギター(アオバシア人の標準武器)をかかえ、洞窟の向こうに走っていった。ナーリス達は驚いたように顔を見合わせる。
 

「こっちよ!」
声にイブジョー人達が振り向くと、物陰から(少しアフロヘアーの)キラが現れた。


キラとイブジョー人達は洞窟の中を走っていた。隣りのムラサメに話し掛けるキラ。
「あなたがまだ生きていただなんて、まるで夢のようだわ。」

「え? どういう事だい?」

「どういう事って…あなた、ムラサメ・ナーリスでしょう?」

「ああ、そうだが…」
不思議そうな顔のナーリス。

「あなたは国の英雄じゃない。」

「僕が? ここでずっと丸刀を使ってきた僕がかい?」

キラは曲がり角で止まり、ゆっくりと顔を出し先に誰もいない事を確認する。
「…ところで、あなた達以外にここの捕虜は何人いるの?」

「ええと…後、7人ほどいる。彼等は今地上で働かされているんだ。」後ろを見て確認してから答えるムラサメ。

「じゃあ彼等も救出しないと…あっ!」
目の前をかすめるフェイザー光線に動きの止まるエリナ。

「くっ、おとりを使ったからアオバシア人は全部そっちに行ったと思ったけど、甘かったわね。」
素早く物陰に隠れ、フェイザーを構えるキラ。シャーン、シャーンというアオバシア独特の甲高いフェイザー音が周囲にこだまする。
「こういう時は…」ふと横のムラサメに目をやるキラ。

「え? うわ、わ、うわあああああーっ!!!」
シャン、シャン、シャン、シャン。

エリナにいきなり外に引きずり出され、アオバシア人達の格好の標的になるナーリス。
「意外と中々当たらないわね…」一しきり感心してからキラは飛び出し、2人のアオバシア人を狙撃する。
見事命中、ロン毛を振り乱し倒れるアオバシアの方々。

「さあ、行くわよ。」
しかし少し進んだ所で、再びアオバシア兵が現れる。キラが後ろを振り向くと、後ろからも追手がやってきているのが見える。

「追いつめられたぞ!」
どうやら生きていたらしいナーリスがキラに叫ぶ。胸のバッジを叩くキラ。

「フロウガワ、ここのイブジョー人を転送。」

「人数を指定して下さい。」

「あーっと、大体よ! それ位融通きかせなさいよね!」
ぴぎゅーーん。

ちょうど前後のアオバシア兵達がやって来た所で、イブジョー人の捕虜達は近くに不時着着陸しているランナバウトに転送されていった。


プロムナードは祝賀ムードに包まれていた。
多数のイブジョー人達が通りを埋め尽くし、そこかしこでカエル爆竹の音が鳴り響いている。
アオバシア式のせりあがり式ドアが降り、キラ達が現れると、プロムノード中の人々が沸き立った。

「司令官。」

「仕事がうまく行って良かったな。」
キラはシスコの言葉に安心したように微笑んだ。

「ところで…一体、どうしたの、この人達は。」

「プワークが、君がナーリスを救出しに行くと皆に言いふらしたんだよ。私達は秘密にしようとしていたんだが…」

「…なるほどね。」頷くエリナ。

「ナーリス万歳! イブジョー万歳!」
イブジョー人達の声に振り向く2人。ムラサメは周囲の人々に囲まれ脅えた表情になっている。

シスコは人をかきわけてムラサメの所に来た。
「はじめましてムラサメさん。私がこの宇宙ステーションの司令官のゴート・シスコです。」

「は、はじめまして。」

「ルドー、こちらの方をドクター・ナガレの治療室へ案内してくれ。」

「了解。」

「あ、ありがとう…」
人の勢いに不安げな表情を見せながら、「英雄」はルドーの後をついていった。
 

「司令官、実は…作戦は、完全な成功ではなかったの。」
エリナの言葉に振り返るゴート。

「途中で、思わず魔がさしてチーフ・オブライエンを空の上から収容所めがけて放り投げてしまって…それに、何人か地上にいた捕虜達を救う事は出来なかったわ。」
沈痛な、しかしどこか口が笑っているようにも見える表情の少佐。

「ほんまや、一体何考えとんねん、ダァホ!」

「「…」」

「な、な、何であんたがここにいんのよ! 絶対動けないように簀巻きの上からアロンアルファを染み込ませておいたのに!」

「…実は、何故かさきほどアオバシア政府から連絡があって、4号星に収容中の捕虜は全て解放するという通達があったんだ。それでさっき、チーフも含めみんなクール宅急便で送られてきたんだよ。あるいはチーフが臭すぎたか…」

「こんのアマァ、今度という今度はいてもうたる。」

「あっら、随分と威勢が良いじゃない。この私に勝てると思っているのかしら?」

「お、おーい。」

「何やとう、さっきは少し、油断しとっただけじゃ! お前のようなハイミスヒス女にはいつか正義の刃がくだるからな!」

「へーえ、言ってくれるわね。ジャム大好きのおこちゃまにしては、頑張った発言ねえ、ボクちゃん。」

「聞いてないね、2人とも…」
背中に哀愁を漂わせて帰る司令官。



 
与えられた個室で休んでいたムラサメ・ナーリスはチャイム音に顔を上げた。
「どうぞ。」

ゴート・シスコが顔を出す。
「よろしいですか。」

「ええ、もちろん。」手で招きいれるムラサメ。

「今日はもう、ゆっくりとお休みになられ…何ですかそれ。」

「見ての通り、哺乳瓶ですが。」

「いや、見ての通り、って…その、何で哺乳瓶が?」

ムラサメはやや、はにかんだような表情を見せた。
「ああ、確か地球では、哺乳瓶は子供だけがする物だったんでしたっけ。」
 
「かなり小さな子供だけですね。イブジョーでは普通なんですか。」

「ええ。」
ちゅぱ、ちゅぱ。
 

「そうですか…あ、とにかく、御無事で何よりでした。」

「ええ、体は、問題無いんですが…さっきここのプロムナードを歩いていて、驚きました。随分以前と比べて賑やかになってますね。」

「そうですか。」

「ええ、私が以前ここに来たのはもう12年も前ですが…当時はアオバシアの占領下で、ステーション内でのSMクラブや「学園」の営業は禁止されていましたから…」

「それは酷いですね。」顔をしかめるシスコ。

「本当に、何もかも驚く事ばかりで…でも、何より、皆が私の事を英雄扱いするのが…」
ぽろろん。

「どうぞ。」チャイムに答えるムラサメ。
 

「おお、あなたが生きていたとは! あなたこそ現在のイブジョーを救う救世主だ!」
ドアが開くと、初老のイブジョー人男性がナーリスにかけよってきた。

「あ、あなたは?」
慌てて聞くナーリス。

「司令官、ナーリスさん、すいません。どうしても通してくれと言われたので。」
ルドーが、後ろから肩をすくめる。
「彼は、イブジョーの内務大臣、クサカベ・ジャロさんです。」


プワークはジュン・ロムの体内に仕込んでいる「頭文字Dスイッチ」をオフにした。途端に腕のスピードが落ち、同時に物すごい勢いで老けていくロム。
「に、にい…さん…いったい…ぼくに、なにをしたの…」
声もどんどんスローかつ低くなっていくロム。

「ジュン君、今日もよく働いてくれましたね。さあ、今日の日給30ラチナム円ですよ。」
ロムの皺々の手に銅貨3枚を手渡すプワーク。
「ラーメン一杯販売につき0.5ラチナム銭ですからネ。じゃあ明日もよろしくお願いしますョ。」
何故か異常に老けている弟を追い出すように帰すと、プワークは誰もいなくなったラーメン屋の店内で今日の自分の儲けを確認し始めた。

「んー。これだけあれば、あのアドア嬢でも私にかしづくに違いありませんネェ…」
大量の金の延べ棒を前にフッ。とメガネを上げるプワーク。

その時彼は物音に気付いた。
「ジュン君? もう帰って良いと言ったはずですよ。アマノーグ君ですか?」
立ち上がり周囲を見回すプワーク。ふと後ろに気付く。

「あー、あなたはどちら様ですか? 失礼ですがもう営業時間は終わっておりましてですネェ、ご来店は明日以降にしていただけるかと…ちょ、ちょっと?」
「夜」の時間帯のプロムナードに絹を裂くようなか弱い、アンドメガネな叫び声が響き渡った。


ルドーから連絡を受けたドクター・ナガレはプロムナードにやって来て、思わず吐き気に口を押さえた。
「な、何だい、これは?」

「見ての通りです。」
平然とコメントするルドー。もともと表情に乏しい事もあり、彼女がどう考えているのかは不明だ。

「あ、あの、ルドーさんでもドクターでも、まず、何かかける物を…」
人気の無いプロムナードに、プワークが全裸で亀甲縛りされた状態で放置されていた。

「胸から下腹部にかけて、大きな焼き印が見ての通り押して有ります。」

げろげろげー。
「…ふう。ああ、それは例の、キューティクルとかいう過激派組織だろう? 全く酷い事をするなあ彼等も。何もプワークにやらなくても。しかも裸に…うえっぷ」
一しきり下呂ってから息をつき、医療用トリコーダーをかざすドクター。しかしトリコーダーの方から目をそらしているのでスキャンをしている意味が無い。

「まあ、プワークさんは非イブジョー人としてここでは目立ちますから…」

「いいから何かかけてくれませんかネェ…」
何故か少し嬉しそうなプワークは頬を赤らめた。



 
「こいつぁあ由々しき事態だな。」
(どてらwithハチマキ姿の)ダックス大尉がむっつりとした表情で言う。

クルー達は司令室に集まり、状況を話し合っていた。

「警備は強化しているのですが、今日だけで既にイブジョー人と非イブジョー人の小競り合いが計4件起きています。」
報告するルドー。

「…ドクター、プワークの方はどうだ?」

「問題無いさ。僕の医療技術をなめてもらっちゃあ困るねえ。こう見えても一応、連邦の医療界の若きホープとして僕は注目の的の人間なんだからさあ。いやそもそもここだけの話、まあこれは本当は言っちゃいけない事なんだけど、」

「(無死)キラ少佐。どうして今、「キューティクル」の活動がここまで盛んになってきているんだろう。」

「さあ…今はカイが不在で不安定な時期だから、国民も不安感を抱いているからかもしれないわね。」

「だからって、排斥主義に走る事も無えだろうがよ。」

「私に言われたって困るわよ。」
素で言い返すキラ。

「…不安になる気持ちは分かるが、ダックス大尉の言う通りだ。…ムラサメ・ナーリスが助けになってくれると良いんだが…」
 

リョーコがふと自分の手前のパネルを見る。
「これから出航予定のザクルーズの貨物船から通信だ。」

「スクリーンへ。」
司令室のメインモニタに貨物船の船長が映し出された。
「司令官。今出発しようとしていた所なのだが、密航者が見つかったので至急逮捕して欲しい。」
船長は密航者をモニタの前に引っ張った。

「このイブジョー人が貨物室に隠れていたのだ。」
 

「僕ちゃん怖いの…」
画面に出てきたのは、哺乳瓶をくわえたムラサメだった。
 

「ナーリス! …ルドー。」
司令官の言葉に頷き、リフトに乗って司令室を降りていくルドー。

「ナーリス、あなたは国の為に命を張った英雄でしょう、どうして!」

「(少佐…)」
つばを飛ばすキラを複雑な表情でみつめるシスコ。

「どうして、哺乳瓶をしゃぶってるの!?」

「え?…」

「これを説明するのは長い話になります。まあ、簡単に言うと、好きだからなんですが…」

「「(全然短いじゃん!!)」」

画面の向こうのナーリスに手を広げるエリナ。
「で、でも、あなたが、どうして今、逃げないといけないの。何から?」

ナーリスは溜息をついた。
「…怖いんですよ、何もかもが。昨日まで僕は、日がな一日丸刀で発砲スチロール岩を削る毎日でした。それが急に、国を救った英雄だの、救世主だの、クラリオンガールだの、モーニング娘。だの、祭り上げられて。そんなのは本物の僕じゃないでちゅ。」

「しかし現在のイブジョーが君を必要としている、というのもまた事実だ。」
ナーリスを諭すゴート。

「信じられません。大体、僕が一体、何をしたっていうんですか。」

呆然とした様子のキラが答える。
「だって、あなたは、数々の伝説的な戦いを戦い抜いてきたじゃない! グンゼが丘での戦いで、アオバシア兵247人を相手にあなたがたった1人、刀1本で立ち向かって殲滅させたあの話にどれだけの同胞が勇気づけられてきた事か…」

今度はムラサメが当惑した表情になる。
「とんでもない。僕がグンゼが丘でやったのは、247人のアオバシア人の家にかたっぱしからピンポンダッシュをかまして逃げただけです。当時暇だったから…」

「あぇ゛。」

エリナが気を取り直して聞き直す。
「で、でも、カンジャニーの戦いではあなたは刀一本でアオバシアの645隻の艦隊を撃沈したじゃない。」

「それは信じる方も信じる方じゃないか?」
細目で呟く司令官。

「な、何の話ですか。僕はカンジャニーの戦いの頃、大食い大会に出場してアオバシアアカサンゴを645キロ食べて病院に運ばれたりはしてましたけど…」

「う゛、う゛、うぁぇ゛?」
 

「素晴らしい!!」
背後から急に出た大声に思わずチビる司令官と思わずフェイザーを向ける少佐。

「く、クサカベ大臣…」エリナは困惑した顔でフェイザーを降ろした。

「やはり君のような正直な人間が、今のイブジョーには必要だ!」

「正直すぎるわよ…」

オヤジはなおも熱っぽく語る。
「ムラサメ君。君に私から、命令がある。」

「は、はい…何でしょうか。」

「君は今からディープ・スペース・ナデシコにおけるイブジョー代表だ!」

「「「はあ?」」」

「ちょっと待って下さい、僕にそんな事は出来ませんよ!」

「甘えるな!」
一喝するクサカベ大臣。

いいか、ムラサメ君。君が認めようと認めまいと、君は既に国の生きる伝説になっているんだ。いわばレジェンドさ。昔ある人はこう言った。「私の血は半分ワインが流れているの。」 その人は自分の勘違いぶりを人々に笑われたが、決して自分の意見を曲げようとはしなかった。江東区在住の村田さんは彼女のファンで、いきつけのスナックのママさんによく「君は似ているねえ」と言っていた。もちろん村田さんは誉めているつもりだったんだが、ママさんはこれに憤慨した。まあ、そういう事だ。

「「「(意味が全然分からんー!!)」」」
 

シスコはクサカベに詰め寄る。
「大臣、待って下さい。既にこのステーションには、イブジョー代表としてキラ少佐がいるじゃないですか!」

「うん、だからクビだよ。」

「は、は、はあ?」

「クビ! 少佐は、何か生意気だからクビ!」
「死刑!」のポーズで少佐を指差すクサカベ大臣。キラは固まり、砂化(さか)し、さらさらと崩れ落ちた。



 
クサカベ大臣は真面目な表情に戻った。
「冗談だよ司令官。少佐の素晴らしい働きはかねがね聞いている。だからこそ、そろそろナデシコの勤務からイブジョーの地上勤務に戻ってもいい頃だと、こっちでも思っていたんだ。」

(砂から戻った)エリナが猛然と抗議する。
「ちょ、ちょっと待ってよ、私にはアキト君っていう大事な恋人がここにいるのよ! 地上勤務ですとか言ってはい分かりましたと簡単に引き下がる訳にはいかないのよ!」

「な、な、な、何た゜って?」声が裏返るシスコ。

「でも、もう軍にもそういう事で異動を通達しちゃったしぃ。」
片足を上げてくるくると回り、白鳥の湖を演ずるクサカベ。
「言う事聞かなかったらそれこそクビだよ?」

「う、くっ…」
奥歯に7Gの重力をかけてギチギチ言わせているエリナ嬢。


キラ少佐は自室で荷物の整理をしていた。やたらと棒状の荷物が多いのがいかにも敬虔なイブジョー人らしい。
「フ。もうここともお別れか…結構好きだったんだけどな、千原兄弟…」
意味不明の台詞を呟く少佐。

ぽろろん。
「どうぞ。」
 

キラは少し悲しげに微笑んだ。
「ナーリス。」

「少佐、忙しい所、邪魔じゃないですか…」

「ううん全然。まだ会ってまもないのに、もう離れなきゃならないなんて寂しいわ。」

おしゃぶりをくわえながら頷くムラサメ。
「そうですね。僕なんかに少佐の代わりが務まるとは、とても思えないですよ…」

「仕方無いわよ。私達は上の言う事には従わなきゃならないんだから。」
 

ムラサメの後から、シスコ達がわらわらと入ってきた。
キラの腹にさっそく右パンチを入れようとするシスコ。がしっと手で受け止めるキラ。
「もう君と会えないと思うと悲しいよ。(訳:人の息子に手出しやがって、二度と私の前に姿を現すなよ。)」

「そんな事はないわ、またいつでも会えるわよ。(訳:私に指図をするとは、あなたも随分偉くなった物ね。あなたはイブジョーの人間じゃないから私が従う義務は無いのよ? 1回体に覚えさせた方が良いかしら? だいたいその腰につけてるちゃらちゃらしたの、本当に腹立つわ。あーもう、ようやくそれを見ないですむかと思うと)(以下略)」
額に四つ角を作りながらグーで握手しあう2人。

後ろからドクター・ベシアが両手を上げる。
「でも、毎日少佐に会えないのはやっぱり残念だねえ。特に今回、話が急だったしさあ。(訳:これで君のキンキン声を聞かないですむかと思うと、せいせいするよ。いや実際、いくら趣味で田舎に来たとはいえ、君のような)(以下)」

「本当にね。(訳:あなたもつくづく分かっていないようね。アオバシア人じゃあるまいしその不潔な髪を)(い)」
 

「ホントだよ。また、いつでもここに遊びに来いよ。」

リョーコの言葉にエリナは少し不思議そうな顔になり、考え込んでから尋ねた。
「あなたの言葉、カッコがないのね。」

「な、何か無いといけないのか?」

「少佐。」
キラが声に振り向くと、何故か水着のルドーがやや頬を赤らめながら立っている。
「少佐と今まで働いてきて、私はとても充実していました。私にとって、少佐は…その…少佐は……いいえ、何でもありません。」
足を内股にさせ、もじもじとするルドー。

「…」(--;

「少佐、今の私の気持ち、聞いて下さい。♪もーいちーどー、もーいちーどー」
どこからか上がるスモーク。

「さー皆さん!、今日は少佐のお別れパーティという事でラーメンを特別にうぐっ」
歌い続けるルドーに片手(の変形した剣)でスパッ(SPA!)っと首をやられるプワーク。
 
 

スモークにまぎれて部屋を逃げ出したキラは、後ろに人の気配を感じてビクッとした。
「こ、今度は誰?」
振り返るキラ。

そこにいたのは、「実直」という言葉をそのまま表したような顔のイブジョー人僧侶だった。
「…ヴェデク・ツクモ…どうされたんですか、わざわざステーションに、しかも1人で…言ってくれれば、誰か部下を行かせのに…」

ルドーの歌声とすぱ。すぱ。という音がドアの向こうから漏れる中、ツクモは穏やかに言った。
「話は聞いております。少佐は、これからどうされるのでしょうか。」

イブジョーにおいて、ヴェデクはカイの次に高位の宗教指導者の称号である。キラは自然と緊張気味の口調になる。
「え、ええ…正直、どうしようか、まだ突然過ぎて分からないんですけど…」

「それならわたくしの所に来られたらどうでしょう。」

「え?」

ヴェデクは少し顔を赤らめた。
「あいや、下心があって言っているのではありません。ただ、これは良い時機ではないかと思うのです。あなたは今精神の修養が必要な時なのではありませんか。」

「は、はあ…」
キラはゆっくりと頷いた。


キラは陽の光が差すテラスのような場所にいた。
僧服(=白タキシード)のキラは、ひとしきり棒状の御神体を並べると、体育座りで背中は泣き、顔は上に向けてへらへら笑っているという、イブジョー独特のポーズで祈りを始めていた。
足音に気付いてキラは祈りを中断した。
「ヴェデク。」

「修養は、うまく行っていますか。」

「さあ、どうかしら…」苦笑するキラ。

「こちらに来てもらえますでしょうか。」

「…」
ツクモについて歩いていくエリナ。美しい自然に抱かれたイブジョー寺院、聞こえて来る音は鳥のさえずりと生け贄の少年達のくぐもった声だけである。

ほどなくして2人は祈祷所の一室と思われる部屋に着いた。
ツクモは小さな箱をエリナの前に持ち出して来た。

「これは…」

「最近イブジョーに戻ってきた物の一つです。チューリップですよ。」

ツクモはキラの前に箱を置くと、その箱を開いた。光に目がくらむキラ。
 
 

「こ、ここは?」
眩しさに目を細めながらキラが周囲を見回す。巨大な猫のシンボルマーク。長いテーブルについた長老達。どうやらここは、イブジョーの閣僚会議場のようだ。

「どうして私が会議場に?」呟くエリナ。

光の向こうから、誰か和服の女性が近づいて来る。しかし顔が見えない。
「あなた、誰?」

ふと気配を感じて後ろを向くと、キラがキラに向かって微笑んできた。
「あ、あなた…」

「自分の信じる道を進みなさい。そうすればうまく行く時はうまく行くわ。ダメな時は諦めてちょうだい。」

「(何、それ…)」

「あなたの行いに、あなたが報われる日がいつかやって来るわ。おすっちめすっちクラスの大流行でね。」

「…」
エリナ自身のイメージは、微笑みながらエリナの鼻の穴に指を…
 
 

「ふんんぬっ!」
エリナは気合で無理矢理イメージから戻ってきた。やや青い顔で息が荒い。
「うー、あ゛ー、はあ、はあ、はあ…」

「大丈夫ですか?」
キラの肩を心配そうに抱くツクモ。

「…あ、はい、もう大丈夫…」
キラは思わず鼻をおさえながら呟いた。


「「「ヌルキチャドン!」」」
タコによく似た動物を水槽の中に入れ、その動きで何やら勝ち負けが決まる「ヌルキチャドン」というギャンブルがプワークの店では毎夜行われている。とびきりせくしぃな服(例:少し汗ばんだブルマ体操着、園児服、全裸に靴下etc)を着た「ヌルキチャガールズ」達が、当りが出ると歓声を上げている。

揉み手で客を誉め称えるプワーク。
「おんめでとうございます! んー、素晴らしい! 一等は奈良旅行ですョ。羨ましいですネェ。」

「プワークさん。」

「ぬわあっ! う、ルドーさんですか。一体どうかされました。」

「ちょっとお話があるんですけど。」

「はあああ。」頭を押さえるプワーク。
「何です今度は。」

「そんなに嫌がらないで下さい。ナデシコ民間人代表のプワークさんを見込んでお願いがあるんです。」

「私もこう見えて結構いそがうぐ、あが、ぐぐぐ」
片手をプワークの首の回りにまきつけ、首輪の形にして無理矢理連れて行くルドー。
 

「ナデシコの寄港リストが最近おかしいんです。どうも武器関連の動きが激しくて。」

奥のテーブル(の椅子)に座ったルドーとプワーク。プワークはぜえぜえ言いながら自分の首を押さえている。

「うう…ええ、それがどうかしたんですか?」

「…どうやら、キューティクルが軍備を整えているという事だと思うんです。」

「きゅーてぃ…と言いましても、別に私と関係のあることでもありませんしネェ…うっ」

T2よろしく手を剣状にしてプワークの目の前をちらつかせるルドー。
「そうですか。それはとても残念です。プワークさんなら正義感も強いし、私の仕事も手伝ってもらえると思っていたんですけど…」
ルドーは悩める少女の面持ちで呟く。チョビ髭がみるみる白髪になっていくプワーク。

「あ、う、そ、だ、そ、だ、そ…あ、そ、か、考えましょう。」

「本当ですか。プワークさん、忙しいようだったら無理しなくて良いですよ。」

「いえ、やらせて下さい。あーもうとってもやりたいですねえ!」
血の涙を流しながら答えるプワーク。



 
キラとツクモは荘厳な寺院の廊下をしずしずと歩いていた。
「私が閣僚会議場にいて、何だったかしら、鼻の穴がおすっちめすっち…な、そんなイメージをチューリップに見せられたわ。あれは一体何だったのかしら。」

「聖なるトカゲのお導きですよ。」

まだやや納得しきれていない様子のエリナ。
「ツクモさん。あなたはいつも…その、何でも、聖なるトカゲのお導きに従って行動しているの?」

緑タキシードのツクモがエリナににこやかに答える。
「もちろんです。例えば、私があなたをここにお招きしたのも、チューリップから託されたメッセージに従ったまでの事なのです。あのメッセージは…そうでした、確か、「宇宙ステーションで働いているハイミス行き遅れ女をここへ呼びなさい」という物でした。」

「そ、そうっすか…」
微妙な表情でぎこちなく頷く白タキシード。
 

「お゛に゛い゛ぢゃん゛!」

2人が突然の大音響にビクッとして振り向くと、目を逆三角にした緑タキシードの少女が湯気をたてて立っている。
「あ゛ぅっ、ゆ、ユキナ。」

「ふんんん!」キラの前に顔を突き出す少女。
「また女をたぶらかして! しっかもこんな香水臭いガ(ピー)! 神聖な場所で一体何をやってんのよっ!」

「(この2人の「権力争い」が先の争議の原因だったのよね…)」キラは疲れた顔で息をつく。

「な、な、な何を馬鹿な事を! 私はただ彼女の精神修養の手助けを…あ、すいません少佐、妹が失礼な事を…」

「おにいちゃん。私はここではおにいちゃんと同じヴェデクなのよっ。寺院の中では妹も兄も無いわ。そしてイブジョーの信仰を代表する者として言わせて貰えば、この女みたいに地球人達に染まって汚れた人間は、ここの寺院には…」

ツクモは急に横を指差した。
「あ、あそこにカリカリ梅が!」

「え゛えっ、どこどこどこどこどこ?」周囲を見回すヴェデク・ユキナ。
 
ツクモとエリナは何事もなかったかのようにまた歩き出した。


「わざわざここ司令部にシスコ中佐に来て頂けるなんて嬉しいです。さっそくカイ直伝のギャニチャーハンでも…」

「ああ、お気遣いなくクリム・サユリ将軍。それより、さっそくですがイブジョー宇宙軍総司令の将軍にお話があるんですが…」

サユリはゴートに微笑む。
「ええどうぞ。」

軍の司令部というよりは寺院にも似た穏やかな雰囲気の執務室で、サユリは座り直した。
「どういったお話ですか。」

シスコは口を開いた。
「率直に申し上げますと、私にはイブジョー宇宙軍の考えている事が分かりません。危機はもうすぐそこまで差し迫っているんです。例えて言えば、…ええと…」

「危機というのは?」

「まだボケ終わってません!」
ゴートは頭を振った。
「まあ、とにかく…キューティクルが軍備を強化しているらしいという情報が私の所に入ってきています。具体的に言うとザクルーズの船がキューティクルに武器を流しているようなのです。あなた方イブジョー軍は至急これを…」

ポニーテールのイブジョー人女性はにこやかに、しかしきっぱりと彼の言葉を遮る。
「お気遣いは有り難いんですけど司令官、それは我が国の事情ですので、連邦の方に手を煩わせて頂く必要はありません。」

「…私達連邦の人間はここでイブジョーの方に事情を説明する義務があります。」
食い下がるシスコ。

立ち上がるサユリ。
「お話はよく分かりました。検討、善処しますね。それでは、司令官もお忙しいでしょうからこれで…」

「…あ、もう一つよろしいですか。」

「何ですか。」微笑みながら額をひくひくさせる将軍。

「これは個人的なお願いなのですが…キラ少佐だけは、もう2度とステーションに配属させないようにお願いしたいんです。怖いし。」

「それは…私の権限で決められる事じゃありませんが…政府に相談しておきましょう。」
おたまをかつ、かつと手で叩きながらサユリは答えた。


「まだ出港は出来ないのかね。もう3日も待たされているんだ!」
ムラサメはモニタの向こうのザクルーズ人船長の剣幕に目をうるうるとさせている。

「こ、怖いよう、あのおじさんー」
指を差すムラサメ。

「あ、う、分かったよ、だからってあたしにひっつくな!」
汗をかきながら、リョーコは手元のパネルの表示を確認した。
「ナーリス。」

リョーコに頷いたムラサメは船長に向かって言う。
「い、今、最後の荷物の積み込みが終了した所です。出港を許可します。」

「ちっ。全く、手間をかけさせやがって…」
ザクルーズ船はステーションを離れた。
 

船内の貨物室では、プワークの手でさきほど運び込まれた貨物…謎リモコンの詰まったダンボールが、徐々にどろどろとした液状物質に姿を変えた。
人型に戻ったルドーは貨物室内を見回し、壁面のコンピューターにアクセスを開始する。
目の前のモニタの表示を見て、ルドーは目を細めた。


キラはツクモの寺院内の祈祷室で再び祈りを始めていた。
「イカイカクリクリイカクリクリ、イカイカクリクリイカクリクリ、オイシイイカクリドコニアル…」
イブジョー語の祈りの文句を一心不乱に唱えるキラ。

ぽろろん。
寺院には不似合いな電子音にふと顔をあげたキラは、そばの机の上のモニタのスイッチを入れた。
「あ…アキト君。」

「エリナさん。お願いです、ナデシコに戻って下さい。」
画面の向こうのアキトが切迫した表情で告げる。

エリナは他の誰にも見せない表情で頬を赤らめた。
「それは…アキト君、私だってあなたに会いたいわ、でも今は修養中だし、今回の異動は私の一存で覆せるような事ではないし…」

「あ、あの、エリナさん、前から思ってたんですけど、ラブコメ似合いませんよ。」

「ふえ゛?」

顎を落すエリナをよそにアキトは続ける。
「そうじゃなくって、ナデシコの情勢が不穏なんです。父さんは詳しくは教えてくれないけど、僕達の居住区の前にもキューティクルのシンボルが落書きされていたり、何だか警備の人もいつもよりも目立つし…」

「そう…」キラは少し考え、アキトに頷いた。
「分かったわ。ここ数日俗世間から離れていたから事情はよく分からないけど、何か問題があるみたいね。」

「お願いします。」通信は切れた。
 

「それじゃあ最後の清めを急いですませて…」
キラはふと物音にきづいて振り向いた。
「ちょ、ちょっと、あなた達は、誰?」
ハイポスプレーでキラは気絶させられた。


キラが目を開くと、そこは何かの組織の司令部であるらしかった。

周囲を見回すキラは、ふと不思議そうな顔を見せた。
「栗の花の臭いがしないわ。」

「ああ、起きられましたか。ようこそ少佐。」
キラが顔を上げると、クサカベがにこやかな笑みを浮かべて立っていた。

「ようこそ、イブジョー潔癖革命同盟本部へ。」
 

「あ、あなた!」立ち上がるキラ。周囲の兵士達が彼女にフェイザーを向ける。

「ああ、変な気を起こさないで。私達も同胞を傷つけたくはありません。」

「…どうだか。」床に座り直すキラ。
「そう。そういう事だったの。あなたが黒幕だったのね。」

「人を秋本康呼ばわりするのは止めてもらえませんか。私はただの、平和を願うイブジョーの一市民に過ぎませんよ。」

「平和を崩しているのはあなたでしょ?」
呆れた様子で言い返すキラ。
 

クサカベはキラのそばに腰を降ろした。
「少佐、あなたなら分かってもらえるはずだ。本当の平和の為には、イブジョーの真の独立が必要なのです。少佐、あなたは現在の状況に、本当に満足していますか? 我々がアオバシアを長年命を張って追い払ったのは、その代わりに惑星連邦という新たな侵略者を招き入れる為ではなかったはずだ。」

「…それは、誤解だわ。連邦はそれは問題も多いけど、アオバシアと違ってあくまでイブジョーの発展を助けようと…」

「…そうですか。」

「何よ。」

クサカベは溜息をついた。
「やはり、地球の若いサルに引っかかってしまうと、考え方も毒されてしまうんですねえ。」

「な、ちょ、それは関係無いでしょ! とにかくあなた達の考え方は古いの。今は戦うべき時じゃないわ。」
ふと壁の大きなキューティクルシンボルに目が行くキラ。
「ん、大体あのマークは何よ!」

「女性性の象徴です。」

「…そのまんまね…」
小声で呟くキラ。

クサカベは立ち上がった。
「私達キューティクルは、もともと少女信仰の一派から生まれた団体なんです。と言っても今はイブジョー主流の少年信仰も受け入れています。ただ、私達がどうしても受け入れられないのは、一部の「信仰」という言葉に名を借りた少年を生け贄にささげたり、儀式と称して猥褻の限りをつくしたりするような非人道的な行為です。」

「…それの何がいけないのよ?」
皆目見当がつかない、という表情で聞き返すエリナ。

「あなたもそうだ。イブジョー人達自身ですら、そういった行いは元々イブジョーの物では無かったという事実を、完全に忘れてしまっているんですよ! 我々は本来不潔を排し清潔を愛する、この銀河の中でも一、二を争う潔癖を誇りとする人種だったはずだ! …それがどうです。今ではまだ毛も生えていないような少年の(自主規制)をスライスして食べたり、ホルマリン漬けにしてイヤリングにしたり、こんな鬼畜な世界は本来の我々の文化ではない、アオバシアや連邦やフェレンスケに毒された、非常に歪んだ文化なんだ。」

カチンときた様子で言い返すキラ。
「あなたは「歪んだ」と言う言い方をするかもしれないけど、それも文化でしょう? あなたの言っている事は表面的には正しい事のように聞こえるけど、つまりは他の星の文化も混入した、現在の寛容なイブジョーのあり方を否定したい訳じゃない。…あなた達は、他の文化の人達とは仲良くする気は無い訳?」

「もちろん仲良くはしたいです。ただ彼等が、本来潔癖であったはずの我々の文化を壊すようでは、我々はそれには、自衛をせざるをえない。」

「それを閉鎖的、というのよ。話にならないわね。」

「…あなたも何が正しいか、今に分かるでしょう。」
クサカベはむっとした顔で歩いていった。


ナデシコ司令室でリョーコは地上から帰ってきたゴートに泣き付いていた。
「なあ、頼むよ、普段ムカつく奴でも、こういう時は奴は頼りになるんだよ。」

「うーん…」

ナーリスがリョーコに加勢する。
「司令官。今ほどイブジョーと連邦のパイプ役が求められている時はありません。…残念ですが、僕では役不足です。」

「しかし…」

「ルドーも多分あたしらと同じ意見になるんじゃないか?」

「う、そ、そうか?」
ルドーの話になると、途端に冷や汗をかきだすシスコ。

「先程のヴェデク・ツクモさんの連絡では、彼も少佐がどこに行ったかは分からないそうです。」
パネルを操作するナーリス。

「と言っても状況から考えれば、キューティクル本部以外には有り得ねえ。」
口を挟むダックス。

「ザクルーズ船の貨物が運ばれていると思われる地点は、これらです。」
ムラサメが表示したイブジョー星の一地域の地図上に、3、4つ点が表示される。
リョーコがパネルを操作して言う。
「この内一番エネルギー反応が高い地点は…ここだな。」
赤い点が一つにしぼられた。

シスコは溜息をついた。
「分かった。我が愛する息子の純潔を奪った悪魔だが、時には悪魔が必要とされる時もあるか…」

「「「(そこまで言うか…)」」」

「ダックス、この地点へ私を転送してくれ。」

「あ、僕も行きます。まだ、彼女への恩を返していませんから。」
健気にもナーリスが言う

「…そうか。ダックス。2人に変更。」
 

「了解。」
ぴぎゅいーーーーーんぐ。

ふと気付いて頭を直すリョーコ。
「あいけねズレた。」


2人が転送されたのはイブジョー星地上の森林地帯だった。2人はトリコーダーを作動させて周囲を調査する。
「いそうにないな…」

「でも、確かにここの付近に本部があるはずです。あるいは地下にあるのかもしれませんけど…」

「入り口位は地上にあるだろう?」

ぴこぴこぴこ…
「司令官。一人、生命反応が僕達に近づいています。」

「どの方向からだ。」

「それが…」
顔をしかめるナーリス。
「どうも方向がよく分からないんですが…」

「右か左か位は分からないか?」
ざば、ざば、ざば。
「ぐわあっ」
足を取られ倒れるシスコ。

「…下でした。」
地中から土をかいて現れたエリナを見て、ナーリスは報告した。

司令官は岩に頭をぶつけ動作不良に陥っているようだ。

「御無事でしたか、少佐!」

「ええ、何とかね。ペッ」口に含んだ土を吐くキラ。
「以前恒星の中から逃げたのに比べれば、これ位どうって事はないわ。」汚れた顔で微笑む。

「そうですか。」ムラサメもつられて微笑んだ。

「(ウソって気づけ。)」やや額がピクピク動くキラ。


司令室に戻ってきたクルー達は顔を突き合わせていた。
「司令官、キューティクルの黒幕はクサカベ内務大臣よ。彼が全てを仕切っているのね。」
泥んこキラちゃん報告。

「そうか…だからヤツは、ナーリスにここの代表をさせるように仕向けた訳だ。」

「そうすれば国民的英雄を地上から離しておける。ナーリスが地上で人気を得る危険性を避けられるという事か。」
ダックスの言葉の後を継ぐシスコ。

リフトが上がり、ルドーが司令室にやって来た。
「司令官。今戻って来ました。」

「ルドー?」

「彼女にはザクルーズ船の貨物に化けて、忍び込んでもらったんだ。」
キラに説明するシスコ。

泥んこに気付くルドー。
「少佐。」

「ふふ、ただいま。」

「今日はまた、特に……いえ、気にしないで下さい。」(ぽっ)

「(やっぱり寺院に帰ろうかしら…)」
 

ルドーは思い出したようにシスコの方を向き、作戦テーブルの上に持ってきたパッドを置いた。
「司令官、これを見て下さい。」

「Heyyyyyyyyyy!!! ♪今日の取り引きは謎リモコン300機にアブフレックス400台だぜべいべぇ」
パッドに映されたのは、アオバシア人のライブ映像だった。
「見ての通り、ザクルーズに武器を提供しているのは、アオバシアです。」
 

クルー達の間に緊張した空気が走る。
 

「緊急事態だ。イブジョー首相官邸へ通信を開いてくれ。」

頷くダックス。しかし表示を見て顔をしかめる。
「駄目だよ、キューティクルが地上への通信を妨害しているみてえだ。」

「何だと!」
 


キューティクル本部の清潔そのものの執務室で、クサカベは目の前の人物にうやうやしく頭を垂れた。
「ヴェデク。計画は着々と進んでいます。」

「そう。ついに私達の夢がかなうのねっ!」
ヴェデク・ユキナは手を叩いて喜んでいる。

「先頃ザクルーズ人が武器を安価で提供してくれましたから、現在の汚れきった政府を倒すのは後数日で可能となるでしょう。」
クサカベは頭を上げた。
「妙な文化を押し付けて来る異星人のいない、本来の清潔な姿を取り戻したイブジョーはもう、目の前に来ています、ヴェデク。」

「イカ臭くないイブジョーが、ついに戻って来るのね!」

「ええ、「ショタ鬼恥害の不潔民族」という汚名はもう、我々の物ではないのです!」
クサカベとユキナは微笑みあった。


むうーずかーしいいーー。
後ろの踊り子達が人文字で「ム」を作りながら踊る中、レミ提督は頭を振った。
「残念だけど、シスコ中佐。あなたの話もよく分かるんだけど、私達惑星連邦には「きみとぼくは、漫画だよ。」という大原則があるわ。分かりやすく言うと内政不干渉の原則ね。」

司令官室のモニタに向かってツバを飛ばすシスコ。
「しかしナチェフ提督、この状況下でイブジョーを放っておいたら、間違いなくイブジョーはアオバシアの手に落ちます!」

レミは聡明そうな顔をしかめた。
「その通りね。でも、私達にはどうする事も出来ないわ。」

「しかし!」

「私も何とかしたいわ。でも、アオバシアが直接イブジョーを攻撃しようとしている訳ではないのよ。今の状況は全て、イブジョー人達が自分で作り出している物なの。それに私達は干渉をする事は出来ないのよ。」

「…分かりました。」
 

何かのアンテナを磨きながら、ナチェフは付け足す。
「それからもう一つ。」
もーうひーとつー(two)。
人差し指を振る踊り子達。

「何でしょう。」

「中佐、あなたの報告で、今さっき連邦艦隊から司令が下ったの。」

「ええ。」

「連邦はナデシコを破棄する事を決定したわ。このままでは連邦の市民にも危険が及びますから。今すぐ、ナデシコの全ての連邦市民は撤退を開始して。」

「な…」

身を乗り出す提督、何故か目が輝きだしている。
「一応踊っとく?」

「…いえ、結構です…」

「そ。」
茫然自失のシスコを残し通信は切れた。



 
 シスコは司令室の中央に立ち、周りのクルー達を見回した。
「現在イブジョーとナデシコはアオバシアの手に落ちようとしている。私はここに残って、何としても彼等の計画を阻止するつもりだ。」
腰のキキララが揺れる。
「これから私が行おうとしている事は明らかな艦隊の命令違反だ。だから君達は、もし嫌なら今すぐここを脱出してもらって構わない。しかしもし、栗の花の香り溢れる本来のイブジョーを愛しているなら、残って一緒に活動して欲しいと思う。」
 

「私達は、連邦の人間じゃないもの。ここを「脱出」したってどこに行ける訳でもないわ。」
腕を組むエリナ。

「僕もです。」ナーリスが頷く。

「じゃあ、私も。」
(キラの方を見ながら)ルドーが言う。

肩を上げるリョーコ。
「ゴーちゃんが駄々こねたらしゃあないわな。」

「じゃあ僕は逃げさせてもらうよ。」
一同の注目を一挙にあびるドクター。
「やだなあ、どうして僕がそんな事をしなきゃいけないんだい。こういう偽善的なお約束って僕、大っ嫌いなんだよねー。」

「そうか…」

ぐにゅぐにゅぐにゅ…
「うっ」

「それはとっても残念です、ドクター。」右手が首輪、左手が剣に変形しだしている保安チーフ。

「あ、や、でも、こういう時にこそ医師が必要になるかな、あは、あははは。」

「ありがとうドクター。皆が協力してくれて私はめちゃんこ嬉しい。」
シスコは微笑んだ。


ナデシコの非イブジョー人の脱出が始まった。
プロムナードは、荷物を引いてエアロックに向かう人々でごった返している。
「ジュン君。見ての通り今皆さんは我先にここを脱出しようとしていますネェ。私達も彼等の為に、一肌脱ごうじゃありませんか。」

「どういう事ですか、兄さん。」

ジュンに尋ねられたプワークは、懐から輪ゴムで止めた大量の紙片を見せた。
「私は顔がききますからネ、既に皆さんが確実に船に乗れるチケットを入手しているんですョ。」

「って兄さん、これどう見ても、永谷園のお茶漬けに付いてる東海道五十四次カードにしか見えないんだけど…」

「な、何を言うんですジュン君!! 通常モードのスイッチを切りますよ! …これは、まぎれもないナデシコ脱出用チケットです! という訳でジュン君この分をさばいてもらえますか。」
持っている束の94%程度を弟に渡すプワーク。

「は、はい、兄さん…」
やや釈然としない様子で弟は頷いた。
 

プロムナードの違う場所では、アキトと若いフェレンスケ人が話し合っていた。
「もうしばらくアマノーグちゃんとも会えなくなっちゃうね。」

「そうね。私も…最初は地球人の子と友達になれるなんて思ってもみなかったけど、今はとっても寂しいな。」
叔父のプワーク同様メガネをかけているアマノーグは微笑んだ。
「でも、私達のドミノの絆は永遠よね。」

「もちろんさ。」

「そうそう、シスコ君、この前私フルスクラッチで作ったドミノ、「ドミノジャーナル」に投稿したの。」

「へえ、とうとう送ったんだ! で、どうだって?」

「まだ分からないけど、うまくしたら3月号に載るかもしれない。」

「絶対買うよ!」

「じゃあ、本当に元気でね。テンカワ君とお父さんの絡むヤオイCGムービーも今制作中だから、出来たら送るね。とってもリアルよ。(はぁと)」

「それはあんまり送らないで良いけど…」

アマノーグはあくまで微笑みながら、手を上げた。
「じゃあ。私これから、私をフェレンスケ人に設定した作者をぶん殴りに行かなきゃいけないから。」

「そ、そうなんだ。じゃあね。」
 

プロムナードの更に違う場所では、ヒカリ・オブライエンが小さな子供と手を繋ぎ、背中に荷物を背負って歩いている。
「あら、何か大事な物を忘れているような…」

「おやじを忘れてないか?」
ヒカリは子供の言葉に「ああ!」と声を上げた。

「そうよガイ、お父さんを連れて来るのを忘れていたわ。急いで取ってこないと…」
今まで進んでいたのと逆方向に歩きだすヒカリ。

「いやおふくろ、ちょっと待て。」

「何?」

ガイ・オブライエン(幼児)は顎に手をやり、軽く頭を振りながら言う。
「おふくろ、今おやじはこのナデシコを、いやイブジョーを守る仕事で忙しいはずだ。今は辛いかもしれないが、ここで正義を守る男を黙って見送る!というのも一つの男気ぢゃないか!!」

ヒカリは感動した様子で、ガイ(間違いなく幼児)を持ち上げた。
「…確かにあなたの言う通りね(私、男じゃないけど)。どんなに寂しくたって、今、お父さんの邪魔をする訳にはいかないわよね。」

ハンカチを取り出すヒカリ。

「そうさあ、くうう、泣ける話だぜ。」

「うん。…さあ、行きましょう。」

(トウジ・オブライエン一口メモ:現在状況を全く知らずパン山内で熟睡中)


「どうだ?」
司令室では、ゴートが苛立った様子で同じ場所を何度も歩いていた。

「かーっ、ダメだよ。妨害通信が多すぎて、地上への連絡は取りようがねえ。」
頭を振るリョーコ。

「通信が取れないという事は、地上に降りて連絡をするしかないという事ね。」

キラの言葉にシスコは眉を上げた。
「それは危険すぎる。今回の件ではイブジョー軍内にもキューティクルが浸透している可能性があるようだからな。」

リョーコはパネルを操作して顔をしかめる。
「それに、例の妨害電波の影響で転送は出来ないようだぜ。」

「船で行けば良いだけの事でしょ。」

「でも現在、ここの手持ちのランナバウトは全部市民の脱出用に使われていて空きはありません。」
真意を探るように言うルドー。

エリナはふふんと微笑んで両手をテーブルの上に乗せた。
「大丈夫。私達がレジスタンスをやっていた時に使っていた戦闘機が月にまだ残っているはずよ。」

「でも、そんな昔の戦闘機使えるんですか?」

「まあ…何も無いよりはましじゃない?」

「安心しろルドー。少佐はどう殺しても死ぬような人じゃない。」

シスコの言葉に頷くルドー。
「それはそうですが…」

「あのねえ。(さっきと言ってる事違うわよ。)」

「…では少佐、イブジョーに行って、政府の連中に状況を話してくれるか。例のルドーの手に入れた、アオバシアがこの謀略に絡んでいるという証拠のパッドを持って。」

「分かったわ。」

ゴートはふとリョーコの方を向いた。
「ダックス。少佐と一緒に行ってくれるか。殺しても死なないと言ったが、とはいえ少佐の操縦では戦闘機が無事地上まで着くかどうかはかなり心配だ。」

「あ、あのねえ。」

「了解、司令官。」
クルーは解散した。


その頃各エアロックの前では大混乱が起きていた。
「このチケットを3万ラチナム円で買ったんだ! 早く船に乗せてくれ!」
1人の男が「蒲原」のカードを見せながらエアロック前の係員にわめいている。

「いや、もうこの船は定員一杯ですので。」

「何だって! じゃあこのチケットは意味がないじゃないか!」

「…そう申されましても…」

ふと自分のチケットをよく見直す男。
「…もしかして、「大井川」じゃないとダメなのか?」

「いえ、そういう問題ではないです。」
あちこちで同じようなやりとりが繰り返されている。連邦の人間どころか、イブジョー人達まで出口に殺到しようとしている。
 

「皆さん! 落ち着いて下さい。」
1人の声に皆が振り向いた。それは「英雄」の声だった。
ムラサメは懸命に声を上げる。
「ここはイブジョーです。イブジョーの皆さんは、船に乗る必要はないんです。これらの船は、非イブジョーの皆さんの為の船なんです!」

ナーリスの言葉に、イブジョー人達は一人、また一人と戻っていった。
ルドーの書いた原稿を手に、ほっと息をつくナーリス。
 

プロムナードの一角では、プワークが携帯金庫にたまった延べ棒を見て髭を撫でていた。
「んー皆さんを助けるというのは気持ちの良い物ですネェ。…さ、そろそろ私も旅支度をしないと…」

「急がれるんですね。とても残念です…」

「ぷぎゃあ! あ、ル、ルドーさん、良く会いますネェ、奇遇ですな、はは、ははは…」

「いいええ、偶然ではなく、今プワークさんを探していましたから。少しお話を聞いても良いですか。どうもこの混乱に乗じてどこかの悪徳商人がダフ屋をやっていたらしいんです。」

「あーっ、残念ですがルドーさん、私もそろそろここを出て行かないと…」

「もちろん、お話さえすんだらすぐに脱出していってもらって良いんですけど…」
表情はクールなまま、片手がボウガンの形に変化するルドー。

「はい、もう幾らでもお゛づぎ会い゛ざぜで下ざい゛。」


非イブジョー人達の脱出が完了し、ナデシコは純粋なイブジョーの空間になっていた。エアロックが開き、イブジョー宇宙軍の兵士達がナデシコに乗り込んだ。
「「「イブジョー万歳!」」」
住民達の歓迎を受ける兵士達。兵士達の後から、一際背の高い女性が現れた。

「本当に撤退していったのね、連邦は…」

「将軍。」
クリム将軍は駆け寄ってきた女性士官の声に顔を向けた。

「何?」

「司令室を制圧、ナデシコは完全に我々の物になりました。」

「よろしい。」
頷く将軍。
「それにしても…全く風俗店の開いていないナデシコというのも、少し不思議な感じがするな。」

サユリ達は司令室へ向かった。
 

司令室は菓子パンの山を残し、既にもぬけの殻となっていた。
イブジョーの兵士達は勝利に酔い、そこかしこでイブジョー万歳を叫んでいる。
 

司令室のコントロールパネルを操作していた1人の士官が顔色を変え、サユリのもとにやってきた。
「将軍、ステーションの保安システムが完全にダウンしています!」

「何ですって。」
パネルにかけより、表示を確認するサユリ。
「これは…あの万年ロリ女の仕業ね。もう30過ぎてる癖に…」

将軍は周囲のスタッフを見回した。
「どうやら連邦のクルーの人達はまだステーションに残っているようです。皆さん、徹底して調査をお願いします。特に流動体生物の元保安チーフには気を付けるように!」


その頃イブジョーの月では、ダックスがキラに文句を言っていた。ちなみにイブジョーの月は普通の大気がある。
「おい、幾ら何でもこんなにボロだとは聞いてなかったぞ。」

そこにはあちこちセロテープでつぎはぎしてある、2人がぎりぎり乗れる大きさの人力宇宙戦闘機(の半スクラップ)が放置されていた。

「一々文句言わない。手元にあるのがこれだけなんだから、仕方がないでしょ。」

「これならランナバウトの方が1000倍マシだな…」

「ランナバウトは今使えないでしょ。」
エリナはリョーコに指を差す。
「それにこれは、こう見えてれっきとした「戦闘機」なんだから。バカにしたもんじゃないわよ。」

キラはうっとりとした様子で機体を撫でだした。
「レジスタンス時代を思い出すな…これね、機体が強化ビニール製だからタバコの火とかですぐに全焼しちゃうのよ。だから戦闘から帰って来るとアフロになってるって事が、結構良くあったわあ…」

「な、なあ、これ本当に「戦闘機」か?」

エリナは目を開き、機体を軽くポン、と叩いた。ボコッとへこむ機体。
「これ、反対側のインパルスエンジンが取れてるから、今からはっ付けるわよ。」
小さなガレージのような倉庫へ入っていくキラ。何やらがちゃがちゃ倉庫で探し物をしているようだ。

「ああ、あった。取り敢えずこれで良いわね。」
至極真面目な表情でキラ少佐はヤマトのりを取り出して来た。

「これ、飛ぶのか。」


キューティクル本部のクサカベは、クリム将軍からの通信の内容に満足気に頷いた。
「ヴェデク。ついに我々はナデシコから異星人達を追い払いました!」

「最高! そう来なくっちゃねっ!」「う゛ぇでく」と大きく名前の書かれた緑タキシードのユキナはガッツポーズを決める。


「将軍。」
「何よ、今度は。」司令官室のサユリは苛立った様子で顔を上げた。

「敵は強力です。既に保安システムだけでなく、照明も、通信システムの動力も落とされました!」

「好い加減そういう話は聞きたくないの。どうして見付けられないの! ちゃんとしなさい。」

「は、はい。必ずどこかにいるはずなんですが…」

「そうよ。必ずこのステーション内のどこかに潜んでいるはずよ。地球人とかの反応は、ちゃんとトリコーダーで見分けられるでしょう。」

「りょ、了解。」

「全く!」サユリは持っているおたまをグニャリ、と曲げた。
 
 

「…ところで、いつまでここに隠れていないといけないんだ、ルドー?」

「我慢して下さい司令官。何とか将軍に会って、彼等がアオバシアに騙されている事を説得しないといけませんね。」

「しかしどうやって?」
ナーリスの言葉に考え込む一同。

「…確か、キラ少佐の話では、一般にイブジョーの方は…」プワークが口を開いた。


キラとダックスの乗り込んだ戦闘機は、主にダックスの一生懸命こぐ力でノロノロと浮き上がり、月から離脱してイブジョー星へ発進した。

ぎしぎし、ぎしぎし、ひゅーひゅーひゅー。

汗をかきながら戦闘機をこぎ続けるリョーコはふと前席のエリナに聞く。
「おいお前、ちゃんとこいでるか?」

「失礼ね、私だって一生懸命やってるわよ。(着くよう祈る事を。)」

「そ、そうか。すまねえ。」

戦闘機は間もなく月の大気圏を抜け出し、漆黒の宇宙空間を航行しだした。腐っても宇宙船である。

「何か、BGMが欲しい所だな。」

「いらないわよ。」

「そうだな、じゃあリョーコ・ダックスで「炎」!」

「だからいらないって言ってるでしょ!」後ろに怒鳴るキラ。もう既に戦闘機はイブジョー星の大気圏に突入しつつある。
はっ
「見て、軍の船が2機こっちに接近してる。ほら。」

自分の持っていた折畳み式オペラグラスをダックスに手渡すキラ。
「な、なあ、センサーとかは無いのか?」

「あると思った?」
 

ぴぎゅん。

さっそく攻撃を受けるキラ=ダックス機。
「あ゛ーっ、さっきヤマトのりで付けたインパルスエンジンがっ」
エリネエショック。

「くっ、やられてたまるか!」リョーコは(足は一生懸命こぎながら)1機に照準を合わせパネルの発射スイッチを押す。

ひゅーーー
戦闘機から敵機に向かって、綺麗に軌跡が描かれていく。
「やった!」

ぼん、ぼぼぼんっ。
「って、何で花火なんだよ!!」

「花火スイッチを押したからでしょ、しっかりしてよ、ホントに!」

「だから何で花火スイッチが戦闘機に付いてるんだよ!!」

ぴぎゅん、ぴぎゅん。
「あ゛ーっ、糸でとめておいたもう1個のインパルスエンジンがっ!!」

ひゅーーーーーー

戦闘機はリョーコの人力むなしく落下していく。


「将軍。」

「今度は何。」

司令官室に上がった士官は、言いにくそうな顔で伝える。
「…実はその、現在多数の兵士達が持ち場を離れて、職務を破棄してしまっています。」

「何で。」

「どうやら各レプリケーターからカリカリ梅が溢れ出しているそうで…皆それに夢中になってしまっていて…」

「…」
頭を押さえるクリム将軍。

「将軍、敵はイブジョー人を熟知しています!」

「…何か、その…もうちょっと良いニュースは無いの?」

「あ、はい、保安システムがかなり復旧しつつあります。後3時間以内には元に戻るはずです。」

「そうよ、そういうニュースが聞きたかったのよ!」
兵士におたまを渡すサユリ。どうやら一種の褒賞のようだ。
 
 

「かなりの数のイブジョー兵が司令室を離れていますね。」
手持ちのパッドで確認するルドー。
「でも、まだ若干名が司令室、司令官室に残っています。」

「アオバシア人じゃないんだし、彼等だって僕達を殺すつもりは無いんだろう? そろそろ司令官室へ突入するっていうのはどうかなあ。」

ドクターの意見に首をふるルドー。
「それはまだ危険だと思います。」

「でも、何とかしないと、もう時間がありませんョ…」

ナーリスが遠慮がちに口を開いた。
「こういう方法はどうでしょう。」
 

ムラサメの説明を聞く内にどんどん空気の重くなる一同。
「ナーリス、私は君にそんな事をさせる訳にはいかない。」

「ええ、それならまだ突入するという選択肢の方がマシだと思います。」
司令官に同意するルドー。

「でももう時間が無いんでしょう。僕はいままで逃げてばっかりで、本当にイブジョーの為になるような事は何もしてこなかった。でも今なら、それが出来るかもしれないんです。お願いします!」

一同は困った様子で顔を見合わせた。


キラが(また)目を覚ますと、そこはツクモの寺院だった。
「ヴェデク。」
呟くキラ。

「ああ、大丈夫ですか、少佐。」

「…ええ、問題無いみたい。」

ツクモの後ろからダックスが顔を出す。
「何でも花火が開いてその後火を吹きながら物すごいスピードで地上に落下して来る物体を見てピンと来たんだそうだ。」

「…それで何で、私達は無事な訳?」
独り言のように呟くキラ。

ツクモはエリナに微笑んだ。
「事情はダックス大尉から聞きました。私で良ければ、閣僚会議まで御一緒しましょう。」



 
「行きますよ。」
ルドーが手持ちのパッドを操作すると、ナーリスは転送された。

「皆さん!!」
ナデシコの司令室にナーリスの声が響き渡る。

「「「はっ!」」」
イブジョー兵達が声のした方を見ると、そこには

「「「キャーッ!!!」」」
イブジョー人にとってこれ以上はないと思われるせくしぃな姿で司令室近くに現れたナーリスに、イブジョー兵達は男も女も我を忘れて殺到する。
 

パッドの反応を見るルドー。
「イブジョー兵達は全てムラサメさんに群がっています。」

「今だ!」
シスコの掛け声でシスコ、ルドー、ドクター(、ついでにプワーク)は、ずっと隠れていたオブライエンの菓子パン山から飛び出した。(トウジ情報:未だ夢見心地) 本来司令室、司令官室を守るべき警備兵達は4人の動きには全く気付かない。
 

サユリ・クリムイブジョー宇宙軍将軍はドアの開く音に顔を上げ
「うっ、ジャム臭っ!」

「生命反応スキャンから唯一逃れられる方法がこれだったので。」
何処か言い訳がましく説明するルドー(発酵ジャムまみれ)。

サユリはおたまを振った。
「あなた達、直接執務室に乗り込んで来るとは良い度胸ですね。連邦政府の方は撤退に同意したものと思っていたんですけど。」
にゅるにゅ。
ルドーは咄嗟に右手をティッシュこより状態に変化させサユリの鼻の穴に差し込んだ。

「将軍すいません。今の間だけはシスコ司令官のお話を聞いてくれませんか。」

「こ、これは脅迫?」

「ええ。」

「ルドーさん、私の時と随分違いませんか?」

「人種によって弱点はそれぞれ違いますから。」プワークに答えるルドー。
 

「将軍、あなたもキューティクルの一員だったんですね。」

「…何の話かしら。」
顔を横に向けようとして、現在顔を動かせない状態であった事に気付き冷や汗をかくサユリ。

「…私達連邦は、イブジョーの人々が自分達で未来を決める事は否定するつもりは全くありません。…ただイブジョーの友人として、裏にアオバシアの陰謀がある事がはっきり分かっている時にそれを知らせずに立ち去る事は出来ません。」

「…どういう事。」

「これを見て下さい。」
ルドーがもう片方の手でパッドを見せる。

「…これは…」
扉越しにイブジョー兵達の黄色い歓声が聞こえる中、クリム将軍は顔色を変えた。


「すいません、通していただけますか。」
ヴェデクの言葉にはイブジョー人は逆らえない。閣僚会議場前の警備兵達はやや困ったようだったが、うやうやしく会釈をしてヴェデク・ツクモと2人の女性イブジョー僧を通した。

クサカベを含めイブジョーの主要閣僚が揃った議場に3人が現れた。
「ヴェ、ヴェデク! 今は会議中でして…」

「申し訳ありません首相。しかし緊急のお話が、こちらのお2人からあるのです。」

シルクハットを取った2人を見た首相は驚いた。
「君は…キラ少佐か!」

すぐさまフェイザーを向ける御衛兵。しかしツクモが右手をすっとあげると、戸惑った様子でフェイザーを下げた。
「首相。久しぶりね。」
キラは不敵に笑うと、ルドーが貨物船から持ち出したパッドを

「ええ、皆様大変長らくお待たせ致しました」

「あんたどっからスピーカーメガホン持ってきたのよ!!」
耳を押さえてダックスに怒鳴るキラ。

ツクモの寺院で斑点を消し、鼻の上にギザギザを付けてイブジョー人の扮装をして来たリョーコはここで和服姿に早変わり。呆気に取られるイブジョーの閣僚達を前に絶好調だ。
「さ! まずはいつも通りこのナンバーから!! ちっちゃな頃から発明王、15で駄犬と呼ばれたよ。流れ流されホルムズ海峡、油田掘り当て純情派。かもめの姿に己を重ね、森口エンジン絶好調。リョーコ・ダックスが歌います、「津軽海峡冬景色!!」」

「アホーッ!!」


ナデシコのドッキングリングには戻ってきたランナバウト達が次々とドッキングしてきていた。
エアロックが開くと、ナデシコに帰ってきた非イブジョー人達はイブジョー人達の暖かい歓迎を受けている。
 

連邦の人々に混じって、キラとダックスが競り上がり式ドアをまたいでナデシコに降り立った。
「よくやってくれた。少佐、大尉。」
2人にねぎらいの言葉をかけるシスコ。キラとダックスは微笑み合った。

3人はプロムナードを歩き始めた。
「ナデシコからキューティクルの軍は完全に撤退したのね?」

「ああもちろんだ。そっちも、閣僚会議での説明はうまくいったみたいだな。」

「ええ、まあ、色々あったけど…」ちら、とリョーコを見るエリナ。
「最終的には、皆納得してもらえたわ。クサカベは、「自分はキューティクルなんて聞いた事も無い」とか平気で言ってたけど。とにかくこれで、イブジョーにおけるキューティクルの発言力が完全に無くなったのは確かね。」

「そうか。」
 

エリナは微笑んだ。
「ねえ司令官、ムラサメ君は今どこ? 彼には、色々お礼を言いたいの。」

ゴートはふいに立ち止まった。
「少佐。」

「え? 何?」


顔色を変えて走ってきたキラは、医療室のベッドに横たわるナーリスを見付けた。
駆け寄るキラ。ドクター・ナガレの顔を見る。

ドクターは首を横に振った。

「そ、そんな…何で…」
言葉を失うエリナ。

「彼は自分は英雄では無いと言い続けてきた。」
エリナは背後のゴートの声に振り返る。
「でも最後は、アオバシアからイブジョーを、命を張って守った。ついに彼は、本当のイブジョーの英雄になったんだ。」

「でも…だからって、どうして…」
頭を降り続けるキラ。

「直接の死因は過度の疲労に伴う心臓発作だよ。」ドクターが伝える。
 

「何で…何で…」キラは耐え切れずに叫んだ。
「……何で、この死体、頭に園児帽、顔にインカム、上は汗ばんだ体育着で、下はすっぽんぽんに色違いの靴下姿なの!! おまけに何だか全身縮んでるし!!」

ぎこちない表情で、肩がぷるぷる震えだすシスコとベシア。

つづく?


次回は何すかね。
 
ver.-1.00 1998-5/27公開
 
感想・質問・誤字情報・宅配ピザ・宅配絵日記・宅配幕府・宅配小宇宙(何の事やらさっぱり)等は こちらまで! 

次回予告
 
ガイの赴任する事になった私立ネルガル中学校は、典型的な都会の進学校だった。無気力な子供達との擦れ違いに苛立つガイ。妻のヒカルの提案で、彼はクラス団結の為のアニメ上映会を企画する。しかし上映会前日、ガイは帰宅途中に生徒のユリカが中年の男とホテルに消えていくのを見る。ホテルに踏み込むガイ。格闘の末ガイは怪我を負い、翌日の上映会は中止になるのだった。次回「千秋は三十路」第7話、「夜もヒッパレで見た事ある」。御期待下さい。



 
後書きコーナー

「…」
「ど、どうも、こんにちはあ。」
「…」
「あのー…っと。今日のお相手はゴートさんでーす。」
「…」
「…こ、今回のエピソードは、どう思われましたか?」
「…どうも。」
「ど、どうも。」
「…」
「…(対談として成立してないんですけど…)」
「うーん…」
「…実は今回は、エヴァトレとしては初めて、3話分の長編を元に作ったんですよ。原作で、(新エヴァトレの元ネタ)TNGの場合2話連続で一つの話という事はあっても3話連続というのは無いんですけど、(エヴァトレナデシコの元ネタ)DS9の場合3話連続というパターンがあって。今回はそれを元に作りました。それでも、3話連続にしてはみじ」
「ユーニクですねえ。」
「か…は、あ、え?」
「…」
「…(何か、腰折られたんですけど…)えっっっと…で、あのー、そう、エヴァトレナデシコってエヴァトレ本編と違って何話も書く事無いから、かなり本質的なエピソードを選んで書く事になりますよね。今回の話の場合は、DS9の初期の一貫したテーマである連邦とベイジョーとカーデシアの微妙な関係というものがメインで書かれていますよね。なかなか」
「3時間分という事ですか。」
「おと…は、はい?」
「…」
「…」
「…」
「……さようならあ。」
 


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