「良いかい、ア、キ、ト、だ。」
「あ…あ…あ゛、あ゛、」
「あーきーとー。遊ぼッ!(はぁと)」
「もがー」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」ぶくぶくぶくぶく。
アキトは怒った様子で後ろを振り返った。
「もう、父さんが急に抱き付いてくるから集中がそれちゃっただろー!」
「あがががががが…」ぶくぶく、ぶく。
「あーあーもう…」
完全に泡ぶくとなって消え去ってしまった瓶の女性を前に、眉を寄せるアキト。
「何だアキト、ホルスタイン(訳:ホムンクルス)を作っていたのか。」ゴツイ顔をニヤリ、とさせる司令官。
「お前ももうそういう年になったか…しかしどうせならロリポップをレプリケーターで」
「じゃなくて。夏休みの宿題。ヒカリ先生が、理科の自由研究をしろ、って…」
「その割にはこっちはギンギンじゃないのか。」
「な!」びく。
「さ、触んなよ父さん! き、気色悪いなー。」
「アキト、父親としてお前にもう一度だけ言っておきたい事がある。」
「な、何だよ。」
「あーそーぼっ!」
だきっ
「もがー! だ、だから父さん一々抱き付くなーっ!」
「もう全くお前も乳離れの出来ないわんぱくキッズだな。まあ仕方が無い。そこまで言うなら、父さんも付き合ってやるとしよう。」
「つっくづく人の話聞いてないな…」アキトは降伏したらしく溜息をついた。
「…でも父さん、俺とにかく自由研究をやんなきゃいけないからさあ…」
眉を寄せるゴート。
「自由研究? 一体何の話だ?」
「オイ!!」
「それでホモンスルスル(訳:ホムンクルス)か…随分平々凡々としているな…まるでお前の一生のようだな、アキト。」
「あんた喧嘩売ってんのか。」
「何かもうちょっとユニークな研究の方が、ヒカリ先生も喜ぶんじゃないのか。」
「ん、まあ…それはそうかもしんないけど…」
考え込むアキト。
「そりゃあ…まあ、例えば、ガンマ宇宙域の魔術を調べたりしたらもっと面白いかもしれないけどさ…」
「そうか。そこまでお前が言うなら、行くしかないな。」
「え゛え゛、え、でも父さん任務は?」
きらーん☆
「ガンマ宇宙域のロリポップを調べるのも、充分重要な任務さ、アキト。」
「別に綺麗な瞳にならんでも良いだろ…」
後ずさるアキト。
「何、行きたくないのか。じゃあ止め」
「ちょ、ちょっと待って。ほんとにガンマ宇宙域へ行けるのか?」
キキララを揺らしてゴートは頷いた。
「ああ、お前が私と遊んでくれるというならな。」
アキトは頷いた。
「あ、う、うん! 分かった、遊ぶよ! そうすれば自由研究」
「はさておきガンマ宇宙域のマリアやアリスが」
「そ、そうだね、父さん。とにかく行けるんだね?」
「うんっ!」ゴートは満面の笑みで頷いた。
司令室でエリナがパッドを見ていた。
「今度休暇を取るんでしょ? ドリアンの貨物船が3日後、ニューイブジョーの植民星に向かうそうよ。司令官、そこの競少年場を視察に行かれたらどう?」
「いや、アキトとの水入らずの失楽園旅行のつもりだ。全く奴も甘えん坊ちんで困るよ。」
「あら、そう。」やや意外そうに眉を上げるエリナ。
「2人きりの時は結構攻め…」
「な、何だとぉ! このクゾアマ゛ァ、よくも私のA、K、I、T、O、アキトを…」
「あ、し、し、司令官、確か3日後、USSコブヘイがアオバシアから帰還するはずよね?」
「ん? あ、ああ。あれの艦長は確か…」
「確か、アズマ・キーオウの野郎に違いねえ。」
口を挟むダックス。
「奴も中々のこぶし使いだ。久々に燃える演歌野郎が来るって事だな。フッフッフッフッ…」
瞳( fall in love)が燃えているダックス。
「ダックス中尉とアオバシア人って、似てるわよね…」
「あ、ああ…紙一重だな…」
「あ、父さん、ちょっと話があるんだけど。」
「ん、何だアキト?」司令室に来た息子を珍しそうに振り返るシスコ。
「あの、自由研究にさ。アマノーグちゃんを一緒に連れてってもいいよな?」
「あ、アマノーグ君だと?」
シスコは声を上げた。
「頼むよ、父さん。向こうのドミノ界を知りたいって彼女も言うしさ、」
「そんなもんあるのか?」
カチン、と来た様子のアキト。
「あるかもしれないじゃないか! 向こうに想像も付かないドミノマスターがいないって父さんは言い切れるか?」
「は、はあ…」
「彼女が一緒に来たら、シャトルのナビゲーションプログラムがあっというまにヤオイ物に書き換えられる事必至ね。」
頭を振るキラ。
「なるほど、そうか! アキト、それなら許可しよう。」
「「お、おい。」」
「この際やっぱり、よしみチャーンで勝負と行くか…」
「「「(こいつも話聞いてないな…)」」」
「「「「ぬるきちゃ、めちゅっ!!」」」」
「で、その悩みというのは一体何なんです? 私に話して頂けますか。」
マスター気取りでグラスを拭きながらプワークが尋ねる。
カウンターに座るモネタケは、「聞いてくれ」と言わんばかりに指をあげ、口を開きかけた。
プロムナードをふと見たプワークは慌てて声を掛ける。
「あ゛ぁ、ルドーさん、ルドーさん! この間の件ですが、ちゃんと伝わりましたか?」
プロムナードを歩いていたルドーは、何だか迷惑そうにプワークのバーに寄ってきた。
「伝書鳩を使わせて欲しいという話ですか。」
両手を重ねて営業スマイルのプワーク。
「ええ。ステーションの伝書鳩放送の一チャンネルほど貸して頂ければ結構なんです。そうすればですねえ、ラーメンはもちろんの事洗剤に釣り道具、ダイエット道具から果ては余ったパフォーマンスドール達やモーニング娘。の予約券まで、破格のお値段で消費者の皆様に御提供を」
「ダメだそうですよ。」
すたすたすた…
「ちょ、ちょちょちょっと待って下さいルドーさん、なぜなんです? こんな素晴らしい消費者の方の利益に繋がるアイディアを!」
「プワークさんが信用できないそうです。…ま、ステーションの司令官としては当然の判断ですね。」
「そ、そんな。わたくしのこれまでの実績を司令官は御存知無いんですかネェ…」
「少なくとも前科なら、私も司令官も良く知っていると思いますよ。私、今忙しいんで。」
「あ、ちょ、ちょっと、ルドーさん!」
「プーワちゃん。」
プワークは背後の声に溜息をついた。
「何ですか、アマノーグ君。」
振り返るプワーク。
「しかし君の格好は相変わらず…」化粧無し。寝癖。上下ジャージ。汚いズック。
「全くフェレンスケの女性にはあるまじき色気の無さですネェ…少しはアドア様を見習ったらどうです?」
「ええ、これだって結構マニアは喜ぶんだよー。」抗議するアマノーグ。
「それはともかく、今度2、3日取材の為に出かけてきまーっす。その間の店は任せるから、おじさんお願いね。」
「ちょ、ちょと! アマノーグ君! このかきいれ時に何を言ってるんですか!」
「じゃあねーん。」
「ちょと! あ、アマノーグ君!」
プロムナードへ姪を追いかけていくプワーク。カウンターに取り残されたモネタケは全身で溜息をついた。
至極真面目な表情でアマノーグが叫んでいる。
「ひゅーひゅううううううっ! きいいいいいいいんごっ。ずだ、だーん。ごごごごごごご…きゅいいいいいいん。」
「な、何やってるの、アマノーグちゃん…」
「それはもちろんアキト君、これから執り行われるであろう「ランナバウト発進ごっこ」の模擬演習よ。」
「そ、そっすか…」
ランナバウトの中では、既に3人が席についていた。
「…ブツブツ…やっぱり来させるんじゃなかった…全く、また私とアキトのラブラブの障害が増えるじゃないか、このままじゃ「痛い」と言ってここで読むのを止めてしまうLGA読者がたくさん出てしまうぞ…」
「父さん変な言葉勝手に作んないでよ!」
「いやあ、ここでしたか司令官。新しい穴を作りに休暇を取られるとは優雅な御身分で。」
「な、何故君がここに! (しかも目的まで!)」
ドックからやって来たプワークに言うゴート。
「何をおっしゃいます。アマノーグ君が遠出をするという事は、即ち保護者の私も付いていくのは当然の話…違いますか?」
「プワちゃん! 私は充分一人で行けますっ。」
「いえいえ、15歳といえばまだまだ子供。保護者無しでガンマ宇宙域のような危険な地域に行かせる訳には参りませんからネェ。」
がーん。
「わ、私15歳だったんだ…ちょっと嬉しいかも…」
私服(当然キキララの大プリントシャツ)のゴートが言い返す。
「しかしアマノーグ君の保護者はロム君だろう。」
「あー、言い直しましょう、保護者代理の私も付いていく、よろしいですね?
ジュン君は只今お店の方が忙しいようですので…」
「…まあ良い。フロウガワより司令室。これより出発したい。」
通信でダックスの声が聞こえてくる。
「了解。コンピューターの指令に従ってドッキングを解除せよ。…ゴーちゃん、良い穴作ってこいよ!」
ががーん。
「も、もしかして全ステーション中に知れ渡ってる…」
ランナバウトはステーションを発進した。
4人は森の中を歩いていた。
「ねえ、アキト君、あの木見てみて。」
「ん? おー。」
木に駆け寄る2人。
「ね?」
「これは…もしかしたら大発見じゃないか?」
「どうしたアキト?」
「いや父さん、この木は材質がドミノに最適なんだ。」
感動した様子で告げるアキト。
「そ、そうか…ま、満足してもらえて何よりだ…」
「しかしどうしてこんな何も無い未開の地に来なければならないんでしょうネェ。こんな場所ではせくしぃも無いでしょうし…」
「来たいと言ったのは君じゃないか。」
「いーえいえ司令官、私はただアマノーグ君の付き添いで来ただけですから、ハイ。」
ゴートは両手を広げて見せた。
「素晴らしいじゃないかプワーク。普段せせこましいステーションの中だが、こういった森の中では心が洗われたりはしないか?
今にも森の妖精や王子様が白馬に乗って出てきてお菓子の城に連れていってくれそうじゃないか。」
自分の言葉に酔いだしたシスコは、目を乙女チックに輝かせる。
「はあ…あいにくフェレンスケ人にメルヘンの感覚は希薄でしてネェ…」
「それは残念だな。」
「被写体獲得の法則第102条。生身の女のせくしぃは色褪せていくが、写真の女のせくしぃは永遠なり。と申しましてね。」
髭をはるプワーク。
「つまりこんな所にいてもせくしぃ等得る事は到底出来なかろうという事でして。まあ中華食材位はあるかもしれませんが…ああっ」
「どうした?」
「虫に刺されました。まー司令官、ここにいるのはあまり、得策ではないかと…」
「そんなに帰りたければ帰れば良いだろう。別に止めないぞ。そうすればLGAが」
「いえいえ司令官。私は司令官にぞっこん一直線でして、常々お話し合いの機会が欲しかったものですから、ハイ。」
「はあ。どんどん痛い話になっていくじゃないか…」
ゴートは切ない表情で呟いた。
空はだんだん暗くなってきていた。
「うむ…ところでmyアキトはどこへ行ったんだ。」
「ところで司令官、」
向きっ
「ダメだ。」
「何故です司令官! 鳩放送なんですよ! 言論の自由、結構じゃないですか!」
「ステーションでの通販を認めるつもりは一切無い。」
「サンリオグッズも含め、格安で消費者の皆様にお譲りしようとしていたんですけれどもねえ…」
うっ
「だ、ダメだ。」
「キキもララも、1/1サイズで司令官の手に渡るのを楽しみに待っていたでしょうに…」
ゴートはプワークに怒った様子で迫った。
「良いかプワーク。私のキキララをそんな汚れた目的で使うんじゃない。ステーションに帰ったら、君の部屋、倉庫のサンリオグッズは全て没収と(没シュート)するからな。」
「そ、そんな司令官、無茶苦茶な」
「また縛って放置されたいか?」
「い、いや、その、」
「あ、父さんこんな所にいたんだ。」
茂みの中からアキトとアマノーグが現れた。
「プワちゃんと司令官も、結構お似合いかな?(はぁと)」
「ああアキト、アマノーグ君、丁度良い所に来た。そろそろ夕食にしないか。プワークが美味しい満漢全席を作ってくれるそうだからな。」
「ええええ、し、司令官?」
「「「おおお!」」」
3人は揃って額に縦線を浮かべた。
「「「まっずー。」」」
「だから言ったでしょう司令官、私の料理は決して美味しくはないと…」
ドロドロの料理らしき生ゴミ物体群の前でプワークが釈明する。
「じゃあどうやってラーメン屋やってるんすか?」
きら☆
「バーと、呼んでくれないかな、アキト君。」
「は、はあ…」
「バーを経営するのに料理の腕は要りません。要るのは才覚と愛敬です。」
「あ、あいきょう、っすか…」
「自慢気に言う事じゃないじゃん。どうりでおじさんが料理してるとこ、見た事が無いと思った。」
「いやいや、アマノーグ君、そもそもこんな宿無しの状態で食べればどんな料理も美味しくはならないでしょう。」
「お、おじさん。」
眉を上げるアマノーグ。
「キャンプと呼んでくれないか、プワーク。…しかしアキト、こうやってテントを前にゴザに座っていると、昔を思い出すな。」
「母さんと一緒に行った、ノーキョーネズミーランド!」
「ああ。一日中ミナトとお前と私とで、「ピクニックエリア」とかいう芝生の上を寝転がって。楽しかったなあ。」
「うん。駐車場が巨大な割に人は少なかったけどね。」
「夜は警備員に突っつかれたりして、スリルだったなあ。」
「ああっ」
スープの鍋の前でプワークが叫び声を上げる。
「どうしたプワーク。」呆れたように声をかけるゴート。
「あーいえ、ちょっとした不注意でして。ちょっと、その…つけていたブラジャーがスープに落ちましてネェ…」
「「「え。」」」
アマノーグは頬を膨らませ、皿を置いた。
「も゛ー怒った! プンプンだなっ!」
ゴザから立ち上がり、靴を履くアマノーグ。
「ふん。」
彼女は森の方へ歩いていってしまった。
「あ、アマノーグちゃん!」慌てて追いかけていくアキト。
「…(LGAが…LGAだったのに…こんなのLGAじゃない!)」
怒れるゴートの頭の中では、LGA三段活用がグルグルと回っているようだ。
むすーっ
司令官はゴザの上で四つ角を作っている。
「全く司令官、それは私の姪も怒るのは致し方ありませんな。」
「な、何だと?」
「やや変わっているとはいえ、私の姪も誇り高いフェレンスケ人である事にはかわりありませんから、叔父が侮辱されているのを見るのが耐えられなかったんでしょう。可哀相に…」
「…(何言っても無駄か…)」
「司令官。宇宙ステーションの司令官たる方が、そんな育ちの悪い雑種猫並の心の狭さでよろしいんですか?」
「どういう事だ?」
疲れた様子で聞くシスコ。
「司令官はフェレンスケ人に偏見を持っていらっしゃる。ですから私も侮辱される。しかしこのような関係はいかんせん、経済的とは言い難いですなぁ…」
「君を侮辱等してはいない。」
「またまた口がお達者で。しかしですね、」
「あんた達誰?」
「「え。」」
2人が顔を向けると、異常に長く自己主張している髪と、顔の両側、顎辺りから頭の上までヒレのように付いている細長い耳が特徴的な女性のエイリアンが森から歩いてきた。
「ふんっ」
女性が手をかざすと火の玉があがり、よーろよーろしながら2人に近づいてくる。
「な、な、あなたこそ一体誰です!」
恐れおののいて尋ねるプワークと、思いっきり息を吸い込むゴート。
「ふううーっ」ぼっ。
「「あ、消えた。」」
「くうっ、なかなかの手だれね。」心底悔しそうな様子の女性。
「あんた達一味は何人いるのよ!」
「何の話だ? 私達は…4人だが…」
「そうじゃなくて! ユリカダー達の数よ!」
「ユリカダー?」
「知らないの?」戸惑った表情になる女性。
「じゃあんた達何者? あ、とにかく逃げないと!」
「何だって?」「何です?」
立ち上がるシスコとプワーク。
「説明は後でするわ、逃げるわよ!」
その時彼等の周囲で、エイリアンの兵士達がまるで船が遮蔽を解くかのように何もみえない所からすうっと姿を現した。
彼女達は皆女性で青い髪はやはり長い。そして肌は茶色で、まるで恐竜のようなウロコが顔面、全身に現れている。
大型のフェイザーライフルらしき物を抱えた彼女達は逃げようとする3人を嘲笑うかのように次々周囲に現れ、逃げようとする3人を5、6人で包囲した。
「御協力、感謝します!」
兵士の一人がニッコリと微笑む。
「今日はあまり、楽しいせくしぃ日和とは言えませんなあ…」
プワークは溜息をついた。

Evan Trek Deep Space Nadesico
エヴァントレック ディープ・スペース・ナデシコ
The Yurik'Hadar
「新たなる胸囲」
「そうお? 分かんないわよ、結構今頃ラブラブのヤバヤバモードんなってるかもよ?
まあ、ちゃんとビデオはセットしたから二人の熱々画像はアキト君にも分けてあげるわ。」
どうやら二人の為に気を利かせたつもりだったらしいアマノーグがアキトとテントに戻ってきた。
「「あれ?」」
「も、もしかして茂みに隠れてもう始めちゃってるとか?」
顔を赤らめるアマノーグ。
「ま、まさか。でもこんな時間にどこ行っちゃったんだ…とうさーん。プワークさーん。」
「ちょ、ちょっと、気付いてやめちゃったらどうするの!」
「だからやってないって。おかしいな…」アキトは周囲を見回す。
「あ、アマノーグちゃん。」
「何アキト君。」
「足跡…向こうへ続いてる。」
地面を見て、アマノーグはアキトに頷いた。
「ま取りあえず、ビデオを見てみましょ。」
「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛こんな所にずっと座っていても全く待って笑止千万時間の無駄! ああ不経済不経済不経済…一万円十万円銃殺刑運命の分かれ道!」
「うるさいぞプワーク。(それに運命分かれ過ぎ。)」
シスコ、プワーク、女性の3人は、洞窟のある地点に座っていた。周囲に機械が設置されている。どうやら狭い範囲にフィールドを張られて、閉じ込められているらしい。
「私はただ事実を述べているだけでしょう。司令官やあなたは、この状況を何とかされようとは思われないんですかな?」
「フィールドが張られているんだ。」
「フィールドか、その発生装置を壊せば済む事じゃありませんか。」
「随分簡単に言うな…」
呟きながらゴートは地面に置かれているフィールド発生装置の一つに手を伸ばした。
「触らないで!」
動きの止まるシスコ。
「触ると死ぬわよ…ユリカダーの装置はどれも危険だから。まあ、諦めた方が良いわね。」
「それじゃどうしようもありませんなあ…いやー参りましたネェ…」
「月亭の健康法…」
「「え?」」
「八方、ぶら下がり。八方ふらさがり。八方塞がり。ふへ、ふへふへへ」
「「…」」女性の言葉に顔のひきつる2人。
「き、君は、一体誰なんだい。」
エイリアンは顔を上げ、シスコの顔を見た。
「私? 私はイズミ・ウェイユーン。あいつらから逃げてきたのよ。」
「そのギャグのせいでですか?」
「人の文化習慣に口出しされる覚えはないわね。」憤慨した様子のイズミ。
ゴートはプワークを手を上げて止めた。
「ああ、すまない。それじゃ、君は何で逃げているんだ?」
「何でって、あいつらが私を気に入らないからじゃないかしら。」
ウェイユーンは肩を上げる。
「彼女達は、一体何者なんだ?」
「じゃあ、あんた達本当に、ユリカダーの事知らないのね。」驚いた様子でイズミが言う。
「私達はボソンホールを通って、アルファ宇宙域からやってきたんだ。私はシスコ。彼はプワーク。」
「そう…運が無いわね。ユリカダーというのは、兵士の民族よ。」
「ゼレンゴンのような物ですかネェ。」
「ゼレンゴン?」
聞き返すイズミにゴートが説明する。
「…ああ、アルファ宇宙域で有名な種族の一つだ。戦闘を得意とし、自ら戦士として自任している。」
「そんな生易しい物じゃないわ。」イズミは首を振った。
「ユリカダーは、美食者によって作られた種族だと言われているわ。つまり人工種で、戦うだけの為に作られ、生まれてきたの。」
「ちょっと待ってくれ、美食者というのは一体何だ?」
「ああ、聞いた事があります。確かガンマ宇宙域の全てを握っている存在で、ガンマ宇宙域で被写体を得ようと思えば彼等を避ける訳にはいかないとか…」
イズミはプワークの言葉に頷いた。
「…そうね。彼等が全ての源よ。ガンマ宇宙域は彼等が牛耳っているわ。と言っても、彼等を実際に見たものはいないの。でも、彼等はあらゆる種族をまとめ、作り出し、従わせているのよ。」
プワークが髭を撫でる。
「つまりユリカダーというのは、その「美食者」という方々が遺伝子から作られた種族という訳ですね?」
「そうよ。もし私達が美食者に従わなければ、その時は彼等はユリカダーを送り付け彼女達の手で相手を抹殺するのよ。」
「彼女達と言ったが…ユリカダーは女性達だけなのか?」
「ええ、女だけの種族よ。人工的に繁殖するから男は必要無いもの。」
顔を見合わせるゴートとプワーク。
「しかし戦闘の為なら、男の方が良いんじゃないのか?」
「さあ、そこまでは私にも分からないわ。ただ聞いた話では、女の方が味覚が鋭いかららしいわよ。」
「味覚?」眉を上げるプワーク。
「ええ。いい忘れてたわ、美食者達がガンマ宇宙域を支配する理由はただ一つ…より美味しい物の追及なのよ。…私達の種族は、さっき見せたあの炎を使う料理が盛んだったわ。それで奴等に目を付けられたの。でも、これは武器にもなるわ。それで抵抗したら、」
「ユリカダーを送られたのか。」
「故郷の星は全滅したわ。」髪のうっとうしいイズミは答えた。
「ユリカダー達が通った後は、草木一本残りはしなかった。私以外に何人同胞が生き残っているかも、もう分からないわ…」
「そうか…」
「ピッチャーが馬鹿になったのよ。」
「は?」
「それは投法がもう分からない、ふへ、ふへへへ…」
「(全滅して良かったかもな…)」ふととんでもない事を考えるシスコ中佐。
「ん、その首の装置は何だ。」
イズミは自分の首輪状の物に手を触れた。
「ああ、これはそのテレキネシス能力を止める装置よ。これを外す事が出来れば、さっきの火の玉を出せるわ。そうすればこのフィールドも破れるでしょうね。」
「なら、何とかして外そう。ここのユリカダー達は人数が少なそうだから、フィールドを抜ければ脱出可能だろう。」
ゴートはイズミの首の装置をいじりだした。
「な、何なのよあのビデオのゴツゴツした女達は…」
「あれをネタに同人誌は書けない?」
アマノーグはアキトの言葉に固まった。
「ん、ん、うううううううん」
「い、いや別に悩まなくて良いんだけど。とにかくここで対策を考えよう。」
「ええ。」2人は星に着陸したシャトルの中に戻っていた。
「転送は出来ないの?」
アキトはアマノーグの言葉に頷いてパネルを操作する。
「いや。多分シールドか何かに遮られているみたいだ。」
「あいつらに囚われの身って、事ね…」
囚われの身?
「グフグフ、グフ、グフ…」たらーっ
「あ、アマノーグちゃん、妄想する時間は後でたっぷりあるから、今は対策を考えようよ。」
「…あ、そ、そうね、ごめん。じゃあ取りあえず、ナデシコに戻って救援を求めましょうよ。」
「うん…そうだね。俺達じゃ何も出来ないもんな。それじゃあコンピューター、ただちにディープ・スペース・ナデシコへ発進。」
ぴぴっ
「予定と異なります。命令を実行できません。」
アキトはアマノーグに顔を向けた。
「そうだ、まず自動操縦を解除しないと。…コンピューター、自動操縦を解除。」
「コマンド入力者の登録がされていません。命令は無効です。」
「そうか…父さんじゃないとやっぱ動かせないか…」
アマノーグは眉を寄せて呟いた。
「いや、アキト君…多分私動かす事出来る。」
「え?」
「前にオブライエンさんに教えて貰ったのよ。この手のハッキング…」
「え、あの、ゴミの中で寝てる人?」
んごーっ。
イエティのうなりが響く司令室。
「シミジミ・ドリンキン…シミジミリィ…」ウォークマンで何やらうっとり聞いているリョーコは、ふとパネルの表示に気付き声を上げた。
「ん? ボソン粒子の増大を確認。ボソンホールが開くぞ。」
「予定には無かったわよね。」聞くキラ。
「あ、ああ。どうやら未確認の飛行物体だ。映像を確認。」
「出して。」
かなり小型の、虫のような形の宇宙船がボソンホールから出現しこちらに近づいている。
「一応用心するに越した事は無いわね。チーフ起きて。ステーションの防御シールドを」
きいいいいん
エリナが言う前に司令室にエイリアンが転送されてきた。ユリカダーだ。
「武器を持っているわ、大尉、彼女を隔離フィールドで包囲!」
「了解!」パネルを操作するダックス。
やってきたユリカダーは、ニコニコ周囲を見回すと高々と手を上げた。
「みなさーん。私がガンマ宇宙域からやってきた不思議センセーションな使者、ミスマルタランでーっすぅ。」ぶう。
がーん。
「ぶ、豚がいるわ!!」
「ああここ、自給自足が原則だから。」司令室の一角を見やるエリナ嬢。
「それで何しに来た訳? ガンマ宇宙域の方々は、挨拶も無しに武器を持ってやってくるのは失礼だって習う事は無かったのかしら?」
ぶつぶつ…ぼそぼそ…
「出花をくじかれたわ…これじゃ主役の可憐な美少女としての名前浸透作戦がだいなし…大なし?
そんなトイレはイヤーッ!!」
「一人で盛り上がんな!」
「あ、は、はい。」ミスマルタランはキラに頷いた。
「私達は美食者の命を受けたユリカダーの一員です。実は、あなた達のお仲間のシスコ司令官は私達が拘禁中なんですよお。」
「拘禁? 何の権限があってそんな一方的な事を!」
「御存知かどうか分かりませんが、ガンマ宇宙域は全て、美食者の方々の領域なんです。そこを荒らした司令官は、見せしめの為に捕えられました。」
「な、何ですって?」
「それに結構、腿の辺りとか美味しそうだし…エヘッ。」
「「「え?」」」
「お、お前等がどんな奴等か知らねえが、あたしらはガンマ宇宙域の探索を止めたりはしないからな。」
「あら、そのおつもりですか?」
ミスマルタランは不思議そうに目をクリクリとさせた。
「ええとですね、…どっこいしょ、と」
「ちょ、ちょっと大尉、フィールドで隔離しろって言ったでしょ!」
「してるよ! こいつがフィールドを通り抜けてるんだ!」
「何ですって!」
「あのですねえ、もう私達これだけ船壊したんですよお。」能天気な様子で持っているパッドをリョーコに見せるミスマルタラン。
「皆私達の領域に勝手に入ってきたからなんですね。でも未だに懲りずに来られるみたいなんで、こうやってお願いに来たんですけどぉ、だからやっぱり、申し訳ないんですが、あなた方にはもう勝手にこっちには来て欲しくないんです、はい。」
「あ、そ、そう…」
「ええ。分かって下さるんですね! 有り難う御座いますっ!」
「いや、別にそういう訳じゃ」
「それではご協力、感謝します。では!」
きいいいいん
「防御シールドも突破して、転送していきよった…」呆然と呟くトウジ。
「トラクタービームで船を捕まえて!」
「りょ、了解!」
ナデシコから虫型の船にビームが発射される。しかし船は全く影響無く、そのままボソンホールへと消えていく。
「ちょっと、ちゃんと当てなさいよ!」
「やったよ! ビームは当てたけど、効かなかったんだよ!」
「ユリカダー…何て奴等なの…」ぶうう。
呟くエリナと鳴く子豚。
キキララシャツのゴートは元々細い目を更に細めながら溜息をついた。
「どうもうまくいかないな…相当難しいシステムらしい。」
「仕方がないわね。奴等の装置は技術が群を抜いているから。」
「まあそう言うな。イズミ君、ここから脱出できたら、君もアルファ宇宙域に来ると良い。ここよりは住み易いと思う。」
ゴートはイズミの首の装置から手を離した。
「なあプワーク、ちょっとこれの鍵を何とか解除してくれないか。」
プワークは自分の髭をゆっくりとなでた。
「司令官。その仕事の報酬はおいくらで?」
「そんな事を言っている場合じゃないだろうプワーク。」
「何故です? 私は艦隊の士官ではない。失礼ですが、あなたに頭ごなしにどうこう指図されるいわれはありませんからネェ…」
「プワーク!」
「御言葉ですが司令官、やはり地球の方はどうも、フェレンスケに偏見がおありのようで。まあ恐らく、私達が経済性にうるさかったり、仮想恋愛を好んだり、女性を記録する事に執着したりする様子が昔の自分達を思い起こさせるのでしょうが…司令官、私に言わせて頂けるならば、少なくとも路上で男女がまぐわったり男同士がまぐわったり、男と子豚がまぐわったりしない分、フェレンスケの方が、地球の方よりは常識的に思われますがネェ。」
「…」溜息をつくシスコ。
「…よろしい。親愛なる司令官のお願いを無碍にする事もありません、装置を見て差し上げましょ。」
プワークはメガネを上げると、イズミの首の装置に顔を近づけた。
パネルをいじっているアマノーグが、下でコンソールのふたを外し中を覗いているアキトに声を掛ける。
「アキト君、じゃそこの黒い装置を取り外して、コードを直接つなげてくれる。」
「あ、うん。」言われた通りにするアキト。
「確かこれでハッキングが出来るはずよ。login…あれ、おっかしいなあ。オブライエンさんから教わった通りにやったはずなんだけど…」
「動かない?」
「うん…あ、じゃあアキト君、そっちのイナゴもバイパスさせてくれるかな。」
「了解…」
コンピューターの警告音が鳴る。
「警告。このランナバウトは不正な処理をしたので強制終了されます。このランナバウトは不正な処理をしたので強制終了されます。例外OE、33032647。」
「ありゃありゃ、ありゃ…」呟くアマノーグ。
「ど、ど、ど、どどうする、アマノーグちゃん。」
「う、あ、う…成功よ!」
「せ、成功?」
「そ、そうよアキト君、間違いなく大成功よ。シャトルの自動操縦システムは無事解除されたっしょ?」
「って、機械が全部ハングしたって事のような…これじゃもう、念力使わない限り飛べないんじゃないのか?」
「はっはっはそうよ、と言う訳でアキト君、念力四露死苦!」
「え、ええ、お、俺?」
「つべこべ言わないでさっさとやらないと、アキト君が穴を計られている映像を作ってカードダスにして売りさばくよ。」
「は、はい、やらせて頂きます(涙)…」
ナデシコの司令室のターボリフトが上がり、海坊主のような見た目の男性士官が現れてきた。
(彼女なりの)営業スマイルでキラが微笑んだ。
「ようこそキーオウ艦長。お話は」
「おおおおおおダックスじゃないか! 久しぶりだなあ!」
「おう、お前も相変わらず、凶悪なツラしてんじゃねえか。よ、元気か?」
「おう! さっそくボックスで10番勝負と行こうじゃないか。飲んで良いのはお茶系のみ。お題目は「ここ5年間の演歌の花道スペシャルで放送された曲」。これでどうだ。」
「ちょ、ちょっと、私の所のクルーはそんな簡単に仕事を」
「よっしゃ!」
「オイ!」
キラは自分の額を押さえた。
「ま、まあ良いわ。付き合いも仕事の一部というし…じゃあキーオウ艦長、ゆっくり羽を伸ばされて頂戴。」
アズマはふと立ち止まり、エリナの方にやって来た。
「ああ、君はここの副官のキラ君だったな。」
「…ええ。」
「君やダックスに言わなければならない事がある。艦隊は、我々コブヘイが行方不明となったシスコ司令官達を捜索する間、ボソンホールの通行を禁止する事にした。」
キラは眉を上げた。
「な、何よそれ…じゃあ、私達は司令官(とアキト君)を捜索しちゃいけない、って事?」
「そういう事だな。ま、私の船を信用してくれ。それじゃダックス、今からプワークの店のマギスイートで」
「あんた言てる事とやてる事違うあるよーっ!」ばっこーん。
ダックスはむっとした様子でスリッパ付きキラに詰め寄った。
「おいおい、あたしの友人に何すんだよ。」
「司令官(は、ともかくアキト君)がピンチなのよ! 早く探しに行かないと。」
「お前なあ…」頭を振るダックス。
「な、何よ。」
「司令官達とあたしの歌と、どっちが大事だとおぐはあっ」
ぷす。
「あ、お、お前何奴! よくもダックスをがあああ」
ぷすっ。
「さあ少佐、司令官達を探しに行きましょう。シャトルでコブヘイと同時に向こうに行く分には艦隊も異論は無いはずです。」
「ああ、ありがとうルドー。」
「「あ゜、か゜、あ゜…」」
「指を変形させるのは止めないけど、相手の頭をさくさく刺すのは止めた方が無難よ?」
汗をかくキラ。
「こちらUSSツルミガワ、これより発進。」
「了解ルドー。こちらUSSムコガワもこれより発進。」
答えるキラ。
エバンゲリオン四号機等と全く同じ形式、連邦一の巨大なギャラクシー級の宇宙船であるUSSコブヘイの後を、2隻の米粒のように小さなランナバウトが付いていく。
開くボソンホール。3隻はすぐに、ガンマ宇宙域に到達した。
「ったく…ってえなあ。少し加減しろよ。」
ブツブツと文句を言いつつ頭をさするリョーコ。打たれ強い。
リョーコの隣の席のルドーが聞く。
「リョーコさん。センサーはどうですか。」
「ん? ああ、今の所センサーにユリカダーの船は無えみてえだ。…ん、ちょっと待て、1隻の船影を確認! 座標497、マーク224。」
「…エンジンは止まっているようですね。」
ムコガワのキラが通信で連絡を入れる。
「今からここのチーフ・オブライエンをその船に転送するわ。それで様子を見ましょ。」
「お、おい、ちょ待て!」
「転送!」
ぴぎゅいいいいいん
「うわああああああ」
通信の向こうの声にダックスは冷や汗をかいた。
「あいつも相変わらず、独裁者一直線だな。」
「少佐…(ぽっ)」
「おい。」
「ああああああああ」
「「わああああああ」」
転送されてきたトウジはふと叫ぶのを止めた。
「やあ、誰かと思えばアキトとアマノーグじゃないか。心配したよ。」
「な、何で標準語なんすかぁ?」
「やったよアマノーグちゃん、助かったんだよ俺達!」
「あ、まあ、確かに。」
頷いて見せるアマノーグ。
「お? 何だいアマノーグ、この前僕が教えたハッキングのやり方をしたな? 全く隅に置けない奴だよ、はっはっはっ…」
「あ、あんた誰すか?」呟くアマノーグ。
ぴろりろりん。
「ムコガワよりフロウガワ。」
「ああ、エリナさん。」
「心配したわ。」
「あ、すいません、心配かけちゃって。」
ぴろりろりん。
「少佐。」
「そんな、アキト君が謝る事じゃないわ。大体これは、こんな危ない休暇を取らせたバカオヤジの責任でしょ?」
「あ、あはは…」
「少佐?」
「まあでも、危険な冒険をしたがるのが男の子だし、仕方が無いかしら。それがアキト君の、良いト・コ・」
「少佐ぁー」
「あ、あの、エリナさん、さっきからルドーちゃんから通信が入っているような気が…」
「え?…うぎゃあああああああ」
「また何かごっつい絵の通信入れとるんやろな…」「…」「あ、やっぱりトウジ君だ。」
ツルミガワのルドーはムコガワのキラに話し掛ける。
「少佐ぁ。来てますよ? 戦艦。」
「え?」
慌てて自分のシャトルのモニタを見るエリナ。
「敵艦は3隻、まっすぐコブヘイに向かっている!」リョーコが叫ぶ。
「これでよし、と。」
プワークは自分の巨大な耳の周囲の汗を拭いた。
かぱ。
イズミの首の装置を取り外すプワーク。
「おお、やったなプワーク。」
「それでは報酬の方は後でゆっくり交渉と参りましょう。」
「行くわよ。はああああ、ふんっ」よろよろー。
イズミの両手から再び炎が出る。
ぼっ。しゅー。
「フィールドが消えたぞ。さあ行こう!」
「(何でこれでフィールドが消えるのかが疑問ですネェ…)」
「ああっ、逃げちゃ駄目なんですよお!」
洞窟の向こう側からユリカダー兵士達がやってくる。
「あ、あそこにガリガリ君のフルコースが!」指をさし叫ぶシスコ。
「え? きゃああっ」
シスコはユリカダーの一人を投げ飛ばし、彼女の持っているフェイザーライフルを奪った。
「さあ行くぞ、あっちだ!」
ぴぎゅん。
「「きゃああっ」」後方からやってくるユリカダーを撃ちつつ洞窟の出口へと走っていくシスコ達。
「前から来てるわよ!」
「プワーク!」ゴートは前のプワークに銃を投げる。持っていた例の装置をポケットにしまい銃を受け取るプワーク。
「わたくし、一介の民間人でして、どうもこういった血生臭い状況は苦手でしてネェ…うっ」
ぴぎゅ、ぴぎゅん。
「「「皆さん、降伏してくださあああいい」」」ユリカダー達がニコニコしながら3人を追いつめる。
「仕方がありませんなあ、それでは…」
「あ、あんた、銃の方向が逆よ!」
「え?」
ずがーん。
「「うわああああ」」
その時3人の周囲にフェイザーが突きつけられた。
「降伏、お願いシマス。(はぁと)」
「「「…」」」顔を見合わせる3人。
ぴぎゅいいいいいいいいいん。
3人は転送された。
「助かったよ、チーフ。」
「無事で何よりですわ。せやけどここから無事に帰れるかどうかの方が問題で…」
「どういう事だ。」
「それが、」
ぴろりろりん。
「まだなの、チーフ! 司令官救出なんてもうどうでも良いからとっととこっちに戻ってきなさい!
戦況は不利よ!」
「了解!」
「…という状況な訳か。(ピクピク)」
「ええ。」
フロウガワがシスコ達を救助しに行っている間、コブヘイ、ムコガワ、ツルミガワの各船は3隻のユリカダー船を相手に苦戦を強いられていた。
リョーコが眉を寄せる。
「奴等はコブヘイを集中的に狙っているな。ルドー、奴等の注意をひくようコース設定してくれ!」
「…了解。」
ユリカダー船の1隻からコブヘイに魚雷が発射された。
ずが、ずがーん。
コブヘイは被弾、一部が炎上している。
「ちょ、ちょっとあれ何、シールドが下がってんの?」
「コブヘイの防御シールドは張られとるままやで!」戻ってきたフロウガワのトウジがムコガワのエリナに答える。
「つ、つまり、」
「こちらのシールドは効かないと思った方が良さそうですね。」
ツルミガワで答えるルドー。
「くっそ! なめたマネしてくれやがるぜ! ルドー、この敵艦に集中」
ぴろりろりん。
「コブヘイより全シャトルに告ぐ。」
「あんだよタコ入道!」「…」
乱暴な連邦士官の言葉遣いに眉をひそめるルドー。
「さきほどフロウガワよりシスコ司令官を救出したとの報告を受けた。現在我等の戦況は不利だ、よって一旦全艦アルファ宇宙域へ退却する!」
「「了解!」」「ちっ」
キラ、オブライエン、ダックスが答える。
「まーあこの状況では、逃げた方が経済的でしょうなあ。地球のことわざでも「負けるが勝ち」と申しますし…」
「しかしこのシャトルで脱出できるか?」操縦しているオブライエンに聞くシスコ。
「まかしといて下さい。わいは念力は使われへんけど、この非常用動力で何とかなりますわ。」
トウジはコンピューター音に眉を上げた。
「待って下さい、敵艦の通信を傍受しましたで。」
顔を見合わせるゴート達。
「繋いでくれ。」
「了解。」
ずざざ…
「あ、これブレーキだったけ。え、あれ、どっちだったっけ、ねえ、これ、どっちだった?
え、分かんない? え、わ、あ、うわあ、きゃあああ」
ぴろりろん。
「司令官、コブヘイが!」叫ぶキラ。
「「「「「「「え?」」」」」」」
ずがずがずがずがあああああああん。
ユリカダー船の1隻がコブヘイに体当たり衝突し、2隻は爆発した。
「ギャラクシー級の戦艦が、粉々に…」息をのむエリナ。
「そ、そんなバカな事って、あるかよ…」呆然とするリョーコ。
「ユリカダー…恐るべき敵だ……色んな意味で…」ゴートは呟いた。
ボソンホールが開き、3隻のランナバウトが無事アルファ宇宙域に帰ってきた。ナデシコのランナバウト発着場にドッキングする各シャトル。
昇降ドアをまたぎドックを降りたシスコにプワークが耳打ちをした。
「司令官、少し大事なお話が…」
「ああ済まないがプワーク、報酬の事は後にしてくれないか。」
「いやー、実はその事ではありません。」
「…何だ?」
司令室ではイズミとクルー達が談笑していた。
「お前、どうでも良いけどそんな前髪で目痛くなんねえか?」
キラは顔を引きつらせる。
「あぁ、気にしないでねウェイユーンさん、彼女なりに歓迎しているのよ。ダックス大尉はちょっと口と柄と性格が悪くておまけに実は素人処女だけど、根はとっても良い子だから。」
「お、お゛い!」
「ドレミじゃ足りないので、はるばるやってきました。」
「「え?」」
「あるファ、宇宙域へ。…ふへ、ふへふへ、ふへふへふへ」
「「…」」ぴゅううううう。
フリーズする2人。
「皆、彼女から離れるんだ!」司令室に駆けつけたシスコが声を上げた。
「「え?」」
ゴートは、イズミにフェイザーを向けている。
「イズミ君、先程プワークが重要な情報を教えてくれた。君の首にあったこの装置はテレキネシスを押さえる物なんかじゃない。ただの高度な鍵だそうだな。」
「つまり…」呟くキラ。
「彼女は美食者の被害者なんかじゃない。彼等の一員だ。」
「フッ」イズミは髪をかきあげた。
「御明察ね、司令官さん。そう、私も彼等の一員。と言っても安心して。今日はちょっと見に来ただけだから。まあ、もう少し長くいれたら嬉しかったんだけど、それでも大体ここの雰囲気は分かったわ。トイレで鼻息、フン、息。」
ルドーはイズミの肩に手を掛ける。
「来て下さい。あなたを拘禁します。」
イズミはルドーに微笑んで見せた。
「また来るわ。」ぽちっとな。
きいいいいいん。
腕のスイッチを押し、転送されていくイズミ。手を離すルドー。
「どういう事? フィールドは降りてるんでしょ?」
「奴等にとっちゃ、こっちの技術は子供騙しだ、って事だよ。」
諦めた様子で言うダックス。
「もう…チーフ、どこへ転送されていったか分かる?」
「不明ですわ、何の痕跡も残っとらへん…」
「帰ってくるだろう。」クルー達は司令官の言葉に顔を上げた。
「ここに、近い内にな。私は引き下がりはしない。奴等のボケは、全部潰してみせる!
私が主役だ!」
「「「「…」」」」
揺るぎ無い決意で宣言するキキララプリント(まだ着ていた)の司令官に、クルー達は細目を向けた。
司令室でリョーコがエリナに報告していた。
「色々検討してみたんだ。取りあえず一番ありそうなパターンを7つシミュレーションしてみた。」
「それで?」
真面目な顔でパッドを見るダックス。
「いずれの場合も、あの耳の長い奴のフリーズギャグとユリカダー達の天然素材っぷりによって、この宇宙ステーションは2時間以内に陥落する、って結果になったよ。」
「…」
爪をかむエリナ。
「民間人がいる事を考えると、そんなに長く持つとは思えませんね。」
「そうねルドー。…イブジョーのレジスタンスの時みたいに、持久戦に持ち込んだら?」
「ステーションその物を爆破されたら? それ位の事はやる思うといた方が良えんちゃいます?」
「…そうね…」
「考えられる防御手段としてはだな。」パッドを机に叩くダックス。
「ここは諦めてイブジョーで戦うか、じゃなきゃボソンホールを爆破しちまうかのどっちかだな。」
「…」沈痛な面持ちのキラ少佐。
トウジの前のパネルから音が鳴った。
「ん?…少佐、ステーションに予定に無い船が接近してます! 船籍不明!」
「船。防御シールド張って! 距離は?」
「300メートルだ。」
「さ、さ、300メートルってシールドの中じゃない! 非常警報! フェイザー準備! 映像!」
リョーコが頷きパネルを操作する。しかしモニタにはただの宇宙空間しか映っていない。
「ちょっと大尉、場所間違えてる場合じゃないでしょ!」
「間違えてねえよ! ぽんぽんぽんぽんうるせえなあ」
「船が遮蔽を解いてますよ。」
「「「遮蔽?」」」
モニタの向こうで、何も無い空間から幽霊のように小型船が姿を現している。
「連邦の、船なのよね…こんな形式見た事無いわ…」
「船から映像通信が入ったぞ。」
「繋いで。」
「はーい、ゴーちゃんでーっす。」
「砲撃!」
「「オイ!」」「…」
モニタのゴートは慌てた様子で畳み掛ける。
「あ、いや、少佐、驚かせてすまない。ちょっとエステバリスの遮蔽能力を試したかったんだ。」
エリナは眉を上げた。
「エステバリス?」
「USSエステバリス。所属番号NX-74205。」
「試作艦言う事ですか?」
「ああそうだ。名目上は護衛艦という事になっているが、実態は連邦が5年の歳月を費やし研究、完成させた対ペング用戦艦だ。」
ゴートはナデシコの会議室で、クルー達に船の説明をしていた。
「連邦が、そんな攻撃的な物を持ってるなんて知らなかったわ。」
嫌味でなく言うキラ。
「最悪の状況は最悪の結果を招く。これは連邦としては初めての戦艦だ。その為娯楽的な施設、ぜいたくな設備…例えば競艇場やムエタイ場、食虫植物園のような物は一切無い。そしてこの戦艦は、これも連邦としては初めての遮蔽装置を装備し、対ペング方面に配備されるはずだった。…が、」
「「「「が?」」」」
「試作段階の問題点が解消されなかった事と、ペングの相対的な弱体化に伴い、お蔵入りとなっていたんだ。それを今回借りてくる事にした。」
「つまり連邦は、実用化不能の欠陥船をイブジョー地区に送ってよこしたと?」
エリナがつっかかる。
「性能は完璧だ。…ただ、唯一の問題は、船のサイズに比べて火力が強すぎるという点だ。ギャラクシー級戦艦とほぼ同等の武器、エンジンが、その3分の1以下のサイズの船に詰め込まれている。その為…」
ゴートは目を泳がせた。
「その為?」
「…その為、フルパワーを出すと問答無用で自爆する。」
「あ、あのね、」
「そう来なくっちゃ! 燃えてくるぜ!」
「勝手に燃えてろ!」
「しかし寸止めなら問題は無い。どうだ、ユリカダー対策の心強い味方だろう。」
エリナは考え込んだ。
「(いや…司令官だけ乗せてフルパワーを出させれば…フッ)まあ、何も無いよりは良いかもね。」
「そうか。そう言ってくれると嬉しい。」クルー達を見回すゴート。
「今回の我々の任務だが、別にユリカダーを攻撃しに行く訳ではない。彼等のおおもとであるらしい美食者達を探し、彼等に我々に敵意が無い事を知らせるのが目的だ。…ああ、丁度良い所に来てくれた。」
会議室に2人の男女がやってきた。
「皆に紹介しよう。こちらはゲンイチロウ・エディングトン少佐。それからこちらはロミュラスカ星間帝国のカグヤ・トゥルール副司令だ。」
ざわめくクルー達。
「ロミュラスカの人が連邦に協力する事があるとは、知りませんでした。」
青紫色の髪をなびかせ、カグヤがルドーの方を向く。
「帝国にとってもユリカダー達は脅威でしてよ。」
「連邦が遮蔽装置に関する一切の開発、研究を禁止している以上、彼等に頼るしかなかった。トゥルール副司令には、船の遮蔽装置を担当してもらう事になっている。」
「わたくしの任務は、帝国の重要な機密である遮蔽技術を絶対に外に漏らさないという事ですわ。よろしい事、あなた方のうち一人でも遮蔽装置に近づく方がいらしたら…その時は覚悟なさって。」
「と言う事だ。」言葉を継ぐシスコ。
「それでは副司令、こちらのクルーを紹介しましょう。こちらがキラ」
「結構。クルーの顔と名前は全て一致しております、お気遣い無く。」
カグヤはとっとと会議室を出て行った。
「…とっても感じの良い方ね。」四つ角を作って微笑むキラ。
「そ、それからエディングトン少佐の方だが、ステーションの保安を担当してもらう予定だ。」
(アホかという程)長い髪のきりっとした男性が会釈する。
「ゲンイチロウ・エディングトンです。よろしく。男気で、頑張ります!」
再びクルー達はざわめきだした。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、司令官、保安って、それじゃルドーは一体どうなるのよ?」
猛然と抗議するエリナ。
「いえ、良いんです少佐。私こういうの慣れてますから。」
「慣れなくて良いのよルドー!」
シスコが小声で呟く。
「そ、それでは、以上で会議を終了する。かいさ」スパ
「か゜、か゜…」
「あ、すいません思わず。」長剣化した右腕を戻し、無表情に謝るルドー。司令官殉職。
「…エディングトン少佐。」
「ひゃ、ひゃ、ひゃい。」
ルドーは尿を滝のように漏らしているゲンイチロウに近づいた。
「頑張って下さい。」
「ひゃ……は、はあ…」
ルドーはそれだけ言うと会議室を出て行った。
ルドーは腕を後ろ手に組み、一人通路の窓から外の景色を眺めていた。イブジョー星と、どこまでも続く虚空が見える。
「ルドー。」
「少佐。」
ルドーは振り向いた。
「…イブジョー政府は、あなたに任務への同行を要請したわ。」
ルドーは肩を上げた。
「どうしてですか。私は、外交官じゃありません。」
「それはそうかもしれないけど。美食者達への対応で、あなたが必要になるかもしれないでしょ。」
「軍事の専門家は少佐です。」
「ん…まあ、そうだけどね…(難しい女ね…)」
目が細くなるキラ。
「良いんですよ。気を使われなくても。私を励まそうとして少佐が手を回してくれたのは嬉しいです。…でも、連邦の人達が私がいらないって言えばそれまで。仕方ないですね。」
「…」
「私、少女ですから。これからまだまだ可能性もありますし。」
「(本当は30過ぎの癖に…)」
「じゃあ…」
「ルドー…」キラは溜息をつき、ルドーの両肩に手を置いた。
「仮にそうだとしたって、良いじゃない。あなたは必要なの。連邦のジジイババア連中は現場の事なんか分かっちゃいないのよ。良い事ルドー、エステバリスの出航は明日の7時だからね。必ず来るのよ?」
「…少佐(ぽっ)…」
「良いわね?」
キラはルドーに念を押すと、通路を歩いて行った。
「…少佐…」
「あー何でしょう司令官、それではついに伝書鳩を」
「違う。」
司令官室にプワークを呼んだゴートは即座に答えた。
「は。…では、一体どういった御用件で?」
「もう1回君と一緒にガンマ宇宙域に行きたくてね。」
「は、は? それはとんでもありません、お断りします! それでは私も仕事の方がございますので…」
「君はこの前は、私にぞっこん一直線だと言ってたんじゃないか?」
「司令官、困りますなあ。それは確かに私は司令官は尊敬しております。しかしその為にわざわざユリカダーの方々に会うような危険を冒すなど正気の沙汰ではありません。全く不経済だ。」
「ゆめ星雲のおもいやり星」(キキララジオラマ)を前にゴートは語る。
「君は8ヶ月前、ヌレマ人とビジネスの取り引きをしたな。確かボゲロベリーワインの買い付けだったか?」
「ええまあ、確かに。」
「噂では彼等は美食者と繋がりがある、違ったか?」
「それはそうですが、彼等との商談は結局御破算となりましたからネェ。今度またおしかけて、ユリカダーをよこされた日にはぞっと致しませんし…」
「良いかプワーク。これは君にとって大きなチャンスだと思わないか。もし君がヌレマを通じて美食者と接触、商取引をする事が出来れば…ガンマ宇宙域の利権はフェレンスケの、いや、君の思いの物になるという事じゃないか。せくしぃ食べ放題だぞ。」
ぴく、ぴく。
「い、いやあ、そうおっしゃられましてもネェ…やはりこの場合はリスクの方が大きすぎるかと…それでは司令官、申し訳ありませんが失礼させて頂きますよ。」
プワークは司令官室の出口に向かった。
どん。
物音に振り返るプワーク。
「な、そ、それは!」
「見ての通り、グランド・ビューティー・アドア様の右手だ。」ゴム製のリアルな手の置物を机に置いて、ニヤリとした表情でシスコが言う。
「な、何故それをあなたが!」
「私が今回の計画を彼女に話したんだ。グランド・ビューティーは計画をいたく気に入り、君をフェレンスケの代表として美食者達との交渉役に任命してくれたよ。」
「ご、御冗談でしょう?」
「そうでない事を証明する為に、彼女はわざわざこれを送ってきて下さったんだろう。」
「そ、そんな…」
「そんなとは何だプワーク。あのグランド・ビューティーの任命だぞ。嬉しくないのか?」
「あ、いや、その、私にはとてもじゃありませんが恐れ多くて、その…」
「それは残念だな。グランド・ビューティーもさぞかし君に失望される事だろう。」
「ああ、いえ、任務に参加させて頂きます! とても光栄に存じますです、はい。」
「そうか、参加してくれるのか。」
「ええもう是非とも参加します。参加させて下さい!(涙)」
メガネがずり落ちているプワークはよろよろと出口へ向かった。
「プワーク。何か、忘れてないか?」
「は? ああ。」
プワークは思い出したように頷くと、アドアの右手を取り上げて自分の尻に軽く触れさせた。グランド・ビューティーに対するフェレンスケ風の敬意の表しかたである。
「それでは。」
プワークは力無く司令官室を後にした。
「ああ、ここにいたか。」
リョーコは会議室の席に座り一人考え込んでいたゴートに声を掛けた。
「エステバリスの準備だが、出航30分前までには何とかなるだろう。」
「そうか。」
「…お前ホントにそれ好きだな。」
リョーコがゴートの前を覗き込むと、彼はキキララ人形で何やらおままごとらしき事をやっていたらしい。
「地球に古くから伝わるリラックス法だ。君も今度試すと良い。」
極めて素の表情で語るゴート。
「ああ、そうだな。…行くのは簡単だが、帰ってこれるかどうかは、司令官、あんた次第だな。」
「少なくとも…」
「何だ。」
「少なくとも、艦隊本部のシミュレーション結果では、ナデシコに留まって防御作戦を展開するよりは成功の確率は高いそうだ。」
「つまり低い、って事だな。」
「それは見方の問題だな。」
「そうか。」ダックスはシスコを見て、ふと頬を緩めた。
「何がおかしい?」
「いや、すまねえ、おかしいって事じゃねえんだが…お前さんがそんなに生き生きとした目をしてんのを見んのは、ミナトが死んで以来初めてなんじゃないのか、って思ってな。」
「…そうかもしれないな。」
「コウイチロウだったら、こういうシチュエーションでお前が行く事には断固反対しただろうがな。」
「君がコウイチロウじゃなくて良かった。」
「ああ、そうだな。ん、もう遅いぜ。明日は早いんだから、とっとと休めよ。司令官さん。」
「ああ、君もな。」
ダックスは笑って頭を振った。
「あたしはこれから、徹夜で冠二郎の予定があるんだ。」
「あ、そう…ちゃんと起きてね。」キキララを手に呟く司令官。
「ええ、私はね。約一名連邦の科学士官さんでそうでもなかったらしい人もいるけど…」
エリナが見る方を向くゴート。
「むにゃ…ニューギニア島で発見された、渡りガラスの旅姉妹。ハワイ土産のナッツを食って、鼻血流して御満悦。酒だ、甘酒持って来い!…」
「…」シスコはキラに顔を向けた。
「防御システムの方は順調か。」
「ええ、ちゃんと動いてるわ。」
「船のエンジン系統は全部、問題無いですわ。(関西弁)」
「遮蔽装置の動作も順調ですわ。(お嬢弁)」
トウジとカグヤがゴートに報告する。
「そうか。」
「司令官、ちょっと良いかな。」
「ああなんだ、ドクター。」
「医療室が無いのも不満だけど、それ以前に医療物資がまだまだ足りないねえ。駄目だよこんなんじゃ。」
「それでは取りあえず最低限のものはナデシコから持ってきてくれるか。」
「そりゃあもちろんやっているさ。」
「ああそういえばそれから、乗客のプワークさんが、この船の内装は最低だって。お安い値段で改装できる業者を御紹介致しましょうか、っておっしゃってたわよ。」
「分かった。考慮すると言っておこう。」面倒臭げにキラに答えるシスコ。
実際、エステバリスの内装は非常に簡素で味気ない。ところどころ元のダンボール地がそのままになっていて、「茨城キャベツ」等の文字が読み取れるほどだ。またブリッジも狭く、良く言えばコンパクト、悪く言えばタコ部屋である。
ゴートはエステバリスの艦長席に座った。
「それでは発進の準備を始めよう。」
「いや、ちょっと待って下さい、ドッキングポートに誰かいますで。…ルドーですわ。」
オブライエンがシスコに言う。
ぴろりろりん。
「ルドーよりシスコ司令官。イブジョー政府の代表として、乗船の許可を求めます。」
シスコはルドーの声に心なしか微笑んだ。
「許可する。」
「有り難う。」
「ルドーがエステバリスに乗船しましたで。」
「そうかチーフ。それでは発進するとしよう。ステーションから離脱開始。」
頷くキラ。
「了解。離脱シークエンス開始。…あ…」
「どうした少佐。」
「あ、いえ、何でもないわ。(な、何で私まで乗っちゃってるのよ。今思い出したわ、私以外を乗せて暴走させる計画のはずがあっ!)」
上下逆さまの両手鍋そっくりの船が、ゆっくりとナデシコから離脱する。船の中央には「USS
AESTI BALIS NX-74205」というレタリングと大きな「えす」の字が書かれている。
「発進! ガンマ宇宙域到達後直ちに遮蔽!」
USSエステバリスはボソンホールへ突入した。
ムシャムシャムシャ…
さっそく菓子パン、惣菜パンを食い散らかしていたトウジはパネルの表示を見て司令官兼艦長に報告した。
「司令官、前方からユリカダー船が2隻接近してますで。」
「…コースを変えるか?」どうやら起きたらしいダックスが枯れた声で聞く。
「いや、遮蔽装置を試す良い機会だ。このまま前進しよう。」
「ふあ…了解。」パネルに手を触れるリョーコ。
「ユリカダー船は気付かへんようです…通過していきま…いや、こっち来てます。」
「急にコースが変わったわね…気付かれたかしら。」
「キラ、応戦の用意をしてくれ。トゥルール、遮蔽解除の用意…」
「いえ、待って下さる?」カグヤはゴートを遮った。
「何故だ?」
「遮蔽をしていてもワープスピードを出していると、一定のシメジ粒子が放出されます。恐らく彼等はそれを探知したものと思われますわ。」
「そんな話、よう聞かんかったで。」
「宣伝して回るような事じゃありませんものね。」トウジに言い返すカグヤ。
「分かった。ダックス、ワープ離脱、通常エンジンで航行してくれ。」
「了解。」
「この辺りで停止しよう。…キラ、いつでもフェイザーが撃てるように」
「もうしているわよ。」
「ああ。」
カメムシ、というのが一番しっくりくる形の小型宇宙船が2隻、停止したエステバリスのすぐ真上につけ、同じく停止した。
「奴等はこっちをスキャン中だ。こんな光線は見た事が無いが…一種の逆伝書ザザムシ光線のようだな。」
「逆伝書ザザムシ光線…トゥルール、それは遮蔽を見破る事が可能か?」
「分かりませんわ。…ユリカダーの船はわたくし達にとっても初めてですから。」
「じゃ、何で奴等、ここをスキャンしてるんだよ!」
「多分、船のパワーが大きすぎて遮蔽で覆われきれへんのちゃいますか?」
「そうか…リョーコ、メインエンジンを停止。最低限のパワー出力にしてくれ。」
「りょおかい。」
ダックスの操作でエステバリスのエンジンは停止し、ブリッジ内も非常用照明のみで薄暗くなった。
「敵の通信を傍受。」
「スピーカーに出してくれ。」トウジに言うゴート。
「良く分かんないけどお…取りあえず、試しにこの辺撃ってみましょう!」
「何だって!」
「あれ? えーと、カンガルー砲のスイッチわぁ…ああれ、あれれえ?」
びゆううううん。
「…2隻とも、ワープ9で飛んで行ったわ。どっかに。」
「ふう…」
シスコはキラの報告に溜息をついた。
「ガンマ宇宙域で行った作戦としては、初の成功か。」
「このまま成功が続くと良いわね。」
「そうだな少佐。それではダックス、エンジン再開、このままヌレマ星系へ向かってくれ。」
航星日誌、宇宙暦48212.4。ヌレマ星系に到着、プワークはさっそくヌレマ人と交渉を開始した。
「残念ですね。そんな事は私は全く知らないんです。」
中央部だけ上に飛び出たような額(頭)が特徴的な女性のエイリアンが微笑んで首を振った。髪は金髪で、暑苦しいソバージュだ。
「まーそうおっしゃらずにタカチホさん、ここは一つ、商売の分かる者同士包み隠さず話し合いましょうという事で。」
「…これはゴミですね。」艦長席にぶらさがっているキキララマスコットを手に取るタカチホ。
「な゜。」固まる司令官。
プワークとタカチホはエステバリスのブリッジ内でウロウロしている。
「タカチホさん、確かヌレマの方々は美食者の方とお友達だと聞きました。出来ましたら私にも御紹介願えませんでしょうかネェ。」
「願えませんね。」ブリッジの装置や機材を品定めしているらしいタカチホ。
ナプキンで汗を拭くプワーク。
「あーではですネェ、せめて美食者の方への接触法だけでも…」
「知りません。」タカチホは座っているエリナの耳飾りに目を付けた。
「これは中々面白いですわ。980ラチナム円でどうかしら。」
「お買い上げ有り難うござ…」エリナの三日月目視線に気付くプワーク。
「あいやその、そちらは残念ながら非売品でして。」
「あらそう。…私達は美食者の方と会う事はありません。」
「あーまたまたお上手でいらっしゃる。」
「いいえ、本当です。私達が会うのはマキルタ人です。」
「マキルタ人。」
「あの方達の言う事を聞かないと…ユリカダーの方々が押し寄せてきますよ。ごめんなさい、とてもじゃないけどこれ以上の事は私の口からはね。」
シスコは立ち上がった。
「オーニサーさん、お願いします。」
「いえいえ、これ以上はとても。」
「それでは、誠に残念ですがボゲロベリーワインの方は買い付けは見合わせざるをえませんなあ。」
「もし、プワークがボゲロベリーワインを買わなかったら、」ゴートはタカチホに近づく。
「ユリカダー達が何故売れなかったのか、あなたに聞きにくるかもしれない。」
「…分かりました。」溜息をつくオーニサー。
「こちらの端末を使ってもよろしいですか?」
頷くシスコ。
タカチホは、付近の星図を表示させる。
「…ここのカネゴン星系に、美食者達の中継所があるという話を聞いた事があります。あくまで噂ですが。」
「すいません、」
それまでやりとりを黙って聞いていたルドーがふと声を上げた。
「あの…あそこにある星雲は、何と言うんですか。」
「ここですか? 別にここには特別な物は無いと思いますけど…確かレサンジュ星雲と言ったはずです。」
「レサンジュ星雲…」呟くルドー。
「どうしたルドー、何かあるのか?」
「…いえ、何でもありません。」
「私が言えるのはこれ位です。…プワークさん。」
シスコはプワークに頷いて見せた。メガネを上げるプワーク。
「…結構。それでは500樽を目安に前向きに検討させて頂きましょう。先程のお話の通り1樽4万ラチナム円で。」
「分かりました。それでは私は、準備が有りますので星に戻らさせて頂きます。」
「タカチホさん、有り難う。」
「…仕事ですから。」
シスコに微笑むオーニサー。
「司令官。」プワークはシスコに顔を向けた。
「そろそろ私の方も御役御免という事で、よろしいでしょうかな。」
「帰るのか。」
「ええもう充分任務は果たさせて頂きましたので。これからヌレマでしばらくせくしぃを探求させて頂いて、それから貨物船でアルファ宇宙域へ戻ろうかと思うんですが。」
「…分かった。気を付けてな。」
「司令官もお気を付けて。」
プワークはメガネを上げると、ブリッジを(颯爽と)出て行った。
「それではダックス、彼等を戻し次第カネゴン星系に進路を取ってくれ。」
「了解。」
狭い寝台で窮屈そうに寝ていたネグリジェのシスコは起き上がり、目をこすった。
「どうぞ。」
「あら司令官。休んでいたの。ごめんなさい、でなお」
出て行こうとするエリナを止めるゴート。
「ああ、良いんだ少佐。一体何だ。」
「…ちょっと、話があるんだけど。」
「ああ。」
「…率直に言って、良いかしら。」
「もちろんだ。」
エリナはワンポイント置いて、ゴートに迫りつばを飛ばした。
「連邦は一体何を考えてんのよっ!」
「ルドーの事か。」
「今まで充分やってきてるでしょ? 何で今になって急に説明も無くクビになるの!」
シスコが答える。
「直接の原因は彼女のここ数ヶ月のミスだろうな。」
「ミスって、それは規則規則規則で彼女のやりたいように連邦がさせなかったのが原因なんでしょうが。」
「しかしナデシコはイブジョーの物であると同時に連邦の物でもあるんだ。連邦にはルールという物がある。…そもそも元々、艦隊本部はルドーに全幅の信頼を置きかねていた節がある。」
「彼女はアオバシア占領時代から公平さで有名だったのよ? 信用出来ない、って…まさか、彼女が流動体生物だからだなんて言わないでしょうね。」
「それもあるだろう。」厳しい表情のシスコ。
「だが更に問題なのは、彼女が本質的に自分勝手で自己中心的な個人プレイヤーであるという点だ。艦隊は個人プレイヤーはあまり歓迎はしないからな。」
「司令官、あなたはどう思うのよ。」
「私も確かに、彼女にももう少し社会性を持って欲しいと前から思ってはいた。彼女のルールは彼女が勝手に作ったものだ。確かに彼女は真面目に仕事はしている。しかし、もう少し私達も信用して欲しいと思う。」
(男性器のイヤリングをぶらぶらさせながら)キラは立ち上がり、シスコを見下ろした。
「じゃあ。あなたも、ルドーの解任には賛成したという訳ね。」
「とんでもない。私は断固反対した。しかし聞き入れてもらえなかったんだ。」
ぴろりろりん。
「司令官、カネゴン星系に到着しましたで。」
トウジの声にゴートとエリナは頷き合い、船室を出て行った。
「第四惑星の地表に、1個建物がありますわ。生命反応無し。センサーの反応から言うて…間違いおまへん、無人中継所ですわ。」
「そうか。チーフ…ここから地表への転送には、最速でどれ位かかる。」
ジャムおじさんは顔を上げた。
「転送の時間でっか。…6秒位かかる思いますけど。」
「そうか。それではダックスとチーフで中継所を調査してくれ。カグヤ、転送の間、6秒間だけ遮蔽を解くぞ。」
「了解ですわ。」
リョーコとトウジはブリッジの一角の転送コーナーに立った。
「遮蔽解除。転送。」
ぴぎゅいいいいいいん。
2人は地表の、建物の中に転送された。フェイザーを構える2人。しかし、どうやら本当に誰もいないようだ。
フェイザーをトリコーダーに持ち替え、リョーコは周囲をスキャンしだした。
「特に不審な物は無さそうだな…おいイエティ、何か分かるか?」
「こっちが多分メイン制御室ですわ。」
部屋を移動する2人。
2人のやって来た部屋には、何やらたくさんのマグロがケーブルで接続され、コンピューターと繋がりチカチカ光っていた。
パネルに目を付けるリョーコ。
ぴろりろりん。
「ダックスより司令官。」
「どうした。」
「どうやら通信所の制御システムらしき物を発見、これよりシステム内に侵入する。」
「気を付けろよ。」
「任せろよ。」
パネルを操作しだす2人。
「…うーん。」
「どうした?」
「何や、めっちゃ簡単に思えるわ。セキュリティがこんな簡単に破れるなんて、何や怪しいんちゃいます?」
「確かに…もうメインディレクトリだな…まあ多分、NTの一種なんじゃねえのか? ま、早いとこ済ましちまおうぜ。」
「そうでんな。」
通信機を通してリョーコのはずんだ声が聞こえてくる。
「司令官、良いもん見っけたぞ。どうやら通信している相手の座標らしい。今そっちに情報転送するからな。…このざひょ」
ずざざー。
「何だ、通信が途切れたぞ。」
「司令官! 罠よ! 急に基地にシールドが張られたわ! このままじゃ彼等を転送できないわよ!」
「…」
「敵艦2隻接近! 方角677、マーク215。」
「な、ななななななな」
「…」
「さて「な」を何回」
ばこっ。
司令官を金属バットで殴る少佐。
ぷしゅーっ(噴水)
「ああ、思わず動転してしまった。それでは少佐、シールドをフェイザーで打ち破れないか。」
「でもその為には、まず遮蔽を解除しないと。」
トゥルールの方を見るシスコ。
「駄目ですわ。」
「え。」
「今遮蔽を解除してしまっては、敵にこちらの場所を教えてしまいますわよ。彼等は、助ける事は出来ませんわ。」
「見捨てろって言うつもり?」
「いやあ、そうだねえ。確かに副司令官の言うとおりなんじゃないの? 残念だけどこの状況じゃあ、見捨てていくしかないでしょ。」
カグヤに同調するドクター。
「あ、あんたらねえ、」
「そ、そうだな! しょ、少佐、今のうちに逃げるぞ!」
「オイ!」
「軌道を離脱、先程ダックスの送ってくれた座標に進路を取れ!」
「こういう時だけいやにテキパキしてるわね…(…いや、どうせあそこにいるのは騒音女と生ゴミ…わたし的に何の損も無いわ…)分かったわ。」
「最大ワープ、発進!」
「最大ワープ(…じゃなくて、八分目ワープで…)発進。」
エステバリスは2人を見捨て出発した。
「ハッ、しょうがないじゃない。あの場合ああするしか無かったでしょー?」
キラは呆れた様子でドクターに言う。
「あなた、何でそんな冷酷な性格なのに医者なんかやってるの?」
「面白いじゃない。自分の手で人の命を左右出来るんだよ? クランケも「助けて下さい、お願いします」みたいに僕の事を聖人であるかのようにすがってくるしさあ。ハッハッ、全く笑っちゃうよねえ。」
「そ、そう…」
冷や汗をかく少佐。
「まあ、彼等は心配しなくても大丈夫だよ。捕まっても、リョーコ君なら、むしろユリカダーを使って情報を聞き出そうとするんじゃないかな?」
司令官はふと顔を上げた。
「…そういえば、ルドーを見ていないな。シスコよりルドー。」
ぴろりろりん。
「はい。只今留守にしています。」
「「「る、留守?」」」
「そ、そんな機能この通信機にあった訳?」思わず自分のバッジを見るエリナ。
「様子がおかしい…ルドーを見に行ってくる。少佐、ブリッジを頼む。」
「あ、司令官。…私が行くわ。」
「分かった。」
ぽろろん。
「ルドー。…ルドー? 入るわよ?」
ドアが開きキラが現れた。
「ルドー、あなたいつまでふさぎこ…何やってるの?」
ルドーはキラに振り向いた。
「匂いをかいでいるんです。」
「それは、見れば分かるけど…」エリナは、椅子に座ってミカンを鼻に寄せているルドーに近づいた。
「私も理由は分かりません。でも、ガンマ宇宙域に来てから、何だかとてもこうしたくなって…」
「ルドー、もしかして…検査した? お父さんは? おめでとう、と言って良いのかしら?」
「そういう事じゃないです。私少女ですし。」
「あ、そう…じゃあ、何なの?」
「分かりません。…さっき、星図を見た時に感じたんです。この匂いがするんです。」
「せ、星図から匂いはしてこないと思うけど…」
「言ってる事がおかしいのは分かってます。でも感じるんです。もしかして、流動体生物だけが感じる事なのかもしれませんが…少佐。お願いがあります。」
「何?」
ルドーは目の前のモニタに表示されている星図の一点を指差した。
「この星雲、レサンジュ星雲に行きたいんです。ここが匂いの源なんです。」
「ルドー…」
「ここに何かあります。ここに行かないと。」
やや溜息を漏らしつつエリナは頷いた。
「分かったわ、ルドー。任務が終わったら、そこに行ってみましょう。」
「終わってからじゃ駄目なんです、少佐、今行きたいんです。」
「る、ルドー、そう言いながら剣を突き付ける癖、止めた方が良いわよ(汗)。」
その時エステバリスを大きな震動が襲った。
ガタガタ。
「きゃああっ」
瞬時に剣をよけ、ルドーをぶん投げるキラ。
「な、ど、どうしたの! キラよりブリッジ! …ブリッジ! シスコ司令官!」
「ほう、敵さんのお出ましと言う訳だ。」
「どうして遮蔽がばれた?」
「さあ。逆伝書ザザムシ光線の精度を上げたんでなくって?」
船は敵の攻撃で何度も揺れている。照明の落ちるブリッジ。
「遮蔽解除! 攻撃態勢!」
「了解!」操舵手の士官が答える。
ずががーん。
「通信システム使用不能! シールドは健在。 敵は3隻です!」
ずがががーん。
「うわあっ」
コンソールから(何故か)出る火花をくらい飛ばされる操舵手。ドクターが駆け寄る。脈を診るドクター。
「…」
ドクターは無言で彼の目を閉じさせた。
「僕が代りに操縦するとしよう。こう見えても僕は何を隠そう、連邦でも」
「話は後で聞くから何とかしてくれ!」
「了解!」
ぴぎゅ、ぴぎゅん。
ナガレの撃ったフェイザーは1隻のユリカダー船に命中、ユリカダー船は爆発する。
ずが、ずがががーん。
「おっとこりゃまずい。ワープエンジンのバッタ増殖システムに被弾しちゃったよ。」
口調に焦りが混じりだすベシア。
「通常エンジン出力最大! ワープエンジンが回復するまで敵を牽制するんだ! 回避行動ゴウチャン−丙!」
「了解!」
モニタには、2隻の虫型宇宙船がまっすぐこちらに向かってくる様子が映し出されている。
「あ、だ、大丈夫ルドー。」
壁にスライム状にへばりついていたルドーは気が付いたらしく、壁から離れ元の少女型に戻った。
「私は平気です。ユリカダーですか。」
「通信が出来ないから分からないんだけど、まあそうでしょうね。…いや、まさかフルパワー出したんじゃ…」
ずがががーん。
衝撃に倒れかけるキラ。
「まあとにかく何とかして、ブリッジに行かないと。」
「少佐、もうエステバリスは諦めましょう。無理ですよ、この状況じゃ。いつユリカダーが来るかも分かりませんし。」
「そんな事、行かなきゃ分かんないでしょ!」
はっ
「何でこう、私って自己犠牲的なのかしら…」自分を抱きしめすんすん泣き始めるキラ少佐。
「少佐、大丈夫ですか?」
「こ、怖いよう。ま、ママぁ。た、助けてよう。」
「ははははは、撃ってやる撃ってやる撃ってやる撃ってやるぅうううう!…おや?
あれ? ゲームオーバーか?」
ガチャガチャと(ドクター専用らしい)ゲーセン風コントローラーを動かすドクター。しかし船の反応が無い。
制動システムコントロールパネル前に駆け寄るカグヤ。
「司令官、メインエンジンもパワーダウンですわよ!」
「「「「皆さあああああん。動かないでくださああああい。」」」」
「「「!」」」
ブリッジ入り口からユリカダー兵士達がフェイザーライフルを持って現れた。
「う、う、うわあああああ」「「きゃあああああ」」
錯乱し、手をグルグルと振り回してユリカダー達をタコ殴りする司令官。意外に効果的。
「君の瞳はまるで光化学スモッグの空のように刺激的だ…」「そ、そんな…(ポッ)」
彼なりの方法でユリカダーを攻撃している(らしい)ナガレ。
「うわああああがぷっ。」「夜明けの焼き畑農業をしようじゃごふっ。」「ああっ(訳:わたくしは台詞はっ?)」
「「「ふう。御協力、感謝します!」」」
ユリカダー達は何とか彼等の気を失わさせた。
ばしびし、ばしっ。
火花があちこちから飛び、照明も落ちているエステバリス。
エリナが通路を歩いていると、向こうからユリカダー達が追ってきた。
「ルドー、向こうへ行くわよ!」
反対方向へ走っていく2人。しかしそっちからもユリカダー達が追ってくる。
ぴぎゅん。ぴぎゅん。
「「きゃあああ」」
フェイザーを発射するキラ。倒れるユリカダー達。
「少佐、急いで! こっちです!」
「そこのお2人、動かないううっ。」背後のユリカダーをエルボーの一撃で倒し、ライフルを奪うキラ。
「少佐、後ろ!」
「え?」がすっ。
どうやらよそ見をしていたらしいユリカダーに偶然頭突きをされ、エリナは気を失った。
「少佐っ!!」
どさっ。
ぴぴーぴぴ、ぴぴ、ぴぴーぴ、ぴぴー…
「…」
キラがふと目を覚ますと、彼女は席に座っていた。シャトルの中だ。
「動かないで下さい。」
隣からルドーの声がする。
「…まだ、傷が治っていません。あまり動くと回復が遅れますよ。」
「ああ…大丈夫よルドー。心配無いわ。…多分。」
背もたれから起き上がり、周りを見るキラ。不意の頭突きが相当こたえたらしく、言葉とは裏腹にまだ憔悴した様子だ。
「助かったのね……他の皆は?」
「…分かりません。最後にエステバリスを見た時は、完全に停止して、3、4隻のユリカダー船に囲まれた状態でした。」
「そう…どこへ行っているの。」
「レサンジュ星雲です。」
「アルファ宇宙域へ戻って、助けを呼ぶべきだったのに…」目を閉じ、力無く呟くエリナ。
「見て下さい、少佐。」
ルドーはモニタの星図の一点を見つめている。
「え?」
「この星雲、Mクラスの星が一つあるんです。」
「そこに行きたいの?」
「はい。」
「そう…」
シャトルは星の地表に着陸していた。地球で言う浅い夜か夕方のような、比較的薄暗い空で、周囲は植生的には湿地帯に近いようだ。
シャトルから降り立つ2人。
「う、く、臭。」顔を歪め、急に鼻を押さえるエリナ。対照的にルドーは晴れやかな表情…少なくとも様子、だ。
「何この腐ったミカンみたいな臭いは…」
キラはトリコーダーをかざす。
「ん…あっちの方に、何らかのエネルギー反応があるわね。」
「行ってみましょう。」
2人が歩いていくと、そこにはオレンジ色の、ドロドロした池のような物があった。顔を見合わせる2人。
やがて、池の一部が盛り上がり、人型に変形し、5、6人の人々となり、池を離れ2人の元に歩いてきた。皆ルドーのようにのっぺりとして、滑らかな顔つきだ。
「あ、あの…」呟くルドー。
やや大柄の女性(の形の生命体)がルドーに近づき、頷いてみせた。
「ふるさとへ、ようこそ。」
「司令官日誌、補足。私とドクターがエステバリスから脱出し、既に6日が経過した。シャトルのエンジン出力、シールド出力は低下中。生命維持装置もそのタイムリミットに刻一刻と近づきつつあり、このままではボソンホールに到達するのは絶望的であると思われる。…エネルギーが無くなる前に、ユリカダーに発見される可能性の方が高いかもしれない。」
「…でもまあ、とりあえずはする事もないし快適じゃない。」
「起きていたのか。」シスコは隣の席のベシアを見た。
「もう充分寝ているからね。もともと長く寝るタイプじゃ」
がたがた。
「な、何だ。」急に起きたシャトルの揺れに緊迫した表情になるゴート。
「どうやら奴等のトラクタービームに捕えられたらしい。司令官、さっきの言葉は当ってたみたいだよ。」
がた、きし、がた。
今度は彼等の後方から音が聞こえる。頷き合い、後方を向きフェイザーを構える2人。
がた。
ぴぎゅ、ぴぎゅん。
「うぎゃああああああ」
「「チーフ!」」燃えかすを前に声を上げる2人。
「よ、お2人さん、元気でやってっか?」
「ダックス! 無事だったか!」
「それはこっちの台詞さ。もう何日も探してたんだぜ。」ニッコリするリョーコ。
「ナデシコに帰ったら驚くぜ。結構、面白い事になってっからな。」
「では、私はここから生まれたんですか。」
「ええそうね。」頷く女性。
「説明しましょう。私達の種族はこの偉大なる繋がりから皆生まれてきたのです。ルドーちゃん、あなたの場合、生まれてすぐにここを離れてしまったので記憶に無いのもまあ当然でしょうけど、あなたももちろんここから生まれてきたのよ。偉大なる繋がりとは。」
からからー。
どこからかボードを持ってくる女性。
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「分かるかあっ!」
「…重要なのは、みかん星人ですね。」
「その通りよルドーちゃん。」
「ええっ、分かるのおっ!!」
女性は(どこからか取り出した)指し棒を手に叩き、喋り続ける。
「もう少し説明を加えるならばこういう事ね。偉大なる繋がりとは即ち全ての源。私達流動体生物が互いに溶け合い、互いの経験、知識を分け与え合う場所なのよ。」
「でも、どうして私は繋がりから離れていたんですか。」
「それも今から説明しようと思っていた所よ。」いそいそと頷く女性。
「私達は見聞を広める為、以前、宇宙のあちこちに自分達の子供を送ったの。子供達は皆本能的に、ここに戻ってくるようになっているわ。そしてルドーちゃん、あなたもその一人だったという訳。」
「どの位前の、事なんですか。」
「かなり昔、とだけ、今は言っておくわね。」
「それで…他の子供達は?」
「ルドーちゃん。あなたが最初よ。こんなに早く帰ってくるなんて、正直予想していなかったわ。一番速いケースでも後300年はかかると思っていたのよ。」
「そうですか…」
「ね、ねえ…あなた達、会っていきなりそんなに喋って疲れないの?」エリナが口を(ようやく)挟む。
「あの、一つ聞いても良いですか。」
「もちろんよ。」
「私も…繋がる事が出来るんですか。」
女性はルドーに頷いて見せると、両手を広げて見せた。
「駄目です、まだ時期尚早だ!」
声を上げる他の流動体の方を女性が向く。
「大丈夫よ。少し、私達の記憶を分け与えるだけだから。」
ルドーと女性は歩み寄り、両手を上げ手をつなぐ。
どろどろどろ…
互いの腕が溶け合いスライム状になる。
「うっ」
ショックを受けたようにのけぞるルドー。
「ル、ルドー?」
やがて二人の腕は元の形に戻り、分離した。
「ル、ルドー、大丈夫なの?」
「大丈夫です。……少佐。」
「何、ルドー。」
「ここが、私のふるさとなんですね。」
ルドーの嬉しそうな様子に、エリナはほっと息をついた。
「お帰りなさい、シスコ司令官。」
ナデシコのドアをまたいだシスコを、バニー衣装のオバサンが迎えた。
「ナチェフ提督。」
「英雄の帰還ね。あなたのお陰で、美食者達との和平がとんとん拍子のぶんぶん太鼓、たんたんたぬきのなおぽんぽんに進んでいるのよ。」
何やら忙しいステップを踏みながら、提督がゴートに語る。
「いや、私ではなくチーフ・オブライエンとダックス大尉の功績でしょう。話によると、彼等がユリカダーに捕えられた後美食者達の本拠地に行って、平和を訴えたそうですから。」
「そうね。」微笑むレミ。
「現在美食者側の使節と、アルファ宇宙域の主立った星の使節、及び連邦代表とで和平交渉が行われている真っ最中よ。数日中に和平条約が締結される見通しだわ。」
シスコは驚いた顔を見せた。
「随分話が急ですね。」
「平和が早く来るに越した事は無いでしょ。」
「ええまあ。それはもちろん。」
「あ、そうそう、ゴーちゃん、あなたに会いたいっていう美食者の使節がいるのよ。後で来てくれる?」
「はい、分かりました。」
「私の師匠が説きました。それは師説。ふへ、ふへふふふ…」
「ウェイユーン!」
「あえ、知り合いなの?」
会議室にやって来たゴートは、そこで待っていた美食者使節に眉を上げた。
「ええまあ…」
「彼女は中々の手だれよ。ブラジル仕込みの私のジョークをことごとくブロックされるわ。」
「は、はあ…」
レミはいきなり顔を上げ、高らかに宣言しだした。
「鈴木その子とかけまして、元プリンスと解きます! その心は!」
「日本人?」素の早口で言うイズミ。
「ね?」
「い、いや、ね、って言われても…さっぱり…」
「まあそんな無駄話はどうでも良いんだけどね。」
きびきびと言うナチェフ。
「…」
イズミは微笑み、椅子に座ったゴートに歩み寄る。
「どうしたの? 随分警戒しているんじゃない?」
「ええまあ…最初がああでしたから…」
「あの時は、私達にも誤解があった事は認めるわ。でもこれからは、美食者と連邦、お互い手を結びましょう。」
「はあ…」
「手を結ぶ…てをむすぶ…テヲムスブ…」
「(又何か考えてる…)」
2人は公園のような場所を歩いていた。
「皆、私の事がよそ者に思えるみたいですね。」
淡々としたルドーの言葉に苦笑するキラ。
「何言ってんの、それは私よ。」
「まあそう言えるかもしれないわね。」
「きゃああっ」「…」
木からボトリ、と落ちた流動体がムクムクと変形し、例の女性の形になる。
「説明しましょう。私達は歴史的に常に固形種から迫害を受けてきたので、どうしてもあなた達には神経質になってしまうの。あ、固形種というのはあなた達のような変形しない種の事ね。一方私達は自らを可変種と呼んでいるわ。」
「は、はあ…」
「可変種。聞いた事があります。」頷くルドー。
「それも説明すると、本来可変種という言葉は固形種側から見た差別用語であったのだけど、私達は自ら敢えてその言葉を使う事によって尊厳を取り戻そうとしているのよ。」
「あなたって、沈黙の間とかが怖いタイプなの?」
「それも説明すると、」
「あ、いや、遠慮しておくわ。あ、ねえルドー、私これからシャトルに戻って、司令官達と連絡が取れないかどうか試してみるわね。」
ルドーが返事をする前に女性が答える。
「少佐、地上からの通信の発信は控えて。私達はここで、静かに暮らしているの。他の種族の干渉は受けたくない訳。」
「あ…そう。分かったわ。」
「それで、ルドーちゃん。」
「はい。」
「あなたはもう、ここの色々な物になってみたのかしら?」
ルドーは不思議そうに聞き返した。
「色々な物に、なってみる? 変形ですか。」
「ええそうよ。」
「…何故そんな事を?」
「つまり、そうする事によって、あなたの世界が広がり、偉大なる繋がりの一部となる準備が出来るのよ。」
「そうですか…」
周囲のものを見回すルドー。
「頑張ってね。」
女性は歩いて行った。
「…少佐。しばらく一人になっていいですか。」
「あ、うん。…ルドー、じゃ私、やっぱりシャトルで通信試してみるわね。」
「…」
手を振るキラ。
「大丈夫よ。チーフから教わったジャム隠蔽工作を使えば、通信とは気付かれないわ。」
「そうですか。頑張って下さい。」
「よう、色男、調子はどうだ?」
ベシアはその声に頬を赤らめた。
「ああ、ガラック。」
プロムナード。メガネをかけたアオバシア人の民間人男性が、歩いていたベシアに近寄ってきた。
「お前がいなくて退屈したぜ。全くここの奴等で模型の話が通じる奴等は殆どいないからな。」
「じゃあ何で、このステーションでおもちゃ屋なんてやってんの。」
「そりゃお前、誰だって子供に夢は与えなきゃだろ?」
「でも何でナデシコで? セイヤ・ガラック、君以外にアオバシアの民間人はこのステーションにはいないじゃない?」
「そりゃお前、俺はこう見えても、本当はスパイだからな。…冗談だよ。」
「(カッコイイ…)(ポッ)」
ガラックはやや改まった様子でドクターに言った。
「ところでドクター…今回の連邦と美食者の和平交渉はどうも危険じゃねえかなー、と思うんだがな。」
ユリカダー達もたくさん歩いているプロムナードを見回すガラック。
「それは君の見解? それともアオバシア秘密警察、イボシリアン・オーダーの見解?」
「お前さんは本当に想像力がたくましいな。俺の個人的見解に決まってるだろ? 何しろ、俺はただのしがないおもちゃ屋なんだからよ。」
「別に良いじゃない。平和結構。リスクは付き物だよ。おっと。」
歩いていたナガレは人にぶつかりかける。相手はカグヤだった。
「どうしたの、険しい顔しちゃって?」
「ドクター。今わたくし達は、ロミュラスカが和平交渉の席から外されたと聞かされた所ですわ。」
トゥルールの言葉に顔を見合わせるベシアとガラック。
「何だって? 何かの間違いじゃないのかい?」
「よろしい事、このような暴挙をわたくし達帝国が見逃すと思ったら大間違いですわよ!
この代償は、しっかり払って頂きますからね! ふんっ!」
ずかずかと歩いていくカグヤ。
「…」
「どうだ。これでも和平条約は進めるべきだと思うかい。」
セイヤはニヤリ、と笑って見せた。
着陸したシャトル船内。ジャムのぺっとり塗られた箱を前に、キラがぶつぶつ言っている。
「コンピューター、キヨヒコ式圧縮亜空間電波を発信せよ。」
ぴぴ。
「発信できません。」
「理由を述べよ。」
「亜空間電波の発信を干渉する人工的な電波が存在します。」
「妨害波があるっていうの? 発信源を特定。」
「場所を特定出来ません。」
「…正確には、どういった種類の電波なのかしら。」
ぴぴ。
「不明です。データバンクには登録されていません。」
「この役立たずぴゅうたが…」
「質問を繰り返して下さい。」
「…」
「うまくいってますか。」
開けっ放しになっているドアからルドーが顔を出した。
「あ、ルドー。全然駄目。あなたは?」
「私もうまくいっていません。このしばらくの間、捨て看やピーポ君、ミミズに床屋の看板、ポケットティッシュに廃車、色々な周りの物になってみました。でも分からないんです。」
「分からないって、何が分からないの?」
「…私も分からないんです。」
「え?」
「つまり、だから…もちろんそれぞれの物にはなれます。でも、なるというのが即ちどういう事なのか、全然分からないんです。」
「…」困った様子のキラ。
「…バカだな…」呟くルドー。
「邪魔してごめんなさい。通信、頑張って下さい。」
「う、うん…ルドーもね…」
ずるずる…
「いやー素晴らしい! これだけこのバーが繁盛しているのはやまだかつてないですな。」
髭を震わせるプワーク。
ラーメンフォンデュを食べていたナガレとブルーベリーうどんを食べていたトウジは、ごん、という音に顔を上げた。
「お2人さん。これはわたくしからの、ほんのささやかな気持ちです。」
ボウフラウォーターの入ったグラスを2つ置くプワーク。
「どうしたんだいプワーク。随分気前が良いじゃないか。」
「儲かっとるいう事やな?」
「いやあ、ユリカダーの方々は慣れてくると非常に可愛らしい! ギャンブルもお好きなようですし。それに服も結構、せくしぃですしネェ…ムフ、ムフムフムフ」
「じゃあ君にとっては美食者との和平は最高な訳だ。」
「今日は私にとって最良の日です。」メガネを上げるプワーク。
「お恥かしい話ですが、私には夢があります。いつかフェレンスケ人、イブジョー人、アオバシア人、地球人、ロミュラスカ人、ゼレンゴン人、ユリカダーといった方々が皆平和に手を取り合い、一つのヌルキチャテーブルを囲む日が来る事を。うんん。」
呆れる2人を置いてプワークは歩いて行った。
「あはははは、そうなのよー。」
ばしゃっ。
「あ、す、すいません。」
そばのテーブルで飲んでいたユリカダーが振り向きざまにトウジにぶつかり、水を掛けてしまった。
「ほんとに申し訳ありません。大丈夫ですか?」
「あ…ま、まあ、気にすんなや。あは、あはははぐぷっ」
がしゃんっ。
「ああっ、すいません。」
別の方向から歩いてきたユリカダーがよそ見をしていてトウジにぶつかり、トウジは食べていたブルーベリーうどんに顔をつっこんだ。
「だ、だ、だ、大丈夫やで。はは、はははぐはっ」
ぐぁしゃん。
「あ、ごめんなさい、大丈夫ですか?」
更に別のユリカダーが飲んでいたグラスをトウジの後頭部にクラッシュ。
「だ、だ、だ、だ、があああっ」
ばん、どごん。
そのまた更に別のユリカダーが(偶然乗っていた)ブルドーザーで(よそ見運転していたらしく)トウジを押しつぶす。
「ああ、ご、ごめんなさい、大丈夫ですか、痛い所ありませんか?」
「た゜、か゜、た゜、た゜、ぷがががががががが」
ずきゅーんずきゅーんずきゅーんずきゅーんずきゅーん
「きゃああああ、ごめんなさあああい、止まんなあああい」
更に更に別のユリカダーが(たまたま不注意で)フェイザーライフルを(トウジに集中的に)乱射している。
プロムナードの向こうから、エディングトン少佐がやってきた。
「どうしました。」
5人のユリカダー達は憤慨した様子で、一斉にトウジを指差した。
「「「「「この人がさっきからセクハラしてくるんです!」」」」」
「「オイ!!!」」
「分かりました。これからは気を付けさせましょう。」
「「「「「むー。お願いしますよお。」」」」」
「ちょ、ちょ待てや、お前等ほんまにパチキかましたるぞ!」
「まあまあ、今動くと穴から内臓出るから。」オブライエンを押さえるベシア。
「エディングトン君だったっけ? 何で彼等を注意しないの? 今のはどう考えても彼女達の過失だよ?」
「まだ彼女達はここの規則にも慣れていません。ですから彼女達が慣れるまでは、こちらが大目に見るようにと上からも言われています。」
「じゃあ何かい。彼みたいに蜂の巣にされても、今の間は文句は言えないのかい?」
「今度飲まれる時はその事を覚えておられた方が良いでしょう。」
「「…」」
ゲンイチロウの言葉に一人と一蜂の巣は唖然とした。
カリカリ梅を頬張ったまま考え込んでいたゴートは、アキトの言葉に顔を上げた。
「あ、ああ…すまない…考え事をしていた…」
「考え事って、美食者達の事か?」
「そうだ。…どうも私の知らない所で話が進んでいる気がする。カヤの外に置かれているようなんだ。」
「でもまあ、良く分かんないけど、和平が進むぶんには良い事なんじゃ無いのか?」
「それはまあそうだが、」
ぽろろん。
「どうぞ。」ドアに向かって言うゴート。
「おおい! 司令官! これは一体どういう事なんだよっ!」
ずかずかとやって来たのはリョーコだった。
「何だダックス?」
「何だじゃねえよ! しらばっくれんな! あたしはそりゃ歌はちょっとうるさいかもしれないが、ちゃんと仕事はしてきただろ?」
「「(うるさいって自覚あったの?)」」
「何とか言ってみろよ!」
「だ、ダックス、本当に何の事だか分からないんだが…」
「…」
ダックスはブン。と持っていたパッドをシスコに手渡す。パッドを見るシスコ。
「辞令、明後日より、リョーコ・ダックス大尉をUSSヤクマルの乗員に任命する。宇宙艦隊本部。…何だこれは。」
「何だじゃねえよ、司令官はお前だろ! お前が決めたって事じゃねえのかよ!」
「いや、ダックス、」ぴろりろりん。
「オブライエンよりシスコ司令官。」
「何だ。」
溜息を漏らしながら言うシスコ。
「司令官。ちょっとユリカダーの事で、言いたい事があるんやけど良えですか。」
どん。
「どういう事ですか。」
ナチェフの部屋にやってきたシスコは机を叩き、四つ角を作りつつ静かに尋ねた。
「私の知らない内に科学士官が勝手に異動になり、部下の一人は蜂の巣にされ、ロミュラスカは交渉の席から外し、どうにもこうにも艦隊本部の考えている事が分かりませんブルドッグ。」
「そぉんな怖い調子で迫んなくたって良いじゃぁん。」生足を机にのせ、どうやら足の爪を研いでいるらしい提督が答える。
「あそうそう、司令官、まだ言ってなかったかしら、あなたも異動よ?」
「は?」
「いや、異動っていうかぁ、そもそもイブジョー地区から連邦は全面的に撤退する事になったからぁ。」
「な、何ですって!」
「インド人がパンで転んだ。ナンで、すってん。」
「「…」」
「…字余りね…」
「「…」」
「イブジョー、ナデシコ、ボソンホールは、私達が責任を持って守るわ。」
シリアスモードになったイズミが、ゴートに言う。
「ゴーちゃん、連邦と美食者達の、友情と平和の為なのよ。」
「また、連邦も随分気前が良くなったものですね…」
「そりゃどうも。ゴーちゃん、あなたは明後日、新しい船の艦長に任命される予定よ。良かったわね。」
「…交渉団に、少し話がしたいんですが。」
「するのは勝手だけど、もう条約締結されちゃったからムダだと思うわよ?」
「…」
「おめでとう。」イズミはゴートに近づいた。
「新しい平和の時代の幕開けね。あなたが、切り開いたのよ。」
「…」
「トイレに行って尻開いたのよ。」
「「…」」
「ちょっと下品ね…」
「「(何反省してるんだろ…)」」
「ルドー。ルドー?」
周囲を見回すエリナ。しかし返事は無い。
「ルドー、あのー、私やっぱり妨害電波の発信源を突き止めに行ってくるわね。もしかしたらシャトルで探さないといけなくなるかもしれないけど。…まあ、きっとうまく行くわよ。大丈夫、心配する事は無いわ。…ルドー、あなたも頑張って。……ずっと探していた故郷が見つかって、良かったわね。じゃ私は…」
キラはふと周囲を見回し、苦笑した。
「…私もバカよね。」
エリナは誰もいない公園を後にした。
トリコーダーをかざしているキラが森の中を歩いてくると、そこに何かの建物があった。見た目はコンクリート製か何かで、倉庫のようだ。
「何なの、これ…」
呟くキラ。
「間違いなく発信源はここね…中はスキャンできない、か…」キラは扉を見る。
「何で鍵があるのかしら。」
昼食のトレイを持ってカフェテリアをうろうろしていたセイヤは、どこか楽しそうに声を掛けた。
「ここ、構わないか。」
「…ああ、ガラック。」力無く答えるシスコ。
「何だ、随分元気が無えな。目出度えんじゃないのか? 連邦もアオバシアも、美食者さん達と楽しく仲良くやっていく、って事になった訳だろ? おまけに司令官、噂じゃあんた、今度どこぞの船の艦長になるらしいな。」
「随分耳が速いな。」
「皆噂してるぜ。いや、司令官。改めて言っておくがな、司令官のここでの仕事ぶりは大したもんだったぜ。ここからいなくなると思うと寂しいな。」
「そうか。有り難う。」
イエキコーヒーを飲みつつ、ゴートは気の無い返事を返す。
「まー。でも、結構またすぐ会えるだろ? どうせこのままだとすぐここで戦争だ。何でもイブジョー政府はロミュラスカと手を結び、美食者達や連邦に抵抗する動きを見せてるらしいからな。イブジョー人にとっちゃ、また戦争になるなんざ何でもない。奴等は、結構しぶといぞ。ま、また会えるって意味じゃ、和平条約万万歳、って訳だな。」
「…艦隊本部は、気が狂っているとしか思えない。」
「おいおい良いのか、そんな事言って。」笑うガラック。
「結局お前さんは艦隊の人間だ、本部の言う事には従わにゃあならん。俺も、アオバシア政府の言う事には従わにゃあならん。ま、残念だが、諦めるより他無いわな。」
「ああ、残念だ。」
「でも、俺達には何も出来ないからな。」
「ああ、何も出来ないな。…」言ってからセイヤを見、眉を上げるゴート。
「本当に、「残念」だな。」メガネを光らせるガラック。
「ああ、「残念」だ。」
「…俺達、結構似た者同士なんじゃねえのか?」
「ああ、そうらしいな。」ゴートは含み笑いをした。
その時プロムナードをカグヤが走ってきた。
「司令官、司令官!」
「どうした!」立ち上がるシスコ。
「「「待ちなさああああい」」」
ぴぎゅん。
「きゃああっ」
ユリカダーからフェイザーを撃たれ、シスコの前に倒れ込むトゥルール。
「くっ…」
シスコはトゥルールを抱きかかえると追ってきたユリカダーに体当たりして逃げようとする。
「「「きゃあああ」」」
シスコから逃げまどうユリカダー達。
ずる
「うわっ」
「「「よっしゃ! バナナ作戦成功!」」」
「(戦前のギャグかよ…)」
ユリカダー達はゴートとカグヤを取り囲んだ。
「「「あなたの瞳を逮捕するッ。」」」
「ルドー。」
周囲を見回すキラ。
どろどろどろ。
「うわ、うわ、わわわ」
道端から現れた食用ガエルがみるみる変形し、少女の形になった。
「…ああ、少佐。」
「ルドー、ちょっと手伝ってほ」
「分かったんです、少佐。それぞれの物になって、それぞれの心になるという事が。ケロ。…今さっきまで、向こうの泥沼に戯れたり、蝿を取ったりしていました。とても雄大で、この世が全て手に取るように感じられて、ケロ。食用ガエルがこんなに誇り高い生命体とは知りませんでした…ケロ。」
「そ、そう…良かったわね…」
「今まで、自分が流動体生物である事をこんなに嬉しく思った事はありませんでしたケロ。」
キラはルドーに微笑んだ。
「…ここに、残るのね。」
「はい。」
「そう…ルドー、今までナデシコで一緒に働けて…嬉しかったわ。」
「はい、少佐。私もです。(ぽっ)」
「あの、ルドー、でも最後に、手伝って欲しい事があるんだけど、良いかしら。」
「もちろん。」
「実は妨害電波の発信源を見付けたの。」
「ええ。」
「何かの建物なんだけどね。鍵がかかってて中に入れないのよ。」
ルドーは首を傾げた。
「私達可変種は、建物も鍵も多分必要としないと思いますが…」
「でしょ? おかしいのよ。」
「分かりました。行ってみましょう。」
「おい、司令官に会わせてくれないか。」
ゲンイチロウは保安室にやってきたリョーコ、ナガレ、セイヤの3人に眉を上げた。
「そういう事は提督に話をつけてからにしてもらえませんか。」
ガラックは驚いた様子で、エディングトンの後ろに目を向けた。
「おい、あれナナ子さんじゃねえのか?」
「何ですとおおおおおおっ!」ぴしゅん。
「うあああっ」
「すまねえな、今ちょっと急いでいるんでな。」
フィギュア型のフェイザーをしまいゲンイチロウに言うセイヤ。
拘禁室へと繋がるドアを開き、ダックスがシスコの拘禁室のシールドを解除する。
「ったくつかまるんじゃねえよ、のろまが。」
「また借りが出来たか。」
「それにしてもほんと君って、こういう時楽しそうだよねえ。」
気を失っているエディングトンを物陰に運んでいるドクターは、ガラックに声を掛ける。
「そりゃおめえ、ずっとゼロゲージやロリポップを眺める毎日だと、たまにゃあもうちょっと刺激的な運動もしたくなるもんさ。」
「へえ、そりゃ何よりだ。」
ナデシコの通路を走る4人。
「まずはシャトルが無いと。」
「チーフがもう用意してるよ。暴れカンガルー砲付きでな。」
ダックスがシスコに答える。
「…随分用意が良いな。」
「ボソンホールを壊すにはそれが無きゃだろ?」
「…お見通しか。」
「しっかしゴーちゃんも運が悪いな。ステーションの司令官にまでなったのに、もう艦隊のキャリアも全部パーだぜ。」
「そんな事はどうでも良い。ただ私が残念なのは、ゆめ星雲のおもいやり星が」
「下らない事言ってる場合じゃ無えだろ! 全員死ぬ確率の方が高えんだぞ!」
「「あ、ああ。」」ガラックの言葉に頷く2人。
「それにしてもホントにここ臭いわね。この腐敗臭って何なのかしら。」
「そんなに臭いますか。」
「ええ。まあ、どの星にも特有の臭いはあるっていうけど、ここは酷いわね。…ああ、これよ。」
建物に近づく2人。
入り口のドアをしげしげと眺めるルドー。
「見た所この鍵は、中にいるものを外に出させない為の物のようですね。」
「開けられる?」
「やってみましょう。」
ルドーはキラに頷くと、手をスライム状に変化させ鍵穴に流し込んだ。
「「「待ちなさああああい!」」」
「やべえ、ユリカダー達だ!」
通路の角に隠れる一行。しかしドクターが急に歩き出し、残りの3人にフェイザーを向けた。
「君達武器を捨てるんだ!」
「…」「お、お前、裏切りやがったな!」「ほう…」
「無駄口は叩かない。ほら、早く!」
「「「…」」」3人は手持ちのフェイザーを落す。
「君達、聞いていなかったかな? 僕が彼等を美食者達までエスコートする役だったんだけどねえ。」
「「「いいえ?」」」首を振るユリカダー達。
「信用出来ないなら確かめ給え! コンピューター、惑星連邦評議会議長監査人、即ち惑星連邦のオーナーの名前を述べよ!」
ぴぴ。
「ドクター・ナガレ・ベシアです。」
「「「「「「えええええええ」」」」」」
「はっはっは、これで分かったかい。さあ安心して!」
ぴぎゅ、ぴぎゅ、ぴぎゅん。
振り返るベシア。
「「「きゃああああっ」」」
「失神していてくれ給え。…さあ皆行くぞ! 時間が無い!」
「…なあ、時間が無いなら別に肩書き言う必要なかったんじゃねえのか?」
「さあ…」囁きあうリョーコとゴート。
「ふっはっは、いやー愉快ゆかぐあああっ」
ぴぎゅん。
新たにやって来たユリカダーに撃たれるドクター。
「お、おい、ドクター!」セイヤが駆け寄る。
「あ、あは…ガラック…今日の昼は、君とのミニ4バトルは、出来そうにない…よ…かはっ」
「ドクターああああっ!!」
ぴぎゅ、ぴぎゅん。
「お、おい、行くぞ!」リョーコに引っ張られるセイヤ。
ずーん。
ランナバウトに乗り込んだ3人に既にいたトウジが頷く。
「司令官、いっちょ、パチキかましまひょ! あれ、ドクターは?」
「残念だな。ドクターは来ねえよ。」
「そうか…」ガラックの言葉に顔を曇らせるオブライエン。
「…ツルミガワ、発信準備完了したで!」
「よしチーフ、全速でボソンホールへ進路を取ってくれ。」
「了解!」
USSツルミガワはナデシコから発進した。
「司令官、ナデシコ司令室から通信だ。」
「分かったダックス、スクリーンへ。」
モニタには青筋の立っているナチェフ提督とウクレレらしき物を持って笑っている(らしい)ウェイユーン大使が映っている。
「ちょおっとゴーちゃん、何バカな事やってんの! 今すぐ戻って来なさい!
戻ってこいorよさこいor dieよっ!」
「バカが見るブタのケツと言われてもー。ポークカツレツいとおいしー。♪」ぽろろん。
「司令官。従っておいた方が身のためよ。美食者は裏切り者は許さないわ。」
「しかしウェイユーン。残念だが君達は後70年は援軍は呼べないぞ。…通信を切れ。」
ランナバウトはボソンホールの入り口近くに到達した。
「ボソン粒子反応増大! 入り口が開くぜ!」
彼等の目の前に巨大な青い渦が広がる。
「ダックス、暴れカンガルー砲発射!」
きえーん、きえーん。
ずが、ずが、ずがががーん。
耳をつんざく大音響と、ランナバウトを襲う震動と、目も眩むほどの光。そして虚無。
クルー達の乗るシャトルを前にして、ボソンホールは爆発、消失した。
「あ、開いた。」
ルドーの呟きに身構えるエリナ。ルドーが扉から手を離すと、建物の扉が開く。
ずーん。
「「ようこそ。」」ニコッ。
扉の向こうには2人のユリカダーが立っていた。
「「どうぞ、こちらへ。」」
「「…」」
フェイザーライフルをつきつけられ、仕方無しに中へ歩いていくキラとルドー。
大きな部屋にやって来た2人は、目を見開いた。
「これは…」
「あら、カンが良いわね。もう気付かれたわ。」
キラに微笑んで言うのは、耳と髪のやたらと長いエイリアンだった。
「ウェイユーン! 彼等に何をしたの!」
部屋にはゴート、ナガレ、リョーコ、トウジ、カグヤ達が装置の上に寝かされ、頭に何やら被されている。
「安心しなさい。ちょっとデータをとっていただけよ。傷つけてはいないわ。」
「実験?」
「シミュレーションよ。私達がアルファ宇宙域に進出した場合の彼等の反応を知りたかったの。まあ正確には、ゲーム用のデータをとっていただけなんだけどね。」
「100キロ進んで夢オチですか。」
ぼそ、と呟くルドー。
ぎく
「な、わ、悪かったわね。そうよ! 夢オチで何が悪いって言うのよ!」
はっ
「僕と一緒に逃げよう! それは」
「駆け落ちね?」四つ角を作りつつイズミを遮るエリナ。
「ちっ…」
「実験の結果は?」
「どうも、意外に彼等は、ここぞという時に頑固になるわね。」
「それを聞いて安心しました。」
答えるルドーはふと、イズミの後ろの人物を見た。
「あなたは…」
ルドーの見る方向を向き、眉を上げるエリナ。
「まさかあなたも、美食者の一員だったの?」
そこには可変種の女性がいた。女性は笑うように肩を上げる。
「いいえまさか。私は「一員」なんかじゃないわ。」
「私達が美食者。ガンマ宇宙域の美味なる物を求める旅人。全てに秩序をもたらす支配者よ。」
「あなたが、美食者…」繰り返すキラ。
「説明しましょう。美食者というのは、あくまで私達レサンジュ星雲の可変種の事。そして私達や彼女達マキルタ人、ユリカダー達等を総合した繋がり、言わば一つの国家には別の名前があるの。それは即ちドミネソン。」
「ドミネソン…」
「でも何で、何で、あなたが他の人達を支配なんてしなきゃいけないんですか。この人達は良い人達なんです! おおむね!」
「ちょっと面白そうだからゲームのデータをとってただけじゃない…それにルドーちゃん、固形種は私達にとって危険な存在なのよ。彼等は常に混乱とカオスの中にいるわ。彼等を正しく導くのが私達ドミネソンの努めなの。」
「違う! こんなの間違ってます! 私はずっと、正義の為に仕事をしてきました。こんな身勝手な秩序の為なんかじゃ、ありません!」
「ルドーちゃん、あなたはずっと固形種の中にいたから考え方が歪んでしまっているのね。でもあなたも、偉大なる繋がりの一部になれば、私達の言っている事が、分かるはずよ。」
「そんなの、分かりたくありません。」
「…」
「確かに、私のふるさとはここかもしれない。でも、彼等も大切な仲間なんです。見捨てる訳にはいかないんです。」
「…」
「ルドー…」
キラが呟く。
「…お願いします。彼等を解放して下さい。」
「…分かったわ。あなたの頼みじゃ嫌とは言えないわね。」
「美食者様! まだサードステージ分までしかデータをとっていません!」声を上げるイズミ。
「良いのよ。ルドーちゃんの言った通り彼等を解放してちょうだい。」
「わ、分かりました。」
ユリカダーに頷き、装置を外させるウェイユーン。
次々に目が覚めるクルー達。
「…ここはどこだ? …キラ! ルドー!」
「ウェイユーン、どうしてお前がここにいるんだよっ!」
「どないなっとんねん? ボソンホールを壊した所から先の、記憶が…」
「わたくしは、プロムナードで撃たれた所で記憶が…」
「あれ? 生きてる。良かった、良かったー。部屋にガラックの生写真出しっぱな…あ」
「「「「え?」」」」
「有り難う。」
「ルドーちゃん。次来た時は、こんなに優しくは出来ないわよ。」
ルドーは優しく語る女性に、無言で頷いた。
「ルドー、これは一体どういう事なんだ?」
「司令官、後で説明します。…船は?」
「この星の軌道上に、無傷でとめてあるわ。」
「司令官、エステバリスへ早く行って下さい。今すぐです。」
「…」キラの方を向くシスコ。頷くキラ。
「…分かった。シスコよりエステバリス。5名収容。」
ぴぎゅいいいいいん。
彼等は軌道上の船に転送されて行った。
ルドーと女性は外の道を歩いていた。
「まだ、良く分からない事があるんですが。」
「何ルドーちゃん。」
「どうして、美食者なんですか? 私達可変種は、食べ物の味なんて分からないはずなのに…」
「でも、あなたはここに来る時、何かの味を感じて、本能的に来たんじゃないかしら?」
「え?」目を見開くルドー。
「…いいえ。ただ、ミカンの匂いにひかれて来ただけです。」
「同じ事よ。どうしてかの科学的な説明は省略させてもらうけど、どうやら私達美食者には遠くの物の味、匂いを感じる、言わば一種のテレパシー能力のような物が備わっているようなのね。」
「…」
「あなたもドミネソンの一員になるつもりは無い?」
「いいえ。結構です。私には、アルファ宇宙域の仲間がいますから。」
「そう。残念だわ。…それじゃ今度は、私達がアルファ宇宙域にも秩序を与えに行かないとね。」
「難しいと思いますよ。彼等は頑固ですから。」
「それはやってみなきゃ分かんないわ。ゲームみたいに簡単には、いかないものよ。」
「…」
2人は例の大きな池、「偉大なる繋がり」の岸辺に立った。
「最後にもう一つ、良いですか。」
「何?」
「少佐が言うには、ここはとても腐敗臭がするそうですが、何故なんですか。」
「ああ。それは、これの匂いよ。だってこの偉大なる繋がりは、古代の生物の嘔吐物が源だから。」
「え?」
「つまり偉大なる繋がりは、つまり、私達美食者は、誰かのゲ○が原料だという訳。まあそうね、だからこそ私達は本能的に美食を求めるのかもしれないわね。」
「…」
「ルドー、向こうでも、元気でやっていくのよ。」
どろどろどろ…
池にとけていく女性。
「…そ、そ…そんな…」
ルドーの後ろからエリナが声をかけた。
「ルドー。そろそろ…」
「え、ええ。」動揺を隠し切れない様子のルドー。
エリナはルドーに歩み寄った。
「キラよりエステバリス。2名を収容。」
キラはルドーにニヤリ、と笑った。
「聞いたわよ。今度から名前をゲローにか゜はぁっ」
ぴぎゅいいいいいいいん。
一人と一串刺しは船へと転送されて行った。
つづく?
次回予告
ついにアキトと結ばれ、天河旅館にやってきたユリカ。しかしそこでは姑、イネスの執拗なイビリが待っていた。本社のエリナから怒鳴られ、同僚のメグミからみくびられ、義理の姪のルリにまで馬鹿にされる毎日。ユリカは不満をアキトにぶつけるが、母親にべったりの彼は相手にしない。絶望するユリカ。エリナの恋人ナガレに誘惑され彼女はデートをするが、翌日その事がばれ、彼女は旅館を追われるのだった。次回「千秋は三十路」第376254498話、「モンブランケーキはソバ・マロンに改名」。御期待下さい。
「くぉらあああああああああ!」
「耳が、耳がキンキンする…」
「何ですかこれわあっ!どうして私がアキト達の敵になってるの!」
「仮死状態で全裸のさらし者にされるよりは良んじゃないっすかあ?」
「う゛。…お、お腹が…」
「お腹っすか。」
「冷える…」
「冷えるんですか。」
「…でも、もう何か凄くプンプン! 映画じゃ出番をどこかのパチレイに取られるし、L…ええと、L、Y、Aよね。」
「リャがどうかしましたか。」
「そんな読み方するなっ!」
「それはだって、艦長、いやユリカさんがそんな日本の景気並にどん底の知性だから出番も取られるんじゃないですか。」
「め、メグミちゃん。」
「私はLYAでも何でも良いです。だって、結局最後にアキトさんが帰ってくるのは私だから。(にやあっ)」
「メグミちゃん、諦めたんじゃなかったの?」
「…フッ。」
「あ、たくらみ顔。」
「脇役の皆さん、一体何を話されているんですか?」
「あーあー。」
「「ゲローは黙れ!」」
「…作者さん?」
「あ、いや、何しろギャグ連載な物で。あは、あはははぐはっ」
「と言う訳で、次回、ミス・DSナデシコ選手権を開催しまーす。有明ビッグサイトで10月1日より3日間開催どぇえす。」
「ほんと、ユキナちゃん!」
「もちろん! チケットの方はチケットぴあ、チケットせぞんにて只今」
「嘘つくなああああ」
「あ、ところでルリちゃん、私が寝てる間に、小遣い欲しさに何か変なビデオに出てたってホント?
ユリカすごく心配。」
「ユリカさん? 私は、ユリカさんの方こそ変なアルバイトをしているって話に聞きましたけど…」
「え゛?」
「…くっくっくっ、悪い事は出来ないな、ヒカル。」
「りょ、リョーコ!(汗)」
「え? ヒカルちゃん? 一体どういう事なんですかああっ!」「ですか。」
「…わ、私はただ…(えーと…)あ、アキト君の、リクエストで(はらっ)…」
「お、俺か!」
「あああうっ、あぎどうっ! いたのねっ!(喜)
そういう事なら大歓迎です、一発でも二発でも」
ぼこっ
「いったあい。」
「ああっもうアキトアキトアキトアキトうるさいのよ!
もう1回死んでろ!」
「アキト君、その変なマント、暑くないの?」
「え? いや、ミナトさん、これは…」
「テンカワの格好にそんなケチつけなくたって良いじゃねえか!」
「「へえー。」」
「…え、あ、い、いや、これはつまりだな、」
「バカばっか。フケてるのに進歩なし。皆バカ。」
「作者さん、今度私も出て、良いですか。」
「説明しましょう。ラピス・ラズリちゃんが言ってるのは今度私もビデオに出て良いですかという中々積極的な」
「違います!」
「え、じゃあマントを被りたいの?」
「もっと違います!」
「どう収拾付けるんだよ…」
「靴が二足でシューシューね。」
「「「「「「「「「「「「…」」」」」」」」」」」」
「収拾、ついたね。」