篠のカゴのようにクネクネとしたアオバシアンアールデコ調の形の宇宙ステーションに、1隻の連邦船がドッキングしていた。
「ほら、ちょっと、少佐、お客様が来てる時位音楽消してよね。」
「ニトロぉグリセリン、飲み干ぉしてぇー、ここでぇ爆死ぃのぉ、恋岬ぃい」がごしゃん。
「…」「…」
ラジカセのカセットデッキ部分をトーキックで砕くキラ。スイッチが切れたように動かなくなるダックス。
「…彼女は、大丈夫?」ややゴツイ、武道に強そうなコワモテの女性が、それまでうるささに押さえていた手を耳から離し、キラに尋ねる。
「あ、あは、ええ、全く気にしないで大丈夫ですわ。少佐はちょっと今、体調が良くないみたいで。ごめんなさい、うるさかったでしょ? えーっと、ところでスカリーさん、その額の傷は…」
「残念ですが、私達に無駄話をする暇はありません。シスコ司令官はどちらに?」
司令室の一角で周囲にダイアモンドダストを撒き散らしスケッチ調の絵柄になっているダックスを横目で眺めつつ、スカリーの隣の男性が聞いた。
「…そちらですけど。」
微笑を作りながら司令官室を手で示すエリナ。
「どうも。」
2人はエリナに儀礼的に一礼すると、司令官室へ向かった。軽く溜息を吐くエリナ。
「連邦時間調査課のオカ・モルダーです。」
「同じく、サヴァ・スカリーです。」
「ナデシコ司令官のゴート・シスコです。よろしく。」
3人は会釈をして椅子に座った。
「何か飲み物等、如何ですか?」
無毛絶壁は作り笑いで彼等に聞く。
「ああ、それなら」「いいえ、必要ありません。私達に必要なのは上辺の儀礼ではなく、議論を行う上で共通の土台を築く為の相互の信頼と誠実さ、なんです。分かりますか?」
微笑んで答えようとしたサヴァを遮ってオカが答えた。
「別に、そんな言い方しなくても良いでしょう? ただ飲み物を勧められただけでどうしてそういう台詞になる訳?」
「先に問題となりうる点を全て議論し尽くした上で話を聞きたいのさ。僕は君みたいに、いざとなると「暴力的恫喝」を用いて話を進めるようなマネはしたくないからね…お陰で今まで何人死んだ事か。」
「え゛。」
「ちょっと、誤解されるような言い方しないでくれない? 私はただ、ずっと嘘を言い通すよりはその方が被疑者も罪の意識にさいなまれる事も無くて良いだろうと思って嫌々やってきているだけなのよ?」
サヴァはつややかなブラウンのヘアーをかき上げる。
「その君の親心で、あのラクリマ6号星の12万人大虐殺が起きる訳だ。あの時の血まみれの君の楽しそうな顔といったら。人間の腸にああいう使い方もあるんだって、つくづく感心したよ。」
「あれは、ちょっと…」口ごもるスカリー。
「今頃そんな話は良いでしょ。それよりモルダー、あなたの方が色々言われているんじゃない? 血も通っていない官僚主義者だとか、美人の奥さんがいると妄想を口にする自称「大物捜査官」だとか…」
モルダーはスカリーの言葉に声を強ばらせた。
「誰も大物だなんて言っちゃいない。」
「言ってなくても、あなたのその尊大な態度が皆の神経を逆なでしてる、って事でしょ。」
オカは溜息をついた。
「それに、僕の事は良いが、彼女を悪しざまに言うのは、やめてくれないか。僕の妻は、今も間違いなく生きている。彼女がどうなったかを探せるのは、僕しかいないんだよ、スカリー。」
「……そういう顔も出来るんじゃない。」
何故か頬の赤くなっているサヴァは視線を逸らし、独り言のように呟く。
「良いか、僕のアス…ああ、失礼。見苦しい所を見せてしまいました。本題に戻りましょう、時間も無い事ですし。」
頭に紙やすりらしき物を当てて手入れ(と言うのだろうか)をしだしていたゴートは、唐突なオカの言葉に慌てて頷く。
「あ、ええ、(ごりぶしゅっ)それで、どこから話しましょうか。(ぴゅーっ、しゅばあああーっ)」
出来立て飲むかの如くしぶきをあげるシスコにモルダーが答える。
「最初からですよ。…良いですか、私達があなたに話を聞きたいという時、あなたが事情の一切を説明するのだという事は常識として」
「(ゴホン)司令官、そういう事ですから、詳しい説明をお願いしますね。」オカの言葉をサヴァが遮る。
「分かりました。(じゅるじゅるじゅるううううーっすぴょっぴょっぴょっ)」
「それではまず、あなた方が過去に行った理由からお聞きしましょう。」
「理由は、偶然、ですが…」
「意図して行った、なんて事は無いわよね? 何か隠してるんじゃない?」
髪をいじっているスカリー。
「とんでもない。」
「そう。なら良いわ。…これから聞く説明が妙だったら、この場で叩き斬れば良いだけなんだし。」
サヴァの微笑に、ゴートは顔を引きつらせた。
「それで、どういったお話なんですか。」
「れ、歴史を越えたヒステリー、とでも言いましょうか。」
ゴートがオカに答える。
「「…」」
「あ、いや、失礼、ヒストリー。」
「…冗談ですか?」眉を上げるオカ。
「いいええ。」ぷるぷるぷる。
ゴートが微震動を起こす。
「それは良い。私達は冗談も嫌いでして…」
「あら、私は冗談自体は好きよ? ただモルダー、あなたのいつもの冗談が、致死的につまらない、って言ってるだけ。」
「「…」」
バチバチ、バチバチ…
「…話を続けてもらえます?」何やらオカと視線の火花を交わしていたサヴァが、ゴートに向かって再び微笑む。
「あ、ええ。話は…2週間前に、さかのぼります。…アオバシア政府から連絡があり、チューリップの1つを返還したいという申し出があったのです。」
どうやら噴水も止まったらしいシスコが赤く染まったまま素で答える。
「…チューリップ?」
「現在ボソンホールに住む古代イブジョー人達が残した恥垢の結晶で、現代イブジョーの宗教では神聖なものとして崇められているわ。」
スカリーがモルダーに説明する。
「チューリップにはそれぞれ特性があります。預言のチューリップ、メリーさんの子猫のチューリップ、メイド少年のチューリップなど…そして私達が受け取ったのは、時間のチューリップでした。」
目を見あわせるオカとサヴァ。
「と言っても、その時私達はその事を知らなかったんですが。」ゴートは付け加えた。
−エステバリスでアオバシアステージに到着した私達は、そのチューリップが本物であるかどうかをまず知る必要がありました。長年偽物が出回っていたんです。その為受け取ったチューリップは、イブジョーで鑑定を受けるまでは厳重に保管する事となりました。一方、私達はアオバシアで、予期せぬお客ものせる事になりました。−
休憩室にやって来た初老の地球人男性が、彼等を見て顔をほころばせた。
「地球人だ! また「普通」の顔の方に会えるとは、夢にも思いませんでしたよ!」
テーブルに座っていたトウジとナガレが、ぽかんとした様子で彼の方を見る。
「彼はデ・バリー氏だ。アオバシアとゼレンゴンの戦いで捕虜となっていたので、連邦に連れて帰るのだ。」
男の横に立っていたゲォーフが説明する。
「ロバートです。ロバ娘。と、呼んで下さい!」
2人に握手を求めるデ・バリー。
「ご丁寧に、どうも。」「もうかりまっか。」
ドクターとチーフは彼と軽く握手を交わした。
「ぼちぼち、ですかな。実は私、ウミウシや人食いクリオネ、あとエルティーンやブランチのタマちゃん等を専門に取扱っている商人でして。…あ、よろしいですか?」
娘。は壁のレプリケーターを指差す。
「どうぞ。」肩を上げるナガレ。
「じゃ、遠慮無く。イエキコーヒー!」
しゅわああああああん。
レプリケーターに現れた黄色の液体のビーカーを、ロバは嬉しそうに抱えた。
「ああ、この香り。たまりませんな。アオバシア人が毎朝何を飲むと思います? スエットですよ。つまり他人の汗。まあ、あの生ぬるさとしょっぱい臭いの気持ち悪い事と言ったら…全く、アオバシアなんかゼレンゴンに占領されれば良いんですよ。少なくとも彼等なら、コーヒーの作り方は分かっている。まあ、所詮奴等もイカ臭い露出狂の変態どもに過ぎませんが…」「…」
デ・バリーはふと横の士官の視線に気が付いた。
「う、あ、し、失礼。」
そそくさとその場を立ち去るデ・バリー。
「…まさか、一々気に病むようなタマじゃないだろう? 見逃してやって貰えるかな。」
ドクターが軽く笑いながらゲォーフに声をかける。
「…気に等、してはいない。」
どこかすねた声のゲォーフ。
「そうですわ、それどころか、わいら、少佐の匂いなんか好きでっせー。こう、胸洗われる、言うか…」
「ああ、その通りだね。君の香りは、そう、ワックス雑巾の腐臭に勝るとも劣らない…」
「(ドクター、そら逆効果や!)」チーフが小声でドクターを止める。
「ふむ、そうか?(ぽっ)」
ぽおおおおーっ。(うっとり)
「…」「…」
−ゼレンゴンを避ける為遮蔽をしたエステバリスは、アオバシア領域を離れ、私達も一安心していました。−
「見たってください。今度ゲォーフに会うたら言うたりますわ、「何やここ、最近大掃除したんか?」言うて。」
「あんまりあたしの可愛いゲオピーをいじめないでくれよな。」
笑いながら首を振るリョーコ。
「別に、そんなつもりで言うた訳や…」
「あんまり気を持たせるような事言ってっと、お前の事、本気にするぜ。」
「え?」
ぴっ、ぴっぴっ。
「そういえば司令官、アマノーグ君が今度艦隊のアカデミーに行くって言ってたけど、それ、本当なの?」
ベシアがコンソールを操作しながら艦長に聞く。
「ん、ああ。合格すれば史上初のフェレンスケ人士官候補生だ。」
「へえ…」
「あの出歯亀達が連邦の一員になるとは、他人事ながら御愁傷様ですわ。」
バカにした様子でトゥルールが首を振る。
「ま、フェレンスケ人が士官になるっていうのは、面白そうだし、別に良いんじゃない? ただまあ、まさかあのアマノーグ君がなるとはね。…ここの主要プログラムが、全部やおい物に書き換わりそうな気がするのは気のせいかな?」
「…今だって、イブジョー式に美少年がうじゃうじゃ出て来るプログラムだ、大差無えだろ。」ナガレの言葉に呟くリョーコ。
「気のせいなんて事はないぞ。」シスコはドクターに微笑んだ。
「彼女が士官となった暁には、連邦の全てのコンピュータープログラムに何らかの形でLGAを入れるよう努力してもらうという事は既に個人的に確約を…」
びしゅん、びしゅん、びしゅん、びしゅびしゅびしゅびしゅん、びしゅん、びしゅん、びしゅびしゅびしゅん、びしゅん。
突然、ブリッジ内に震動が起き、黄色の光に包まれ、そして数秒後元に戻った。周囲を見回す艦長。
「一体何が起きたんだ?」
「大量のTMR改めteogTMRettD反応が検出されてまっせ!」
「なっがー。」素で返す艦長。
「原因状況一切不明、センサー反応無し! ワープ航行不能!」首を振るダックス。
ぴぴ、ぴ、ぴ。
「センサーの反応が戻って来たみたいですわ。」
報告するトウジ。
パネルの数値に、リョーコは目を広げた。
「ゴ、ゴーちゃん。一体、こりゃあ…」
「どうした、何があったんだ?」
「ナビゲーショナルコントロールの故障でない限り、あたしらは、先程の場所から200光年離れているぜ!」
「何だって? それはまさか、200光年離れたという意味か?」
「…」
返事の代わりに艦長を哀れみの目で眺めるリョーコ。
「何者かが遮蔽を解除していますわよ!」カグヤが声を上げる。
「どこかに、転送が行われてまっせ。」
「ん、うむ、再び遮蔽するんだ!」
「あ、前方に船がいるぞ、ゴーちゃんよ。」
「船? 船種の特定は出来るか?」
「今調べてる。随分接近してんな…」
「艦長、何とか映像回線が回復しそうでっせ。」
「モニターに船を映し出してくれ。」
「了解。」シスコに頷くオブライエン。
ざざ…ざざざざ…ざざざ…ざ…
砂嵐になっていたモニタがノイズ混じりの映像を映し出し、やがてそのノイズも消え鮮明な画像がクルー達の前に現れた。
ズラのずれたリョーコが呆然と口を開く。
「あれは…」
目の前には、暇を持て余した小学校低学年が適当にチラシを切って作りました風の宇宙船が(奇跡的に)浮かんでいた。勿論外壁はマーク・パンサーの肖像画だ。
「うぐぅ。エバンゲリオンだな。」
黒ハゲウエディングドレスが呟いた。
Evan Trek Deep Space Nadesico 2nd Anniversary Special
エヴァントレック ディープ・スペース・ナデシコ 2周年記念特別変
Mojabbles and Monomaniacs
「伝説の電波へ」
「ふーん…ってウエディングドレスぅ?」
声を上げるスカリー。
「厳密に言って下さい大佐、どのエバンゲリオンですか。今までに4隻あるんですから。」
「…5隻よ。」
オカの言葉をサヴァが訂正する。
「最初のエバンゲリオン、零号機です。ドリルプリンセス級の。」
サヴァとオカはゴートの言葉に軽く目を合わせた。
「ああ、あのヒデオ・D・カーク船長の船ね。」
呟くサヴァ。
「正に伝説の方です。」
既に固まりつつある血の巨大カサブタを崩しつつシスコが頷く。
「通算7830回の時間法違反、免許失効983回、寝起きどっきりのレポーターを211回務め、SPA!の「金を貸したくない男」連続21回ランクイン、ベストジーニスト賞6回…」
「過去、最も私達を悩ませた男だ。」オカがサヴァの言葉を継ぐ。
「着いた時間は?」
「宇宙暦4523.7でした。」
「105年1ヶ月12日前か。」
「金曜日ね。確かおひつじ座のラッキーアイテムが保険証。」頷き合うモルダーとスカリー。
「…」
「それで、エバンゲリオンは何をしていました?」
−エバンゲリオンは当時の連邦とゼレンゴンの国境付近にあったK2という宇宙ステーションの軌道を周回中でした。エステバリスでは、何者かが警備員を襲い、キャビンに侵入した事が判明しました。そしてその犯人が誰かも、すぐに分かったのです。−
「彼の本当の名はズルキ・ダービン。地球人に見えるが、連邦のデータベースによるとゼレンゴン人だ。」
ロバート・デ・バリーの映像を前にゲォーフがクルー達に説明する。
「上手く化けたわね。」
彼に軽い怪我を負わされたらしいエリナが、苦々しげに言う。
「彼は明らかにチューリップが目的でこの船に乗ったのでしょう。」
エリナに頷き話すルドー。
「で、どうしてこの時代に来たんだい?」
「説明する。」ゲォーフがどこからか指し棒を取り出し、画面に当てる。画面には現在のダービンの横に、100年前の彼の姿が映し出された。
「この時代の彼は、K2にゼレンゴンのスパイとして現れているのだ。」
ルドーがゲォーフを引き継ぐ。
「記録によると、彼はこの時代の連邦とゼレンゴンの国境紛争でゼレンゴンに優位な立場を得させる為、連邦の食料に毒をしかけます。具体的にはこの基地に保管されていた、いえ、保管されている、新種のとんこつスープに、アサヤミンという毒を仕込んだのですが…」
「…とんこつスープって、何?」
怪訝そうに聞き返すキラ。
「当時の連邦の主要な産品の一つで、白くてとろ味のあるスープだそうです。」
「…」
「…あくまで食料だぞ、少佐。」
「何だ。」ゲォーフの言葉に、急に興味を失った表情になるキラ。
「…仕込んだのですが、今から18時間後にエバンゲリオンのカーク船長が彼の行為に気付き、事故は未然に防がれました。」
「そして彼は逮捕され、ゼレンゴンの諜報部からも見捨てられ、後の100年の間地球人の商人としてのうのうと生きてきたらしい。」
「そして最後には、皮肉ですけど、ゼレンゴンのアオバシア侵攻で捕虜にされてしまったんです。」
ゲォーフとルドーの言葉に頷くシスコ。
「つまり、チューリップの噂を聞いて、この時代に戻れると考えたんだな。」
「一体彼の目的は何なのかな? 昔の自分に合って警告でもするのかい?」
「あるいはカーク船長を殺す為かもな。」
ダックスがベシアに言う。
「いずれにしろ、ダービンを探して彼の行動を阻止しないと危険だ。歴史を変えてはいけないからな。ダービンがどこへ転送されて行ったかは分かるか?」
ルドーは首を振る。
「転送のログは、抹消されていて分かりません。」
「行ったのはエバンゲリオンかも分からんしK2かも分からん言うことやな。」
トウジに頷くルドー。
「追跡するぞ。」ウエディングドレスが立ち上がった。
「ただし、異文化との接触は最低限にするんだ。帰ってから時間調査課とゴタゴタを起こしたくはないからな。」
「あそこの連中病院からカルテが出てるって聞いたぜ?」
ゴートはリョーコに肩を上げて見せる。
「だったら、なおさら来て欲しい連中じゃないだろう?」
「要は、わいらも100年前の衣装を着て、この時代に馴染まなあかん言うことでんな。」
旅人風の服に着替えを終え、廊下に出て来たゲォーフは、シスコの様子に血相を変えた。
「ど、どうした、大佐!」
「うう、ぐすっ、ぐす…」
廊下の隅でちぢこまっているシスコが、涙を拭いながら話し出す。
「だ、だって…レプリケーターに23世紀風の男性士官の着るウエディングドレスを出せ、って言ったのに、そんなのは無いって言われてぇ、じゃあぁ、略式のベールだけでも良いって言ったらそれも無いって言われてぇ、こんな普通の服じゃ嫌だって言ったのにぃ、無視されてぇ、」
「大佐…し、しかし私はそんなピュアな大佐が」
「ああ、中々2人とも似合ってまんな。」
後ろからオブライエンが笑って話し掛ける。
「むう…」まるで邪魔者が出て不満であるかのような表情のゲォーフは、ふと2人の服を見比べた。
「あなた方2人の色は間違えていないか?」
「少佐も、連邦の歴史には疎いみたいでんな。」
赤い制服のオブライエンが笑う。
「この時代の連邦では、技術士官は赤、指揮官が黄色の制服だったんだ。」
知らない内に立ち直ったらしいシスコが、自分の黄色の制服を引っ張りつつゲォーフに説明する。
「そして女性士官はスカートだった…はずだよな?」
彼等が声の方を向くと、リョーコが何やらワナワナと震えている。どうやらジョニーは御機嫌斜めのようだ。
「普通はねえ。でも君みたいな男勝りでショートカットの女性は、この時代では目立ちすぎるんだよ。だからぼがぼごぼっ」
背後から喋ってやってきたドクターを取りあえずカモシカの如く蹴り上げているダックスの制服は、男性用の物であるように見える。
「む。少佐、斑点を消したのだな。」
「あ? ああ。…こうすりゃ、地球人に見えて目立たないだろ?」
ゲォーフに頷くダックス。
「…そう…だから、立派な地球人男性しかごぼ。」
最後の言葉を言う前にリョーコに踏み潰されるナガレ。
「うむ。なかなか切れが良いな。」
クルー達は転送室に集まっていた。
「エバンゲリオンは旧式の触覚センサーを使っていますさかい、スキャンサイクルの間を使えば遮蔽解除はしばらく可能です。」
オブライエンがモニタの表示を指差して説明する。頷くトゥルール。
「その間に転送は出来るか。」
「問題ありまへん。」
「分かった。それぞれ任務を分担しよう。私とダックスでエバの第4デッキより後ろを探す。ドクターとチーフは第21デッキより前を見てくれ。ゲォーフ、K2は?」
「基地の大半は倉庫と工場で占められており、居住地区は少ない。」
「警備もエバンゲリオン程厳重ではないですから、捜査は難しくないでしょう。」
ゲォーフの言葉を補足するルドー。やはりこの時代の旅人風の服装だ。
「そうか。…怪我の事もあるし、キラは船を守ってくれ。トゥルール、君は…」
「助ける義理はありませんわ。」
「そう言うと思ったよ。それから全員、くれぐれもこの時代のクルーと接触はするな。」
「大佐、ぼちぼち転送の時間です。」
オブライエンが声をかける。
「そうか。ダックス。」ゴートとリョーコは、転送機の上にのった。
ぴぎゅいいいいいいん。
ぷしゅうううっ。
オレンジ色の自動ドアが開く。ターボリフトから降りてきた黄色の服と青の服の2人の「男性」士官が、タペストリーで埋め尽くされた周囲を物珍しそうに見回しながら、エバ零号機の通路を歩き出していた。
ぴぎゅいいいいいいいいいいいいん。
エバのターボリフトの中に縦線状の複数の転送光線が現れ、やがて人の形となる。
「それじゃあとっとと始めちゃおうか。」23世紀風のトリコーダーをかざしながら言うナガレにトウジが頷いた。
「第21デッキ。」
ターボリフトは動かない。
「「…」」
「あー、第21デッキ、行ってくれんか。」
顔を見合わせる2人。
「…この、手すり棒につかまりながら言うと良いんじゃないかな?」
壁から突き出ているレバーのような棒を指差すドクター。
「ああ、なるほど。…ターボリフト、第21デッキ。」
しかしやはりターボリフトは動いていないようだ。
「「…」」
肩を上げてみせるドクター。
「はよ第21デッキ行きさらさんか言うてねん我ぇ!」
怒鳴り出すチーフ。
「あるいは本物の関西弁じゃないと、反応しないのかも?」
「さあ、この時代のターボリフトの乗りかたなんて習った事あるか? 機械の故障かもしれんな…」
チーフは困った様子で壁についた操作パネルを恐る恐る調べ出す。
ぷしゅうううううっ。
「「!」」
開く扉に慌てて素知らぬそぶりになる2人。
「…」
1人の女性士官が入ってきて、ターボリフトの扉が閉まった。2人を背中に前を向く士官。
「15デッキ。…乱交光一君、萌えーっ!!」リフトの一角に、女性士官が力任せに叫ぶ。動き出すターボリフト。
「…」
「…そんなん分かるか言うねん…」線目のトウジが呟く。
ダックスとシスコは廊下を歩いていた。何人もの乗組員達とすれ違う。
「それにしても混んでいるな。」
「ああ、当時は緊急時には食…あ、いや、」
「な、何だダックス?」
「あ、あー、あそこに補助通信パネルがあるぜ。あそこで修理のふりをしながらスキャンをやらないか?」
「…」
何故か声の上ずったリョーコが通路の脇の物陰にゴートを連れて行く。
パネルの前に来る2人。シスコがパネルを外し、中の回線に手を触れる。その横でトリコーダーを取り出すダックス。
「くうっ。懐かしいぜ。このタイプはあたしも当時使っていたからな…なあ、23世紀式デザインって格好良いと思わないか? この青とオレンジのポップな色使い、2、3個しかない上に何の説明もついてないスイッチ群…」
頬擦りをしだす少佐。
「…ダックス。」
「…わ、悪ぃ。」シスコの視線に照れたように頭をかき、ダックスがスキャンを開始した。
ルドーはK2の廊下を歩き回り、カフェテリアらしき場所に辿り着いていた。カウンターから離れた壁際の席に座るルドー。彼女は23世紀風トリコーダーを取り出し、周囲をスキャンしだした。
「あのう。」
「…はい。」とっさにトリコーダーを隠したルドーが声のした方を見る。
「ご注文は何でしょうか? 今ならこちらのミミズバーガーセットがお安くなっていますが。」
笑顔の地球人女性のウェイトレスが、何やらピンク縞模様の物体が印刷されたシートをテーブルに置いている。
「あ、では…イエキコーヒーをお願いします。」
「あの…イエキコーヒーって何ですか? 今日でもうその注文は2度目ね。」少し困った顔になるウェイトレス。
「ああ、ゼレンゴン式の酸味の強いコーヒーですけど…え? 今日、私の前に注文した人は誰なんですか。」
「うんと…年配の、地球人の男の方でしたけど。」
ルドーが顔を上げる。
「今その人がどこにいるか分かりませんか。」
「さあ…あ、でも、またここに来るって言ってたわよ。お嬢ちゃん、お知り合い?」
「あ、はい…」
「でも、ごめんなさいね。ウチはゼレンゴンの飲み物は置いてないのよ。他に何か御注文は?」
「はい…じゃあ、暴々茶。」
「分かったわ。」
ウェイトレスが笑顔で頷く。
彼等の横を、入り口からやってきた着ぐるみの2人が通り過ぎていく。どうやら士官のようだ。
「…」
不思議な光景にやや呆けた様子のルドー。
カウンターではマスターと商人が何やら商談をしている。2人はカウンターまで来てそこのマスターに注文をした。
「タブクリア。…少尉は?」
「じゃあ、僕もそれなんだスキー。」
女性の声の黄色グルミに、男性の声の青グルミが答える。
2人に頷いて奥の装置に行くマスター。装置の扉が開くと、「ぽわわーん」という擬音と共にタブクリアが現れる。
2人の隣りに立っている怪しげな服装の地球人の商人がマスターに言う。
「絶対受けますって! 旦那ぁー、このチャンスを逃したら後はありませんよ。」
2人分のタブクリアを持ってきて、カウンターに置いたマスターは商人に手を振った。
「駄目だ。その値段じゃ高すぎるね。」
「これですよ? 旦那。」商人は懐から何やら毛むくじゃらの小動物を取り出した。
「…ホントやる気しないんだよねー。ったくさあ…何。何そんな面白そうに見てんの。買ったら、俺が喜ぶとでも思ってんの。やってらんねえよなー。」
ちゃんと顔はあるがどうやら手足は無く、全長はせいぜい20センチ程度の毛の丸い固まりのような動物がぶつぶつ言っている。
「か、かわEー!(CCB。)」
黄色い方が、瞬時に目をハート型にさせた。なかなかハイテクな着ぐるみだ。
商人はここぞとばかり彼女に聞く。
「お、お嬢さんこの良さが分かるかい?」
「これ、頂けるかしら? ロハで。」
「ははは、何を言っているんだいお嬢ちゃん。これは売り物なんだ、いくらお嬢ちゃんが綺麗だからってタダという訳には…」
商人にじりじりと表情の固定した(当たり前だが)顔を近づける彼女。
「いただけるかしらあ。」
「あ、ま、も、勿論です。」
「あら、ありがとう。」
商人からその小動物を強奪した黄色は毛並みを撫でる。
「…何触ってんだよ。この着ぐるみ女がよう。あー腹立ってきた。おい、晴海の勘違いコスプレ女どもぉ! お前だ、お前!! お前に似合うコスプレは中谷活魚のゴム長ウェアーだ! 分かったか!」
うっとり。
「可愛い鳴き声ねえ…」
「そうだビッチか?」
「ねえ、この動物、何て言う名前なのかしら。」青い方を無視して商人に尋ねる。
「も、モジャブルといいますです。」
「へえー。」
彼女はモジャブルをいとおしげに撫でる。ルドーは壁際からその様子をぽーっと眺めた。
扉が開く。
「ここにいたか。捜査は中々進まないな。」
ゲォーフが頭を振りながら、ルドーのいるテーブルにやってきた。
「…けてんじゃねえよ。」
「……ルドー?」
足元から聞こえた声に恐る恐る聞き返すゲォーフ。
ルドーが(彼女にしては)嬉しそうにテーブルの下から何か取り出した。
「可愛い鳴き声でしょう。先程ここのマスターから聞きましたが、この動物は」
「モジャブルだな。」冷や汗で溶け出したゲォーフが立ち上がった。
毛むくじゃらの物体を差し出したルドーは、モジャブルの鳴き声の変化に眉を上げた。
「お、あんちゃん良いガタイだね。昔何かやってたのかい? やっぱり男は硬派よ! 競馬でいうならばんえい、太陽とシスコムーンで言うなら元OPD、ってな!」
「何だか少佐に対してだけは、鳴き声が違いますね…」
「る、る、る、ルドー。取りあえず「それ」を遠くにやってくれないか。」
「え? はい…少佐ももう座った方が良いですよ。目立ってます。」
自分の方にモジャブルを引き取るルドー。頷き、座り直すゲォーフ。
「全く…一体、「それ」をどこから手に入れたのだ。」
「それ」になるべく目も向けないよう努力をしながら、漏れingゲォーフが聞く。
「地球人の商人の方です。誰にでもなつく素晴らしいペットと聞いていましたが…特にゼレンゴンの人にはよくなつくようですね。」
心なしか喜んでいるようにみえるルドー。
「しかし我々にとって「それ」は、帝国への最も恐るべき宿敵の一つとして長年語り継がれてきたがな。」
まだ震えの止まらないゲォーフが言う。
「帝国の宿敵? これが?」
思わずモジャブルを再びテーブルの上に出すルドー。
「ひいいいいいっ」
「あ、ごめんなさい。」
毛の逆立っているゲォーフを見て、モジャブルを引っ込める。
「でも、意外です。私は、ヒューマノイドの皆さんは大体こういったふさふさの小動物は可愛らしく感じるのかと思っていました。」
落着かな気に首を振るゲォーフ。勿論握り締めた手は口のそばだ。
「…それの繁殖力を知らないから呑気で居られるのだ。それは食料さえあれば10倍、100倍、1万倍と、環境を完全に破壊するまで増え続けるぞ。」
「モジャブルで一杯の世界ですか。…メルヘンチックかもしれません。」
ルドーは柄にもなく遠くの世界に目が飛んでいる。
「我々は、全宇宙の彼等の生態系を全て根絶する為に数十年を費やしたのだ。」
「絶滅させたんですか? それは酷いです。」眉をひそめるルドー。
「しかしそうするしかなかったのだ。…ああ、確かにそれは、モジャブルは、可愛い。」
「え。」
「しかし、それはゼレンゴンにとっては余りにめちゃんこめちゃんこめっちゃんこ。らぶりぃ過ぎるのだ。しかし戦士たるもの、らぶりぃな物に興味を持ってはいかん。この辛さが分かるか。このノイローゼで何人ものゼレンゴン戦士が体育を休み、中にはモジャブルを見ただけで失神してしまうような者まで現れだした。正に、帝国の危機だったのだ。」
「ゼレンゴンならではのお話ですね…」
「うむ…」
しみじみと頷くゲォーフ。
びー、びー、びー、びー、びー。
その時周囲にサイレンが鳴り出した。
シスコとダックスは周囲を見回す。赤い光とともにサイレンが鳴り続け、士官達が慌ただしく行き来している。
「これは何だ?」
「戦闘開始、じゃなかったか?」
リョーコはゴートに答えると、トリコーダーをしまう。2人は廊下を歩き出した。
扉が開き、2人はターボリフトにのる。幸い彼等のほかに人はいない。手すりをつかむ2人。
「第7デッキ。326萌えーっ!!」
ぶうううん…ん。
ゴートは手すりから手を離す。移動途中で停止するターボリフト。
「…今の、本気か?」
「ああ勿論だ。エステに状況を聞こう。シスコよりエステバリス。」左胸を手で叩くシスコ。
「「…」」
「あー、コホン。」リョーコが、ゴートの腰にある携帯電話のような形の通信機をつつく。
「あ…命!」照れ隠しなのか両腕を下方向に広げ、片足を曲げてみせるゴート。
「はいはい。」
ぴぴっ。
通信機を開く。
「シスコより、エステバリス。」
「こちらエステバリス。」
キラの声が聞こえてきた。
「現在の状況は?」
「そちらに新たな船が接近しています。ゼレンゴンのピアキャロ級戦艦、攻撃態勢ではないみたいね。」
「船の名前は分かんねーか?」
ダックスがキラに聞く。
「ちょっと待ってちょうだい…ISSヒトミ、ね。」
「そりゃコロスの船だ。」呟くリョーコ。
「知り合いか?」
「ああ、コウイチロウのな。あたしの記憶が正しければ、奴は単にカーク船長がクイズ王だという噂を聞いて遊びに行っただけだぞ。」
「クイズ王?」
「ああ、当時コロスも、帝国ではクイズ荒らしとして有名だったからな。結局カーク船長とクイズで対決する機会が無かった事を、いつも悔いてたもんさ。」
嬉しそうに首を振っているダックス。
「ゼレンゴン船から基地へ2名の転送があったようね。」
リョーコは通信のエリナの言葉に目の色を変えた。
「あ、おい、それって多分コロスだぞ! あたしらも基地へ行ってゲォーフとルドーを助けるべきじゃないか?」
「…いや、ドクターとチーフを行かせた方が無難だろう。私達は引き続きエバで調査を続ける。」
「え゛えええ、だ、だって、コロスが来てるんだぞ! どうせあたしがダックスなんて分かりゃしないんだし、あいつが若い頃から不必要に桜田潤子の物真似をする癖があったかどうかを知るまたとない絶好の機会」
「ダッ、クス。駄目だ。…少佐、それではチーフとドクターを基地の方に転送するようにしてくれ。以上。」
「了解。」
「ゾマホン、萌えーっ!!」
シスコが手すりをつかみ叫ぶと、再びターボリフトが動き出した。
「…。せっかく面白くなりそうだったのに。」
「残念だったな。」
−ダックスの見解通り、彼等ゼレンゴン人に戦闘の意志はなく、カーク船長は警戒警報を解除、彼等が基地に入るのを許可しました。警報が解除されてから、私達もダービンの捜索を再開しました。−
「キラよりチーフ。今より3分後に転送可能になるわよ。」
「了解。」ケイタイ型通信機に答えるチーフ。チーフとドクターは頷き合い、廊下からターボリフトへと向かった。
ターボリフトにのる2人のすぐ後ろから、女性の科学士官がのりこんだ。よく見るとさっき会ったのと同じ女性だ。
「…あ、どうも。」
2人に微笑む士官。
「奇遇だね。」
「奇遇て。同じ船におったら、そら別に何度でも」
「チーフ。二ヶ月減給。」
「はあ?」
ドクターに聞き返すトウジ。
「第10デッキ。アチチアチ、萌えーっ!!」手すり棒をつかみ叫ぶ士官。ターボリフトが動き出した。
「…ねえ、その道具、何?」
士官が、ふと不思議そうにベシアの腰にあるハイポスプレー風の機具に目をやる。
「ん…ああ、実験装置だよ。医学上のサンプルを取っていてね。」
ベシアが微笑む。
「…何でここに便採取機持ってきてんねや。」
小声で言うオブライエン。
「別に個人的な趣味さ、まあ良いじゃない、それ位。」
「良い訳あるか!!」
「あ、あの…」汗マークを付けつつ士官が尋ねる。
「あなた、お医者様なのよね。」
「ん、ああ、そうだよ。」
「私、先週センチメンタルブスからエバンゲリオンに異動してきたばかりなの。」
「あ、そうなんだ。」「よろしゅう。」
「よろしく。で…明日、身体検査をお願いできるかしら。」
上目遣いになっている士官。
ぷしゅうううう。
ターボリフトが止まり、ドアが開く。
「15時に。私、ワトリー中尉よ。」
士官はベシアの目を見てそう告げると、ターボリフトを小走りに降りて行った。
「「…」」
ぶしゅうううう。
「相変わらずキンニクマン二世やな。ってちゃうがなそれはプレイボーイやがなーっ。」
「ワトリー…」トウジのボケを無視して何やら考え込んでいるドクター。
「…。どないしてん?」
「ワトリーと言ったら…僕の曾祖母の名前だ。確か、この時代彼女は艦隊士官として働いているはずだった。」
「そらおもろい偶然やな。」
「偶然? チーフ、もし彼女が本当に僕の曾祖母だったらどうするんだい?」
「…はあ?」
深刻な表情のベシアは頭に手をやり首を振っている。
「これは困った事になったぞ、分からないかいチーフ、時空理論の基礎さ、僕と彼女は恋に落ちる運命にあるんだよ。つまり、僕の曾祖父は僕自身という事になるんだ!」
「やっぱ天然には勝たれへんな…」
「本気にしていないな? しかしもし僕が明日彼女の誘いを断ったら、僕はこの世に生まれない事になるんだぞ。」
「あー、分かった分かった。続きは帰りにゆっくり聞くさかい…」
「それだけじゃないぞ。僕の曾祖父と曾祖母が裏でフィクサーとなり、現在の連邦を作ったんだ。もし彼等、いや僕達が会わなければ連邦そのものが今とは全く異なった優等生的なものに」
「キラよりチーフ、準備は出来た?」
「ああ、もう構いまへんで。」通信機を取り出しキラに答えるトウジ。
「チーフ、彼女の目は本気だよ、このまま帰るなんて無粋な事は言わないよねえ?」
「その方が無難や思うけどな?」
至極本気で目を細めるドクター。
「そうか。それじゃこのまま帰って、僕はおろか現在の連邦がそっくり消えている事を知った時の君の顔が楽しみだね!」
「…はあ。楽しみやな。」
「減給6ヶ月。」
「な゛ああああ!?」
ぴぎゅいいいいいいいいいいん。
転送されていく2人。
「おや、どうやら僕達は貧乏くじを引いていたみたいだねえ。そう思わないかい、チーフ?」
「しばらく水道と電気は踏み倒すとして、また夜は警備のバイトをせんと…そっちで可能な限り食事はして…」
チーフは1人何かぶつぶつ言いながら考え込んでいる。
2人はK2の、ルドーとゲォーフのいるカフェテリアにやってきていた。
「僕達が30デッキをはいずりまわっていた間、君達はずっとここに座っていた、って事かな?」
近くの空いているテーブルから椅子を取り、2人のいるテーブルの方に持って来るベシア。
「私達には待つ理由があるのだ。」
「ああー、例のイエキコーヒーね。確かに明白な手掛かりだよ。」
笑いながら席に座るドクター。
「しかしここでお酒を飲んで待ってれば良いんだったら、最初からそうすれば良かったよ。」
隣で幼虫が瓶に入ったテキーラを両手で持ってラッパ飲みしているルドーを見ながら言う。
彼等の後ろ、カフェテリアの入り口から、既に酔っ払っている風の中年、さっきも居た青い着ぐるみ、何やら暴行を受けた後のように見えるメガネの青年の3人組の士官達がやってきて、カウンター近くの席に揃って座った。
「お! ついに出はったでぇ!」
復活したトウジが彼等を見て目を輝かせた。
「何がだ?」
「あの、カーク船長でっせ!」
「…誰がだ?」目を細めて見るゲォーフ。
「一番左、赤い制服の。」
「「「…」」」
その中年士官は何かの酒瓶を勝手に持ち込んでいる。彼は床に落ちていたモジャブルの1匹を手にとって言った。
「ういー。可愛いなあ、このモジャブルわあ。」
「そうだビッチか? それが普通の感覚なんだビッチか!?」
中年に着グルミが詰め寄っている。
「あれが、伝説のカーク船長か…思ったより豪快な感じだねえ。」呟くナガレ。
「彼に会えるとは、名誉な事だ。」頷くゲォーフ。
「あ、彼に一杯おごりまへんか?」
「チーフ、駄目ですよ。違う時空の人に物をおごったりしたら、」
「歴史が変わるさかい、あかん。…確かにそうでんな。」
トウジはルドーに残念そうに頷いた。
ルドー達の元にウェイトレスがやってきた。
「いらっしゃいませこんにちは、御注文はどちらに致しますか、今ならこちらの」
「「イエキコーヒー。」」声を揃えるドクターとチーフ。
ウェイトレスは溜息をついた。
「だ・か・ら。もうそれだけは止めて下さい。」
「私の他に頼んだ人がいたんですか?」
尋ねるルドー。
「ゼレンゴンよ。ほら、向こうのテーブルにいるでしょ。そっちにも。…あ、また大群が来た。」
彼等が振り返ると、確かに連邦とは違う制服のクルー達がどやどやとやって来た。しかしヒゲと茶系のファンデーション以外は、どう見ても地球人と同じ見た目だ。
「あれが、ゼレンゴン人?」
眉をひそめて聞き返すナガレ。
「何、もう酔っ払ってるんですか? もう、注文する気が無いなら行きますよ。」
ウェイトレスは首を振ると、そのままカウンターに戻って行った。
「「「「…」」」」
「…ゲォーフ少佐。」顔を覗き込むルドー。
「…。確かに彼等はゼレンゴンだ。」
ミロを飲む手を止め、答えるゲォーフ。
「話すと長くなる。」
「せやけど、何があった言うんでっか? 立体駐車場で何度も頭ぶっけて今みたいんなったとか?」
「頭の体操をやって悩んでいる内に、脳みそがちぢんだんじゃないかな?」
「病気とか遺伝子改造とか、普通はもっとそういう発想になると思いますが。」
ルドーはあれだけ飲んでも全く酔っていない様子だ。よく見ると飲んでいるのではなく、味わうだけでそのまま瓶に戻しているらしい。
硬い表情のゲォーフが首を振る。
「…悪いが、外部の者には教えられないのだ。お尻ペンペンされるし。」
「「「(…誰に?)」」」
向こう側のテーブルでは、カーク達らしき3人組と先程来たゼレンゴン士官達とで、何やら怪しい雲行きになっている。
「ぷわっはー。…まあ何だ、あんたらも大変だわな。あんな手芸部出身の船長の船なんて、多分壁中タペストリーだらけなんじゃないのか?」
リーダー格のゼレンゴン人がそう言うと、他の士官達がどっと笑い、急に両乳首前に指を当てウインクをして見せる。
「「「「Q!」」」」
「な!」
メガネの地球人が立ち上がろうとして、中年と着ぐるみに押さえつけられた。
「だって、我が船長が侮辱されているんですよ! 全くもって事実だけど!」
「押さえろ! 今は…うっぷ、彼等ともめごとを起こすと…っぷわー、ちー、どすん、と言われているだろ?」
中年がメガネに何やら諭すように言っているが、100年前の言葉だからだろうか、ルドー達にはいまいち意味が分からない。
「ってそもそも、ノビタ君は船長を暗殺しようと…」
ギロッ
「い、いや、何でもないんだニジニノブゴロド。」
メガネに睨まれて静かになる着ぐるみ。
メガネは中年に迫っている。
「中佐! ここまで言われて黙っていろって言うんですか!」
「…船長の命令っぽーう。」
「さっすが船長はちゃうなあ。あんだけ言われても部下を押さえるとは、ハングリースパイダー並にケツの穴のどデカい…」
「…チーフ、本当に彼は船長か?」ナガレが聞く。
「当たり前や!」
「カーク船長って、操作士官の服を着た中佐だったかな?」
「…」
「異次元では、人は間違えない方が良いですね。」冷静な感想を口にしつつまだ飲んでいるルドー。
「ぐぽ。」ゼレンゴン人は酸っぱい臭いのげっぷを吐いた。
「しかしなあ。おめーだも、あんなボロボロの船でよぐ飛べたもんだよなあ。その意味ぢゃ、地球人も結構勇気があるもんじゃないか。」
わっはっはっは。
「「「「カルトキング!」」」」
今度は彼等は一斉にシェーの変形バージョンのような動作をした。中々統率がとれている。
「…な、何だって?」中年の額がヒクヒクと動きだした。
「すまないが、そこの君。…もう1回、言ってくれないか。よく聞こえなかったのでね。」
彼にとってその話題は他とは別格であるらしく、今までが嘘のように普通の日本語で喋りだした。
ゼレンゴン人のリーダーは頷いた。
「よかろう。もう一度言い直すぞ。お前等のエバンゲリオンとやらは、材質は特殊段ボールで動力源は蟻。おまけにコード付きですぐ絡まるし、暴走、故障は日常茶飯事の、どうしようもない宇宙のクズらしいなあ。」
ぐわーっはっはっはah。
「「「「子供ばんど!!」」」」
「(声が揃ってる…)」
ルドーは少し感心した様子で溜息を漏らしている。
「そ、そ、そ、そ…」中年がゆっくりと立ち上がり、ゼレンゴンの前に立った。同時に立ち上がる他の士官。つられてか、トウジとゲォーフも立ち上がっている。
「…どうしたんですか。チーフ、少佐?」
中年を睨み返すゼレンゴン。
「何だ、やるか?」
「その通りなんだよおおおおうううううううう!!!!!!」
中年はゼレンゴンにすがりついて号泣した。
「「「「「うおおおおお!!!!」」」」」
彼と同様、一斉に泣き叫ぶ連邦士官達。
「…」
目が幾分細くなるルドー。
「いつの時代もわてらは虐待されとるんや!」
「……」
(すぐそばからの叫びに)今度は鼻で深く溜息をついているルドー。
うわあああああ。
連邦士官達は阿鼻叫喚の状態になっている。気が付くと、感化されやすいのかナガレまで彼等に混じって泣いていた。
「ガラックぅううう、君は一体いつになったら僕の気持ちにいいいい!」
泣いている理由は微妙に個人的なようだ。
「うわー」「わー」「きゃー」
急にすがりついてくる連邦士官達にあるゼレンゴン人は一緒に盛り上がって泣いたり、又一方では怖がって逃げ回ったり、即席カウンセリングが始まったり喧嘩になったりしている。
「あふ、あふ、あふ…」
ルドーがふと向こうを見ると、何故かゲォーフとこの時代のゼレンゴン人がたがいに顔を赤らめ、耳に息をふき掛け合っていた。
「………」
これ以上無い位疲れた様子になっているルドー。
「こ、こら、お前ら離れろ! ああっ、こら、髪を引っ張るな、せっかく朝シャンしてきたのにぃっ!」
叫ぶゼレンゴン人リーダー。
カフェテリアの扉が開く。連邦の保安チームが駆けつけ、連邦側の人間を取り押さえだした。
「あ。」
ルドーがふと見ると、保安チームの向こうに見知った初老の地球人の男がいた。こちらに気付いたか逃げていく男。
「ゲォーフ少佐、来て下さい、ダービンですよ。少佐。」
「はふ、はふ、ひゃふ…何か゜く゜っ。」
ルドーは釣り針状の腕でゲォーフを引っ掛けると、そのまま引きずってダービンを追いにカフェテリアを出て行った。
「こら、お前達いい加減にしろ!」
「せや、それから給料がスイミーの現物支給なんも何とかしてくれやああ! …あ。」
好き放題叫んでいた連邦士官達は全員首根っこをつかまれ「逮捕」される。そこにはチーフとドクターが混じっていた。
「あなたの部下には根本的に判断力がありませんね。問題は事前に避けられていたはずです。」
オカは眉を上げると、ゴートを指差しながら非難した。
サヴァが首を軽く振る。
「艦隊の誓い第157条第3節18項。「アニラジだけが僕の友達。」簡単に言うと、艦隊士官は歴史に与える影響を最低限にしなければならない、という規則よ。」
「それは、分かっています。確かに彼等のした事は、間違いでした。しかし時空に影響は与えていません。」
「何故そうだと分かるんです?」
「そうなら、まず最初に私達が戻ってきた時に気付くでしょうから。」
「そうとは限らないでしょう。いいですか、時空理論に置いて過去のある一点で分岐が起きた際、そこから別の異なる宇宙が発生するのです。つまりあなた方が戻ってきても、戻ってきた時点であなた方は既にこちらの世界のあなた方なのであって、本来の世界のあなた方であるという保証はどこにもないという事、これは艦隊士官として」
「ああ、まあ、とにかく、続きを聞きましょう。それで、どうなったの? 部下が逮捕されたんだったわよね?」
−逮捕されましたが、拘禁室に連れて行かれた訳ではなく、彼等は全員でカーク船長の質問を受ける事になりました。−
「…さあ、正直に言いたまえ。今なら先生も君達に生爪はいで釘で引っかき岩塩刷り込む程度のお仕置きしかしないと約束しよう。」
ぴしゃ、ぴしゃーん。
ムチを持ち、何故か羽の仮面も付けているカーク船長がエバンゲリオンの一室で、一列に整列させられたクルー達の前をゆっくりと歩いている。どうも船長は、ニヤニヤ微笑んでいるように見える。
「あれだけゼレンゴンともめごとを起こすなと言ったのに、君達は子供か? チャイドルか? HOLDERか? え? ねずみっ子クラブ? あっそう! …全く、信じられない連邦の恥さらしだ!」
「HOLDER」というのは恐らくFOLDERのつもりなのだろう。
船長が立ち止まったのは、連れてこられたナガレの前だった。
「君は、誰が最初に泣き出したか知っているか?」
「い…いいや。」
仮面をつけた船長の様子に幾分冷や汗をかいたベシアが答える。
「ほう…」
隣に進むカーク。
「ああ、チェコフ。君なら知っているだろう? 誰が最初に泣き出したんだ。君か?」
「ノン! 僕じゃないですサンクトペテルスブルグ、船長!」
「じゃあ、一体誰がやったのかな?」
パシ、パシ、と持っているムチを自分の手に叩く。
「う…さ、さあ…分からないんだビッチ。」
「「分からない」か…」
陰のある表情を見せるカーク。
「ふっ。仕方ない、チェコフ少尉、残念だが、真実が聞けないようなら君のグルミを取るのも致し方ないかもしれないなあ…」
「な、そ、それはピロシキ!!」
「ふふーん、君の中身は一体何さー、ハンサムなガイがいるのかーい。♪ それとももぎたて果実のように、ぷるるん小町にズーム・イン!!」
中々良い声で歌いだすヒデオ。クルー達は聞き惚れている。
「「…」」
今一つ付いてこれないのか、目を見あわせているチーフとドクター。
ぷるぷる震えていたチェコフは船長の歌を遮った。
「だ、だめだニェット!! 僕は知りましぇん!」
「ふー。」
深く溜息をつくカーク船長。
「分かった、良かろう。今回の事はこれ以上追及はしない。しかし今度こんな騒ぎを起こしたら、…皆分かっているな。私のムチだこは、伊達ではないからそのつもりで。解散!」
「騒ぎ」を起こしたクルー達はようやくカークの尋問から解放された。
「あっちが、本物のカーク船長だったねえ。」
どやどやと部屋から廊下に出てくるクルー達。その中の1人であるナガレがトウジに言った。
「悪かったな。わいかて間違える事もある。」
「しかしまさか、彼が僕に聞いて来るとは思わなかったよ。やっぱりこう、華が違うのかな?」
「答えは嘘やったけどな。」
「まあねえ。ガラックがこれを見たら、上手いって誉めてくれたかな?」
「ぎゃああああっ! こら、どこに目ぇつけてんだコン畜生め!」
足元の鳴き声に目を見あわせる2人。そこにはモジャブルがあった。
「ああ、ごめんごめん。君がいるとは気付かなかったよ。」
ナガレはモジャブルを拾い上げる。
「んー? どうした、1人ぼっちで寂しくなかったかい?」
「…そいつは1人やない。」
「ん?」
チーフの言葉に眉を上げ、彼の視線を追って廊下の向こう側を見るドクター。
「…ってんじゃねえよったくよお。」「死んでるってマジで。」「バリうざくね?」
「「…」」
そこには、何匹ものモジャブル達がブツブツ鳴きながら散乱していた。
ぴぎゅいいいいいいいいいん。
「…うっ、はっ、う。」
ゲォーフとルドーに取り押さえられた状態のダービンが、エステバリスの転送室に転送されてきた。
「お疲れ様です、ダービンさん。」
縄状にしていた自分の腕をほどき、ダービンを解放するルドー。
「いやいや、どうもご親切にお嬢さん。」
「ダービンさん、あなたの犯した罪は重いです。極刑を覚悟した方が良いと思いますよ。」
ルドーは淡々と述べる。
「とんでもない。私のような英雄を罰する事など出来ません。」
「お前のどこが英雄だと言うのだ!」
迫るゲォーフ。
「私はゼレンゴン人ではありませんが、帝国は、私の銅像をあの「戦士の殿堂」に置く事になるでしょうね。それも今までのようなつまらないものではない。もっと独創的な物が良い。」
「よく分かりませんけど、もうここでの目的は果たされたようですね。」
ダービンはルドーの言葉にニヤリとする。
「デザインは…そう、私の片手にカークの首、もう片手にあのモジャブルを持った状態が良いでしょう。そして音声センサーで、人が来るたびに一くさりランバダを踊るんです。後はおみくじ機能付きで…」
「それは銅像じゃありません。」
「お前、一体何をした! 刺客を送り込んだか、船に破壊工作を行ったのか!?」
ゲォーフが詰め寄る。
「そんなありきたりなぎいいいいい」
ゲォーフはダービンの股間に手をやり、2つの球体をがっちりとつかんだ。
「吐け、吐かないと、お前のこれをちぎって暑い日の車のボンネット上にぶちまけ、「やっぱりボンネットで目玉焼きって出来るんだー。でもこの研磨剤さえあればどんな汚れもお任せ!」と言わせるぞ!」
「モジャブルに爆弾を仕掛けた!?」
通信機に向かい声を上げるシスコ。
「そうです大佐、これは彼の復讐だそうです。実はカーク船長は、モジャブルを使って彼がゼレンゴン人である事をつきとめたようなんです。ああ、それから、と言っても、彼は自分はゼレンゴン人ではないと主張していますけど。」
「「…」」
顔を見合わせるゴートとリョーコ。彼等2人はエバの通路の一角に居る。
ルドーは構わず続ける。
「どこに仕掛けたかは彼は言いませんでしたが、今から1時間後にそれは爆発するそうです。」
「そんなもの、一体どうやって探すんだ。」
「それなら、少し危険だが、あたしらはブリッジに行った方が良いぜ。爆発物なら、内部センサーで船全体をスキャン出来るからな。」
「そうか。それでは私とダックスはエバに残るとしよう。他のものはK2の方を調べてくれ。」
「分かりました。あ、ただ…ゲォーフ少佐は、こちらに残っても良いでしょうか。モジャブルが苦手らしいんです。」
「…分かった。良いだろう。」
「せやけど、K2の方は内部センサーは使えまへんな。」
「…ああ、一匹一匹トリコーダーで調べていくしかないだろう。」
トウジの声にゴートが答える。
「数百匹と居まっせ。」
「数千だな。」
答えるシスコ。
「正確には、57穣3984イ9242垓612京5615兆7012億2094万3128匹だ。」
得意気な顔でリョーコが言う。
「1個の個体が充分な餌の存在する一般の環境下で24時間後に増殖する数だぜ。モジャブル算と言って、元々この数式は」
「ダックス、良く分かった。それじゃ、K2の方は頼んだぞ。通信終了。」
シスコは溜息をつきながら通信機を閉じた。
エバンゲリオンのブリッジは、ぽよーん、ぽよーん、という音が何ともキッチュな雰囲気をかもしだしていた。既にここにも多数のモジャブルが繁殖し、山積みになってぶつぶつ鳴いている。
「うーん…」
2人は、ブリッジ横、奥の操作パネル前に座っている。難しい顔で考え中のリョーコ。
「おい、お前今時はやりのフェミ男クンかぁ? ってもうはやってねえって! だっはっはっはっ」
「…あ゛あもううっとうしいなこいつら!」
操作パネルのそばにあったモジャブルを自分の後方、つまり艦長席の方向にぶん投げるリョーコ。
「今考え中なんだから邪魔しないでくれよな…」
「…今、後ろから「あいたっ」って人の声が聞こえたぞ。」
「気にすんなよ。」
パネルを操作し、センサーの設定をしているダックス。
「…」
ぴぴ、ぴ、ぴ、ぴ。
「よし。これで動くはずだぜ。ブリッジをスキャン中…異常なし。…お。」
「どうした?」
目を見開くダックスの様子に詰め寄るシスコ。
「もしかして今後ろに、カーク船長がいるだろ。タッチ!」
「……」
シスコの手を叩くとダックスは職務を破棄し、艦長席の方を口を開きながら眺めだした。
「スネック、いつからこの船は、この妙な動物の運搬船になった?」
「この船は今でも宇宙パトロール船なはずですが?」
「…」
カークはスネックの(どこか嬉しそうな)言葉に何か言いたげに息をつく。
「なあ。噂には聞いてたけどさ、あんなに色男だとは思わなかったな。」
リョーコが小声で言う。
「カーク船長は当時宇宙を股にかけたプレイボーイとして有名だった。第6デッキまでスキャン終了。」
パネルを操作しながら答えるゴート。
「いや、そうじゃなくて、副長さ。」
「…」ちら、とダックスの方を見るシスコ。
「あの妖しげな妖怪系の目つき…よく見ると、あのトサカの付け根に何かヒンジが付いているのもミステリアスじゃねえか。それに、今こうして見ていても、トサカが何本あるのかやっぱり分からねえ…」
うっとりした様子のリョーコに、ゴートは溜息をつく。
スネックはカークと会話を続けている。
「…ここだけではなく、K2ステーションの方も大変らしいですね。」
「…ゼレンゴンの陰謀か?」
「何とも言えないわ。」
「そうか。」
ぴぴ、ぴ。
スキャンを終えたゴートがリョーコの方を向いて言う。
「…全デッキ異常無し、船には爆弾は無いな。…ダックス。ダックス。」
「…ん、あ、ああ、すまねえ、えーとじゃあ、爆弾はK2にあるって事だな。それにしても…やっぱり、何本なんだ…」
K2の方の一室で、ルドー、ドクター、チーフの3人が必死に爆弾を探していた。山になっているモジャブルを1つ取ってトリコーダーにかざしては向こうへ放り投げ、また1つ取っては放り投げしている。
きゅきゅん。
「シスコよりルドー。」
「何ですか大佐。」通信機を開きルドーが答える。
「船の調査は終了した。爆弾はK2の方にあるはずだ。」
「範囲が狭まりましたね。でも大佐、私達はまだここの2デッキしか探せていません。とてもじゃないけど間に合わないんじゃないでしょうか。」
ルドーが通信している間にも、ベシアとオブライエンは(何故か上半身裸でねじりはちまきをしながら)スキャンを続けている。
「「らっせーらっせーらっせーらっせーらっせーらっせーらっせーらっ。」」
「…それではキラ達を応援に回そう。」
「いえ、少しくらい人手が増えても事態は変わりません。そもそも繁殖のスピードが速すぎるんです。」
ダックスが口を挟む。
「なあゴーちゃん、爆弾はこれから30分後にカーク船長を殺す為に爆発するんだから、カーク船長がこれから行きそうな場所にあるはずって事だよな。って事はあたしらは、カーク船長の動きを見張っておいた方が良いんじゃねえか?」
「なるほどな。」
「まあ、私達が捜索を止める理由もありませんから、こっちはこっちでやってましょう。」
「ああ頼んだよルドー、通信終了。」
ぴんぽんぱんぽーん。
「5班と8班は、給食の時間です。5班と8班のよいこは、食堂に集まりましょう。給食の時間です。5班と8班のよいこは、食堂に集まりましょう。わるいこは、屋上に行きましょう。ふつうのこは?
ナポリを見て死にましょう。」
「私には、100年前の言葉は良く分からないな…」
艦内放送を聞いてゴートが呟く。
ゴートとリョーコは、エバンゲリオンのクルー達にまぎれ、モジャブルだらけの食堂で食事をとるふりをしていた。
「別に今と変わんねえって。ただこの時代は、今より修辞が豊富で、言い方が丁寧だったんだ。例えば今の放送は、内容は「ランチサービスが始まりました」って意味さ。」
「班…関係無いの?」
「それにしてもすげえなおい。」
リョーコが周囲を見回す。壁、床、テーブル、椅子、どこもこの毛むくじゃらの小動物で溢れている。
「こんなに増えて、大丈夫なのだろうか…」
頷くシスコ。
「あ、おい。船長と副長が来たぜ。」
ゴートがちら、と振り向くと、彼等の後ろをヒデオとスネックが何やら話し込みながら歩いていった。
旧式のレプリケーター風の機械の前に立つカーク。
「B定食、甘口ネオ。」
扉が開き、中からランチ一式のトレイが現れる。
ヒデオは表情を緩めると、そのトレイを持ち上げる。
「だりーなーおい。」「ってらんねー。」「っぜえー。」「あ、だめ。ナイナイつまんね。」
「…」
カークのトレイの上には、モジャブル達5、6匹が乗っかっている。どうやら彼等が彼の食事を既に食べてしまったらしい。
「そう、良かったわね。」
カークは取り敢えずテーブルに座った。
「…スネック、私のB定食甘口ネオは一体どうなってしまったんだ。」
「…犬?」
とさかをひょいひょい、と動かすスネック。彼の高度な技に目を見開くシスコとダックス。
「影絵は良いから、質問に答えろ、副長!!」
「彼等は非常に知能が高いですな。どこに餌があるかを良く分かっている。」
「そうだ、全くその通りだな…」
船長は顎に手をやった。
「…スネック。我々は現在とんこつスープ貯蔵庫を警備中だったが…」
「とんこつスープ貯蔵庫。とんこつスープ貯蔵庫だ!」
小声でゴートに言うリョーコ。頷くゴート。2人は立ち上がった。
薄暗い貯蔵庫の中に入ると、急にダックスは顔をしかめ口を押さえた。
「う。お゜う。…な、何だよ、この臭いは。」
「いかにもとんこつスープの臭いじゃないか? と言っても既に下に見えるのはモジャブルだけだけどな。っておいいいいっ!」
ごべごべぼげええええげぼおおおおっ。ぶげえええっ。
倉庫壁のはしごを降りていたリョーコは、下のモジャブル達の上に下呂をまき散らした。
「う、う、うー、気持ち悪ぃ…」
「だ、大丈夫か少佐?」
「どうやらスバリル人はとんこつスープとやらには弱いらしいぜ。」弱々しく笑うダックス。
「まあ、ここで任務を投げ出す訳にも行かねえ、頑張るさ。」
「そ、そうか?」
はしごを降り、2人はモジャブルで埋め尽くされた地面?上に立った。
「おえ、おえええええっ。(ごぼごぼごぼ)うっぷ。た、大佐、さっさと済ませようぜ。」
ダックスは声が裏返っている。
「あ、ああ…」
2人はモジャブルを手に取ると、それを片っ端からトリコーダーにかざし始めた。
「…この辺りのモジャブルは、もう皆死滅しているな。」
「ダービンの仕込んだ毒のせいだな。」ダックスが答える。
ぴぴ、ぴぴ、ぴぴ。
トリコーダーの動きを止めるシスコ。
「マダムんむん反応だ。爆弾はこの近くにあるぞ。」
頷き合う2人は、周囲のモジャブル達をスキャンしては放り投げスキャンしては放り投げしだした。
ぴ、ぽ、ぱ。
「…大佐、これ、何の音だ?」
足元の方から微かに聞こえる電子音に、動きを止めるダックスとシスコ。
ぽ、ぱ、ぱ、ぽ。
「「…」」
ぎー、ぎーこ、ぎー、ぎー…
恐る恐るモジャブルで埋まった下を覗き見るリョーコ。
「も、もしかして下の扉明けようとしてんじゃねえのか!?」
「…」コクコク頷いているシスコ。
貯蔵庫の下に位置する通路では、カークが上方の扉に手をかけ何とか開こうとしていた。
「うー、ぐー、ぐーっ…」
彼の側にドクターらしい士官が駆け寄る。
「おいカーク、モジャブルの構造が分かったぜ!」
「開いた!」
どさどさどさどさどさどさどさどさずぎゃーばじゃーどさどさばぎゃーじゅーじゃーどさどさどさどさどさどさ、どさ、ばこっどぼどぼどぼどぼどぼどぼどぼどさどさどさどさどさどさどさどさどさどさじゃばーじゃばーどさどさどさどさどさどさ、ばこっ、どさどさどさどさどさどさどさどさどさどさどさどさどさどさどさどさどさどさ。
「「!」」
ゴートとリョーコは、急に砂時計の砂の如く下に落ちていく「地面」にひきつった表情で後ずさる。
ぴぴ。ぴぴ。ぴぴ。
その時トリコーダーの反応にゴートが手を止めた。
「…見つけた。」
「えっ。」
ゴートは腰から通信機を取り出す。
「シスコよりエステバリス。」
「こちらエステバリス。」エリナの声が聞こえて来る。
「今、爆弾のあるモジャブルを発見した。今から私のトリコーダーの信号にロックして転送してくれ。」
「了解。」
シスコはトリコーダーをそっと近くに置くと、その上にゆっくりと1匹のモジャブルを置いた。
「「…」」
ぴぎゅいいいいいいいいいん。
まだむううううううん!
エバから少し離れた宇宙空間上で、1匹のモジャブルが不思議な音を発し、爆発した。
「爆弾の爆発を確認。お疲れ様、「みっしょんこんぷりーと」よ。」
「ふう…」「はあ…あ、うっぷ、安心したら急にまた吐き気が、う、ううっ、ぶげええええっ。」
下の方へ空いた「地面」の穴に下呂を吐くダックス。
「下の人間にかかるぞ…まあ、早く上に上がった方が良い。」
「うぷ、た、確かに。おぷ。」
びちゃ、びちゃ。
まだ開いている上の扉から液状の謎の物体がカークの頭にかかる。あんかけのかかった堅焼きソバ状態の船長。
「うっ…だ、誰かこの扉を閉めて…くれ…」
ヒデオに近づいた男性が苛立たしげに言う。
「しかし何たるザマだね。君達は、「たかが」とんこつスープの警備も満足に出来ないのか? この数百のモジャブルを見給え!」
「…数千だろ。」呟くカーク。
「57穣3984イ9242垓612京5615兆7012億2094万3128匹だ。…このドクターの数式にそって1個の個体が24時間後に何個になっているかを計算するとこうなる。」
スネックが訂正する。
「「…」」
シスコとダックスは軽く目を合わせ肩を上げると、再びはしごを登って行った。
−その後歴史の流れは正常になり、カーク船長はモジャブルのお陰で、ダービンがゼレンゴン人である事を暴きました。−
ぽん、と持っているモジャブルをダービンに投げるカーク。
「え?」
「よう! 兄貴! 良い体臭してんじゃねえか!! 俺等は兄貴みたいなニコチン臭のする男に弱いのさ。くうぅ、大将って呼んで構わねえかい?」
「「「「こいつだー!!」」」」
「え? え?」
モジャブルを受け取ったまま、周囲を見回すダービン。
−私達が捜索をしていた間に、エステバリスではキラ少佐がチューリップの使い方をマスターし、私達は無事、この時代に戻る事が出来たのです。−
「それであなた方はまっすぐこの時代に戻ってきたんですね?」
パッドに記入しながらモルダーが聞く。
「あ…まだ少しありましたけど。(ぶしゅ、ぶしゅううううううっ)」
シスコがかさぶたをかく。
「「…」」噴水の前で向き直るオカとサヴァ。
「良いですかシスコさん、議論の土台足る相互信頼を築く上で一番重要なのは、相手の信頼を損なうような技巧を」
「続けて。」
−それは私がエバンゲリオンの姿を見てから、ずっと夢見ていた事でした。−
「船長、お忙しい所失礼します、明日の任務予定表の確認をお願いします。」
通路を歩いていたヒデオは色黒無髪の士官に呼び止められ、任務予定表パッドに見入った。
「ん、分かった。」ペン型入力装置でパッドにサインをするカーク。
「これでよし、と。」
サインを終えたカークはパッドをシスコに返す。
「それじゃあ、君も頑張ってくれ、あ、あー…」
「シスコ、ゴート・シスコです。ここへは臨時派遣で来たのですが、一言船長に申し上げたい。…ここで働くのは、とても光栄でした。」
ヒデオは微笑みながらゴートの肩を叩いた。
「そうか、こちらこそ光栄だよ、クロハゲ君。」
「シスコです。」
「ときにクロハゲ君…君が頭の上に乗せているのは何だい?」
カークの視線がクロハゲの頭上に行く。
「と言いますと? いたぁっ。」
ぶちっ。
ヒデオがひょい、とゴートの頭の上に乗っている(接着されている?)マイメロディのぬいぐるみをもぎとった。
「いつう…あ。」
「なかなか可愛らしいぬいぐるみじゃないか。」
ぬいぐるみをしげしげと見ているカーク。
「(来る時、取るの忘れてた…又、誰も注意しないし…)あ、あの…」
「うーん…ああ、この布地の縫い方は結構高度だぞ。取れにくくかつ目立たない…これ、もらえるかな?」
「え? あ、え、ええ、まあ、お好みでしたら…」
「そうか。らぶりぃなぬいぐるみ有り難う! クロハゲ君、またいつか会おう! はっはっは。」
機嫌良さそうに去っていくカーク。
「…」
クロハゲはやや呆然としつつ彼の後ろ姿を眺めていた。
「…と、言う訳です。」
ゴートは話し終えると、椅子から立ち上がった。
「私の行動を違法行為として記録されるのでしたら、御自由にどうぞ。」
「はあ…ぬいぐるみを頭にのせておくなんて、非常識にもほどがある。」
首を振るモルダー。
「まあでも、それ位なら問題ないんじゃないかしら。それにちょっと、男のロマンを感じるわ。」
そう言うと、サヴァは微笑んだ。
3人は司令官室を出て、司令室内をターボリフトの方へ歩いていた。
「1ヶ月後に報告書を送るけど、さっきも言ったとおり、特に心配する必要はないと思いますわ。」
「ありがとうございます。それでは、お気を付けて。」
オカとサヴァはゴートの言葉に軽く頷くとリフトにのり、ナデシコ司令室を後にした。
「ふう…」
「うまく行った?」
エリナがゴートに低い声で尋ねる。
こくこく。
「そう、それは何よりね…ところで大佐、ルドーがプロムナードで、呼んでるわよ。」
ルドーはシスコに気付き、顔を上げた。
「この事は、話されたんですか。」
「別に聞かれなかったしぃ。」
「…一体、どうしましょうか。」
「もう一個宇宙ステーションを作ったら?」
腕組みをしているキラ。
「……」「……」
メガネがずり落ちているプワークと身動きが取れなくなっているモネタケの周囲に、バーの周りに、プロムナードに、ステーションの見渡す限りの場所にモジャブルが散乱していた。
「「「…」」」
「あー、君達、こんな所にいたのか。どうしたんだい暗い顔しちゃって。」
プロムナードの向こうからドクターがモジャブルをかきわけやってくる。
「今、このモジャブルをどうしようか悩んでいたんです。」
「途方に暮れていたのよ。」
ルドーの言葉を言い直すキラ。
「っはっはっは。そんな対策簡単じゃない。まずは備蓄の食料等は全部一旦移動させる。それからもうモジャブルに手を付けられた食料には、毒を入れる。」
「毒?…アサヤミンか?」
「それもこっちに持ってきたんですか?」
ルドーの質問にシスコは首を振る。
「持ってきてなくたって、こっちで簡単に作れるって事が分かったのさ。さっきダックス少佐を診察していて気付いたんだけど、スバリル人の胃液には例のアサヤミンが含まれているんだ。多くの異種族には毒だけど、彼等には普通の物、って事だね。」
「「「…」」」
眉を寄せるシスコ。
「つまり…少佐が仮に嘔吐をしたとして、その嘔吐物にはアサヤミンが含まれる、という事だな。地球人には毒の。」
「いやだなあ大佐、わざわざそんな事しなくても合成すれば良いじゃない。」
ドクターは苦笑している。
「ああ、それはそうだな。」心ここにあらずのシスコ。
「ねえ、アサヤミンって確か…」
「言わない方が良いですよ。…休日が潰れます。」
「……」
ルドーへ突っ込みたい気持ち半分、同意半分の表情のキラ。
ルドーがふと思い出したようにシスコの方を向いた。
「ああそれから大佐。不思議な話ですが、ダービンのDNAはどう鑑定しても地球人の物だそうです。」
「ああ、そうなんだよ。これはもしかしたら」
「かなり高度な遺伝子操作をしたのでしょう。」
何か言おうとしたベシアを遮って言うルドー。
「「「…」」」
「休日。」
断固たる様子のルドー。
たたずむ4人の周囲を埋め尽くすモジャブル達。
「休日。」
つづく?
次回予告
ホーリー家の五つ子達はいつもにぎやかだ。母ホウメイが買い物から帰ると、又障子が破れている。アキトとガイを叱り付けるホウメイ。しかし今日2人に和解の様子はない。同じ頃、ヒカルがリョーコとマキに何か癇癪を起こす。子供達を集めてお説教をするホウメイ。翌朝彼女が起きると、枕元に大量のお手伝い券があった。彼等は母の誕生日のプレゼントでもめていたのだ。障子の隙からこちらを覗く子供達の影に、彼女は胸を熱くするのだった。次回「千秋は三十路」第-5話、「ヒステリック・ブルーは偽レベッカの香り」。御期待下さい。
「全く、好き放題書きやがってよお…」
「そんなにきつくしたら、後で臭いに鼻が曲がるわ…」
「…」
「それは包帯。フフ、フフ、フフフ…」
「…」
「ねえリョーコ、今回は特別「変」だって事らしいけど、何がどういつもと違うの?」
「知るか、そんな事。」
「うーん、私も一応創作に携わる者として、ギャグとかも結構うるさいつもりなんだけど、」
「「え。」」
「いつもと変わんないよねえ。一人よがりって言うか…」
「今回の特別変は、実在の人物がモデルのキャラが出たというのが、今までにはない特別な事の1つだそうよ。」
「へえー? 今までだっていたよ? (ピー)さんとか、(ピー)さんとか、おまけとか、ああ、後(ピー)とか(ピー)(ピー)(ピー)(ピー)」
「詳しいな、ヒカル。」
「え? あ、い、いやあ…」
「でもまあどうせ今回のキャラも、あたしらと同じでいい加減な味付けなんだろうな。」
「あはは。ありがちありがち。」
「良いじゃない、それでも出番があるなら…」
「「…」」
「ヒカル、あなた今そっちで沈黙するグループじゃないわよ。」
「な゛。」
「う、うん…」
「…ったく良いじゃねえかよ。大体それを言ったらテンカワだって今回出てないぞ。それに「これ」に出たいか、そんなに?」
「だって私達、よそも含め出番本当に無いんだもん…」
「でもどうせならこれより違う物に出たいとは思うけど。叙情派のラブストーリー、とかね。詩と、白黒のCG付きで。」
「私はやっぱり、究極のヴィジュアルバンド「リュシフェル」を挫折から立ち直らせてあげる役辺りかな。」
「…限界を知れよ。」