20世紀末の地球、日本地方の衣装(ただし、本来は19世紀のヨーロッパ地方の衣装)を着たピカードとスローンが、広々とした部屋を歩いていく。
そこは本来は木張りの集会場か何かのホールだが、今日は特に豪華な飾りつけがなされていて、所々にやおいなポスターやら、立ち入り禁止の標識やらが配置されていた。ホールの中は、二人と同じような格好の地球人達で溢れている。
二人の前に、スーツ姿のびっちり決まった男性が遮るように立ち、メガネを上げながら冷笑を見せる。
「おやおや。あなた達を呼んだ覚えはないんですがね…特にMAGUROさん、あなたはこの場にはふさわしくない人間だ。…自分で分かるでしょう。あなたがここにいるだけで、この場にいる人々が不安を覚え、混乱をもたらす危険性がどれほどあるか。」
華麗なドレス姿(もちろん女性用)で、黒い長髪のヅラをかぶっているフユツキに、男はそう言い放った。
「くん2さん! MAGUROにそんな事、言わないで下さい! MAGUROは私の大切なしも…げぼ…どれ…おも…ah……oh…ah、uh……uh、hmmmmph…ha。Anyway、私にとって大切なんです。そこそこに!
MAGUROがここにいて、一体何がいけないって言うんですか!」
栗色の髪の毛に緑色の大きなリボンを付けた女性が、すたすたと男に近づき、猛然と抗議をしている。一見上品で可愛らしい彼女だが、中身はなかなか勝気な所があるようだ。
「そうは言いますけど、AKOさん。彼女の言動に、他の読者や作家達が、どれだけ不快な思いを」
「Huh? 私のような大物批評家が良いと言ったら、良いんですよ! ウジ虫作家さん達や、ウジ虫にすらなれないゾウリムシレベルの取り巻き連中の都合なんて、大物批評家の考慮の範疇外です。First of all、だいたい「金持ちインテリ」としてのMAGUROの言動は、全部ヴァーチャルネット掲示板キャラクターとしてのネタじゃないですか! それこそまほつ米並の! そのことがそもそも理解出来ないようなセンスの欠片も無いような輩は、早い所創作の世界から足を洗った方が世のため人のためAKOのため、なんですよ。」
「ああ…いつも通り、何て傲慢な物言いだろう…さすがAKOさん…」
彼女の抗議に、メガネの男性はやや恍惚とした表情をみせ、何か独り言をぶつぶつと呟いている。
「...hmm?」
男性はAKOの不思議そうな顔に気付き、慌てて冷たい表情を作り直した。
「あ、いえ、何でも。…ふん。まあ良いでしょう、AKOさんがそこまで言うなら、今回はあなた方の友情に免じてここは引きます。…ですが問題は」
「No problem! 分かってますよ。問題は全部、AKOがもみ消しますから!」
リボンの美少女は、溢れんばかりの笑顔でそう言い放つ。
「…ふん。」
男性はメガネを上げ、立ち去っていく。
「…すまないな。私のせいで、嫌な思いをさせてしまって。」
ピカードの言葉に、AKOは笑顔のまま手を振ってみせた。ちなみに彼女も豪華なパーティードレスを着ている。
「Oh, MAGUROは全然気にする事なんかないよ。そこで萎縮されたら、むしろネタにならないから皆が困る事になるんだから。ねえ、ヘラン糞さんもそう思いますよね?」
「え、ああ、ええと…え、ええ。」
男性用のタキシードを着ているスローンがAKOに頷く。
「ふんぬっ!」
びりばりびりびりっ。
「ひぎやややややっ!」
フユツキが急に気合を入れると、彼のヅラから雷の稲光が飛び、ソウイチロウに直撃した。
「Ah hah! MAGUROったらまた照れてるね!」
びりびり、びりっ。
「ひ、ひぎ、ひぎ…」
「…済まないなソウイチロウ君、キャラクター的にここはこういう展開にならざるをえないのだよ。」
耳打ちしながらフユツキはソウイチロウの手をひいて歩いていく。
どうやら気を失っていたらしいスローンがふと目を覚ますと、会場内にある何かのステージ上だった。
大きな台の上に座ったスローンは、自分の裸足の右足を伸ばし、目の前に対面しているピカードの鼻の近くに置いている。そして同じ体勢のピカードの右足が、自分の鼻の直前、1.5センチメートルの所に迫ってきていた。
「うわっ! な、何やってんですか僕達! っていうか足かゆっ! わあ、くさ、くさっ!」
急激に自分を襲う腐臭と足のかゆみに、半分以上パニックになっているスローン。
パーティードレスは小さな声でソウイチロウに説明する。
「これは、「オカマだらけの足スメルバトルロイヤル選手権 in Paris」という、この時代の日本地方でよく行われていた社交行事だよ。このようにお互いの足の臭いに耐え、いわば「裸足の付き合い」をする事で親交をより深め合う、という、一種のスポーツを模した文化習慣だ。なかなか美しい風習だろう?」
「げほっ、おえ、おえ、ぐえええええっ。そんな親交いりませんよ! 僕は棄権します!」
「急にここで話の筋から離れられると、ホログラムのシミュレーションが難しくなるのだが…」
ずぽっ。
「ふんごおおおおおおぽぽぽぽぽぽぽっ!」
ピカの足の小指が、スローンの鼻の穴にすっぽりはまる。スローンは痙攣しながら泡を吹き出した。
ういいいん。
数匹のペング達が、体の機械部分を光らせながらマギデッキに入ってくる。
「くえ、くえええっ。」
くん2と呼ばれていたメガネの男性がまた現われ、彼等の前に立ちふさがる。
「困りますねえ。あなた達のような梅チックな仮装で現われられたら。これは、「冷やされ中華」、「流されそうめん」と並ぶ伝統ある学園の三大行事の一つですよ。あなた達もその格式への理解を持って、」
「くえええっ、くえっ。」
びびびび、びびび。
ペングの頭部ユニットから、赤色の分析光線らしきものが発せられる。
「何です? …はっ? いやんっ、いつのまにスーツ風コートが!」
何故か知らない内に裸エプロン姿になっている男性。ペングの光線で彼のホログラムは大幅に乱れ、映像にノイズが混じりだした。
「くえ、くええっ。」
「くえ、くえっ、くえっ。」
気品あふれるバトルロイヤル会場に、場の雰囲気とはおよそそぐわない機械仕掛けのペンギン達がひょこひょことやってきている。彼等は光線を光らせ、周囲をスキャンしているようだ。
入り口からは数十メートル離れているステージ上のピカは、ペング達を確認し、眉をよせた。
「うむ…この状態では目立ちすぎる。再生個所を間違えたか。…コンピューター、チャプターm20-929から再生だ。」
ぴぴ。
ピカードはスローンを引きずり、ステージから離れて周囲の立食用テーブルに向かう。
「…ソウイチロウ君、起きてくれ給え。」
はっ
「あれ? 僕、もしかしてまた気を失って…」
「ああ、このストーリーのキャラクターに忠実になりきってくれているようで何よりだ。」
頷くピカード。
二人はワインボトルやクラッカー等のならんだテーブルの近くに立っている。彼等のそばにAKOがやってきて、いつも通りの満面の笑顔を見せている。
フユツキがテーブルのワインボトルを手にとり、口を開いた。
「うむ…このワインはとろっけんべーれんあうすれーぜの71年物か。なかなか悪くないな。」
「Yah! そうだねMAGURO。でもMAGUROはやっぱり赤が好きなんでしょ? こっちにあるCrottin de Chavignolのchevreなんて、赤にぴったりだと思わない?」
「いや、赤に合うのはやはりきつねだろう。」
「Oh? Qui Sous Nais? ...ah, oh, ah, he he, he……ugh、AKOの知らないチーズ名だわ…」
AKOはフユツキに笑って見せながら、何か小声でひとり呟いている。
スローンがピカードに囁いた。
「…ワインなんて分かるんですか?」
「いや、このラベルを読んで、後は適当に言っているだけだよ。私はバター茶と腐りポマト汁位しか飲めない。正直、ゲテモノは苦手でね。」
苦笑するフユツキ。彼は改めてAKOを見て、普通のボリュームで声を出す。
「ところでAKO。ちょっと頼みがあるんだが…」
「Hmm? 何、MAGURO?」
「今、黒板鳴らしを持っていないかね?」
「Heh? また急に何で?」
言いながら、AKOはドレスのスカート内から全長1メートル強の金属の棒らしき物を取り出す。
「ど、どうやって今まで隠してたんですか。」
「別に隠してなんてないですよ。邪魔だから挿入していただけです。」
ソウイチロウににこやかに答えるAKO。
「はぁ? いや、だって、っていうかこの長さで、」
「それでMAGURO、黒板鳴らしなんて一体どうするの? ここには鳴らす黒板も、刺殺する梅・竹の生徒もいないよ? ヘラン糞さん以外は。」
「いや、実は他にもいるんだ。」
AKOに答えるピカード。
「Eh?」
次の瞬間、ピカードはペング達に向かい、人並みをすりぬけ突進した。
「くえ?」
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「くえっ!」
たったったっ…
「とうっ!」
先端が5股に分かれた鋭利な金属棒が、1匹のペングの胴体に突き刺さる。
「くえ、くえええっ!」
倒れるペンギン。しかし周囲のペングはそれでピカードの場所を知り、彼に向かって歩き出した。
「くっ…」
頭を振り、周囲を見回すピカード。
ぽろっ。
背後で何かが落ちた事に気づき、ピカードは振り返る。
「…おお、これは彼女の昔の武器…この時点でも持ち歩いていたのか!」
フユツキから、長髪のヅラが滑り落ちていた。そしてその髪の中に隠されていた、鞘付きの剣が姿を現している。フユツキはそれを拾った。
「ふふん。」
「くえ、くえっ!」「くえくえくえっ!」
剣を腰に構えたフユツキに近づく、2匹のペング達。
「か、艦長!」
「大丈夫だ「ヘラン糞」君、見ていたまえ。ペング、討った!」
フユツキは勢い良く、その剣を鞘から出して前に突き出した。
ぽん、ぽんっ。
「…」
「…」
固まる一同。
「…え。」
声を漏らすスローン。
フユツキの突き出した剣から、パーティーマジック用の安っぽい造花が開いている。
「「……くええ、くえええっ!」」
バタッ、バタッ。
「え、えええええええええええっ!?」
倒れこむペング達に、スローンは声を上げた。
機械部から火花を飛ばし、活動停止するペング達を前に、フユツキは額の汗をぬぐう。
「ショック死だよ。ビンテージの武器は原始的であるがゆえにむしろ、ペングのイソノケフィールドすら超越してしまう。コンピューター、プログラムを一時停止。」